GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-04「揺らぐ心」

 

 

 営倉入りを命じられて、ミネルバの独房に入れられたソラ。彼女は部屋の隅で座り込んで、冷たい目つきをしていた。

(私は間違っていない・・ラクス・クラインは世界を乱している敵で、アスラン・ザラはラクスに寝返った裏切り者・・そんな連中に従っていることは滑稽だというのに・・・)

 ラクスやアスランだけでなく、彼らを支持している世界の現状に対しても憤りを感じていくソラ。

(アイツらが何もかもムチャクチャにした・・ヤツらは自分のしたことが正しいと信じて疑わず・・・!)

 込み上げてくる憤りを抑えきれず、ソラが壁に握った手を叩きつける。

(そう・・アイツらは全てをムチャクチャにした・・私が追い求めた理想さえも・・・)

 うつむいたソラが、自分の過去と思惑を思い返していった。

 

 私は耐えることなく続いていくコーディネーターとナチュラルの戦争を不快に感じていた。自分たちの存続のために、戦いを望まない人々までが犠牲になることが、私は許せなかった。

 そんな世界を変えようとしている人を、私は目撃した。

 シン・アスカ。ザフトの新しいエースパイロットとして、次々に戦果を挙げていった。

 私はシンさんの活躍に心惹かれた。それは彼の強さや活躍以上に、この混迷の絶えない世界を変えたいという意思が強いのが理由だった。

 そしてシンに期待を寄せていたデュランダル議長の意志にも、私は信じるようになっていた。

 どれだけ困難な状況であっても、諦めずに意志を貫く議長とシンに、私はすっかり心を動かされていた。

 いつしか戦況や状況を耳にするようになっていた私。

 ザフトが地球連合との戦闘に入り、攻撃を仕掛けようとしたときだった。

 突然フリーダムとアークエンジェルが乱入。ザフトも連合も関係なく、見境なしに攻撃をしてきた。

 武器やカメラを潰してただ単に戦いを止めただけだと、向こうは思っているのだけれど、そのために死んだ人だっている。

 私はフリーダムの行動に不信感を抱き、そして怒りも感じるようになっていった。

 でも私のこの感情は、シンさんがぶつけてくれた。彼の乗るインパルスがフリーダムを討った。

 連合を追い込むあと一歩というところまで来て、さらに厄介な相手も倒すことができた。平和は目前と思えたときだった。

 ザフトに戻り、シンさんたちの隊長だったアスラン・ザラがザフトを脱走。私たちを裏切った。

 アスランはシンさんが新たに乗ることになったデスティニーによって撃墜された。

 ところが、アスランは生きていた。強化されたジャスティスに乗って、同じく強化したフリーダムと一緒に。

 連合の破壊行為を完全に叩き潰したシンさんたち。

 そしてデュランダル議長は、平和のための策を宣言してきた。それはデスティニープラン。

 遺伝子情報を元にその人に正しい生き方を指し示す、というもの。そうすれば人は間違った道を進むことがなくなり、互いに傷つけ合ったり戦争が起こったりしなくなる。

 しかし各国の反応は様々だった。言われてみればそうだった。いきなりそういうことを言われても、迷うことなく受け入れられると断言できる人は多くないのかもしれない。受け入れるには時間が必要になってくる。

 すぐには難しいとしても、必ずみんな受け入れると思っていた。

 私はデスティニープランが導入されることに賛成していた。生き方が正しく示されるのなら、誰もが争うことがなく、平和が保たれるから。

 でもデスティニープランに、オーブとスカンジナビア王国が反対してきた。

 どうして!?議長は平和のために尽力しているのに!

