GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-40「タイタン」
突如アルバたちの前に現れたタイタン。ドーマの駆るタイタンはメタトロンとソルディンたちを撃墜し、アルバの乗るフューチャーにもその矛先に向けてきた。
タイタンが放ったエネルギー砲「トライデストロイヤー」を回避するフューチャー。標的を外した砲撃は地面にぶつかると、連鎖するように次々と爆発を引き起こした。
「これは・・・!?」
「この爆発・・反応爆発のような感じ・・あんなのを受けたら、戦艦でもひとたまりもないわ・・!」
トライデストロイヤーの驚異の威力に、アルバとリリィが驚愕の声を上げる。その砲撃を受けた緑の山地が、全て黒く焼け焦げてしまっていた。
「理解できたか?たとえフューチャーであろうと、このトライデストロイヤーを受ければ無事では済まない。」
ドーマがアルバに向けて冷淡に告げる。
「このタイタンの力、お前にも存分に味わってもらうぞ、アルバ・メモリア!」
いきり立ったドーマ。タイタンがフューチャーに向けて、さらなるビーム攻撃を仕掛ける。
「これでは近づけない!近づこうとしても、あの速さで振り切られてしまう!」
状況打破に対してアルバが毒づく。強化型ビームライフルで射撃しているが、タイタンの速さに追いつけていない。
「2人で追い込もう、アルバ!」
そこへソリッドのリリィがアルバに向けて声をかけてきた。
「相手の動きが速いなら、うまく回り込んで追い詰められる!相手は1機!私たちが力を合わせれば、勝てない相手じゃない!」
「リリィ・・・分かった!援護を頼む!」
リリィの励ましを受けて、アルバが意識を集中する。ソリッドが交戦に加わって、タイタンを狙い撃つ。
この射撃もタイタンは軽々とかわす。だがその動きに合わせて、フューチャーがタイタンに迫り、エクスカリバーを振りかざしてきた。
「くっ!」
ドーマが眼つきを鋭くして、タイタンが紙一重でその一閃をかわす。そしてそのまま上空へと飛翔していく。
「雲の中に隠れたか・・・ぐっ!」
タイタンに注意を向けすぎたため、フューチャーが背後からビーム攻撃を受け、アルバがうめく。だがフューチャーはさほどダメージを受けておらず、すぐに体勢を立て直した。
「お前の相手は僕だ、アルバ!」
「ソワレ!」
呼びかけるソワレに毒づくアルバ。リリィの駆るソリッドの前にも、マリアの乗るルナが立ちはだかる。
(このままあの機体を野放しにするわけにいかない・・早く位置を特定しないと・・!)
「艦長!あの機体の位置を割り出してください!遠距離タイプで、その砲撃もかなり威力が高いです!」
思考を巡らせるリリィが、アルテミスに呼びかける。
「分かっている!でもこっちのレーダーの外に出ているようなの・・!」
「レーダーの外に!?・・そんなに距離を取っているのですか・・・!?」
カーラの言葉にリリィが声を荒げる。彼女もルナに注意を向けつつ、タイタンの行方を追う。
(どういうことだ?レーダーからも外れるほどに離れて、何をしようとしているんだ・・・!?)
アルバもタイタンの動きに疑問を抱いていた。彼はドーマの狙いを必死に模索する。
(あの機体は遠距離タイプ。しかもかなり距離を置いても攻撃ができる。しかもその威力は絶大・・・まさか!?)
