GUNDAM WAR -Mark&Ark-
PHASE-06「果てしなき正義」
エターナルを離れ、先にオーブに戻ってきたアスラン。彼はアークエンジェルに着艦した。
「おかえりなさい、アスランくん。」
アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスと握手を交わすアスラン。
「アーモリースリーでの事件のことは、私たちも聞いているわ。カガリさんたちも警戒を強めているわ。」
「正体がはっきりしていない以上、オーブも標的にされないとも限らないですからね・・」
マリューからの話を聞いて、アスランも深刻な面持ちを浮かべる。
「その犯人のものらしい母艦が地球に入ったという知らせがあった。でもそれから行方が分からなくなってしまったのよ・・」
「こちらを警戒して、気づかれないように進行するのでしょう・・」
「オーブを裏を突いて攻撃してくる可能性が高いわね・・」
「それ以外にも手を打ってくる可能性もあります。注意に注意を重ねましょう。」
襲撃者への対応について語り合うマリューとアスラン。
「お、戻ってきたか、アスラン。」
そこへ1人の金髪の男がやってきて、気さくに声をかけてきた。
「フラガ隊長も乗っていたのですか。」
「おいおい、オレを邪魔者扱いしないでくれって。」
アスランが声をかけると男、ムウ・ラ・フラガが苦笑いを見せる。
「それに、オレはもう決めたんだ。もうマリューのそばから離れないってな。」
ムウが言いかけると、マリューを抱き寄せてきた。しかしすぐにマリューに離れられる。
「今は任務中よ。公私混同しないように、フラガ隊長。」
「これはこれは。失礼しました、ラミアス艦長。」
注意をしてくるマリューに、ムウが気さくなまま答える。2人のやり取りにアスランは唖然となっていた。
“アスラン、戻ってきたか。”
そのとき、アークエンジェルに向けて通信が入ってきた。モニターに1人の少女が映し出された。
カガリ・ユラ・アスハ。オーブ代表の任に就いており、MSの操縦もこなせる。
「今回の事件、プラントだけで留まらない予感がして・・オレだけ先に戻ってきた。」
“こちらでも対策を講じている。ラクスたちからも連絡を受けている。”
声をかけてきたアスランにカガリが微笑みかける。
“アークエンジェルはこのまま、オーブ市街前に移動する。アスラン、お前もよろしく頼む。”
「あぁ。任せてくれ。」
カガリの呼びかけに答えて、アスランが笑みを見せた。
「艦隊はこちらに気付かれないようにして、裏を狙ってくるでしょう。そのためにまず囮が出てくるでしょう。」
「相手の居場所をつかめない限り、こちらは先手が打てない。今は待つしかないな・・」
アスランとムウが現状と推測を口にしていく。
「今は指定されたポイントに行きましょう。それで相手が動きを見せるかもしれないし・・」
マリューが投げかけた言葉にアスランたちが頷く。
「本艦はこれより移動。襲撃者の迎撃に向かいます。」
マリューの指揮により、アークエンジェルはオーブ市街付近に移動していった。
アークエンジェルの移動をケルビムのレーダーは捉えていた。
「アークエンジェル、移動を始めました。」
オペレーターがドルズに報告をする。
「前衛を固めようという魂胆か。それは我々にとって好都合。」
この状況にドルズが笑みをこぼす。
「クレッセント、トリトン、発進。その後本艦は移動を開始する。」
「はっ!」
ドルズの命令にクルーたちが答える。アテナとスーラが発進準備を整えていた。
「アテナ・アルテミス、クレッセント、出撃する!」
「スーラ・ネレウス、トリトン、発進する!」
アテナのクレッセント、スーラのトリトンがケルビムから発進した。そしてケルビムは2機の別方向からのオーブへの進行を開始した。
「接近する熱源2つ!MSの模様です!」
オペレーターがレーダーを確かめて報告をする。これを聞いたカガリがレーダーとモニターを注視する。
「アークエンジェルとムラサメ隊は?」
「同じくこちらへ向かっています。2機と接触する模様です。」
