GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-32「揺れ動く世界の中で」

 

 

 アルバの駆るフューチャーの参戦により、ゼロは撤退を余儀なくされ、ロック隊も全滅を被った。この形勢逆転に、ソワレは煮え切らない気分を抱えていた。

(アルバ・・・ここまで君は、世界の敵として立ちはだかるのか・・・!?

 込み上げてくる憤りを抑えきれず、壁に拳を打ち付けるソワレ。

「そんなにムキになるなんて、お前らしくねぇな。」

 そこへコーラサワーが現れ、気さくな態度でソワレに声をかけてきた。我に返ったソワレが気持ちを落ち着ける。

「おっと。今は中尉どのでしたかな?」

「いいですよ、コーラサワーさん。コーラサワーさんのほうが先輩なんですから・・」

 気まずさを見せるコーラサワーに、ソワレが苦笑いを浮かべて弁解する。だがソワレの表情がすぐに曇っていく。

「マリアさん、大丈夫でしょうか・・すぐに医務官と連絡を・・」

「それなら心配はいらない。さっき連絡を入れた。」

 不安を口にしたソワレの前に、ガルが姿を見せてきた。

「眼を覚ましたそうだ。体にも心にも異常はない。」

「本当ですか!?・・よかった・・本当によかった・・・!」

 ガルの報告を受けて、ソワレが安堵の笑みをこぼす。

「それで、そのマリアなんだか・・・」

「マリアさんが、どうしたのですか・・・?」

「ドーマ少佐とともにこちらに向かっている・・・」

 ガルが口にした言葉に、ソワレもコーラサワーも唖然となる。マリアとドーマが小型宇宙艇で、地球にいるクレストに向かっていた。

 

 フューチャーを駆り、ロック隊を撃破したアルバ。しかし彼は意気消沈していた。やりきれない気持ちが広がり、彼の心に影を落としていたのである。

 だが彼の参戦により、リードは地球連合本部から撤退することとなった。ゼロの猛威から、本部とアルテミスは危機を逃れた。

 ゆっくりと本部に向けて進んでいくフューチャー。アルテミスがハッチを開き、アルバを迎えた。

 着艦したところで、フューチャーから降りるアルバ。そこへハルが駆け込んできた。

「アルバ!」

 ハルにいきなり飛びつかれるアルバ。突然のことで押されて、アルバはフューチャーの脚部に背を預けることとなった。

「アルバ・・・よかった・・・生きてるんだよね・・幽霊じゃないよね・・・!?

「わけの分からないことを言っていないで、離れろ、ハル。」

 大喜びをするハルに、アルバが憮然とした態度を返す。我に返ったハルが、すぐにアルバから離れる。

「ゴメン、アルバ・・でも、ホントに嬉しくて・・・」

「すまない・・お前たちに心配をかけたようだ・・・」

 困惑するハルの頭を、アルバが軽く手を添える。そのドックに、カーラたちも現れた。

「戻ってきたのね・・アルバ・・・」

「あぁ・・・」

 カーラが声をかけると、アルバは小さく頷く。

「あなたが戻ってきてくれたことは、正直嬉しいわ・・でもアルバ、その機体は・・それにそのパイロットスーツ・・リードのものじゃ・・・?」

「あぁ・・ある人に助けられてな・・・詳しくは後で話す・・・」

 カーラの疑問にアルバが答える。その傍らでは、ハルがフューチャーをまじまじと見つめていた。

「それにしてもすごい機体だなぁ・・いろいろ調べてみたいなぁ・・・」

「悪いが、それは戦争を乗り越えてからにしてくれないか?」

 感激しているハルに、アルバが言いかける。その言葉にハルが戸惑いを見せる。

「どういうことなの、アルバ?・・何かわけがあるの・・・?」

「あぁ・・過去のオレの、大切な人の願いが込められたものだからな・・・」

「過去のアルバって・・・もしかして、記憶が戻ったの・・・!?

