GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-27「邪なる過去」
ボルドに告げられた言葉に、アルバは愕然となった。ボルドはアルバの過去を知っていた。
「私もお前とまた会えるとは正直思わなかった・・お前はあのとき死んだものと思っていたからな・・」
「どういうことだ!?・・・お前は何者だ!?それに、オレは何者なのだ・・!?」
淡々と語りかけるボルドに、アルバが問い詰める。だが両手を拘束されているため、強行には出られなかった。
そのとき、アルバの脳裏に悲惨な記憶が蘇ってきた。アフェードでの混乱が、彼の中で飛び交っていた。
「もしや、記憶が戻りかけているのか?記憶は思い出せなくなるが、完全に消えることはない。お前の中に膨らんでくることもあるということだ。」
ボルドが言いかけるが、アルバは苦悶の表情を浮かべるばかりだった。
「思い出せずにいるというなら、私が教えてやろう。お前が行ってきたことを・・」
「やめろ・・・!」
「ディアス、お前は私、ボルド・タイタンの指揮する特殊戦闘員の1人だったのだ。その際に、我々はお前にソリッドを託している。」
「何っ・・・!?」
ボルドが告げた言葉に、アルバが言葉を詰まらせる。
「我々の力量と技術を危険視した旧人類から、我々オメガは攻撃を受けた。その報復を我々は決断し、その役目をお前たちに与えた・・その攻撃目標は、かつて平和の島と呼ばれていた場所、アフェード・・」
ボルドのこの言葉に、アルバは耳を疑った。リリィの故郷であるアフェードを滅ぼしたと、彼は宣告されていた。
「バカな!?オレがアフェードを、リリィの故郷を滅ぼしたというのか!?」
「そうだ!お前のその手で、ソリッドを動かして、アフェードの住人を皆殺しにしたのだ!」
反論するアルバだが、ボルドはさらに鋭く言い放つ。
「だがそれを悔やむことはない。むしろ誇るべきだ。我々に牙を向けてきた旧人類への報復と同時に、その力の差を見せ付けただけなのだからな。」
「でたらめをいうな!オレがアフェードを滅ぼすわけがない!」
「ウソではないといっている。疑うならその映像も見せることも可能だぞ。」
ボルドの言葉にもはや反論することもできなくなり、アルバは押し黙ってしまう。ボルドは映像記録を再生し、アルバに見せる。
モニターに映し出されたのは、アフェードがオメガによって襲撃される場面だった。
「やめろ・・・!」
アルバが声を振り絞るが、映像は止まることなく流れ続ける。
「やめろやめろやめろ・・・!」
映像の中に、ソリッドの姿が現れる。
「やめろ!」
絶叫を上げるアルバ。ソリッドのコックピットには、敵意をむき出しにしたアルバ(ディアス)の姿があった。
「よく戻ってきた、ディアス・フリークス。」
不敵に言い放つボルドの前で、アルバは錯乱状態に陥り、糸の切れた操り人形のようにぷっつりと意識を失って倒れた。彼の姿を見下ろしながら、ボルドは個室のドアを開けた。
「地下牢獄に入れておけ。手錠は決して外すな。」
「分かりました。」
ボルドの指示に、兵士たちが敬礼を送る。
「それでソワレ・ホークスは?」
「ドーマ・フリークス少佐に同行しています。第7ブロックに移動中です。」
「分かった。私もすぐに向かう。」
ボルドは兵士たちに告げると、1人第7ブロックへと向かっていった。
ドーマに連れられて、第7ブロックへと向かっていたソワレ。状況が飲み込めないまま、ソワレはドーマに促されていった。
「その第7ブロックに何があるのですか・・・?」
ソワレが訊ねると、ドーマは振り返らずに答える。
