GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-37「決心」

 

 

 エリアたちの強襲を、辛くも退けたアルバたち。だが彼らはスフィアから発せられたアンチクラスターを危険視していた。

「まさかクラスターシステムの機能を狂わせる武器を使ってくるとは・・連合め。厄介なものを作ってきたものだ・・」

「ソリッドが1度上層部の手に渡っている・・そのときにデータを収集したのね・・」

 アルバが愚痴をこぼし、リリィも呟きかける。

「あの装置を起動させる前に撃墜できればいいんだけど、それが簡単にできる相手でもない・・あの機体は遠距離型。接近することで力を最大限に発揮するソリッドやフューチャーのような近距離型には分が悪い・・」

「頼みの綱はアルテミスだが、何度も同じ手が通じるとも思えない・・」

 深刻に考え込むリリィとアルバ。

「私たちの持てる全てを使って、やれることをやり通す。それが今の私たち。」

 そこへカーラが2人に声をかけてきた。

「艦長・・・」

「あなたたちは、力ばかりが先走って、気持ちが追いついていけてないのかしら?」

 戸惑いを見せるリリィに、カーラが微笑みかける。

「私たちは強くなっている・・力や武器だけじゃなく、心も・・・」

「カーラ・・・そうだな・・オレたちには強さがある・・壊すため、殺すための力というよりも、守るための力が・・・」

 カーラの言葉を受けて、アルバが言いかける。彼の言葉にリリィも頷く。

「他の人たちに、私が受けた悲劇を受けてほしくない・・その一心で今まで戦い続けてきた・・・その気持ちはこれからも変わらない・・アルバ、あなたの求めている答えを見届けるためにも、私は戦い続ける・・・」

「リリィ・・・オレの本当の戦いは、まだ終わっていない・・むしろ始まってもいないのかもしれない・・・オレはオレの答えを見つけるために、戦いを始めていく・・・」

 リリィとアルバが決意を口にすると、カーラが大きく頷いた。

「私たちもみんな、自分の決心を持っている・・その決心がひとつにまとまった私たちは強い。そしてまだまだ強くなれる。」

 カーラが言いかけたとき、ハル、レミー、キーオも笑みを見せてきていた。

「オレにも、こんなにも心強い味方がいたんだな・・改めて思い知らされた気がする・・・」

「それが仲間というものよ、アルバ・・・」

 微笑みかけるアルバにカーラが優しく言いかける。その言葉に励まされて、彼は気持ちを落ち着かせる。

 すばらしい仲間たちに支えられて、アルバはこのアルテミスの一員となっていた。自分の答えという未来を切り開く戦士として。

 

 アルテミスの行方を追うため、航行を続けていたクレスト。ソワレたちの耳にも、アルテミスとメタトロンの交戦の知らせは入ってきていた。

(フューチャーとソリッドも、連合のあの戦術を切り抜けたのか・・・連合、アルテミス、そしてリード、三つ巴の戦いになってきた・・)

 過激化する戦いに苦悩するソワレ。力を持って終わらせようとしている戦争がさらなる拍車をかけていることに、彼はわだかまりを感じていた。

(どうして終わらないんだ・・僕たちはこれほどまでに平和を願って、実行に移そうとしているのに・・)

