GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-43「ソワレ」
タイタンによる地球連合壊滅の知らせを耳にして、ソワレとマリアも困惑を隠せなかった。
「まさかドーマさんだけで、地球連合を倒してしまうなんて・・・」
気持ちの整理がつかないまま、ソワレが呟きかける。
「これで私たちの敵である連合軍がいなくなったと見ても大丈夫、ということなのかしらね・・」
それを聞いたマリアも肩を落とすも、この現状を楽観視していなかった。
「ソワレくんはどう思う?ずっと求め続けてきた平和が目前に来たって感じだし・・」
「・・そう簡単に思えればいいのですが・・・」
マリアがかけた言葉に、ソワレは真っ直ぐに答えることができなかった。
「これまでたくさんの戦いが起こり、たくさんの悲しみや苦しみがあった・・それなのに、こんなに呆気なく・・」
「切迫していたものが最後だけあっさりしているのは、滅多にないけど全くないわけではない。案外、緊迫していた物事の最後はこういうものよ・・」
深刻さを募らせるソワレに、マリアが淡々と答える。
「ですが・・・」
「割り切りなさい。でないと、やっと平和が戻ってくるのに、あなただけが平和じゃないってことになるわよ。」
さらにマリアに言いとがめられるソワレ。しかしソワレはまだわだかまりを捨てきれないでいた。
「まぁ、正直私も納得しているわけじゃないんだけど・・ここまでやり通していて、手柄を全部持っていかれた感があるけど・・」
「そうですね・・そういう点では、ドーマさんに不満がありますね。」
「そう落ち込む必要はないぞ。」
落胆を浮かべているマリアとソワレに声をかけてきたのはガルだった。
「か、艦長!」
2人はガルに向けて慌しく敬礼を送る。するとガルが苦笑いを浮かべてきた。
「いや、かしこまらなくてもいい。楽にしていてくれ。」
「そうですか・・それで艦長、どうかしたのですか?」
落ち着きを取り戻したマリアがガルに訊ねる。ガルも真剣な面持ちで語り始めた。
「プラネットG、リード本部からの指令だ。アルテミスの残党、アルバ・メモリアとリリィ・クラウディを拘束せよ。不可能ならば撃墜も許可する・・」
「アルバとリリィさんを・・・!?」
ソワレがその指令に眉をひそめる。
「ドーマ少佐はプラネットGの守りに身を置くことになった。よって2人の追跡は、引き続き我々が行うことになった。」
「それでは、私たちの戦いはまだ終わっていないということですか・・」
ソワレが深刻な面持ちで呟きかける。ガルは2人に背を向けて、話を続ける。
「今もレーダーで捜索中だ。お前たちはまだ休んでいていい。」
「しかし艦長、そんな悠長な・・!」
「焦る気持ちも分からなくはないが、単独で突っ走って不意打ちを食らう危険もある。いくらゼロであっても、相手がフューチャーだから油断できない。」
ガルに言いかけられて、ソワレは焦る気持ちを押さえた。
「これまで戦いの連続で、心身ともに疲れているはずだ。お前たち自身が考えている以上にな。今のうちに休んでおけ。今を逃すと、いつ休めるか分からないぞ。」
「分かりました・・アルバとリリィさんのこと、よろしくお願いします・・」
ガルの言葉を受け入れ、ソワレが頭を下げた。
「では私は他の者の様子を見てくる。艦長という立場も、いろいろと大変でね・・」
ガルは苦笑気味に言いかけると、ソワレとマリアの前から去っていった。
「艦長命令。私たちは大人しく休養を取ったほうがよさそうね・・」
「そうですね。アハハハ・・・」
マリアに言いかけられて、ソワレは苦笑いを浮かべていた。
フューチャーとソリッドの修復の間、休息を取ることとなったアルバとリリィ。しかしリリィは他人に自分の乗る機体を任せて、じっとしていることができなかった。
