GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-12「アテナ」
ラグナログの出現と破壊行動は、エターナルにも伝わっていた。
「あの機体、ベルリンに現れたのと同じ・・」
「連合が新しく開発したものだろう・・導入して、オーブに向けて進撃してきている・・」
モニターでラグナログの姿を見て、キラとバルトフェルドが深刻さを浮かべていく。
「オーブにはアスランとカガリさん、ムウさんがいます。ミネルバも向かわれることでしょう。」
「オレたちはオレたちの任務を続けるぞ。」
ラクスとバルトフェルドがキラに言いかける。しかしキラはアスランたちへの気がかりを拭えないでいた。
「アスランたちなら大丈夫だと僕も思う・・でも、どうしても心配で・・・」
「キラ・・・分かりました。キラも行ってあげてください。」
するとラクスがキラに微笑みかけてきた。彼女の言葉にキラが戸惑いを覚えるだけでなく、バルトフェルドもダコスタも驚きを覚える。
「でも、僕が離れたら、今度はラクスやバルトフェルドさんたちが・・・」
「お前がいなくてもオレがいる。ヒルダたちもな。たとえ手ごわい相手が攻めてきても、お前を呼び戻して時間稼ぎをするぐらいはできる。」
心配の声をかけるキラに、バルトフェルドが不敵な笑みを見せる。
「みなさん・・ラクス・・・ありがとう・・行ってきます・・」
「お気を付けて、キラ・・待っています・・」
背中を押されたキラをラクスが微笑んで見送る。キラはアスランたちを助けに行くため、フリーダムに乗り込んだ。
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
キラの駆るフリーダムがエターナルから発進。スピードを上げて地球に向かっていった。
ルナマリアたちやアスランたちが迎撃しているアテナたち。彼らの戦場に駆けつけたのはキラだった。
「キラ・・なぜお前がここに・・・!?」
「アスラン・・みんなが心配で・・・ラクスたちのことも心配だったけど、みんなに励まされて・・・」
声を荒げるアスランに、キラが事情を説明する。
「キラ・・お前はしょうがないヤツだ・・・」
キラに呆れるも、アスランはすぐに笑みをこぼした。
「キラ、気を付けろ。あの機体、ベルリンに現れたヤツの発展型のようだ。遠距離戦に優れているのはもちろん、接近してもビーム攻撃で引き離そうとしてくる・・」
「うん。ビームでけん制しながら、一気に飛び込んで止める・・」
アスランからお言葉を受けて、キラが真剣な面持ちで頷く。フリーダムが右手でビームサーベル、左手でビームライフルをつかんで構える。
「まずは止めることが先決だな・・」
アスランも気を引き締めなおして、ジャスティスも2本のビームサーベルを連結させる。
「ジャスティスだけでなく、フリーダムまで・・・!」
フリーダムの姿も確認したソラが、怒りを膨らませていく。
「今度こそ倒さないと、世界は!」
ソラがいきり立ち、グフが飛び上がってフリーダムに向かっていく。
「ソラ!?」
ソラの突然の動きにルナマリアが声を上げる。ザクがスレイヤーウィップを伸ばして、フリーダム目がけて振りかざす。
「えっ!?」
突然グフから攻撃を仕掛けられることに一瞬驚くも、キラはすぐに反応して、フリーダムがスレイヤーウィップをかわす。
「やめろ!止める相手が違う!」
「また勝手に出てきて、好き勝手に攻撃してきたけど、そうはいかない!」
キラの呼びかけを聞かずに、ソラが攻撃を続ける。グフがビームソードをフリーダムに向けて突き出す。
「やめろと言っているんだ!」
キラが言い放ち、フリーダムがビームサーベルを振りかざして、グフの右腕をビームソードごとなぎ払う。
「ぐっ!」
攻撃の手を奪われて、ソラがうめく。それでも彼女は攻撃をやめず、グフがスレイヤーウィップを振りかざして、フリーダムの右腕に巻きついた。
だがフリーダムは左手で持っていたビームライフルを発射して、スレイヤーウィップを撃ち抜いて断ち切った。
「このっ!」
それでもソラは攻撃をやめようとせず、グフがフリーダムに突っ込んできた。
「どうして・・・!?」
キラが毒づき、フリーダムがグフの突撃をかわすと、その背部にレールガンの射撃を当てる。背部を撃たれたことでグフはついに飛行ができなくなる。
「こ、このっ!」
落下していくグフの中で、ソラがキラたちへの怒りを募らせていた。
「また、オレたちに攻撃を・・・!」
「ソラ、またこんな・・・!」
ソラの行動にアスランが毒づき、ルナマリアが歯がゆさを覚える。
“アテナ、何をやっている!?今のうちにヤツらを片付けろ!”