 込み上げてくる悲壮感をこらえきれず、ソワレがたまらず壁に拳を叩きつける。それでもどうしたらいいのか分からず、彼は困惑していた。

「そんなに思いつめるのはよくないわよ、ソワレくん・・」

 そこへマリアが現れ、ソワレに声をかけてきた。

「マリアさん・・・」

「確かにこの状勢、私も心地よいものとはいえないわね・・それでも、私たちは戦わなくてはならない。本当の安らぎを世界にもたらすために・・」

 戸惑いを見せるソワレに、マリアが微笑みかける。

「私よりも、あなたのほうがその真っ直ぐな気持ちが強いはずだけど、ソワレくん?」

「そんな、マリアさん・・・僕はそんな思い切った気持ちは・・・」

「それとも、あんなののほうが真っ直ぐというのかしら?」

 マリアは肩をすくめながら、休憩所のほうを指差し、ソワレもそこに眼を向ける。そこではコーラサワーが、自分の武勇伝を熱烈に語っていた。

「あの人はああいう人でしょう・・まぁ、どんなことになっても深刻にならないところは、少しは見習いたいところですが・・」

「私も少しだけど同意するわ・・」

 ソワレとマリアがコーラサワーの様子を見て、呆れながら声を掛け合う。

「でもあれで、落ち込んでいた気持ちが和らいだ気がするわ・・こういうときにあの人が頼りになるなんて、皮肉ね・・」

 マリアは苦笑すると、そそくさにその場から離れる。ソワレも当惑の面持ちのまま、彼女を追いかける。

「私がいうのもおかしいけど、少し気楽にしたほうがいいわ・・緊張しすぎるのも、逆によくないから・・」

「そうですね・・僕がマリアさんと初めて会ったときも、そんなことを言われていましたね・・」

「そういえばそうだったわね・・ソワレくんの真っ直ぐな姿、今も変わらないわね・・」

「そんなことないですよ・・あれからいろいろありましたし・・」

 マリアとこれまでのことを思い返していくうち、物悲しい笑みを浮かべるソワレ。彼は戦争の非情さと、その中でのマリアの負傷。悲しみの連続を何とも思わない彼ではなかった。

「それに、アルバとリリィさんが、僕たちの敵として立ち塞がっている・・分かり合えるはずなのに・・」

「そうね・・私としても穏便に和解したいけど、おそらくそれは不可能でしょうね・・」

 アルバとリリィを思い出すソワレとマリア。するとソワレがマリアを抱きしめてきた。

「もう誰も傷つけさせない・・あなたも守ってみせる・・マリアさん・・・!」

「ソワレくん・・・私も、心を傷つけていくあなたを放っておくことはできない・・私も、あなたを守るために戦う・・・!」

 互いに想いを伝え合うソワレとマリア。2人の心は愛情へと昇華していった。

 そこへ武勇伝を語って上機嫌のコーラサワーがやってきた。そこで彼は2人の抱擁を目の当たりにして固まってしまった。

「お前たち・・・もう、オレの恋は実らずじまいなのか・・・!?

 深く肩を落とすコーラサワー。先ほどの有頂天が完全に消失し、彼は暗い様子のままこの場を離れた。2人がそれに気付くことがないまま。

 

 気持ちを落ち着けたアルバは、自室に戻って休息に入っていた。だがしばらくすると部屋のドアがノックされる音を耳にする。

「誰だ?」

「リリィよ・・入ってもいいかな?」

「あぁ・・開いてる・・」

 リリィがアルバの部屋に入ってきた。彼女の表情が暗いことに気付き、アルバが眉をひそめる。

「ソワレさんとマリアさんのこと、アルバはどう思っている・・・?」

「ソワレ・・・」

 リリィの問いかけにアルバが息を呑む。ソワレとの因果を彼も痛感していた。

 同じ平和を望む者同士でありながらすれ違い、対立の関係にある。分かり合いたいと願いながらも、それが叶うことがないまま現在に至る。

「私はみんなを殺したオメガが許せない。でもソワレさんとマリアさんが心優しい人だと言うことを知っている・・もちろんアルバ、あなたも・・」

「だが2人は自分たちの信じる平和のために戦っている・・それを頭ごなしに否定することは、オレにはできない・・」

「私も・・・もしもあのとき出会わなかったら、こうして迷うことなんてなかった・・でもそれでよかったかもしれない・・」

「そうか・・・オレもそう思う・・ソワレと分かり合えればと、オレは考えている・・せめて、オレたちのとって何が正しいのか、その答えを出したい・・」

「私も答えを出したい・・私自身の答えを・・・」

 互いに思いを口にするアルバとリリィ。するとリリィが当然、アルバに抱きついてきた。

「お、おい、リリィ、何を!?・・うわっ!」

 声を荒げるアルバが、リリィとともにそのままベットに倒れ込む。2人は横たわったまま、互いを見つめ合う。

「お願い、アルバ・・・このまま一緒にいさせて・・・」

「リリィ・・・」

「いろいろと気持ちを吐き出したら、寂しくなってきちゃって・・・ゴメン・・わがまま言って・・・」

「わがままなのはオレも同じだ。気にするな・・お前がそれで気が済むなら、オレもそれでいい・・・」

 リリィの気持ちを察して、アルバは彼女を抱きしめる。2人とも安らぎを感じて、そのまま眠りに付いた。

 

