GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-36「争いへの反抗」

 

 

 地球連合の動向を伺うべく、アルテミスは行動を行っていた。エリアの指揮する部隊とクレストの攻防は、カーラたちの耳にも入っていた。

「連合の上層部も本気になってきたわね・・しかもクレストのほうも、ゼロ以外に新しい機体が加わってきたみたいだし・・」

 敵勢力の増加と戦いの過激化に、カーラは深刻になっていた。

「私たちも、今まで以上に気を引き締めないといけないわね・・・」

 1人呟いてから、カーラはクルーたちに呼びかける。

「常に細心の注意を払っていて。どこから狙ってくるか分からないから。」

「任せてください♪私、どんなに小さな危険も見逃しませんから♪」

 するとレミーが上機嫌に答える。するとキーオがため息をついてきた。

「あまり浮かれないでくれ。そういう油断をしているところに、後ろからやられてお陀仏になる羽目になるんだから。」

「大丈夫ですよ♪私だってやるときにはやるんだから・・・」

 キーオに返事をしたとき、レミーが笑みを消す。アルテミスに接近する何かの反応が、レーダーに映ったのだ。

「接近する熱源を確認!地球連合所属のMSです!」

 血相を変えたレミーの呼びかけを受けて、カーラたちも緊迫を覚える。

「とうとう本格的に動き出してきたわね、上は・・」

 カーラは再び呟きかけると、クルーたちに呼びかける。

「全員戦闘体勢へ!ただしまだ攻撃は仕掛けないで!」

 その言葉を受けて、ドックにて待機していたアルバ、リリィ、ハルも相手の出方を伺うこととなった。

 

 エリア率いる部隊が、発見したアルテミスに迫ろうとしていた。

「回線を開け。向こうとの通信を行う。」

 エリアが告げた言葉に、オペレーターたちが当惑を覚える。

「よろしいのですか?連中は反逆者なのですよ?」

「せめて1回は慈悲は与えてやるものよ。かつての同胞への、1度きりの慈悲よ・・」

 オペレーターが投げかけた疑問に、エリアは淡々と答える。彼女は受話器を手にして、アルテミスへの通信を開始した。

「私は地球連合所属、エリア・バウザー少佐。アルテミス、応答せよ。」

 

「通信が入ってきています!バウザー少佐です!」

 エリアからの通信をキャッチし、レミーが声を上げる。

「回線を開いて。話を聞きましょう。」

「分かりました。」

 カーラの言葉を受けて、レミーが通信回線を開く。司令室にエリアの通信が届く。

“私は地球連合所属、エリア・バウザー少佐。アルテミス、応答せよ。”

「こちらアルテミス。通信を受信しました。」

“我々は今、反逆者となっているお前たちの殲滅の命を受けてそちらに赴いた。ただしお前たちが全ての武装を解除した後に投降し、処罰を受けるならば、お前たちの命を保障しよう。返答は1回のみ。以後の返答には応じない。”

 エリアからの申し出に、レミーもキーオも当惑を感じていた。カーラもこの返答に迷いを拭えないでいた。

“カーラ、アルテミスの艦長はお前だ。お前が決めればいい。”

 そこへアルバがカーラに呼びかけてきた。その言葉に励まされて、彼女は迷いを払拭した。

「アルテミス艦長、カーラ・サルビアです。あなた方の申し入れを感謝いたします。ですが私には、いえ、我々には、あなた方連合上層部に対する疑念を抱いています。ですので、あなた方の申し入れを受け入れることはできません・・この場を見逃してもらえれば幸いです。ですがもし我々の行く手を阻むのでしたら、我々も武力をもってあなた方を迎撃します。」

 カーラのこの解答を機に、アルバたちは改めて臨戦態勢に入った。

 

