GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-41「鋼鉄の死神」
壮絶なる戦いの後、束の間の休息を取っていたソワレたち。休憩室ではコーラサワーが仕切り、クルーたちが舞い上がっていた。
「相変わらずね、コーラサワーは・・」
「ですが今はコーラサワーさんがいてよかったと思いますよ・・あの人の今のような明るさに、僕たちは元気をもらっているのですから・・」
呆れて肩を落とすマリアと、笑顔を浮かべるソワレ。
「僕たちが戦っている理由が間違っているとは思っていません・・それでも何かを傷つけることに変わりありませんから・・」
「そうね・・それが私たち軍人だから・・・それでも、平和を取り戻すために、この手を血で汚さなければいけない・・」
ソワレが言いかけると、マリアも深刻な面持ちで答える。
それが軍人の宿命だった。平和をもたらすために、自らが殺人者とならなければならない。表向きには同胞たちから賞賛を受けることになるが、命を奪った罪は消えない。
「いつか僕たちは罰せられることになる・・でもその前に、僕たちにはやらなくちゃいけないことがある・・」
「本当の平和・・ソワレくんが今まで抱えてきた平和への願い・・それを叶えるために・・みんなが幸せでいられる未来を・・」
互いに言葉を掛け合い、思いを秘めるソワレとマリア。
「その通りだ、2人とも。」
そこへドーマが声をかけてきた。ソワレとマリアが彼に敬礼を送る。
「いや、かしこまらなくていい。今はそんな堅苦しいところではないからな。」
「そうですか・・しかし、彼はさすがに羽目を外しすぎかと・・」
弁解を入れるドーマに答えながら、マリアが横目でコーラサワーを見る。コーラサワーはクルーたちと騒ぎ立てて、完全に有頂天になっていた。
「今は構わない。ああいう形であろうと、気分転換になるのならばそれに越したことはない。ただ・・」
「ただ?」
「個人的には、あまり関わりを持ちたくはないが・・」
「それは私も同意見です。公衆の面前であんな態度を取らぬよう、強く言っておきますから・・」
ドーマとマリアが肩を落とし、ソワレが苦笑いを浮かべる。
「ところでドーマさん、このままクレストに滞在するのですか?」
「いや、タイタンのチェックを済ませたら、すぐにここを発つつもりです。」
ソワレが訊ねると、ドーマは落ち着きを払って答える。
「ビンセント艦長には事情は説明してあります。私はこれから議長から命ぜられている任務を遂行します。」
「そうですか・・自分も全力で戦い抜きます。ですのでドーマさん、絶対に死なないでください。」
絶命するドーマに向けて、ソワレが真剣な面持ちで言いかける。その言葉に一瞬当惑を見せるも、ドーマは笑みを見せる。
「何気に失礼なことを言ってくるな、ソワレ。心配するな。私は死なない。議長の思い描く未来が現実のものとなる、その日まで・・」
「ドーマさん・・・し、失礼しました!」
我に返ったソワレが気まずさを覚え、ドーマに頭を下げる。そんな彼の肩に、ドーマが優しく手を添える。
「私とお前は、議長から世界の未来を託された者同士だ。戦場は違えど、願いと志は同じだ。」
「ドーマさん・・・」
「ともに戦おう、ソワレ。お前とゼロなら、どんな壁も突き破ることができる・・たとえあのアルバ・メモリア、フューチャーであったとしても・・」
ドーマのこの言葉に、ソワレは不安を覚える。彼はアルバに対するわだかまりを思い返してしまった。
「では私は行くとしよう。ビンセント艦長によろしく。」
「分かりました。お気をつけて、少佐・・」
言いかけるドーマにマリアが声をかけて敬礼を送る。アルバは呆然となったまま、ドーマが去っていくのを黙って見送ることしかできなかった。