 人類存亡のための策に逆らうことは、人類そのものに逆らうことと同義。

 議長は世界の敵になったヤツらに制裁を加えた。

 スカンジナビアのアルザッヘル基地を、議長は一掃した。

 当然よ。世界の敵に回ると宣言しているも同然の相手を、このまま野放しにしておく道理なんてない。

 議長は同じく世界の敵となったオーブにも鉄槌を下そうとした。それを邪魔しようとしてきたのがラクスたちだった。

 ヤツらは力と自己満足な理屈を押し付けて、ザフトを攻め立てる。

 シンさんのデスティニーも、アスランもジャスティスに落とされた。

 いくらあのアスランが相手だからって、シンさんのデスティニーがやられるはずがない。きっと脱走したときにデスティニーのデータを盗んだのよ。

 ザフトのMSも戦艦もことごとく撃墜されて、ついに議長のいたメサイアも落とされた。

 議長は亡くなり、デスティニープランは実行されることなく頓挫した。

 ヤツらは誰もが望む平和よりも、自分たちがよければそれでいいという自己満足を望んで、それをみんなに押し付けた。

 シンさんから平和を取り戻すための力を奪って、ついには自分に従わせようとした。

 シンさんの意思を認めずに踏みにじり、自分たちの力と勝利に酔っているアイツらは、絶対に許すことはできない。

 私は絶対に認めないと心に誓った。ラクスもアスランもキラ・ヤマトも、絶対に受け入れない。

 私がこの混迷した世界を変えてみせる。

 

 私がザフトに志願したのはその悲劇よりも前。シンさんの活躍を見て憧れて、あの人みたいになりたいと思ったのが始まりだった。

 軍人の訓練はまさに死にもの狂いだった。それでも私は諦めなかった。シンさんもみんな、この訓練を乗り越えて、戦線に出ているのだから。

 でも私が士官アカデミーを卒業したときは、メサイアが陥落した後だった。

 ラクスとキラが実質的にプラントやザフトの実権を握ることになったと言っても過言でない状況になってしまった。

 本当にそうなっていたとしても、私は従うつもりはない。

 私が従うのは、ザフトの正義と誇りだけ。

 そしていつか必ず、ヤツらをこの手で倒してやる。

 必ず・・・!

 

 自分の過去と感情を振り返っていたソラ。その中には彼女の思い込みも含まれていたが、彼女は訂正しようとはしなかった。

(アイツらが何もかもおかしくしてしまった・・世界も、シンさんの意思も・・・)

 キラやアスラン、ラクスたちへの怒りを募らせていくソラ。

(そのシンさんも、今はもういない・・任務の最中にいなくなってしまった・・・!)

 シンがいなくなってしまったことに、ソラはさらに憤りを感じていた。

 

