GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-45「告白」
クレストが放ったサンブレイカーにより、洞窟が爆発を起こし、カインたち研究員たちのいる施設も壊滅に陥った。
「そんな・・カインさんが・・・!」
眼の前で起こっている出来事に愕然となるリリィ。その地上でも爆発が起こり、それを眼にしたアルバも驚愕を覚えていた。
「バカな!?・・カインたちが・・・!」
アルバも動揺の色を隠せなくなっていた。そこへソワレのかるゼロが攻撃を仕掛けてきた。
アルバは我に返り、フューチャーがエクスカリバーでトラスカリバーを受け止める。だがアルバの動揺が影響し、フューチャーは防戦一方となっていた。
(カイン・・みんな・・・オレのために、お前たちの命まで・・・!)
アルバの心の中に、カインたちの感謝の念が膨らんでいく。
「もう、大切な人を失いたくはない!」
感情を爆発させたアルバが、全身に力を込める。それに呼応したフューチャーが、ゼロに対して反撃に転ずる。
振り下ろされたエクスカリバーを、ゼロがトラスカリバーで受け止める。力押しで来るフューチャーだが、ゼロは踏みとどまる。
そこへフューチャーが一蹴を繰り出してきた。その奇襲を受けてゼロが突き飛ばされる。
「ぐっ!」
その衝撃に煽られて、ソワレがうめく。フューチャーが一気に加速し、クレストに向かって飛びかかる。
「フューチャー、急速接近!」
「何っ!?」
オペレーターの声にガルが声を荒げる。フューチャーが振り下ろしたエクスカリバーが、クレストのサンブレイカーの発射口を切り裂いた。
「ぐっ!」
その衝撃にガルがうめく。だが追撃を避けようと、彼はとっさに指示を出す。
「迎撃しつつ浮上!離脱する!」
「了解!」
ガルの指示にクルーたちが答える。サターンを発射してフューチャーを引き離しつつ、クレストが上昇していく。
「ソワレ、マリア、撤退するぞ!」
ガルのさらなる指示にソワレとマリアが当惑を見せる。だがすぐに気持ちを切り替えて、2人も撤退を行う。
アルバはソワレたちを追おうとはしなかった。彼はリリィへの心配を強めていた。
「リリィ、オレたちも海から上がるぞ・・・」
「うん・・・」
アルバからの呼びかけを受けて、リリィは涙ながらに小さく頷く。フューチャーとソリッドもこの海から上がることにした。
フューチャーの猛襲から辛くも逃れることができたクレスト。カインたち研究員たちを討ったものの、サンブレイカーが破損するなど、無事では済まなかった。
「ひ〜・・危うくまた海の藻屑になるとこだったぜ〜・・」
救助されたコーラサワーが大きく吐息をつく。だがソワレとマリアは楽観していなかった。
「また、アルバを討てなかった・・」
「思いつめるのはよくないわ、ソワレ。ゲリラは撃ち落とせた。クレストが損傷してしまったのに、これ以上戦闘を続けるわけにいかなかった・・」
落ち込むソワレをマリアが励ます。その言葉に勇気付けられて、ソワレは笑みを取り戻す。
「ありがとう、マリア・・今度こそ、今度こそアルバを討ってみせる・・・」
自信を取り戻すソワレに、マリアも安堵を感じていた。
「あの2人、前よりかなり親密になってる・・・」
その2人を見て、コーラサワーが肩を落としていた。
「ご苦労だったな、お前たち。」
そこへガルがギルとともに現れた。ソワレたちが2人に敬礼を送る。
「申し訳ありません、艦長。フューチャーとソリッドを討ち損じました・・」
「いや、気にしなくていい。ゲリラは壊滅した。これでフューチャーとソリッドは完全に後ろ盾を失ったわけだ。」
謝罪するソワレにガルが弁解を入れる。
