GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-48「2つの希望」

 

 

 タイタンを食い止めるには、行く手を阻むソワレを倒すしかない。思い立ったアルバは、ゼロを駆るソワレとの対決に専念した。

 だがアルバの乗るフューチャーに矛先を向けていたのはゼロだけではない。クレストもフューチャーに隙を作ろうと、攻撃を狙ってきていた。

(やはり問題視するのはゼロか・・クレストは速射の武装はそれほど威力はない。陽電子砲はためがいるから回避は十分できる。体勢を崩されることがなければ、手痛いことにならずに済むはずだ・・)

 ゼロとクレストを相手にするにあたり、アルバは思考を巡らせていた。彼はあくまで、ゼロに細心の注意を払うことを視野に入れていた。

(このまま時間稼ぎをすれば、少佐が戻ってきて戦況を有利にすることができる。でもここは一気に攻め立てるべきだ。)

 ソワレも同様に、アルバに対して思考を巡らせていた。

(アルバをここまで入り込ませてしまったのは、僕の責任だ。自分でまいた種は、自分自身のこの手で刈り取る・・・!)

 意を決したソワレ。ゼロがフューチャーへの攻撃のため、徐々に距離を縮めていく。

「オレとお前は、戦うことが運命付けられているのだろうか・・・」

「そうかもしれない・・だが僕も君も、自分の意思に基づいて行動している・・・」

「オレがお前を間違っていると思っているように、お前もオレが間違っていると思っている・・」

「世界は平穏であるべきなんだ・・その平穏、平和を壊す敵と、僕は戦っている・・・!」

 互いに自分の意思を口にするアルバとソワレ。フューチャーのエクスカリバーとゼロのトラスカリバーが激しく衝突する。

「ソワレを援護する!チャンスは全て千載一遇であるものと思え!」

「はいっ!」

 ガルの呼びかけにオペレーターが答える。クレストもフューチャーへの攻撃を行おうとしていた。

 

 同じ頃、リリィのソリッドとマリアのルナも激闘を繰り広げていた。ルナのレールガンから放たれる砲撃を、ソリッドが機動力で回避していく。

「やめて、マリアさん!こんな戦いを続けることに、意味なんてないよ!」

「意味ならある!世界の平和を取り戻すために戦う!それはソワレも同じ!」

「それは本当の平和じゃない!ボルドに仕組まれた、偽物の平和よ!」

 互いに言葉をぶつけ合うリリィとマリア。ソリッドが振りかざしたビームサーベルと、ルナが飛翔して回避する。

「ボルド・タイタンはオメガの自分たちへの信頼を利用して、自分だけの理想郷を築こうとしている!彼を野放しにすれば、世界がムチャクチャになる!」

「その破壊をもたらそうとしたのは旧人類、地球連合のほうよ!その暴挙が終わったのに、あなたたちがこの世界を、再び混乱をもたらそうとしている!」

「暴挙を起こしているのはボルドも同じ!私たちは未来のために戦っている!」

「独りよがりの正義では、未来は開かれない!」

「私は1人じゃない!アルバがいる!艦長やみんなの想いが、私たちの中にある!」

 自分の考えを言い放つリリィとマリア。ソリッドが特攻に備えて、ルナに向けてビームライフルでの射撃でけん制する。

「遠距離攻撃で、ルナに敵うはずがない!」

 マリアの駆るルナがソリッドに向けて射撃を繰り出す。この連射をソリッドがかわしていく。

 だが回避から反撃に転じたとき、ソリッドの構えたビームライフルがルナの射撃に撃ち抜かれた。ソリッドがとっさに手放したビームライフルが爆発する。

「くっ!」

 攻撃の手をひとつ失い、リリィが毒づく。それでもソリッドは加速し、射撃をかいくぐってルナに接近する。

 ソリッドが引き抜いたビームサーベルが、ルナのレールガンのひとつを切り裂いた。

「そんな!」

 声を荒げるマリア。ルナが残りのレールガンでソリッドをけん制し、距離を取る。

「手数はまだこっちのほうが上よ!」

 マリアが言い放ち、ソリッドにさらに射撃する。

「手数の多さで力の差が決まるわけじゃない!」

 リリィが負けじといきり立ち、ソリッドが飛びかかる。だがルナは近づけさせないと、連射を繰り出す。

(負けられない・・ここで命を落としたら、アルバを再び不幸にしてしまう・・・)

 リリィの心にアルバの姿が蘇る。

(私は誓った・・アルバと一緒に生きるって・・・だから・・・!)