「あの、私にも何か手伝わせてもらえないでしょうか・・?」
リリィが作業中の研究員に声をかける。
「ありがとうございます。ですがここは私たちだけで大丈夫ですから・・」
「しかし、私たちだけ何もせずにいるなんて・・・」
「その気持ちだけでも嬉しいですよ。ですが、あなた方はこれから激しい戦いに身を投じるのです。万全の状態で、それに臨んでほしいのです・・」
研究員に言いかけられて、リリィは返す言葉を失う。任せ切りの状況に我慢できなかったが、これ以上言葉をかけられずにいたのも確かだった。
「ここはアイツらの言うとおりにしたほうがいい・・」
そこへアルバが現れ、リリィに声をかけてきた。
「アルバ・・でも私は、このまま何もせずにいるなんて・・・」
「何もしないなんてことはない。むしろフューチャーとソリッドが直った後、オレたちにはやることが多いんだからな・・」
「・・・そうね・・私たちはリードを、あのタイタンを止めないといけないのね・・」
「あのままタイタンの行動を野放しにすれば、世界がボルドの思うがままになる。アイツは旧人類を絶滅させて、オメガ独自の進化を進めていくつもりなんだ・・」
ボルドの野心を思い返し、アルバが拳を強く握り締める。
「オレたちにとっては、アルテミスのみんなの敵討ちということになるのだろうが・・」
「そうね・・何にしても、タイタンは止める・・アルバ、あなたと私で・・」
笑みを浮かべて言葉を交わすアルバとリリィ。2人は握り拳で軽くタッチする。
「みなさーん!お茶の用意ができましたー!」
そこへ声がかかり、研究員たちが切りのいいところで作業を中断する。
「のん気なものだな・・」
「私も同意見・・でも、私たちもお茶にあやかるとしましょう・・」
肩を落とすアルバと、淡々と言いかけるリリィ。2人も研究員たちの集う休憩室に足を運んでいった。
橙に染まっている黄昏を、ソワレは自室の窓から見つめていた。彼はこれまでの戦いと思いを思い返していた。
戦争によって混沌に満ちてしまった世界に平和を取り戻させたい。その一心で、彼はリードに入隊。終わらせるべきと考えている戦争に、彼はあえて身を投じた。
アルバとの出会いと対峙。マリアへの思い。激化する戦争。
混沌としていく戦争の中で、ソワレは日に日に打ちひしがれていった。どうしたらいいのか分からず、彼は苦悩を強いられることもあった。
それでも誰もが不幸を受けることのない世界を見つけ出すために、ソワレは戦い続けた。
(僕がやらなくてはいけないんだ・・議長もその願いをもって、ゼロを僕に託してくれた・・その期待にも応えていきたい・・・)
迷いを振り切ろうとするソワレ。彼は夕日から視線を外して、ベットに横たわろうとした。
「ソワレくん。」
そこへ声がかかり、ソワレが部屋のドアを上げる。ハローズを抱えて、マリアが立っていた。
「マリアさん・・・」
「時間まで、一緒にいてもいいかな・・?」
戸惑いを見せるソワレに、マリアが優しく言いかける。ソワレが頷くと、マリアは部屋に入ってきた。
「ハロハロ♪」
ハローズも上機嫌に飛び跳ねながら、部屋に入ってきた。
「何でしょうか、マリアさん?大事なお話のようですが・・」
「えぇ・・任務の話ではなく。あくまで私とあなただけの話・・」
ソワレが訊ねると、マリアは深刻な面持ちで話を切り出した。
「今度の任務を終えたら、私と一緒に暮らしてもらえない?」
「えっ・・・!?」
マリアが口にした言葉に、ソワレが驚きを見せる。
「そんな!僕なんかと一緒に生活するなんて!?・・僕、マリアさんを幸せにする力なんて・・!」
「気にしなくていいのよ。私がそう決めたのだから。もちろん、それでもあなたが私と過ごすのを拒んでも構わないのだけれど・・」