「最高議長や我らが秘密裏に開発していた新兵器のあるドックだ。最高議長はその1体のパイロットに君を推薦し、私も他の議員も納得した。」
「えっ!?自分が、新兵器のパイロットですか!?」
ドーマの言葉に思わず声を荒げるソワレ。我に返った彼は、気まずさを感じて押し黙ってしまう。
「お気になさらず。おそらく君は、自分のような若輩者がそのような大役を務めていいのだろうか、そう思っているのだろう・・」
ドーマは弁解を入れて、唐突に笑みをこぼす。
「最高議長と私は、あなたの実力と実績を評価した上で、この決断をした。謙そんすることはない。存分に誇ってくれ。」
「そうですか・・ありがとうございます・・」
ドーマの言葉を受けて、ソワレはようやく落ち着きを取り戻した。しばらく歩いて、2人はドックの入り口へと差し掛かった。そこでは2人の兵士が見張りとして立っていた。
「これよりソワレ・ホークス准尉を、新兵器に案内する。」
「はっ!」
ドーマの言葉に兵士たちが敬礼を送る。彼らの前を通り、ドーマとソワレはエレベーターを降りる。
「ひとつ聞いておきたいことがあるのだが・・」
「はい。何でしょうか・・?」
ドーマの唐突の問いかけに、ソワレも疑問を返す。
「君は何のために戦っている?」
「何のためにですか?・・世界の平和のためです。このような混乱や、戦争がいつまでも続いてほしいと考える人はいませんからね。」
「平和?その平和とは、何のための、誰のための平和だと?」
「何のために、ですか・・・?」
問い詰めてくるドーマに、ソワレは答えに迷ってしまう。
「平和のために戦う。そう決意するのも、その決意をもって戦いに赴くのは容易い。だがそれが全て成熟するとは限らない。決して満たされない念が残ることもある・・」
「そんなことはないです・・平和のために戦って、報われないことがあるはずがない・・・!」
「ならば君は、今の自分に満足しているのか?これまで戦ってきて、全てが後悔のないものだと君は言い切れるというのか?」
「それは・・・!」
ドーマの問いかけにソワレは反論できなくなる。自分のこれまでの戦いが、満足のいくものであったわけではなかった。
自分の力のなさのために、マリアを瀕死へと追い込んでしまった。これが彼の求めた平和であるはずもない。
「確かに平和を求めなければ、このような戦いはできない。だがそれに基づく正義を貫くためには、それ相応の力が要る・・ソワレ・ホークス准尉、君にその力を与えよう・・」
ドーマが言いかけたところで、エレベーターが停止する。その先の暗闇が、彼が付けた明かりによってかき消される。
その先にそびえ立つものに、ソワレは眼を見開く。そのドックにあったのは、2体のMSだった。
「もしかして、これが・・・!?」
「そうこれが我々が密かに開発している新兵器。フューチャー、そしてゼロだ。」
驚きを隠せないでいるソワレに、ドーマが言い放つ。白のメインカラーに青と赤を含めたカラーリングのフューチャー、黒をメインカラーとしたゼロ。2体の新機体が、2人の前に立ちはだかっていた。
「そのうちゼロは、君に合わせた調整を施している。君の的確な判断に、ゼロも応えてくれるだろう。」
「ゼロ・・・ゼロが、僕のための・・・」
ドーマの言葉を受けて、ソワレがゼロの前に立つ。
「これが僕の新しい機体・・新しい力・・・」
「そうだ。それが君の新しい力となるのだ。」
そこへボルドが現れ、ソワレに声をかける。ソワレとドーマが振り返り、ボルドに敬礼を送る。
「いや。かしこまらなくていい。それよりも、気に入ってもらえたかな?」
