GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-31「フューチャー」
決心したアルバがフューチャーに向けて駆け出す。それを阻止しようと、兵士の1人が彼に向けて発砲する。
だがその弾丸が命中したのは、アルバを庇ったデイジーだった。
「デイジー!?」
突然のことに驚愕し、アルバが足を止める。
「私に構わずに行って!」
だが振り返ろうとしたところで、デイジーが声を振り絞ってきた。撃たれた彼女はその場で倒れ、力なく横たわる。
「あなたはあなたの道を進んで・・こんなところで立ち止まっていてはダメ・・・今は過去に戻るより、未来に向かって走り出すことのほうが大事・・・」
「デイジー・・・!」
「私に構わずに行って!アルバ・メモリア!」
デイジーに呼びかけられて、アルバは再びフューチャーに向かって駆け出していった。力尽きようとしているデイジーを背にして、彼は全力疾走でエレベーターに乗り込んだ。
兵士たちの発砲をかいくぐり、アルバはついにコックピットに乗り込んだ。
「貴様!なぜデイジーを撃った!?」
「す、すみません!まさかデイジー様がこのような行為を・・!」
怒鳴るボルドに兵士が声を荒げる。さらに発砲は続くが、フューチャーには通用しない。
エンジンを起動し、アルバはフューチャーのデータに眼を通す。その性能を目の当たりにして、彼は驚きを覚える。
(デイジーの言っていたとおりだ・・ソリッドの性能をはるかに凌駕している・・・これが最新型のMS、フューチャーなのか・・・!?)
性能データにひと通り眼を通して、アルバは気持ちを落ち着ける。エンジンを起動し、発進に備える。
(フューチャー、オレの力、オレの翼・・オレがどこに向かえばいいのか、その未来を切り開くために、力を貸してくれ・・・!)
「アルバ・メモリア、フューチャー、行くぞ!」
決意を秘めたアルバの操縦により、フューチャーが発進、飛翔する。紅い光の翼を広げて、フューチャーは宇宙へと飛び立っていった。
「おのれ!・・まさか最新兵器が、リードの所属でない者の手に渡るとは・・・!」
最悪の事態に、ボルドは憤りを覚える。彼は横たわるデイジーを眼にして、とっさに呼びかけた。
「救護班はまだか!?早くデイジーの治療にかかれ!」
「お父様・・・もういいのです・・・」
突如デイジーに止められて、ボルドが眉をひそめる。
「これは私の選択であり、私の罪・・死を受け入れるのはその償いというものです・・・」
「愚かなことを・・なぜオメガとしての自覚の戻っていないディアスに、フューチャーを・・・!?」
「それが、本当の未来を開くことになると、私が信じたからです・・・どうか、彼を信じてあげてください・・お父様・・・」
疑念を抱くボルドに、デイジーが声を振り絞って語りかける。
「私は信じます・・ディアスが・・アルバ・メモリアが、この世界に・・・」
デイジーはそう告げると、ゆっくりと瞳を閉じた。彼女の命が尽きた瞬間だった。
「デイジー・・・」
ボルドがデイジーに眼を向けたまま、ゆっくりと立ち上がる。ここでようやく救護班が駆け込んできた。
「愚かなことだ・・私の家系から、平和を脅かす裏切り者が出るとは・・・」
「すぐに応急措置を行います!」
「いや、もういい・・私の部屋に運んでおいてくれ・・・」
救護班の呼びかけに、ボルドが低く告げる。救護班と兵士たちはデイジーの亡骸をドックから運び出していった。
「このような屈辱を与えるとは・・・ディアス・・たとえ貴様でも、この罪は重いぞ・・・!」
ボルドがアルバに対して、かつてないほどの憤りを覚えていた。
脅威的な力を見せ付けるゼロに、ソルディンたちが迎撃に出る。だが圧倒的な力の差で、ソルディンたちは軽々と撃墜されていく。