 深刻さを覚えるハルに、アルバが小さく頷く。

 そこへソリッドから降りてきたリリィがやってきた。彼女に眼を向けたとき、アルバは困惑を覚えた。自分がリリィの家族や故郷を滅ぼした仇の1人であることに、彼は落ち着きをはらうことができなかった。

「いろいろ話が立て込んでいるようね・・少し休んでから話を再開しましょう。アルバとリリィは休みなさい。いろいろと大変だったから・・」

「分かった・・これからどうするつもりだ、カーラ・・?」

「連合本部から離れるわ。このまま戻れば、いろいろと尋問されることになるからね。アルバとフューチャーも含めて・・」

「地球連合を抜けるつもりか?」

「みんな、そのつもりで合意しているわ。」

 眉をひそめるアルバにカーラが答える。アルバが視線を移すと、ハルもレミーも真剣な面持ちで頷いた。

「緊張感のない部隊とは前から思っていたが、ここまで馬鹿げているとは・・」

「そうね。我ながらそう思うわ・・でも、あのままお偉いさんたちの言いなりのなるほうが、もっと馬鹿げてるけどね・・」

「そんなものか・・」

 カーラの答えを聞いて、アルバが苦笑を浮かべる。だがアルバはすぐに笑みを消し、カーラに言いかける。

「マルナとグリーアは落とされたのか・・・向かう途中、セイントの反応が消えるのを見ていた・・・」

「えぇ・・・あなたが無事だったから、余計に悔やまれるわ・・・」

 カーラも深刻さを浮かべ、レミーが涙を浮かべる。リリィもマルナの死に辛さを覚えていた。

(マルナ・・・私のために、命を投げ出して・・・)

 自分を庇って命を散らしたマルナを思うあまり、リリィは体を震わせる。

「とにかく、あなたたちは休みなさい、アルバ、リリィ。ここからの移動は私たちに任せて・・」

「分かった・・すまない、カーラ・・・」

 カーラの呼びかけにアルバが答える。払拭できない重い気持ちを抱えたまま、アルバとリリィは自室に向かっていった。

「さて、それじゃ私たちはもうひとふんばりよ。」

「了解しました・・・」

 カーラに呼びかけられて、レミーは涙を拭って答える。ハルも破損したソリッドの修復に取り掛かり、カーラとレミーも司令室に戻っていった。

 

 リードの襲撃から辛くも逃れることができたスタンたち。しかしアルテミス、ソリッドの行方が分からなくなり、スタンは憤りを覚えていた。

「愚かなマネを・・ソリッドを持ち出して、行方をくらますとは・・・!」

「確かにソリッドを失ったのは悔やまれますが、リードの兵器を封じ込める手段はあります。」

 スタンの前にエリアが現れ、敬礼を送る。

「リードのMSに搭載されているクラスターシステム。そのエネルギー供給を遮断してしまえば、その機能は完全に落ちます。」

「そうか。早急に頼むぞ。これ以上オメガの勝手にはさせられん。勝利のために手段を選ぶな。」

 報告するエリナに命令を下すスタン。この場を離れようとして、彼は唐突に足を止める。

「それと、アルテミスとあの新たに現れた機体だが・・今後、我らの敵として対処する。」

「カーラ・サルビアを、反逆者として処分するおつもりですか?」

「そうだ。我らの意に反する言動を取るヤツらに、連合の居場所はない・・」

 眉をひそめるエリアに、スタンは冷徹に告げた。

 

 リリィとうまく言葉を交わすことができないまま、1人自室に戻っていたアルバ。ベットに横たわった彼は、プラネットGでの出来事を思い返していた。

 ボルドから告げられた真実。デイジーの命懸けの優しさ。フューチャー。

 様々な思いが、アルバの中で交錯していた。

(忌まわしき過去を経て、オレは今ここにいるのか・・・だが、オレはまだ、過去の因果に決着を着けていない・・・)

 アルバの脳裏にリリィの顔がよぎる。同時にボルドとデイジーの言葉を思い返していた。

 リリィの故郷であるアフェードの壊滅。それに手を染めたオメガの中に、アルバはいた。

(オレがこの手でリリィの家族を殺し、故郷を滅ぼした・・手に付いた血は洗い落とせても、手にかけた罪は落とせない・・オレはこの大罪の償いをしなければならない・・命を賭けてでも・・・)

 自分の罪に終止符を打つため、アルバは決意を行動に移そうとしていた。

 

 地球連合本部から離れ、連合の追跡をかいくぐったアルテミス。海上を航行して、一夜が過ぎた。

 すぐに眼が覚めてしまったアルバは、1人ドックに来ていた。そこで彼は自分の新しい機体、フューチャーを見上げていた。

(これからオレとともに戦うかどうか・・それはオレが、この因果を乗り越えた末に決まる・・・)

