GUNDAM WAR -Mark&Ark-

PHASE-01「偽りの平穏」

 

 

コズミック・イラ74。

従来の人類である「ナチュラル」と遺伝子調整を施された「コーディネイター」による戦争は、「メサイア攻防戦」を最後に終局を迎えた。

 

戦争の混迷を払拭するため、「プラント」、「地球」、中立国の「オーブ」は和解に務めていた。

だが3国の各首脳陣の意志とは裏腹に、世界の情勢は良好には向かわなかった。

 

 

 コズミック・イラ75。

 「プラント」。コーディネイターの拠点となるコロニーである。

 そのプラント内にある軍事施設「アーモリースリー」にて、1隻の戦艦が着艦していた。

 そしてその戦艦がいる港に1人の少女がやってきた。

 ルナマリア・ホーク。プラントの軍事組織「ZAFT(ザフト)」のMS(モビルスーツ)パイロット。エリート軍人を意味する赤服にそでを通す1人だが、彼女はその制服を自分の手で改造して着用していた。

 この日、ルナマリアは命令を受けてアーモリースリーを訪れていた。

「はじめまして、ルナマリア・ホーク。歓迎するわ。」

 ルナマリアが声をかけられて振り返る。彼女の前に白の制服に袖を通した藍色の髪の女性が現れた。

「はじめまして、ミーナ・リアス隊長。よろしくお願いします。」

 ルナマリアがその女性、ミーナに敬礼を送る。

「いいわ。これからはあなたが私たちの主力となるのだから。」

「そんな・・私なんかが主力だなんて・・」

 微笑みかけるミーナの言葉に、ルナマリアが照れ笑いを見せる。

「あなたにはパイロットたちの指揮をしてもらうことになるけど、こちらに来るパイロットの中に問題児がいてね・・」

「問題児、ですか・・・」

 ミーナが口にした言葉を聞いて、ルナマリアが一瞬唖然となった。しかし彼女はすぐに落ち着きを見せた。

「ご心配なく。問題児の相手は慣れてますから。」

 ルナマリアが見せた笑みに一瞬戸惑うも、ミーナもすぐに微笑んだ。

「それでリアス隊長、私がこれから乗る艦は・・?」

「そうね。ここで立ち話もなんだから、行きましょうか。」

 ルナマリアがミーナに連れられて艦に向かっていった。

 

 アーモリースリーには軍事施設だけでなく、小さな市街地も点在しているその一角にある噴水広場にて、1人の少女が立っていた。

 帽子とサングラスも身に着けていた少女。彼女のそのサングラスの奥の瞳には冷たさを宿していた。

「こんなところで油売っていていいんですか?」

 そこへさらに1人の少女がやってきて声をかけてきた。長身の少女で、長い黒髪を1つに束ねていた。

「もうこんな時間・・ゴメン、マキ・・迎えに来させてしまって・・」

「たまに時間を忘れてボーっとしてることがあるんだから、アテナは・・」

 少女、アテナ・アルテミスに黒髪の少女、マキ・シリアが肩を落とす。

「行くよ。スーラが待ってる・・」

「うん・・」

 真剣な面持ちを見せたマキに、アテナが頷く。2人は歩き出して、広場を後にした。

 

 ミーナに連れられて、ルナマリアは一隻の艦の前にたどり着いた。その艦体を見てルナマリアは驚きを覚えた。

「これって・・ミネルバ・・・!?

 思わず声を上げるルナマリア。彼女の前で停泊している艦は、彼女がかつて乗艦していた「ミネルバ」とそっくりだった。唯一の違いは、白が基本で赤と青のラインが一部分に入っていることだけである。

