GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-10「鈍る刃」

 

 

 クレッセントを操縦していたアテナを見て、ルナマリアはステラのことを思い出していた。

(違う・・あの子は死んだって・・だから、あの子がここにいるはずがない・・・!)

 ルナマリアが首を横に振って迷いを振り切ろうとする。

(今は気にしている場合じゃない。考えるのは戦いを終わらせて、そのパイロットを捕まえてから・・)

 ルナマリアは自分に言い聞かせて、アテナに視線を戻す。

「このまま機体から離れて、両手を頭の後ろに。」

 ルナマリアがアテナに忠告して、クレッセントから引き離そうとした。

“ホーク隊長、離れて!”

 そのとき、ルナマリアに向けて通信が飛び込んできた。彼女はとっさに判断して、インパルスがジャンプする。

 インパルスが直前にいた場所に、ビームが飛び込んで、地面に当たってはじける。ビームを撃ってきたのはマグナだった。

「アテナ!」

 マグナが駆けつけて、アキがアテナに呼びかける。

「早くクレッセントに戻れ!」

「ダメよ、マキ!損傷が激しくて動かないわ・・!」

 呼びかけるマキにアテナが言い返す。着地したインパルスがエクスカリバーを構えて、さらにソラのザクも駆けつけてきた。

「アテナ、マグナに乗れ!撤退するわ!」

 マキが呼びかけて、マグナがアテナに手を差し伸べてきた。アテナはマグナの手に乗った。

「待ちなさい!逃がさないわ!」

 ソラが言い放ち、ザクがビームライフルを発射する。マグナはアテナを抱えたまま、ビームをかわして離れていく。

「こうなったら・・!」

 ソラが目つきを鋭くして、ザクがオルトロスを構えてマグナを狙い撃とうとした。その瞬間、マグナがレールガンを発射してきた。

 レールガンのビームがザクのオルトロスをはじき飛ばした。

「何っ!?

 驚きの声を上げるソラ。直後、怯んだザクの右腕がビームに撃たれて吹き飛んだ。

「キャアッ!」

「ソラ!」

 悲鳴を上げるソラにルナマリアが声を上げる。ザクを攻撃したのは駆けつけたウィンダムたちだった。

“援護する!すぐにここから離れろ!”

 マグナのコックピットにウィンダムのパイロットからの通信が入る。マグナはアテナをコックピットに入れると、全速力でケルビムに向かっていく。

「ソラ、私たちも引き上げるわよ!それではあなたは戦えないわ!」

 ルナマリアの呼びかけに、ソラは渋々従う。インパルスがエクスカリバーの連結を解いて、二刀流で振りかざして、ウィンダムたちを切り裂いて引き離していく。

 ウィンダムもマグナに続いてケルビムに向かって撤退していった。

「ソラ、大丈夫!?ソラ!」

 ルナマリアが再びソラに呼びかける。

「ホーク隊長・・立てますが、思うように動かないです・・・!」

「ミネルバ、フォースシルエットを!」

 ソラの声を聞いて、ルナマリアがミネルバに呼びかける。

“はいっ!”

 マイが応答し、ミネルバからフォースシルエットが射出される。インパルスはソードシルエットを分離して、フォースシルエットと合体する。

「ソラ、左手でつかんで!」

「はいっ!」

 ルナマリアの呼びかけにソラが答える。インパルスがザクの左手をつかんで持ち上げて、上昇してミネルバに向かっていった。

 

 人型になったファルコンが、トリトンとの攻防を繰り広げてた。ビームサーベルのぶつかり合いが続いていく。

「いくらスピードが速くても、まだ攻め方が単調のようだ。十分対応できる。」

 ハルが動かすファルコンの動きを見極め始めたスーラ。トリトンが徐々にファルコンを追い込みつつあった。

“一時撤退する。全機ケルビムに帰投しろ。”

 そのとき、トリトンのコックピットにケルビムからの通信が入ってきた。

「すぐに仕留められる相手でないのも確か・・」

 スーラが呟いて、トリトンがファルコンを引き離してから撤退していった。

(手ごわい・・僕の動きやファルコンの性能を見透かされている・・・!)

