GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-26「死闘」

 

 

「アルバ・・君だけは・・君だけは!」

「ソワレ、お前は!」

 激昂するソワレとアルバ。振りかざされるビームサーベルが激しくぶつかり合い、火花を散らす。

 その怒りの中で、アルバはリリィのことを思い返していた。

(リリィ・・お前は誰よりも平和を望んでいた・・悲しみと怒りを誰よりも抱えていた・・だから、こんなところで終われるわけにはいかないというのに・・!)

 アルバはリリィを、誰よりも純粋な人間であると思っていた。悲劇の経験から、他人の悲しみや怒りを誰よりも理解していた。

(悲劇を止めようとしていたアイツの心を、ソワレが砕いた・・・ソワレ!)

「ソワレ!」

 リリィの思いに触発されるかのように、アルバがソワレに叫ぶ、ソリッドがソニックのビームサーベルを叩き、力押しを仕掛ける。

「このような攻めで、僕を押さえられると思っているのか!」

 ソワレが怒鳴り、ソニックがソリッドの特攻を受け流す。そしてすかさずビームサーベルを振りかざす。

 ソリッドもとっさに胴体に回転を加え、ビームサーベルを振りかざす。2つの光刃は交わることなくすり抜け、ソリッドの左わき腹とソニックの左腕を切り裂いた。

 だがアルバもソワレも攻撃の手を緩めない。

「ソワレ!」

「アルバ!」

 アルバとソワレが再び叫ぶ。ソリッドとソニックが突き出したビームサーベルが、互いの光刃を突き崩した。

 攻め手を欠いて焦りを覚えるソワレ。ソニックがとっさにビームブーメランを持ち、ソリッドに突き立てる。

「ぐっ!」

 その衝撃にアルバがうめく。ビームブーメランはソリッドの胴体に突き刺さり、傷を抉っていく。

 そのままソニックに押されて、ソリッドが地上に落下していく。

「アルバ!」

 その危機に気付いて、マルナが声を荒げる。だがセイントの前には、ザクたちが立ちはだかっていた。

「どきなさい、あなたたち!」

 叫ぶマルナ。セイントがビームダガーを発して加速し、ザクたちをなぎ払っていく。しかしザクたちが次々と行く手を阻んでいく。

「次から次へと・・・アルバ・・リリィ・・・」

 焦りばかりが膨らんでいく。マルナはアルバとリリィが気がかりになって仕方がなくなっていた。

(このままやられるわけにはいかない・・・リリィが・・そしてオレ自身が・・・!)

 アルバがいきり立ち、落下するソリッドがビームライフルを構える。その胴体に向けて、ソリッドがライフルの引き金を引く。

 その射撃がソニックの胴体に直撃し、爆発を引き起こす。だがその衝撃でソリッドも地上に叩きつけられる。

 その衝撃でアルバが意識を失う。機動力を失い、動かなくなってしまう2体。

 必死にソニックを動かそうとするソワレだが、ソニックは微動だにしなくなってしまった。

 ソワレはソニックから降りると、ソリッドにいるアルバに銃口を向ける。そこへザクたちが降下して、ソリッドを包囲していた。

“ソリッドをこれまで手足のように動かしてきたヤツだ。この場で始末したほうがいい。”

「いえ。彼にはいろいろと聞かなければならないことがあります。拘束し、連行します。」

 パイロットからの通信に、ソワレは淡々と答える。彼は激情を何とか抑え込んで冷静になっていた。

「パイロットを連行したら、ソリッドを回収してください。我々の機体ですから・・」

“了解。”