「そう。これはミネルバをベースにして開発された艦“ミネルバ・ノヴァ”よ。でも性能と武装はミネルバと大差ないから、私たちは“ミネルバ”と呼んでいるわ。」

 ミーナがルナマリアにミネルバ・ノヴァについて説明する。

「ミネルバに乗っていたあなたなら、ここの説明は不要かしら?」

「そうですね・・後はここのクルーを把握しておきたいです。特にパイロットを・・」

「焦らないで、ルナマリア。パイロットたちにはミネルバに待機させているわ。」

 ルナマリアとミーナが言葉を交わして、ミネルバの中に入っていった。

「本当にミネルバそっくりですね・・中までそっくり・・」

 ルナマリアが呟いて、昔の自分を思い出していく。当時の自分の日常や戦いを。

「楽しい日常も思い出しますけど・・辛いことも悲しいことも・・・レイもグラディス艦長も、シンも・・・」

 込み上げてくる悲しみを痛感して、ルナマリアが目に涙を浮かべる。彼女の心境を察して、ミーナも深刻な面持ちを浮かべる。

「本当ならもう1人、このミネルバに乗るはずだった・・・」

 ミーナが口にした言葉を聞いて、ルナマリアがさらに困惑を募らせていく。

「か、艦長!大変です、リアス艦長!」

 そこへ1人の青年が慌ただしく駆け込んできた。

「どうしたのよ、ハル?そんなに慌てて・・」

 ミーナが青年、ハル・ソーマに疑問を投げかける。

「ソラとマイが外に出て行ってしまって・・呼びかけたんですが聞かなくて・・」

「ソラとマイが!?・・もう、あの2人ったら・・」

 ハルの言葉を聞いて、ミーナが頭に手を当てて気まずくなる。

「あの、その2人もこのミネルバのクルーなんですか・・?」

「えぇ・・その1人、ソラがその問題児よ・・」

 ルナマリアの問いかけに、ミーナがため息まじりに答えた。

 

 待機の指示を聞かずにミネルバから出て外で遊びに出かけていたクルーが2人いた。

 ソラ・アオイ。新しくミネルバに配属になったMSパイロットである。士官学校の卒業成績上位10位だけが着ることを許される「赤服」の1人である。

 マイ・ヤヨイ。同じくミネルバに配属になったオペレーターである。

 ソラとマイはアーモリー・スリーの市街地で買い物に繰り出していた。

「ソラ、そろそろ戻らないとまずいよ・・もう艦長戻ってきてるって・・」

「だって、あそこのお店、どの服も素敵だったんだから〜・・」

 困った顔を見せて言いかけるマイに、ソラが照れ笑いを見せる。

「もう、いい加減に戻るよ。でないと艦長に雷落とされちゃうって・・」

「もうちょっと待って〜。どっちにしようか迷ってて〜・・」

「迷わなくていいってー!」

 服を選ぶのに迷っているソラを、マイが強引に引っ張っていく。

「そういえばソラ、今日からまた新しい人が乗ってくるんだよね?」

「そうね。話を聞いただけで詳しいことは知らないけど・・」

 マイが投げかけた話にソラが答える。

「なんでも、私たちの先輩で上官、赤服の女性パイロットだって。」

「赤服・・・」

 マイの話を聞いて、ソラがそのパイロットのことを気にする。

「さ、早くミネルバに戻らないと・・」

 マイがソラに呼びかけたときだった。

 突然2人の耳に爆発音が入ってきた。緊張を覚えた2人が辺りを見回す。

「えっ!?なになに!?

「ミネルバが停泊してるほうからだよ!」

 驚きの声を上げるマイと、ミネルバのあるほうに向かって駆けだすソラ。

「わ〜!待って、ソラ〜!ちょっとぐらい荷物持ってよね〜!」

 マイが荷物を抱えて、悲鳴を上げながらソラを追いかけた。

 

 アーモリースリーの軍事施設の近くに潜んでいる1機の機体。周囲に気付かれないようにしていたその機体のコックピットには、1人の青年がいた。

 スーラ・ネレウス。彼はザフトの動きをうかがいながら、仲間との合流を待っていた。

「どこで油売っていたんだ、お前たち・・・?」

 スーラが声を上げると、彼の乗っている機体に通信が入ってきた。

“遅くなってすまなかったわ、スーラ。私たちの準備もいいわ。”

“ここからが私たちの戦いの始まりだよ。いつまでも偽物の平和にすがっているわけにはいかないよ。”

 スーラに呼びかけてきたのはアテナとマキだった。

“では行こう、マキ、スーラ。”

“えぇっ!”