「それよりも今は、クレストの修復が先だ。お前たちは次の戦闘に備えて休養を取ってくれ。」
「分かりました・・」
ガルの指示にソワレが答える。するとガルが深刻な面持ちを見せる。
「おそらく、次が最後の戦いとなるだろう・・フューチャーとソリッドの・・」
ガルが告げた言葉に、ソワレとマリアが息を呑んだ。ガルもこれまでにないほどの激闘が訪れることを予感していた。
「その戦いのキーパーソンなのだからな、お前たちは。だから今のうちに休息を取っておくのだぞ。」
ギルも言いかけて、ソワレたちはその言葉を受け入れた。クレスト艦内は、まだ騒然さが和らいでいなかった。
海上に出た後、アルバとリリィはカインたちの捜索を行った。だが施設は崩壊しており、煙の悪臭と血なまぐささばかりが漂っていた。
2人はそれでも必死の捜索を続けた。だがカインたちの行方は分からなかった。
「カインさん・・カインさんまで・・・」
悲しみに暮れて、リリィが涙を流す。するとアルバが彼女の肩をつかんで抱き寄せた。
「辛くてたまらないのはお前だけじゃない・・オレも辛い・・そして悔しい・・・」
「アルバ・・・」
「また守れなかった・・大切なものを・・たくさんの命を・・・」
互いの悲しみを共感させるアルバとリリィ。2人は必死に、自分の中に込み上げてくる感情を抑えようとしていた。
「戻ろう、リリィ・・クレストは退けたけど、他のリードがやってくるかもしれない・・・」
「うん・・・行こう、アルバ・・・」
アルバの呼びかけにリリィが頷く。2人はリードの追撃を避けるため、この場を離れた。
その後、クレストからの連絡を受けたリードの捜索隊が訪れたが、既に2人の姿はなかった。
悲劇の日の夜が訪れた。人気のない孤島に、アルバとリリィは身を潜めていた。
カーラたちに続いてカインも命を落とした。2人の心は、完全に絶望に打ちひしがれていた。
「どうしたらいいのか分からなくなりそう・・私の大切な人たちが、私の前からいなくなっていく・・・」
「落ち着け、といっても、オレ自身も落ち着けないのが真実だ・・なぜオレが大切に思った人間が、命を落とさなければならないんだ・・・」
「分かってる・・私たちがオメガを、ボルドを止めなくちゃいけない・・でもこのまま戦っても、敵討ち、復讐でしかない。そう思えて仕方がないよ・・」
「復讐・・そうかもしれない・・・復讐を遂げても満たされないことは分かっている。それでも復讐以外に術が見つからないことが、歯がゆい・・・」
迷いを払拭しようとしてもかき消せないことに、アルバもリリィも心を乱していた。
「強くなるしかない・・力だけじゃなく、心も・・・」
「心・・・そうね・・どんなに力があっても、使い方を間違ったら暴力にしかならない・・」
「次の戦いで、オレたちは試される・・オレたちの本当の強さが・・」
「うん・・ソワレさんとマリアさんと、本気で戦うことになるわね・・・」
アルバに答えるリリィだが、物悲しい笑みを浮かべており、気持ちの整理のめどが立っていなかった。
「辛い・・辛いよ・・・こんなに辛いことなんて、こんなに戦うことがイヤになるなんて、初めて・・・」
再び涙を流すリリィ。失うばかりの現実に、彼女の心はやつれてしまっていた。
そんなリリィを目の当たりにして、アルバの心もまた揺れていた。その心だけは絶対に壊してはならないと、彼は痛感していた。
「守りたい・・お前だけは、絶対に守りたい・・・」
「えっ・・・?」
アルバが口にした言葉が理解できず、リリィが当惑する。
「もうこれ以上、大切な人を失いたくない・・それはオレとお前、共通の願いのはずだ・・・」
「アルバ・・でも私・・・」
「お前だけは絶対に死なせはしない。必ず守ってみせる・・それが、今のオレの気持ちだ・・・」
