GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-08「砲火の城」
先にルナマリアとソラに伝えられたミーナの作戦は、ハルやマイたち、ミネルバクルーにも伝えられた。作戦の内容を聞いて、ハルたちも緊張を感じていた。
「これはホントに、速さと慎重さが必要ですね・・」
ハルが作戦について言いかける。
「ファルコンもインパルスと一緒に回り込みに行かせたらどうでしょうか?インパルスだけというのは、いくらホーク隊長でも危険すぎます・・」
マイが提案を持ちかけるが、ミーナは首を横に振る。
「移動する機体が多いと逆に見つかりやすいという危険も出るわ。ここは機動力の高い1機だけで裏に回るのが最善よ。」
「なるほど。となると他の全部が前から攻めて、敵の注意を引き付けるということですね。」
ミーナの話を聞いて、ハルが頷く。
「心配してくれるのはありがたいけど、こういったシュミレーションはこなしているわ。」
ルナマリアが微笑んで、ハルたちに言いかける。
「問題なのはタイミング。1分1秒のタイミングのずれでも命取りになる。」
「通信を傍受される可能性があるため、発進後はインパルスとの通信はできない。なので分単位で的確に行動をしていく。」
真剣な面持ちを浮かべたルナマリアに続いて、ミーナがハルたちに言いかける。ハルたちが注意を受けて気を引き締める。
「本艦はまずA地点に向かう。そこでインパルス発進。本艦はB地点へ、インパルスは反対のC地点へ移動。分岐から3分後丁度に前進。しっかりと頭に入れておくように。」
「はいっ!」
ミーナの指示を受けて、ハルたちが答える。彼らに視線を向けた後、ミーナはソラを見て内心困惑を感じていた。
(今回の作戦には従うものの、オーブやラクス・クラインへの反発は変えていないのね・・)
ソラの言動に心の中で苦言を呈するも、ミーナは気を引き締めなおした。
山林の中にそびえたつ武装開発施設。本部の周辺には、大多数の監視レーダーが取り囲むように並んでいた。
監視レーダーは一切の害あるものの侵入を探知する。そしてレーダー網と本部の間にあるビームシールド発生装置が起動して、光の壁として内外の出入りを封じるのである。
「レーダー異常なし。接近する存在なし。」
オペレーターからの報告に、施設を指揮する隊長、ジラド・ゴアが頷く。
「当然だ。ここを攻撃しようなどと愚かなことを考える輩などおるものか。いるとしたらそいつは自殺志願者に他ならん。」
ジラドが自信を見せて言いかける。彼のそばにいるオペレーターたちも笑みをこぼして頷いていた。
「しかしバーンもダルタスも苦戦しているようだな。フリーダム、ジャスティス、ともに侮れんな。」
ジラドが笑みを消して、フリーダムたちを警戒する。
「もしもヤツらがここに来たら、気づけたとしても止められないだろう・・そのためにも、早く量産を行わなくては・・」
ジラドが呟いてから、開発ドックへの通信をつなげた。
「アレの開発状況はどうなっておる?」
“1機目の起動、間もなく完了します。他もすぐに起動を行います。”
ジラドの問いかけに整備士が報告をする。
「起動完了したものはいつでも動かせるようにしておけ。他のパイロットでも動かすぐらいのことはできるだろう。」
“了解。”
整備士に呼びかけて、ジラドは通信を終えた。
「お前たち、チェックは怠るな。あれだけレーダーがあっても、我々が注意を忘れて見過ごせば何の意味もないからな。」
「はっ!」
ジラドの呼びかけにオペレーターたちが答える。