「だから、私は!」

 リリィが決意を秘めて、ソリッドが一気に加速する。ルナの砲撃がソリッドに命中し、破損箇所を増やしていく。

 それでもソリッドは構わずに前進する。そして距離をつけたところで、ソリッドがルナに向けてビームサーベルを突き立てる。

 光刃はルナの右肩を貫いていた。その方が爆発を起こし、ルナとソリッドが吹き飛ばされる。

「くあっ!」

「うわっ!」

 悲鳴を上げるマリアとリリィ。機動力をそがれたルナとソリッドが落下し、プラネットG内の山岳に落ちた。

「くっ!・・エンジンの出力が上がらない・・こんなことって・・・!」

 ルナを動かそうとするマリアだが、ルナはエンジンが停止してしまっていた。

 だが損傷が激しかったのはソリッドも同じだった。ルナに決定打を与えるために、ルナの砲撃を受けすぎてしまった。

「何とかまだ生きてるみたいだけど、これ以上は戦えないわね・・」

 一息つくリリィが、戦闘の続行不可を痛感する。

(アルバ、あとはあなたに任せるしかないみたいね・・私はこの後も無事に生き抜いてみせるから・・)

 アルバへの信頼を胸に秘めるリリィ。彼女はソリッドのコックピットのハッチを開いて、外に出る。

 同じくマリアもルナから出てきていた。リリィに気付いたルナが、彼女に銃を向けてきた。

「止まりなさい、リリィ・クラウディ!あなたをこの場で拘束します!」

 マリアに呼びかけられて、リリィも振り向き様に銃を構える。

「抵抗するなら、射殺も厭いません!」

「同じ言葉を返すわ。生き抜くためなら、私はあなたを殺す覚悟も持つわよ。」

 呼びかけるマリアに対し、リリィも落ち着きを保って言い返す。

「ここで私を殺しても、ソリッドを動かせないあなたに、追跡部隊をかいくぐる術はない。拘束か断罪か、あなたに残されているのはこの2つだけよ。」

「私は絶対に死なない。アルバも生きて戻ってくるのだから、私が死ぬわけにいかない・・・!」

 あくまで自分の意思を貫こうとするマリアとリリィ。2人は拮抗したまま、上空で繰り広げられているアルバとソワレの戦いに眼を向けていた。

 

 クレストの援護射撃をかいくぐりながら、ソワレとの交戦を続けるアルバ。不利に思われる戦況の中、フューチャーはゼロと互角の戦いを繰り広げていた。

「アルバ、平和に逆らうのはもうやめるんだ!」

 ソワレがアルバに向けて呼びかける。

「世界を脅かす地球連合は機能を停止した!取り戻された平和を、お前は壊そうというのか!?

「ボルドがもたらそうとしているのは平和ではない!自分を中心とした世界の構築だ!」

 ソワレの言葉にアルバが言い返す。

「このままヤツを野放しにすれば、お前が追い求めてきた平和は崩壊する!ヤツがオレを殺そうとするために、プラネットGにいる人間に危害が及ぶことも気に留めなかった!」

「それはお前が来たからだ!君が攻撃を仕掛けてきたから、また人が傷つくことになったんだ!」

 アルバの言葉をソワレは聞き入れようとしない。

「僕はお前を止める!本当の平和を取り戻すため、僕がこの手でお前を倒す!」

 ソワレが言い放ち、ゼロがトラスカリバーを構えて、アルバの乗るフューチャーに突っ込んできた。フューチャーがエクスカリバーでその突きを受け流しながら、ゼロに斬りかかろうとする。

 ゼロがとっさにエクスカリバーに乗りかかり、フューチャーの一閃を払いのける。その反動でゼロは縦回転をして、そのままフューチャーとの距離を取る。

 フューチャーがすかさずゼロに背後から追撃を仕掛けようとした。だがクレストがビーム砲、マーズを放ち、フューチャーの行く手を阻んだ。

(くっ!・・攻撃のチャンスにいつも攻撃で妨害を入れてくる・・クレストがうまくソワレをサポートしている・・!)