「こ、拒むだなんてそんな・・・」
マリアに言い寄られて、ソワレは困惑していた。
「ダメかな、ソワレくん・・・?」
「僕で、本当によろしいのでしょうか?・・僕よりいい人なんて、探せばいくらでもいますよ・・」
「そんなことないわ・・あなただからこそよ・・」
マリアの切実な想いに、ソワレは戸惑いを覚える。自分にここまで想いを寄せてくる相手に、彼は素直に返答することができなかった。
「スカイローズとは別の大きな家で2人で住むつもりよ。でもアテナさんが聞いたら、真っ先に飛んでくるでしょうね。」
「確かにそうですね、アハハハ・・・」
マリアが屈託のないことを言うと、ソワレも笑みをこぼした。
「分かりました・・僕でよろしければ・・・あなたとは、これまで運命をともにしてきましたし・・」
「ありがとう、ソワレくん・・感謝するわ・・」
了承したソワレに、マリアが感謝の言葉をかける。そしてマリアがソワレを優しく抱きしめる。
「真っ直ぐなあなたなら、私の気持ちを真正面から受け止めてくれると信じていた・・・」
「そんな・・僕はこれでもわがままなほうですよ・・そのために、あなたにはいろいろと迷惑をかけてしまった・・」
「こんなかたちの迷惑なら、私は構わないわ・・・」
苦笑するソワレに、マリアが弁解を入れる。
「マリアさん、今度の戦いが終わって、世界が落ち着いたら、僕はしばらく軍から離れようと思います・・」
「ソワレくん・・?」
ソワレが口にした言葉に、マリアが当惑する。
「確かに今は、世界に平和を取り戻すために戦い、僕はゼロに乗っています。ですがゼロは、その平和のためとはいえ、結局は兵器、物を壊すための力・・平和になったら、その力は不要になってくる。再び必要になるときまで・・」
「ソワレくん・・・」
「ですから僕は軍を離れて、平和に暮らそうと考えていたんです・・そこへマリアさんが声をかけてくれて・・」
「そうだったの・・ありがとう、ソワレくん・・・」
自分の心境を告げるソワレに、マリアが感謝の言葉をかける。
「それで、お願いがあるのだけれど・・・?」
「はい。何でしょうか・・・?」
「あなたのこと、“ソワレ”と呼ばせてもらえないかな?それと、私のことを“マリア”と呼んでもらいたい・・」
マリアが口にした言葉に、ソワレが戸惑いを見せる。だがすぐに彼は微笑みかける。
「分かった・・・これからもよろしく・・マリア・・・」
「ありがとう・・ソワレ・・・わたしこそ、これからもよろしくね・・・」
マリアも喜びを感じて微笑みかける。2人はそれぞれの想いの赴くままに、唇を重ねた。
「ハロハロ♪ラブラブ♪ラヴラヴ♪」
ハローズがそんな2人を見て、上機嫌にベットの上を跳ねていた。
一足先にプラネットGに帰還したドーマは、ボルドの待つ議長室に赴いた。
「議長、ドーマ・フリークス少佐、任務を終え、ただ今帰還しました。」
「ご苦労だった、ドーマ。よくやってくれた。」
敬礼を送るドーマに、ボルドが不敵な笑みを見せる。
「これで旧人類、地球連合はほぼ完全に沈黙したといっても過言ではないでしょう。多少の反乱分子が出てくることも予想できますが、我々の敵でもないこともまた事実。」
「そうだ。たとえどんな反乱が起きようと、我々の意思は決して揺るがない。たとえディアスであろうと。」
ドーマが言いかけると、ボルドは笑みを強めて言いかける。
「遅かれ早かれ、ディアスは我々を狙ってくることは必死でしょう。その前に、ソワレが仕留めてくれれば、それに越したことはありませんが・・」
「私はソワレを信頼している。そのために、私は彼にゼロを託したのだから。」
「信頼?利用している、の間違いではないでしょうか?」