 プラネットGのリード本部のドックでは、最新式の機体の1機、タイタンの最終調整が行われていた。

「シュミレーションのほうは順調か?」

 調整に参加しているドーマに、ボルドが声をかける。

「順調ですよ、議長・・改めてタイタンのすばらしさを実感しました。これならどんな兵器が相手でも問題ないでしょう。たとえ同型機であるフューチャーでも。」

「そうか。当然といっても過言ではないか。このタイタンはゼロ、フューチャー以上に念入りな調整を施している。これに太刀打ちできるものはそうはいない。」

 ドーマの言葉を聞いて、ボルドが不敵な笑みを浮かべて頷く。

「次に我々の部隊がアルテミス、あるいは地球連合と接触した際に行動を開始するつもりです。」

「そうか。いよいよだな。我々の真の力が、ついに旧人類を屈服へと導くときが来たのだ・・」

 ボルドがタイタンを見据えて、不敵な笑みを浮かべる。

「我々が切り開く未来。オメガが導く人の進化。その鍵を握っているのは、ソワレ・ホークスとゼロ、そしてお前たち、ドーマとタイタンだ。」

「そのお言葉、身に余ります・・必ずその未来、私のこの手で・・・!」

 野心を言い放つボルドにドーマが答え、右手を握る。

「愚かな旧人類の浅知恵などに任せてなどおけない。お前たちの絶滅を、未来への手向けにしてくれるぞ。」

 さらに野心をむき出しにして、ボルドが哄笑を上げる。オメガの闇が、かつてないほどに世界を震撼させようとしていた。

 

 地球連合本部にて、スタンとエリアはアルテミスやリードの動きを細大漏らさず収集していた。次は先手を打とうとせず、両者の交戦にやっかみを入れようという魂胆だった。

「アルテミスとクレストが、徐々に距離を縮めているようです・・」

「そうか。この分だと近いうちに交戦するな。」

 エリアの報告を受けて、スタンが不敵な笑みを浮かべる。

「このまま敵同士で争い合うがいい。我々は生き残ったほうを、消耗した隙に一気に叩く。」

「それで邪魔者の主力は消えます。後はプラネットGに攻め入るだけ。」

 スタンに続いて、エリアも不敵な笑みを浮かべる。

「お任せください、議長。このエリア・バウザー、命の代えても世界に平和と安寧を!」

「うむ。頼むぞ、エリア。」

 敬礼を送るエリアに、スタンが言いかける。

「失礼します!」

 そこへ1人の兵士が駆け込み、スタンとエリアに声をかけてきた。

「アルテミスとクレスト、なおも接近!このままの進路ですと、約10分で接触します!」

「そうか。我々も出撃の準備に入ろうか。」

 兵士の報告を受けて、スタンが言いかける。

「分かりました。メタトロン、発進します。」

 エリアはスタンに敬礼を送ると、その兵士を伴って議長室を出た。

(待っているがいい、オメガ。世界の未来を歩んでいくのは、これまで歴史を紡いできた我々だ!)

 野心を募らせて、スタンが笑みを強める。彼は勝利のため、兵士たちに呼びかけた。

「全部隊に通達!戦いに備えよ!」

 

