GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-25「怒れる慟哭」
ソワレを守ろうと乱入したマリア。だがアルバの駆るソリッドの反撃を受け、ザクローズは損傷した。
機体の爆発は避けられたが、コックピットにまで損傷は起こっていた。マリアも負傷を被り、意識を失っていた。
「マリアさん・・マリアさん!」
「落ち着いてください!体に触ります!」
叫ぶソワレを医務官が制する。医務官たちに運ばれて、マリアは医務室に運ばれた。
彼女の治療の間、ソワレは心配を隠せないまま、医務室の前を右往左往する。そんな落ち着きのないところへ、ガルがやってきた。
「ここまで取り乱すとは、お前らしくないな・・」
「艦長・・・」
苦笑気味に言いかけるガルに、ソワレが戸惑いを覚える。するとガルが真剣な面持ちを見せる。
「マリアなら大丈夫だ。彼女は何度か負傷し、視線を潜り抜けてきた。それでも彼女は生還してみせた・・今度も戻ってくる・・」
「艦長・・・そうですね・・今は信じるしかないですね・・・」
ガルの言葉を受けて、ソワレがようやく気持ちを落ち着けた。しばらく待っていると、医務官が医務室を出てきた。
「どうですか・・・?」
「命に別状はありません。ですが今は絶対安静です。刺激しないようにお願いします・・」
ガルが訊ねると、医務官は深刻な面持ちで報告する。ソワレとガルはすぐに面会しようとせず、医務室を離れた。
「自分がいけなかったんです・・自分の軽率な行動が、マリアさんを傷つけてしまった・・・」
「自分を責めるな、ソワレ。お前もマリアも、全身全霊を賭して戦ったと、私は信じている・・・」
「艦長・・・」
ガルに励まされるも、ソワレは悔恨を振り切ることができずにいた。自分のせいで、これまで自分を導いてくれた大切な人が瀕死の状態となってしまった。
(命に別状がなかったのは不幸中の幸いというしかない・・下手をしたら確実に死んでいたんだ・・・その状態に、僕がマリアさんにさせてしまったんだ・・・)
ソワレの心の中に、今まで感じたことのない感情が膨らんできていた。それが怒り、憎悪、復讐であると自分でも分かっていた。
「お前も休め、ソワレ。次の戦いは遠くない。それまで疲れを取っておくんだ。」
「・・・分かりました・・・」
ガルに呼びかけられて、ソワレは頷く。心身ともに疲労を抱えたまま、彼は1人自室に戻っていった。
「ソワレ・・・」
その後ろ姿を眼にして、ガルはさらに深刻さを募らせていた。
同じ頃、リリィもマリアに対して心配を抱えていた。安否を気にするあまり、彼女は窓から外をぼうっと見つめるばかりだった。
「気にしていないといっても、どこかでウソはつけないものだな・・」
そこへアルバが訪れ、リリィが振り向く。
「文句なら受け付けないわよ。私も自分の気持ちの整理がついてないんだから・・」
「文句をいうつもりはない。オレもあの2人のことは気になっているからな・・」
互いに憮然とした態度を見せるリリィとアルバ。
「マリアさん、大丈夫かな・・・?」
「爆発はしなかったから死んではいないはずだ・・だが無事というわけではない・・・」
不安を口にするリリィに、アルバも深刻さを込めて答える。
「マリアもそうだが、ソワレも・・・」
アルバの心は揺れていた。次にソワレやクレストがどんな手に出てくるのか、予想がつかなかった。
重苦しい気持ちを抱えたまま、ソワレは自室に戻っていた。彼は塞ぎこみたい気持ちを抑えて、パソコンを動かしていた。
その画面に映されていたのはソリッドだった。ソワレはソリッドの動きを分析していた。
武装、攻撃パターン、癖、その動きを、ソワレは細大漏らさずかき集めた。
全ては自分への戒めだった。自分のために誰かが傷つくことを、ソワレは許せなかった。
(もう迷わない・・これ以上、僕のために大切な人を傷つけるわけにいかない・・・)
分析を繰り返す中、ソワレが迷いを振り切ろうとする。
(僕は戦う・・みんなを守るために・・・たとえアルバ、君が相手でも・・・!)
