GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-09「一途な願い」
施設の掌握に成功したルナマリアたち。巨大MSを使われる前に破壊できたことに、ハルもマイも安堵していた。
だがルナマリアもミーナも一抹の不安を感じていた。
「何か引っかかるわね・・」
「えぇ・・あれだけがここにいた全員だと思えません。私たちが来たことで逃亡した人がいるのではないでしょうか・・」
施設の中を見回して、ミーナとルナマリアが声を掛け合う。
「その人がもしかして、あの機体を持ち出していたとしたら・・・」
「ユーラシアやベルリンのようなことが、また・・・」
最悪の事態を痛感する2人。
「すぐに他の部隊に連絡を入れるわ。ルナマリア、あなたはオーブへの連絡をお願いするわ。」
「えっ?オーブに、ですか・・?」
ミーナの言葉にルナマリアが当惑を覚える。
「オーブには彼が、アスラン・ザラがいるわ。あなたのほうが話しやすいと思うのだけど・・やはり、私が・・」
「いいえ、大丈夫です。私が連絡を入れます。」
気遣いをしてくるミーナに答えて、ルナマリアがインパルスに戻っていった。
(ルナマリア・・やはり気にしているのね、アスランのことを・・)
ルナマリアの心境を察して、ミーナは困惑を感じていた。
キラたちに撃退されたマキ。彼女はいら立ちを抱えたままマグナを駆り、降下ポッドを駆使して地球に降り立った。
「フリーダム、調子に乗って・・オーブもジャスティスも、アテナたちを・・・!」
キラたちへの憎悪を募らせるマキ。着地したマグナの前にケルビムが航行してきた。
マキはマグナを動かして、ケルビムに乗艦した。
「戻ってきたね、マキ・・」
「お互い、無様にやられちまったな・・くっ、アイツら・・・!」
アテナが声をかけて、マキがいら立ちを浮かべる。
「バラバラに戦うのは逆効果ということか・・」
「ザフト、オーブ、それかを集中して叩くしかないわね。」
スーラとアテナが今後について話し合う。そのとき、召集をかけるブザーがアテナたちの耳に入ってきた。
アテナ、マキ、スーラがドルズの前に並んだ。
「戻ったか、マキ。休みたいところだが、またすぐに出てもらうぞ。」
「また敵が出てきたのですか?」
呼びかけるドルズにマキが問いかける。
「開発エリアが1つザフトに制圧された。ミネルバだ。」
「ミネルバ・・アーモリースリーで戦ったあの艦か・・」
ドルズの言葉を聞いて、マキが思い返していく。
「施設には新兵器の開発も行われていた。このままミネルバを野放しにするわけにいかん。」
「ヤツらが大きく動き出す前に叩くのですね。」
言いかけるドルズにアテナが声をかける。
「本艦はこれより、ミネルバの追撃に出る。お前たちも準備をしておけ。」
「了解。」
ドルズの命令にアテナが答える。アテナたちがクレッセントで発進する準備に入った。
ケルビムの襲撃を撃退したアスランたち。苦悩を深めていたアスランは、ルナマリアからの連絡を受けた。
ルナマリアからの武装開発施設についての報告に、アスランも緊張を感じていた。
“危険と判断して、施設にあったその機体は全て破壊しておきましたが、その中から持ち出されていないとは言い切れないです・・”
「そうか・・あの巨大MSは、動き出せば甚大な被害をもたらすことになる。早く押さえておかないと・・」
ルナマリアの話を聞いて、アスランが警戒を口にする。
「こちらでも警戒してみる。情報が入り次第、こちらでも対処をする。」
“分かりました。こちらでもまず近辺を捜索してみます。”
ルナマリアとの通信を終えたアスランが、混迷を深めている現状に滅入った。
(オレたちも、最悪の事態は止めないといけないということか・・何が、最悪の事態とするのか・・・)
迷いを振り切ろうとするアスランだが、ステラのことを思い出して割り切れなくなる。
(迷いを捨ててやり通す、迷いを抱えていく・・どちらが正しいと言えるのだろうか・・・)
さらなる苦悩を深めながらも、アスランはカガリたちに現状報告をするのだった。
武装開発施設の調査を続けていくミーナたち。兵器開発が続けられている現状に、ソラは憤りを感じていた。
「こんなものを作って、みんなを傷つけようとしていたなんて・・まだこんなことを・・・」
「ソラ・・僕もこんなのは許せないけど、僕たちの使っている機体や戦艦も、人の命を奪えるものなんだ・・」
「あんなのと私たちは違う!私たちは人殺しをしているわけじゃない!敵を倒して平和を守ろうと・・!」
「向こうからしたら、僕たちも人殺しと思われても仕方ないんだ・・」
