GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-44「未来への翼」
カインたち研究員によって保護されたアルバとリリィ。フューチャーとソリッドの修復も完了目前に迫っていた。
「もう少しってところね、アルバ・・」
「あぁ。これでオレたちは、もう1度戦える・・」
その様子を伺っていたリリィとアルバが微笑みかける。
「ここを出た後、プラネットGに向かう。ボルドがそこにいるはずだ。」
「でもソリッドは、フューチャーのように大気圏を行き来できるほどの機動力を持っていない。ロケットを利用すればそれも可能だけど・・」
意思を示すアルバに、リリィが困惑を浮かべる。だがアルバは顔色を変えない。
「フューチャーが抱えて上昇すればいい。大気圏突破の熱と衝撃に耐えられる耐久力は、ソリッドにもあるからな。」
「か、抱えていくって・・そんな恥ずかしいこと・・」
アルバが提示した案に、リリィが恥ずかしさを覚える。
「仕方がないだろう。オレたちには他の案を実行する術を持ち合わせていないのだから・・」
「それは、そうだけど・・」
肩を落とすアルバとリリィ。しかし他の案を見出すことができず、リリィはやむなくその案に同意する。
「何はともあれ、直ってからの話ね・・」
「それからのオレたちのやるべきことが山積みだ・・今のうちに体を休めていかないと・・」
リリィとアルバが微笑み合うと、ドックを後にして廊下を歩く。2人は地上に続いているエレベーターの前で足を止めた。
「とはいっても、心のほうがなかなか休まらないのだけれど・・」
「だが迷っている場合でもない・・気を引き締めていかないと、その迷いに押しつぶされてしまう・・」
深刻な面持ちを浮かべるリリィとアルバ。彼は自分の頬を両手で叩く。
「しっかりしないと、開きかけている扉も閉じてしまうからな。」
「アルバ・・・ありがとう。勇気が持てたよ・・」
リリィがアルバに感謝の言葉をかける。それを受けてアルバも笑みをこぼした。
アルバとリリィの行方を追って航行していたクレスト。レーダーを中止するオペレーターたちに、ガルが声をかける。
「2機の行方は分かったか?」
「いえ、まだ熱源をキャッチしていません。エンジンを切っているものと思われます。」
オペレーターの返答に、ガルが深刻さを覚える。彼はドックに待機しているパイロットたちに呼びかけた。
「コーラサワー、ザクスマッシュで海底を調査してくれ。」
“わ、私ですか!?・・分かりました!すぐに出ます!”
その呼びかけに素っ頓狂な声を上げるも、コーラサワーは自信ありげに答えた。
“自分にも行かせてください!”
そこへソワレが声をかけてきた。しかしガルは首を横に振る。
「ダメだ。ソワレとマリアは待機だ。」
“しかし、近くにフューチャーとソリッドがいるのが分かっているのに・・!”
「だからこそだ。不意打ちを受けるわけにはいかない。そのためのこの手だ。」
ガルに言いとがめられて、ソワレは渋々押し黙った。
「頼むぞ、コーラサワー。情報を入手次第、こちらに連絡するんだ。」
“任せてください、艦長!必ず任務を遂行してみせます!”