「アレをバーンたちにも使ってもらわなくてはな。」
ジラドは不敵な笑みを浮かべて、管制室を後にした。
その武装開発施設のレーダ網から離れた位置を、ミネルバは航行していた。施設の建物とレーダーの一部を、ミーナたちは視認していた。
「ここね。ここからが本格的な作戦の開始よ。」
ミーナが言いかけると、ソラとハルは頷いた。
「ルナマリア、いいわね?発進から3分後に同時に突入するわよ。」
“はい。これより発進します。”
ミーナの呼びかけに、コアスプレンダーにいるルナマリアが応答する。
「これより2手に分かれる。インパルス発進。」
ミーナの命令により、ミネルバの作戦が本格化された。
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」
ルナマリアの乗るコアスプレンダーがミネルバから発進した。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットも発進した。
コアスプレンダーはすぐには合体せず、そのまま3機とともに施設とレーダー網の周りを旋回していった。
「僕たちも発進準備だ、ソラ。」
「うん・・」
ハルの呼びかけにソラが頷く。
「ソラ・・まだ営倉入りのことを気にしてるのか・・?」
ハルが疑問を投げかけるが、ソラは答えようとしない。
「デスティニープランを実行したデュランダル議長に反発したオーブとラクス・クライン・・あのときのやり方は強引だったかなって、僕も思えなくもないよ・・」
「ハル・・・うん・・だからあのとき、私はラクスにつかみかかった・・アイツらが罪を犯しておきながら、平気な顔をしているから・・・」
「でも僕たちはザフトだ。ザフトの実権を実質的に握っているのはラクスさんやキラさんなんだ・・どんなに気に食わなくても、逆らうのは・・」
「ザフトだから、アイツらに従っていてはいけないんだよ・・・」
ハルに言われてもソラは考えを変えない。ハルがソラに呆れて肩を落とす。
「とにかく、時間になったら僕たちも出撃だ。」
「ハル・・分かってるって・・」
歩き出すハルに、ソラがやや不満げに答えた。2人はそれぞれファルコンと砲撃戦型の「ガナーザクウォーリア」に乗り込んだ。
「あと1分か・・やってやる・・やってやるぞ・・!」
ハルが時計を見て、自分に言い聞かせて気を引き締める。ソラも出撃に備えて身構えていた。
“残り20秒。10よりカウントします。”
マイのアナウンスがミネルバに響いていく。
“残り10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。”
「突入開始!」
マイのカウントが終わると、ミーナが号令を出す。ミネルバが施設に向けて突入を開始した。
「ハル・ソーマ、ファルコン、発進します!」
ハルの駆るファルコンがミネルバから発進した。
「ソラ・アオイ、ザク、出ます!」
ソラの青色のガナーザクウォーリアもミネルバから出て、その艦上に乗る。
(私は戦う・・私がやらないともう、本当の平和は来ない・・・!)
ソラは自分に言い聞かせて、この作戦に挑むのだった。
マイのカウントはルナマリアにも伝わっていた。カウント0と同時に、彼女も施設への突入に踏み切った。
そこでコアスプレンダーがチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットとの合体を果たした。
(目指すは施設の中心部・・施設を押さえて兵器を破壊すること・・・!)