「私たちは人殺しじゃない!・・みんなをムチャクチャにして平気な顔をしているのは、ここにいた連中と、ラクスたち・・・!」
ハルの言葉を聞き入れずに、ソラが連合に、そしてラクスたちへの怒りを口にする。
「ソラ・・・」
頑ななソラにハルも参っていた。ハルは気分を落ち着けてから、ソラに改めて声をかけた。
「この辺りには逃亡者はいないみたいだ・・リアス隊長に報告してくる・・」
「お願い・・私、もうちょっと見回ってみるよ・・」
ハルの声にソラが答える。彼女を気にかけたまま、ハルはこの場を離れた。
(ソラも、憎しみに囚われているのか・・・)
ソラの気持ちや考えに、ハルは困惑を募らせていた。
施設での調査にひと区切りがついて、ミーナは施設の周辺にも探索範囲を広げることを決めた。ミネルバが機体を収容して、発進準備を整えた。
「マイ、周辺の状況は?」
「近辺に発生、接近する熱源はありません。」
ミーナの呼びかけにマイが答える。彼女の報告を聞いて、ミーナが頷く。
「本艦はこれより、施設周辺の探索を行います。ミネルバ、発進!」
ミーナの指示により、ミネルバが施設から発進していった。ミネルバは施設の周辺を旋回して、探索を行う。
(地下通路はいくつにも分かれ道があって、どこにでも出口があるみたいだった。逃亡者がいたなら、どこへ逃げたのか見当がつかない・・)
一抹の不安を拭えず、ルナマリアは緊張を募らせていた。
「ホーク隊長でも、不安は隠せないというところですか・・」
深刻になっていた彼女に、ハルが声をかけてきた。
「ハル・・」
「どこに敵が潜んでいて、いつこちらを攻撃してくるか分からない。普通でしたらいてもたってもいられないところですよね・・」
振り向いたルナマリアに、ハルが語りかけてくる。
「誰だってそんな恐怖を感じている。それを和らげるために僕たちがいる。そう思わないといけないと、僕は考えています・・」
「でも、私たちのしていることが、それを実現できているとは限らない。私たちも絶対に正しいというわけじゃないの・・」
「それは分かっていますが・・状況を悪化させていくわけには・・・」
「それは分かるけど・・・」
声を掛け合ううちに気まずくなっていくハルとルナマリア。
「ごめんなさい・・私・・・」
「い、いいえ・・僕がいけませんでした・・偉そうなことを言ってしまって・・・」
2人とも困惑して、互いに謝る。
そのとき、ミネルバの第一級戦闘配備を知らせる警報が鳴り響いた。
「ハル、行くわよ・・!」
「はい!」
ルナマリアとハルがドックへと向かっていった。
ミネルバのレーダーが、近づいてくる熱源をキャッチした。
「アーモリースリー付近に点在していた戦艦です。」
「施設を押さえた私たちを始末しに来たようね・・敵艦と敵MSを施設に近づけさせないで。」
マイが報告して、ミーナが指示を出す。
「ルナマリアとハルは先行して。ソラは本艦の上から2人を援護。」
ミーナが立て続けに支持を出していく。ルナマリア、ソラ、ハルが機体に乗り込んで、発進準備を整える。
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」
「ハル・ソーマ、ファルコン、発進します!」
「ソラ・アオイ、ザク、出ます!」
ルナマリア、ハル、ソラがコアスプレンダー、ファルコン、ガナーザクウォーリアで発進する。
コアスプレンダーがチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットと合体して、フォースインパルスとなる。ガナーザクウォーリアはミネルバの艦上に乗って、オルトロスを構えた。
「こっちへは近づけさせない・・・!」
接近してくるケルビムの動きを、ソラはじっと注視していた。
同じ頃、ケルビムもミネルバの動きを捉えていた。
「出てきたわね、ミネルバ・・マキ、スーラ、準備はいい?」
「もちろんよ。」
「あぁ。」
アテナの呼びかけにマキとスーラが答える。
「アテナ・アルテミス、クレッセント、出撃する!」
「マキ・シリア、マグナ、出るよ!」
「スーラ・ネレウス、トリトン、発進する!」
アテナ、マキ、スーラがクレッセント、マグナ、トリトンでケルビムから発進していった。
「私とスーラが先行する。マキは後ろから砲撃を。」
「仕切っちゃって、アテナ・・まぁ、あたしは近づくよりも、遠くから吹っ飛ばすほうがやりやすいけどね。」
アテナの呼びかけを聞いて、マキが笑みをこぼす。
「アテナ、行くぞ。」
「えぇ。」
スーラの声にアテナが答える。トリトンとクレッセントがミネルバに向かって前進していく。
(これ以上、周りのいいようにされてたまるものか・・今度こそ、私たちが倒す・・・!)
