GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-47「オメガ」
自分がオメガであることをボルドから知らされたリリィ。その事実を受け入れられず、彼女は愕然となる。
「何にせよ、お前は家族を殺された怒りで自身を高め、ついにここまでたどり着いた。昇華されたお前を、我らは拒絶することはない。」
ボルドは不敵に言いかけると、リリィに手を差し伸べる。
「我らのところに戻ってくるがいい、リリィ。お前が了承するなら、お前だけでなくディアスの命も保障してやる。そしてお前たちに、求めている未来を与えてやろう。」
ボルドからの誘いに、リリィは困惑する。彼女の脳裏に、アルバの言葉がよぎる。
“ともに生きていこう・・この世界の中で、自分自身の未来を切り開くために、オレたちは戦っていこう・・・”
(そうよ・・もう私の進む道は決まっているじゃない・・ここで迷ってどうするのよ・・・)
アルバの言葉に励まされて、リリィが自信を取り戻す。
(私の未来を決めるのは他の誰でもない。私自身よ・・・!)
「悪いけど、あなたの誘いに付き合うほど平和ボケはしていないのよ・・・!」
リリィがボルドに言い放った直後だった。突如会議室の壁が爆発を引き起こした。
その奥から見えたのはフューチャーだった。アルバがドーマの猛攻をかいくぐり、プラネットGに降下して会議室の前に行きついたのだ。
「フューチャー!?ドーマは何をやっているのだ!?」
驚愕し、すぐに激昂するボルド。ドーマはボルドの身を案じるあまり、アルバへの追撃を仕掛けることができなかった。
「リリィ、乗れ!ここから離れるぞ!」
「アルバ!」
アルバの呼びかけにリリィが答える。彼女はフューチャーが差し伸べた手に乗る。
「あなたは殺さない。これは私の復讐ではないのだから・・」
「おのれ!ディアス!」
リリィが低く告げると、ボルドが怒りを爆発させた。彼の命が途切れていないまま、フューチャーが会議室から飛び立っていった。
「ドーマ、2人を逃がすな!絶対に息の根を止めろ!」
“分かっています!決して逃がしません!”
ボルドの呼びかけにドーマが答える。タイタンがフューチャーを追って、一気に加速する。
「おのれ、ディアス!私と議長の顔に泥を塗りおって!」
ドーマもアルバに対する怒りをあらわにしていた。タイタンがフューチャーに向けてビーム砲を放つ。
「リリィ、しっかり捕まっていろ!」
アルバが呼びかけ、フューチャーも加速する。外れたタイタンの射撃が、プラネットGの市街に命中する。
「自分の星でもお構いなしなの!?」
「怒りのあまりに血迷ったか!」
リリィとアルバが声を荒げる。タイタンの砲撃をかわしながら、フューチャーがソリッドのいる地点にたどり着く。
リリィは急いでフューチャーから降りて、そのままソリッドに乗り込んだ。2機のMSがタイタンへの迎撃に備える。
「タイタンは動きが速い!油断できないぞ!」
「分かってる!」
アルバの声にリリィが答える。フューチャーとソリッドが散開し、タイタンの注意を乱す。
「ソリッドなど取るに足らん!始めに叩くはディアス、お前だ!」
ドーマはリリィに眼もくれず、アルバだけに狙いを定める。
「あくまでオレ狙いか!」
アルバが毒づき、フューチャーがタイタンの追跡をかわす。けん制の後、フューチャーがエクスカリバーを手にしてタイタンに飛びかかる。
その一閃をタイタンは高速でかわす。距離を取るとタイタンがフューチャーと対峙する。
(この位置関係からだと、タイタンは攻撃ができない。攻撃が外れれば、プラネットGにその攻撃が直撃してしまう・・)
リリィが2機を見据えて、状況を分析する。アルバもドーマが迂闊には攻撃を仕掛けてこないと踏んでいた。