 ソワレの呼びかけにパイロットたちが答える。ソワレが気絶しているアルバを後ろ手に拘束して連れ出すと、周囲のザクたちが動き出す。

 そのとき、そのザク数機が突如射撃を受けて爆発する。他のザクたちが振り返った先には、ビームライフルを構えるセイントの姿があった。

「アルバを返しなさい!今すぐに!」

「ソリッドは諦めましょう!ここは撤退です!」

 マルナが言い放つ中、ソワレがパイロットたちに呼びかける。コーラサワーの乗るザクブラストが、アルバを抱えたソワレを手の中に乗せる。

「落ちても2度も拾ってやらないからな!」

「分かっています!急いでください!」

 愚痴るように言いかけるコーラサワーに、ソワレが答える。ザクたちはアルバを連れたまま、この場を去っていってしまった。

「待ちなさい!アルバ!アルバ!」

 呼びかけも届かず、射撃も当てることができず、マルナはザクたちを止めることができなかった。

「アルバ・・・」

 去っていくクレストを見つめたまま、愕然となるマルナ。そこへジョニーからの通信が入る。

“マルナ、リリィさんの救出に向かえ。彼女はまだ生きている。”

「艦長・・・!」

 呼びかけられて我に返るマルナ。彼女はソルディンが落下した地点をセンサーで探る。

 そしてセイントのメインカメラが、海上で意識を失っているソルディンの胴体を捉えた。

「リリィ!」

 マルナが声をあげ、セイントが海上に降下する。マルナがセイントから降りて、ソルディンに着地し、コックピットのハッチを開ける。

 リリィはその中で意識を失い、動かなくなっていた。

「リリィ!・・リリィ、しっかりして!」

 マルナが呼びかけるが、リリィは反応しない。マルナはリリィを引っ張り出して横たわらせ、メットを外す。

 リリィは頭から血を流しており、危機的な状態を示唆していた。

「グリーア!リリィさんが危ない!すぐに医療班に治療の準備を!」

“了解!”

 マルナの呼びかけにグリーアのオペレーターが答える。セイントの前にグリーアが降下してきた。

「すみません!お願いします!」

 マルナに預けられて、医務官たちがリリィを医務室に運んでいく。セイントに戻ったところで、マルナにカーラからの通信が入ってきた。

“マルナさん、リリィは!?”

「カーラさん、すみません!緊急でして、リリィさんをグリーアの医務室に運びました!」

“分かりました。それでアルバは大丈夫なの・・・?”

「それが・・アルバはクレストに連行されて・・ソリッドを奪取されるのを阻止するのに精一杯で・・・申し訳ありません・・私の力が至らないせいで・・」

“ううん、気にしないで・・あなたも全力で戦ってくれた・・そのあなたをとがめることはできない・・”

「カーラ艦長・・・私もグリーアに戻ります・・・」

“分かりました・・リリィをお願いね・・”

 カーラとの通信を終えると、動揺を抑えて気持ちを切り替えるマルナ。セイントも浮上するグリーアに着艦した。

 

 アルバを拘束し、クレストに連行したソワレ。マリアの容態が気がかりだった彼は、すぐさま医務室に向かった。

 マリアは医務室のベットで横たわっていた。峠を越したことを知らされて、ソワレは安堵していた。

「マリアのことは心配要らないぞ。」

 そこへガルが現れ、ソワレが振り向いて敬礼を送る。

「あの男、アルバ・メモリアのことだが・・そのことを本部に連絡を入れた・・それで、本部はプラネットGへの帰還命令を出してきた。」

「本部が自分たちを・・アルバも連れて来い、ということですか・・・!?

「そういうことだ。そのアルバという男、我々にとって重要な人物であるのかもしれないぞ・・」

 ガルの言葉にソワレは言葉を失う。アルバは何者なのか。それはソワレにとっても無視できない疑問となっていた。

「すみません、艦長・・ソニックを、失ってしまいました・・・」

「気にすることはない。お前の命懸けの攻防が、ソリッドを打ちのめしたのだ。」

 肩を落とすソワレに、ガルが弁解を入れる。その励ましを受けて、ソワレが戸惑いを覚える。

「とにかく今は休め、ソワレ。ボロボロなのは君も同じなのだから。」

「しばらくマリアさんのそばにいさせてください・・休息を取るなら、せめて彼女のそばで・・」

「気持ちは分かるが、今は自室に戻って睡眠を取れ。先の戦いに備えてシュミレーションを練り上げたために、ろくに寝てもいないだろう?」

 ガルに言いとがめられて、ソワレは渋々自室に戻っていった。

(マリアが心配要らないことは、お前が1番分かっているはずだ、ソワレ・・お前は心を癒せ。今のお前は、激情で心が擦り切れそうになっている・・)

