GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-22「逆襲」
突然街の上空に舞い上がった爆発音。騒然となった人々が、徐々に逃げ惑う様相を呈してきた。
その直後、いくつもの機影が空に現れた。ストーム、タイフーン、ザク。ディスターの残党である。
「リ、リードだ!」
「まさかこんなところに!?」
「危ない!逃げるんだ!」
人々が襲撃から逃れるために駆け出していく。だが混乱に満ちあふれたもので、的確な逃避とは到底呼べなかった。
「いけない・・街の人が混乱している・・あれでは街への攻撃がなくても、けが人が出てしまう・・・!」
混乱に危機感を覚えたソワレ。クレストに戻ろうとするが、アルバとリリィを気にかけて足を止めてしまう。
「僕は、君たちが身を置いている立場を理解できない・・同じ平和を願う者でありながら、平和を脅かす立場にいる君たちを、僕は受け入れることができない・・」
「お前は、このままリードとして戦っていくのか・・・?」
鋭く言い放つソワレに、アルバが低く問いかける。
「オレはあくまでオレ自身のために戦う。成り行きであの船に乗っているだけだ。連合のためではない。オレの答えを見つけるためだ。これまでも、そしてこれからもだ。」
「たとえ連合軍に属していても関係ないと・・・」
ソワレが聞き返すと、アルバは真剣な面持ちで頷く。そこでソワレが振り返り、アルバを見据える。
「理由はどうであれ、連合軍に身を置くなら、君たちは僕たちの敵ということになる・・平和を壊す敵ということに・・・」
「だったら私の取っても、オメガこそが平和を壊す敵だよ・・」
言いかけるソワレに口を挟んできたのはリリィだった。
「私の故郷をムチャクチャにしたオメガに味方するあなたも、私にとっては敵にしか見えない・・あなたとは分かり合えると思っていたのに・・」
「それは僕も同じだよ・・リリィさんやアルバくんとは、心から分かり合えると思っていたのに・・・」
鋭く言いかけるリリィの言葉に、ソワレも深刻な面持ちで返事をする。
「落ち着きなさい、ソワレくん。今は言い合っている場合ではないでしょう。」
そこへマリアが声をかけ、ソワレがようやく感情を抑える。
「ともかく、私たちにとっても放っておけない事態ということに変わりはない。クレストに戻るわよ。」
「・・・分かりました・・・」
マリアの呼びかけにソワレは渋々頷く。
「私たちも戻ろう・・この事態、放っておくわけにいかない・・」
「分かった・・・」
続いてリリィが呼びかけると、ソワレとマリアの後ろ姿をじっと見つめていたアルバが小さく頷いた。
街中で起こった突然の爆発に、コーラサワーに付きまとわれていたマルナも緊迫を覚えていた。
「あれはストームにタイフーン・・ディスターの生き残りが・・・!」
襲撃者がストームたちであると察したマルナが、アルバとリリィを探しつつグリーアに戻ろうとする。だが未だにコーラサワーに押され続けていた。
「ちょっとあなた!いい加減に追い回してくるなら、ホントに息の根止めるわよ!」
「それも望むところだ!恋焦がれた人に冥土に召されるなら、オレは本望だ!・・あっ!」
マルナに怒鳴りつけられても諦めなかったコーラサワー。だが逃げ惑う人々の群れに押し流されていった。
「往生際が悪い人には、天罰が下るものよ。」
マルナは呟きかけると、改めてグリーアに向かって駆け出していった。
クレストに戻ってきたソワレとマリア。ガルも街で起きた事態を把握していた。
「ただ今戻りました、艦長。状況は?」
「街への攻撃はあまり行っていない・・向かっているのは港だ。」
マリアの問いかけに答えると、ガルはモニターにレーダーを提示した。そこに点滅している反応に、ソワレは緊迫を募らせる。
「アルテミスとグリーア・・やはり近くにいましたか・・」
「驚いていないようだな、ソワレ。」
「先ほど、地球連合の人間と対面しました。アルテミスに所属する、おそらくソリッドのパイロットかと・・」
「ソリッド・・どのような者か、私も拝見したかったが・・」
ソワレの言葉に、ガルがあごに手を当てて呟きかける。
「艦長・・?」
「いや、すまん・・ともかく、我々も戦闘配備だ。ソワレとマリアも、いつでも出れるように待機しておいてくれ。」
ソワレに声をかけられて我に返ったガルは、クルーたちに指示を出した。彼もストームたちの動向に眼を光らせていた。
「ストーム、タイフーン、ザク数機、こちらに接近中!」
レミーの報告が、アルテミス艦内に響き渡る。アルテミスのレーダーも、ストームたちの接近を感知していた。
「アルバとリリィはまだ戻ってきていないの!?」
“まだ戻ってきていません!このままではストームたちの攻撃をもろに受けてしまいますよ!”