「アルテミス!すぐにそこから離れろ!」
思い立ったアルバが呼びかける。その瞬間、上空から一条の閃光が降下し、アルテミスを貫いた。
「キャアッ!」
「うわっ!」
レミーとキーオが悲鳴を上げる。アルテミス艦体、艦内で激しい爆発が巻き起こる。
機器が爆発し、瓦礫が次々と崩れ落ちてくる。
「レミー!」
キーオがレミーをカーラに向けて突き飛ばす。その彼に瓦礫が落下した。
「キーオさん!」
「全員脱出して!このままでは危険よ!」
レミーが悲痛の叫びを上げる横で、カーラがクルーたちに呼びかける。
ハルも必死に廊下を駆け抜けて、脱出を考えてカーラとレミーと合流する。
「艦長、大丈夫ですか!?・・キーオさんは!?」
「それが、私を庇って・・・」
ハルが呼びかけると、レミーが悲痛さを込めて答える。
「今は脱出のときよ!アルテミスが・・!」
カーラが2人に呼びかけたときだった。瓦礫がさらに落下し、ハルとレミーを庇ったカーラを巻き込んだ。
「艦長!」
レミーがカーラに駆け寄ろうとするが、ハルに止められる。
「ダメだ、レミー!ここは逃げるしかないよ!」
「ハルの言うとおりよ!あなたたちは早く逃げなさい!」
カーラにも呼びかけられて、レミーは涙をこらえてハルとともにこの場を離れる。そしてあと少しで出入り口に差し掛かるところまで来ていた。
そのとき、2人が向かってきていた先から炎が飛び込んできた。
「うわあっ!」
「キャアッ!」
悲鳴を上げたハルとレミーを、容赦なく炎が包み込んでいった。
「カーラ!ハル!みんな!」
「早く助けに行かないと!」
アルバとリリィが声を張り上げ、アルテミスに駆け込もうとする。だがゼロとルナに行く手を阻まれる。
「どけ!今はお前たちの相手をしているわけにいかないんだ!」
アルバが叫び、フューチャーがエクスカリバーを振りかざす。だがその一閃がゼロのトラスカリバーに受け止められる。
「お前の相手は僕だといっている!」
ソワレがアルバに向けて鋭く言い放つ。アルバが力任せにゼロを退けようとする。
“アルバ、リリィ、もういいわ・・”
そこへカーラからの通信が入ってきた。彼女が携帯している小型の無線機を使ってのものだ。
“私たちは、どうやらここまでのようね・・・あなたたちは、すぐにここから離れなさい・・・”
「でも、それでは艦長たちが!」
呼びかけるカーラに、リリィが悲痛の声を上げる。それでもカーラは2人にさらに呼びかける。
“この乱れていく世界に本当の未来を切り開けるのは、あなたたちだけ・・私は、そう信じてる・・”
「艦長・・・!」
“アルバ、リリィ・・あなたに、私たちの全てを託すわ・・・この世界に、平和と未来を・・・”
この言葉を最後に、カーラからの通信が途絶えた。アルテミスが大爆発を起こし、消失した。
「カーラ!」
「みんな!」
アルバとリリィが悲痛の叫びを上げる。タイタンによってアルテミスは撃墜。カーラ、ハル、レミー、キーオたちクルーも戦場に散った。
「そんな・・・カーラが・・みんなが・・・!?」
仲間たちの死に愕然となるアルバ。動きが止まったフューチャーに向けて、ソワレの乗るゼロが迫る。
「アルバ!」
リリィの声で我に返ったアルバ。ゼロが突き出してきたトラスカリバーを、フューチャーがエクスカリバーで受け止める。だが衝撃までは抑えきることができず、フューチャーが突き飛ばされる。
「アルバ、大丈夫!?」
「リリィ・・・すまない・・・!」
リリィからの声にアルバが答える。だが彼にはまだ、心の揺らぎが残っていた。
「アルバ、ここは撤退したほうがいい!このままでは私たちもやられてしまう!」
「しかし・・・!」
「私たちがやられたら、何もかも終わりよ!艦長たちの思いをムダにしないで!」
「リリィ・・・分かった・・・ここは引き上げる!」
リリィの言葉を受け入れたアルバ。フューチャーがビームライフルを撃つが、ゼロがかざしたビームシールドに防がれる。
だがフューチャーはその隙に、ソリッドとともにこの場から離れていく。
「逃がさないぞ、アルバ!」
“追わなくていい、ソワレ!”
