GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-38「ぶつかり合う魂」
アルテミスとの交戦のため、クレストからMSが続々と出撃する。その中で、ルナを駆るマリアがゼロにいるソワレに声をかけた。
「ソワレくん、大丈夫?アルバさんとリリィさんのこと、気にしているの?」
「マリアさん・・気にしていないといったらウソになります・・だからこそこの戦いは、僕たちの手で決着を着けなければなりません・・・」
「そう・・私も同じ気持ちよ・・気持ちの整理が今でもつかない・・その整理をつける意味でも、私は戦う・・・」
「マリアさん・・・援護をお願いします!」
マリアへの信頼の言葉を言いかけると、ソワレはゼロを加速させる。その前に、アルバの駆るフューチャーが立ちはだかる。
(アルバ・・・君はどこまでも、僕たちの敵として立ち塞がるのか・・・)
ソワレがわだかまりを募らせて、目つきを鋭くする。彼の脳裏に、アルバとの錯綜が蘇ってきた。
戦場での衝突、街での邂逅、慟哭と激情。それらを経てもまだ、2人の心はすれ違うばかりであった。
「アルバ・・・どうして君は平和を壊そうとするんだ・・僕たちと君たちの平和に対する願いは変わらないはずだ!」
「平和を壊そうとしているのは、連合とリード、両方の上層部だ。オレたちは連合のそんな考えに疑問を持ったから、ヤツらを裏切った。」
「そうでも、君が僕たちの敵であることに変わりはない!」
「ソワレ、オレはオレ自身の答えを見つけるために戦う。その道にお前が立ち塞がるというなら、オレはお前を倒すことをためらわない!」
「勝手なことをいうな、アルバ!」
いきり立ったソワレがアルバに敵意を向ける。ゼロとフューチャーが同時にビームライフルを放ち、光線が衝突して相殺する。
「君はマリアさんを傷つけ、多くの人々を手にかけてきた!その罪は許されると思っているのか!?」
「確かにオレの罪は許されない。どんなに償おうとしても償いきれないかもしれない。それでもその償い、オレは受けるつもりだ・・だが、オレは今は、まだ立ち止まるわけにはいかないんだ!」
ソワレの怒号に答えるアルバ。フューチャーが大剣、エクスカリバーを高らかに振り上げる。
「今すぐ償うんだ、アルバ!これ以上罪を重ねるな!」
「今はそれはできない!オレはまだ、ディアス(オレ)の過去から抜け出せていない!」
言い放つソワレとアルバ。フューチャーが振り下ろしてきたエクスカリバーを、ゼロがトラスカリバーを掲げて受け止める。
「この前は驚いてしまったが、今度はそうはいかないぞ!」
ソワレが叫び、ゼロがフューチャーを振り払う。すかさずゼロが飛びかかり、トラスカリバーをフューチャーに向けて突き出した。
フューチャーは飛翔しながらエクスカリバーを振り下ろし、トラスカリバーを叩き落とす。ゼロの体勢を崩しつつ、フューチャーはさらに上昇する。
(前と比べて隙がない。機体の性能を十分に引き出してきている・・!)
