GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-42「絶望からの再生」
ドーマの駆るタイタンが地球連合本部を壊滅させた知らせを、アルバとリリィは通信から傍受していた。
「まさかたった1機で、連合を全滅に追いやるなんて・・・!」
「あの機体なら、ドーマの機体ならそれが可能かもしれない・・!」
リリィとアルバが、この事態に動揺を隠せないでいた。
「これで戦争が終わり、オメガが・・・」
「いや、まだ連中の攻撃は終わらない・・最後は、オレたちを狙ってくる・・ヤツらのことだ。集中砲火は軽くやってのけるぞ・・」
「そうね・・でもどうするのよ・・フューチャーは翼が破損してるし、修理できるところなんてもう・・」
希望が全く見えてこず、アルバもリリィも困惑するばかりだった。
「とにかく、そろそろ移動したほうがいい。準備をするぞ、リリィ。」
「でも、フューチャーは損傷しているってさっき・・」
「クラスターシステムに損傷はない。戦うことはできなくても、移動することは十分に可能だ。」
アルバの言葉を聞いて、リリィは小さく頷いた。2人はフューチャーとソリッドに乗り込み、発進準備に入る。
そのとき、アルバがフューチャーが暗号通信をキャッチしていることに気付く。
「何だ、この通信は?・・誰から・・?」
眉をひそめたアルバが通信のデータを調べて、送信者を割り出す。
「カイン・アルバート・・何者なんだ・・・?」
「どうしたの、アルバ?」
疑問を浮かべているアルバのところに、リリィがやってきた。アルバの様子を気にして来たのである。
「リリィ・・フューチャーに暗号通信が送られてきたんだ・・送信者は、カイン・アルバート・・」
「カイン・・・もしかして、カインさんじゃ・・」
アルバの言葉を聞いて、リリィが戸惑いを見せる。
「知っているのか、リリィ、この相手を?」
「うん・・艦長の知り合い・・でももう連合軍を脱退して、行方が分からなくなっていたのに・・」
疑問を投げかけるアルバに、リリィが答える。かつての知り合いからの連絡に、彼女は戸惑いを感じていた。
「信用していいのか?オメガの仲間であるとは考えられないか?」
「大丈夫。信用していい。私たちの助けになってくれるはずよ・・」
「そうか・・このまま逃げ回っていても、結局は追い詰められるだけだ・・ここは頼るしかない・・・」
「うん・・行こう、アルバ。その場所に・・」
アルバとリリィが頷き合うと、それぞれの搭乗機に乗り込む。指示された地点に向けて、フューチャーとソリッドは発進していった。
アルバとリリィの捜索と討伐を命ぜられて、クレストは海上を航行中だった。しかしクレストのレーダーは、まだフューチャーとソリッドを捉えてはいなかった。
「アルバとリリィさん、どこにいるのだろうか・・・」
自室にいたソワレがおもむろに呟く。彼のそばにはマリアもいた。
「ソワレは2人を倒したいの?それとも救いたいの?」
「分からない・・それでも僕は、この世界に平和をもたらしたいと考えている・・その気持ちは今までも、これからも変わらない・・」
「それじゃあなたは、アルバさんとリリィさんが現れたら、迷わずに撃つの・・?」
「それは・・・」
マリアの問いかけに、ソワレが言葉を詰まらせる。
「私は、心のどこかで迷いを感じている・・もしまた2人が現れたら、迷わずに引き金を引けるといったらウソになっちゃう・・」
「改めて、マリアさんは優しいと感じました・・2人のことが好きなんですね・・」
「そうね・・ソワレくんは、2人が嫌いなの・・?」
「そんなことないです・・嫌いどころか、好きですよ・・だからこそ、僕が過ちを犯している2人を止めなくてはならないんです・・」
マリアの言葉に一瞬戸惑うも、ソワレが真剣な面持ちで答えていく。そしてソワレは、マリアを優しく抱きしめる。
「もう少しで・・もう少しで平和を取り戻すことができるんです・・アルバとリリィさん、フューチャーとソリッドを止めれば、世界は再び幸せを取り戻せるんです・・・」
「私はあなたを信じると決めた・・もちろんあなたが抱えている願いも・・」
切実に言いかけるソワレに、マリアが優しく言いかける。
「私はどこまでも、あなたについていくからね、ソワレくん・・」
「ありがとうございます、マリアさん・・僕のために・・・」
信頼を寄せるマリアに、ソワレも喜びを浮かべる。2人は想いの赴くままに、唇を重ねた。
(これが僕の、僕たちの願い・・世界に平和をもたらすこと・・それだけ・・・)
一途の想いを募らせるソワレ。彼の心は、さらに強固なものとなっていた。
突如送られてきた通信。それが指し示した地点に、アルバとリリィはたどり着いていた。
しかしその地点は何もない岩場であった。
「この辺りに、通信を送れるものは見当たらないが・・」
「でもどこかにカインさんがいるはずよ・・フューチャーに通信を送ってきたなら、その姿ももちろん知っているはずよ・・」
