GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-29「ゼロ」

 

 

「何?地球に滞在している部隊が、地球連合本部への攻撃を開始した?」

 ロックの指揮する部隊が行動を開始したことは、プラネットGにいたボルドとタイタンの耳にも入った。

「おそらくロック艦長の部隊でしょう。彼は過激な行動に出ることが多いですからね。」

 ドーマもロックの動向に呆れ返っていた。

「しかし、この事態を放置するわけにも行かない。手を打っておく。」

「救援を出すのですか?しかしどの部隊を向かわせるつもりですか?」

「せっかくの機会だ。ゼロの力を披露しておこう。」

「クレストを向かわせるのですか・・」

「不服か?」

「ご冗談を。私としても、旧人類に我々オメガの底力がどれほどのものなのか見せ付ける、絶好の機会であると思いますが・・」

 ボルドの言葉を受けて、ドーマも不敵な笑みを浮かべる。

「クレストにロック隊の救援に向かうよう伝達せよ。このまま地球連合本部を叩き潰してしまうのも一興だ。」

 ボルドの命令を受けて、兵士たちが行動を開始した。

 

「地球に向けて発進せよ、ですか?」

 クレストに戻っていたソワレが、ガルからボルドの命令について聞かされていた。

「現在、ロック艦長の指揮する部隊が、地球連合本部に向けて攻撃を仕掛けている。我々はその救援に向かえ、とのことだ。」

「本部襲撃ですか!?・・それほどまでに強力な部隊なのですか、ロック艦長の部隊は・・?」

「いや、ロック艦長は過激な性格でな。他の指揮官の見解を押しのけて戦闘に参加することが多い。」

 疑問を投げかけるソワレに、ガルが半ば呆れながら答える。

「悪く言えば攻を焦る行為なのだがな・・その彼らの部隊に加勢せよとのことだ。」

「それで艦長は向かうのですか?現時点で、ロック艦長の部隊が勝利する可能性は・・?」

「・・・現在はアルテミス・グリーアも本部に停船している。セイントがいる以上、ロック隊のこの攻撃は無謀としか言いようがない・・」

 ガルの言葉を受けて、ソワレが深刻な面持ちを浮かべる。

「このまま命を落とそうとしている人を、見過ごすことはできません・・・出撃しましょう!」

「ソワレ・・・」

 呼びかけるソワレに、ガルが眉をひそめる。

「僕はこれ以上、誰かが苦しんだり悲しんだりするのを見たくありません。自分の手で平和を取り戻す。それが今の僕の気持ちです。」

「ソワレ・・・いいだろう・・だがマリアは置いていく。ケガは治りかけてはいるが、まだ満身創痍の状態だ。そのまま戦場に連れて行くわけにはいかない・・」

 ソワレの決意を汲み取ったガルが言いかける。彼の申し出に、ソワレも受け入れた。

「ギルに保護と見張りをさせておく。万全の状態になる前に飛び出されては困るからな。」

「そうですね・・マリアさんは意地になるところがありますから・・」

 ガルの言葉に、ソワレが苦笑いを浮かべる。2人は気持ちを落ち着けながら、クレスト発進に備えた。

「クレスト、発進!ロック隊の援護に向かう!」

 