 申し出を拒否され、エリアは肩を落とす。他のクルーたちも落胆の感情を隠せないでいた。

「やはり拒否をしてきましたか。」

「本当に愚かですね。最後のチャンスだというのに。」

 アルテミスの行動に呆れるオペレーターたち。

「さほど期待していたわけではない。むしろ拒んでくると想定して、あえて持ちかけたに過ぎない。」

「ではなぜあのようなことをしたのですか?」

「言っただろう。慈悲は与えてやるものだと。茶番と思っても構わない・・」

 オペレーターの言葉に、エリアは苦笑気味に答える。直後、彼女が真剣な面持ちになる。

「本番はこれからだ。アルテミスへの攻撃を開始する!」

 エリアはパイロットたちに呼びかけると、自身も出撃のために司令室を出た。ドックに足を踏み入れ、彼女は整備士に声をかける。

「スフィアの整備は完了しているか?」

「はい!いつでも出られます!」

 エリアの問いかけに整備士が高らかに答える。

「ここは任せたぞ。私も出る。」

 エリアは言いかけると、スフィアに乗り込む。ハッチが開放され、スフィアが発進準備に入る。

「エリア・バウザー、スフィア、発進します!」

 エリアの掛け声とともに、スフィアが発進する。スフィアはソルディンたちと合流し、アルテミスへの進撃を開始した。

「お前たちのMSもクラスターシステムを動力源としている。アンチクラスターの餌食にしてくれる・・・!」

 

 進撃してきたエリアたちに対し、カーラも迎撃に出ようとしていた。

「戦闘開始!フューチャー、ソリッド、発進!」

 カーラの指示により、アルテミスが本格的に動き出す。

「アルバ・メモリア、フューチャー、行くぞ!」

「リリィ・クラウディ、ソリッド、行きます!」

 アルバのフューチャー、リリィのソリッドがアルテミスから出撃する。

「アルバ、ちゃんとサポートしていくからね。」

「ありがとう。だがリリィ、焦りは禁物だぞ。」

 リリィの呼びかけにアルバが答える。フューチャーとソリッドが、ビームライフルでソルディンたちを迎え撃つ。

 ソルディン2機がその射撃に撃ち抜かれて爆発する。他のソルディンがとっさにフューチャーとソリッドを狙い撃つ。だが2機の機動力に軽々とかわされてしまう。

「くそっ!何て速さだ!」

「こっちの攻撃が全然当たらない!」

「うろたえるな!」

 動揺するパイロットたちにエリアが檄を飛ばす。

「我々に敗北などありえない!あの2機は私に任せろ!お前たちはアルテミスを撃て!」

「はいっ!」

 エリアの命令を受けて、パイロットたちが行動を起こす。ソルディンたちがアルテミスに向けて進撃を仕掛ける。

「そうはさせない!」

 リリィの乗るソリッドがアルテミスの護衛に向かおうとするが、その間にスフィアが割って入ってくる。

「お前たちの相手は私だ。」

「邪魔はさせませんよ、バウザー少佐!」

 冷淡に告げるエリアに、リリィが鋭く言い返す。ソリッドが振りかざしたビームサーベルを、スフィアもビームサーベルで受け止める。

 スフィアが左手でもう1本のビームサーベルを突き出す。ソリッドがとっさにビームシールドで防ぐが、その衝撃で後方に突き飛ばされる。

「経験と戦闘の数ならば、お前たちを超えると豪語できる!」

 エリアがリリィに向けて語気を強めて言い放つ。スフィアが2本のビームサーベルの柄を合わせて、両刃のブーメランとして投げつける。

 ソリッドがビームサーベルで受け止めるが、その衝撃に再び押されて、体勢を崩される。向かってきたスフィアがブーメランを手にして、ソリッドに追撃を仕掛ける。

 そこへアルバの駆るフューチャーが割り込み、エクスカリバーでビームサーベルを受け止める。大剣による一閃で、スフィアが弾き飛ばされる。

「リリィ、大丈夫か!?