 マリアの安否だけでなく、ソワレの心身も気にかけるガル。様々な思いが、クレストの中で交錯していた。

 

 壮絶な戦いから一夜が明けた。一命を取り留めたリリィが、グリーアの医務室で眼を覚ました。

「あ、あれ・・・私・・・?」

「あっ!気がついたみたいだね・・・よかった・・リリィ・・・」

 意識を取り戻したリリィに、マルナが安堵の笑みをこぼす。

「マルナ・・・私、どうなって・・・それにここはどこ?・・アルテミスの医務室じゃない・・・」

「ここはグリーアの医務室よ。危ないと思ったから、こっちに運ぶことにしたわけ・・」

 意識がもうろうとしているリリィに、マルナが説明を入れる。

「そうだったの・・ありがとう・・・それでアルバは、アルテミスは・・・?」

 リリィが訊ねると、マルナが沈痛の面持ちを浮かべる。

「アルバは、クレストに連れて行かれてしまった・・私も助けようとしたんだけど・・・」

「そんな・・・アルバ・・・!?

 マルナから告げられた非情の事実を聞いて、リリィは愕然となる。

「ゴメン・・私の力が足りなかったせいで・・・」

「助けないと・・このままでは、アルバは確実にオメガに殺される・・・!」

 謝るマルナの前で、リリィがたまらず起き上がろうとする。だが体に激痛が走り、彼女はすぐに横たわる。

「ムチャしたらダメだよ、リリィ!・・死ぬところだったんだよ・・・!」

 マルナが慌ててリリィを制する。心身ともに追い詰められて、リリィは息を絶え絶えにしていた。

「アルバ・・・ソワレにやられて、それで・・・!」

「落ち着いて、リリィ!・・今は自分の体を休めることのほうが先決だって・・・!」

 混乱しているリリィに、マルナが必死に呼び止める。何とか落ち着きを取り戻したリリィは、再びベットで眠りに付いた。

 深刻さを抱えたまま、マルナは医務官にリリィを任せて、医務室を後にした。その廊下ではジョニーが待っていた。

「艦長・・・」

「かなりこたえているようだな・・体だけでなく、心も・・」

 ジョニーが言いかけると、マルナは小さく頷く。

「アルバがさらわれたことが、相当ショックだったようで・・」

「そうか・・アルテミスは、いや、我々は心強い仲間を、向こうに奪われてしまったことになる・・・」

「リリィさんはソルディンも失いました・・ソリッドは奪取されずに済みましたが、それを動かせる人が他にいるかどうか・・」

 考え込むジョニーとマルナ。しばらく沈黙が続いてから、ジョニーがマルナに呼びかけた。

「お前も体を休めておけ、マルナ。お前も疲れているはずだ。アルテミスには、私が連絡を入れておく。」

「すみません、艦長・・お手数をおかけします・・・」

 マルナが苦笑いで答えると、そそくさにその場を後にした。

(最悪の事態になったぞ・・過激化するリードの攻撃に、セイントだけでどれだけ持ちこたえられるか・・)

 今後の状況を楽観視することができず、ジョニーは深刻さを拭うことができなくなっていた。

 

「そんな・・・アルバさんが・・・!?

 グリーアからの連絡を受けて、アルテミス艦内にいたハルとレミーが愕然となる。

「ソルディンもソリッドもやられて・・・これから私たち、どうやって、これからを切り抜けたらいいの・・・!?

