GUNDAM WAR –Lost Memories-
FINAL PHASE「2人の道」
フューチャーとゼロの特攻により、タイタンが撃墜された。火花を散らしたタイタンが、戦火の舞う宇宙で爆発を起こした。
満身創痍のフューチャー。だが動くだけならば可能だった。
(リリィを探さなければ・・マリアと一緒に落ちたから、とても安心ができない・・・)
「リリィ!聞こえるか、リリィ!?」
アルバがリリィに向けて呼びかける。だが彼女はソリッドにいない。
(プラネットGのどこかにいるはずだ・・無事でいてくれ・・・!)
思い立ったアルバが、リリィの捜索を行おうとする。だがフューチャーの前に、ソワレの駆るゼロが立ちはだかった。ゼロもフューチャーと同じく破損が著しかった。
「ソワレ・・お前・・・」
「勘違いしないで・・僕は平和を脅かす敵を倒しただけ・・たとえ軍の命令に背いてもやらなければならないと思っていたし、君が敵であることに変わりはない・・」
戸惑いを浮かべるアルバに、ソワレが淡々と告げる。
「だがお互い、相手を討てる状態ではない・・他の部隊が救援に来ないうちに、早くここから離れたほうがいい・・」
「ソワレ・・・すまない・・・」
アルバはソワレに言いかけると、フューチャーがプラネットGに降下していった。
「フューチャーが降下しました。こちらは損傷が激しく、追撃不可。救援を求む。」
“分かった。ソワレ、お前はクレストに戻って来い。マリアの捜索に出る。”
ソワレの呼びかけに、クレストのガルが答えてきた。ソワレが頷き、ゼロがクレストに向かっていった。
リリィを追い求めてプラネットGの市街に降下したアルバ。市街は混乱に陥っており、フューチャーを迎え撃つ動きすら見られなかった。
(リリィ、どこにいる・・姿を見せてくれ・・・)
リリィの生存を願って、アルバはさらに捜索を続ける。
「アルバ!」
そこへリリィの呼び声がかかり、アルバが周囲を見回す。そしてフューチャーのカメラが、倒れたボルドの前に立つリリィとマリアの姿を捉えた。
「リリィ!・・マリア・・・」
当惑を覚えるアルバ。フューチャーがゆっくりとリリィたちの前に下りる。
「リリィ、大丈夫か!?」
「アルバ・・よかった・・アルバも無事だったのね・・・」
アルバが呼びかけると、リリィが笑顔を見せてきた。そのとき、アルバはボルドの姿を目の当たりにした。
「ボルド・・・」
「私が手にかけた・・・タイタンの暴走を止めようとして・・・」
困惑するアルバと、沈痛の面持ちを浮かべて言いかけるリリィ。するとマリアがリリィに向けて銃を向けてきた。
「早くここから去りなさい。でなければ、私がこの場で処罰する・・」
マリアが鋭く言い放つ。その言葉を受けて、アルバとリリィが小さく頷いた。
「マリア・・・ありがとう・・・」
リリィはマリアに言いかけると、アルバの駆るフューチャーの手に乗った。
「フューチャーだ!」
「逃がすな!撃て!」
そこへ兵士たちが駆けつけ、フューチャーに向けて発砲する。しかしリリィには命中せず、フューチャーには通用しなかった。
「リリィ、しっかり捕まっていろ!」
アルバはリリィに呼びかけると、フューチャーが上昇する。
「くそっ!逃したか・・・!」
「ぎ、議長が!?・・なんてことだ・・・」
アルバとリリィの逃亡に毒づき、さらにボルドの死に絶望感を覚える兵士たち。マリアも困惑の色を隠せないままでいた。
「今、クレストが着陸態勢に入ります。スカイローズ中尉は合流してください。」
「ですが、それでは議長が・・」
声をかけてきた兵士に、マリアが戸惑いを見せる。
「ここは我々にお任せください。中尉、急いでください。」
「・・・分かりました・・後は任せます。」
マリアは兵士に敬礼を送ると、クレストに向かって駆け出していった。
フューチャーのコックピットに乗り込んだリリィは、アルバを抱きしめた。
「アルバ・・よかった・・・」
「オレが無事でよかったという感じだな。」
安堵を浮かべたリリィに、アルバが軽口を叩く。
「もう、アルバったら・・」
リリィが肩を落としてため息をつくが、すぐに笑顔を取り戻す。
「ボルドは、死んだのか・・・?」
「うん・・タイタンの暴走を止めようとしなかった・・だから私がこの手で・・・」
「そうか・・タイタンもオレが討った・・・」
互いに沈痛の面持ちを浮かべるリリィとアルバ。
「ここから離れるぞ、リリィ。しっかり捕まっていろ。」
「うん・・」
アルバの言葉にリリィが頷く。フューチャーがスピードを上げて、戦場から離脱する。
「ソワレさんは、大丈夫なの・・?」
「アイツがどの道を進んでいくかは、オレが口を出すことではない。だがオレにはアイツが、アイツなりの答えを出したように感じられた・・」
リリィが問いかけると、アルバが真剣な面持ちで答える。その言葉を聞いて、リリィが頷く。
「オレもそれでいいと思う。たとえこの先また、オレと戦うことになるとしても・・・」
