GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-46「アルバ」

 

 

 プラネットGに向かうべく、アルバのフューチャー、リリィのソリッドが発進した。フューチャーがソリッドを抱えて、大気圏突破のために加速しようとしていた。

「リリィ、大丈夫か?」

「大丈夫。アルバ、加速していいよ。」

 アルバの呼びかけにリリィが答える。彼女は加速と大気圏の重力による衝撃に備える。

「行くぞ、リリィ。一気に加速するぞ!」

「うんっ!」

 アルバがフューチャーを一気に加速させる大気圏の熱と衝撃が、コックピットにいる2人にのしかかる。

(初めてではないけど、この衝撃はいつ感じてもきついわね・・!)

 その衝撃に襲われて、リリィが胸中で呟く。

(でもここを突破しないと、私の第一歩は始まらない・・・耐えるのよ・・このくらいのこと、ずっと耐え抜いてきたじゃない・・・!)

 自分に言い聞かせるリリィ。機体の熱量が上がり、コックピットも紅に染まっていく。

 だが数秒後、フューチャーとソリッドが重力の壁を突き破った。大気圏を突破したのだ。

「地球を出たぞ、リリィ。大丈夫か?」

「うん・・大丈夫。何でもないよ・・・」

 アルバに声をかけられて、リリィが落ち着きを払って答える。2人の眼前に広大な宇宙が広がっていた。

「ただ・・みんなのことを思い返していただけ・・・みんなの支えがあったから、今の私がある・・・」

「そうか・・オレも同じ気持ちだ・・・」

 リリィが呟きかけた言葉に、アルバも微笑んで頷いた。

「ここにいつまでもいると、また引力に捕まってしまう。少し離れよう・・」

「そうね・・行こう、アルバ・・・」

 アルバとリリィがさらに進行していく。2人は休息の取れる場所を求めて、移動を開始した。

 

 フューチャーとソリッドが宇宙に飛び出したことを知ったソワレは、焦りを募らせていた。だがクレストの修復はまだ続いており、彼は追撃に出ることができないでいた。

「議長や少佐にも連絡は行っているはずよ。」

 そこへマリアが声をかけてきた。ソワレは落ち着きを見せて、彼女に答える。

「ここは少佐とタイタンに任せておこう。クレストが修復を完了次第向かうことになるから・・」

「そうだね・・この手で終わらせたかったのですが、これだけが悔やまれる・・」

 マリアの言葉を受けて、ソワレが微笑みかける。

「でも私たちの出番がなくなったわけではない。そのときのために体を休めていくのが、私たちの任務よ。」

「アハハ・・ずい分と退屈な任務ですね・・・」

 注意するように言いかけるマリアに、ソワレが苦笑いをこぼす。

「ホント、退屈で死にそうだぜ、全く・・」

 そこへコーラサワーがやってきて、ため息を混じりに声をかけてきた。

「確かに何もしないというのは、いつもはしゃいでいるあなたにとっては死刑拷問の類に入るわね。」

「全くもってその通りで・・・って、ひどいこと言っちゃって、マリアちゃ〜ん・・」

 マリアの言葉に気持ちするコーラサワー。そんな彼を見て、マリアだけでなくソワレも笑みをこぼした。

「たとえ今回に出番がなくても、コーラサワーさんには今後出番が出てきますよ。これで終わりなんてことはないんですから・・」

「そうか・・そうだな・・・オレはまだまだこれからなんだよな!」

 ソワレの言葉に励まされて、コーラサワーが自信を取り戻し、歓喜の声を上げる。

「でもあなたのことだから、呆気なくやられることになるんじゃないの?」

「ち、ちょっとマリアちゃん、また〜・・」

 そこへマリアにからかわれて、コーラサワーが肩を落とす。

「しかしめげないぞ!オレの魂が燃え尽きるまで、これからも戦い続けるぞー!」

「あなたのそんな怖いもの知らずなところが実にうらやましいわね・・」

 すぐに自信を取り戻すコーラサワーに、マリアは呆れ果てていた。

 