アルバの心からの言葉に、リリィは戸惑いを覚える。ここまで彼から大切に想われていることに、彼女は心を癒されていった。
「ともに生きていこう・・この世界の中で、自分自身の未来を切り開くために、オレたちは戦っていこう・・・」
「アルバ・・・私も生きていきたい・・この世界の中で・・私たちの未来を・・・!」
「オレとお前の2人で、この世界で・・・」
アルバとリリィはいつしか互いを抱き合っていた。想いに駆り立てられるまま、2人は互いの顔をじっと見つめていた。
そして2人はゆっくりと、自分の唇を重ねた。口付けを交わしたまま横たわり、心の交錯をしていく。
(あたたかい・・アルバのあたたかさ、こんなにあたたかいって始めて知ったような気がする・・・)
アルバのぬくもりを実感して、リリィが安らぎを覚える。
(私はこのまま、アルバに身を委ねてもいいのかもしれない・・アルバなら、本当に未来を切り開けるって思えてきた・・・)
アルバへの信頼を募らせていくリリィ。
(私は戦う・・私の、私たちの未来を開くために・・・)
アルバへの想いを秘めて、リリィは強く生きていくことを誓った。この抱擁のまま、2人は一夜を過ごした。
夜が明け、朝日の光が差し込んできた。その明かりに当てられて、リリィは眼を覚ました。
「朝・・・」
おぼろげな意識を覚醒させて、リリィが起き上がる。そこで彼女はアルバの姿が見えないことに気付いた。
「あれ?アルバ・・・?」
リリィが慌しく周囲を見回す。すると海辺のほうでアルバの姿を目撃する。
「アルバ・・・」
リリィが戸惑いを浮かべながら、アルバに駆け寄る。彼女に気付いて彼も振り向く。
「リリィ、眼が覚めたのか・・」
「うん・・ずっと眠ってしまったみたいね・・」
アルバが声をかけると、リリィは微笑んで答える。
「次の戦いの前に見る朝日としては、今が最後ということになる・・・」
「これから私たちは、プラネットGに向かうんだよね・・・」
言葉を交わす2人が空を見上げる。その空の先の宇宙に、2人の目的地があるのだ。
「時間はあるようで、一刻の猶予もない・・すぐに飛び立とう・・」
「うん・・全ての運命を終わらせよう・・・」
決意を行動に移そうとしていたアルバとリリィ。2人の心から迷いは消えていた。
ソリッドに乗り込んだとき、リリィはこれまでの記憶を思い返した。
(カーラさん、ハル、カインさん・・みんな・・・私、行くよ・・・)
多くの親しき仲間たちの顔が、リリィの心の中に蘇ってくる。
(だから見守っていて・・私とアルバが、これからどんな未来を進んでいくのかを・・・)
「リリィ、発進するぞ。」
「え、あ、うん・・」
考え込んでいたところでアルバに声をかけられ、我に返ったリリィが答える。2人はそれぞれの機体の発進に備える。
「アルバ・メモリア、フューチャー、行くぞ!」
「リリィ・クラウディ、ソリッド、行きます!」
アルバのフューチャー、リリィのソリッドが発進し、空へと駆け上っていった。
発進したフューチャーとソリッドの動きを、クレストのレーダーはキャッチしていた。
「2機の反応を捉えました!」
オペレーターの声を聞いて、ガルが近づいてレーダーを注視する。
「移動していない・・・いや、上昇しているんだ・・」
「宇宙に飛び出そうとしているのでしょうか・・ですが宇宙は逃げ場はたくさんあっても、長く留まることはできません。何を考えているのでしょうか・・・?」
ガルの言葉にオペレーターが疑問を投げかける。ガルが思考を巡らせ、フューチャーとソリッドの動向を推測する。
「もしかしたら、ヤツらはプラネットGに向かっているのでは・・・!?」
「まさか!?それこそありえません!相手からすれば敵の巣窟!そこに真っ向から向かってくるなんて、自殺行為としか考えられません!」