「はい・・しかし自分のような人間にこのような大役・・」
ボルドの前でも謙そんを見せるソワレ。するとボルドはソワレの肩に手を添える。
「おそらくドーマと同じことを言うことになるか・・私は君だからこそ、君をパイロットに推薦したのだ。」
ボルドは言いかけると、歩を進めながら語り始める。
「君は心の底から平和を望んでいる。他の誰にも勝るとも劣らぬほどに。」
「議長・・・」
「世界の平和。それは誰もが望んでいることだ。だがそれに反して、平和を脅かそうとする者もいるのも否めない。その者たちは我々を完膚なきまでに叩き潰そうと、力と知恵をつけてくる。それに対抗するには、同じように力と知恵を得なくてはならない。目には目を、とはよくいったものだ・・」
「しかし、やられたらやり返すといった流れでは、結局平和から程遠くなってしまうのではないのでしょうか・・」
「ならばソワレ、君は大切なものを奪われる悲しみを知っているか?」
ボルドのこの言葉に、ソワレは言葉を詰まらせる。彼はマリアを傷つけられたことで、この上ない怒りを覚えた。その怒りに駆り立てられて、アルバたちと対峙した。
それが大切なものを奪われた悲しみであることは、ソワレも痛感していた。
「なぜこんなことになってしまったのか。なぜ自分が守ろうとしていた人が傷つかなければならないのか。その怒りと悲しみは、傷つけた相手だけでなく、無力と思う自分にも向けられる。その感情は力への渇望へと変わっていく・・」
「自分は・・・自分は・・・」
「君がこれから乗るゼロを、何のために使っていくかは君に任せる。我々は、平和を強く望む君を信じよう・・・」
「議長・・・ありがとうございます!自分、平和のために、全力で戦っていきます!」
ボルドの信頼を受けて、ソワレが深々と頭を下げる。
「今後の君の配属などはこれまでと同じだ。機体の他に、1点を除いて。」
「1点?」
淡々と言いかけるボルドの言葉に、ソワレが疑問符を浮かべる。その疑問に答えたのはドーマだった。
「ソワレ・ホークス、君は准尉から2階級特進。マリア・スカイローズは少尉から1階級特進。ともに中尉となるのです。これまでの君たちの功績によるものです。」
「自分が中尉・・マリアさんとともに・・・!?」
驚きの色を隠せなくなるソワレ。ボルドとドーマは不敵な笑みを浮かべて頷く。
「これからも頼むぞ、ソワレ・ホークス中尉。」
「はいっ!」
ボルドの言葉に答えて、ソワレは敬礼を送る。
「ではチェックとシュミレーションを行ってくれ。さすがにいきなり実践とは酷だろうだから。」
ドーマの言葉を受けて、ソワレはゼロに乗り込んだ。彼はコックピットで、ゼロの性能と武装を確かめる。
(性能はソニックやソリッドといった従来の新型を大きく上回っている。ソニックと比較しても、攻撃力、耐久力は約1.5倍、機動力とスピードは約2倍・・)
コンピューターを操作して、ソワレはゼロの性能の数値に眼を通していく。
(武装は斬撃に特化したものがそろえられている。ビームライフルや強化型ビームシールドの他、両足のビームブレイド、両手甲部のビームダガーを搭載。そして最大の武器は、ビームソード“トラスカリバー”。切断力も相当だが、突きによる貫通力は絶大・・・こんなすごい性能と武器のある機体、僕に操れるだろうか・・・)
ゼロの強大さを実感すると同時に、ソワレは不安を感じていた。だが彼はすぐにその不安を払拭した。
(僕がやるしかない・・僕がやらなければ、マリアさんや多くの人々が傷つくことになる・・みんなを守るために、僕は戦い続ける・・これまでも、これからも・・・!)
