GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-07「平和の罪」

 

 

 迷いを振り切り、ジャスティスを駆るアスラン。アテナのクレッセントがビームライフルを発射するが、ジャスティスが素早くかわす。

 ジャスティスが振りかざしたビームサーベルが、ビームライフルを持つクレッセントの右手を切り裂いた。

「ぐっ!」

 クレッセントの腕を切り落とされて、アテナが毒づく。クレッセントが左手でビームサーベルを手にする。

「もうやめろ!それ以上は死ぬだけだぞ!」

「世迷言を・・お前たちの言いなりになるぐらいなら、死んだほうがマシよ!」

 警告を送るアスランだが、アテナはそれをはねつける。クレッセントがジャスティスに向かって飛びかかり、ビームサーベルを振りかざす。

 アスランは歯がゆさを感じて、ジャスティスがクレッセントの突きをかわす。そしてビームブレイドの発した左足を振りかざし、クレッセントの両足を切り裂いた。

「イヤアッ!」

 クレッセントの損傷の衝撃がコックピットにも伝わり、アテナが悲鳴を上げる。その声を耳にしたアスランが目を見開いた。

「これは・・・!?

 驚きのあまりの攻撃の手を止めるアスラン。彼はアテナの声からある少女を思い出していた。

 かつてミネルバに連れ込まれた少女。肉体改造を施された「エクステンデッド」の少女の声とそっくりだと、アスランは直感していた。

(だがおかしい・・彼女は死んだと聞いている・・・)

 次々に込み上げてくる疑問に困惑していくアスラン。

「アテナ!」

 損傷の激しくなったクレッセントに気付いて、スーラが声を上げる。アカツキに接近戦を仕掛けていたトリトンが、アカツキから離れてクレッセントに向かった。

 落下していくクレッセントをトリトンが受け止めた。

「アテナ、大丈夫か!?応答しろ!」

「くっ・・・スーラ・・私は大丈夫・・」

 スーラの呼びかけを耳にして、アテナが声を出す。

“アテナ、スーラ、撤退しろ。体勢を立て直す。”

 そこでケルビムからの通信が入ってきた。アテナとスーラもケルビムの状況を知る。

「ケルビムもやられたか・・アテナ、引き上げるぞ・・・!」

「くっ・・分かったわ・・」

 スーラの呼びかけにアテナが頷く。トリトンがクレッセントを連れて、ジャスティスとアカツキの前から去っていく。

「撤退したか・・これで、よかったのか・・・」

 去っていく2機を見据えて、アスランが安堵を覚える。

「アスラン、どうしたんだ、いったい・・?」

 ムウがそんなアスランに呼びかけてきた。

「フラガ隊長・・あの機体に乗っていたのは、エクステンデッドではないでしょうか・・」

「エクステンデッド・・まさか・・・!?

 アスランの言葉を聞いて、ムウが緊張を覚える。彼もエクステンデッドの少女、ステラ・ルーシェのことを思い出していた。

「バカな・・ステラは死んだはず・・・!?

 驚きを募らせていくムウ。

 かつてムウは記憶を操作されたことがあった。地球連合の指揮官、ネオ・ノアロークとして、ステラたちエクステンデッドを戦場に駆り出していた。

「ステラは死んでいる・・あの機体に乗っているのは、別の誰かだろうな・・」

「フラガ隊長・・」

「ここでオレたちだけで考えてもしょうがない。1度アークエンジェルに戻るぞ・・」

「了解・・・」

 ムウの呼びかけに答えるアスラン。ジャスティスとアカツキがアークエンジェルに戻っていった。

 