 的確なゼロとクレストの動きに、アルバは毒づく。彼は予想以上に劣勢を痛感していた。

(どうやらオレも、オレの全てを賭けないといけないようだ・・・)

 気持ちの整理をつけたアルバが思考を巡らせる。

(デイジー、お前もそう思うだろう・・・?)

 アルバの脳裏にデイジーの姿が蘇る。彼女は笑顔を見せて、アルバの決意を受け止めていた。

「もうオレは迷わない!自分の未来を切り開くため、立ちはだかるものをオレは退ける!」

「あくまで破滅をもたらしたいというのか・・お前は!」

 アルバの決意にソワレが激昂する。フューチャーとゼロの激突は、さらに激しさを増していた。

「ソワレ、我々がけん制する!その隙を突け!」

 ガルが呼びかけるがソワレは答えない。完全にアルバとの戦いに気が向いていた。

「サンブレイカー用意。目標、フューチャー。」

「しかし、ゼロも巻き添えになってしまいますよ!」

「ソワレなら大丈夫だ!こちらの攻撃の反応をつかんでくれる!」

 ガルが声を荒げるオペレーターに呼びかける。クレストが陽電子砲の発射体勢に入る。

(陽電子砲!?ここまで仕掛けてくるか!)

 だが先に攻撃に気付いたのはアルバだった。

(ここは砲撃の飛んでくるラインから脱出しないと・・!)

 回避行動を取ろうとするアルバだが、ソワレの乗るゼロがそれを阻む。

「お前はここで確実に倒す!」

「くそっ!」

 叫ぶソワレにアルバが毒づく。エクスカリバーとトラスカリバーが衝突し、激しく火花を散らす。

(早くしないと、クレストの砲撃を受けることに・・!)

 次第に焦りを痛感していくアルバ。2つの刃が、フューチャーとゼロの体をかすめていく。

「サンブレイカー、チャージ完了です!」

「よし!ってぇ!」

 オペレーターの声を聞いて、ガルが呼びかける。クレストがフューチャーに向けてサンブレイカーを放射する。

「くそっ!こうなれば!」

 いきり立ったアルバ。フューチャーがゼロを足で突き飛ばすと、向かってくる閃光に向けて、エクスカリバーを振り下ろす。

 高出力の閃光が、フューチャーの一閃によって真っ二つに両断される。

「な、何てヤツだ!?

「サンブレイカーを真っ二つにするなんて・・・!?

 フューチャーの脅威を感じて、オペレーターが声を荒げる。

「ゼロもアルテミスの砲撃を切り裂いている。フューチャーができないことはないんだ・・」

 その中でガルは冷静だった。彼は最新型の機体の力を十二分に痛感していた。

「だが相手もかなり消耗しているはずだ。このまま押し切るぞ!」

「了解!」

 ガルの命令を受けて、クルーたちが答える。フューチャーはさらに追い込まれつつあった。

(もう少しだ・・もう少しで僕たちの、平和への戦いに幕が下りるんだ・・・)

 ソワレの中に勝機が膨らんできていた。だがそれは慢心ではなく、願いと誓いの強調だった。

(僕が下ろす・・この戦いの幕を!)

 ゼロがトラスカリバーを構えて、フューチャーに向かって加速する。

(そして僕とマリアは、平穏の時間を過ごす!)