アルバがソワレとゼロの力を痛感して毒づく。動きを止めたフューチャーが、迫り来るゼロに迎撃を取った。
リリィのソリッドとマリアのルナが対峙する。レールガンによるルナの射撃に、ソリッドは攻め込めずにいた。
「リリィさん、私たちオメガを憎むあなたの気持ちは分かります!ですが連合の取った行動もまた、許されるものではないのです!」
「違います!私が今戦っているのは、私が受けた悲劇を繰り返してほしくないから!それだけなんです!」
互いに呼びかけあうマリアとリリィ。同じ平和を願う者同士でありながら、その気持ちはひとつにまとまっていなかった。
「アルバの話では、オメガのボルドが元凶の1人!私たちはそいつを止めなくてはならない!」
「議長はこれまでオメガを導いてきた方!議長を慕う者も多い!その議長が未来を壊すなど!」
言い放つリリィとマリア。ソリッドがビームライフルを発射するが、ルナの砲撃に軽々とかき消される。
「この戦争の過激化の元凶は、オメガのボルド・タイタンと、連合のスタン・ヴァイザー!2人の野心よ!」
「地球連合を裏切ってまで、あなたが求めているものは何なの!?・・あなたの戦う理由が見えてこない・・」
リリィの考えが理解できなくなり、マリアが沈痛さを覚える。
「私は戦争を失くす。ルナはそのための力なのよ・・・」
「ソリッドも、アルバの魂が込められている・・彼の答えを確かめるために、私はこの機体に乗って戦っていく・・・!」
声を振り絞るマリアとリリィ。ルナがソリッドに向けてレールガンを発射する。
ソリッドはその射撃をかいくぐり、ルナに素早く飛びかかる。ソリッドが突き出してきたビームサーベルを、ルナがとっさにビームシールドを掲げて防ぐ。
マリアが毒づき、ルナが再びレールガンを発射する。その射撃がゼロ距離で爆発し、ソリッドとルナが突き飛ばされる。
一進一退の攻防を繰り広げるリリィとマリア。2人の戦いは力だけでなく、魂のぶつかり合いでもあった。
コーラサワー率いるザクたちは、アルテミスへの攻撃を行っていた。
「お前たちより、こっちのほうが戦力は十分なんだよ!」
ザクスマッシュを駆るコーラサワーが高らかに叫ぶ。アルテミスがフレイム、ホークスを駆使して、ザクたちを迎え撃つ。
「今度のクレストは勢いがありますよ!今まで以上に!」
「泣き言を言っている余裕があるなら、ザクを追い払うことに専念するんだ!」
声を上げるレミーに、キーオが怒鳴りかける。
「集中して!どんどん来てるわよ!」
そこへカーラが呼びかけ、レミーとキーオが戦闘に集中する。
「それに敵はザクやMSだけじゃないのよ・・・!」
カーラはザクだけでなく、クレストにも注意を向けていた。相手がどのタイミングで奇襲を仕掛けてくるか、彼女は警戒を強めていた。
クレストにいるガルも、アルテミスの動きに注意を向けていた。アルテミスが油断ならない相手であることは、これまでの戦闘で明白だった。
「油断するな!ヤツらは必ず何か仕掛けてくるぞ!」
ギルがオペレーターたちに檄を飛ばす。マーズ、ジュピターが火を噴き、サターンが解き放たれる。
(戦力では我々が圧倒的に有利。だがアルテミスは、このような窮地を何度も潜り抜けている。それに相手はフューチャーとソリッド。ゼロとルナがいるとはいえ、楽観視はできない。)
ガルが胸中で呟き、戦況を分析する。彼もこの戦闘を一進一退の攻防と見ていた。
(このままでは消耗戦になり、互いに戦力を削られるだけだ。そこへ地球連合に介入されたら・・)
ガルは一抹の不安を覚えた。その不安を現実化させるかのように、地球連合の企みが迫りつつあった。
「アルテミス、クレスト、戦闘を開始しました!」
地球連合本部に、オペレーターの報告が飛ぶ。それは本部を訪れたスタン、メタトロンに乗艦したエリアにも届いていた。
「とうとう始めたか・・・エリア、準備はいいか!?」
“既に準備はできています。アンチクラスターも稼動可能です。”
スタンの呼びかけにエリアが答える。その返答を受けて、スタンが頷く。
「戦闘区域に向けてアンチクラスター照射!あの2機に集中的に当てろ!」
“了解!”
スタンの命令にエリアが答える。改良を施したアンチクラスターは、スフィアではなくメタトロンに搭載されていた。効力の強さがスフィアの動きをも阻害してしまう結果からの判断だった。
(いよいよだぞ。世界の平和は、我々の手でつかみ取る。お前たちにその権限はない・・・!)