 落ち着ける場所を求めて移動を続けるアルバとリリィ。フューチャーとソリッドはいつしか、デブリの漂っている場所に入り込んでしまった。

「デブリか・・まさかここに来るとは・・・」

「兵器の残骸が紛れている・・戦闘は地球だけじゃなく、宇宙でも行われているということよ・・」

 アルバが周囲を見回し、リリィが苦言を呈すように言いかける。デブリの中には遺体も漂っており、アルバは歯がゆさを感じた。

「戦争で多くの人が命を失っているのに・・オレが言えた義理ではないが・・」

「その戦争を、本当の意味で終わらせないといけない・・その重大さが、私よりもあなたのほうが分かっているはずよ・・」

「あぁ・・・オレはディアス・フリークス・・お前の過去の悲劇を生み出した男・・・」

「それはもう言わなくていいわ・・あなたは過去の償いと、未来への突破を決意したんだから・・」

「いや、まだお前に言っていないことがある・・・」

 アルバが切り出した言葉に、リリィが眉をひそめる。

「あのタイタンに乗っていた男、ドーマ・フリークスの弟なんだ・・・」

 アルバが告げた言葉にリリィが息を呑んだ。

「オレは同じフリークスの血を通わせる人間として、ドーマを止める・・それがオレの過去の因果を断ち切ることになる・・・」

「そう・・・だったら、私はボルド・タイタンを止めることになるわね。故郷も家族も仲間も何もかも奪ったオメガの親玉として・・」

 アルバの言葉を受けて、リリィが微笑んで言いかける。

「タイタンはアルバに任せる。その間に私はボルドを叩く。」

「それは構わないが、お前だけで大丈夫なのか?ボルドを討つならオレが・・」

「ボルドはオメガの代表。顔を知らない人なんてほとんどいないわよ・・」

 アルバに言いかけるリリィだが、すぐに表情を曇らせる。

「前だったら、復讐のために攻撃に出ていたわね・・でも今は、本当に心から平和を取り戻したいと願っているから・・」

「そうか・・ならば感情的になることはないか・・」

「もう、相変わらず勝手なことを言うんだから・・・」

 軽口を叩くアルバに、リリィがため息をつく。だが彼女はすぐに笑みをこぼす。

「でも、今までと変わっていない・・アルバのままだね・・・」

「そうか・・・そう思ってくれると嬉しい・・」

 リリィの言葉を受けて、アルバも笑みをこぼした。これまでと変わらない接し方をされて、彼は喜ばしかった。

「カーラたちも、そう思ってくれてるのか・・・」

「もちろんよ。艦長があなたを1番推してたし、ハルもあなたと親友になりたがってたし・・」

 リリィの答えを聞いて、アルバがさらに笑みをこぼす。

「これが、オレが紡いできた絆というものなのか・・・」

「私もこれまでで、たくさんの絆を深めてきた。アルバ、あなたとも・・・」

「ありがとう、リリィ・・・この絆、この想い、絶対にムダにしたらいけない・・オレたちは戦っていく・・自身の未来のために・・・」

 これまでの戦いと交流を振り返って、アルバは気持ちを引き締める。その絆と想いがなければ、こうしてフューチャーに乗るどころか、それ以前に命を落としていただろう。彼はそう思っていた。

「腹が減っては戦はできないというからね。食料調達をしましょう。」

 そこへリリィが言葉を切り出してきた。

「だがこの付近に食料などあるはずが・・」

「デブリには時々、食料をつめたパックが流れてることがあるのよ。事前に調べる必要があるけど、保存に優れているものが多いから、手をつけても大丈夫なものが多いのよ。」

「そんなものなのか・・・くれぐれも慎重にやってくれ。不様をさらすのは勘弁してもらいたい・・」

 淡々と言いかけるリリィに、アルバが苦笑いを浮かべる。最後の戦いに備えて、2人は準備を進めていくのだった。

 