 地球連合本部への攻撃を仕掛けてきたロック隊。連合軍が迎撃に躍り出て、攻防を繰り広げる。

 連合軍の軍事力が結集している本部の防衛線は、リードの猛攻を完全に押さえ込んでいた。

「やはりムリがありましたよ、艦長!ここは撤退を!」

「たわけたことを!このまま引き下がる我々ではないぞ!」

 声を荒げるオペレーターに、ロックが檄を飛ばす。

「今度こそ、今度こそ仕留めてくれるぞ、地球連合・・いつまでものさばっていられると思うな!」

 敵意と戦意をむき出しにするロック。その狂気に、クルーたちは反論することができずにいた。

「攻撃続行!我々に撤退の2文字は存在しない!地球連合を叩き潰せ!」

 ロックの命令により、ザクたちはさらなる攻撃に躍り出た。

 その攻防に、アルテミス、グリーアも加わろうとしていた。

「深追いしないように。リリィと再び合流するまでの辛抱よ。」

 カーラが呼びかけると、レミーとキーオが無言で頷く。

「フレイム、G1からG4、ってぇ!」

 アルテミスが砲撃し、ザクたちを迎撃する。さらに上昇する地球連合の戦力が、リードを追い込んでいた。

 さらにグリーアからセイントが出撃しようとしていた。

「マルナ・フィーセ、セイント、行くわよ!」

 マルナの掛け声とともに、セイントが発進する。セイントはビームダガーを発し、ザクたちの腕を切り裂いて攻撃を封じていく。

「早く引き上げなさい!今度は命を落とすわよ!」

 マルナが呼びかけながら、セイントがさらなる攻撃を仕掛ける。その力にロックたちは窮地に立たされていた。

 

 ロック隊の危機は、地球に向かっていたクレストに逐一届いていた。

「仕方のないことだ・・これだけ明確な劣勢なのに引き下がる意思さえ見せていない・・・」

 ガルがロックの行動に呆れてため息をつく。

「いかがいたしますか、艦長?すぐに救援に向かわないと、全滅は必死です。」

「そうはいうが、大気圏を通過しなければMSを発進させることもできない・・」

 ギルが言いかけると、ガルが深刻な面持ちを浮かべる。彼らはクレストの中に、大気圏を突破できる耐久力を備えた機体はないと思っていた。

“それでしたら心配は要りません。”

 そこへドックで待機しているソワレが声をかけてきた。

「何か手段があるのか、ソワレ?」

“ゼロは高度の機動力と耐久力を備えています。大気圏内での活動も可能です。自分が先行して、ロック隊の救援に向かいます。”

「お前だけで大丈夫なのか?いくら最新型の機体でも、1機だけでは・・」

“みなさんが到着するまでの時間稼ぎぐらいはできるはずです。大丈夫です。ムチャはしませんから・・”

「ソワレ・・・分かった。お前は先に行け。ただし、くれぐれも攻を焦るな。慎重に対応しろ。」

“了解。”

 ソワレとの通信を終えるガルだが、深刻さを拭えないままだった。

「ソワレ、ずい分と自信ありげでしたが・・大丈夫でしょうか・・?」

「分からない。分かるのは、アイツの心に変化が起きているということだけだ・・」

 ギルがかけた言葉に、ガルが深刻さを浮かべたまま答える。

 ドックではソワレが乗り込んだゼロが、発進準備に入っていた。

(マリアさん、待っていてください・・次の戦い、必ず勝利して帰ってきます・・)

 マリアへの想いを募らせるソワレ。ゼロの状態のチェックを終えると、彼はハッチが開かれた先の虚空を見据える。

「ソワレ・ホークス、ゼロ、発進する!」

 ソワレの掛け声とともに、黒い機影が発進する。最新型のMS、ゼロが今、戦場に足を踏み入れようとしていた。

 

 リードに対して優勢を見せるセイント。その中で、マルナはリリィとソリッドを気にかけていた。

「リリィはまだなんですか!?数が多くて、私1人では・・!」

“まだ連絡はない!泣き言を言う前にしっかり押さえろ!”

 不満の声を上げるマルナに、ジョニーが檄を飛ばす。

「このままだとリリィが来る前に終わってしまいそうだけど・・」

 違う意味での不安を募らせるマルナ。ザクスラッシュの1機が、セイントに向かって迫ってきた。

 振り下ろしてきたビームサーベルを、ビームダガーで受け止めるセイント。逆にザクスラッシュを突き飛ばし、セイントがビームライフルを発射した。

 だがそのとき、その光線がザクスラッシュに命中する前に爆発を引き起こす。

「何っ!?

 驚愕の声を上げるマルナ。直後、セイントのレーダーが接近する熱源を捉えた。

 はるか上空から飛来してきた1つの機影。黒いボディのMSが、マルナたちのいる戦場に降下してきた。

「何、あの機体!?大気圏を単体で突き抜けてきたっていうの!?