 動きの良くなっているトリトンの強さを痛感するハル。彼は引き上げていくトリトンを追うことができなかった。

 ハルはインパルスとザクがミネルバに戻っていくのを目にする。

「ミネルバ、ファルコンも帰投します・・」

 ハルは通信で呼びかけてから、ミネルバに戻っていった。

 

 ケルビムに戻ってきたアテナたち。だがクレッセントを失い、マグナも損傷を負うことになった。

「申し訳ありません・・クレッセントを失いました・・・」

「機体を失ったのは残念だが、アレを使う手立ても見つかりつつある・・」

 頭を下げて謝罪するアテナに、ドルズが悠然と言い返す。

「機体の修復と整備をしている間、アテナたちは体を休めておけ。」

「分かりました。失礼します・・」

 ドルズの言葉に答えて敬礼してから、アテナはマキ、スーラとともに彼の前から去っていった。

「このような形でアレのパイロットが決まるとは、皮肉な話だ・・」

 ドルズが呟いて、武装施設から持ち出された巨大MSのことを思い出していた。

 

 ミネルバに戻ってきたルナマリア、ソラ、ハル。整備ドックを後にしたルナマリアは、戦闘中に目撃したアテナのことを考えていた。

(きっとあのパイロットは別人・・瓜二つというだけよ・・)

 あのパイロットはステラではない。ルナマリアは自分に言い聞かせて、迷いを振り切ろうとする。

「あの、ホーク隊長・・・?」

 そこへソラがやってきて、ルナマリアに声をかけてきた。

「ソラ・・・?」

「あの敵の機体のパイロット、知っている人だったのですか・・?」

 振り向いたルナマリアに、ソラが真剣な面持ちで疑問を投げかけた。

「敵は敵です。仮に知り合いだとしても、向こうが攻撃を仕掛けてきている以上、戦いでは敵でしかないです。同情しても逆にやられるだけです・・」

「ソラ・・私の知り合いみたいなことを言うのね・・・」

 ソラの言葉を聞いて、ルナマリアがかつての仲間のことを思い出していた。

「でもあの人は、敵であるはずの少女を助けようとした・・命令や規律に逆らっても、その子がもう戦いをしないように・・・」

「あの人って・・もしかして・・・」

 ルナマリアの言葉を聞いて、ソラが戸惑いを見せる。

「そういえば、連合のエクステンデッドがミネルバに連れ込まれたことがあった・・それをしたのが・・」

「シン・・あの子、ステラっていう子を助けようとしていた・・」

「シンさん・・・!」

 ルナマリアがシンのことを話すと、ソラが戸惑いを募らせる。

「敵であるはずのあの子を死なせたくない一心で・・もしシンがいたら、あのパイロットをどうしてたのかな・・・」

 シンとステラ、そしてアテナのことを思い出していって、ルナマリアが物悲しい笑みを浮かべる。彼女の言葉を聞いて、ソラは彼女やアテナを責めることができなくなった。

(もし、敵のパイロットにそんな感情が芽生えるときが来たら、私はどうするんだろう・・・)

 心の中で呟いていくソラ。

(シンさん・・・戻ってきてください・・シンさん・・・)

 シンへの思いを感じて、ソラが胸に手を当てていた。

「ソラ・・・?」

 ルナマリアに声をかけられて、ソラが我に返る。

「す、すみません、ホーク隊長・・失礼します・・・」

 ソラがルナマリアに敬礼を送ってから、慌てて去っていった。

「ソラ・・・」

 ソラの様子を気にして、ルナマリアは複雑になっていた。

 