「アルバ・・・なら私も戦い続ける。この世界に平和が戻ってほしいという願いは、私の中にもあるから・・」
自分の考えを告げるアルバとリリィ。世界にあるべき未来を見据えて、2人は宇宙を駆け抜けていった。
リード本部に着陸したクリストに、マリアが帰還してきた。
「マリア・・無事だったか・・・」
彼女の帰還をガルが真っ先に出迎えた。
「艦長、すみません・・ルナを失いました。そして、議長までもが・・・」
「そのことは私たちも聞いている・・大変だったな・・」
沈痛の面持ちを見せるマリアに、ガルが弁解を入れる。そこへ傷の手当がままならないまま、ソワレが姿を見せてきた。
「マリアさん・・大丈夫でしたか・・・?」
「ソワレくんも無事だったのね・・・」
マリアが駆け込み、ソワレとの抱擁を果たす。
「マリアさん、すみません・・アルバを止めることができませんでした・・・」
「もういいのよ・・私たちは、少し道を誤っただけだから・・」
謝意を見せるソワレに、マリアが弁解を入れる。そこへガルが2人の肩に手を乗せてきた。
「今日はもう休め。これから悩まされることがたくさんやることになるぞ。」
「艦長・・・了解しました・・休養に入らせていただきます・・」
ガルの言葉にソワレが答える。ソワレとマリアはクレストを後にして、リード本部の医務室に向かった。
「ごめんなさい、ソワレ・・議長を守れなかった・・」
「僕こそ、ドーマさんを止めるために・・・」
マリアとソワレが周囲に聞こえないほどの小声で語りかける。
「あなたは平和のために戦った・・あなたが今まで貫いてきた信念にウソはないはずよ・・」
「マリア・・ありがとう・・本当にありがとうございます・・・」
マリアに励まされて、ソワレが感謝の言葉をかける。
「今は休養を取りましょう。そしてそれを終えれば、私たちに課せられる任務は山のようにあるわ・・」
「分かっている・・行こう・・」
マリアとソワレは笑顔を胸に秘めて、医務室へと向かっていった。
こうして、プラネットGにて起きた反乱は終幕した。ボルドとドーマが死亡し、オメガの政権と状勢は再び混乱に陥っていた。
ソワレとマリアには作戦無視による謹慎処分が下された。しかしそれは、2人に休息を与えたいと思ったガルのささやかな気遣いだった。
今、ソワレとマリアはスカイローズ家が所有する別荘のひとつにいた。
「ふぅ・・ここから出られないのは、不憫だね、マリア・・」
「何を言っているんですか。こうして平和に過ごせるだけでも、ありがたいと思わなければいけません!」
ソワレの言葉に不満を口にしたのはマリアではなかった。スカイローズ家のメイド、アテナだった。
「アテナさんには、時々私も頭が上がらなくなることがあったわ。観念することね、ソワレ。」
「マリアお嬢様、人聞きの悪い言い方はやめてください!」
口を挟んできたマリアに、アテナが再び不満の声を上げた。
「でもアテナさんが来てくれて助かったわ。私たちだけだと、なかなか休養に時間を費やせなかった・・」
「これも全てマリアお嬢様のためです。そしてお嬢様の想い人であるソワレ様のためにも。」
マリアが切実に感謝をかけると、アテナも微笑んで答える。その言葉を聞いてソワレとマリアが赤面する。
「ア、アテナさん、何を言い出すんですか!?」
「そうよ、アテナさん!私とソワレはそんなんじゃないから!」
「そんなに照れなくても分かっていますよ。」
弁解を入れるソワレとマリアだが、アテナは微笑むばかりだった。しかしこうした屈託のない会話や日常が、ソワレとマリアには心地よく思えた。
「世界は未だに混乱が治まっていません。それに乗じて、オメガやリードへのクーデターを画策する動きまで出てきています。」
アテナが口にした言葉に、ソワレとマリアも深刻な面持ちを浮かべる。
「世界から混乱をなくすためには、誰かが世界をひとつに束ねるのが1番なのでしょうね・・現にボルド議長の政策で、世界は一時的とはいえひとつにまとまったのですから・・」
「ですが、その統率者が過ちを犯せば、世界を一気に崩壊へと追い込むことになるにも事実です・・ドーマ少佐の暴走と議長の加担が、それを物語っています・・・」
アテナの言葉にソワレが話を続ける。マリアも小さく頷いていた。
「今はまだ目立った動きは見られないけど、時期に大きな動きが出てくる・・そのときまで、私たちは心身ともに休めておかないと・・」
「どちらにしても、大事になれば艦長の召集がかかることになるわ。私たちをここで一息入れさせてくれたのも、艦長のお膳立てがあったからこそ・・」
ソワレとマリアが言いかけると、部屋の窓から外を眺めた。平穏に見える草原と空だが、その先や裏では依然として混乱が続いている。だがいずれその混乱の連鎖を断ち切らなければならない。その引き金を引くのは自分たちしかないと、2人は肝に銘じていた。
「ところで、アルバとリリィさんは、今頃どうしているのだろうか・・・?」
