GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-21「それぞれの思い」

 

 

 ばったりと会ったアルバとソワレ。2人はそれぞれリリィとマリアのところに戻ろうと、街の中を歩いていた。

「やはり、この中から人を2人見つけるのは難しいですね・・」

「この街のどこかにはいるんだろう?なら諦めるのは早いのではないのか?」

 困り顔を見せたところでアルバに言いかけられて、ソワレが笑みを取り戻す。

「そうですね・・諦めたら前には進めませんからね・・」

 ソワレの言葉にアルバが小さく頷く。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕はソワレ・ホークス。」

「アルバだ。アルバ・メモリア。」

 自己紹介をするソワレとアルバ。ソワレが握手のために手を差し出すが、アルバをそれを取ろうとしない。

「言ったはずだ。仲良くするつもりはないと。」

 憮然さを崩さないアルバに、ソワレは当惑を見せるばかりだった。

「もしかして、昔に何かあったのかな?君の様子、昔のことで思いつめているような気がするんだけど・・」

 ソワレが唐突に深刻な面持ちで言いかけてきた。するとアルバに鋭い眼で見られ、ソワレが気まずさを覚える。

「ゴ、ゴメン・・ただ、君のことが気になっただけだから・・・」

「オレは、記憶を失っているんだ・・今のオレの名前も、本当の名前ではないのだ・・」

 アルバが告げた言葉を耳にして、ソワレが当惑を覚えた。

「記憶、喪失・・・!?

 アルバの事情を知って、ソワレは困惑する。

「本当にゴメン・・気を悪くさせてしまって・・」

「だから気にするな。オレの問題だからな・・」

「そうは言っても・・・手がかりは見つかったの?」

「それに近いものは見つかった・・でも確証にはなっていない・・」

 アルバから事情を聞いて、ソワレは真剣に考える。親身になっているソワレに、アルバは疑問を感じていた。

「なぜお前は?オレをそこまで心配する。オレとお前は知り合って間もないのだぞ。」

「君の悩みを解決できないで、平和を取り戻すことなんてできない・・というのは、きれいごとなんだろうね・・」

「平和?何を言っているのだ、お前・・?」

 物悲しい笑みを浮かべるソワレに、アルバが眉をひそめる。

「今の世界が、戦争によって混沌としていることは、君も分かるよね?その戦争を一刻も早く終わらせて、世界に平和をもたらすために、僕は戦っているんだ・・」

「お前、もしかして軍人・・」

「たとえ記憶をなくしている君でも、戦うことはできる・・一歩を踏み出す勇気が、力に、強さになるから・・」

 ソワレが切実に語った言葉に、アルバが戸惑いを覚える。本当の強さとは何なのか、改めて考えさせられていた。

「本当の強さか・・何のために戦わなければならないのか、分からなくなるな・・」

「その答えも、ゆっくり見つけていけばいいよ・・まだまだ時間はたっぷりあるんだから・・・」

「・・・お前、おかしなヤツだな・・・」

「君もどこかしらおかしいところがあるよ・・」

 互いに苦笑いを浮かべるアルバとソワレ。気持ちをおとつけたところで、ソワレが声をかける。

「君とは、何だか仲良くなれそうな気がするよ・・なぜかは分からないけど・・」

「オレもだ・・オレもお前とは気が合いそうに思えてきたぞ・・・」

 いつしか互いを認め合うようになっていたソワレとアルバ。このとき2人は、互いが敵軍同士であることを知らずにいた。

 

 同じ頃、アルバとソワレを探して、リリィとマリアも街に繰り出していた。だがアルバとソワレを見つけられずにいた。

「うーん、困っちゃったわね・・」

「ハローズがいれば、レーダーで1発なんだけれど・・」

「ハローズ?あのハロのこと?」

「えぇ。私が唯一完成させたメカニックで、私をいろいろサポートしてくれるのよ・・」

 リリィの問いかけに、マリアが微笑みながら答える。ハローズが強い信頼を寄せている存在であると、リリィは感付いていた。

「私、1度お目にかかりたいわね・・」

「いいわよ。機会があればだけど、見せてあげる・・」

 呟きかけるリリィに、マリアが頷きかける。その返答にリリィが喜びを見せる。

「ハロー♪ハロハロー♪マリアー♪」

 そのとき、マリアの耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。彼女が振り返ると、人込みを潜り抜けて、球状の物体が飛び跳ねてきた。

「ハローズ!?