野心を膨らませるスタンが、笑みを強めていた。
「アンチクラスター、エネルギー充填完了!」
メタトロンに乗艦しているオペレーターがエリアに呼びかける。
「よし。アンチクラスター起動!目標、敵新型MS2機!」
エリアの指示により、クラスターシステムが起動する。クラスターシステムを遮断する音波が、戦場に向けて放たれた。
「私がスフィアで先行する。後は任せたぞ。」
「了解。」
エリアはクルーたちに言いかけてから、司令室を離れた。ドックを訪れ、彼女はスフィアに乗り込んだ。
「エリア・バウザー、スフィア、出撃します!」
エリアの駆るスフィアがメタトロンから出撃していった。
激しい攻防を繰り広げるフューチャーとゼロ。しかしアルバもソワレも、決定打を与えることができないでいた。
(たとえこのゼロでも、同じ最新型であるフューチャーが相手では、そう簡単に突き崩せないか・・・!)
フューチャーの力量を改めて痛感するソワレ。
(アルバ・・君はどうして、平和を壊すようなことを・・平和のためにあるフューチャーを、どうして持ち出して・・・!)
「アルバ!君はどうして!?」
感情をむき出しにしたソワレが、フューチャーを駆るアルバに敵意を向ける。
ゼロがトラスカリバーをフューチャーに向けて投げつける。
「血迷ったか!」
アルバが毒づき、フューチャーがエクスカリバーでトラスカリバーを叩き落とす。直後、ゼロが右手からビームダガーを発して、フューチャーに飛びかかってきた。
「何っ!?」
虚を突かれるアルバ。ゼロの突き出した光刃が、フューチャーの右翼を切り裂いた。
「ぐっ!」
衝撃にさいなまれてうめくアルバ。フューチャーが体勢を崩して落下する。
(このままではやられる!反撃に転じないと・・!)
自分に言い聞かせるアルバ。だが体勢を立て直せていないフューチャーに、ゼロが追い討ちを仕掛ける。
(ダメだ!間に合わない!)
「今度こそ終わりだ、アルバ!」
眼を見開くアルバと、叫ぶソワレ。ゼロがフューチャーに向けて、ビームダガーを振りかざす。
そのとき、ビームダガーの刃がフューチャーに到達する直前で、ゼロの動きが止まった。直後に発せられていたビームダガーが消失する。
「えっ!?どうしたんだ!?」
突然のゼロの異変にソワレが驚愕する。周囲に注意を向けると、ソリッドもルナも異変を来たして地上に落下していた。
(クラスターソシステム搭載の機体だけがおかしくなっている・・まさかこれは!?)
ソワレはこの異変の正体に気付いた。アンチクラスターによるエネルギー供給の阻害であることを。
「艦長、連合軍です!近くに地球連合がいます!」
“連合だと!?・・我々とアルテミスの戦闘に横槍を入れてきたか!”
ソワレが連絡をいれ、ガルが毒づく。
「議長、クレストで連合軍の位置は分かりますか!?エネルギーが足りなくて、ゼロのレーダーもうまく機能しないのです!」
“分かった。このまま通信を閉ざすな。すぐに位置をキャッチする。”
ガルに呼びかけられて、ソワレは注意力を高めていく。しばらくしてオペレーターからの声が、ソワレに向けて入ってきた。
“ポイントG37!ゼロから2時の方向、距離880!”
「G37・・了解!」
報告を受けたソワレがその方向に注意を向ける。その方向から、エリアの駆るスフィアが進行してきていた。
「マリアさん、動けますか!?」
“ソワレくん、ダメ!全く動けない!”
ソワレの呼びかけにマリアからの声が返る。どうすることもできず、ソワレは危機感を覚えていた。
アルバとリリィもまた、危機感を募らせていた。アンチクラスターの影響で、ソリッドだけでなくフューチャーの機動力が失われていた。
「このままでは連合の思う壺だ!カーラ、ヤツらを近づけさせないでくれ!」
“簡単に言ってくれるわね。こっちはザクとクレストの相手で手一杯なのに・・”
アルバの呼びかけにカーラが愚痴を返してくる。
「このままではオレたちの敗北は確実だ!アンチクラスターの範囲外に出なければ、格好の標的だぞ!」
“注文の多いパイロットね!いいわ!私たちがやるしかないわね!”