周辺を見回すアルバとリリィ。岩場は静寂に包まれており、人の気配を感じさせなかった。
「フューチャー、それとソリッドだね!」
そのとき、2人に向けて声がかかってきた。そして物陰から、1人の男が姿を現した。
「カインさん!・・カインさんよ!」
「何?」
リリィが声をあげ、アルバもまた声を上げる。その男、カインが笑顔で2機に手を振っていた。
ソリッドのハッチが開き、リリィがケインに呼びかける。
「カインさん、早く乗ってください!リードが私たちを追ってきていますので!」
「分かった!すぐに行く!」
カインが駆け出し、ソリッドへと乗り込む。フューチャーとソリッドが間髪置かずに発進する。
「君たちのことは聞いているよ。アルテミスの件も・・」
カインが言いかけると、リリィが沈痛の面持ちを浮かべる。
「す、すまない・・悪気があったわけじゃない・・ただ、事情は知っているということを・・」
「いえ、大丈夫です・・私たちは、いつまでもウジウジしているわけにはいきませんから・・」
謝るカインにリリィが弁解を入れる。しかし彼女の中にはまだ、カーラたちを失った悲しみが残っていた。
「それで、どこに向かえばいいのですか?私たち、当てもなくて・・」
「それなら大丈夫。僕にも仲間がいるから・・」
「仲間?」
「まずはここに向かってもらえるかな?そこに仲間がいる。」
疑問符を浮かべるリリィに呼びかけて、カインはレーダー内の地図のある地点を指し示した。その地点にリリィは驚きを覚えた。
「えっ!?ここ、海じゃないですか!?そこに何が・・!?」
「とにかくそこに行ってくれ。着いたらちゃんと説明するから・・」
カインにさらに言いかけられて、リリィは渋々そこに向かうことを決意する。その会話を聞いていたアルバも、その地点に向けて加速した。
カインが指し示した海上に差し掛かったアルバとリリィ。しかしその海上に何かが浮上しているようには見えなかった。
「このまま海に入って。それから真っ直ぐに進んでいけばいい。」
「この先に何があるんですか?」
「行けば分かる。リードの追跡に注意したいのもあるからね・・」
リリィの疑問にあえて答えないカイン。フューチャーとソリッドがそのまま海の中へと入り込み、前進していく。
しばらく進んだところで、アルバたちは眼前に洞窟があるのを発見する。
「これは・・?」
「ここが入り口だよ。そこに入って。」
眉をひそめるアルバと、呼びかけるカイン。フューチャーとソリッドはそのまま洞窟へと入っていく。
洞窟は暗闇に包まれていたが、1本道であったため迷うことはなかった。
(この先に何があるというんだ?・・分からないが、このまま先に進む以外に道はない・・・)
思考を巡らせながら、アルバが前に進むことに専念する。しばらく進んだところで、機体から発せられているものとは別の明かりが差し込んできた。
「な、何だ・・!?」
「お待ちしていました、リリィさん、アルバさん!」
声を荒げるアルバが、呼びかけてくる声を耳にする。その声のしたほうにフューチャーがライトを当てると、数人の男たちがまぶしさのために一瞬眼を伏せていた。
「僕たちの仲間だ。僕と同じ技術に長けている人ばかりだよ。」
カインが口にした言葉に、当惑を覚えるリリィが眼を凝らす。男たちはあたたかく、彼らを迎えてきていた。
「ここを浮上してください。水の外に出ます。」
カインの言葉にアルバとリリィが頷く。フューチャーとソリッドが浮上すると、整備されたドックへとたどり着いた。
「お待ちしていました、リリィ・クラウディ、アルバ・メモリア。」
「オレのことまで知っているのか、お前たちは・・?」
男の1人が声をかけ、アルバが眉をひそめる。
「いろいろと大変でしたでしょう。十分に体を休めてください。」
カインにも声をかけられ、アルバとリリィは機体から降りることにした。すると男たちが2人に拍手を送ってきた。
「あなたたちは何者なんですか?私のことはともかくとしても、アルバのことまで・・」
「当然です。私たちの多くは、かつてプラネットGの特務研究員だったのですから・・」
「特務研究員?」
男たちの答えに、リリィだけでなく、アルバも疑問を募らせる。
「かつての新型、ソリッドをはじめとしたMSの開発に、私たちは着手していました。しかし情報の漏洩を懸念したボルド・タイタンは、暗殺部隊を使って、私たちの抹殺を図ったのです。」
「ソリッドを開発した!?・・ボルドめ、どこまで勝手なマネを・・!」
男たちの語りかける事情を聞いて、アルバが憤りを覚える。
「しかし、ボルドのその不審な動きを察知していた私たちは、密かに脱出する計画を練っていました。実行するときに襲撃を受けて、多くの同胞は命を落としてしまいましたが・・」
「そんなことが・・・それで、今までずっとオメガから、ボルドから逃げ続けていたのですか・・?」
リリィが質問を投げかけると、男たちは小さく頷いた。
「私たちは逃亡を続けながら、ボルドの動向を探ってきました。しかし、ボルドの指揮の下で構築されていく最新型のMSの完成を食い止める術を、我々は持っていませんでした・・」
