GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-39「血塗られた銃」

 

 

 メタトロンが発したアンチクラスターの影響で、動きを阻害されてしまったフューチャーとソリッド。2機はその範囲から辛くも脱することに成功した。

「ふぅ・・本当に厄介ね、あのアンチクラスターは・・」

「あぁ・・どこまでいっても厄介だ、あれは・・」

 リリィとアルバがたまらず口をこぼす。アンチクラスターの影響から解放され、フューチャーとソリッドの機動力が回復する。

「このまま戻っても、アンチクラスターの餌食になるだけだし・・」

「カーラたちが、アンチクラスターの活動を止めることができれば・・・!」

 固唾を呑むリリィとアルバ。2人はアルテミスに全ての希望を託す他なかった。

「カーラ!アルテミス!状況はどうなっている!?

“もう、本当に入り乱れてるって感じよ!ザクたちがスフィアとメタトロンを攻撃してるわ!”

 カーラの返答にアルバが眉をひそめる。フューチャーのレーダーを確かめると、様々な反応が入り乱れていた。

「もしかしたら、うまくいくかもしれないぞ・・」

「漁夫の利のような気がして納得しかねるけど・・」

 言いかけるアルバに、リリィが憮然とした態度を見せた。

 

 乱入してきたスフィアとメタトロンに、ザクたちが攻撃を仕掛けてきた。この状況にカーラは好機を見出しつつあった。

「このままクレストがメタトロンを何とかしてもらえればいいけど、そううまくいくとも思えないし・・」

「タイミングを見計らって攻撃しましょう!早くアルバとリリィの自由を取り戻さないと!」

 キーオが言いかけ、カーラが注意力を高める。彼女はアンチクラスターがスフィアではなく、メタトロンに搭載されていると見据えていた。

「本当にタイミングの問題ね。1分1秒も見逃せない・・」

 呟きながらも、カーラはさらにメタトロンへの注意を強める。

「メタトロン、陽電子砲の発射体勢に入りました!」

 レミーの声を聞いて、カーラが眼つきを鋭くする。彼女が狙っていた好機がついに訪れた。

「レイブラスター用意!目標、メタトロン!」

 カーラの呼びかけで、アルテミスもレイブラスターの発射を行おうとしていた。

 

「アルテミス、陽電子砲発射体勢に入りました!」

 だがアルテミスのこの動きは、メタトロンにも伝わっていた。だがザクとクレストの猛攻に、メタトロンはアルテミスに注意を集中することができないでいた。

「ダメです!防ぎきれません!」

「気付いているなら回避するんだ!みすみす的になることはない!」

 クルーたちの声が飛び交う。最悪の事態を避けようと、メタトロンが奮起する。

「目標変更!目標、アルテミス!」

 クルーの言葉でメタトロンが砲撃の矛先をアルテミスに向ける。2隻の戦艦がエネルギーを集束させて、火を噴いた。

「ってぇ!」

 カーラとメタトロンクルーの掛け声が重なる。アルテミスとメタトロンが同時に陽電子砲を発射する。

 メタトロンの砲撃は外れ、アルテミスの砲撃はメタトロンの前方部に直撃した。その影響で、アルテミスの備わっていたアンチクラスターの活動に乱れが生じた。

「アンチクラスター、機能低下!出力50%までダウン!」

 オペレーターが声を荒げる。この事態に、スフィアを駆るエリアが毒づく。

「すぐに体勢を立て直せ!アンチクラスターの出力を絶やすな!」

「少佐!」

「まだ希望は潰えていない!すぐに体勢を立て直し、敵新型を押さえろ!」

 エリアの呼びかけを受けて、メタトロンのクルーたちが奮起する。アンチクラスターこそが自分たちの勝機であると、彼らは改めて肝に銘じていたのだ。

「私がクレストとアルテミスを押さえる!地球連合少佐、スタン・バウザー議長に託された思いに賭けても、私はこの命を賭して戦う!」

 いきり立ったエリアが高らかに叫ぶ。その覇気にザクのパイロットたちが一瞬気負う。

「うろたえるなよ!たとえソワレとマリアちゃんが動けなくても、オレがいるぜ!」

 だがコーラサワーは物怖じしていなかった。彼の乗るザクスマッシュがメタトロンに迫るが、その前にスフィアが割り込んでくる。

「邪魔はさせないと言ったはずよ!」

「そっちこそ邪魔してくれるな!オレの1番の見せ所だからな!」

 鋭く言い放つエリアに、コーラサワーも負けじと言い返す。だがザクスマッシュのヒートホークを弾き飛ばし、スフィアがビームサーベルを振りかざし、ザクスマッシュの左わき腹を切り裂いた。

「な、何でいつもオレだけぇぇーーー!!!

