GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-49「終わりなき旅路」

 

 

 フューチャーを狙って乱れ飛びタイタンの砲火。飛び火した閃光が、プラネットGをも炎に包み込んだ。

 紅に染まる星を目の当たりにして、ソワレが困惑し、アルバが憤りを募らせる。

「オレを倒すために、関係のない人の命まで奪うなんて・・・」

 怒りを抑えきれず、アルバが拳を強く握り締める。

「ドーマ、お前をこのまま野放しにするわけにはいかない!」

 アルバがいきり立ち、フューチャーがタイタンに向かっていく。振り抜かれるエクスカリバーを、タイタンが高い機動力で回避していく。

「そんな状態で、私とタイタンを止められると思っているのか!?

「たとえ傷だらけになろうと、この魂と思いは砕けない!」

 あざ笑うドーマに、アルバが言い放つ。

「オレは1人ではない!デイジーの想いが、リリィの願いが、オレとフューチャーに込められている!」

「罪人であるお前が戯言を!」

 アルバの決意の言葉を一蹴するドーマ。タイタンが放つビーム砲撃を、フューチャーが紙一重でかわしていく。

「オレは負けない!世界の未来を思い通りにしようとするお前たちには!」

「お前も己のためだけに戦っている分際で!」

「違う!オレは、1人じゃない!」

 アルバがドーマに言い返し、フューチャーがサイド特攻する。全力で放たれたエクスカリバーの一閃が、タイタンのレールガンのひとつを切り裂いた。

「何っ!?

 驚愕したドーマが眼を見開く。ついにフューチャーの攻撃がタイタンを捉えた。

「このタイタンが、またしても追い詰められることなど・・・許さない・・許さんぞ、ディアス!」

 ドーマがさらに激昂をあらわにする。もはや彼のアルバに対する怒りは頂点に達していた。

 タイタンがフューチャーに向けて突進してきた。フューチャーはかわしきれずに突撃され、2機は宇宙を降下していた。

「これだけ密着していれば、無事で済むはずがない!」

「血迷ったか!?ここで攻撃すれば、オレだけでなく、お前も確実に命を落とすぞ!」

「知ったことか!議長の導く未来のためなら、この命、惜しくはない!」

 毒づくアルバにドーマが言い放つ。もはやドーマは死ぬことすら厭わなくなっていた。

(このままでは本当にやられる・・ここで倒さなければ!)

 いきり立ったアルバが、この場でのタイタンの撃破を狙う。

「攻撃はさせないぞ、ディアス!」

 ドーマが言い放ち、タイタンがレールガンでのゼロ距離射撃を繰り出してきた。フューチャーが回避できず、攻撃に徹することもできないでいた。

(くっ!・・このままでは・・・!)

「今度こそ終わりだ、ディアス!いや、アルバ・メモリア!」

 危機を痛感するアルバに、ドーマが勝ち誇る。その間にもタイタンは、トライデストロイヤーのエネルギーチャージを進めつつあった。

 そのとき、一条の閃光がタイタンの頭部を撃ち抜いた。

「何っ!?

 この射撃にドーマが声を荒げる。これにより、タイタンが体勢を崩してフューチャーから離れていく。

「誰だ!?私の邪魔をしたのは!?

 激昂したまま周囲を見回すドーマ。その視線が、ソワレの駆るゼロに向けられる。

「ソワレ!貴様、どういうつもりだ!?ここに来て裏切るのか!?

「僕は平和を取り戻すために戦ってきた。議長やあなたにその意思を汲み取られて、僕は励まされました・・ですが今のあなたの行為は、その平和を壊すものと化しています!」

 怒号を放つドーマに、ソワレが切実に呼びかける。

「あなたがこのままの戦い方をするならば、僕はあなたを全力で止める!」

「議長に対する恩を仇で返すとは・・お前も万死に値する暴挙に出るのか、ソワレ・ホークス!」

 いきり立ったドーマ。その感情のまま、タイタンがフューチャーとゼロに向けてトライデストロイヤーを発射する。

「くそっ!」

「回避!」

 毒づくアルバと、指示を出すガル。フューチャーとクレストが砲撃から回避するが、他のMSの多くがその砲撃に巻き込まれて爆発していく。

「艦長、これは・・・!?