 アークエンジェルとムラサメたちの攻撃を受けて撤退を余儀なくされたケルビム。オーブから離れたケルビムに、アテナとスーラも戻ってきた。

「申し訳ありません、バーン隊長・・ジャスティスとアカツキにやられました・・・」

「いや、構わん。我々もアークエンジェルにやられたからな・・」

 頭を下げるアテナにドルズが弁解を入れる。

「同じアークエンジェル級であるが、艦の扱いをよく分かっているようだ。それにムラサメも加勢してきている。」

「これにフリーダムやエターナルが加わったなら、もはや無敵です・・」

 言いかけるドルズにスーラが言葉を付け加える。

「マキを呼び戻して、数で攻め立てるべきでしょうか。一気に攻め込まなければ、こちらが消耗して敗北することに・・」

 アテナがドルズに進言をしたときだった。

「ダルタス隊より通信!迎撃を受け撤退!艦及び機体の損傷は大きい模様!」

 通信士がドルズに報告をしてきた。これを聞いてドルズが目つきを鋭くして、アテナとスーラが驚きを覚える。

「フリーダム・・ラクス・クライン・・ヤツらも侮れん相手ということか・・」

「彼らとオーブ・・合流する前に叩かなくては・・・」

 ドルズとアテナが焦りの色を見せて言いかける。

「体勢を立て直す。お前たちもそれまでに体を休めておけ。」

「了解。」

 ドルズの命令を聞いて、アテナとスーラが答える。2人は指令室を出て休息に向かった。

「ダルタス隊に通達。マグナ修復後、マキはケルビムに帰投せよ。」

 ドルズのこの指示は、通信士によってダルタス隊に伝えられた。

 

 アークエンジェルに帰還したジャスティスとアカツキ。安堵を感じていたマリューたちとは対照的に、アスランは深刻な面持ちを浮かべていた。

「アスランくん、何かひどく気にしているみたいね・・・」

 マリューがアスランを気にして、ムウに声をかけた。

「あのMS、エクステンデッドが乗っていた可能性が高い・・」

「エクステンデッドって・・ムウ、あなた・・・!」

 ムウが口にした言葉にマリューが驚きを覚える。

「アイツもステラの顔を見て声も聞いている。アイツもアイツで気にかけていたところもあったんだろう・・」

「私はその子に直接会ってはいないけど・・戦いの道具にされる苦しみが分からないわけじゃないわ・・」

 深刻な面持ちで言いかけるムウに、マリューが辛さを浮かべる。

「今のオレも、分かっているつもりだが・・あのときのオレは・・」

「違うわ!・・あのときのあなたはネオ・ノアローク・・ムウ・ラ・フラガではないわ・・・!」

「それでも、たとえ記憶を変えられていても、オレはステラを利用して・・アイツを・・あの坊主の思いと約束を踏みにじった・・・」

 マリューが励ますが、ムウは自責を痛感していた。彼の脳裏にシンの言葉がよぎってくる。

“死なせたくないから返すんだ!だから絶対に約束してくれ!優しくてあったかい世界へ彼女を返すって!”

“約束、するよ・・・”

 ネオとしての自分とシンの会話。ステラを苦痛や争いから遠ざけようと願っていたシンに対して、上辺だけの口約束でやり過ごした。ステラは再び戦場に駆り出されて、そして死んだ。

「前の戦争が終わったときのアイツはいつになくおとなしくなっていたが、ステラを戦わせたオレへの恨みがなかったとは言えない・・いや、ないほうがおかしい・・」

「そんなに自分を責めないで・・過去と向き合うのは、その場面に直面したときだけにしましょう・・」

 自分を責めるムウにマリューが呼びかける。ムウはこれ以上言葉をかけなかった。

(まだみんな、気にしているのね・・私でさえも・・・)

 マリューがアスランに再び目を向けて、深刻さを募らせていく。

「本艦、ターミナルに引き上げます。」

 気持ちの整理がつかないまま、マリューは指示を出した。

 