「えっ!?

 驚きを見せるマリアに、リリィもたまらず声を荒げる。ハローズがマリアに向かって飛び込んできた。

「ハローズ、どうしたの!?作業は終わったの!?

「ハローズ、サギョウシュウリョウ♪サギョウカンリョウ♪」

 問いかけるマリアに、ハローズが陽気に答える。

「もしかして、その子があなたのハロ?」

「そうよ。ハローズ。私のよきパートナーよ。」

「ハロハロ♪」

 問いかけるリリィにマリアが紹介し、ハローズも答える。

「かわいいね。私もほしかったんだけどね・・結局手にすることなく現在に至るんだけどね・・」

 ハローズを見つめて笑みを見せるリリィ。その笑顔に陰りがあるのを、マリアは気付いていた。

「手に取ってみる?本当のハロの楽しみ方は、実際に触れてみて初めて分かるものだから。」

「いいの?じゃお言葉に甘えることにするね。」

 マリアの言葉を受けて、リリィがハローズを手にする。上機嫌に振舞うハローズに、リリィが喜びを見せる。

「こういう楽しい気分が、いつまでも続けばいいなと思う・・・」

 リリィが口にした言葉に、マリアが当惑を見せる。

「もしよかったら、話してもらえる?何があったのか・・もちろん話したくなければ、話したくないといってもらえれば・・」

「ありがとう、心配してくれて・・でもあなたには話しておく・・・」

 気遣うマリアに、リリィは自分の過去を打ち明ける決意をする。

「私は、あのアフェードの出身なんです・・」

「えっ・・・!?

 リリィの打ち明けた言葉に、マリアは驚きを覚える。彼女もアフェードのことは十分に理解していた。

「アフェードは住民が全滅し、島も悪影響を受けていると聞いているけど・・生き残りがいたなんて・・」

「知らないほうが当たり前だよ・・私の知り合いでも、数えるほどしかこのことは知らないはずだから・・」

「そうだったの・・・でもそのことを、なぜ私に・・・?」

「あなたなら打ち明けられると思ったから・・・」

「・・・フフフ、ありがとう。信頼できる相手で。」

 リリィの言葉が嬉しくなり、マリアは笑みをこぼす。だがすぐに2人の顔から笑みが消える。

「あなたのような、武力や戦争の被害者を増やしてはいけないわね・・」

「そうね・・そのためにも、私は諦めるわけにいかないね・・」

 互いに戦争の根絶と平和の奪還を口にするマリアとリリィ。

「あなたのような人と出会えて、私は嬉しい・・」

「私も同じよ。もしよければ、あなたの知り合いとも会ってみたいところね・・」

 改めて握手を交わすリリィとマリア。2人の絆が深まった瞬間だった。

「それはお互いの知り合いを探し出してからということで。」

「そうね・・行きましょうか。十分休憩も取ったし。」

 リリィに答えると、マリアはハローズに呼びかける。

「ハローズ、ソワレくんを探して。この街のどこかにいるから。」

「ソワレ?」

 その呼びかけにリリィが眉をひそめる。孤島でであったリードの青年、ソワレのことではないかと思ったのだ。

「ハロハロ♪ホクホクトウ122。」

「北北東・・あのカフェがあったところね・・・行きますよ、リリィさん。」

「えっ・・う、うん・・」

 マリアの呼びかけに、リリィが当惑を浮かべたまま答える。2人はアルバとソワレを求めて、街の捜索を再開した。

 

 同じ頃、マルナも別の場所でアルバを探していた。しかし見当がつかず、彼女は途方に暮れていた。

「アルバくん、ホントにどこ行っちゃったのかな・・」

 困り顔を浮かべたまま、さらに捜索を行っていくマルナ。そのとき、誰かとぶつかり、彼女はしりもちを付く。

「イタタタ・・す、すいません、急いでたもので・・」

「イッテー・・ったく、どこ見てやがる・・・!?