ソラたちの争いに呆然となっていたアテナに、ドズルからの通信が飛び込んでくる。
「そう・・私たちはヤツらを・・!」
アテナがいきり立って、ラグナログがインパルスたちに迫ってきた。
「来るよ!」
キラが呼びかけて、ルナマリアとアスランが反応する。インパルス、フリーダム、ジャスティスがラグナログの伸ばしてきた手をかわす。
インパルスとフリーダムがビームライフルを発射して、ラグナログをけん制する。ラグナログがスプリットビームガンを発射して、反撃に出る。
「今だ!」
そこへアスランのジャスティスが飛び込んでビームサーベルを振りかざして、ラグナログの左手を切りつけた。切られた左手が爆発して、ラグナログが押される。
ラグナログがとっさにリプライスキュラを発射して、インパルスたちを引き離す。さらにラグナログはアウフプラールでインパルスたちを狙う。
「これ以上進まれてあんな砲撃をされたら・・!」
進行を続けるラグナログに、ルナマリアが焦りを感じていく。そこへハルのファルコンが駆けつけてきた。
「他の機体は退けました!・・問題はコイツですね・・・!」
ハルがルナマリアに呼びかけて、ラグナログに目を向ける。そのとき、ラグナログがインパルスとファルコンを狙って、リプライスキュラの発射体勢に入っていた。
「しまった!」
声を荒げるハル。彼もルナマリアも不意を突かれて、回避行動が間に合わない。
そこへ1機の機影が飛び込んできて、インパルスたちの前に割って入ってきた。それはムウのアカツキだった。
「あれは・・!」
ルナマリアが声を上げた瞬間、ラグナログが放ったビームをアカツキの金色の装甲が反射した。跳ね返ったビームがラグナログに命中して押していく。
「大丈夫か、お前ら?間一髪だったな。」
ムウがルナマリアたちに気さくに声をかけてきた。
「ムウさん・・・!」
「お前も見て見ぬフリできずに来たのか、キラ。お前らしいな・・」
声を上げるキラにムウが答える。遅れてアークエンジェルも駆けつけてきた。
「市街地の住民の避難は完了しているわ。」
「このまま市街に入れないようにして、あの機体を止めます!」
アークエンジェルにいるマリューが呼びかけて、キラも続けて呼びかける。
「久しぶりだな、オレたちがそろって戦うのは。」
「こんなときに気のないことを言わないでください、フラガ隊長・・」
気さくに言いかけるムウに、アスランが半ば呆れる。2人の会話にキラが微笑みかける。
「おしゃべりしに来たのでしたら帰ってください。せめて邪魔しないでください。」
ルナマリアが呆れ気味にアスランたちに注意をしてきた。
「私たちで注意を引き付けますので。ハル、行くわよ!」
「了解!」
ルナマリアの呼びかけにハルが答える。インパルスとファルコンが動き出して、ラグナログに向かっていく。
「ザフト・・オーブ・・そろいもそろって・・!」
アテナが感情をあらわにして、ラグナログが右手のスプリットビームガンを発射する。インパルスとファルコンがビームをかわしながら、海のほうに向かっていく。
「艦長、あの機体を海のほうにおびき出します。ミネルバはソラの回収を。」
“ルナマリア・・分かったわ。収容次第、本艦も向かいます。”
ルナマリアの呼びかけに、ミネルバのミーナが返答する。インパルスとファルコンが続けてラグナログの注意を引き付けて、フリーダムとジャスティスが追走する。
「アテナ、ヤツらに乗せられているぞ!オーブに進行するのだ!」
アテナに向けてドルズが呼びかける。アテナが冷静さを取り戻していって、ラグナログがオーブへの進行を再開する。
「本艦も攻撃を仕掛ける。まずはアークエンジェルだ!」
ドルズの命令により、ケルビムがアークエンジェルに向けて旋回する。
「オーブそのものが破壊対象だ。ローエングリンで一気に殲滅する。」
「了解!」
ドルズの言葉にクルーたちが答える。ケルビムがローエングリンの発射体勢に入り、狙いをアークエンジェルに向けた。
(ここで私たちが回避すれば、オーブが・・!)