ガルの言葉を受けて、コーラサワーが笑みを見せて答えた。
(これが最後の戦いになるのか、それとも・・・)
再び戦いが激化すると予感し、ガルは思考を巡らせていた。
「パトリック・コーラサワー、ザク、出るぞ!」
コーラサワーの駆るザクスマッシュがクレストから出撃する。ザクは海上を飛行し、海の中を監視する。
(こんなところに潜んでるなんて・・魚じゃないんだからよ・・)
胸中で愚痴をこぼしながら、周囲の海域にも注意を払うコーラサワー。
「艦長、海上から海中を捜索中。異常ありません。」
“そうか。これよりクレストは潜行する。コーラサワー、お前は海上から空の警戒をしてくれ。”
「了解です。」
ガルの指示にコーラサワーが答える。
(やれやれ。人使いの荒い上官だぜ・・)
再び胸中で愚痴をこぼしながら、コーラサワーは警戒を開始した。一方クレストは海中に潜り、さらなる調査を進めた。
レーダーとカメラによる海中の捜索。しばらく続けたところで、クレストは不審な箇所を発見した。
「この穴・・奥底に何かありそうだ・・・」
思考を巡らせたガルが、さらに指示を出す。
「マリア、ルナ発進。その洞窟を捜索してくれ。」
“分かりました。”
ガルの指示にマリアが答える。長距離攻撃を得意とするルナの広範囲のモニタリングなら、細かい情報を入手できるという、ガルの判断だった。
「マリア・スカイローズ、ルナ、行くわよ!」
マリアの掛け声とともに、ルナがクレストから発進する。クレストの前方から、ルナが洞窟をスキャンする。
「穴の先は1本の通り道になっています。その先に人の体温と同等の熱を感じます。」
「体温と同等・・・これで決定的だ。この奥に何者かがいる・・・」
マリアの報告を受けて、ガルが判断を確定させる。カインたち研究員の居場所を、ついにリードに発見した。
クレストの接近を、研究員たちは察知していた。しかし軍隊レベルの武装を持ち合わせていない彼らは、迎撃をできずにいた。
「遅かれ早かれ見つけられるとは想定できたけど、まさかクレストがやってくるとは・・・!」
カインがこの現状に歯がゆさを浮かべる。他の研究員たちも不安の色を隠せないでいた。
「フューチャーとソリッドの具合はどうなんだ?」
アルバがカインに問いかけてくる。
「ソリッドは完全に、フューチャーは9部9厘、修復が完了している。あとはアルバくん、君の最終チェックを残すだけだよ。」
「そうか・・・2機の発進準備をしてくれ。攻撃される前に迎え撃つ。」
アルバが口にした言葉に、カインたちがさらなる動揺を見せる。
「リリィ、悪いが先に出てくれないか。形だけでも迎撃に出れば、相手も少しは警戒するだろう。」
「でも、フューチャーはまだちゃんと動かせるかどうか分からないんでしょ!?それをいきなり動かそうというの・・・!?」
アルバの言葉にリリィが反論する。しかしアルバは考えを変えない。
「ソワレがじっと待っていてくれると思うのか?オレたちを狙って、すぐに攻撃を仕掛けてくるぞ。」
「アルバ・・・分かった。先に行って時間稼ぎをしてくるね・・」
アルバの言葉を受けて、リリィが笑みを見せる。
「カインさん、準備をお願いします。」
「リリィさん・・・」
声をかけてくるリリィに、カインが戸惑いを見せる。
「今までお世話になりました・・ありがとうございました!」
リリィは一礼すると、ソリッドに乗り込んでいった。
「リリィ・クラウディ、ソリッド、行きます!」
ソリッドが先行し、クレストを迎え撃った。
アルバの推測は的中していた。ソワレもアルバとリリィを討つべく、出撃しようとしていた。
「ソワレ・ホークス、ゼロ、発進する!」
ソワレの駆るゼロがクレストから出撃する。ゼロがマリアの乗るルナとともに、洞窟に入ろうとしていた。
突如、ゼロとルナのレーダーに、洞窟から出ようとしている熱源をキャッチした。
「この反応・・・ソリッドが出てくる・・・!?」
ソワレが踏みとどまり、警戒を強める。洞窟から姿を見せた瞬間、ソリッドがビームライフルを撃ってきた。
とっさにその射撃をかわすゼロとルナ。水中のため、機体の動きもビームも、本来と比べて鈍りがあった。
「ソリッド・・リリィさん、君がいるということは、フューチャーも、アルバもいるということだね・・・!?」
ソワレがリリィに向けて鋭く言いかける。
「ここから先へは1歩も行かせないわよ・・・」
リリィの駆るソリッドが、2人の前に完全と立ちはだかった。
アルバもフューチャーに乗り込み、自ら機体のチェックを行った。異常がないと判断したアルバは、フューチャーを信じて発進を思い立った。
(頼む、フューチャー・・デイジーの想いが込められているなら、オレに力を貸してくれ・・・!)