 ケルビムの追跡に出ていたミネルバ。ミネルバはついに地球へとたどり着いた。

 大気圏を突破して、ミネルバは地球の青空を航行していた。

「地球か・・来るのは久しぶりになるわね、私は。」

 ルナマリアが外を見て呟きかける。

「ホーク隊長は地球に来たことがありましたね。僕は今回が初めてで・・」

 ハルが彼女に声をかけて、外に目を向ける。

「プラントの空は人工ですけど、地球のは自然でできた本物なんですよね。すごいなぁ・・」

 ハルが外の空を見て笑みをこぼしていく。

「緊張が足りないわよ。もう少ししっかりしなさい。」

「あ、すみません・・」

 ルナマリアに注意されて、ハルが苦笑いを浮かべる。

「話は変わるけど・・ソラ、まだ何かを気にしているようね・・」

「はい・・まだこの処分に納得していないようで・・・」

 ソラのことを聞くルナマリアに、ハルが困った顔を見せる。

「私も本当は、ラクス・クラインやアスランのやり方には納得していない・・前の戦争のときもそうだった・・でもあのときは、全然分からないことだらけだった・・・」

「ホーク隊長・・・」

「私には知る権利がなかった・・それだけの力もなかった・・・でもアイツにはあった・・それだけの強さも、戦争であふれた世界を変えられる強さも・・」

 物悲しい笑みを浮かべるルナマリアに、ハルが戸惑いを覚える。

「今はアイツはいない・・この状況、私たちが何とかしないといけない・・・」

 思いつめていたところで、ハルに心配されていることに気付いて、ルナマリアが戸惑いを覚える。

「ゴ、ゴメン・・大丈夫だから・・」

「は、はぁ・・」

 作り笑顔を見せるルナマリアに、ハルは唖然となっていた。

「それじゃ、私はリアス隊長のところへ行くから・・・」

 ルナマリアが声をかけると、ハルが敬礼を送る。ルナマリアはミーナのいる艦長室に向かった。

 

 艦長室に向かっていたルナマリア。その途中の廊下で、彼女はミーナを見つけた。

「リアス艦長。」

「ルナマリア、あなたと話をしようと思っていたのよ。」

 ルナマリアが声をかけると、ミーナが呼びかけてきた。

「たった今通信が入ってきたのよ。襲撃者の部隊が現れたわ。」

「アイツらが・・」

 ミーナの言葉を聞いて、ルナマリアが真剣な面持ちを浮かべる。

「部隊を2組以上に分けてきた可能性があるの。1組はエターナルを、もう1組はオーブを攻撃してきたわ。」

「エターナルとオーブに・・!?

「どちらも撃退されたそうよ。でもすぐに体勢を整えてくるでしょうし、他に部隊がいないとも言い切れない・・」

「その他の部隊の追撃を、私たちが行うのですね。」

「その部隊と思しき集団が潜んでいるとの情報が入ったの。それでその地点に今近い私たちが向かうことになったの。」

 ミーナの話を聞いて、ルナマリアが納得する。

「それに、その部隊に対して深刻な問題が出てきたのよ・・」

「深刻な問題・・?」

「部隊が到着した施設には、連合の強力な兵器が開発、待機しているそうなのよ。もしもその兵器が起動して、一斉に攻撃を仕掛けてきたら・・」

「私たちやオーブでも、手に負えなくなる・・・」

 ミーナのさらなる話にルナマリアが息をのむ。

「攻撃態勢を整える前に、私たちが乗り出して叩く。それも相手を逃がさないようにして・・」

「逃げられたら、相手は私たちへの警戒をさらに強めて、攻撃態勢を慎重に整えてしまう・・」

「こういうスピードが必要となる作戦には数が求められるけど、応援が来る前に相手は準備を終えてしまう・・」

 ミーナとルナマリアが深刻さを募らせていく。

「私とハルくん、そしてこのミネルバだけでは・・」

「・・・仕方ないわ・・本当ならこれはやってはならないことだけど・・」

 ルナマリアが考えを巡らせると、ミーナが苦渋の決断を決めた。

「彼女を私のところへ連れてきて。」

 ミーナが近くにいたクルーに声をかけた。

「よろしいのですか?」

「本当はよくないけど、人手不足は避けないと・・」

「分かりました・・」

 クルーはミーナの指示を聞いて駆け出していった。

 