 ミネルバの指令室では、ミーナがマイからの状況報告を聞いていた。

「本艦の損傷は軽微。インパルスとファルコンもです。しかしガナーザクウォーリアは大破です・・」

「また新しく機体を導入することになるわね・・」

 マイの報告を受けて、ミーナが呟きかける。

「敵艦はこちらから離れて、北北西に進行している模様です。敵のMSの1機は回収して、現在調査中です。」

「その機体、前の戦争で地球連合に強奪されたMSの1機、ガイアに形状も性能も似ている・・やはり今回の襲撃者は・・」

「地球連合・・また連合が私たちに攻撃を・・・」

 不安を浮かべるマイと、現状を考えて頭を抱えるミーナ。

「今の平和に納得できず反発する・・そんな人が世界に絶対にいないとは言い切れない・・」

「そんな・・せっかく平和が戻ったっていうのに・・・」

「・・その平和、本当の平和と言えるのかしらね・・・」

 マイが不安を口にすると、ミーナが皮肉を口にしてきた。

(連合の襲撃が起こる前に実在していた平和は、誰もが幸せだと言える平和だったの・・・?)

 心の中で平和に対する疑念を感じていくミーナ。しかしザフトの一員、ミネルバの艦長としての責務を考えて、ミーナは気を引き締めなおす。

「このまま機体の調査を続けて。それと連合の動きの把握も怠らないで。」

「分かりました。」

 ミーナが指示を出して、マイが敬礼をして立ち去っていった。

 

 ソラと別れてから、ルナマリアは自室に戻り、アスランと連絡を取っていた。

“そうか・・やはりオレがあのとき感じた直感は、勘違いじゃなかった・・”

「アスラン・・あの機体がいた部隊、オーブにも攻めてきたのでしたね・・」

“あぁ・・シンが連れ込んできたエクステンデッドの少女と声が似ていた・・だが・・”

「あの子は死んだと、シンから聞いています。きっと、顔のそっくりな別人でしょうね・・」

 会話を交わしていって、アスランとルナマリアが当惑を感じていく。

「もしもシンがいたら、どうしていたでしょうか・・・?」

“シン・・・ベルリンのときのように、助けようとしていたのかもしれない・・・”

「アスランもそう思いますか・・それがシンらしいですよね・・・」

“だが君が見たそのパイロットはその少女とは別人だ。オレが言うのもおかしいが、今度は迷うな・・”

「分かっていますよ。ご心配なく、アスラン。」

“そうか・・くれぐれも気を付けてくれ。オレたちも慎重に行動する。”

 互いに注意を呼びかけ合い、ルナマリアはアスランとの通信を終えた。

(そうよ・・迷ったら、その間に誰かが・・・)

 自分に言い聞かせて迷いを振り切ろうとするルナマリア。彼女は近くに来るだろう次の出撃に備えて、束の間の休息を取るのだった。

 

 ミネルバとの交戦を経て撤退したケルビム。艦体と機体の整備が急いで進められていた。

 そしてドルズたちに1機の巨大MSが託されることになった。

「この1機を持ち出すだけで精一杯だった。まさかこうも早く、感付いて障壁を突破してくるとは・・」

 ジラドがドルズに現状を説明する。

「今はこの1機でヤツらを仕留めるしかなかろう。それに乗り込むパイロットは決まっている。」

「このエクステンデッドか・・アテナ・アルテミス・・これもまた因果というものか・・」

 ドルズの言葉にジラドが深刻さを込めて答える。

「ステラ・ルーシェ。ヤツがデストロイに最初に乗っていたのだな・・」

「その彼女と同じ姿をしているアテナもまた、あの機体の適正値が高いとは・・」

 ステラのことを思い出すドルズと、皮肉を口にするジラド。

「ベルリンでの作戦の再現を行う。ザフトにもオーブにも、我々の力とヤツらの愚かさを思い知らせてくれるぞ。」

 ドルズが不敵な笑みを浮かべて、ザフト、オーブ撃破を目論んでいた。

 

 マキ、スーラとともに体を休めていたアテナ。彼女は自分に銃口を向けてきたMS、インパルスのことを気にしていた。

(あの機体、私を狙っていたにもかかわらず、ためらっていたように思えた・・何があったというの・・?)