 謝るマルナにうめく男。だが男は彼女を見て、すぐに怒りを引っ込めた。

「あ、あの・・大丈夫・・・?」

「き・・きれいだ・・・まさかこんな美女に巡り会えるなんて・・・」

「はっ!?

 心配の声をかけたところで男に突拍子のないことを言われ、マルナが驚きをあらわにする。

「自分、パトリック・コーラサワーというものです!是非、自分と2人だけの時間を・・!」

 誠実に振舞ったコーラサワーだが、間髪置かずにマルナに殴られる。顔面を殴打されたコーラサワーが、鼻血を出しながらその場に倒れ込む。

「悪いけど私は暇じゃないの。あなたのような人と遊んでいる暇はね。」

 マルナは一言告げると、そそくさに立ち去ろうとする。だがすぐにコーラサワーが立ち上がってきた。

「こ、この強烈な一撃・・顔だけじゃなく、オレのハートにも深く叩き込まれた・・・」

「その世迷言が2度といえないようにしてあげましょうか?何なら永眠っていう手もあるけど?」

 諦めようとしないコーラサワーに、マルナが鋭い視線を向ける。殺気に満ちている彼女だが、それでもコーラサワーは諦めない。

「たとえどんな天罰が下ろうとも、自分の気持ちを真っ直ぐ貫くのみ・・!」

 言い放とうとしたコーラサワーの顔面に、マルナは今度は蹴りを繰り出してきた。蹴り飛ばされたコーラサワーが、その勢いのままその先の店に突っ込んだ。

「デリカシーのない人はタイプじゃないの。もう少し女性を学んでから出直してきてね。」

 店の商品が崩れた山に埋もれているコラサワーに言いかけると、マルナは今度こそその場を去っていった。その後、その商品の弁償をコーラサワーが払う羽目に陥ったのは、言うまでもなかった。

 

 ディスターを落とされ、部隊としての機能を完全に失ったキールたち。ベリーや生き残ったパイロットたちは、屈辱を与えたアルテミス、グリーアへの憎悪をたぎらせていた。

 彼らは今、2機の戦艦の行方をつかみ、その近くの森の中に潜伏していた。

「ようやく追いついたか・・」

 アルテミスの艦影を見据えて、キールが言いかける。

「私もさすがに待ちくたびれたって気がしてきたよ・・」

 ベリーがため息混じりに言いかけると、キールは小さく頷いた。

「今我々が遂行しようとしているのは、正式な任務ではない。そもそも任務などという立派なものですらない。ただの仇討ちだ。」

 キールの言葉にパイロットたちが聞き耳を立てる。

「この戦いで得られるものは、仇討ち以外に何もないだろう。それでありながら死ぬ可能性が高い。その戦いに、お前たちをムリに引っ張り出すつもりは私にはない。それでもこの戦いに身を投じたいと考えているのならば、私について来い。」

 キールの呼びかけに、パイロットたちがざわめき出す。

「ここで抜けても、私はお前たちを責めない。ここで判断を下せ。」

 選択を迫るキール。だがパイロットたちは誰1人抜けようとはしなかった。

「私に、ゴード艦長の仇を討たせてください!」

「これ以上、連合軍の好きにはさせない!」

「ヤツらに今度こそ引導を渡してやるぜ!」

「お前たち・・・」

 意気込みを見せるパイロットたちに、キールが驚きを覚える。彼は気持ちを落ち着けると、真剣な面持ちで頷く。

「いいだろう。お前たちの覚悟、確かに受け取った・・この戦いに死力を尽くせ!」

「おおっ!」

 キールの呼びかけにパイロットたちが声を張り上げる。

「兄ちゃん、私も最後まで兄ちゃんについていくからね。」

「すまない、ベリー・・この戦いも頼むぞ。」

 ベリーが言いかけると、キールが笑みを見せる。

「よし。全員出撃だ!」

 キールの指示とともに、パイロットたちが行動を開始した。

 

 リリィとマリアの捜索を続けるアルバとソワレ。彼らは街を見渡すため、街外れの展望台を訪れていた。

「ここなら街を見渡せる・・マリアさんを見つけることができるかもしれない・・」

「マリア?」

 ソワレが口にした言葉に、アルバが眉をひそめる。

「うん。僕の探している知り合いの名前だよ。厳しいところがあるけど、優しい人だよ・・」

「もしかして、そのマリアというのはまさか・・」

 微笑んで語りかけるソワレに、アルバが抱えていた疑問に答えを出そうとしたときだった。

「ハロハロ♪ソワレ♪」

 そこへ球体がやってきて、ソワレに飛び込んできた。

「あ、あれ!?ハローズ!?どうしてここに!?