 アルバとリリィが宇宙に出たという知らせを受けて、プラネットGのリード本部は迎撃体勢に入っていた。騒然となっているドックにて、ドーマが指揮を執っていた。

「タイタンの整備は完了しているか?」

「はい。後は少佐による最終チェックのみです。」

 ドーマの呼びかけに兵士が答える。

「お前はハッチを開け。タイタンがいつでも発進できるようにしておけ。」

「了解!」

 ドーマの言葉を受けて、兵士が動き出す。ドーマもタイタンのコックピットに乗り込み、自らチェックを行う。

(ディアス、いつでも来るがいい。このタイタンで息の根を止めてやる・・・!)

 アルバへの憎悪を募らせるドーマ。タイタンの上の天井のハッチが開かれる。

“ハッチ開放!いつでも出られます!”

「分かった。すぐに発進する。」

 兵士からの通信にドーマが答える。

「ドーマ・フリークス、タイタン、出る!」

 ドーマの掛け声とともに、タイタンがドックから発進していった。

 

 休息を終えてプラネットGに向かっていたアルバとリリィ。プラネットGを目前にして、フューチャーとソリッドが停止した。

「それじゃ、ここからは私が先に行くわ。後はよろしくね、アルバ。」

「分かったが、本当にいいのか?オレが先に向かったほうが・・」

「ソリッドよりフューチャーのほうが性能が全然高いから。アルバが私を救出してくれればいいよ。」

「そうか・・・そこまでいうなら、お前を信じるしかないな・・」

 リリィの言葉に同意するアルバ。

「さて、気を引き締めて行くとしますか・・」

 真剣な面持ちになったリリィ。エンジンを極力弱らせて、ソリッドがプラネットGへ先行した。

 最大限の注意を払ったことにより、リードのレーダーに感知されることなく、リリィは侵入することができた。

(このまま慎重に踏み込んでいくのよ・・絶対に油断したらダメ・・・)

 自分に言い聞かせるリリィ。進行するソリッドを見送って、アルバも頷いた。

「ではオレも行動を開始しよう・・」

 思い立ったアルバもプラネットGへの移動を開始する。しばらく進行したところで、フューチャーがビームライフルを発射する。だがその光線は何かを撃ち抜くことはなく、虚空へと消えた。だがリードにフューチャーを危険視させるには十分だった。

 警戒態勢を強めて、ザクスマッシュ、ザクスラッシュ、ザクブラストが続々と出撃してくる。その先頭を切っていたのがタイタンだった。

「タイタン・・やはりすぐに姿を見せてきたか・・・!」

「お前たちは手を出すな!近くにいるソリッドを狙え!」

 毒づくアルバと、部下に指示を出すドーマ。ザクたちが散開して、ソリッドの行方を追う。

「ついに現れたか、ディアス。いや、アルバ・メモリア・・・!」

「ドーマ、オレがお前の力を止めてやる・・・!」

 言い放つドーマとアルバ。フューチャーとタイタンが戦闘を開始し、一気に加速した。

 

 リリィの乗るソリッドの行方を追うザクたち。しかしソリッドもリリィも姿を確認することができず、レーダーも感知していなかった。

「くそっ!どこに隠れているのだ!?

「必ず近くに隠れているはずだ!探せ!」

 必死に捜索を行うパイロットたち。その眼をかいくぐって、ソリッドはプラネットGにたどり着いていた。

 リリィはソリッドから降りて、銃を手にリード本部に向かって駆け出した。

「あ、あれは、アルテミスにいた!?