ソワレが唐突に口にした言葉に、マリアも緊張を和らげて微笑んだ。
「大きな動きはつかめていないみたいだし、無事だと思うわ・・敵として、喜んでいいものかとも思うけど・・」
「近いうちにまた、2人と会うことに、戦うことになるかもしれない・・いや、必ず戦うことになる・・・」
マリアの言葉を受けて、ソワレが決意を秘めて、拳を強く握り締める。
「そのときまで、謹慎中のお二方はここで大人しくしていてくださいね。」
そこへアテナが声をかけ、2人に微笑みかけてきた。その笑顔を見て、ソワレとマリアも笑みを取り戻した。
(マリア、いつかお前と決着を着けるときが訪れる。そのときは覚悟してもらう・・・)
アルバとの邂逅を見据えて、ソワレは今を全力で生き抜くことを誓った。
ソワレ・ホークスの、平和への戦いは、まだ幕を閉じてはいなかった。
プラネットGでの壮絶な戦いを終え、宇宙へと飛び去っていったアルバとリリィ。2人もまた地球にて束の間の休息を取っていた。
人気のない草原の中に佇む1件の家に、アルバとソワレは住んでいた。
その家の近くに小さな墓標が築かれていた。カーラ、ハル、キーオ、レミー。アルテミスの仲間たちを弔ったものである。
その墓標の前で、リリィは立ち尽くしていた。彼女は仲間たちと過ごした日々を思い返し、涙していた。
「やはりここにいたのか・・」
そこへアルバが現れ、リリィに声をかける。しかしリリィは振り返らず、墓標を見つめたままだった。
「オレも辛い・・だが、いつまでも悲しむことを、カーラたちは望んではいない・・」
「分かっている・・それでも、こうして悲しむ時間はほしい・・みんなのことを、忘れないためにも・・・」
「忘れないためか・・確かに、忘れてはいけないものが、この世界には多く存在している・・」
リリィの言葉を受けて、アルバも深刻な面持ちを浮かべる。
「オレは記憶を失い、記憶を取り戻すために戦い続けてきた。そして記憶を取り戻した後は、自分の罪の償いと、その果てにある答えを見出すために戦っている・・」
「それでアルバ、その答えを見つけられたと思っている・・・?」
リリィが問いかけると、アルバは無言で首を横に振った。
「いつになるのか分からない・・もしかしたら、どこまでいっても見つけられるものではないのかもしれない・・」
「それでも答えを見つけるために奮闘する・・それがあなたと未来であり、私の未来でもある・・」
自分の心境を告げるアルバに、リリィは微笑みかけてきた。
「私はあなたとともに、この未来を生きていく・・それが、私たちの在るべき未来だと信じて・・」
「リリィ・・・すまない・・オレのためにそこまで・・・」
「あなたの歯止めを務められるのは私しかいないからね・・」
苦笑を浮かべるリリィに、アルバも肩を落とす。2人は真剣な面持ちに戻り、空を見上げる。
「まだ世界は混乱に満ちている・・いつかオレたちも巻き込まれることになるだろう・・」
「そのとき、私たちの心が試されるのね・・・」
リリィの呟いた言葉に、アルバが小さく頷く。
「そのときこそ、あの力を再び使うことになるだろうな・・」
「そうね・・私たち、戦いからは逃れられない宿命なのかな・・」
「そうだとしても、オレたちはオレたちの未来を目指していくだけだ・・その先にオレたちの求める答えがあるから・・」
言葉を交わすアルバとリリィが頷くと、墓標から離れる。その途中、リリィは足を止めて墓標に振り向く。
(艦長、みんな・・今まで、本当にありがとうございました・・・)
仲間たちへの感謝を胸に秘めて、リリィは改めて歩き出した。
家の中へと入り、地下への階段を下りていくアルバとリリィ。その先には小さな格納庫があった。
そこに収容されていたのはフューチャーだった。ゼロやタイタンとの激闘で激しい損傷を被っていたが、技術に磨きをかけたアルバのリリィによって修復されていた。
「フューチャーはオレの力だけじゃない。オレとリリィの力。そしてカーラやデイジー、オレたちを支えてきてくれたたくさんの人たちの魂が込められている・・」
「アルバだけの力じゃない・・もう私の力にもなっている・・・アルバと私、たくさんの人たちの力・・・」
フューチャーを見上げるアルバとリリィが、手を握って力を込める。強く握られる手は、2人の決意の表れだった。
「行こう、リリィ・・オレとお前の、未来に向かって・・・」
「私たちの、あるべき未来に向かって・・・」
声を掛け合うアルバとリリィが、フューチャーに向かって歩き出す。
あるべき未来を切り開くために、フューチャーは宇宙(そら)を飛翔していくのだった。
旧人類とオメガの戦争による混迷から、未だに抜け出せていない世界。
その世界の未来と平和を切り開くため、アルバとソワレ、2人の青年が力を振るう。
彼らの戦いと未来は、まだ終わりを迎えていない・・・
彼らの意思は、決して途切れることはない・・・