 ルナマリアと一緒に艦長室に来たミーナ。椅子に腰かけたミーナはモニターを映した。

「これが敵部隊のものと思しき施設よ。監視レーダーが施設を取り囲むように設置されていて、侵入者をすぐに探知できるようになっているわ。」

「それじゃ、どうやって突入を・・」

「そのレーダー網に引っかからないように、外側を回って反対側からも攻める。前後同時にね。」

「それで後方への旋回と侵入をするのが私ですね。」

「私たちが一斉に攻撃を仕掛けて注意を引き付ける。相手にとって私たちは視界に捉えやすい位置になるから・・」

 ミーナとルナマリアは状況と作戦について話をしていたときだった。艦長室のドアがノックされた。

「連れてきました。」

「入って。」

 外にいるクルーの声にミーナが答える。クルーと一緒に艦長室に入ってきたのはソラだった。

「あなたはいいわ。ありがとう。」

「はい。失礼します。」

 ミーナが感謝を送ると、クルーは敬礼を送ってから艦長室を後にした。

「改めて聞いておくわ。なぜ営倉入りの処分となったのか、分かっていますか?」

 ミーナが問いかけるが、ソラは不満を感じていて、質問に答えない。

「自分のしたことについて反省はしていますか?」

「していません。だってあのとき、私は間違ったことはしていません。」

 ミーナがさらに質問すると、ソラは真剣な面持ちで答えてきた。彼女の返事にミーナが気まずさを覚えて肩を落とす。

「あなた・・ラクス・クライン氏への暴力行為は、まぎれもない間違いなのよ・・」

「一方的に間違いを繰り返して、その自覚も反省もしないヤツらのほうが間違っているに決まっているじゃないですか。その間違いを正そうとしたのに、それで処分を受けるのもまた間違い・・」

「いい加減にしなさい!あなたも私たちもザフト!規律や命令に従うことを義務付けられた軍人なのよ!」

 ソラの態度にミーナが怒鳴り声を上げる。彼女に叱責されても、ソラは考えを変えない。

 いら立ちを感じるも、ミーナは落ち着きを取り戻して肩の力を抜く。

「その調子ではまだ営倉入りを続けないといけないところだけど、今は猫の手も借りたい状況だからね・・」

 ミーナが言いかけると、ルナマリアは真剣な面持ちで頷いた。

「ソラ、あなたも出撃して、相手の注意を乱してもらいたいの。その間に、後ろに回り込んだ私が一気に攻めるわ。」

「私も、敵の注意を引き付けるってことですね。分かりました。」

「相手はこの前、アーモリースリーを襲ってきた集団と関わりのある可能性が高い。もしかしたら、あのMSもそこで開発や調整を受けていたのかもしれない・・」

「早く正体を暴いて、襲撃を阻止しないと・・」

 ルナマリアからの説明を聞いて、ソラが頷く。

「この作戦で重要なのはスピードとタイミング。わずかの軽はずみが命取りになるから、気を引き締めて。」

「了解。」

 ミーナの呼びかけにルナマリアとソラが答える。

「みんなにも事情と作戦を話すわ。あなたたちも一緒に来て。」

 2人に呼びかけて、ミーナは艦長室を出た。ルナマリアとソラも続いていく。

 廊下を歩いていく途中、ソラは敵を倒すことを心の中で思い描いていた。クレッセントたちだけでなく、キラたちやオーブたちを倒すことを。

 

 

次回予告

 

敵を寄せ付けない包囲網。

世界を塗り替えようとする者たちの要塞。

それを打ち崩すため、ルナマリアたちの作戦が始まった。

全ては平和のため、世界のために。

 

次回・「砲火の城」

 

破壊の要塞へ、突入せよ、インパルス!

 

 

作品集

 

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