 コーラサワーが絶叫を上げて、ザクスマッシュが落下していく。だが彼の言動に触発されて、他のパイロットたちも攻撃を再開する。

「こんなところで負けるわけにはいかない!」

「コーラサワーがやってるのに、オレたちがビビッてどうする!」

 いきり立ったパイロットたち。ザクたちがスフィアを取り囲み、ビームライフルで攻撃を加えていく。

「こんなもので、このスフィアを止められると思うな!」

 エリアが叫び、スフィアが加速する。ザクたちとの距離を取ったスフィアが、レールガンを発射する。

 その砲撃を受けて、ザクたちが爆発を起こして撃墜されていく。それでも他のザクのパイロットたちに諦めはなく、果敢に攻め立てていく。

「ソワレやマリア、コーラサワーがやってるんだ!」

「オレたちだってやれるんだってこと、見せてやる!」

「おのれ!量産型の分際で!」

 パイロットたちの叫びに、エリアが怒号を放つ。三つ巴の戦いはさらに激化していくのだった。

 

「アンチクラスターの効力が弱まった!」

「今よ、ソワレくん!今のうちにあの船を!」

 ソワレとマリアが言い放ち、コンピューターを操作する。活動を停止していたゼロとルナが再起動する。

 一気にエンジンを全開にするゼロとルナが飛翔する。2機は未だにアンチクラスターを修復していないメタトロンに迫る。

「再び作動される前に、完全に破壊する!」

 ソワレが言い放つ、ゼロがビームダガーを発してメタトロンに迫る。

「クレストの2機、活動を再開しました!」

「迎撃しつつ後退!絶対にやられてはならない!」

 メタトロンのクルーたちの声が艦内に響く。メタトロンがゼロとルナを迎撃しつつ、後退していく。

 だがそこへルナがレールガンによる長距離砲撃を繰り出してきた。その砲撃がメタトロンに直撃し、さらに追い詰めていく。

「これで終わりよ、連合!」

 マリアがメタトロンに追撃を仕掛けようとするが、そこへスフィアが割り込み、レールガンによる砲撃を仕掛けてきた。

「くっ!」

 マリアが毒づき、レールガンによる砲撃で迎撃する。2つの閃光がぶつかり合い、激しく火花を散らして弾け飛ぶ。

「邪魔はさせないと言ったはずだ!たとえ復活しようと、私が手は出させない!」

「ソワレくん、その機体は私が相手をするから、メタトロンを撃って!」

「マリアさん、分かりました!」

 エリアが言い放ち、マリアが呼びかけてソワレが頷く。

「させないと何度も!」

 エリアがゼロの特攻を阻もうとするが、ルナの砲撃に行く手を阻まれる。

「あなたの相手は私ですよ!」

 言い放つマリアに、エリアが苛立ちを募らせていく。メタトロンに迫るゼロの前に、出撃してきたソルディンたちが立ちはだかる。

「そこをどけ!もうこれ以上、お前たちの好き勝手にさせるわけにはいかないんだ!」

 ソワレが叫び、ソルディンたちに向けてビームダガーを振りかざした。その一閃でソルディンたちが両断されていく。

 だがソルディンの猛攻は、メタトロンを危機から遠ざけていっていた。

(このままではまたアンチクラスターが動き出してしまう・・・!)