だがタイタンにエネルギーが集束されていく。その変化にアルバとリリィが眉をひそめる。
「まさか、あの砲撃をしてくるのか・・・!?」
「そんな!?その先にはプラネットGがあるのに・・!」
驚愕をあらわにするアルバとリリィ。プラネットGに危害が及ぶ危険があるにもかかわらず、タイタンが砲撃を仕掛ける。
「覚悟はいいか!トライデストロイヤー!」
ドーマが叫び、タイタンがビーム砲を発射する。防ぎきれないと判断したアルバが、たまらず回避を取ってしまう。
「くそっ!」
声を荒げるアルバ。タイタンが放ったビーム砲が、プラネットGに直撃した。
「キャアッ!」
「うわあっ!」
人々の絶叫、悲鳴がこだまする。被害は市街にも及び、紅い炎に包まれていた。
「こんなことが・・・何を考えているんだ、ドーマ!?」
「もはや手段など選ばん!お前を仕留めることこそが、私と議長の全て!」
憤るアルバに、ドーマが高らかに言い放つ。タイタンが再びエネルギーチャージを行う。
「そこまで血迷ったのか、お前は!」
それを阻止せんとアルバがいきり立ち、フューチャーが飛びかかる。エクスカリバーによる突きを、タイタンがとっさに回避する。
「お前たちは、命を何だと思っているんだ!?」
「もはや人々は議長の支持者となった!命を投げ出せる覚悟を既に指し示している!」
怒号を放つアルバだが、ドーマはそれをあざ笑う。
「それにお前が我々をとがめることができようか!お前も多くの命を奪った殺戮者であることに変わりはないのだぞ!」
ドーマが言い放った言葉に、アルバが眼を見開く。彼の脳裏に忌まわしき過去が蘇ってくる。
「多くの人間の全てを奪ってきたお前が、命を語る資格などない!むしろ自分の行為を正義と信じ、誇るべきではないのか!?」
「確かにオレは多くの命を奪った罪人だ。償おうとしても償えるものではないと覚悟している。だがそんなオレでも、多くの未来を切り開くことはできる!リリィとともに未来を歩むことはできる!」
「きれいごとをほざくな!自分が善人であるかのように語りおって!」
アルバの言葉にドーマが反論し、タイタンがフューチャーに砲撃を続ける。
「お前にできることなどない!お前は旧人類に牙を向き、オメガをも裏切った!全てを敵に回したお前は、不様に朽ち果てる以外に未来はない!」
「たとえ全ての敵となったオレでも、未来を生きる理由がある!」
高らかに言い放つドーマに言い返し、アルバがリリィに眼を向ける。
「オレはそいつとともに生きていくことを誓い合った!その誓いを無碍にして、朽ち果てるわけにはいかない!」
「ほざくな!お前がもたらすのは不幸!ディアスとして生きてきた頃も、アルバとして生きてきた頃も、それは一切変わらなかった!お前たちの仲間は、お前が不幸をもたらしたことで死に喫したのだ!」
「違う!カーラたちを死に追いやったのは、他ならぬお前の暴力だ!」
ドーマの言葉を否定するアルバ。フューチャーの一閃が、タイタンの左の二の腕をかすめた。
「オレはお前のその暴力を止めるために戦う!オレ自身の未来を賭けて!」
「お前に未来などない!何度も言わせるな!」
「何度でも言う!オレは未来を生きる!生き抜いてみせる!」
互いに言い放つドーマとアルバ。タイタンが距離を取り、エネルギーを集束させる。
「もはや言葉は意味を成さない!この一撃で、お前に引導を渡してくれるぞ!」
「あのビーム砲を撃つ気か!また関係のない命を消すつもりなのか!?」
「オメガはもはや議長の支持者!議長をとがめることなど絶対にありえない!」
眼を見開くアルバに、ドーマが高らかに言い放つ。
「やらせない!これ以上、命をお前たちの思い通りにさせられない!」