カガリの問いにオペレーターが答える。
「MS発進後、アークエンジェルは索敵にも注意を向けるように。」
「分かりました。」
カガリの指示にオペレーターが答える。
「ラミアス艦長たちもこの状況と判断は分かっている。艦長に判断は任せよう・・」
アスランやマリューたちを信頼して、カガリは状況を慎重かつ的確に見定めることにした。
クレッセントとトリトンの接近にはアスランたちも気づいていた。
「オレが先に出て呼びかけてみます。やむなく戦闘になった場合はお願いします。」
「問答無用で仕掛けてきた相手に、話し合いだけで片付けば奇跡だけどな・・」
呼びかけるアスランにムウが皮肉を口にする。
「フラガ隊長、あなたも出撃準備を。」
「了解、ラミアス艦長。」
マリューに注意をされて、ムウが気さくに答える。彼の態度に半ば呆れるも、アスランは気持ちを切り替えて出撃に向けてドックに向かう。
アスランはジャスティスに乗り込んで、発進に備える。
「アスラン・ザラ、ジャスティス、出る!」
アスランの乗るジャスティスがアークエンジェルから発進した。ジャスティスの前にクレッセントとトリトンが来た。
「あの機体・・アーモリースリーでオレと戦ったMSか・・」
クレッセントを見て呟くアスラン。彼は通信回線を開いて呼びかけた。
「こちらはオーブ軍所属、アスラン・ザラ。そちらの所属と目的を聞かせてくれ。」
アスランからの呼びかけに対して、アテナとスーラが疑問を抱く。敵が話し合いを持ちかけてきたことが、2人は腑に落ちなかった。
「ふざけたことを・・そう言われて、私たちが応じると・・」
「いや、ここはヤツの思惑に乗ってやろう・・」
懸念を示したアテナにスーラが呼びかける。
「こうしている間にも、ケルビムは裏を取っている。こちらに注意を引き付けるためには、話し合いでもやってやろうではないか・・」
「スーラ・・分かったわ・・」
スーラの提案をアテナは聞き入れた。トリトンがジャスティスの前に出て、スーラが応答する。
「我々は地球連合の部隊だ。我々は今のコーディネーターやプラント、オーブの行動に反旗を翻す。」
「反旗・・なぜそのようなことを・・・?」
スーラが投げかけた言葉にアスランが眉をひそめる。
「プラントもオーブも地球も、同盟と停戦を結んで協力関係にある。オレたちも連合に対しても協力を惜しんでいない。それなのに・・」
「表向きにはそうしていても、あくまで自分たちのためでしかない。停戦にこぎつけたときも、オーブもラクス・クラインも、力で周りを押さえつけて己を押し付けただけに過ぎない・・」
「違う!あれはデュランダル議長の強行を止めただけだ!彼の示す世界は、全てを殺すことになる!」
「フン。偽善者の決まり文句と言っても過言ではない。」
アスランの言葉をスーラが嘲笑してきた。
「勝手気ままに我ら連合と同盟を結んでおきながら敵に回り、なおかつ乱入して混乱を招いたフリーダムとアークエンジェルと徒党を組む。そんな貴様らの押し問答を偽善と言わずに何とするか・・」
「違う!オレもみんなも・・!」
「違わない。自分たちの行為が世界のためになっていると思い込んでいる。それは結局、無自覚な悪意であるというのに・・」
言い返すアスランをスーラは嘲笑していく。
「正義の名の力を持ちながら、結局貴様は正義を震えていない・・笑わせてくれる・・」
スーラが投げかける言葉にアスランは返す言葉を見失ってしまう。
「ムウ・ラ・フラガ、アカツキ、出るぞ!」
そのとき、ムウの駆る黄金の機体、アカツキがアークエンジェルから発進してきた。
「しっかりしろ、アスラン!ヤツらの言葉にのまれるな!」
「フラガ隊長・・・!」
ムウの呼びかけにアスランが戸惑いを覚える。
「どんな理由であっても、勝手にオーブに侵入して、攻撃をさせるわけにはいかないな。武装を解除して出直してくることだ。」
アスランに代わってムウがスーラたちに呼びかける。
「それでお前たちの言いなりになれと?お前も愚かしいことだな。」
スーラがムウにも嘲笑を投げかける。トリトンがビームサーベルを手にして構える。
