GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-24「果てしなき鳴動」

 

 

 アルテミス、グリーアは今、地球連合総本部に向かっていた。その直前、カーラとジョニーは総本部からの召集を受けた。

 2人はこの召集が、上層部がソリッドを聞きつけたものと睨んでいた。ソリッドを預けるわけにはいかないと思いながらも、下手な動きを見せれば警戒の眼を向けられるとも思っていた。

「本当に気乗りがしないわね・・勘繰られることが分かっているのに、出向かないといけないなんて・・」

 ため息混じりに呟きかけるカーラ。そこへ紙コップに入れたコーヒーを持ってきたレミーがやってきた。

「あまり気を張り詰めないでください、艦長・・コーヒー、どうぞ。」

「ありがとう、レミーさん・・それだけ私が追い込まれているってことよ。これでも楽観的なんだから、私・・」

 レミーからコーヒーを受け取って、カーラが再びため息をつく。

「自分でそういえるんですから、いろいろとすごいです・・」

「何か言った?」

「いいえ、何も。」

 不満を見せるカーラを、レミーは軽くあしらう。

「ところで、リリィさんとアルバさんはドックですか?」

「いいえ。2人とも自分の部屋にいるはず。ドックにいるのはハルだけよ。」

 レミーが訊ねると、カーラはコーヒーを口にしてから答える。

「やっぱり、いろいろと悩んでしまうんですね・・アフェードや、自分の記憶で・・・」

「でもこれらは自分自身で切り開いていかないといけない。私たちができるのは、信じることと支えてあげることだけ・・」

「それしかできないのでしょうか、本当に・・・」

 沈痛さを込めた言葉を呟くレミー。カーラもアルバとリリィに対して、深刻さを感じていた。

「私がレーダーチェックを行います。艦長は休んでいてください。」

「ありがとう。でもまだ大丈夫よ。私は、部下を道具扱いするような人間にはならないから・・」

 レミーの気遣いにカーラが答える。カーラの言葉を受け止めながらも、レミーはレーダーに眼を通した。

 そのレーダーの反応を眼にして、レミーは血相を変えた。

「艦長、大変です!クレストです!」

「えっ!?

 彼女の言葉が司令室に響き、アルテミスに緊張が走った。

 

 アルテミス、グリーアが地球連合総本部に向かっていたことを、ガルは推測していた。そして彼らを先回りし、待ち構えていた。

「やはりこちらに来ていたか・・方角を計算すれば、大方が絞れてくるからな。」

「いやはや、艦長の推理には驚かされます。こうも相手の動きを読むとは・・」

 呟きかけるガルに、ギルが賞賛の言葉をかける。

「経験による勘に過ぎない。推理などというたいそうなものではない。」

「それでも見事ですよ、艦長。感服いたしました・・」

 ギルに褒められて、ガルは苦笑いを浮かべる。その司令室にソワレ、マリア、コーラサワーが入ってきた。

「クレストを発見したのですね。」

「あぁ。第一級戦闘配備。お前たちも出撃に備えてくれ。」

 声をかけるマリアに、ガルが指示を出す。

「アルテミスめ!今度こそオレが引導を渡してやるぞ!」

 コーラサワーが意気込みを見せる。

「では行きますよ、ソワレくん、コーラサワー。」

「はい。」

 マリアの呼びかけにソワレが答え、コーラサワーが頷く。3人は出撃のため、ドックへ駆け出していった。

 そのドックでは、整備士たちによるMSの整備が完了していた。それぞれの機体に乗り込み、ソワレたちは最終チェックを行う。

「出撃準備完了です。発進許可を。」

“了解。ハッチ開放。システムオールグリーン。ソリッド、発進どうぞ。”