平和への追求のため、ソワレは今非情に徹しようとしていた。
悲劇の日から一夜が明けた。体勢を整えたクレストが、アルテミスとグリーアの討伐に再度乗り出そうとしていた。
「そろそろ連中と接触しますね、艦長・・」
ギルが呟きかけると、ガルが小さく頷く。
「先の戦闘で、みんな感情が大きく揺れ動いている。次までに平常心を保つように。」
「分かっています。特にソワレには念を押しておきます。」
ガルの呼びかけにギルが答える。
「第一級戦闘配備!パイロットは出撃準備だ!」
ガルの呼びかけを受けて、クルーたちが答える。ソワレも気持ちを引き締めて、ソニックに乗り込もうとしていた。
「コーラサワー少尉、ソリッドは僕が討ちます・・ご理解の程を・・・」
「・・仕方ないな・・その代わり、確実に仕留めてみせろよ。」
冷淡に告げるソワレに、コーラサワーが苦笑気味に答える。ソワレは頷くと、ソニックに乗り込み、エンジンをかける。
(マリアさん、あなたの気持ち、ムダにしない・・・!)
ソワレの心に、マリアへの想いと平和への渇望が膨らんでいた。
(必ずソリッドを・・アルバを、倒す・・・!)
「ソワレ・ホークス、ソニック、発進する!」
決意を秘めたソワレが、クレストから発進していった。
クレストの接近に、アルテミスとグリーアも警戒を見せていた。アルバとリリィもそれぞれの機体に乗り込み、出撃しようとしていた。
「アルバ、気をつけてね・・ソワレ、何を仕掛けてくるか予想が付かない・・」
「分かっている・・リリィも気をつけておけ・・・」
リリィの言葉にアルバも呼びかける。2人は改めて気を引き締める。
“アルバ、リリィ、気をつけてね。クレスト、今まで以上の本気を見せてきているみたい・・”
そこへカーラからの通信が入ってきた。
「オレには関係ない。オレはオレの道を切り開くだけだ。」
“それでも注意して。嫌な予感がするのよ・・”
憮然とした態度で答えるアルバだが、カーラは不安を拭えずにいた。
「肝に銘じておく。そして必ず戻ってくる。」
アルバは不敵な笑みを見せると、カーラとの通信を終える。
“行くよ、2人とも。無事に帰ってきてよね・・・”
続けてハルも通信を送ってくる。彼はソリッドのソルディンを発進位置に移動させた。
「アルバ・メモリア、ソリッド、行くぞ!」
「リリィ・クラウディ、ソルディン、行きます!」
アルバのソリッド、リリィのソルディンがアルテミスから発進する。
「マルナ・フィーセ、セイント、行くわよ!」
マルナのセイントもグリーアから出撃し、ソリッドとソルディンとともにクレストを迎え撃つ。
「何か仕掛けてきそうな気がしてる・・急いで決着を着けたほうがいいかもね。」
「早く終わらせるに越したことはないがな・・」
マルナが呼びかけると、アルバも淡々と答える。
「2人とも来るよ!用心して!」
リリィの呼びかけにアルバとマルナが集中する。そこでアルバは、モニターが捉えたソニックの姿を眼にする。
(ソワレ・・・)
ソワレの登場に緊張を強めるアルバ。ソワレもソリッドの姿をじっと見据えていた。
「ソリッドは僕に任せてください!他の方々は他の戦力を!」
ソワレは周囲に呼びかけると、ソリッドに向かってソニックを走らせる。
「アルバ!」
いきり立つソワレ。ソニックがソリッドに向けて、ビームサーベルを振りかざす。
アルバがとっさに判断し、ソリッドがビームシールドでソニックの一閃を受け止める。それを見越していたソワレ。ソニックがすぐさまビームサーベルを振り上げ、ソリッドに追撃を見舞う。