(そこまで血迷ったか、ドーマ・フリークス・・・!?

 騒然となるクルーたちの中、ガルがドーマの暴走に毒づく。

「全機撤退!このままではタイタンの攻撃に巻き込まれる!」

 ガルがとっさに指示を出すと、クレストがタイタンとの距離を取る。

「冗談じゃない!このまま好き放題に暴れられて、尻尾巻いて逃げられるかっての!」

 だがコーラサワーがいきり立ち、彼の乗るザクスマッシュがタイタンに向かっていく。

「よせ、コーラサワー!引き返せ!」

 ガルが呼びかけるが、コーラサワーは踏みとどまらない。ザクスマッシュがヒートホークを振り下ろすが、タイタンは軽々とかわす。

「反逆者は死あるのみ!」

 ドーマの怒号とともに、タイタンがザクスマッシュに向けてレールガンを放つ。

「えっ・・・!?

 コーラサワーが自分の身に起こる出来事に眼を疑った。タイタンの砲撃でザクスマッシュが火花を散らしながら落下していく。

 だがザクスマッシュの持っていたヒートホークが、タイタンの胴体に突き刺さっていた。

「くっ!」

 一矢報われたことに毒づくドーマ。激情に駆り立てられた彼にはもはや、敵味方の区別がつかなくなっていた。

 

 暴走するタイタンを目の当たりにして、マリアは困惑していた。

「タイタンが、暴走しているというの・・・!?

「これもボルドの考えだというの・・・!?

 たまらず声を荒げるマリアとリリィ。

「議長がオメガを虐げるはずがない・・ドーマ少佐が、激昂のあまりに・・・」

「だったらなぜボルドは止めないの!?それを止めないのは、ボルドも否定していないということ・・・」

「そんなはずない!議長はオメガのために尽力を注いできた・・・!」

 疑念を向けるリリィに、マリアは切実に呼びかける。リリィは深刻な面持ちのまま、歩き出そうとする。

「どこへ行くの、リリィさん?」

 そこへマリアがリリィに銃を向ける。リリィは足を止めるが、振り向こうとしない。

「ボルドのところに行く。ボルドにタイタンの暴走を止めさせる。もしも暴走に賛同するなら、私はボルドを殺す・・・」

「そうはさせない。その目的のために動き出すというなら、私はこの引き金を引く・・・!」

「それでも私は行く。未来を、切り開くために・・・!」

 呼び止めるマリアと、踏みとどまろうとしないリリィ。だがタイタンの暴走とオメガの混乱を止めたい気持ちは、マリアも同じだった。

「最後までついていかせてもらうわ。あなたが少しでもおかしなことをするなら、私は今度こそあなたを処罰する・・・!」

「ありがとう・・マリアさん・・・」

 マリアがかけた言葉に、リリィは感謝の言葉を返す。彼女の頬に一条の雫がこぼれ落ちた。

 

 アルバとドーマの激闘は続く。しかし時間ばかりが経過し、双方とも消耗戦を強いられることになった。

「いい加減に落ちろ、ディアス!」

「攻撃をやめろ、ドーマ!このままではオレだけでなく、オメガ全てを敵にまわすことになる!お前の自滅につながるぞ!」

「自滅!?世迷言を!もはや世界は議長の下に意思がひとつとなった!自滅も破滅も訪れることは決してない!」

 アルバが呼びかけるが、ドーマはこれを聞きいれようとしない。

「議長が導く世界と未来は、悪も争いもない完全なもの!いかなる障害も踏み込むことすらできない!」

「完全に進化はない!未来はない!」

 高らかに言い放つドーマの言葉を、アルバが一蹴する。

「オレは未来を切り開く。その未来を阻む壁として、ドーマ、お前を倒す!」

「お前に未来などない!ここで華々しく散るがいい!」

 互いに言い放つアルバとドーマ。その間にも、タイタンはトライデストロイヤー発射のためのエネルギーチャージを進めつつあった。

「今度こそ・・今度こそ世界に安寧を!」

 ドーマが感情を爆発させ、タイタンがアルバの乗るフューチャーを狙う。

(このまま回避していたら、こっちが不利になるだけだ・・真っ向から立ち向かうしかない・・・!)