「アルバ・メモリア、フューチャー、行くぞ!」
自分の機体に強い信頼を込めるアルバ。起動したフューチャーがその鼓動を加速させていく。
「大丈夫!フューチャーに問題はない!万全だ!」
アルバがカインたちに向けて呼びかけると、フューチャーがソリッドに続いて出撃する。
(頼んだよ、リリィさん、アルバくん・・僕たちが君たちにしてあげられるのは、ここまでだ・・・)
自分たちの思いを、カインたちはアルバとリリィに託した。
クレストの行く手をさえぎろうとしたリリィだが、ルナを駆るマリアの射撃に翻弄され、海上に飛び出していた、ソワレの乗るゼロを止めようとするが、ルナの射撃に行く手をさえぎられる。
「ここにアルバがいるなら、攻撃を仕掛けてあぶりだすしかないようだ・・・」
ソワレが言いかけると、リリィが焦りを膨らませる。だがルナの猛攻から脱することができない。
「僕たちは平和を取り戻す・・世界に安息をもたらす・・・そのためにアルバ、君を・・・」
「それがお前の揺るぎない決意というのか・・・」
自分の呟きに返答があり、ソワレが眼を見開く。攻撃しようとしていた洞窟から、アルバの乗るフューチャーが姿を現した。
「アルバ!」
「オレを執拗に狙っているようだな、ソワレ・・ならば場所を変えるぞ・・・!」
声を荒げるソワレに、アルバが鋭く言いかける。フューチャーが上昇し、ゼロも追いかけていく。
2機もソリッドとルナが交戦している海上へと飛び出してきた。
「アルバ!」
「ソワレ!」
声を上げたリリィとマリアが、攻撃の手を一瞬止める。フューチャーとソリッド、ゼロとルナ。4機のMSが対峙していた。
「万全の状態に戻っている・・関わった人間に、新型開発の関係者が混じっている・・・!」
「アルバとリリィさん、ゲリラと関わっていたということですか・・・」
マリアとソワレが焦りを覚える。最大の大敵であるフューチャーが、損傷を修復させてきたのである。
「このまま2人を逃がすわけにはいきません!艦長!」
“あぁ!ソワレ、マリア、お前たちはフューチャーとソリッドを撃て!我々はゲリラへの攻撃を開始する!”
ソワレの声を受けて、ガルが指示を出す。ゼロがトラスカリバーを手にして、フューチャーを狙う。
「ソワレはオレが相手をする!リリィ、お前はマリアを・・!」
「待って、アルバ!クレストが!」
アルバが指示を出そうとしたとき、リリィが声をかけてきた。彼が眼を向けると、クレストが洞窟に向かって進行してきていた。
「このままだと、カインさんやみなさんが・・!」
「リリィ、ソワレとマリアはオレが押さえる!お前はクレストを止めろ!」
危機感を募らせるリリィに、アルバが呼びかける。
「でも、あなただけで2人を止めるなんて!」
「時間稼ぎぐらいはやってみせるさ!オレに構わずに、みんなを守ってやれ!」
「アルバ・・・分かった!でもムチャしないでよ!」
アルバの言葉を受けて、リリィはソリッドを駆り、再び海中に向かった。
「待ちなさい!」
ルナが彼女を追いかけようとするが、ルナの前にフューチャーが立ち塞がる。
「お前たちの相手はオレだ!」
「くっ!アルバ!」
激昂するソワレ。ゼロがフューチャーに飛びかかり、トラスカリバーを突き出す。
フューチャーもエクスカリバーでその突きを防ぐ。そして追い抜こうとしたルナに、左手でビームブーメランを投げつける。
完全にアルバに行く手をさえぎられるソワレとマリア。リリィへの信頼を心に秘めて、アルバは2人に対峙した。
洞窟に向けて攻撃を仕掛けようとしたクレスト。
「サターン発射用意。ゲリラの封じ込めとあぶり出しに・・・!」
ガルが指示を出そうとしたときだった。クレストの前にソリッドが降下してきた。
「ソリッド!」
「カインさんたちに手出しはさせないわ!」
ギルが声を荒げ、リリィが言い放つ。ソリッドがクレストに向かって飛びかかっていく。
「構わん!ソリッドに向けて、サターン発射!」
ガルの檄が飛び、クレストからミサイルが放たれる。ソリッドはとっさにビームライフルを撃ち、ミサイルを破壊する。
「後退しつつ、サターンを連射しろ!攻撃の手を休めるな!」
ガルが呼びかけ、クレストがさらに攻撃する。だがソリッドはさらに迎撃し、洞窟に危害が及ばないようにした。
ソワレのゼロとマリアのルナの攻撃を、必死に食い止めようとするアルバのフューチャー。彼の猛攻に、2人は焦りを募らせていた。
(このままだと、ゲリラを討伐するどころか、クレストに危険が及んでしまう・・何とかしてフューチャーを退けないと・・!)