自分たちの勝利を心に誓って、アテナは戦いに臨んだ。
ケルビムから発進したクレッセント、マグナ、トリトンを視認したルナマリアたち。
「ハル、先行してくる2機の相手をするわ!」
「分かりました。僕は青いほうをやります。」
ルナマリアからの指示にハルが答える。インパルスがクレッセントに、ファルコンがトリトンに向かっていく。
インパルスがビームライフルを手にして、クレッセントに向けて発砲する。クレッセントは四足獣形態に変形して地上を駆け抜け、ビームをかいくぐっていく。
(やっぱりガイアと同型なのね。)
ルナマリアがクレッセントの形状と性能を見て、かつて戦ったMS「ガイア」を思い出す。
「あのときは手を焼かされたけど、今度はそうはいかない・・弱音なんて言ってられないわ!」
ルナマリアが自分に言い聞かせるように言い放ち、インパルスがビームライフルを発射していく。クレッセントは岩場を駆け抜けて、岩を盾にしてビームを回避していく。
インパルスがビームサーベルに持ち替えて、クレッセントに向かっていく。振り下ろされたビームサーベルをもかわして、クレッセントは岩場に隠れた。
「ガイアは接近戦が得意な機体だった。きっとあの機体も同じはず・・そして・・」
ルナマリアが言いかけて、インパルスが岩場の真ん中に降り立って構えを取る。少しして、人型になっていたクレッセントが、岩陰から飛び出して、ビームサーベルを振りかざしてきた。
「私も射撃より接近戦のほうが向いている!」
ルナマリアが反応して、インパルスがビームサーベルを振りかざす。2本のビームサーベルがぶつかり合い、火花を散らす。
「手ごわい・・だが、私たちは、いつまでも負けているわけにはいかない・・・!」
アテナが声を振り絞って、クレッセントがもう1本のビームサーベルを手にして、インパルスに飛びかかる。2本のビームサーベルによる攻撃で、インパルスが追い込まれる。
「力で押され始めている・・このままじゃ・・・!」
危機感を覚えながら、ルナマリアはアテナとの攻防を続けていった。
ミネルバとケルビムも交戦を繰り広げていた。ソラのザクとマキのマグナも砲撃戦を行っていた。
「このまま防戦一方だと、そのうちやられてしまう・・攻撃に出ないと・・・!」
ソラが我慢できなくなって、ミネルバから前に出ようとした。
“ダメよ、ソラ!ミネルバから離れないで!”
だがミーナからの通信にソラは止められる。
「ですが、このままじゃこっちがやられます!何とかしないと・・!」
“下手に突入すれば敵艦の餌食になるわ。ここはこらえて・・”
焦りを口にするソラをミーナがなだめる。
「このまま、こんなところでじっとしているわけにいかないのに・・・!」
歯がゆさを噛みしめて、ソラがケルビムの動きをうかがう。
「じれったいね・・もうちょっと近づいて、撃ち込んでやるわよ・・!」
マキが一進一退の状況に耐えかねて、ケルビムより前に飛び出した。
“おい、何をしている!?後方からの攻撃に専念しろ!”