 マルナが再び驚愕を覚える。その機体は単体で、地球の外から大気圏を突破して降下してきた。

 オメガが開発した最新鋭のMS、ゼロだった。

「見たこともない機体・・あの新手、とんでもなさそうな・・!」

 マルナがゼロに対して、警戒を強めていく。

“マルナ、焦るな!ムリに戦おうとするな!リリィさんが来てから攻め立てろ!”

 そこへジョニーがマルナに呼びかけてきた。

「分かっていますけど、相手がそれまで待ってくれるかどうか・・」

 渋々答えながら、マルナがゼロの動きに注意する。だが次の瞬間、ゼロがセイントに向かって飛びかかってきた。

「えっ!?

 虚を突かれたマルナが声を上げる。ビームダガーを構えるセイントだが、ゼロが繰り出してきたビームダガーによる一閃に突き飛ばされる。

 すぐに体勢を整えて踏みとどまるセイント。だがマルナはゼロの脅威に危機感を覚えていた。

(速い!こんな速さを持つ機体、今まで見たことがない・・・!)

 一気に逆転された形勢。驚異的な力を備えたリードの救援に、マルナたちは次第に追い詰められつつあった。

 

 ソリッドの調査を続行していたスタンたちも、リードの襲撃を察知していた。だが彼らはソリッドの調査を中断しようとしなかった。

「ソリッドの調査を続けろ。新型の性能を熟知できれば、その打開策も発見できる。」

 スタンの呼びかけに研究員、兵士たちが答える。そのドックに、突如リリィが駆け込んできた。

「リリィ・クラウディ!?

「ソリッドに私を乗せてください!」

 声を荒げるエリアをよそに、リリィが呼びかける。だが彼女の前に兵士たちが立ちはだかる。

「今、本部がリードの襲撃を受けていることは議長や皆様にも分かっているはずです!ソリッドで応戦すれば、不利な状況を覆せるかもしれません!」

「残念だが、それを許可することはできん。」

 リリィの呼びかけを、スタンは却下する。

「ソリッドは秘められた性能も含めて、我々にとって貴重な存在だ。リードの新型打倒の策を練らないまま戦闘に投下し、破壊されてしまったら元も子もなくなる。」

「しかし、このままではみなさんが・・・!」

「君も分かっているはずだ。戦いに犠牲はつき物であると。この秘策が練り上がれば、犠牲になった者たちも報われるというものだ。」

 スタンの考えが理不尽に思え、リリィは激昂をあらわにする。だが銃を構える兵士たちを突破することができない。

 そのとき、戦闘での爆発により、ドックも振動に襲われる。兵士たちが一瞬気がそれたのを見逃さず、リリィは一気に駆け抜けていく。

「止めろ!射殺しても構わん!」

 スタンの呼びかけを受けて、兵士たちが発砲する。リリィはその弾丸をかわして、研究員を突き飛ばし、ソリッドのコックピットに乗り込んだ。

(エンジンは大丈夫。他の機能や武装も異常なし。すぐに出られる!)

 ソリッドの万全を確かめて、リリィは笑みを浮かべる。

(アルバ、私に力を貸して・・みんなを守ろう・・一緒に・・・)

「リリィ・クラウディ、ソリッド、行きます!」

 アルバへの想いを胸に秘めて、リリィがソリッドを発進させる。絡み付いているコードを引き剥がし、ソリッドは天井のハッチを突き破って外に出た。

「くっ!バカなことを!この千載一遇の好機を壊すとは!」

「心配は要りません、議長。既にソリッドのデータは収集済みです。」

 苛立ちを見せるスタンに、エリアが落ち着いた様子で言いかける。

「策のための考案も開始しています。すぐに手が打てるかと思います。」

「そうか。急いでくれたまえ。敵も狡猾な手段を講じてくる可能性が高いからな。常に危険と隣り合わせのつもりで頼むぞ。」

「分かっています。私も出撃の準備に入ります。」

 スタンの命令を受けて、エリアも行動を開始する。

(オメガめ、貴様たちの命運もこれまでだ。この場で一掃してくれる・・・!)