 地球連合の動きの把握に努めていたアルテミス。だがそのレーダーが捉えたのは連合ではなく、クレストだった。

「全くないとは思っていたけど、とうとう出くわしたわね・・」

 接近するクレストに、カーラが1人呟く。その司令室にアルバとリリィが駆け込んできた。

「とうとうクレストが来たのか・・・!」

「えぇ。またきつい戦いになりそうね・・」

 声をかけるアルバに、カーラが答える。モニターにクレストの艦体が映し出される。

「すぐに出撃します!せめて発進準備だけでも!」

「まだ出ないで。今度のクレスト、奇襲を仕掛けてくるかもしれない・・」

 飛び出そうとしたリリィを呼び止めるカーラ。

「奇襲?何を仕掛けてくるというんだ・・?」

「断定はできないけど、私の推測があっているとしたら・・」

 アルバが問いかけると、カーラが深刻な面持ちを浮かべる。彼女はクレストの仕掛ける手を予測しつつあった。

 

 同じくクレストも、アルテミスの接近を感知していた。その司令室のモニターに、アルテミスの姿が映し出されていた。

「ようやく発見したか、アルテミス・・連合との戦闘から姿をくらましていたが・・」

 ガルがアルテミスを見据えて呟きかける。

「ここは違う手を打ってみるか・・・サンブレイカー、発射用意。目標、アルテミス。」

 ガルが出した指示に、クルーたちが動揺を見せる。

「いきなりサンブレイカーを使うのですか・・・!?

「我々と彼らが敵同士なのはもはや明白。大きな先手を打つのも悪くないだろう・・」

 ギルが疑問を投げかけると、ガルは落ち着きを保ったまま答える。

「それに、これは私の勘だが、彼らも同じことを考えている気がする・・」

 ガルが言いかけて深刻な面持ちを浮かべる。彼もアルテミスが奇襲を仕掛けてくると予測していた。

「サンブレイカー、発射準備完了!」

「よし。私の合図で発射しろ。」

 オペレーターの声を受けて、ガルがさらに呼びかける。アルテミスがサンブレイカーの砲撃のコースに差し掛かった。

「ってぇ!」

 ガルの号令とともに、クレストがサンブレイカーを発射した。

 

「ってぇ!」

 アルテミスもサンブレイカー発射と同時に、レイブラスターを発射していた。2つの陽電子砲が放たれ、衝突して相殺し、爆発を引き起こす。

「やはり私の読みは当たっていたみたいね・・向こうも陽電子砲を撃ってきた・・」

 カーラが推測を口にして、クレストを鋭く見据える。

「今度こそ、MSを出してくるでしょうね。」

「そうね・・アルバ、リリィ、準備はいい!?

 レミーの言葉に頷くと、カーラがアルバとリリィに呼びかける。

“大丈夫です!いつでも出れます!”

“オレも出られるぞ、カーラ。”

「うん。フューチャー、ソリッド、発進!」

 リリィとアルバの応答を聞いて、カーラは指示を出す。

「アルバ・メモリア、フューチャー、行くぞ!」

「リリィ・クラウディ、ソリッド、行きます!」

 アルバのフューチャー、リリィのソリッドがアルテミスから出撃した。

 

 クレストでもMSの発進を開始しようとしていた。ソワレとマリアも出撃の準備を完了させていた。

「ソワレ、準備は大丈夫か?」

「大丈夫です、コーラサワーさん。援護を頼みます。」

 声をかけるコーラサワーにソワレが答える。

「やっぱりオレにはザクスマッシュが性に合ってるな。使い勝手もいいし。」

 ザクスマッシュに乗り込んだコーラサワーが、感嘆の声を上げる。

「2人とも行くわよ。相手は待ってくれそうもないから。」

 そこへマリアが声をかけ、ソワレとコーラサワーが真剣な面持ちを浮かべる。

「ソワレ・ホークス、ゼロ、発進する!」

「マリア・スカイローズ、ルナ、行くわよ!」

「パトリック・コーラサワー、ザク、出るぞ!」

 ソワレのゼロ、マリアのルナ、コーラサワーのザクスマッシュがクレストから出撃する。他のザクスマッシュ、ザクスラッシュ、ザクブラストも続々と発進していった。

 

 

次回予告

 

ついに対峙する両雄。

平和を導く剣を手にしたアルバとソワレ。

受け継がれし想いを背に受けたリリィとマリア。

少年少女の意思は、戦火となって空を焦がす。

 

次回・「ぶつかり合う魂」

 

作品集

 

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