「もはやお前に何ができるというのだ!?世界の敵となったお前たちに!」
トライデストロイヤーを放とうとするタイタンに、フューチャーが阻止せんと飛びかかる。
「ムダだ!たとえフューチャーのエクスカリバーであろうと、トライデストロイヤーの破壊力をとめることはできない!」
高らかに言い放つドーマ。トライデストロイヤーが放たれれば、たとえエクスカリバーでの一閃でも防ぎきることはできない。
「終わりだ、アルバ・メモリア!お前の未来を私が絶つ!」
歓喜をあらわにするドーマ。
そのとき、一条の刃がタイタンに叩き込まれた。その刃で、タイタンのエネルギー供給が混乱を来たした。
「何っ!?」
驚愕の声を上げるドーマ。アルバも何が起こったのか、一瞬理解できなかった。
「アルバばかりに気を向けていたことが、あなたの敗因よ!」
そこへ声をかけてきたのはリリィだった。ソリッドが突き出したビームサーベルが、タイタンに突き刺さっていたのだ。
「バカな!?お前の、ソリッドの攻撃でタイタンが脅かされるなど!?」
「どんな城砦も、小さな穴から崩壊することもあるのよ!」
声を荒げるドーマに、リリィが言い放つ。ソリッドがビームサーベルを引き抜き、タイタンから離れる。
この攻撃でタイタンが集束させていたエネルギーが霧散し、トライデストロイヤーが不発に終わった。
「おのれ!裏切り者のオメガの分際で!」
「旧人類もオメガも関係ない!私は1人の人間!リリィ・クラウディよ!」
激昂するドーマに、リリィが真剣な面持ちで言いかける。
“ドーマ・フリークス少佐!1度撤退してください!”
そのとき、ドーマに向けての通信が飛び込んできた。それは地球にいるはずのソワレの声だった。
「ソワレ!?どういうことだ!?お前たちは地球にいるはずでは・・!?」
驚愕するドーマが視線を巡らせる。その視線の先に、進行してくるゼロとルナがいた。
「ソワレ!?」
「マリアさん!?」
2人に気付いたアルバとリリィも眼を疑う。フューチャー、ソリッド、タイタンの間にゼロとルナが入ってきた。
「フューチャーとソリッドと同様に、自分たちも宇宙に昇ってきました!ここは自分たちに任せて、少佐は体勢を整えてください!」
「ソワレ・・分かった!後は任せたぞ!」
ソワレとマリアに戦闘を任せて、ドーマが撤退していく。
「待て、ドーマ!」
ドーマを追いかけようとしたところで、アルバの前にソワレが立ちはだかる。
「お前の相手は僕だ、アルバ!プラネットGにまで攻め込んでくるなんて!」
「どけ、ソワレ!タイタンを野放しにすれば、世界が崩壊する!それだけは止めなければならないというのに!」
鋭く言いかけるソワレに、アルバが叫ぶ。リリィの前にもマリアが行く手を阻んでいた。
「どいて、マリアさん!このままではプラネットGまで!」
「プラネットGに混乱をもたらしたのはあなたでしょう。そのあなたを止めるのが私の使命・・!」
呼びかけるリリィだが、マリアも自分の意思を貫こうとする。
「世界の平和のため、私はあなたと戦う!」
マリアは言い放つと、ルナがソリッドに向けてレールガンを放つ。ソリッドがとっさに上昇して、その砲撃をかわす。
「プラネットGの被害はタイタンがもたらしたものよ!私たちを落とそうとして、タイタンの攻撃が!」
リリィが言い放ったこの言葉に、マリアが動揺を覚える。しかしドーマがオメガに牙を向くことなど考えられないと思い、彼女はその動揺を払拭する。
「少佐は議長の考えを誰よりも支持している・・オメガを裏切るようなことはしない!」
「マリアさん!」
迷いを振り切ったマリアに、リリィが声を荒げる。ルナがさらにレールガンを発射する。
(このままだとタイタンが・・また被害が大きくなってしまう・・・!)