「やはり少し休んだほうがいいわね、ソワレくん。」
ドーマが見えなくなったところで、マリアがソワレに言いかける。
「一緒に来なさい、ソワレくん。ソワレくんは、今はいろいろと考え込んでいるのよ・・」
「いろいろと考え込んでいる・・・そうかもしれませんね・・いろいろありすぎて、考えが追いついていないというのが本当なんですが・・」
「それが普通よ・・アレみたいに無神経すぎるのは、逆に問題だけど・・」
マリアが言いかけてコーラサワーを指差す。未だに舞い上がっているコーラサワーを眼にして、ソワレが苦笑いを浮かべた。
メタトロンを撃墜され、多くの部下を失ったエリア。だが事前に戦況を聞いていたスタンは、彼女をとがめようとしなかった。
「オメガめ・・次から次へととんでもない代物を・・・!」
「アンチクラスターは、あの最新型2機の動きを封じ込めました。ですがザクがあれほどの猛攻を見せてくるとは・・」
「それにあの機体・・状況はますます厄介になってきている・・・」
エリアが言いかけると、スタンが苛立ちを募らせる。
「とにかく改めてアンチクラスターの再導入を。既にプロトタイプが複数、開発の最終段階に入っています。」
「そうか。くれぐれも出遅れるな。オメガは必ずアンチクラスターを封じるために、我々の懐に飛び込んでくるぞ。蜂の巣にならない核心を持ってな。」
エリアの言葉にスタンが頷く。彼女はオメガの総攻撃に備えて、万全の体勢を取ろうとした。
「大変です!敵襲です!」
「何っ!?」
そこへ飛び込んできた1人の兵士。その報告にスタンが声を荒げる。
「何者です!?この地球連合本部に攻撃を仕掛けてくるとは・・!」
「先日のリードのMSです!単独で攻めてきました!」
「何だとっ!?」
エリアが問い詰めると兵士が答え、それを聞いたスタンが再び驚愕の声を上げる。突然の敵の襲撃に、地球連合本部は騒然となった。
ボルドからの指令を受けて、ドーマはタイタンを駆り、単独行動で地球連合本部に接近していた。
(連合は私の接近に気付いているだろうが、このタイタンがいる限り、問題ないことだ。)
胸中で呟くドーマが、連合本部を見据える。連合は迎撃体勢に入り、ソルディンが続々と発進してきていた。
「アリが何匹集まろうとアリでしかない。巨人に踏み潰される運命は覆せない・・・!」
ドーマが不敵に言いかけると、タイタンが向かってくるソルディンに向けてビーム砲を発射する。その光線の刃でソルディンたちが両断され、爆発していく。
「抵抗など愚の骨頂だ。せめて敵前逃亡を決め込めばいいものの。恥だが、それ以外に生き延びられる可能性はない。」
ドーマは言いかけると、その攻撃の手を連合本部に及ばせた。
「もっとも、その希望もすずめの涙程度ではあるがな・・」
炎に包まれる本部を見下ろして、ドーマが不敵な笑みを浮かべていた。
「私も出撃します!本部を失うわけにはいきません!」
スタンに声をかけて、エリアが議長室を飛び出そうとする。
「勝算はあるのか、エリア?相手はメタトロンやアルテミスを一撃で撃墜させたヤツだぞ。」
そこへスタンに声をかけられて、エリアが足を止める。
「たとえ万にひとつの勝機がなくとも、ここで退けば我々の完全なる敗北は必死。たとえ刺し違えてでも、私は必ずヤツを倒してみせます・・・!」
「そうか・・地球連合の未来、お前に託しても構わんか・・・!?」
「お任せを、議長。必ず議長に勝利を・・・!」
スタンの言葉を受けて、エリアが振り返って敬礼を送る。そして彼女は改めて議長室を飛び出していった。
(頼むぞ、エリア。ボルドなどという愚か者などに、この世界の未来を任せてたまるか・・・!)