 ルナマリアもシンのことを思い出していた。彼女もシンの消息不明を知っていた。

「シンは今はここにはいません。私がしっかりしないといけないと、自分に言い聞かせています・・」

「ルナマリア・・・」

 ルナマリアの言葉を聞いて、ミーナが戸惑いを覚える。

「でも、シンは今もどこかで生きていると信じています・・今は何かの理由で戻れないでいるというだけで・・・」

「でも、消息が分からなくなった地点の地域を何度も捜索したけど、手がかり1つ見つからなかったのよ・・探すにしても、どこを探せばいいのか分からない始末よ・・」

 シンのことで話して、ルナマリアとミーナが沈痛さを募らせていく。

「シンくんが消息不明になったのは約半年前、ポイント4278で。ロゴスの残党の追撃任務の最中だったわね・・」

「はい。私とは別行動でした。私が来たときには、シンはいませんでした・・」

「それから捜索したけど見つからなかった・・今も手がかりは見つからず、捜索も打ち切り同然・・」

 話を交わしていって、ルナマリアもミーナも心を痛めていく。

「今でも探しに行きたいというのが正直なところですが、今の私はこの艦の乗員でMSパイロット。艦長であるあなたの指示に従います。」

「ルナマリア・・あなたはここでは戦場での指揮を任せています。私の言いなりになることなく、あなたの判断で行動して構わないわ。」

「ありがとうございます。でもこのミネルバの艦長はあなたで、部隊の指揮権限はあなたにありますので・・」

 気を遣うミーナだが、逆にルナマリアに気を遣われることになった。

「もしも、シンがいたら、今はどうなっていたのか・・・」

 一途な願いと皮肉を口にして、ルナマリアはミーナから離れていく。

「長く話をしてすみませんでした。それでは失礼します。」

「いいえ。私があなたを引き留めてしまったのだから・・」

 敬礼を送るルナマリアに、ミーナが弁解を入れる。彼女に対して小さく頷いてから、ルナマリアは艦長室を出た。

(私も彼女も、感傷に浸るときがあるのね・・)

 自分たちの皮肉を感じて、ミーナは肩を落としていた。

 

 プラントから撤退して、ザフトの追跡から逃れたケルビム。ケルビムはドルズの指揮により、地球に向かっていた。

「これより我々は地球に降下する。こちらの作戦開始とともに、別部隊も行動を起こすことになっている。」

 ドルズが地球を見据えて不敵な笑みを浮かべる。

「新たに現れたミネルバも厄介だが、先の大戦で脅威を見せたヤツらも野放しにはできぬ。」

「ラクス・クライン、そしてオーブですね。」

 言いかけるドルズにアテナが答えていた。彼女の隣にはマキとスーラもいた。

「バーン隊長、私をエターナル討伐に参加させてください。」

 スーラがドルズに進言をしてきた。

「フリーダムは強敵です。ダルダス隊だけでは一斉に撃墜されるだけです。戦力を上げて臨まなくては・・」

「それなら私が行きます!マグナで狙い撃ちしてやりますよ!」

 するとマキがドルズに呼びかけてきた。ドルズは2人を見て決断を下した。

「よし。マキ、お前がダルタス隊と合流しろ。アテナとスーラはこのまま我々とともに地球に降りる。」

 ドルズの決断にマキが笑みをこぼした。

「ダルタス隊長には私から伝えておく。マキはすぐに発進しろ。」

「分かりました!」

 ドルズの命令に答えて、マキはマグナで発進するために駆け出していった。

「フリーダムはスピードもあり、攻撃も性格。超長距離から仕留めたほうがいいということですね。」

 ドルズの決断にアテナが言いかける。

「その通りだ。ムダに戦いを挑むなど言語道断だ。」

「敵対するものは何であろうと倒す。たとえ乱入が十八番と化しているフリーダムが相手だとしても。」

「そうだ。だがヤツの相手はスーラとダルタス隊。今度のお前たちの相手はオーブ。ジャスティス、アカツキと戦うことになるだろう。」

「分かっています。オーブもジャスティスも、必ず私たちが。」

 ドルズと言葉を交わして、アテナがスーラと一緒に外に広がる地球に目をやった。

 

 独房で静かに時間を過ごしているソラ。彼女のいる部屋の前にマイがやってきた。

「ソラ・・大丈夫・・・?」

「体は大丈夫だけど・・どうしても気持ちが落ち着かない・・・」

 マイからの心配の声に、ソラが低い声で答える。

「ソラ、何であんなことを・・・ラクス・クラインが許せなかったの・・・?」

 マイの問いかけにソラが小さく頷く。

「そうだよね・・ソラ、あの人のことを心から尊敬しているんだよね・・シン・アスカさんのこと・・・」

「シンさんは強かったし、世界に平和を取り戻そうとする強い意思もあった・・それをアイツらは、ラクスたちは踏みにじった・・・」

 マイが投げかける言葉を聞いて、ソラが憤りを感じていく。

「でも、私もソラもザフトなんだから、ザフトのルールは守らないと・・」

「そのザフトも今はラクスたちの操り人形も同然になっている!たとえ掟でも、そんな連中の言いなりになんてなってたまるもんか!」

 言いかけるマイだが、ソラは怒りを募らせるだけだった。絶対にラクスたちを認めようとしないソラに、マイはかける言葉が分からなくなってしまった。

「敵の戦艦が地球に向かったって情報が入ったの・・ミネルバは追撃で地球に向かうことになったから・・」

「うん・・分かった・・ありがとう、マイ・・・」

 ミネルバの動向を告げるマイに、ソラが静かに礼を言う。

「それじゃ私、行くね・・そろそろ戻らないと・・・」

 マイはそういうと独房の前から去っていった。ソラは何も言わずに彼女を見送っていた。

(世界は変わらないといけないのに・・・シンさん・・・)