「いや、気にしなくていい。結果的に、オレがフューチャーを乗ることになったのだから・・」
謝意を見せる男たちに、アルバが弁解を入れる。
「私たちには、最新型のMSのデータも入手しています。スペック、武装、性能、全ての情報がこちらにもあります。もちろん、損傷したフューチャーを修復することも可能です。」
「えっ!?それじゃ、フューチャーはまた万全の状態で・・」
男たちの言葉に声を上げたのはリリィだった。男たちは自信を持って頷く。
「早速修理に取り掛かります。ソリッドのメンテナンスもあわせて行います。」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
男たちの協力に、リリィが感謝の言葉をかけて頭を下げる。アルバも喜びを感じて、笑みをこぼしていた。
「それで、どれほどの時間で治せるんだ?」
アルバが質問を投げかけると、カインが深刻な面持ちを浮かべて考え込む。
「よく見てみないと断定できないけど、大きな損傷でないのは確かだから、1日あれば確実に修復できるよ。」
「そうか・・なるべく急いでくれ。リードが何を仕掛けてくるか分からないからな。」
「分かっている。すぐに取り掛かろう。」
アルバの言葉にカインは頷き、数人の男たちを引き連れて、フューチャーとソリッドの修繕に取り掛かった。
「2人は休んでください。これから食事を用意しましょう。ありきたりなものですが・・」
「構いません。いろいろとありがとうございます。」
男の言葉にリリィが感謝の意を示す。その後、アルバとリリィは休憩室に案内された。
それぞれが個室になっており、1人から2人で過ごす形となっていた。
「別々にしたほうがいろいろと問題が出なくていいと思ったのですが・・」
「いえ、大丈夫です。ここまで手を回していただいて・・」
照れ笑いを見せる男に、リリィが弁解を入れる。
「何かありましたら、通信機がありますので。では。」
男はそういうと、アルバたちの前から去っていった。緊張の連続からひとまず解放されたことに、2人は思わず安堵を感じていた。
だがすぐに2人は、物悲しい笑みをこぼした。
「やっと一息つけたというところか・・・」
「でも、心から喜べないのが本当のところなんだけど・・」
互いに言葉を口にするアルバとリリィ。緊張の糸が途切れ、彼女が涙を流す。
「今まで、当たり前のように一緒にいた人がいなくなって・・どうしたらいいのか分からない・・・“普通だった”っていうのがものすごく大事なことだって思い知らされた・・本当に皮肉な話ね・・」
「そうだな・・オレもそう思えてならない・・・」
「どうしてこんなことになっちゃったんだろう・・どうして私たちだけが・・・」
「何を言う、リリィ・・ここでオレたちが死ねば、カーラたちが浮かばれないだろう・・・」
「でも!たくさんの命を踏みつけてまで、私は生きていくことなんてできない!」
「やめろ!」
自分を責めるリリィの言葉を、アルバが怒鳴ってさえぎる。その怒号にリリィが困惑を浮かべる。
「リリィ、お前は今まで、何のために戦ってきた!?戦う理由が分からなくなっていたオレとは違うだろう!」
「アルバ・・・」
「お前は世界の平和と未来を望んでいる!そのためにお前は必死に戦ってきた!それはお前だけの願いじゃなくなっている!それはお前がよく分かっているはずだ!」
「でも・・・」
「確かにカーラたちは命を落とした・・彼らを守りきれなかったオレの弱さと罪だ・・・だが彼らは今も、オレたちのそばにいる!」
「えっ・・・!?」
「正確には、オレたちの中、だがな・・・オレたちが強く思うなら、彼らはこれからも生き続けていく・・・!」
アルバが強く言いかけると、戸惑いを隠しきれないでいるリリィを抱きしめる。アルバはリリィに、自分の想いを真っ直ぐに伝えようとしていた。
「オレたちは生きていくんだ・・どんなことがあっても、オレたちはオレたちの未来を切り開いていくんだ・・・!」
「アルバ・・・!」
「オレの償いを、お前は見届けるんだろう?・・なら、ここで朽ち果てるわけにいかないだろう、リリィ・・・!」
アルバに励まされて、リリィが心を打たれた。彼女は自分の戦う理由、生きる理由を思い返していた。
「ありがとう、アルバ・・これからも、あなたと私は一緒に行けそうね・・・」
「あぁ・・一緒に答えを見つけていこう・・オレたちのそれぞれの答えを・・・」
絆を深めたアルバとリリィ。2人は抱擁の中、互いの心を通わせていた。
(オレは戦う・・オレたちは生き続ける・・・たとえ果てしない未来の先にあったとしても、求める答えを見つけるために・・・)
自身の決意を募らせていくアルバ。彼は心密かに、ソワレとの対決を予感していた。
次回予告
彼は平和を望んでいた。
彼は幸せをもたらしたかった。
たとえ自己満足だったとしても、いつか報われるものだと信じて。
青年の心は今、さらなる高みへと昇華されていく。