この劣勢に、カーラとジョニーは焦りを感じていた。
「このままでは全滅は必死よ・・私たちも打って出るしかないわ・・!」
「陽電子砲で一気に殲滅するしかない。下手な攻撃は敗北を招きます・・・」
カーラが毒づき、ジョニーが言いかける。陽電子砲での一斉砲撃に、カーラは同意した。
「レイブラスター、発射用意・・・!」
カーラの指示にレミーとキーオが息を呑む。
「いくら高い性能があっても、MSに戦艦の砲撃が全く通用しないなんてことはない。ここは考えている場面じゃない。実践あるのみよ。」
「艦長・・・分かりました!行きますよ!」
カーラの言葉を受けて、キーオも決意する。レミーも頷いて、レイブラスターの発射準備に入る。
「我々もレイブラスターを発射する!準備を急げ!」
ジョニーもレイブラスターの発射に備える。2隻の戦艦が、ゼロ打倒のために砲撃を放とうとした。
そのとき、突如飛び込んできた閃光が、グリーアの主砲の発射口に直撃した。グリーア前方部で爆発が起こり、船体が大きく傾く。
「ぐっ!どうした!?」
「攻撃です!この方角には・・!」
ジョニーが呼びかけると、オペレーターが答える。グリーアが捉えたモニターには、クレストが映し出されていた。
「クレスト!」
「ようやく姿を現したか!」
声を荒げるジョニーたち。グリーアが船体の安定を維持できず、傾きかけている。
「いけない!このままではグリーアが!」
「しかしこっちはレイブラスターの発射準備を終えている!ゼロに撃たないわけにいかない!」
声を荒げるレミーとキーオ。アルテミスはこのまま、ゼロへの砲撃を行おうとしていた。
「レイブラスター、発射!」
カーラの呼びかけで、アルテミスから閃光が放たれる。砲撃はソルディンと交戦中のゼロに向けて飛んでいく。
「陽電子砲か!でもゼロなら!」
ソワレが思い立ち、ゼロがトラスカリバーを構える。向かってくる閃光に、ゼロがトラスカリバーを突き立てる。
エネルギーを放出する突きは、戦艦の放った閃光を突き破り、ついには突破してしまった。
「なっ!?」
ゼロの行為が信じられず、カーラたちが驚愕の声を上げる。
(信じられない・・レイブラスターを、ビームソードで突き破るなんて・・・!?)
リリィも驚きを隠せなくなっていた。動きの止まっているソリッドを眼にして、ソワレが戦意を見せる。
「僕は戦う・・これ以上、みんなを傷つけさせはしない・・・!」
ゼロがソリッドに向けて飛びかかっていく。
「リリィ!」
そこへマルナの駆るセイントが割って入ってきた。負傷しながらも、セイントは左腕のビームダガーを、ゼロに突き立てる。
だがゼロのトラスカリバーに受け止められ、さらにゼロに押されて、セイントは左腕を切り裂かれる。さらにゼロが振りかざしたトラスカリバーによって、セイントの胴体が両断された。
「マルナ!」
リリィが悲痛の叫びを上げる。白い閃光に包まれていくマルナが、リリィへの思いを膨らませる。
(リリィ・・アルバと一緒に・・世界を・・・)
リリィにアルバと世界を託したマルナが、閃光の中に消える。セイントが戦場の空で、爆発を起こした。
声にならない悲鳴を上げるリリィ。マルナが命を落としたことに、彼女は愕然となっていた。
「今度こそ、君との決着を着けさせてもらうよ、リリィさん・・・!」
ソワレがリリィに言いかけると、ゼロがソリッドに向けて攻撃を再開しようとする。だが愕然としているリリィは、それに対処することができない。
「リリィ!」
カーラが呼びかけるが、それでもリリィは動こうとしない。ゼロがソリッドに対して、トラスカリバーを突き立てようとした。
そのとき、トラスカリバーの刀身に光線が命中する。攻撃を阻まれたゼロが、とっさにソリッドから離れる。
「攻撃!?」