目的を確認するルナマリア。フォースインパルスがビームライフルとシールドを手にして、施設の中心部に向かった。
「施設に侵入者あり!ザフト、ミネルバです!」
「反対方向からも熱源4つ!1つに合体して、さらに進行中!」
レーダーがミネルバとインパルスの接近を探知して、オペレーターたちが報告する。
「すぐに迎撃態勢に入れ!それとアレの移動を早く進めろ!」
ジラドが施設のクルーたちに命令を下す。施設に滞在していたパイロットたちが乗り込んで、多くのウィンダムとMA「ゲルズゲー」数機が発進する。
「自動防衛システムも併用しろ!ヤツらをここへ来させるな!」
「了解!」
ジラドがさらに命令を下す。モニターに映し出されたミネルバとインパルスを見て、彼は不敵な笑みを浮かべた。
「とうとう出てきたか。自殺志願者が・・」
前進するミネルバを迎え撃つべく、ウィンダムたちが迫ってきた。ゲルズゲーも施設の前に立ちふさがっていた。
「やっぱり出てきた・・ソラ、援護を頼む!」
「1人で突っ走らないでよね!」
ハルの呼びかけにソラが言い返す。ファルコンがウィンダムに向かってビームを発射し、ガナーザクウォーリアが高エネルギー長射程ビーム砲「オルトロス」を発射する。
前線に出ていたウィンダムは狙撃された。だが後衛のウィンダムに向かっていたビームは、突如発生したビームの壁に阻まれた。
「あれは、ビームシールド!?・・あんなものまで置いてるのか!?」
ビームの壁にハルが驚きの声を上げる。ビームの壁によって彼らは行く手を完全に阻まれた。
「これでは突入できないですよ・・・!」
マイが突入できない状況に慌てる。
「慌てないで。あれだけ大掛かりなものよ。必ずどこかに発生装置があるはずよ。」
ミーナが呼びかけてマイたちをなだめる。
「タンホイザー起動。目標、ビーム障壁。」
ミーナがミネルバに搭載されている陽電子砲「タンホイザー」の起動を呼びかけた。
「タンホイザーを、あのビームの壁に、ですか!?」
「そうよ。マイ、ビーム障壁のエネルギー変動を細大漏らさずチェックして。エネルギーの強いところが発生装置のある地点の可能性が高いわ。」
声を上げるマイに、ミーナが呼びかける。
「分かりました!」
マイが答えて、コンピューターを操作してビームの変動の情報収集に務める。
「ソラ、マイが発見したポイントを撃って。それでビームの壁が消えるはずよ。」
「はい!」
ミーナがソラにも指示を出す。ザクがオルトロスを構えて、ソラが意識を集中する。
「ハルは他の敵MSを迎撃して。こちらに近づけさせないで。」
「分かりました!」
ミーナの指示にハルが答える。タンホイザーの発射準備が整った。
「ってぇ!」
ミーナの号令とともに、タンホイザーからビームが放たれた。ミネルバの砲撃はビームの壁に阻まれて受け止められる。
「エネルギーの強い部分・・前方下、地面との接触部分です!」
マイがビームの壁の解析を完了して報告する。
「ソラ!」
「分かったわ!」
マイの呼びかけにソラが答える。ザクがオルトロスをそのポイントに向けて発射する。
オルトロスのビームがポイントの地表に命中し、そこにあるビームシールド発生装置を破壊した。
ソラの砲撃によって、ビームの壁が消滅した。
「よし!このまま突入だ!」
ハルが言い放ち、ファルコンが施設に向かって前進する。ミネルバもファルコンに続く形で進んでいった。
「シールド発生装置がやられました!」
オペレーターが慌ただしく状況を報告する。
「おのれ、ミネルバ・・ふざけたマネを・・・すぐにアレを移動させろ!起動していないものは可能な限り起動させろ!」
ジラドがいら立ちを見せて命令する。
「ムチャです!この状況下では1機ですら起動させるのに間に合いません!」
「やられれば我々だけではない!連合そのものが破滅するぞ!」
声を荒げるオペレーターにジラドが怒鳴る。
「分かりました!直ちに!」
オペレーターは慌ただしくクルーたちに伝達していく。
(こうも簡単に突破されるとは・・おのれ、ミネルバ・・・!)
ミネルバへの憤りを募らせるジラド。
「ドックへ向かう!貴様らは持ち場を離れるな!」
ジラドはオペレーターたちに呼びかけると、管制室を離れていった。
ルナマリアのインパルスもビームの壁に行く手を阻まれていた。だがビームの壁が消えて、インパルスはすぐに前進を再開した。
(ミネルバがうまくやってくれたみたいね・・!)