「悪い言い方をすればな。ソワレは純粋だ。それゆえに付け込みやすいのだ。」
「たとえ彼が我々を勘繰ろうとしても、タイタンには敵いはしないのですから。たとえフューチャーであろうと、ゼロであろうと。」
「そうだ。私はお前を最も信頼しているのだからな。頼むぞ、ドーマ。」
「議長の仰せのままに。」
ボルドが言葉をかけると、ドーマは再び敬礼を送った。
「それで、ディアスの行方は分かったのか?」
「いえ。ヤツも、リリィ・クラウディも発見されておりません・・申し訳ありません・・」
ボルドが問いかけると、ドーマは謝意を見せて頭を下げる。しかしボルドはドーマをとがめようとしなかった。
「気にするな。時期に這い出てくる。」
「そうですね。追われるネズミは、いつかは退路を失い、惨めな末路を遂げるのみ。」
再び不敵な笑みを浮かべるボルドとドーマ。
「ドーマ、お前はこのプラネットGに待機。ディアス討伐は引き続き、クレストが行うものとする。」
「了解しました。」
ボルドの命令を受けて、ドーマが敬礼を送る。そしてドーマはその任務に備えて、議長室を後にした。
「今度こそ、今度こそ幕引きにしてくれるぞ、ディアス。私の加護を捨てたお前に、この世界の居場所はない。」
アルバに対する因縁を募らせて、ボルドが眼つきを鋭くしていた。
ガルからの呼び出しがかかり、コーラサワーはソワレを呼びに来た。
「ソワレ、艦長からの呼び出しだ。」
「あ、はい。分かりました。」
コーラサワーの声を聞いて、部屋にいたソワレがドアを開ける。そのとき、部屋の中にいたマリアの姿を目の当たりにして、コーラサワーが凝視する。
「マ、ママママ、マリアさん!?・・どうして、ソワレの部屋に・・・!?」
「あなたには関係のないことよ。それより艦長からの呼び出しでしょう?」
驚愕の色を隠せなくなるコーラサワーに対し、マリアは淡々と声をかけていく。しかしコーラサワーは愕然となり、何の反応もできなくなる。
「とにかく行きましょう。もしかしたら、ソワレたちを見つけたのかもしれません・・」
「そうね。コーラサワー、ぼうっとしていないで早くしなさい。」
ソワレの言葉にマリアが頷く。彼女に呼びかけられて、コーラサワーが我に返る。
「あっ!ちょっと待って!置いてかないでくださいよー!」
コーラサワーが慌しく2人を追いかけていった。
ガルの召集により、ソワレたちクルーたちが司令室に集結した。
「全員揃ったな。先ほど重要な情報が入った。」
ガルがクルーたちを見回して話を切り出した。
「フューチャーとソリッドが、アジアAC地区67地点で目撃した。」
「AC地区67地点?ですがそこは海で、陸地はないはずですが・・」
ガルの説明にソワレが口を挟む。
「その海底に何かあるのだろう。おそらく、オメガに反旗を翻すゲリラ部隊の・・」
「ゲリラですか?しかしフューチャーは翼を損傷しています。たとえそのゲリラに救われたとしても、その者たちにフューチャーを万全にする技術があるかどうか・・」
「いや、そう楽観視できるものではない。もしかしたら、新型MSの開発に着手していた者もいるのかもしれない。」
「それはどういうことですか?新型MSの開発者が、なぜ・・?」
「あくまで私の推測だ。断定はできないが、完全な否定もできない、ということだ・・」
ガルが告げた言葉にソワレが困惑を浮かべる。
「ともかく、我々はフューチャーとソリッドの捜索のため、アジアAC地区67地点に向かう。
「了解。」
ガルの言葉にクルーたちが答える。クレストはアルバとリリィの討伐のため、速度を上げた。
次回予告
生き残った者に託された思い。
散った者が遺した思い。
様々な思いが交錯する世界の中、アルバとリリィが再び立ち上がる。
多くの思いを背に受けて、戦士は飛翔する。