「ここで弱気になってどうするの!?こういうときだからこそ、自分に喝を入れるときじゃない!」

 落ち込むレミーたちに、カーラが檄を飛ばす。

「しっかりしなさい!私たちは、アルバくんやリリィさんに守られていたわけじゃないのよ・・・!」

「艦長・・・そうですね・・いつまでも、アルバやリリィちゃんばかりに頼っていられませんよね・・・!」

 カーラの激励を受けて、ハルが活気を取り戻す。レミーもキーオも次第に自信を取り戻していく。

「正念場はこれからよ。そして、私たちの真価が問われるとき・・」

「はいっ!」

 カーラの言葉にクルーたちが答える。

「艦長、ソリッドには大きな損傷はありません。修復作業に入ります。」

「ソリッドが・・そうね。いざというときに役に立つことがあるかもしれない・・お願いね・・」

 ハルの言葉にカーラが答える。レミーもレーダーの動きに眼を光らせていた。

(これから私たちが向かおうとしている道には、何が待ち受けているというの・・・)

 予期のできない事態に、カーラは深刻に悩むばかりだった。

 

 地球を離脱し、プラネットGへと帰還したクレスト。ガルたちを迎えたのは、数十人の兵士たちを伴ったボルドだった。

「これは。ボルド・タイタン最高議長・・」

「よく戻った、ガル・ビンセント艦長・・君たちの奮闘ぶりは私も聞いているぞ。」

 敬礼を送るガルに、ボルドが笑みを見せて頷く。

「あのソリッドのパイロットを、君たちが拘束したそうだね?武器の類を全て取り上げてから、私のところに連れてきてもらいたい。」

「彼ですか?しかし彼はリードのMSを数多く撃墜させ、我々も何度も追い詰めています。最高議長が直に面会するには危険があるかと・・」

「構わん。武器の不所持と拘束を行ってもらえれば問題はない。」

 不安を口にするガルに、ボルドは淡々と答える。

「それと、ソワレ・ホークス准尉に第7ドックに来るように伝えておいてくれ。すぐに迎えの者がここに到着する。」

「ソワレをですか?・・分かりました。伝達しておきます。」

 ボルドの言葉にガルが頷く。ボルドは不敵な笑みを見せると、振り返ってこの場を後にした。

(アルバ・メモリア・・何者だというのは・・・)

 ガルはアルバを深く気にかけるようになっていた。

 

 ボルドの呼び出しにより、兵士たちに連行されるアルバ。携帯していた武器を全て取り上げられたアルバは、脱走のチャンスを狙うしかなかった。

 アルバが連れ出されたのは寂れた個室だった。その中央にあるテーブルの先で座っていたのは、不敵な笑みを浮かべているボルドだった。

「ご苦労だった。お前たちは下がっていいぞ。」

 ボルドが言いかけると、兵士たちは敬礼を送って個室を後にした。部屋の中にはアルバとボルドの2人だけとなった。

「ここは完全防護の部屋でな。ここと外の声が行き交うことはない。」

 淡々と言いかけるボルドに、アルバが眉をひそめる。

「久しいな。まさか、こんなところで会えるとは思わなかったぞ、ディアス・・」

「ディアス?何を言っている?オレはアルバ。アルバ・メモリアだ。」

 ボルドの言葉に、アルバは憮然とした態度を返す。するとボルドがさらに笑みをこぼす。

「そういえばお前は記憶を失っているそうだったな・・」

「ん?オレのことを知っているのか?」

「知っているのか?それは愚問というものだぞ。私はお前のことを熟知している人間の1人だぞ。アルバ・メモリア、いや、ディアス・フリークス!」

 笑みを強めて言い放つボルドに、アルバが驚愕を覚える。

「ディアス・フリークス・・それがオレの名前だというのか・・・!?

「そうだ!お前はディアス!我々の仲間だ!」

 愕然となるアルバに、ボルドが高らかに言い放つ。アルバの失われていた過去が今、明らかになろうとしていた。

 

 

次回予告

 

アルバの過去を知る男、ボルド・タイタン。

彼が放つ言葉が、アルバの失われていた過去を浮き彫りにしていく。

そして、ドーマに導かれるソワレ。

決意を新たにするソワレは、新たなる剣を手にする。

 

次回・「邪なる過去」

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system