 覚悟を決めたアルバ。フューチャーがエクスカリバーを振るい、トライデストロイヤーを切り裂こうとしていた。

「血迷ったか!?タイタンのトライデストロイヤーは、従来の陽電子砲とはわけが違う!3種のエネルギービームを命中と同時に結合反応を引き起こし、脅威的な爆発と破壊をもたらす!たとえ陽電子砲を切り裂いたエクスカリバーでも、この攻撃は防ぎきれんぞ!」

「このフューチャーは、多くの死線を潜り抜けてきた!オレたちに、超えられない未来はない!」

 あざ笑うドーマにアルバが言い放つ。フューチャーがタイタンに向かって突っ込んでいく。

「今度こそ、今度こそ木っ端微塵だ!」

 タイタンがトライデストロイヤーを、向かってくるフューチャーに発射する。それでもアルバは回避を取らない。

(デイジー、カーラ、リリィ、オレに力を貸してくれ・・・!)

 自分を支える人たちの想いを背に、アルバが特攻を仕掛ける。振り下ろされたエクスカリバーが、タイタンの放った閃光と衝突する。

 3種のビームが反応を引き起こす。閃光がきらめき、フューチャーが包まれた。

 

 脱出を促した兵士たちに連れられて、ボルドはシェルターに向かっていた。彼はその間も、ドーマを中心とした戦況を耳に入れていた。

(ドーマ、気の済むようにするがいい。お前が私のために尽力を注いでいることは知っている。誰もお前をとがめることはできない。)

 ボルドは胸中でドーマの暴走を容認していた。このような暴走を起こしても、自分のツルの一声でどうにでもなる。ボルドはどう思っていた。

「こ、これは、スカイローズ中尉!」

 そのとき、兵士たちの前にマリアが現れた。彼女の隣にはリリィの姿もあった。

「これはどういうつもりかな?敵と行動を共にするとは・・」

 マリアの行動をあざ笑うボルドに、リリィが銃を向ける。直後、兵士たちがリリィに対して銃を構える。

「あなたたちは下がりなさい。議長は私がいます。」

「そうはいきません。この状況下でそのようなことを認められるわけが・・」

 マリアの呼びかけに聞く耳を持たない兵士たち。だがボルドが兵士たちを制する。

「ここは下がれ。私はこの2人の話を聞く。」

「しかし議長・・!」

 ボルドの言葉の受け入れにためらいを覚える兵士たち。そこへ銃弾が飛び込み、兵士たちが倒れる。

 発砲したのはリリィだった。もはやこれ以外に事態を沈静化させることができないと判断したのだ。

「回りくどいことをしている余裕はないから、単刀直入に言うわ。タイタンを止めなさい。でなければタイタンの暴走に賛同していると判断して、次はあなたを撃つ。」

 リリィがボルドに銃口を向ける。だがボルドは不敵な笑みを浮かべたままだった。

「無駄なことだ。私の息の根を止めたところで、ドーマが攻撃の手を止めることはないし、誰も我々をとがめることはできない。」

 ボルドが告げた言葉に、リリィが眉をひそめ、マリアが困惑を見せる。

「世界はもはや私を中心に動いている。たとえ過ちに類する行為でも、私のためならば正当化される。たとえお前が私を仕留めても、お前が世界の敵になることに何ら変わりはない。」

「世界を自分のオモチャにしているあなたが・・私たちが受けてきた悲劇を、あなたは生み出し、それをあざ笑おうとでもいうの!?

「それが世界のためならば、我々は喜んでこの手を汚そう。」

 語気を強めるリリィに対し、ボルドは態度を変えない。

「争いは意思の食い違いから起こるものだ。絶対にこの考えは受け入れられない。戦争に発展しなくとも、そういった結論に到達した時点で、もはやそこに平和は存在しなくなる。その食い違いを消すためには、世界をひとつに束ねる存在が必要なのだ。」

「それがあなただというの・・・!?