 オメガへの憎悪と野心を募らせて、スタンは不敵な笑みを浮かべていた。

 

 セイントに向けて攻撃を仕掛けていくゼロ。その力に押されて、マルナが焦りを膨らませてきていた。

「セイントの力が、通用しないなんて・・・!」

「ここは自分に任せてください!みなさんは撤退の準備を!」

 毒づくマルナの前で、ゼロを駆るソワレがザクのパイロットたちに呼びかける。だがロックはこれを聞き入れようとしない。

“出しゃばるな!どこの部隊かは知らんが、我らの攻撃の邪魔をするな!”

「命を落としたいのですか?このまま攻めても報われないことは、あなた方が1番よく分かっているはずですが?」

 ロックが怒鳴ってくるが、ソワレは冷静沈着に答える。その言葉に反論できなくなり、ロックは苛立ちを膨らませるばかりだった。

「連合軍は自分が抑えますので、早く撤退を!」

 ソワレの呼びかけを受けて、ザクたちが渋々後退していく。追撃を考えるマルナだが、セイントの前にゼロが立ちはだかる。

「あなたの相手は僕ですよ。」

「本当にしょうがない機体ね・・強いだけじゃなくて邪魔をしてくるなんて・・・!」

 言いかけるソワレと、毒づくマルナ。ゼロとセイントがビームダガーを発して振りかざし、激しく火花を散らす。

 だがセイントのビームダガーがゼロのビームダガーの威力に押されて、損壊を引き起こし、ついに打ち破られる。

「あなたの力は本物です。しかし、上には上がいるものです・・・!」

 ソワレが鋭く言い放つと、ゼロがさらにビームダガーを振りかざす。左腕のビームダガーでとっさに防ごうとするセイントだが、ゼロの力に押されて突き飛ばされる。

 そしてゼロはビームソード、トラスカリバーを手にした。巨大な刀身からエネルギーが発せられ、超重武器特有の攻撃力にさらなる威力を付加させていた。

「これで決着を着けます。覚悟はいいですね・・・!?

 低く告げるソワレ。ゼロがセイントに飛びかかり、トラスカリバーを振り下ろす。

 その強烈な一閃が、セイントの右腕をビームダガーごと切り裂いた。

「えっ・・・!?

 あまりの一瞬の出来事に、マルナは唖然となる。高い性能を備えたセイントが、軽々と攻撃力を奪われてしまった。

 破損したセイントに向けて、ゼロが再びトラスカリバーを振りかざそうとする。体勢を崩されたセイントに、この攻撃をかわす術がない。

 そこへ一条の光線が飛び込み、トラスカリバーの刀身に当たって爆発を巻き起こす。怯んだゼロがセイントに攻撃を加えることができなくなる。

 光線の飛び込んできたほうに、ソワレが眼を向ける。その先にいた機影に、彼は驚愕を覚えた。

「ソリッド!?

 たまらず声を荒げるソワレ。ゼロの前に現れたのは、紛れもなくソリッドだった。

「バカな!?・・ソリッドは確かに僕が・・ソリッドそのものは破壊されてはいないが、アルバはプラネットGに・・!?

 なぜソリッドが現れたのか分からず、ソワレが困惑する。

「何者だ!?アルバではないのか!?

「その声・・その機体に乗っているのはソワレね!」

 ソワレが呼びかけると、ソリッドから声が返ってくる。聞き覚えのあるその声に、彼はさらに驚愕する。

「その声はリリィさん・・君がソリッドに乗っているのか・・・!?

「そうよ。アルバの心は、まだここにあるから・・・」

 ソワレの問いかけに、リリィは冷静に答えていく。

「それがあなたの新しい力なの、ソワレさん・・・?」

「そうだ・・これが僕の新しい力・・平和を切り開く剣、ゼロだ・・・!」

 リリィの問いかけに、ソワレが鋭く言い放つ。ゼロの脅威が、リリィの駆るソリッドに迫ろうとしていた。

 

 

次回予告

 

絶望に包まれたアルバに呼びかける少女、デイジー。

彼女はアルバと絆を深めた仲であるという。

自分の何を知っているのか。

デイジーの想いに導かれるまま、アルバは過去と未来を歩き出していく。

 

次回・「失われし記憶」

 

 

作品集

 

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