 ソワレの声に、オペレーターからの返答が入る。

「ソワレ・ホークス、ソニック、発進する!」

 ソワレの掛け声と同時に、ソニックがクレストから発進する。

「ハロ、今日もよろしくね。」

「ハロハロ♪」

 マリアが声をかけると、ハローズが上機嫌に答える。彼女は気持ちを引き締めると、ハッチが開かれた先の空を見据える。

「マリア・スカイローズ、ザク、出るわよ!」

 マリアの呼びかけとともにザクローズが出撃する。

「パトリック・コーラサワー、ザク、出るぞ!」

 コーラサワーの乗るザクブラストも続いて発進する。他のザクスマッシュ、ザクスラッシュ、ザクブラストが続々と出撃していった。

「ソワレくん、あなたの背中、私に任せて。」

「マリアさん・・ありがとうございます。お願いします!」

 マリアの呼びかけに一瞬戸惑うも、ソワレは真剣な面持ちで答えた。

 

 向かってくるクレストとその機体に、アルテミスとグリーアは警戒態勢に入っていた。アルバとリリィも出撃準備に入っていた。

「ソワレさんとマリアさんも出てきたわね・・」

 ソリッドに乗り込もうとしたところで、アルバはリリィに声をかけられる。

「アルバは、戦うことに後ろめたさを感じている?」

「それはない。オレはオレのために戦い続ける。これまでも、これからも・・」

 不安を込めて問いかけるリリィに、アルバは淡々と答える。

「確かにソワレとは何か共感する部分があると思った。だがそれでも、自分の目的を捨ててまで、他のヤツの考えを受け入れるつもりはオレにはない。」

「そうね・・あなたはいつもそうしてきたわね・・私もそうだったし・・・」

 アルバの心境を理解して、リリィが物悲しい笑みを浮かべる。

「私も私の心のままに戦ってきた・・アフェードでの悲劇を繰り返したくない。その悲劇を引き起こしたオメガを倒す。そのために・・・」

「そうか・・なら、そのまま自分の考えを貫いていけばいい・・・」

 気持ちを落ち着けたリリィに、アルバは顔色を変えずに言いかける。

「ありがとう、アルバ・・これからも戦っていくわ・・・」

 リリィはアルバに告げると、ソルディンに乗り込んでいった。彼女の後ろ姿を見送ってから、アルバは改めてソリッドに乗り込んだ。

「アルバ・メモリア、ソリッド、行くぞ!」

「リリィ・クラウディ、ソルディン、行きます!」

 ソリッドとソルディンがアルテミスから発進する。

「マルナ・フィーセ、セイント、行くわよ!」

 続いてセイントも、グリーアから出撃する。3機のMSがクレストを迎え撃つ。

「さーて!いい加減にケリをつけてやるぜ!」

 いきり立ったコーラサワーのザクブラストがビームバズーカを発射する。その砲撃をアルバたちが回避する。

「マルナさん、ザクを押さえてください!私とアルバはソニックを!」

「リリィさん!」

 リリィの呼びかけにマルナが声を荒げる。

「大丈夫なの、リリィ?・・あのパイロットたちに会ったんでしょ・・・?」

「うん。でも大丈夫。私もアルバも、もう迷いはないから・・」

 マルナの心配に、リリィは真剣な面持ちを浮かべて答える。その答えを聞いて、マルナも不安を消す。

「分かった。ザクたちは私が押さえるよ。」

「ありがとう、マルナさん・・アルバ、行くよ!」

「あぁ。」

 マルナに感謝するリリィの呼びかけに、アルバも答える。ソリッドとソルディンがソニックを迎え撃つ。

「アルバ、リリィさん・・・!」

 毒づくソワレ。互いにビームサーベルを引き抜き、ソリッドとソニックが光刃をぶつけ合う。

「アルバ!」

 リリィの乗るソルディンが加勢に入ろうとする。だがそこへザクローズが割って入ってきた。

「ザクローズ!マリアさん!」

「できることなら、あなたたちとは戦いたくなかった・・リリィさん!」

 緊迫を強めるリリィと、深刻さを噛み締めるマリア。ザクローズがソルディンに飛びかかり、ヒートホークを振りかざす。

 その攻撃をビームシールドで受け止め、ソルディンがビームサーベルを振りかざす。ザクローズもその一閃を後退してかわす。

「私は退けない・・ここで立ち止まったら、また悲劇が繰り返される・・・!」