アルバを追撃しようとしたソワレを、クレストのガルが呼び止める。
「ですが艦長、あと少しでフューチャーとソリッドを・・!」
“我々も万全の体勢であるとはいえない。万が一、お前たちに何かあったら・・”
「艦長・・・」
“全機帰艦だ!負傷した者の救出も急げ!”
ガルの呼びかけを受けて、ソワレは撤退を決めた。
「戻りましょう、ソワレくん・・私たちも疲れが溜まっているわ・・」
ルナのマリアにも声をかけられて、ソワレは無言で頷いた。
「おーい!早く助けに来てくれー!」
海岸にて、撃墜させられたコーラサワーが悲鳴染みた声を上げていた。
「ドーマ・フリークス、君もクレストに来てくれ。」
「分かりました、ビンセント艦長・・」
ガルに呼びかけられて答えるドーマ。タイタンもクレストに乗艦するのだった。
壮絶な戦いを終えて、クレストに戻ってきたソワレ、マリア、コーラサワー。だがソワレの心にわだかまりが残っていた。
そんな彼の前に、同じくクレストに乗艦してきたドーマが現れた。
「すまなかったな、ソワレ・ホークス。割り込んでしまって・・」
ドーマに声をかけられて、我に返ったソワレが振り返る。
「いえ、そんな・・それよりも、またしてもフューチャーを仕留め損なって、申し訳ありません・・」
「気にすることはない。君たちはよく戦ってくれた・・結果、連合の戦力を大幅に削ることができ、さらにアルテミスも討つことができた。これは君たちの活躍の賜物であると、私は考えているのだが・・」
「そんな大げさな・・僕なんかまだまだ・・・」
ドーマの賞賛に、ソワレが戸惑いを見せる。
「会話をしているところ、すまないが・・」
そこへガルが現れ、ソワレとドーマに声をかけてきた。
「お久しぶりです、ビンセント艦長。突然の来訪、失礼しました。」
「いや、それは構わない。議長から独自行動の権限を与えられているのだろう・・それよりも、君に聞きたいことがあるのだが・・」
「私が乗ってきた機体、タイタンのことですね?」
ドーマが問いかけると、ガルは小さく頷いた。
「2人だけで話をしよう・・他の者は待機だ。十分に休養を取っておいてくれ。」
ガルはクルーたちに呼びかけると、ドーマを連れて艦長室に向かった。その席に腰を下ろしてから、ガルはドーマに向けて声をかけた。
「では改めて聞こうか・・君が乗ってきたあの機体について・・」
「はい。あのタイタンは、議長の指揮の下に開発された最新型のMSの1機です。議長の推薦を受けて、私が搭乗することとなりました。」
「議長の・・ソワレの乗るゼロと、奪取されたフューチャーと並ぶ最新式か・・」
ドーマの説明を聞いて、ガルが頷きかける。
「私は議長から、地球連合をはじめとした反乱分子の排除を命ぜられました。それに伴って、あなた方への議長からの指令を預かってきました。」
「指令?」
ドーマが持ち出した言葉に、ガルが眉をひそめる。
「アルテミスの撃墜。そしてフューチャーの奪還。不可能の場合は破壊も可。もっとも、前者は既に私が遂行してしまったのですが・・」
「その指令、フューチャーの奪還、または破壊、確かに承った。」
ドーマから聞かされた指令を了承するガル。
「私はタイタンの整備のため、少しの間こちらに滞在させていただきます。ですがすぐにここを離れて任務を開始するつもりです。」
「我々とともに行動しないのか?そうすればうまく連携も取りやすいのだが・・」
「お心遣い、感謝いたします。ですが私はあくまで独自行動を行っている身ですので。残念ですが、艦長の指揮下に入るわけには参りません。」
「そうか・・・すまない。余計なことを言ってしまったようだ・・」
「いえ、お気になさらず。全ては議長のためですから・・」