「だが、早期決戦を狙って、プラネットGに攻撃を仕掛けてくる可能性も否定できない。いや、あの状況だからこそ、それは高いと考えるべきだ・・」
ガルが告げた言葉に、クルーたちが息を呑む。プラネットGが標的にされる。想定できないことではなかったが、そう来るとは思っていなかったのが、彼らの気持ちだった。
「では艦長、すぐにフューチャーとソリッドを追わなければ・・!」
「ダメだ。クレストはまだ修復が完了していない。これでは大気圏を抜け出ることもできない。」
声を荒げるオペレーターに、ガルが苦言を呈する。
「ではどうするのですか!?このまま見逃せと!?」
しかしクルーたちは納得できるはずもなかった。
「議長に連絡を入れましょう。」
そこへ声をかけてきたのは、司令室に来たソワレだった。
「ソワレ・・」
「アルバとリリィさんを止められるのは、ドーマ少佐のタイタンだけです。すぐにプラネットGに連絡を。」
戸惑いを見せるガルに、ソワレが真剣な面持ちで言いかける。そこへギルが口を挟んできた。
「だが連絡を取れば、今のこの失態をさらすことになる。議長に顔向けが・・」
「2人をこのままプラネットGに向かわせれば、それこそ大失態。最悪、オメガは壊滅します・・・!」
だがソワレは意見を変えようとしなかった。事の重大さを痛感して、ギルもガルも緊迫を膨らませていた。
「分かった。もはやフューチャーは我々にとって最大の脅威だ。止めることに、手段を選んでいる場合ではない・・」
ガルは言いかけると、プラネットGのリード本部に向けて通信回線を開いた。
「こちらクレスト。リード本部管制室、応答せよ。」
“はい。こちらリード本部管制室。”
「緊急事態発生。フューチャー、ソリッドが地球を離脱。プラネットGに向けて進路を取った模様。警戒されたし。」
“フューチャーとソリッドが!?・・・了解です!直ちに通達します!”
ガルの言葉を受けて、管制室が騒然となった。通信を終えても、ガルの気分が落ち着きを取り戻せないでいた。
「連絡はしたが、我々も何もしないわけにはいかない。クレストの修復を急ぐぞ。」
「了解!」
ガルの指示にクルーたちが答える。最終決戦に向けて、事態は加速していくのだった。
クレストからの通達は、直ちにボルドとドーマの耳にも届いた。
「まさか向こうから攻撃を仕掛けてくるとは。」
「短期決戦を狙っての皮肉の策でしょうが、こちらとしては好都合。出向く手間が省けたというものです。」
少し驚きを見せるボルドとドーマだが、2人とも不敵な笑みを浮かべていた。アルバが向かってくることに喜びを感じていたのだ。
「来るというのならそれでいい。迎撃に出るのみ。」
「ヤツらの望みどおり、タイタンで撃ち抜いてくれましょう。もはやディアスに一切の未来もない。」
「ドーマ、迎撃体勢に入れ。まずフューチャーを、ディアスをまず仕留めろ。ソリッドは多少放置しても支障はないだろう。」
「そうですね。タイタンの機動力、ソリッドをはるかに凌駕しますから。フューチャーのみに注意を向ければ、特に問題はないでしょう。」
自信を込めた笑みを見せるボルドとドーマ。
「ドーマ・フリークス、迎撃準備を開始します。」
ドーマがボルドに敬礼を送ると、アルバを討つべく行動を開始した。
(議長に刃向かう者は、存在さえも否定される。ディアス、私の手で引導を渡してくれる・・・!)
アルバへの憎悪をたぎらせながら、ドーマが歩を進めていくのだった。
次回予告
過去と未来の狭間の中で、答えを見出そうとしている青年。
その瞳が捉えるものは何か?
多くの仲間たちに支えられて、数々の想いを背に受けて。
青年は未来の扉に手を伸ばす。