眼を見開いたソワレが、光線の飛んできたほうに眼を向ける。しかしその方向に、撃ってきた正体を視認できない。
直後、はるか上空から光を帯びた何かが降下してきた。あまりの速さのため、周囲にいた人間たちはその正体をすぐに気付かなかった。
だがソワレはすぐにその正体に気付き、驚愕を覚えた。それはゼロとともに開発された最新式のMS、フューチャーだった。
「フューチャー!?どうしてフューチャーがここに!?」
突然のフューチャーの乱入に、ソワレが声を荒げる。フューチャーの背中を目の当たりにして、リリィは戸惑いを覚える。
「どうした?オレならもっとうまく動かしているぞ、リリィ。」
そこへかかってきた声に、リリィは耳を疑った。
「アルバ・・・!?」
「しっかりしろ、リリィ。お前はここで死んでいる場合ではないのだろう?」
戸惑うリリィに声の主、アルバが呼びかける。リリィはその声が聞き間違いでないことを悟る。
「本当に・・本当にアルバなの・・・!?」
「ここはオレに任せろ。お前はアルテミスに戻れ。」
戸惑いを隠せないでいるリリィに、アルバが冷静に告げる。我に返ったリリィが頷き、この場を離れていった。
「乗っているのはソワレか・・それがお前の新しい機体、ゼロか・・・!?」
「まさか、フューチャーに乗っているのはアルバ、君か!?」
鋭く言いかけるアルバと、声を荒げるソワレ。最新型のMS2機が、この戦場で対峙していた。
「君は拘束されているはず!その君がなぜ、それもフューチャーに乗ってここへ・・!?」
「デイジーが、命懸けでオレに託してくれたのだ・・未来を切り開く剣として・・」
問い詰めるソワレに、アルバは沈痛さを噛み締めて答える。デイジーは自らの命を投げ出して、アルバにフューチャーを託した。彼女の想いを胸に秘めて、アルバは今、ソワレと再び対峙していた。
「オレは自らの全ての過去を思い出した・・だがそれでもオレはディアス・フリークスではない。アルバ・メモリアだ!」
「あくまで僕たちの敵として立ちはだかるのか、君は・・・今度も君は、平和を取り戻すためにあるはずの力で、平和を壊すつもりなのか!?」
「何が平和なのか、どうすることが平和につながるのか、オレにはまだ分からない・・だが、オレ自身が何をするべきなのかは分かっている!」
アルバがソワレに言い放ち、フューチャーが大剣を手にする。新型ビームソード「エクスカリバー」である。
突きに特化したトラスカリバーと違い、エクスカリバーは完全な斬りに特化したビームソードである。
「これまでオレは多くの人間と関わってきた。オレのために命を賭けてくれた者もいる・・・オレの命、オレの未来は、オレ1人だけのものではない!」
アルバが言い放ち、フューチャーがゼロに飛びかかる。振り下ろされるエクスカリバーを、ゼロがトラスカリバーで受け止める。
「僕にも守りたい人がいる!その人たちのために、僕はゼロとともに戦う!」
「今のこの戦いが、本当に平和につながると信じているのか!?」
「君なら世界に平和をもたらすことができるのか!?自分の目的のために、たくさんの命を滅ぼしてきた君が!」
「だからオレは罪人なのだ。自分の考えだけで行動したために、オレはアフェード壊滅に加担してしまった・・・」
激昂したところでアルバのこの言葉を耳にして、ソワレが困惑を覚える。
「オレはまだその罪を償ってはいない。だから、オレはまだ、ここで命を終えるわけにはいかないんだ!」
アルバが言い放ち、フューチャーがエクスカリバーを全力で振り下ろす。光を帯びた一閃が、ゼロのトラスカリバーの刀身を叩き折った。
「なっ・・・!?」
最大の武器を破壊されて、ソワレが驚愕する。追撃を避けようと、ゼロが後退してフューチャーとの距離を取る。
“ソワレ、大丈夫か!?”