謝意を見せるガルに、ドーマが弁解を入れる。
「この混沌としている世界に、正しき未来を切り開く。それが議長の意思であり、私の全てでもあります・・」
自身の考えを切実に言いかけるドーマ。ボルドのもたらすオメガの改革が、さらなる拍車をかけようとしていた。
リードの猛攻から辛くも脱出したアルバとリリィ。彼らは人気のない孤島に身を潜めていた。
2人の心にはかつてない悲しみが駆け巡っていた。これまでともに戦ってきたアルテミスの仲間たちが、タイタンの攻撃によって命を落としてしまった。
彼らは肉体よりも、精神的疲労のほうが大きくなっていた。
「艦長・・ハル・・レミー・・キーオさん・・・」
「どうして・・どうしてこんなことになってしまったんだ・・・」
リリィが涙を浮かべ、アルバが歯がゆさのあまり、そばの樹に拳を叩きつける。
「アイツらは必死に戦っていた・・そのアイツらが、どうして死ななければならないんだ・・・!」
「アルバ・・・」
「オレのせいなのか・・オレが罪人だから、アイツらが死んだのか・・・!?」
「アルバ、何を言って・・・!?」
アルバが唐突に口にした言葉に、リリィが当惑を見せる。
「これが罪を犯したオレに対する罰なのか・・ならば死ぬのはオレのはずだ・・なぜアイツらが死ぬことになる・・・!?」
「アルバ、もういいよ!もうやめて!」
アルバの悲痛さを見かねたリリィが、背後から彼を抱きしめる。
「しかしリリィ、でなければアイツらが浮かばれない・・オレのせいなんだ・・・!」
「もういいよ、アルバ・・もういいから・・・こんなアルバを見ているほうが、私もあなたももっと辛くなるよ・・・」
リリィに呼びかけられて、ようやく叫ぶのをやめるアルバ。だが込み上げてくる悲しみを引っ込めることはできないでいた。
「私もアルバと同じくらいに辛く、悲しい・・だからって、そんなに強く自分を責めるのもよくないよ・・そんなの、艦長やみんなも望んでない・・・」
「そんなので・・そんな割り切り方で、オレの罪が消えるとは思えない・・・」
自分への憤りに、アルバが拳を強く握り締める。その手に爪が食い込み、血があふれ出る。
「今だけじゃない・・前にもこんな辛さを感じたことがあった・・デイジー、マルナが死に、お前も死ぬ手前まで傷ついた・・オレがいたから・・俺がいたからみんな・・・」
「違うって!」
さらに自分を責めるアルバに見かねたリリィが、彼の頬を強く叩いた。頬に痛みを覚えて、アルバが唖然となる。
「何もかも自分の背負い込んで、自暴自棄になって・・アルバ、あなたはそんなに弱かったの・・・!?」
リリィが言いかける言葉に、アルバが戸惑いを覚える。彼女の眼から涙があふれ、頬を伝っていた。
「確かにあなたは罪を犯した・・たくさんの大切なものを奪った過去の罪が・・でも、自分を責めるだけじゃ、罪が消えるなんてことはない・・今のようにわめいたって、みんなが帰ってくるわけでもないし、喜ぶわけでもない・・」
「リリィ・・・」
「本当の償いのために、あなたは戦わないといけない・・そう、あなた自身が決めたことでしょ・・・!?」
リリィのこの言葉を聞いて、アルバが戸惑いを覚える。彼は自分が打ち立てた決意を思い知らされていた。
自分の罪の償いのため、自身の答えを見出すため、本当の未来を切り開くため、彼はこれからも戦うことを心に誓った。
その思いを思い返すほどに、カーラたちを失った悲しみが込み上げてくる。
「くそ・・くそっ!ちくしょうっ!」
アルバの絶叫が、孤島の空に響き渡った。
次回予告
ついに姿を現したタイタン。
ボルドの意思を背に受けたドーマの侵攻。
世界を揺るがす驚異の力。
地球連合と対峙するタイタンが、そのヴェールを脱ぐ。