ボルドへの憎悪をたぎらせて、スタンは戦況を見守った。
襲撃を仕掛けてきたタイタンに対し、ソルディンや本部に搭載された銃砲で迎撃に出る連合軍。しかしタイタンの驚異的な性能の前に、地球連合は追い込まれる一方だった。
「どこまで無駄な抵抗を・・改めて確認させれもらったぞ。お前たち旧人類は、我々オメガの足元にも及ばない低俗な種族であると・・」
ドーマがあざ笑い、タイタンがさらなる攻撃を仕掛けていく。この劣勢を目の当たりにして、エリアが苛立ちを募らせていた。
(オメガ・・どこまでも我々を愚弄する存在・・貴様たちに我々の、世界の未来を閉ざされてたまるか・・・!)
「エリア・バウザー、スフィア、発進します!」
エリアの掛け声とともに、スフィアが連合本部から発進した。攻撃を続けるタイタンの前に、スフィアが現れる。
「お前か・・まがい物とはいえ、かつて新型と呼ばれていたMSを開発してみせるとは。さらにクラスターシステムを無力化する兵器まで作り上げるとは・・」
ドーマがスフィアを眼にして、嘆息をもらす。
「旧人類でありながら大したものだ。もっとも、賞賛できるのはそれだけだがな・・」
「これほどまでの愚行を行った後で、おしゃべりをするとは・・・さすがはオメガというべきか・・・」
ドーマの言葉に対して、エリアが不敵な笑みを浮かべる。だがその微笑が消え、すぐに憤りの表情へと変わる。
「どこまでも愚弄してくれる・・虫唾が走るわ!」
エリアが眼を見開き、スフィアがレールガンによる同時発射を放つ。だがタイタンもビーム砲を放ち、その射撃を相殺する。
「特殊効果はいい。だが火力はタイタンには及ばない。」
ドーマが不敵に言い放つと、タイタンがエネルギーを集束させる。トライデストロイヤーをスフィアに向けて放とうとしていた。
「全アンチクラスター、照射!」
そのとき、エリアが命令を下す。本部に搭載されていた数機のアンチクラスターが起動し、タイタンに向けてエネルギー供給を遮断する音波を放つ。
その音波を受けたタイタンが動きを止める。
「形勢逆転のようだな。これでお前は身動きがとれず、格好の的となるのみ・・」
エリアがタイタンに向けて不敵に言い放つ。スフィアが再びレールガンを発射しようとする。
「こんなことでこのタイタンを止められると思っていたのか?」
ドーマが言いかけた瞬間、一瞬行動を停止していたタイタンが活動を再開した。
「バ、バカな!?アンチクラスターを受けているにもかかわらず、動けるなど・・!?」
エリアがその光景に驚愕をあらわにする。アンチクラスターは正常に機能しており、タイタンにも効力を及ぼしているはずだった。
「手の内を見せすぎたな。いつまでも自分の弱点を改善しないと思っていたのか?」
ドーマが不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「エネルギー供給を遮断する音波。このタイタンには、その音波と相対的な性質の音波を放つことが可能なのだ。」
「何だとっ!?」
「これにより音波は相殺され、一時的ではあるがアンチクラスターを無効化することができる。お前たちの希望も、これで封じられた・・」
驚愕するエリアに言い放つドーマ。タイタンがエネルギー砲を発射し、本部にあるアンチクラスターを全て破壊した。
「これでお前たちの望みは潰えた。このままお前たちは、私に滅ぼされる以外にない・・・!」
「おのれ!オメガが我らにとって代わるなど!」
鋭く言いかけるドーマと、それに激昂するエリア。スフィアがレールガンを発射するが、タイタンは素早い動きで回避する。
「無駄な抵抗というのは、どこまでいっても見苦しいものだな・・・!」
ドーマが言い放ち、タイタンがスフィアの背後に飛び込んだ。
「もうやめろ・・いい加減に死ね・・・!」