「ハローズだと!?

 ハローズの登場にソワレだけでなく、アルバも驚きの声を上げる。

「ハローズ!待ちなさい!置いていかないでよ!」

 そこへ駆け込んできたのは、マリアとリリィだった。

「マリアさん!」

「リリィ!」

 声をかけたところで、ソワレとアルバは眼を疑った。かつて戦場の中で出会った少女と再会したからだった。

 同じくリリィとマリアも、ソワレとアルバの姿を見て驚愕を覚えた。

「あ、あなた・・・!?

「どうしてあなたが、アルバと一緒に・・・!?

 マリアとリリィはそう言葉を振り絞るだけで精一杯だった。アルバとソワレも言葉を切り出すことができなくなっていた。

「もしかして、マリアさんの知り合いというのは・・・!?

 リリィがそう告げたときだった。アルバがとっさに動き、リリィの手を取ってマリアから引き離す。

「まさかお前がこの街に来ていたとはな・・まさかソワレ、お前もリード・・・!?

 アルバが問い詰めると、ソワレは深刻な面持ちを浮かべてうつむく。

「それじゃアルバ、君はリリィさんと同じ、地球連合の人間か・・・」

 振り絞るようにアルバに問いかけるソワレ。信じられない気持ちのあまり、彼の体が小さく震えていた。

「どうして・・どうして君が地球連合に!?

「ソワレ・・・」

「地球連合はオメガと対立し、平和を脅かそうとしている集まり!君のように心優しい人間が、なぜ連合に組しているんだ!?

「勘違いするな。オレは地球連合の味方でいるつもりはない。オレはオレのために戦っている。」

「詭弁はやめろ!君が連合に属していることに変わりはない!」

 淡々と告げるアルバに、ソワレが怒鳴り返す。彼がここまで感情をあらわにしたのは初めてのことだった。

 ソワレは悔しかった。これまでで数えるほどの深い親交を交わした相手が、敵軍に属していたことが。

「ちょっと待って、ソワレ・・平和を脅かそうとしているのはオメガのほうじゃない!」

 そこへリリィが口を挟んできた。彼女の中にも、オメガに対する怒りが宿っていた。

「オメガはアフェードを死の島に変えた!それこそが平和を脅かす行為ではないの!?

「そのために暴力で返したら、何の解決にもならない!話し合って和解する道が必ずあるはず・・!」

「和解?それは不可能よ!あんな惨劇を生み出したオメガが、認められるはずはない!眼を覚ましなさい、ソワレ!本当に平和を願っているなら・・!」

「やめなさい、あなたたち!」

 一触即発の3人を制したのはマリアだった。3人が彼女に視線を向ける。

「憎み合っても、さらに憎しみを増すことになるのは分かっているはずでしょう・・ソワレくんも、そう言っていたじゃない・・」

「マリアさん・・すみません・・・ですが・・・」

「リリィさんも、気持ちは分かります・・ですが憎しみは、壊すことしか力を発揮できません・・分かってください・・・」

 困惑するソワレの前で、マリアが切実に呼びかける。リリィも困惑し、アルバも押し黙っていた。

 そのとき、街の上空から突如轟音が響いてきた。緊迫を覚えたアルバたちが振り返ると、空で爆発が起こり、煙が舞い上がっていた。

「襲撃!?・・こんなところまで・・!」

 突然の襲撃に、リリィが戦意をむき出しにしていた。

 

 

次回予告

 

街に轟く爆音。

アルバたちへの復讐に全てを賭けたキールたちの猛攻。

すれ違う4人の心。

少年少女の思いが、火花を伴って交錯する。

アルバとソワレが向かっていく道とは?

 

次回・「逆襲」

 

 

作品集

 

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