クレストにいるガルの通信が、ゼロに伝わる。
「はい・・油断しました・・まさかフューチャーに妨害されるとは・・・!」
“このままでは不利だ。撤退するぞ。”
「しかし、それではフューチャーが・・!」
“このまま戦えば、ゼロを失うことになる!それでは何もかも終わりだということは、お前も分かるだろう!”
ガルに言いとがめられて、ソワレはアルバを止めなければならない気持ちを抑えるしかなかった。
“了解しました・・ゼロ、クレストに帰還します・・・!”
ソワレの乗るゼロが、フューチャーの前から離れ、クレストへと戻っていった。アルバはそんなソワレを追おうとはしなかった。
「アルテミス!聞こえるか、アルテミス!?」
アルバがアルテミスに向けて通信を送る。
“アルバ!?・・その機体に乗っているのは、アルバなの!?”
カーラが驚きの声を返し、レミーもキーオも動揺を隠せないでいた。
「詳しい話は後だ。オレがリードを押さえる。その間にリリィを乗せて、体勢を立て直せ。」
“アルバ・・・分かったわ。ここは任せたわ。”
アルバの呼びかけにカーラが答える。地球連合の他の部隊と交戦しているザクたちに向かって、フューチャーが加速していった。
“こちらクレスト!状況は我々に不利です!撤退してください!”
ガルからの通信を耳にしていたロックだが、聞き入れずに戦闘を続行しようとしていた。
「艦長、先ほど現れた機体は得たいが知れません。ビンセント艦長の申している通り、ここは撤退して体勢を整えるべきでは・・」
「そんな腑抜けたことができるか!何度も言わせるな!」
オペレーターが言いかけるが、ロックは怒号でそれを一蹴する。
「我々は百戦錬磨のロック隊だ!たとえ我々の力をはるかに凌駕する相手であろうと、背を向けることなど許されぬ!」
ロックが言い放ち、ロック隊が進行を再開する。体勢を整えようとしているアルテミスに向けて、攻撃の矛先を向けた。
「サンブレイカー、発射!アルテミスの懐にぶちかませ!」
陽電子砲での攻撃を目論むロック。その動きに気付き、カーラが毒づく。
(しまった!攻撃を仕掛けてくる!)
「回避!」
「ダメです!間に合いません!」
とっさに呼びかけるカーラと、必死に回避を試みようとするキーオ。アルテミスに向けて、死の閃光が解き放たれた。
そのとき、巨大な機影がアルテミスの前に立ちはだかった。損傷したままのグリーアだった。
「ルーク艦長・・・!?」
「あなたたちが世界の希望だ・・我々の思いを、あなたたちに託す・・・」
眼を疑うカーラに向けて、ジョニーが世界の平和を託した。
ロックの放った砲撃が、グリーアの船体にめり込んだ。撃墜されたグリーアが、戦場の空で爆発を起こした。
「あっ!グリーアが!」
キーオが声を荒げる。アルテミスを庇ったグリーアが、砲撃を受けて虚空に散った。
「アイツら・・ふざけたことを!」
憤りを覚えたアルバ。フューチャーが全速力で、ロック隊に向かっていく。
エクスカリバーが加速した勢いのままに振り下ろされる。その重みのある一閃が、ロック隊に向けて叩き込まれる。
「うわっ!アンノウンが!」
「おのれ!こんなことがぁぁーーー!!!」
クルーたちとロックが絶叫を上げる。フューチャーの猛攻を受けて、ロック隊は短時間で全滅を被った。
リリィたちを守るために、自らの手を汚したアルバ。しかし彼は虚空を見据えたまま、困惑を募らせていた。
次回予告
戻ってきたアルバ。
しかし彼らの心に安らぎは訪れなかった。
忌まわしき過去と、目指すべき未来。
その狭間に立たされたアルバが、リリィとの確執に終止符を打とうとしていた。