ドーマの冷徹な言葉が響いた瞬間、タイタンから放たれたビーム砲が、スフィアの胴体を貫いた。火花を散らしながら落下していくスフィアが、地上に落ちる前に爆発を起こした。
「そんな・・・!?」
「少佐・・少佐!」
ソルディンのパイロットたちが悲痛の叫びを上げる。地球連合の主力となっていたスフィアが、タイタンによって撃墜された。
「もう終わりだ、旧人類・・せめて、華々しく散れ・・・!」
タイタンの放ったトライデストロイヤーが、地球連合本部に叩き込まれた。
「議長、本部はもう持ちません!早く退避を!」
部下の兵士に連れられて、スタンは本部を脱出しようとしていた。
「まさか、本部が落とされるとは・・・!」
「議長が生きておられれば、連合軍は立ち直ります!さぁ、早く避難を!」
歯軋りを見せるスタンに、兵士がさらに呼びかける。スタンは渋々用意された宇宙艇に乗り込んだ。
彼らが乗り込んだ宇宙艇は、本部が用いる中で最速のものだった。その船で一気に大気圏を抜ける計らいだった。
だがその動きは、全てドーマに筒抜けになっていた。
「このまま逃がすと思っているのか?」
飛翔した宇宙艇に向けて、タイタンがビーム砲を放つ。突然の発砲に、宇宙艇の操縦士が不意を突かれ、回避が取れないまま撃ち抜かれる。
「お、おのれ、ボルド!」
スタンの断末魔の叫びを残して、宇宙艇が爆発し、消滅した。
「さらば、スタン・ヴァイザー・・お前の人生は、我らオメガの立役者として祀り上げられるだろう・・」
空に散ったスタンを弔い、ドーマが不敵な笑みを浮かべた。タイタンの猛威によって、地球連合は壊滅的な被害を被った。
「こちらドーマ・フリークス。任務完了。これよりプラネットGに帰還します。」
ドーマがリード本部に連絡を入れて、移動を開始した。タイタンの登場で、旧人類とオメガの戦争が終局に向かおうとしていた。
地球連合本部の壊滅の知らせは、プラネットGにいるボルドの耳にも届いていた。
「そうか。ついにやったか・・分かった。お前はもう下がっていい。」
「分かりました。失礼します。」
笑みを見せるボルドの言葉を受けて、報告に来た兵士が議長室を後にする。その後、ボルドが歓喜を抑えきれずに、高らかに哄笑を上げる。
「これで世界の歪みとなった旧人類、地球連合は滅びた・・これでオメガの発展を阻む根源は消え失せた・・・」
自分が生きてきた中で最高の喜びをあらわにするボルド。スタンが命を落とし、地球連合は壊滅的な被害を受けた。
「アルテミスも落とされ、我々に対する反乱分子も消え失せた・・」
ボルドが言いかけて、唐突に笑みを消した。
「アルテミスの生き残りであるフューチャーとソリッド、ディアス以外はな・・・!」
アルバへの憎悪をたぎらせるボルド。連合軍が弱体化した今、彼が敵視する相手はアルバのみとなっていた。
「ヤツの行方を探し出して、八つ裂きにしてくれる・・・クレストに通達!フューチャー、ソリッドを捜索し、破壊せよ!パイロット共々粉砕するのだ!」
思い立ったボルドが、議長室の前にいた兵士に呼びかけた。
地球連合壊滅の知らせを受けて、ガルは困惑を感じていた。そんな彼に向けて、ボルドからの指令が飛び込んできた。
「我らはあの2機の追跡か・・これも因果というものか・・」
通信を終えたガルが、肩を落としてため息をつく。
「だが、私としても、このまま連中を野放しにしておく気にもなれないからな・・もっとも、そう思っているのが、オレよりもいつはずだ・・」
ガルは呟きかけて、ソワレのことを考えていた。アルバとソワレ。2人の青年の運命は、まだ終わりを迎えてはいなかった。
次回予告
仲間を失い、途方に暮れていたアルバとリリィ。
砕かれた力と思いに、希望は残されているのか?
新たなる色へと世界を塗り替えようとするボルド。
その野心に立ち向かう存在が、まだ残されていた。