「あぁ。」

 アテナの呼びかけにマキとスーラが答える。スーラが電源のみを入れていた機体を完全に起動させて、行動を開始した。

 スーラの乗るMS「トリトン」が海の中から飛び出した。トリトンがアテナの乗る「クレッセント」とマキの乗る「マグナ」と合流した。

「何だ、あのMSは!?

「止まれ!何者だ、お前たち!?

 基地に滞在していた兵士たちが呼びかけるが、クレッセントたちは進行をやめず、さらにクレッセントが両腰に搭載されているビーム砲で攻撃を仕掛けてきた。

 奇襲のために迎撃の体勢が整わないまま、基地の施設が次々に撃たれて爆発を起こしていく。

 ザフトはMS「ザクウォーリア」、「グフイグナイテッド」で出撃して迎撃するが、クレッセントたちに返り討ちにされていく。

「量産型じゃあたしらは止められないよ!」

 マキが言い放ち、マグナが胸部にある複相ビーム砲を発射して、ザクたちや施設をなぎ払っていく。

「マキ、油断しているとやられるよ・・」

「やられないって!油断なんてないし!」

 アテナの呼びかけにマキが強気に答える。クレッセントが2本のビームサーベルを手にして、ザクたちを切りつけていく。

「くっ・・このままでは・・・!」

「他の部隊にも連絡を!MSや武装による迎撃態勢を・・!」

 ザクたちのパイロットが通信を交わしていく。次の瞬間、そのザク2機が突然胴体を切り裂かれた。

「何っ!?うわあっ!」

 パイロットが悲鳴を上げて、機体の爆発に巻き込まれる。その眼前にトリトンの姿が現れた。

「コイツにも、ミラージュコロイドは受け継がれている。」

 スーラがトリトンの性能を確かめて呟く。ステルス状態となって透明化する「ミラージュコロイド」は、トリトンにも搭載されている。ただし使用中はMSの常備とされている「フェイズシフト」との併用はできず、戦闘力は低下状態となる。

「MSを動かす前に叩く。そうすれば殲滅は早いわ。」

「言われなくても分かってるわ!徹底的に叩き潰してやるわ!」

 アテナの声に言い返して、マキのマグナがビームライフルを手にして、射撃を続けていく。

(こんな偽物の平和など、私たちには何ももたらさない・・私たちが、本当の平和を・・・!)

 現状の安息への憤りを抱えて、アテナはマキ、スーラとともに攻撃を仕掛けていった。

 

 クレッセントたちの襲撃に、ソラとマイも巻き込まれた。2人はミネルバに戻ることもままならなくなっていた。

「ふえ〜!これじゃ戻る前にやられちゃうよ〜!」

 マイが悲鳴を上げる中、ソラが辺りを見回す。彼女の目に1機の青色のザクウォーリアが映ってきた。

「あれに乗るしかない・・マイ、あれに飛び込むよ!」

「えっ!?あれって、ザクに!?

 ソラの呼びかけにマイが驚きの声を上げる。次の瞬間、彼女たちのそばにまで戦火と爆発が近づいてきた。

「ひえ〜!助けて〜!」

 マイが慌てて、ソラと一緒にザクに乗り込んだ。

「このまま逃げ回っても死ぬだけ・・勝手に機体を動かすのは違反だけど、こんなときにそんなこと言ってられない・・・!

 ソラがザクを起動させて操作していく。

「ソラ・アオイ、ザク、出ます!」

 ソラとマイの乗る青いザクが起き上がった。動き出したザクに、アテナたちが気づく。

「まだいたのか、ザフトのMSが・・!」

 マキが笑みをこぼして、マグナが振り返る。

「お前も私が仕留めてやるよ!」

 マキが言い放ち、マグナが両腰のレールガンを発射する。ソラが反応して、ザクが横に飛んでマグナの射撃をかわす。

「ミネルバ!応答してください、ミネルバ!」

 マイが通信をつなげて、ミネルバへの連絡を試みる。するとミネルバと通信がつながり、ミーナが応答してきた。

“マイ、あなたたち今どこにいるの!?”