ケルビムの砲撃の射線軸に自分たちだけでなくオーブの市街地があることに、マリューが危機感を覚える。
「ローエングリン、はっし・・!」
ドルズがローエングリンの発射命令を下そうとしたときだった。ケルビムのローエングリンの発射口が、横から飛び込んできたビームに破壊された。
「何っ!?」
突然の攻撃に驚愕するドルズ。ケルビムを攻撃したのは、ミネルバのタンホイザーだった。放たれた陽電子のビームはケルビムを攻撃し、ビームは海の真ん中に命中した。
「アークエンジェル、援護します。敵軍をオーブに近づけさせないように。」
「ミネルバ・・分かったわ。ありがとう。」
呼びかけるミーナに、マリューが微笑んで答える。ミネルバはソラのグフを収容して、戦闘に加わっていた。
「敵艦、アークエンジェルに向けて進行しています!」
「アークエンジェルとオーブに近づけさせないで!トリスタン、ってぇ!」
マイが状況を報告して、ミーナが指示を出す。ミネルバがケルビムに向けてビームを射撃する。
「おのれ、ミネルバ・・アークエンジェルと徒党を組むとは・・!」
ドルズがミネルバにもいら立ちを募らせる。ミネルバのビームが艦体に命中して、ケルビムが煙を上げる。
「右舷炎上!エンジン出力ダウン!」
ケルビムのクルーが状況を報告していく。
「艦長は1度下がってください!ヤツらは私が打ち倒します!」
そこへアテナからの呼びかけが入ってきた。
「私の命に代えてでも、必ずヤツらを根絶やしにします!」
「そうか・・体勢を立て直し次第、すぐに戻ってくる。それまでせめて撃墜はされるな・・・!」
「分かっています・・・!」
ドルズの忠告にアテナが答える。損害を受けているケルビムがオーブから離れていく。
「これ以上・・これ以上やらせない!」
アテナが戦いに意識を戻して、インパルスたちに視線を戻す。
(そう・・私たちは偽物の平和の中で苦しめられてきた・・あなたたちが優越感に浸っている平和という名の偽善に、私たちは地獄を見続けてきた・・・!)
アテナが心の中で、自分たちが今まで経験してきたことを思い返していく。ラグナログがオーブに前進しながら、アウフプラールを発射していく。
(もう私はそんな地獄を見ていたくない・・世界を思い通りにするヤツらの思い通りにはならない・・・!)