カーラの呼びかけに、ドックにいるハルが答える。
「マルナさんがグリーアに戻りました!アルバさんとリリィさんとは一緒ではないようです!」
「マルナさんだけ・・・?」
レミーからの立て続けの報告に、カーラが眉をひそめる。彼女はすぐさま、グリーアのジョニーへ連絡を取った。
「ルーク艦長、マルナさんは・・!?」
“今、セイントに乗り込んだ。すぐに出撃する。”
カーラの声に、ジョニーが返答する。既にマルナはセイントに乗り込み、発進準備に入っていた。
「マルナ・フィーセ、セイント、行くわよ!」
マルナの掛け声とともに、セイントがグリーアから発進し、ストームたちの前に立ち塞がる。
「現れたか、セイント・・・ベリー、セイントを落とすぞ!」
「任せといて。兄ちゃんが作った隙を突くんだね。」
キールの呼びかけにベリーが笑みを見せて答える。
「残りの者はアルテミスとグリーアを攻めろ!港から浮上する前に叩け!」
「了解!」
キールのさらなる命令に、ザクのパイロットたちが答える。ストームがセイントに向かって飛びかかり、ビームソードを振り下ろす。
「ストーム!」
緊迫を募らせるマルナ。セイントがビームダガーを発し、ストームの大剣を受け止める。
「今度こそお前たちの終焉だ!覚悟を決めろ、セイント!」
高らかに叫ぶキール。ストームの攻撃を受け止めているセイントに、タイフーンが2機のビームライフルの銃口を向ける。
「華々しい花火になりな、セイント!」
ベリーの叫びとともに、タイフーンのビームライフルが火を噴く。セイントがとっさにストームを突き飛ばし、タイフーンの射撃をかわす。
「ちっ!相変わらずすばしっこいね!」
舌打ちをするベリー。確実にセイントを仕留めるべく、タイフーンが接近を試みる。
「兄ちゃん、うまく引き付けて!今度こそ仕留めるから!」
「焦りは禁物だ。慎重に行け。攻撃の瞬間を誤るな。」
ベリーの呼びかけに、キールが淡々と答える。ビームソードとビームダガーをぶつけ合うストームとセイントに、タイフーンが徐々に距離を詰めていく。
「ヴァイス兄ちゃんの受けた苦しみ、お前にも存分に味わわせてやるよ・・・!」
兄を殺された怒りを膨らませていくベリー。
(ストームを何とかしないと、タイフーンの射撃が飛んでくる・・・!)