「リアス艦長!すみません!今、エリアD2!ソラが操縦する青色のザクの中です!」

 怒鳴ってみるミーナにマイが報告をする。

“エリアD2って・・敵と交戦しているの!?”

「このままではやられてしまいます!救援、お願いします!」

 声を荒げるミーナにマイが呼びかける。そのとき、ザクがクレッセントの攻撃の力に押されて、ソラとマイのいるコックピットが揺れた。

「いくらMSの性能が全てじゃないって言っても・・さすがに3体1じゃ分が悪いよ・・!」

 焦りを口にしていくソラ。マグナの射撃でザクのビームトマホークが吹き飛ばされる。

「このままじゃやられちゃう〜!」

 絶体絶命の状況に、マイは悲鳴を上げていた。

 

 クレッセントたちの襲撃の知らせは、ミネルバにいるミーナたちにも伝わっていた。さらにミーナたちはマイの連絡を受けて、彼女とソラの居場所を探った。

「エリアD2・・すぐに行ける距離だけど、着くまでにマイたちを救出できるかどうかは確信できないわね。時間とスピードの勝負だから・・」

 ミーナがソラとマイの救援までの手段を模索する。

「自分が先行して2人を助けに行きます!“ファルコン”でしたらすぐに現場に着けます!」

 ハルがミーナに進言をしてきた。ファルコンはハルの乗るMSで、スピードを重視した性能となっている。

「でもあなただけで3機を同時に相手をさせることになる。それはとても危険なことよ。」

「私も行きます。」

 ミーナが苦言を呈したところで、ルナマリアも声をかけてきた。

「“インパルス”もすぐに駆けつけて、救援に向かえます。2機でしたらミネルバや他の救援の到着まで時間を稼ぐことは可能です。」

「ルナマリア・・分かったわ。ルナマリアとハルはインパルス、ファルコンで先行。ソラとマイの救援を優先に。」

「はい!」

 ルナマリアの言葉を聞き入れて、ミーナが指示を出した。ルナマリアとハルが答えて、指令室を飛び出した。

 

 ミネルバの整備ドックに駆けつけたルナマリアとハル。ハルは白、青、赤に彩られているMS「ファルコン」に乗り込んだ。

「ホーク隊長、よろしくお願いします!」

「気を遣わなくていいわ。任務や戦場に出れば上司も部下も、先輩も後輩も関係ないから・・・これは私の上官の受け売りだけどね。」

 挨拶をするハルに、戦闘機「コアスプレンダー」の乗り込んだルナマリアが答える。

「私が前を進むわ。遅れないようにね。」

「分かりました!」

 ルナマリアの声にハルが答える。2機の先にあるハッチが開かれた。

「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」

「ハル・ソーマ、ファルコン、発進します!」

 ルナマリアの乗るコアスプレンダー、ハルの乗るファルコンがミネルバから発進した。続けて上半身を形成する「チェストフライヤー」、下半身となる「レッグフライヤー」、そして「シルエットシステム」の1種「フォースシルエット」がミネルバから射出された。

 ルナマリアとハルが進行して、エリアD2に到着した。そこでコアスプレンダーがチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットと合体していく。

 MS「インパルス」。フォースシルエットを装備した「フォースインパルス」は、飛行と機動力に特化している。

 ソラとマイの乗っているザクを追い込むクレッセントたちの前に、インパルスとファルコンが駆けつけた。

 三度、戦争の火ぶたが切って落とされた。

 

 

次回予告

 

またも起こった戦い。

広がる戦火の中で繰り広げられるMSの対決。

壊す者と守る者。

尊ぶべきなのはどちらなのか?

 

次回・「争いは再び」

 

戦いの空へ飛び立て、インパルス!

 

 

作品集

 

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