「アルバ・・・うん、平気。」

 アルバの呼びかけに、リリィは落ち着きを取り戻してから頷く。

「ここはオレに任せろ。リリィはアルテミスを援護するんだ。」

「分かったわ・・アルバ、ここはお願いね!」

 アルバの言葉を受けて、リリィの駆るソリッドがアルテミスに向けて移動する。スフィアとフューチャーが対峙し、出方を伺う。

「お前が、かつてソリッドに乗っていた男、アルバ・メモリアか・・そしてその機体・・オメガだったということか!」

「そういうことだ。だがオレが身を置いているアルテミスを、お前たちも敵と見なしているのだろう。」

「少し違う。お前たちの反逆ゆえだ。いずれにしろ、オメガであるお前は我々の敵でしかない。」

 エリアがアルバに言いかけて、眼つきを鋭くする。

「たとえ高性能のMSであろうと、クラスターシステムが動力源となっていることに変わりはない!」

 エリアが口にした言葉に、アルバが眉をひそめる。

「アンチクラスター、起動!」

 エリアがスフィアに搭載されたアンチクラスターを起動させた。エネルギー供給を阻害されて、フューチャーの動きが鈍り、ソリッドが機能を停止させる。

「何っ!?フューチャーが・・!」

「ソリッドが動かない!・・エネルギーが・・!」

 この事態に声を荒げるアルバとリリィ。動きを鈍らせるフューチャーを見据えて、エリアが不敵な笑みを浮かべる。

(クレストとの戦いでは遠距離攻撃型のMSに妨害されたが、アルテミスにはそのような攻撃手段は持ち合わせてはいない・・お前たちはこれで終わりだ。)

「遊びはしない!すぐに終わらせてやるぞ!」

 エリアが高らかに叫ぶ、スフィアがフューチャーに向けてレールガンを放つ。その射撃を受けて、フューチャーが怯んで落下する。

(エネルギー不足で、フューチャーの性能が弱くなってる・・クラスターシステムが機能していないのか・・・!)

 異変の正体に気付いて、アルバがスフィアに眼を向ける。

(あの機体が、クラスターシステムの機能を狂わせているのか・・・!)

「アルテミス、あの機体を撃て!オレのところに引き付けるだけでもいい!」

 思い立ったアルバが、カーラたちに呼びかける。

「あの機体から何かが発信されて、クラスターシステムが機能しなくなっている!まずはヤツを仕留める必要がある!」

“でも、私たちも手が離せないのよ!ソルディンたちが邪魔なのよ!”

「泣き言を聞くつもりはない!フューチャーの残っている力でソルディンを振り払う!その間にヤツを仕留めろ!」

“注文の多いパイロットね・・いいわ!やってあげるわよ!”

 声を荒げながらも、カーラがアルバの言葉を受け入れる。

「リリィ、大丈夫か!?

「アルバ!・・ソリッドが全然動かなくなってしまったの!エネルギーが維持されない!」

 アルバの呼びかけにリリィが答える。アンチクラスターの影響で、ソリッドはエネルギーが尽きてしまっていた。

「すぐにヤツを押さえる!エネルギーが回復したらソルディンをアルテミスから引き離すんだ!」

「アルバ・・・分かった!タイミングは見逃さないからね!」

 リリィの答えを聞いてから、アルバがアルテミスに眼を向ける。残されたエネルギーを振り絞らせて、フューチャーを突き動かす。

(デイジーの想いが込められた力・・この程度ではないはずだ!)