タイタンの強襲に対して、リリィは焦りを募らせていた。
ゼロとルナの救援を受けて、1度撤退したタイタン。コックピットを開いたドーマは苛立ちを隠せないでいた。
「トライデストロイヤーの修復を急げ!完了次第再度出撃する!」
「はっ!」
ドーマの命令に技術士が答えて行動を起こす。
“ひどくやられたな、ドーマ。お前らしくない。”
そこへボルドからの通信が入り、ドーマが緊迫をあらわにする。
「申し訳ありません、議長・・このような失態・・・」
“すぐに陣形を立て直せ。クレストが来ていることは、私もキャッチしている。”
「了解です。修復完了次第、発進します。」
ボルドの言葉にドーマが答え、通信を終える。彼は背水の陣を痛感していた。
「修復急げ!クレストだけに攻撃を任せるな!」
ゼロとルナから遅れて、クレストもプラネットGに急行していた。
「ソワレとマリアの動きは!?」
「それぞれフューチャー、ソリッドと交戦中です!」
ガルの呼びかけにオペレーターが現状を答える。
「2人の援護を開始する!まずはフューチャーへ向けて攻撃する!」
「了解!」
クレストがゼロと交戦しているフューチャーに攻撃の矛先を向ける。その接近にアルバも気付く。
「ソワレ、援護に回る!うまく隙を突け!」
「艦長!」
ガルの呼びかけにソワレが声を上げる。アルバが危機感を覚え、フューチャーがゼロとの距離を取る。
「クレストまでオレを狙ってくるか!ここはまずクレストから!」
いきり立ったアルバがクレストへの接近を試みる。だがゼロが割って入ってきた。
「お前の相手は僕だ!クレストも落とさせない!」
「やめろ、ソワレ!このままタイタンを野放しにするわけにはいかないんだ!」
互いに言い放つソワレとアルバ。ゼロとフューチャーが振りかざした大剣が、荒々しく衝突する。
「マーズ発射用意!目標、フューチャー!」
そこへガルの指揮の下、クレストがフューチャーに攻撃を仕掛けようとしていた。
「ってぇ!」
「くそっ!」
ガルの号令とアルバの毒づき。クレストのビーム砲を、フューチャーがとっさに後退してかわす。
「このままだと本当に・・・ちょっとやそっとのダメージは、考えている場合じゃない・・・!」
思い立ったアルバが、強引にプラネットGに突っ込もうとする。だがゼロのトラスカリバーに行く手を阻まれる。
「そう簡単に通すと思っているのか!?」
「ソワレ!」
ソワレを退けようと、アルバが力を込める。だがゼロの突きを防ぐあまり、フューチャーが突き飛ばされる。
(やはり、お前と戦う以外に道はないのか・・ソワレ・・・)
アルバはついに迷いを振り切り、ソワレと真っ向から対峙することを決意した。
一時撤退していたタイタンが、ついに破損箇所の修復を完了させた。
「よし!お前たち、すぐに離れろ!」
ドーマは呼びかけると、ハッチの開かれた先の虚空を見上げる。
(ディアス、2度と奇跡は起きないぞ・・今度こそ、今度こそこの手で引導を渡してくれる!)
ドーマのアルバに対する怒りは、今や頂点に達していた。
“ドーマ、頼むぞ。私の導く未来を示すのはお前だ。”
そこへボルドからの通信が入る。
「お任せください、議長。このドーマ・フリークス、勝利を得ずしてここに戻ることはありません・・・!」
“必ずディアスを倒せ。フューチャー諸共葬り去ることも構わん。”
ボルドからの命令を受けて、ドーマが出撃する。発進したタイタンが、再び宇宙を飛翔した。
次回予告
対峙した少年少女。
もはや言葉では戦いは止められないのか?
今を生き抜く力と、未来を切り開く力。
アルバとソワレ、2人の最後の戦い。