ケルビムからの通信が飛び込むが、マキは聞かず、マグナがレールガンを発射しながらミネルバに向かっていく。
「突っ込んでくる!?・・近づけさせない!」
ソラが危機感を覚えて、ザクがオルトロスでマグナ目がけてビームを放つ。マグナがビームをかわして、旋回しながらさらにミネルバを狙う。
「しつこく迫ってきて!」
ソラがいきり立ち、ザクがミネルバから降りてマグナを追いかける。
“ソラ!待ちなさい、ソラ!”
ミーナからの怒鳴り声が響くが、ソラは聞かずにマグナを追っていく。ザクがオルトロスでマグナ目がけてビームを放つ。
「このぐらいの砲撃、よけられないあたしとマグナじゃないよ!」
マキが言い放ち、マグナがマグナランチャーにエネルギーを集中させる。
「かわしながらチャージして、アイツにマグナランチャーをぶち込んでやる・・・!」
マキがザクを見据えて狙いを定めていく。
「チャージが終わる・・まずはお前からよ!」
マキがソラのザクを狙って、ビームを放とうとした。そのとき、ザクが左手でビームライフルを手にしてビームを放ってきた。
「何っ!?」
思っていなかった攻撃にマキが驚く。マグナがビームを受けて、右肩のマグナランチャーを破壊した。
「くっ・・片方だけでは倒しきれない・・・!」
決め手を失ったと毒づくマキ。マグナがビームライフルを手にしてビームを放ってけん制して、ザクから離れていく。
「逃がさない・・ここで倒す!」
ソラが言い放ち、ザクが逃走するマグナを追っていった。
2本のビームサーベルを振りかざすクレッセントに、インパルスは劣勢を強いられていた。
(何とかして・・せめて1本減らせれば・・・!)
「これで終わらせる、インパルス!」
ルナマリアが打開の糸口を探る中、アテナが言い放つ。クレッセントのビームサーベルがインパルスの盾を切り裂いた。
「しまった!」
声を上げるルナマリア。押された拍子でインパルスが体勢を崩す。
「このっ!」
ルナマリアが即座にインパルスを動かす。インパルスがビームサーベルを振りかざして、クレッセントの左腕を切り裂いた。
「くっ!」
アテナが毒づき、クレッセントが即座に右腕を振りかざす。ビームサーベルがインパルスの右腕を切り裂いた。
「ミネルバ、チェストフライヤー、ソードシルエットを!」
“は、はい!”
ルナマリアが呼びかけると、ミネルバにいるマイが応答する。ミネルバからチェストフライヤーと格闘戦用の「ソードシルエット」が射出される。
インパルスがクレッセントの追撃をかわして、上空に飛び上がる。そして距離を取ってから分離を行う。
コアスプレンダーがレッグフライヤー、新たに来たチェストフライヤー、ソードシルエットと合体して、「ソードインパルス」となる。
着地したインパルスがレーザー対艦刀「エクスカリバー」を手にして構える。
「これで終わらせる!」
ルナアリアが言い放ち、インパルスがクレッセントに向かっていく。アテナが反撃に転じて、クレッセントがビームサーベルを持った右手を振りかざす。
だがビームサーベルとエクスカリバーでは、大きさと威力の差は明らかだった。エクスカリバーがクレッセントの右腕ごと、ビームサーベルを吹き飛ばした。
(強い・・ここは引き下がるしか・・・!)
危機感を覚えたアテナ。両腕を失ったクレッセントが岩場から離れようとした。
「逃がさないわ!」
ルナマリアが追って、インパルスが再びエクスカリバーを振りかざす。エクスカリバーの切っ先がクレッセントの胴体を切りつけた。
「うわあっ!」
クレッセントの損傷の衝撃に襲われて、アテナが悲鳴を上げる。クレッセントが倒れて動かなくなる。
「これで、この機体を押さえた・・」
ルナマリアが呟いて、インパルスがエクスカリバーの切っ先をクレッセントに向ける。
「すぐに出てきなさい!何も反応しなければ攻撃する!」
忠告を送るルナマリア。するとクレッセントのコックピットのハッチが開いて、中からアテナが出てきた。
(彼女は・・!?)
ルナマリアがアテナの姿に目を疑った。彼女はアテナの姿がステラと重なって見えていた。
次回予告
生きていた?
アテナの姿を見て、ルナマリアの心が揺らぐ。
あの少女もまた、倒すべき敵なのだろうか?
強まる揺らぎの先に答えはあるのだろうか?
押し寄せる迷い、撃ち砕け、マグナ!