「捕らえろ!射殺しても構わん!」

 彼女に気付いた兵士たちが銃を構えて撃つ。リリィは素早い身のこなしで銃弾をかわし、逆に発砲して兵士を退ける。

「邪魔はさせない!これは、私の未来を開く戦いだから!」

 リリィが言い放ちながら、さらに駆け抜けていく。

 プラネットGは一気に混乱に陥った。空ではフューチャーとタイタンが交戦。地上ではリリィがリード本部に侵入した。

 騒然さを増していく本部内の議会室にボルドはいた。彼は眼つきを鋭くしながらも、取り乱すことなく構えていた。

 その議長室の扉が開け放たれた。リリィが議会室に入り、ボルドに銃を向けてきた。

「見事な身体能力だ。1人でよくここまで来たものだな。」

「覚悟してもらうわよ、ボルド・タイタン!」

 不敵な笑みを見せるボルドに、リリィが言い放つ。銃を突きつけられても、ボルドは全く臆していなかった。

「お前がここで私を殺したところで、もはや私が指し示した系譜を止めることはできない。」

「殺しても殺さなくても、何も変わらないというの・・・!?

「そうだ。お前が我々オメガをひどく憎んでいることは聞いている。だがどんな理由で、どんな目的で私を仕留めても、お前が満たされることはないのだ!」

 言い放つボルドに向けて、リリィが発砲する。だがその弾丸はボルドの後ろの壁に命中していた。

「全てあなたの導くとおりになると思ったら大間違いよ!私の未来は、私が決める!」

「自己満足な考えだな。お前1人だけなら、そんな考えで十分だろう。だが世界ではそうはいかない。誰もが満足し納得する理念を求めている。私はみなの声を耳に入れ、これまで尽力を注いできた。」

「自己満足はあなたよ!人の心と命を弄んで!人はあなたのオモチャじゃないのよ!」

「オモチャ扱いではただの支配だ。こうして支持が生まれているのだから、平和へとつながるのだ。」

「いいえ!あなたの本当の目的は、旧人類を滅ぼして、オメガを世界の支配者として君臨させること!」

「旧人類は浅はかだけでなく愚かな存在なのだよ。己の無知を棚に上げて、進化した我らを妬んで排除にかかるとは。」

 怒鳴りかけるリリィの言葉を、ボルドがあざ笑う。

「それにお前は旧人類ではないのだよ、リリィ・クラウディ。いや、リリィ・カツラギ。」

「・・どうして、私のことを・・・!?

 ボルドが口にした言葉に、リリィが耳を疑った。

「お前のことも聞き及んでいるぞ。お前も我々と同じオメガ。赤ん坊の頃に地球に移されたオメガなのだ。」

「ウソよ・・でたらめを言わないで!」

「ウソではない。お前の父、キリヤ・カツラギは、家族に子供が生まれなかったことを苦にして、オメガの赤ん坊を養子として迎えた。その赤ん坊がお前なのだ。」

 否定するリリィに、ボルドは続けて語りかける。

「オメガでなければ、お前が1人でリードのバリケードを突破してここまで来れるわけがなかろう。だが現にお前はここに来て、私に銃を向けている。それこそがお前がオメガであることを物語っているのだ。」

「どこまでみんなの心を弄べば・・・!」

 悠然さを保つボルドに苛立つリリィ。彼女は突きつけられた衝撃の事実を受け入れられないでいた。

「その流れは非合法の下で行われていたので、処罰の対象とした。キリヤのいる島そのものを消滅させる形で、その処罰を完了させたのだ。」

「その島・・まさかアフェード・・・!?

 リリィが問い詰めると、ボルドは不敵な笑みを浮かべる。それを肯定と見たリリィが、さらに憤りをあらわにした。

「やはりあなたが、あなたのその身勝手な考えのせいで、みんなが・・・!」

「旧人類に加担したヤツが悪いのだ。先に攻撃の矛先を向けてきたのは旧人類だったからな。反撃する口実としては十分だったがな。」

 哄笑を上げるボルドに、リリィは完全に打ちひしがれてしまっていた。

 

 

次回予告

 

邪なる過去がまたしても明かされた。

罪なのは衰退する種族か。

それとも進化なのか。

その答えの果てに、何が待ち受けているのだろうか?

人類は、未来への分岐に直面する。

 

次回・「オメガ」

 

 

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