これもまた防いだソリッドだが、その衝撃で怯み、体勢を崩される。
「アルバ、今日こそ君は、僕の手で討つ!」
「ソワレ、本気でオレを!」
叫ぶソワレに、アルバが毒づく。ソニックがビームライフルを撃つが、ソリッドはすぐに体勢を立て直し、その射撃を回避する。
「マリアを討ったオレがそんなに憎いか!?憎しみに駆り立てられることが、お前が身を投じた平和への戦いなのか!?」
「僕はマリアさんの気持ちをムダにしたくない!そう思っているから!」
呼びかけるアルバに、ソワレが怒りの言葉を返す。マリアを傷つけられたことで、ソワレの心は大きく揺れ動いていた。
「僕は平和を切り開くために戦う!そのために僕はアルバ、君を倒す!」
「そこまでしてオレを倒さなければならないというのか・・・だが!」
アルバが言い返し、ソリッドがビームライフルで射撃を繰り出す。ソニックはその光線を横に動いてかわす。
「オレもオレの道を自ら閉ざすわけにはいかない!負けるわけにはいかないんだ!」
アルバがソニックを鋭く見据え、ソリッドがビームサーベルを引き抜いて振りかざす。ソニックもビームサーベルを掲げて迎え撃つ。
2つの光刃がぶつかり、激しく火花を散らす。ソワレがいきり立ち、ソニックがソリッドに左手を突き出してきた。
「くっ!」
アルバが毒づき、ソリッドがとっさに右足を振り上げた。右足はソニックの伸ばした左手を蹴り、2体とも体勢を崩される。
だがソワレは踏みとどまり、ソニックがビームサーベルを突き出す。ソリッドもビームサーベルを振りかざし、その突きを弾く。
「僕は君を倒す!そうしなければ平和は取り戻せない!悲劇は繰り返される!」
「怒りだけで平和が救えるものなのか!?」
「リリィさんも同じ気持ちだったはずだ!」
ソワレのこの言葉に、アルバが心を揺さぶられる。
「リリィさんは家族も故郷も奪われた!彼女のその怒り、もっと深刻に考えるべきだったんだ!」
「オレが、リリィのことを考えるべきだったというのか・・・!?」
「1人よがりな考えでは、戦争は終わらない!それを理解できなかった君の罪だ!」
激昂するソワレに、アルバは反論できなくなる。彼の心にに影響するかのように、ソリッドの攻めに勢いがなくなる。
「アルバ!」
ザクたちと交戦していたリリィが、ソニックに押されていくソリッドに気付く。
「マルナ、ザクたちを止めておいてください!私はアルバを!」
「リリィ!」
リリィの呼びかけにマルナが声を荒げる。ソルディンがソリッドを追い詰めつつあるソニックに向かっていく。
「やめなさい、ソワレくん!」
「リリィさん!」
呼びかけるリリィに、ソワレが声を荒げる。ソルディンが撃ってきたビームライフルの射撃を、ソニックがかわす。
その間にソニックとの距離を取り、体勢を整えるソリッド。だがアルバは危機感を募らせていた。
「やめろ、リリィ!深追いするな!今のソワレは・・!」
呼びかけるアルバだが、リリィにもソワレにも届いていない。
「邪魔をしないでくれ、リリィさん!僕はアルバを倒さなければならないのだ!」
「マリアさんを傷つけたことを怒っているの!?」
「今の僕の怒り、リリィさんなら十分理解できるはずだ!大切なものを失う悲しみを、あなたは痛いほど分かっているはずだ!」
ソワレがリリィにも叫び、ソニックがビームサーベルを振りかざす。ソルディンもビームサーベルを引き抜き、光刃での攻防を繰り広げる。
「僕はマリアさんを傷つけられた!僕が戦うことに迷ったために、彼女は瀕死の重傷を負ってしまったんだ!・・もしも死んでしまっていたら、僕は・・・」