 逆に危機感を募らせていくソワレ。その意思とは裏腹に、ゼロの特攻はソルディンによって完全に阻まれていた。

「ふぅ・・ここまでくれば・・」

「今のうちにアンチクラスターの修復を。念のためにレイブラスターの発射用意も。」

 メタトロンのクルーたちが声を掛け合い、万全の体勢まで引き戻そうと必死になっていた。

「こちらに接近する熱源2つ!アルテミスのMSです!」

「何だとっ!?

 そのとき、メタトロンのレーダーに反応が飛び込む。戦場に戻ってきたフューチャーとソリッドが、メタトロンに接近してきた。

「今度こそ終わりよ、メタトロン!」

「アンチクラスター、今度こそ破壊させてもらうぞ!」

 リリィとアルバが言い放ち、フューチャーとソリッドがビームライフルを撃つ。

「レイブラスター発射!フルチャージでなくてもいい!」

 クルーが呼びかけ、メタトロンがレイブラスターを発射する。最大出力に達していない砲撃だが、フューチャーとソリッドのけん制には至った。

「くそっ!どこまでも悪あがきを!」

 アルバが毒づき、リリィのソリッドの射撃による援護を受けながら、メタトロンへの接近を試みる。だがメタトロンも全ての銃砲を稼動させて抵抗する。

「お前たちの勝手にはさせない!スタン議長の理想、お前たちなどにつぶさせてたまるか!」

 クルーたちがアルバたちに向けて怒号をぶつける。彼らは自分たちの勝利のために必死だった。

 その信念が功を奏したのか、メタトロンに搭載されたアンチクラスターの補修が完了した。

「アンチクラスター、照射可能です!」

「よし!あの2機に向けて放て!」

 クルーたちが声を掛け合う。フューチャーがメタトロンの迎撃をかいくぐり、エクスカリバーを振り下ろそうとする。

 だがメタトロンから放たれたアンチクラスターの音波を受けて、フューチャーが動きを鈍らせる。

「ぐっ!」

 アルバが毒づきながらも、それでも攻撃を叩き込もうとエクスカリバーによる一閃を敢行する。振り下ろされた大剣は、メタトロンの前方部を切り裂くことに成功する。

「ぐおっ!」

 その衝撃でメタトロンが大きく揺れ、クルーたちがうめく。エクスカリバーによる一閃で、アンチクラスターが鼓動を停止させた。

「全ての銃砲をあの機体に撃ち込むんだ!回復の隙を与えるな!」

「了解!」

 クルーたちがさらに声を掛け合い、メタトロンがフューチャーに向けて、全ての銃砲を発射する。まだ動きが正常に戻っていないフューチャーに、砲撃が容赦なく襲い掛かる。

「アルバ!」

 リリィが叫び、ソリッドがメタトロンに向けて攻撃を仕掛ける。だがそれでもメタトロンの攻撃は止まらない。

「アルバ、リリィ、どいて!」

 そのとき、2人に向けてカーラの声がかかる。アルテミスがメタトロンに向けて、レイブラスターを発射する。

「アルテミス!」

 虚を突かれるメタトロンのクルーたち。必死に艦体を傾けるが、アルテミスの砲撃はメタトロンの右翼を貫いた。

「う、うわっ!ダメです、少佐!」

「もうこれ以上は、メタトロンが持ちません!」

 クルーたちがわめき、メタトロンが揺れる。追い込まれる事態に、エリアも危機感を膨らませていた。

「私が援護する!メタトロンはすぐに戦線を離脱しろ!」

「少佐!」

「お前たち、今までよくやってくれた・・責任は、攻め切れなかった私にある。お前たちは誇れ。ここまで戦い抜けた自分の底力を・・」

「艦長・・・」

「早く撤退しろ!ここは全力で私が食い止める!」

「了解!」

「撤退だ!引き上げる!」

 エリアの呼びかけを受けて、メタトロンが撤退を開始する。

「このまま逃がしてたまるか!」

「お前たちの相手は私だといったはずだ!」

 ソワレとエリアが鋭く言い放つ。トラスカリバーとビームサーベルがぶつかり合い、激しく火花を散らす。

(このまま持たせるのよ・・アンチクラスターが修理可能ならば、我々にまだ勝機はある・・・!)