「その悲劇を、私が繰り返させない・・あなたはこのまま戦線を離れるべきよ・・・!」

 互いに鋭く言い放つリリィとマリア。ソルディンとザクローズが刃をぶつけ合い、火花を散らす。

 一方、一進一退の攻防を繰り広げるソリッドとソニック。ビームサーベルのぶつけ合い、ビームライフルでの射撃。入り乱れての激闘が巻き起こる。

「世界は君や僕が思っているほど単純にできていない!1人だけの考えで左右されるほど甘くない!」

「オレは世界など関係ない!オレ自身のために戦い続ける!それだけだ!」

 力とともに、自身の決心をぶつけ合うソワレとアルバ。

「自分だけのために、君は世界を揺るがす戦いをしているというのか!?

「だから世界がどう動こうと、オレには関係のないことだ!」

「そんな詭弁を、戦いの中で口にするなんて!」

 激情をあらわにするソワレ。ソニックが振りかざしてきたビームサーベルを、ソリッドがビームサーベルで受け止める。

 荒々しく飛び散る火花。ソニックの力に押されて、ソリッドが体勢を崩される。

「くっ!」

 毒づくアルバ。さらに畳み掛けようとするソワレ。

「この戦争を終わらせるために、僕はあえて戦いに加わった!矛盾しているのは分かってる!それでも僕は平和のため、これからも戦い続ける!」

 ソワレの駆るソニックがビームライフルの引き金を引く。ソリッドがとっさにビームサーベルを振りかざし、射撃の光線を弾き飛ばす。

「たとえ平和を願っているヤツが相手でも、オレは戦い、オレの答えを見つけ出す!」

 アルバも負けじと言い放ち、ソリッドが反撃に転ずる。ソリッドが振りかざすビームサーベルを、ソニックが的確な動きで回避していく。

「しっかりと見定めるんだ、アルバ!本当の平和が何なのか!」

「オレはオレの道を突き進む!平和を取り戻そうとしているお前は、お前自身の道を進んでいないのか!?

 呼びかけるソワレに、アルバが鋭く言い放つ。その言葉にソワレが心を揺さぶられる。

 その動揺が表に表れ、ソニックの動きが鈍る。

「ぐっ!」

 その隙をソリッドに突かれ、ソニックが体勢を崩す。その衝撃にあおられて、ソワレがうめく。

「オレは戦う!たとえ自分が求めるその答えが、絶望に満たされた光景だとしても!」

 叫ぶアルバの乗るソリッドがビームサーベルを振り下ろす。とっさにビームシールドを掲げるソニックだが、その一閃を受けてビームシールドが損傷する。

(しまった!このままでは、やられてしまう!)

 危機感を募らせるソワレ。追撃を仕掛けるソリッドに向けて、ソニックが半壊しているビームシールドを投げつける。

 アルバがこれに虚を突かれ、ソリッドがそのビームシールドを受けて体勢を崩される。その間に体勢を立て直すソニックだが、ソワレは危機感を拭えずにいた。

「ソワレくんが!」

 その攻防を気にかけたマリア。ザクローズがとっさにビームライフルで射撃し、ソルディンを引き離す。

「ソワレくん!」

 その間にソニックと交戦するソリッドに向かっていくザクローズ。その間に割って入り、ソリッドを引き離す。

「ソワレくん、今のうちに体勢を!」

「マリアさん!」

 呼びかけるマリアに、ソワレがたまらず声を荒げる。防御力の低下しているソリッドに、ザクローズが攻め立てる。

「ダメです、マリアさん!深追いしては・・!」

 必死に呼びかけるソワレだが、マリアは攻撃の手を止めない。

「一生懸命に平和を追い求めているソワレくん・・たとえあなたでも、その邪魔はさせない!」

 マリアが叫び、ザクローズがソリッドにたたみかける。ソリッドはビームサーベルでヒートホークを受け止め、射撃を回避するので精一杯だった。

(ここで負けるわけにはいかない・・オレの失われた記憶を、取り戻しかけているんだ・・・)

「オレはここで立ち止まるわけにはいかないんだ!」

 決意を強めるアルバ。その意思に呼応するかのように、ソリッドの動きが機敏になる。

 ソリッドが振りかざしたビームサーベルの一閃が、ザクローズを切り裂いた。ハローズの計算とマリアの判断でとっさに回避して真っ二つを避けられたものの、ザクローズの胴体が切り裂かれた。コックピットがかすかに見えるほどに。

「マリアさん・・・!?