カーラが吐き捨て、アルバがスフィアに眼を向ける。
「リリィ、フューチャーの残されたエネルギーを振り絞って、ソリッドを連れて連合から離れる!そうすればエネルギーが回復するはずだ!」
“大丈夫なの、アルバ!?ソリッドは全然動かなくて、フューチャーもまともに動ける状態じゃないのは分かりきってることなのに・・!”
「だがやるしかない!やらなければやられる!オレは、オレたちは!」
リリィの返事にさらに呼びかけながら、アルバがフューチャーを動かそうと力を振り絞る。
「こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ!」
アルバの決意に呼応するかのように、機動力を著しく低下させていたフューチャーが動き出す。
ふらつきながらも飛翔して前進するフューチャー。その勢いのまま、動けずにいるソリッドをつかみ、さらに前進してこの場を離れた。
「ソリッドのあの機体・・アンチクラスターから逃げるつもりでしょうが、そうはいきませんよ!」
戦場に赴いたエリアが、残された力で必死に飛行するフューチャーとソリッドを目撃し、追撃に出る。だがアルテミスのフレイムから放たれた光線が、スフィアの行く手を阻んだ。
「まだアルテミスがいたのですで・・ですがあなたたちの相手は私ではありませんよ・・」
エリアはアルテミスに対して焦りを見せていなかった。スフィアに遅れて、メタトロンが戦場に姿を現した。
“遅くなりました、少佐!”
「構わないわ。それよりもアルテミスへの攻撃を開始しろ。私は逃亡したアルテミスのMS2機を追撃する。」
オペレーターからの声にエリアが答える。だがそのスフィアに向けて、別方向から攻撃が飛んできた。
エリアが視線を向けると、ザクたちが迫ってきていた。
「乱入してきたくせに、余所見とはずい分余裕じゃないかよ!」
コーラサワーが高らかに言い放ち、ザクスマッシュがビームライフルで射撃する。スフィアが後退して、レールガンで迎撃する。
(アンチクラスターはクラスターシステムを遮断するための兵器。クラスターシステムを動力源としていないソルディンやザクには効果がない・・・!)
立ち塞がるザクたちにエリアが毒づく。アンチクラスターはザクの動きを阻害するまでには至っていなかった。
「邪魔をするな!私が仕留めるのはあの2機よ!」
エリアがいきり立ち、スフィアがザクたちに向けて全てのレールガンを発射した。
長い時間をかけて調整が行われてきたタイタン。その調整の全てがついに完了した。
「タイタン、全ての調整を完了いたしました。」
研究員のこの言葉を耳にして、ボルドとドーマが不敵な笑みを浮かべる。
「ついにこのときが来た・・我々が、未来に向けての変革を遂行するときが来たのだ・・・!」
眼を見開いたボルドが哄笑を上げる。そこへ兵士の1人が駆け込み、報告を入れる。
「クレスト、アルテミスと交戦中です!地球連合も戦闘に参加しました!」
「そうか・・タイタンの力を試すには丁度いい機会か・・」
報告を聞いたボルドが、タイタンのコックピットにいるドーマに眼を向ける。
「ドーマ、早速だが出撃してもらうぞ。」
「クレストの加勢ですね?問題ありません。」
ボルドの呼びかけにドーマが答える。
「行くがいい、ドーマ。お前とタイタンの力を、世界に見せ付けてやるのだ。」
「了解です、議長。お任せください。」
ボルドの期待を背に受けて、ドーマがタイタンの発進準備に入る。ドックの天井が開き、虚空が広がる。
「ドーマ・フリークス、タイタン、出る!」
ドーマの掛け声とともに、タイタンが空に向けて発進した。
次回予告
アルテミス、クレスト、メタトロン。
3勢力の攻防は、熾烈を極めつつあった。
混迷していく戦況の中、アルバとリリィ、ソワレとマリアの心は・・・
そして戦場に現れた漆黒の翼。