 残された望みを絶やすまいと、力を振り絞るエリア。スフィアがゼロを押し返し、距離を取る。

(このまま引き付けておくのよ・・もう少し・・もう少し・・・!)

 ゼロ、ルナ、ザク、さらにはフューチャー、ソリッド、アルテミス、クレストにも注意を向けるエリア。彼女は必死にメタトロンを守ろうとしていた。

 そして他の2勢力が動きを見せないまま、メタトロンが戦線から離脱しようとしていた。

(よし!私もすぐにここから離れなくては・・!)

 絶好の機会を見出したエリアも、戦場からの離脱を行おうとした。

 そのとき、空から一条の光が雲を貫いて飛び込んできた。その閃光が後退していくメタトロンをも貫いた。

「何っ!?

 突然のことにエリアが眼を疑う。閃光を受けて、メタトロンが浮遊を保てなくなる。

「し、少佐・・少佐!」

 クルーたちの断末魔の叫びとともに、メタトロンが大爆発を引き起こす。

「お、お前たち!」

 部下たちの消滅にエリアが悲痛の叫びを上げる。

「何だ、今のは!?空からの攻撃!?

「あっ!あれ!あそこに何かが・・!」

 声を荒げるアルバと、上空を見上げるリリィ。彼らの戦う戦場のはるか上空に点在するひとつの機影。それが閃光を放射して、メタトロンを射撃したのである。

「何なの、あれ・・・!?

「あの形状・・あれもMSなの・・・!?

 レミーとカーラが眼を見開いたまま言いかける。それはボルドの野心を込められた最新式の機体の1機、タイタンだった。

「あれはタイタン・・ゼロ、フューチャーと並ぶ最新式のMS・・」

「えっ・・・!?

 ソワレが言いかけ、マリアも声を荒げる。他のパイロットたちやクルーたちも、タイタンの姿を凝視していた。

「地球連合、アルテミス、お前たちの命運もここまでだ。」

 タイタンに乗っているドーマが鋭く言いかける。

「この声・・ドーマ・フリークスか!」

 アルバがタイタンを鋭く見据えて、いきり立つ。

「おのれ!よくもメタトロンを!」

「貴様だけは、絶対に許さんぞ!」

 怒りをあらわにしたパイロットたち。ソルディンがタイタンに向かって特攻を仕掛ける。

「やめろ!お前たちの敵う相手では・・!」

 エリアが制止の声をかけるが、その声が届く前に、タイタンが放った光線がソルディンを次々と撃ち抜いていった。

 タイタンの驚異的な砲撃によって、メタトロンに所属していた全てのソルディンまでもが撃墜されてしまった。

「そんな・・こんなことが・・・!?

 全ての部下を失い、愕然となるエリア。彼女はタイタンの動きに最大に注意を払いながら、スフィアを駆ってこの場を離れた。

「地球連合はとりあえず黙らせた・・次はお前たちの番だ、アルテミス・・・!」

 ドーマがアルテミスに眼を向けて言いかける。

「そんなことはさせない!」

 そこへアルバの駆るフューチャーが飛び込み、エクスカリバーを振りかざしてきた。だがタイタンは素早く動き、その一閃を軽々とかわす。

「速い!」

 その速さに毒づくアルバ。タイタンがフューチャーとの距離を取り、ドーマが再び声をかける。

「久しいな、ディアス・・いや、もはや兄弟のつながりなど何の意味も持たない。お前にとっても、私にとっても・・」

「ドーマ・・・!」

「お前が我々の前に立ちはだかるというならば、もはや敵以外の何者でもない。ディアス・フリークス、いや、アルバ・メモリア!」

 ドーマが眼を見開き、タイタンが砲撃の体勢に入る。

「ボルド・タイタンの名に賭けて、お前たちを排除する!」

 ドーマの怒号とともに、タイタンがフューチャーに向けてエネルギー砲「トライデストロイヤー」を放った。

 

 

次回予告

 

突如舞い降りた魔性の翼。

ボルドの野心の込められた機体が、世界を震撼させる。

その邪な力が、少年少女の心身を脅かす。

そしてついに、その牙がかつてない悪夢を引き起こした。

 

次回・「タイタン」

 

 

作品集

 

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