 ソワレは視界の中の光景に眼を疑った。損傷したザクローズが力なく落下していく。

“まずい!コーラサワー!マリアを救助して、クレストに帰還しろ!”

「任せてくださいよ!」

 ガルの呼びかけにコーラサワーが答える。落下するザクローズを、ザクブラストが受け止め、そのままクレストへと向かっていった。

「マリアさん!」

 ソワレの悲痛の叫びが、戦場の虚空に響き渡った。自分の心の揺らぎのせいでマリアを傷つけてしまったことで、彼は自分を責めていた。

“全軍撤退!戦線を離脱する!”

 そこへガルの指示が飛び込んでくるが、ソワレはその場を離れようとしない。

“しっかりしろ、ソワレ!体勢を立て直す!撤退するんだ!”

「・・・了解、しました・・・」

 檄を飛ばすガルに、ソワレは渋々受け入れた。だがマリアが傷ついた悲しみを拭うことができなかった。

「マリアさん・・・マリア!」

 再び悲痛の叫びを上げるソワレ。彼にとってこの上ない悲劇だった。

「ソワレさん・・マリアさん・・・」

 撤退していくクレストを見送って、リリィは深刻な面持ちを浮かべていた。

“リリィ、帰還して。私たちも体勢を整えるわよ。”

 そこへカーラからの通信が入り、リリィが我に返る。

「分かりました!すぐに戻ります!」

 平穏さを保ったままリリィは答え、アルテミスへと戻っていく。その途中、彼女はアルバに声をかける。

「アルバ、大丈夫・・・?」

「あぁ・・ビームシールドをやられただけだ・・心配ない・・」

 アルバは落ち着いた様子で答える。だがアルバもソワレとマリアを気にかけていた。

「アルバくん、ホントに大丈夫?」

 そこへマルナが声をかけてきた。

「お前もオレの心配か・・大丈夫だと言っている。」

 アルバが呆れながら答えると、マルナは笑みをこぼした。

「分かった。また後でね。」

 マルナはそういうと、グリーアへと帰還していった。

 

 プラネットGエリア01にある秘密工場。そこでボルドの指揮の元、新たなる機体の開発が進められていた。

 刻々と完成されていく機体を見つめて、ボルドが不敵な笑みを見せる。

「もうすぐだ・・もうすぐ旧人類との戦いに終止符を打つことができる・・・驕り高ぶった旧人類を根絶やしにし、本来の世界の在り方を実現させる・・・」

 野心をむき出しにして、ボルドが不敵な笑みを浮かべる。

「旧人類に未来などない。これからの未来は、進化した我々オメガが創り上げる・・・お前たち、後一歩だ!その一歩に全力を尽くせ!」

「はっ!」

 ボルドの呼びかけに、技術者たちが返事をする。

 変革をもたらそうとしているその工場を、1人の少女が見つめていた。

 デイジー・タイタン。ボルドの養女である。ボルドの厳格な指導を受けてきた彼女は、弱気だった自分を克服することができた。

 デイジーはボルドの言い分は全て正しいと思ってきた。これまでは。

 だが今回の新兵器の開発に、彼女は賛同できずにいた。その新兵器が平和ではなく、さらなる悲劇を生み出してしまうのではないかと、思わずにいられなかった。

(こんなとき、あの人は戦うのでしょうか・・・ディアス・・・)

 デイジーの脳裏に想い人の姿が浮かび上がる。だがその想い人はそばにいない。

 荒んだ想いを叶えることはできない。デイジーの心は悲しみの雨でぬれていた。

 

 

次回予告

 

ソワレを守り、傷つき倒れたマリア。

心の揺らぎが彼女を傷つけたと、ソワレは自分を強く悔恨した。

純粋無垢な心が凍てつくとき、2人の青年の宿命が過激化する。

未来を切り開くのは、信念、願い、怒り、それとも・・・

 

次回・「怒れる慟哭」

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system