決意を新たにしたソワレが、ゼロの性能を把握する。その様子を、ボルドとドーマは不敵な笑みを浮かべて見つめていた。
「ソワレ・ホークス、どう思いますか・・?」
「彼は純粋だ。今現在の状況にさいなまれて、彼は真っ直ぐに戦おうとしている。その決意が、旧人類との戦争の早期終結をもたらすことだろう。」
ドーマの問いかけにボルドが答える。
「それに、フューチャーも加われば、それも容易く実現することが可能です。3機目が加わればなおのこと。」
「これで旧人類も終わりだ。ヤツらの時代は、今度こそ潰えることになるのだ。」
笑みを強めるドーマとボルド。2人の野心にソワレの純粋な心が漬け込まれていた。
地球連合上層部に呼ばれ、本部に向かうアルテミスとグリーア。順調に回復に向かっているリリィだが、アルバのことが気がかりで、精神的に追い詰められたままだった。
そんな彼女のいる医務室に、マルナが訪れた。
「まだアルバのことを気にしているんだね・・」
「マルナ・・・」
微笑んで声をかけてきたマルナに、リリィが戸惑いを見せる。
「私もアルバのことは心配だよ・・でも愛しているという意味じゃないのは分かってほしい・・」
「えっ!?・・わわ、私、そんなつもりなんて全然ないって!・・ホント、全然・・!」
マルナの突拍子もない発言に赤面し、リリィが慌しく首を横に振る。
「ウ・ソ♪だってリリィ、アルバのことが好きだって顔に書いてるよ。最近になって、アルバのことをよく気にするようになってたし・・」
「んもう!だから違うって!」
「私だって女。周りの親しい女の様子の変化に気付かないほど、私は鈍感じゃないよ。」
マルナに言いくるめられて、リリィはついに反論できなくなる。
「好きだって気持ちは、包み隠さずに前に前に押し出したほうがいいよ。いつまでも隠していると、他の人に取られたりして、報われなくなっちゃうよ。」
「そういうものなのかな・・・?」
「まぁとにかく、今私たちがやらなくちゃいけないのは、アルバが無事に帰ってくると信じてあげること。再会したときにそんなくらい顔を見せたら、アルバに呆れられちゃうよ。」
「それもそれで釈然としないわね・・・」
マルナの呼びかけを受けて、リリィはふくれっ面を見せる。彼女のその様子を見て、本来の彼女に戻ったのだと、マルナは思っていた。
「といったところで、そろそろリハビリでも始めたほうがいいかもね。あまりじっとしすぎるのも、体がなまってダメだから。」
「そうね・・マルナも手伝ってくれる?」
マルナとリリィは体を動かそうと、医務室を後にするのだった。
ボルドの口から自分の過去を明かされたアルバは、完全に打ちひしがれていた。否定しようとしても拒むことができず、彼は絶望感にさいなまれていた。
暗い地下の牢獄の中で、アルバは静かに横たわっていた。
(オレはオメガ・・しかもアフェードを攻撃した兵士の1人・・・オレはリリィの家族と故郷を滅ぼした・・・オレの手で、リリィを・・・)
自分の大罪に苦悩し、立ち上がる気力さえ失っていたアルバ。
そんな彼のいる牢獄に、足音が響いてきた。だがアルバはその音に耳を貸そうとしなかった。
その足音は徐々に近づき、アルバの牢獄の前で止まった。それでもアルバは起き上がろうとしない。
「やはり、あなたでしたのね・・ディアス・・・」
女性の声が飛び込み、そこでアルバはようやく聞き耳を立てる。
「ディアス・・・お前もオレの過去を知っているのか・・・?」
「あなたはディアス・・私の幼馴染みよ・・」
女性の言葉を聞いて、アルバは動揺を隠せなくなる。
「お前はいったい誰なんだ・・・!?」
アルバは体を起こして、眼の前にいる女性に問い詰める。
「私はデイジー・・デイジー・タイタンです・・」
女性、デイジーが、アルバに沈痛の面持ちを見せていた。
次回予告
地球連合本部。
連合軍の総本山であるその場所で、カーラは尋問を受けることとなった。
戦争の矛先はどこに向かっているのか。
何のための戦いなのか。
様々な交錯が、少年少女の心を突き動かす。