 インパルスの様子に疑問を抱くアテナ。

(そんなことを考える必要などない・・私は戦い勝つ。それだけ・・)

 自分の役割を見誤ってはいけないと自分に言い聞かせて、アテナは冷静さを取り戻そうと休息に専念した。

 しばらく睡眠をとったところで、アテナたちのいる部屋に、呼び出しを意味するサイレンが鳴り響いた。

「もう、出撃の時間か・・」

 スーラが体を起こして、マキが背伸びをする。

「行くわよ、マキ、スーラ。」

「もう十分休んだよ。」

 アテナの呼びかけに対して、マキが不敵な笑みを見せる。アテナたちは部屋を出て、ドルズのいる指令室に来た。

「再びミネルバに攻撃を仕掛ける。同時にオーブへの侵攻も行う。」

「ミネルバをおびき寄せるわけだね。そこでみんなまとめて・・」

 ドルズの言葉を聞いて、マキが笑みをこぼす。

「施設で開発していた機体が1機、我々に導入されることになった。次の作戦で使うその機体に乗るのは、アテナ。お前だ。」

「私が、新機体のパイロットに・・」

 ドルズから指名を受けて、アテナが一瞬緊張を覚える。

「いいなぁ、アテナは。最新鋭の機体に乗れるんだから・・」

 マキがため息をついて僻みを言ってきた。

「アテナはクレッセントを失っている。それにアテナが1番、機体の適正値が高いのだ。」

 ドルズが言いかけるが、マキは納得いかなくてふくれっ面を浮かべていた。

「マキとスーラはアテナのサポートだ。攻撃に巻き込まれないように注意しろ。」

「了解。」

 ドルズが投げかけた指示にスーラが答える。するとアテナが先に指令室からドックへ向かっていった。

「アテナ、張り切っちゃって・・あたしもやってやるよ!」

 マキも意気込みを見せて、スーラとともに指令室を出た。

 

 整備ドックに来たアテナたち。だがドックには新しく導入された機体の姿がない。

「新しい機体はどこに行ったんだ?」

「あのデカ物だからな。さすがに中には入らんよ。」

 マキが疑問を投げかけると、整備士が答える。巨大MSはケルビムの下方につるされて運ばれていた。

「あれがデストロイの改良型“ラグナログ”。それを私が動かす・・」

 アテナが巨大MS、ラグナログについて呟く。

「艦長はお前ならラグナログを使いこなせると仰っている。期待を裏切らないようにな。」

「分かっています。今度こそ殲滅してみせます。ザフトもオーブも、私たちに敵対するものは・・」

 呼びかける整備士に、アテナが真剣な面持ちで意思を示す。マキもスーラも戦意を胸に秘めていた。

「そろそろ作戦開始の地点。ラグナログに乗って、チェックを済ませます。」

「よし。すぐに乗って、いつでも出られる用意をしておけ。」

 敬礼を送るアテナに整備士が呼びかける。アテナがロープでケルビムから下ろされて、その下のラグナログに移って、コックピットに乗り込んだ。

「これが、ラグナログ・・武装がかなりのもの・・」

 コックピットを見回して、アテナが思わず息をのむ。しかし彼女は不思議と扱いきれないという不安は感じていなかった。

(やってやる・・もうザフトにもオーブにも、好き勝手にはさせない・・本当の地球の力というのを、ヤツらに思い知らせる・・・!)

 心の中で決意を呟くアテナ。やがてケルビムが降下して、ラグナログが発進可能となった。

「アテナ・クレッセント、ラグナログ、出撃する!」

 アテナの乗るラグナログがケルビムから切り離されて、発進していった。

 

 

次回予告

 

平和をつかむためには、敵を打ち倒さなければならない。

自分たちの平和のため、アテナは動き出す。

その体と同じく、巨大な力で眼前のあらゆるものを滅ぼす機体。

その先に待っているものとは?

 

次回・「破壊の雷」

 

立ちはだかるもの、撃ち砕け、ラグナログ!

 

 

作品集

 

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