「それは、マリアさんも望んでいることなの・・・!?」
「君こそ平和を望んでいるのではないのか!?君が体感した悲劇を繰り返さないために、君は戦い続けたのではないのか!?」
ソワレに言いとがめられて、リリィも困惑を覚える。しかしここで根負けしてはいけないと踏みとどまり、彼女は攻撃の手を緩めなかった。
「そうよ・・私は悲劇を繰り返させない・・そのために私は、悲劇の根源であるオメガを倒す!たとえソワレさん、あなたでも!」
「それが君の答え・・僕と対峙する君の答えか・・・なら!」
ソニックとソルディンが振るうビームサーベルが交錯し、火花が弾ける。
「なら僕は、君を討つ!」
ソニックがソルディンに向けて、素早くビームサーベルを振りかざす。だがその一閃が、割り込んできたソリッドのビームサーベルに阻まれる。
「アルバ!」
「下がっていろ、リリィ!オレがソワレを押さえる!」
声を上げるリリィに、アルバが鋭く言い放つ。ソリッドがソニックのビームサーベルを振り払う。
「譲れないものがあるのは、お前だけではないぞ、ソワレ!」
「だけど僕は負けない!これは僕1人の正義、僕だけの願いではないからだ!」
互いに言い放つアルバとソワレ。再びビームサーベルでのぶつかり合いをする。
だが未だに迷いを振り切れずにいるアルバは、次第にソワレに追い込まれていく。
(このままじゃアルバが、ソワレに・・・!)
アルバの危機的状況に、リリィが不安を募らせる。彼女は打開の糸口を必死に探る。
「やっぱりここは私がやるしかない・・アルバとソワレの考えを知っている私しか・・・!」
思い立ったリリィ。ソルディンが再びソリッドとソニックの交戦に向かっていく。
「ソワレくん、これ以上の攻撃は、私が許さない!」
「リリィ!」
呼びかけるリリィにの乱入に、アルバが驚愕を覚える。ソルディンがソニックに向けて、再びビームサーベルを振りかざす。
「やめろ、リリィ!ここはオレが・・!」
「アルバは下がって!私がソワレくんを止める!」
呼び止めようとするアルバだが、リリィは聞きいれようとしない。
ソルディンがビームライフルで射撃するが、ソニックは素早い動きでこれをかわす。
「マリアさんの思い・・絶対にムダにするものか!」
感情を爆発させるソワレ。その激情を込めたソニックの一閃が、ビームライフルを持つソルディンの右腕を切り裂いた。
「ぐっ!」
その衝撃にうめくリリィ。とっさに反撃しようと左手でビームサーベルを持つソルディンだが、ソニックの追撃を受けて、左腕も頭部も切り刻まれてしまう。
「リリィ!」
バラバラにされたソルディンを目の当たりにして、アルバが声を張り上げる。爆発を起こさないまま、その残骸は海へと落下する。
「リリィ・・・ソワレ!」
アルバの心にも、かつてないほどの怒りが膨れ上がった。その矛先が、ソニックを駆るソワレに向けられる。
だが、ソワレの怒りもまだ治まってはいなかった。
「アルバ・・君だけは・・君だけは!」
「ソワレ、お前は!」
激昂するソワレとアルバ。ソニックとソリッドが加速し、ビームサーベルをぶつけ合う。
「ソワレ!自分の正義のために、リリィまで!」
「君がそれをとがめられるのか、アルバ!」
アルバとソワレの怒号が、戦場の空にこだました。
次回予告
心の支えとなっていた大切な人。
その想い人を傷つけられ、アルバとソワレの心は荒む。
その怒りが轟音を轟かせ、眼前の敵に容赦なく牙を向く。
そして、その攻防の果てに待つものは・・・