 自身に宿り決意を秘めて、アルバはフューチャーに念を込めた。

「ここにいたのね、アルバ・・」

 そこへカーラが現れ、アルバが振り返る。

「来てもらえる?2人だけで話がしたいの・・」

「昨日のことか・・・分かった・・・」

 カーラに呼ばれて、アルバをドックを後にする。2人が訪れたのは、外に会話がもれない艦長室だった。

 カーラは腰を下ろすと、アルバに話を切り出した。

「さて、どれから聞いたらいいのか・・・まずは、あなたが乗ってきた機体について聞かせてもらえる?話せる範囲でいいから・・」

「フューチャーのことか・・・あれはある人物がオレに託してくれたものだ・・昨日現れた機体、ゼロとともに開発された機体だ。」

「ゼロ・・リリィを追い詰めたあの黒い機体ね・・」

 カーラは頷くと、先日の戦闘のモニター映像に眼を通す。

「あなた、記憶が戻っているわね・・以前と変わったわ・・」

「そうか・・・確かにオレは、オレ自身の失われていた記憶を取り戻した・・だが、それはオレにとっても忌まわしいものだった・・」

 カーラが訊ねると、アルバが深刻な面持ちを浮かべる。

「オレは、アフェードを滅ぼしたオメガの1人だったんだ・・・」

「えっ・・・!?

 アルバが口にした言葉に、カーラが驚きの声を上げる。

「本気で言っているの・・・それが本当なら、あなたはリリィの仇ということになるのよ・・・」

「本当のことだ・・オレは本当に、アフェードにいた・・そしてオレは、リリィの家族を、この手で・・・」

 問い詰めるカーラにアルバが答える。過去の悲劇を思い返して、彼は体を震わせていた。

「オレはこの地球にいる人間の敵だ・・お前たちにとっても・・特にリリィにとっては・・・」

「いいえ・・あなたは私たちの仲間よ。それは、あなたが記憶を取り戻しても変わらない・・・」

 覚悟を見せるアルバだが、カーラはその彼を快く迎えようとしていた。

「そんなオレを迎えるというのか!?・・オレはお前たちの敵なんだぞ!」

「“敵だった”でしょう?・・あなたはその行為を罪のあるものと認識し、償おうとしている・・そのあなたを、私は敵としては見ないわ。」

「カーラ・・・」

「それに今は、私たちも地球連合の敵になってるから・・」

 戸惑いを見せるアルバに、カーラが苦笑いを浮かべる。深刻に考えるのがバカバカしく思え、アルバが呆れてため息をつく。

「久しく会わなかったが、艦長らしくないのは相変わらずだったようだ・・」

「あなたの悪い態度もね・・」

 互いに軽口を叩くと、アルバもカーラも笑みをこぼした。だがカーラの顔から、すぐに笑みが消える。

「問題はリリィね・・あの子が、この事実を素直に受け止められるかどうか・・」

「オレもそのことを1番の問題にしている・・・」

「あなたとしては、どう考えているの?・・私は、あなたとリリィが分かり合ってほしいとは思っている・・」

「オレは、アイツの納得する形になればいいと思っている・・たとえ、オレの命が終わりを迎えることになろうと・・」

「アルバ、あなた・・・!」

 アルバの心境を聞いて、たまらず声を荒げるカーラ。だが我に返った彼女は、すぐに落ち着きを見せる。

「本気なの、アルバ?・・リリィが納得したとしても、あなたは納得できないじゃないの・・・?」

「あぁ・・オレは罪人だからな・・・」

 深刻な面持ちを見せるカーラだが、アルバの顔色と決意は変わらなかった。

 

 地球連合本部での戦闘の報告を、ボルドも耳に入れていた。アルバの反逆とフューチャーの強奪、デイジーの死に、ボルドはかつてないほどの怒りを感じていた。

「まさか我らの最新兵器が、我らに牙を向くとは・・ディアスも我らに刃向かうとは・・・!」

 歯がゆさを抱えるボルド。彼は部屋の傍らに置いてあった写真立ての写真に眼を向ける。そこにはボルドとデイジーが映し出されていた。

「デイジー、すまん・・お前を死に追いやったディアスを、もう味方とは思わん・・・」

 今は亡きデイジーに囁きかけるボルド。だがその怒りの矛先はアルバに向けられていた。

 そのとき、部屋のドアがノックされ、ボルドが振り向いた。

「何だ?」

「緊急招集会議です、最高議長。会議室のほうへ。」

 ドア越しの兵士の声にボルドが頷く。彼は部屋の前にいた兵士を伴って、会議室に向かう。

(ディアス、この罪は重いぞ・・必ず貴様に死の処罰を与えてくれるぞ・・・!)