 デイジーの心を背に受けて、アルバもまた力を振り絞る。フューチャーが加速し、アルテミスに攻めているソルディンたちに向けてエクスカリバーを振りかざす。

 ソルディン数機がその一閃を受けて両断し、残りが危機感を覚えて後退し、アルテミスから離れていく。

「今だ!レイブラスターを撃て!」

「もう準備はできてますよ!」

 アルバの呼びかけにレミーが答える。

「レイブラスター、ってぇ!」

 カーラの呼びかけとともに、アルテミスが陽電子砲を発射する。フューチャーの行動を妨害しようと接近していたスフィアが虚を突かれる。

 とっさに回避行動を取るエリア。直撃は避けたものの、陽電子の余波を受けて、アンチクラスターが機能を鈍らせる。

「しまった!アンチクラスターが!」

 たまらず声を荒げるエリア。アンチクラスターの効果が弱まり、フューチャーとソリッドが機動力を取り戻す。

「エネルギーが戻ったわ!」

「これ以上、あんなものに翻弄されてたまるか!」

 リリィとアルバがいきり立つ、ソリッドがソルディンたちをアルテミスから引き離し、代わってフューチャーがスフィアに畳みかける。

「お前は真っ先に倒させてもらうぞ!」

 アルバが言い放ち、フューチャーがエクスカリバーを振りかざす。その一閃がスフィアがかざしたビームサーベルの1本を粉砕する。

「少佐!」

 そこへソルディン1機がフューチャーに突進し、体勢を崩したスフィアを救った。

「くっ!」

 この奇襲にアルバが毒づく。フューチャーがエクスカリバーを振りかざし、そのソルディンをなぎ払う。

(このままではまずい・・たとえアンチクラスターを再起動させても、戦力不足でこちらがやられる・・・!)

「今回はこれまでだ!全機撤退!体勢を立て直す!」

 不利を悟ったエリアが部下たちに呼びかける。それを受けて、ソルディンたちがアルテミスから離れていく。

「くそっ!逃げるな!」

“深追いは禁物よ!動きを止められて、今度こそ蜂の巣にされるわよ!”

 追跡しようとしたアルバを、カーラが呼び止める。このまま追撃に出ても、アンチクラスターの餌食になるだけである。

“私たちも無傷というわけじゃない。私たちも体勢を立て直す必要があるわ・・・”

「カーラ・・・分かった。すぐに戻る・・」

 カーラの言葉を受け止めて、アルバがアルテミスに戻る。フューチャー、ソリッドを収容して、アルテミスもこの場を離れた。

 

 クレストだけでなく、アルテミスをも仕留め損なったエリアは、自身への危機感を感じていた。

「まさかアルテミスにまで返り討ちにされるとは・・あの新たな機体も、アンチクラスターに完全に屈していなかった・・・」

 スフィアを見上げて、エリアが呟きかける。

「アンチクラスターの性能を強化させる必要があるか・・しかし、それではスフィアのクラスターシステムにも影響を及ぼしかねない・・」

 思考を巡らせるエリア。ソワレのゼロ、アルバのフューチャーを攻略するための秘策を、彼女は必死に模索していた。

「アルテミスまでも取り逃がしてしまうとはな・・」

 そこへスタンが現れ、声をかけてきた。我に返ったエリアが振り返り、敬礼を送る。

「申し訳ありません、議長・・アルテミスを取り逃がしました・・・」

「君らしくないな。2度立て続けに任務を失敗するとは・・」

 深々と頭を下げて謝罪するエリアに、スタンが憮然とした態度を見せる。

「やはり新たに現れた2体のMSが問題か・・ヤツらはアンチクラスターに完全には屈服せず、我々の鉄槌をさえぎる要となっている・・」

「アンチクラスターの精度を上げれば押さえ込めるでしょうが、スフィアの機能まで奪う羽目に・・」

「ならば別に用意しようではないか。」

 不敵な笑みを浮かべるスタンに、エリアが当惑する。

「現在、新たにアンチクラスターを開発している。しかもお前が使用しているものよりも効力が強く、しかも範囲を自由に設定することも可能だ。」

「では、あの2機のMSを完全に押さえ込めるわけですね・・・」

 スタンの言葉を受けて、エリアも笑みをこぼす。彼女は失いかけていた自信を取り戻しつつあった。

「次こそは必ず我らに勝利が訪れる。その勝利をつかむのはエリア、お前だ。」

「議長・・・ありがとうございます!次こそは・・次こそは必ず!」

 スタンに励まされて、エリアは再び頭を下げる。

「世界をひとつにまとめるには、異色の存在は邪魔なのだ。オメガはもちろん、アルテミスのような裏切り者も・・」

 不敵な笑みを浮かべるスタン。彼らの野心が強まり、世界を震撼させようとしていた。

 

 

次回予告

 

混迷する世界。

この混沌を消し去るには、何が必要なのか。

アルバとリリィ。

ソワレとマリア。

彼らの心に湧き上がるものとは何か。

 

次回・「決心」

 

 

作品集

 

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