 想いを膨らませるソワレが、フューチャーを、アルバを見据える。アルバもソワレに向けて意思を固めていた。

「オレはこの手で、未来を切り開く!」

 フューチャーもエクスカリバーを振り上げて、ゼロを迎え撃つ。2つの刃が漆黒の空を切り裂いて互いに迫る。

 エクスカリバーがゼロの左腕を切り裂き、トラスカリバーがフューチャーの左腕をなぎ払った。

 この瞬間、アルバとソワレの視界が白みだした。2人は自分の五感に違和感を感じていた。研ぎ澄まされたのか麻痺したのかも分からず、昇天してしまったのではないかという疑問を感じずにはいられなかった。

(これは・・・オレはどうなったんだ・・・!?

(もしかして僕、死んでしまったのか・・・!?

 自分の身に何が起こったのか分からず、アルバもソワレも呆然となっていた。

 そのとき、2人の耳に声が響いてきた。リリィ、マリア、ガル、ありとあらゆる人間の声が、2人の脳裏を乱れ飛んでいた。

(この声・・みんなの声だ・・・)

(だけど、どうしてみんなの声がこんなに・・・!?

(だが、これで確信した・・・)

(僕はまだ死んでいない・・感覚が、超人的に飛躍している・・その気分が、こんな感じを引き起こしているんだ・・)

(だからオレはまた潰えていない・・・!)

(僕はまだ生きている・・戦いは、まだ終わってはいない!)

 アルバとソワレの意識が、現実へと引き戻されていった。

 

 意識を取り戻したアルバとソワレ。損傷したフューチャーとゼロが、すかさず大剣を振りかざす。

 その刃が衝突し、フューチャーとゼロがその反動で弾き飛ばされる。2機は対峙したまま、互いを見据えていた。

(まだ終わっていない・・このまま終われない・・・!)

(眼の前の相手を完全に叩き伏せなければ、終止符が打たれることはない・・・!)

 未だに諦めようとしないアルバとソワレ。満身創痍であるにもかかわらず、フューチャーとゼロがさらに飛び掛ろうとする。

 そのとき、一条の閃光が2機の間に割って入ってきた。突然のことに2機がとっさに止まる。

「何だ!?

「これはタイタン・・・ドーマか!」

 声を上げるソワレとアルバ。閃光を放ってきたのは、再び出撃してきたタイタンだった。

「ディアス、お前だけは絶対に許さん!ここで私が息の根を止めてやる!」

 ドーマが怒りをあらわにして、アルバに言い放つ。

「ソワレ、ここは私がやる!手出しは無用!」

「しかし少佐、タイタンだけでフューチャーを倒そうとするのは・・!」

「議長に汚名をそそぐ愚行を働いたのだ!ここで始末しなければ、私の未来が危ういのだ!」

 ソワレの声を一蹴して、ドーマが叫ぶ。

「邪魔をするならば、たとえお前たちとて容赦はしないぞ!」

 ドーマはそう言い放つと、タイタンがフューチャーに向けて砲撃を行う。フューチャーは加速して、その光線をかわす。

「どうした!?前と比べて動きが鈍いぞ!」

 ドーマがフューチャーを見据えて、哄笑を上げる。フューチャーはゼロとの戦闘で機動力が低下しつつあった。

「少佐、待ってください!最後まで自分にやらせてください!」

「邪魔をするなと言ったはずだ!そんなに死に急ぎたいのか!?

 さらにソワレが呼びかけるが、ドーマは聞き入れない。

「議長に刃向かう異端分子は根絶やしにしなければならない!たとえ家族や仲間であろうと!」

 ドーマがアルバに向けての叫び。この言葉が、ソワレは何かが壊れたような感覚を覚えた。

 タイタンがフューチャーに向けてビーム砲を連射する。その砲撃の余波が、プラネットGへと着弾して被害を拡大させていく。

 オメガにとっておこがましい行為に他ならない。だがアルバ打倒に燃えるドーマはそれを気に留めず、ひたすら狂気に満ちた哄笑を上げていた。

 

 

次回予告

 

もはや破壊神以外の何者でもなかった。

敵を倒すことに執念を燃やすドーマに、アルバが決死攻を仕掛ける。

世界の平和。世界の未来。

それらが導くものの果てにあるのは?

 

次回・「終わりなき旅路」

 

 

作品集

 

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