胸中で毒づくマルナ。だがストームの猛攻を防ぎきるのに精一杯だった。
「諦めるんだね、セイント!」
ベリーの駆るタイフーンが、セイントの隙を突いて射撃を繰り出す。攻撃を回避できないと、マルナは覚悟を覚える。
そのとき、一条の光線が飛び込み、タイフーンが構えたビームライフルのひとつを貫いた。銃の爆発に、タイフーンが吹き飛ばされる。
「うわっ!」
その衝撃にベリーが悲鳴を上げる。タイフーンが体勢を整え、彼女が視線を巡らせる。
その先にはソルディンの姿があった。そのビームライフルが、タイフーンのビームライフルを撃ち抜いたのだ。
「ソルディン・・いつの間に・・・!」
ソルディンの乱入にベリーが毒づく。
直後、セイントと交戦していたストームに向けて、光刃が振り下ろされてきた。キールが反射的に後退に出て、ストームが回避する。
乱入してきたのはソリッドだった。ソリッドが振り下ろしてきたビームサーベルが、ストームとセイントの間に割って入ってきた。
「ソリッドも来たか・・・!」
キールがソリッドに鋭い視線を向ける。
「マルナ、大丈夫か!?」
「アルバくん・・リリィさん・・・大丈夫。まだ行けるよ。」
アルバの呼びかけに、マルナが笑みを見せて答える。
「遅くなったね、マルナさん・・ここからは私たちが・・」
「ううん。このまま私にやらせて。リリィさんはアルテミスとグリーアを援護して。ザクたちがみんなを狙ってる・・」
「マルナさん・・・分かった。アルバもよろしくね。」
「あぁ。任せろ。」
マルナの指示にリリィが頷き、アルバも答える。
「ビームダガーの調子が万全かどうか怪しくなってる。私はタイフーンを押さえるから、アルバくんはストームを。」
「分かった。そっちも頼んだぞ。」
マルナの言葉にアルバが頷く。ソリッドがストームに、セイントがタイフーンに向かっていく。
「1対1になっちゃったけど、それでも私は負けないよ!」
「けっこうな自信だね・・でも相手が悪かったね!」
高らかに言い放つベリーとマルナ。タイフーンとセイントの激しい射撃戦が再戦された。
静かに対峙するソリッドとストーム。キールの中に、ヴァイスの恨みが込み上げてきた。
(ヴァイス、待っていろ。このソリッドの破壊を、お前の手向けにしてやるぞ・・・)
「覚悟しろ、ソリッド!地獄に叩き落としてくれる!」
ヴァイスの無念を胸に宿し、キールがソリッドへの敵意をむき出しにした。ストームが飛びかかり、ソリッドに向けてビームソードを突き出す。
ソリッドが後退しつつビームサーベルを使い、ストームの突きの威力を殺す。だが力押しで来ていたストームの突進に、ソリッドは体勢を崩される。
「くっ!」
たまらずうめくアルバ。落下しかかるソリッドに、ストームが追い討ちを仕掛けようとした。
だがソリッドがすぐさまビームライフルを発射し、ストームの追撃を阻む。
「おのれ!」
いきり立つキール。ストームは攻撃されているのも構わずに、ソリッドに迫っていく。
「血迷ったか!?このまま攻め立てれば、お前もただではすまないぞ!」
「愚問だ!我々は始めから命を惜しんでなどいない!」
呼びかけるアルバだが、キールは怒号を返すだけだった。飛びかかってきたストームに対し、ソリッドがビームサーベルを振り抜く。
その光刃が、ストームの左わき腹をかすめた。その衝撃に揺さぶられるも、キールは怯まずに攻撃を続行しようとする。
ストームはビームソードを逆手に持つと、ソリッドに向けて突き出す。
(くっ!無防備の背中を無理矢理・・!)
背後を狙われると踏んだアルバ。ソリッドが足を振り上げ、ストームの突きを紙一重でかわした。
「逃がさん!」
キールが追い討ちを狙い、ストームがビームブーメランを直接ソリッドに振りかざす。その刃がソリッドの左肩に突き刺さる。
アルバが毒づき、ソリッドが身を翻してストームに蹴りを見舞う。体勢を崩されて、ストームが怯む。
(これでは長期戦は不利だ!一気に決着を着ける!)