 アルバへの憎悪を膨らませて、ボルドは戦争終結に臨むのだった。

 

 リリィはアルテミスの屋外エリアに出ていた。そこから彼女は外の様子を見つめていた。

 リリィはマルナの死に対して悲しみを募らせていた。自分を庇い、自分に全てを託したマルナとの別れに、リリィは込み上げてくる感情を抑えることができずにいた。

(マルナ・・・私のために、あなたは命を投げ出してしまった・・・私のために・・・)

 いたたまれない気持ちにさいなまれるリリィ。胸に当てていた自分の手を強く握り締めて、彼女は浮かび上がる涙をこらえる。

「ここにいたか、リリィ・・」

 そのとき、突然声をかけられて、リリィは我に返る。振り返った先にはアルバの姿があった。

「アルバ・・・」

「マルナのことを考えていたのか・・・すまなかった・・オレがもっと早く駆けつけていれば、もっと早く、立ち向かう意思を持っていれば・・アイツを救えたはずなのに・・・」

「違う・・私にもっと力があれば、マルナやジョニー艦長たちを守れたはずだった・・・」

 互いに謝罪の言葉を掛け合うアルバとリリィ。さらに気まずさを感じて、2人とも口ごもる。

 互いに気持ちを落ち着け、先に言葉を切り出したのはアルバだった。

「リリィ・・これから話すことは、悪ふざけでも冗談でもない・・しっかり聞いてもらいたい・・・」

「何よ、アルバ・・いきなり改まって・・・」

 アルバが切り出した話に、リリィが深刻な面持ちを浮かべる。

「リリィ・・オレはソワレに連れて行かれてからここに戻るまでに、過去の記憶を取り戻した・・本当のオレを思い出すことができた・・」

「よかったじゃない・・それで昔のあなたはどういう人だったの・・?」

 アルバの言葉にリリィが微笑みかける。だがアルバは深刻さを消さない。

「オレは、リリィ・・お前の家族や故郷を滅ぼした1人だ・・・」

「えっ・・・!?

 アルバのこの言葉にリリィは耳を疑った。

「冗談はやめて、アルバ・・そんなこと、冗談でも怒るよ・・・!」

「冗談ではないと言ったはずだ・・オレはかつて、特務隊のパイロットの1人としてアフェードに乗り込み、全滅に追いやった。そのときに地球連合の迎撃を受けて撃墜。そのときに記憶を失ったようなんだ・・」

「やめて!・・やめて!」

 語りかけるアルバに怒鳴り、リリィが手で耳を塞ぐ。

「オレでも信じたくないという気持ちがないわけではない・・だが紛れもない事実なんだ・・」

「本当なの!?・・本当にあなたが、私の家族を、みんなを・・・!?

 声を振り絞り、リリィがアルバに問い詰める。しかし不安のあまり、彼女は無意識に後ずさりしていた。

「オレのお前に対する罪は、償いきれるものではない。だが、それでもお前の納得できる形で、終止符を打ちたいと思う・・」

 アルバは言いかけると、銃を逆手に持ってリリィに差し出す。

「オレのことが憎いなら、これでオレを撃て。」

「えっ・・・!?

 アルバの突然の発言に、リリィがさらなる困惑に襲われる。

「コイツをお前に渡せば、オレは丸腰だ。コイツが怪しいと思うなら、お前の持っている銃でオレを撃て。」

 アルバに言われるままに、リリィがその銃を手に取る。混乱している心境のまま、彼女は彼に銃を向ける。

「オレはお前の敵だ・・お前は家族を殺し、故郷を滅ぼした仇をとるために戦ってきたのだろう・・ならば敵であるオレを撃て・・・」

「アルバ・・本気で・・・!?

「ただひとつだけ頼みがある・・オレを撃った後、フューチャーを任せてもいいか?」

「フューチャー・・あなたが乗ってきたあの機体ね・・・」

「ソリッドを乗りこなしたお前なら、フューチャーも乗りこなすことができるはずだ・・・お前に、オレの全てを託したい・・・」

 アルバの言葉に心を揺さぶられるリリィ。自身の過去と因果に決着を着けるため、アルバは死を覚悟していた。

 

 

次回予告

 

覚悟を決める青年に、少女は激しく動揺していた。

これまで、家族や故郷を滅ぼされた復讐のために生きてきた。

この引き金を引くことも、これまでの自分の行為の証になる。

思いと迷いの狭間で、少女が下した決断とは・・・?

 

次回・「リリィ」

 

 

作品集

 

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