ルナマリアが心の中で呟いて、ルナマリアが施設の中心部を目前としていた。そこでウィンダムたちが迎撃に出てきた。
「もう私は、後れを取ったりしないんだから!」
ルナマリアが言い放ち、インパルスがビームライフルでウィンダムたちを狙撃する。ウィンダムもビームライフルで応戦するが、インパルスのスピードにかわされる。
さらにインパルスはビームサーベルに持ち替えて、ウィンダムたちを切りつけていく。
「くっ!インパルス・・なんという動きを・・!」
「これは、オーブやフリーダムとの戦いで見せた動き・・それに勝るとも劣らない・・!」
ウィンダムやゲルズゲーのパイロットたちが、インパルスの動きに驚きを感じていく。
「うろたえるな!オレたちもこれまでやられたパイロットたちとは違う!」
「ヤツらを超えるために上を目指してきた!その力を見せてやるぞ!」
ゲルズゲーのパイロットたちが言い放つ。ゲルズゲーがインパルスを狙ってビームを放つが、これもかわされる。
「いつまでもシンたちに負けているわけにはいかないのよ!」
ルナマリアが言い放ち、インパルスがゲルズゲーを切りつける。そしてインパルスとファルコンが施設の中心部付近で合流した。
「ホーク隊長、残るはここだけです!」
「このまま一気に押さえるわよ!」
ハルとルナマリアが声を掛け合う。ファルコンが戦闘機型から人型へと変形して、インパルスとともにビームライフルを構えて、施設の管制室に銃口を向ける。
「おとなしく投降しなさい!少しでも妙な行動を取ったら撃つわよ!」
ルナマリアが施設に向けて警告を送る。管制室のオペレーターたちが両手を上げて降参してきた。
「これで作戦終了ですね・・あのMSたちはいませんでしたが・・」
「他にも兵器が隠されているかもしれない。様子を見てくるわ。」
肩を落とすハルと、施設の捜索を行うルナマリア。インパルスが施設地下の格納庫に通じるハッチの上に着地した。
「この下に何かあるのね・・ハッチ、破壊します!」
ルナマリアが判断を決めて、インパルスがビームライフルでハッチを破壊した。インパルスはそのままハッチの下に降りていく。
ルナマリアは警戒を続けて、インパルスが降下していく。そして施設の格納庫に到達した。
「これは・・・!?」
格納庫を目の当たりにして、ルナマリアが緊迫を覚える。そこに収容されていたものに、彼女は見覚えがあった。
1年前の戦争で連合が導入した巨大MS「デストロイ」と姿や武装が酷似していた。
「これはあのときの・・もしかして、あの新型・・!?」
格納庫にあるMSを見て、ルナマリアが危機感を覚える。
「戦場に駆り出されたら大変なことになる・・・リアス艦長!」
ルナマリアはミネルバに連絡を入れて、ミーナに状況を報告した。巨大MSの開発を重く見たミーナは、巨大MSの破壊を決断した。
ルナマリアたちによって巨大MSは格納庫ごと破壊されることになった。施設にいたクルーたちは拘束され連行されたが、あることは誰も自白しなかった。
ジラドはMSパイロットや整備士数人とともに施設を脱出していた。1機のMSを引き連れて。
「引っ張り出せたのはこの1機か・・まさかこうも早く障壁を破ってくるとは・・・!」
「申し訳ありません、ゴア隊長・・我々の尽力が至らず・・」
いら立ちを浮かべるジラドにパイロットが謝る。
「いや、いい・・1機でもあれば敵をなぎ払うことは十分に可能となる・・」
ジラドが弁解を入れて、巨大MSに目を向ける。
「後はあれを乗りこなすことのできる乗り手だ。それはバーンと相談することにするか・・」
ジラドが野心を募らせて笑みを浮かべる。彼らは勝利のための切り札を確立させていた。
次回予告
真の平和のため、敵は倒さなければならない。
純粋な思いから、人は憎み傷つけ合う。
争いの連鎖の中、アテナもまた戦いに身を投じる。
その先にどのような答えがあるのか・・・?
心の在り処、導け、クレッセント!