 世界の混迷とシンへの思いを抱えたまま、ソラは独房でふさぎ込んでいた。

 

 指令室に向かおうとした途中で、ルナマリアはマイと会った。

「ルナマリアさん・・・!」

「あなたはマイ・ヤヨイだったわね?ソラのところに行っていたの?」

 緊張を覚えるマイに、ルナマリアが問いかけてきた。

「はい。ミネルバの次の動向のことも・・」

 マイがやや慌てながら、ルナマリアの質問に答える。

「あの処分じゃ、ソラは任務には参加できそうにないですね・・」

「そうね・・私が彼女の分まで任務を全うするから、あなたもサポートをお願いね。」

「は、はい!よろしくお願いします!」

 ルナマリアの呼びかけに、マイが動揺を見せながら答える。するとルナマリアが苦笑いを見せてきた。

「通信のときは落ち着いてね・・」

「は、はい・・すみません・・・」

 ルナマリアが投げかけた言葉で我に返り、マイが落ち込んでしまう。

「それじゃ、行きましょうか。」

 ルナマリアが再び歩き出して、マイも追うように駆け出していった。

 

 ルナマリアとマイが指令室に来て少ししてから、ミーナも指令室に来た。

「みんな、そろっているわね・・」

「はい・・ソラ以外は・・」

 ミーナが声をかけて、ルナマリアが真剣な面持ちで答える。

「本艦はこれよりアーモリースリーを離れ、地球に向かいます。アーモリースリーに現れた襲撃者の正体はまだ不明な点は多いです。航行中に奇襲を受ける可能性もあります。くれぐれも注意を怠らないように。」

 指示を出すミーナにルナマリアたちが敬礼を送る。

「ミネルバ、発進します。」

 ミーナの指揮の下、ミネルバが地球に向けて発進していった。

 

 ラクスたちの乗るエターナルを追跡するため、ダルタス隊は暗躍を行っていた。

「十時方向に航行しています。速度に変動はありません。」

 通信士の報告にダルタス隊隊長、ガオウ・ダルタスが頷く。

「我々の追跡に気付いて警戒しているのか、それとも我々が先手を打ちに来るのを待っているのか・・」

 エターナルの動向について呟いていくガオウ。

「とにかく、ヤツらが大きく動き出す前に包囲しておく。こちらは数で勝っているのだから・・」

「フリーダムの前じゃ、数の多さなんて何の意味もないですよ。」

 彼に声をかけてきたのは、ケルビムから移動して到着したマキだった。

「バーンのところのエクステンデッドか。お前ならヤツらを仕留められるとでも言うのか?」

「フリーダムは無敵と言っていいほどの強さを持っています。でも何が相手でも、私が仕留めてやりますよ。」

 問いかけるガオウに、マキが不敵な笑みを見せる。

「ヤツらに見せつけてやる・・私とマグナの力を・・・!」

 フリーダムやエターナルに対する敵意を募らせていくマキ。ダルタス隊の戦艦が、航行中のエターナルを包囲しつつあった。

 

 

次回予告

 

真の自由を取り戻せ。

真の平和は我にあり。

キラたちに迫るガオウとマキの包囲網。

大切なものを守るため、キラは戦いに赴く。

 

次回・「永遠(とわ)なる自由」

 

混迷の宇宙(そら)へ、舞い上がれ、フリーダム!

 

 

作品集

 

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