「私が、私たちが、本当の平和を取り戻すのよ!」
アテナが叫んで、ラグナログがひたすらビームを放っていく。インパルスたちがビームの連射をかいくぐっていく。
「問答無用に攻撃を仕掛けてくる・・もうビームの雨だ・・!」
ラグナログの執拗な攻撃にハルが毒づく。
「一瞬の油断も命取りよ!絶対にオーブに飛び火させないで!」
「分かっています!・・うあっ!」
呼びかけるルナマリアに答えたとき、ファルコンがラグナログのビームを受けて、ハルがうめく。
「しまった!うわあっ!」
ファルコンが落下を始めて、ハルが悲鳴を上げる。
「ハル!うっ!」
ハルに呼びかけるルナマリアだが、インパルスもビームで左腕を吹き飛ばされる。
「くそっ!もうやめろ!」
キラが言い放ち、フリーダムがビームライフルを発射して牽制しながら、ラグナログに向かっていく。
ラグナログが右手を伸ばしてスプリットビームガンを発射する。フリーダムがビームをかわして飛び込み、ビームサーベルでラグナログの右手を切り裂いだ。
「ぐっ・・!」
ラグナログが両腕を失い、アテナが歯がゆさを募らせる。
「私は、負けるわけにはいかない・・ここで負けたら、私たちは!」
アテナがいきり立ち、ラグナログがひたすらビームを発射していく。フリーダムとジャスティスがビームをかわしていく。
フリーダムが全ての射撃武装を展開して、ラグナログに向けて一斉発射する。ビームへの耐性が強い装甲を持つラグナログだが、その威力に押されて動きを止められる。
「今だ、アスラン!」
キラが呼びかけて、アスランが頷く。フリーダムのビームがやんだと同時に、ジャスティスがラグナログの懐に飛び込んで、ビームサーベルとビームの刃を出したビームキャリーシールドを振り下ろす。
ラグナログの両肩がビームの刃に切り裂かれて、爆発を起こす。
「キャアッ!」
コックピットでも爆発が起こって、アテナが悲鳴を上げる。損傷の激しくなったラグナログが、うずくまって動かなくなる。
(このままやられるわけにいかない・・動いて・・動いて、ラグナログ!)
アテナが必死に動かそうとするが、ラグナログは機動力が著しく低下していた。
「私は死ねない・・言いなりに生かされるわけにもいかない・・私はこのまま、朽ち果てたくない!」
感情をむき出しにして、アテナが強引にラグナログを動かそうとする。うずくまっていたラグナログが立ち上がり、リプライスキュラを発射しようとする。
「もうやめるんだ!これ以上攻撃をして、何になるというんだ!?」
キラが呼びかけるが、激情に駆られたアテナには届いていない。
「また、あのときのように見境なく・・・!」
アスランがステラのことを思い出して、困惑を募らせていく。
(やはり、とどめを刺さないといけないのか・・・!?)
オーブを守るためとはいえ悲劇のパイロットを無慈悲に手をかけるべきなのか、アスランは迷いを感じていた。
「やむを得ない・・僕が止めるしかない・・・!」
キラが決断をして、フリーダムがビームサーベルを手にする。エネルギーを放出しようとするラグナログに、フリーダムはビームサーベルを突き立てて、行動を停止させようと飛びかかる。
そのとき、フリーダムとラグナログに向けて、上空から一条の光が飛び込んできた。キラが気づき、フリーダムが即座に突撃を止めた。
ビームはフリーダムとラグナログの間に割って入った。
「えっ・・!?」
突然のビームにキラだけでなく、アスランもルナマリアもアテナも驚きを覚える。
次の瞬間、上空から1つの機影が降下してきた。機影は紅い光を発しながら、インパルスたちの前に姿を現した。
その姿にルナマリアもハルも、キラもアスランも驚きを隠せなくなる。現れた機体の姿に彼らは見覚えがあった。
「あれは・・・!?」
「本当に・・・!?」
「デスティニー・・・シン・・・!?」
キラ、ルナマリア、アスランが声を荒げる。装甲の色が黒となっていたが、その機体はシンの搭乗機「デスティニー」だった。
次回予告
突如降り立った運命の翼。
漆黒に彩られた姿の意味するものは?
振り下ろされる怒りの刃。
その矛先にいるのは、破壊者か?自由と正義か?
真の平和の扉、切り開け、デスティニー!