「今、世界は私を中心にひとつにまとまった。平和が築かれた何よりの証拠だ。それが世界の統治者である私の存在が在ればこそだ。」

「自分の思い通りの世界にしようとしているあなたが・・・!」

「ではこの私を始末して、お前たちはどうしようというのだ?私のように世界を統一する存在がいなければ、世界は以前のような混迷の未来を辿ることになる。平和と安寧を誰よりも望んできた君には、それは酷であろう。」

 自信を込めてリリィに言い放つボルド。しかしリリィはこれを受け入れない。

「ならばお前はこの世界をどうしようというのだ?お前は私の創り上げる平和ではなく、これまでの混迷の世界を望むというのかね?」

「あなたのように、1人の野心に振り回される世界よりはマシよ。」

「破滅の末路を辿りたいならそれでもいい。だが世界の誰もが、お前と同じ意見ではないのだぞ。お前に、世界を左右する力量があるのか?」

「もう迷わない・・私は1人じゃない。これはもう、独りよがりな考えじゃない!」

 揺るがない意思を見せて、リリィがボルドに銃を突きつける。

「そこまで世界に逆らおうというのか・・だがお前たちが辿る末路は破滅以外にない!」

 眼を見開いたボルドも銃を構える。彼は即座に銃の引き金を引き、リリィを撃ち殺そうとした。

 だが銃弾に撃たれたのはボルドのほうだった。リリィは反射的に、瞬間的に銃の引き金を引いていた。

「バカな・・・なぜ・・・!?

「何度も言わせないで・・私たちは、未来を切り開いていくって・・・」

 倒れていくボルドに、リリィが呟くように言いかける。彼女の眼からうっすらと涙があふれてきていた。

「愚かな・・・これで、世界はまた・・・フフフフフ・・・」

 薄れていく意識の中、ボルドがリリィをあざ笑う。勝ち誇った哄笑をもらしながら、彼は息絶えた。

「あなたの手を汚すことはしないわ、マリア・・あなたはリードの軍人なんだから・・」

「本当なら、私はすぐにあなたを射殺しなければならないのだけれど・・もはや私は、ソワレ以外の人をためらいなく信じることができなくなっている・・・」

 言いかけるリリィにマリアが自分の心境を告げる。2人は戦闘が続いている空を見上げていた。

 

 トライデストロイヤーが向かってきたフューチャーを包み込んだ。白んだ閃光を見下ろして、ドーマが哄笑を上げる。

「終わった・・私がディアスを・・アルバ・メモリアを倒したのだ・・・!」

 勝利を確信したドーマが哄笑を上げる。

「これで世界は議長のものとなる・・真の安寧を崩すことなど、誰にもできはしないのだ!」

「そんなことはない!」

 そのとき声が伝わり、ドーマが笑みを消す。広がっていく閃光の中から、フューチャーが飛び出してきた。

「何っ!?

 アルバが生存していたことに、ドーマが驚愕の声を上げる。満身創痍の状態ながらも、フューチャーがタイタンに向かっていく。

「それほどまでに、私と議長の前に立ちはだかるというのか、貴様は!」

「オレは死なない!リリィが待っているのだから!」

 激昂するドーマにアルバが言い放つ。だがフューチャーの攻撃をかわすことはタイタンには造作もないこと。ドーマはそう確信していた。

「平和を崩すあなたを、僕は認めない!」

 そこへ声がかかり、ドーマが眼を見開く。直後、タイタンの胴体を一条の刃が貫いた。

 ソワレの駆るゼロが、タイタンにトラスカリバーを突き刺していた。

「ソワレ、貴様!?

 ドーマがソワレに向けて怒りをあらわにしたときだった。

 飛び込んできたフューチャーが、タイタンにエクスカリバーを突き刺してきた。さらに剣で貫かれ、タイタンが火花を散らす。

「バカな・・・!?

 自分に起こったことに愕然となるドーマ。彼の視界が徐々に白んでいく。

「議長・・・」

 ボルドへの忠義を貫くドーマの姿が光の中に消えていく。ゼロとフューチャーの攻撃で、タイタンが爆発を引き起こした。

 

 

次回予告

 

未来の先に待つものとは何か?

苦境に立たされた少年少女は今、それぞれの道を進んでいく。

失われし過去と、見出した未来。

彼らの心に、最果てはない・・・

 

最終回・「2人の道」

 

 

作品集

 

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