「マリアさん、ここはオレが!」
思考を巡らせていたマリアが、張り上げる声を耳にする。コーラサワーの乗るザクスマッシュが、フューチャーに向かって突っ込んできた。
「ぐっ!」
この奇襲にアルバがうめく。ザクスマッシュの突進で、フューチャーが体勢を崩される。
「今回だけは感謝するわよ!」
好機と踏んだマリア。クレストの援護のため、ルナが海中に向かう。
「させるか!」
それを食い止めようとするアルバ。だがコーラサワーに行く手を阻まれる。
「お前の相手はオレだって。マリアさんの邪魔はさせない!」
「くそっ!邪魔をするな!」
言い放つコーラサワーとアルバ。ヒートホークを振りかざすザクスマッシュだが、フューチャーが振りかざしたエクスカリバーによって、右腕と右足を断裂される。
「何でいつもオレだけぇぇぇーーー!!!」
コーラサワーの絶叫とともに、ザクスマッシュが海へと落下していった。
「コーラサワーさん!・・アルバ、よくも!」
いきり立ったソワレ。ゼロがフューチャーに向けてトラスカリバーを振りかざす。
2本の剣が激しくぶつかり合い、火花を散らす。マリアの阻止に迎えず、アルバは焦りを募らせていた。
クレストの攻撃を果敢に阻止していくリリィ。彼女はクレストの艦体に向けて攻撃を仕掛けようとした。
「クレスト、覚悟!」
高らかに叫ぶリリィ。だがそのソリッドが、突如飛び込んできたビームに行く手を阻まれる。
「えっ!?」
驚きの声を上げるリリィ。ソリッドの前に、追ってきたルナが降下してきた。
「マリアさん!?」
「あなたの相手は私よ、リリィさん!」
マリアが言い放ち、ルナが砲撃を仕掛ける。迎撃できず、ソリッドが回避を行う。
(これじゃ攻撃を押さえ切れない・・・!)
さらなる危機にさいなまれるリリィ。ルナがソリッドに向けて、レールガンでの砲撃を続ける。
「サンブレイカー起動。目標、前方、ゲリラアジト。」
その最中、ガルがクルーたちに指示を出す。クレストが陽電子砲の発射体勢に入る。
「クレストが砲撃・・アルバ、クレストが!」
たまらずアルバに呼びかけるリリィ。だがフューチャーはゼロの猛攻に阻まれてしまっていた。
「ってぇ!」
その間に、クレストがサンブレイカーは発射した。砲撃はソリッドとルナの間を縫って、洞窟に直撃した。
「カインさん!」
リリィが悲痛の叫びを上げる。砲撃によって洞窟が崩壊し、その先の地上から爆発が起こった。
新たなる支えを打ち消す非情の炎に、アルバも愕然となって眼を見開いていた。
次回予告
運命は残酷なものなのか?
絶望に打ちひしがれる、アルバとリリィの心は完全に擦り切れていた。
それでも自身の未来を切り開く以外にない。
それが2人の決意だから・・・