「たとえジャスティスであろうとアカツキであろうと、我々は引くつもりはない。」
「ちっ!やるしかないのか・・!」
臨戦態勢を見せるスーラに、ムウが毒づく。
「2機を引き離しましょう!街に飛び火させるわけにはいきません!」
「そうだな・・よし、行くぞ!」
アスランの呼びかけにムウが答える。
「スーラ、私がジャスティスを相手にする。あなたはアカツキを。」
「分かっている。油断するな。」
アテナの呼びかけに答えるスーラ。クレッセントとトリトンの前に、ジャスティスとアカツキが立ちはだかる。
「お前たちをこれ以上進ませるわけにはいかない・・!」
「オーブはここで葬る・・偽物の平和は、私たちの手で打ち砕く・・・!」
声を振り絞るアスランとアテナ。ジャスティスとクレッセントがビームサーベルを手にして、飛び出してぶつかり合った。
ジャスティスとクレッセント、アカツキとトリトンが交戦を始めた。その様子をドルズたちはケルビムでモニターから見ていた。
「始まったか。ジャスティスたちだけでなく、他の機体もアテナたちに注意を向けている。」
ドルズが戦況を見据えて不敵な笑みを浮かべる。
「本艦に向かってくる機体やロックオンは見られません。」
オペレーターがドルズに報告をする。
「よし。このままオーブの裏に回るぞ。」
ドルズの命令により、ケルビムが旋回していく。ケルビムはアスランたちに気付かれることなく、彼らのいる海上の反対に回り込んだ。
「よし、いいだろう・・一気に加速する。」
「了解。」
ドルズが判断を下し、ケルビムがオーブへの侵攻を本格化した。
「全武装の発射準備を整えておけ。いつでも撃てるようにな。」
「こちらに接近する熱源あり!アークエンジェル級の戦艦です!」
オペレーターからの報告がカガリの耳に入ってくる。
「あの2体を囮にして、裏に回ってきたか・・・!」
戦況を把握してカガリが毒づく。
「アークエンジェルが転回して、戦艦の迎撃に向かっています。」
「そうか・・ムラサメ一個小隊にも向かわせろ。他は周囲への警戒を強化させるように。まだ潜んでいる可能性も否定できない。」
オペレーターの報告を聞いて、カガリはマリューたちへの信頼を胸に秘めた。
ケルビムの接近に気付いて、アークエンジェルはムラサメたちとともに迎撃に向かっていた。レーダーの捕捉というよりは、経験則を踏まえたマリューの推測によるのが大きかった。
(MS2機だけなのが引っかかった。2機を収容していた戦艦が潜んで、裏を取ってくると思えた・・)
自分の推測の範疇の行動を取ってきたことに、マリューが心の中で呟く。
「敵艦、本艦をロックしました!」
オペレーターがマリューに報告をする。
「本艦も攻撃を開始します。ただし攻撃対象は敵艦武装に限定。撃墜は極力避けるように。」
「了解!」
マリューの指示にクルーたちが答える。
ケルビムがビーム砲「ゴットフリート」を発射する。アークエンジェルが右上に動いて、ビームを回避する。
「ゴットフリート、ってぇ!」
マリューが指示をだし、アークエンジェルもゴットフリートを発射する。ケルビムも上昇してビームをかわした。
ケルビムがゴットフリートを発射しながら、アークエンジェルに向かって先進してきた。
「今だ!バリアント!ヘルダート!」
ドルズが命令を下し、ケルビムが副砲「バリアント」と対空ミサイル「ヘルダート」を同時に発射する。アークエンジェルが旋回して、ケルビムの射撃を紙一重でかわした。
「おのれ・・何というヤツだ・・!」
アークエンジェルの動きにドルズが毒づく。
「ローエングリンの発射準備はできているか?」
「はい。チャージを行えばすぐに発射できます。」
「よし。ローエングリン、照準。アークエンジェルとオーブ市街が同一射線軸上になった瞬間を狙うのだ。」
ドルズの命令で、ケルビムが陽電子砲「ローエングリン」を起動させる。その砲門にエネルギーが集束されていく。
「敵艦、陽電子砲、発射体勢です!」
オペレーターからの報告を受けて、マリューが緊張を覚える。
(ここでよけたら、街に直撃する・・・!)