思い立ったアルバが、ストームを鋭く見据える。頭で考えるというよりは、体がそう訴えているかのようだった。
ソリッドが突き出したビームサーベルが、ストームに叩き込まれる。
「ぐあっ!」
「浅い!」
うめくキールと毒づくアルバ。ソリッドが間髪置かずに、ストームに向けて突進を仕掛ける。
その特攻が、ストームに浅く刺さっていたビームサーベルを深くめり込ませた。そのエンジンを破損させるほどに。
胴体から爆発が巻き起こり、ストームが落下する。
「ヴァイス、ベリー・・すまん・・・」
弟と妹への謝罪の言葉を呟いたキールが、爆発するストームとともに消滅した。
ストームを撃破したソリッド。だがストームから受けた攻撃によってソリッドは負傷し、これ以上の戦争継続に支障が出ていた。
(アルテミスに戻る以外にないようだな・・・)
ソリッドの危機的状態を悟って、アルバはアルテミスに戻っていった。
「お兄ちゃん!?・・キールお兄ちゃんが・・・!?」
ストームの爆発に、ベリーは眼を疑った。兄が2人とも命を落としたことを、彼女は信じられなかった。
「許せない・・あぁ、許せるもんか!お前ら全員、華々しく散りやがれ!」
ベリーが激怒し、タイフーンがビームライフルを構える。だがその前に、マルナの乗るセイントが立ちはだかる。
「3機の新型も、残るはあなただけになったわね。これじゃもうあなたたちに勝ち目はないわよ。」
「うるさいよ!せめてお前だけでも、兄ちゃんたちのいる天国に送ってやるよ!」
「天国?地獄の間違いでしょ?」
マルナの挑発が、ベリーの怒りをさらに増大させる。タイフーンがセイントに向けてビームライフルの射撃を繰り出すが、セイントの放った射撃に相殺される。
「ぐっ!」
「いい加減に諦めなさい!これ以上は死ぬことになるよ!」
うめくベリーに、マルナが鋭く忠告を送る。しかしベリーはこれを聞き入れようとしない。
「死ぬのも覚悟してんだよ!けどな、お前も道連れでな!」
ベリーが言い放ち、タイフーンがセイントに飛びかかる。密着状態に入ると、タイフーンがセイントにゼロ距離射撃を仕掛けようとする。
確実に相手に攻撃を当てられる攻めだが、その反動をまともに受ける危険も伴う。だが今のベリーはそのことを考えていなかった。
「もう、手に負えないわね!」
「はっ!これでもう逃げられないよ!」
毒づくマルナと、歓喜と狂気に満ちた哄笑を上げるベリー。セイントがビームダガーを突き立てると同時に、タイフーンが射撃を繰り出そうとする。
その瞬間、セイントのビームダガーの光刃が射出され、タイフーンを突き放した。
「何っ!?」
不意を突かれて驚愕するベリー。体勢を崩されたために、タイフーンが射撃を外した。
そこへセイントが再びビームダガーを射出する。その光刃に、タイフーンが胴体を貫かれる。
「お兄ちゃん・・・ゴメンよ・・・」
兄への謝意を募らせ、初めて涙を浮かべるベリー。彼女の体も、白く煌く閃光の中に消えていった。
「危なかった・・踏ん張らなかったら、やられていたのは私たちのほうだったよ・・・」
危機を脱した安堵を感じて、マルナは状況をうかがった。
キールとベリーの死に、ザクのパイロットたちは愕然となっていた。だが戦意喪失になるわけではなく、錯乱に等しい暴走に走ってきた。
「どこまでもあなたたちは!」
その暴走に腹を立てるリリィ。ソルディンがビームライフルの引き金を引き、ザクたちを狙い撃つ。
周囲すら見えなくなっていたザクたちは、その射撃を受けて次々と撃墜されていった。
ディスターの残党を撃退させたアルバたち。だがリリィの心が晴れることはなかった。
アルバもソワレのことを気にかけていた。再び戦わなければならないことに、彼はわだかまりを感じていた。
キールたちの全滅を、クレストにいたソワレたちも目の当たりにしていた。
「全滅・・ディスターの全ての機体が・・」
「これが、全てを捨てて復讐に臨んだ人間の末路よ・・ソワレくんも、肝に銘じておいて・・」
困惑するソワレに、マリアが静かに呼びかける。その言葉を胸に秘めて、ソワレは無言で頷いた。
“警戒レベルをひとつ下げる。出撃はなしだ。”
そこへガルの連絡が入り、ソワレとマリアが頷く。クレストが移動を開始し、街から離れていった。
次回予告
平和への戦い。
その中で繰り広げられる心の交錯。
ソワレに勇気付けられ、自身の気持ちを確かめるマリア。
次の戦いに臨むクレストの裏で、オメガを束ねる者が動き出した。