回避が取れなくなり、マリューは撃たれる覚悟を覚える。
「まずは貴様らだ、アークエンジェル。」
ドルズがアークエンジェルを見据えて不敵な笑みを浮かべた。
そのとき、ケルビムのローエングリンの砲門が突然爆発を起こした。
「何っ!?」
ドルズやケルビムのクルーたちが驚きを覚える。ケルビムのローエングリンをビームで破壊したのは、急行してきたムラサメだった。
「アークエンジェル、我々はそちらの援護に回ります。」
「ありがとう。援護、感謝するわ。」
ムラサメのパイロットが声をかけて、マリューが応答する。
「敵艦の砲門を全て叩く!オーブに攻撃の手を出させるな!」
「はいっ!」
ムラサメのパイロットたちが声を掛け合う。ムラサメ数機が戦闘機形態から人型に変形する。
「おのれ、オーブめ・・敵MSを撃退させろ!そしてアークエンジェルを叩く!」
ドルズが命令を出し、ケルビムが狙いをムラサメに変えて射撃を仕掛ける。しかし素早いムラサメにビームやミサイルをかわされていく。
逆にムラサメが発射するビームで、ケルビムは武装を攻撃されていく。
「くっ・・一時撤退だ!体勢を立て直す!」
「り、了解!」
ドルズの呼びかけにクルーが答える。ケルビムがムラサメの攻撃を振り切って、オーブから離れていった。
「何とか切り抜けましたね。ムラサメ隊が来てくれなければ、どうなっていたことか・・」
アークエンジェルを操縦する操舵士、アーノルド・ノイマンが安堵を口にする。
「それにしても、あの艦・・間違いなく地球連合ね。それもアークエンジェル級の艦・・」
「アークエンジェルと同等の性能と戦力だと思ったほうがいいですね・・」
ケルビムについて考えを巡らせるマリューに、ノイマンが声をかける。
「今後も注意が必要ということね・・」
ケルビムへの警戒を念頭に置くマリュー。アークエンジェルはムラサメ隊とともにオーブの警戒に当たることにした。
アスランのジャスティスにアテナのクレッセントが飛びかかる。ビームサーベルをぶつけ合う両機だが、クレッセントは接近戦に持ち込んで、すぐにジャスティスから離れていた。
(下手には攻められない・・接近戦を続ければ、確実にやられることになる・・)
ジャスティスを強く警戒していくアテナ。
(このまま戦うことになってしまった・・仕方がない・・やるしかない・・・!)
クレッセントと戦うことにためらいを抱いていたアスラン。彼は自分に言い聞かせて、ジャスティスがビームサーベルを構える。
クレッセントがビームライフルを手にして、ビームを射撃する。ジャスティスは素早く動いてビームをかわしていく。
「もうやめろ!・・できることなら、討ちたくはないんだ・・・!」
「討ちたくない?・・戦いに出る人間の言葉ではないわね!」
アスランの呼びかけを嘲るアテナ。クレッセントのビームライフルの射撃を、ジャスティスは回避とビームシールドによる防御でかいくぐる。
「討ちたくないから、最初から戦場に出てこなければいい。単純なことよ。」
「そうだな・・だがオレは、戦いを終わらせるために、迷いを断ち切る・・・!」
アテナの言葉に言い返して、自分の中にある確かな思いを貫こうとするアスラン。ジャスティスがクレッセントに向かって飛び出していった。
次回予告
本当の正義とは?
本当の平和とは?
今も誰も、アスランさえも、その答えを見出せていないのかもしれない。
大切なものを守った先に、答えはあるのだろうか?
平和の意志、守り抜け、アカツキ!