GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-20「市街での邂逅」
ディスターとの壮絶な戦いを経たアルテミスとグリーア。彼らは繁華街に隣接した港に停泊していた。
「えっ?街に、ですか?」
カーラからの申し出を受けて、リリィが困惑を見せる。
「そうよ。あなたたちはいろいろと大変だったでしょう?だから気晴らしにと思ってね。」
「それなら艦長やみんなだって・・私だけ贅沢をするわけには・・」
「残念だけど、みんな自分たちの仕事を切りのいいところまで済ませておきたいそうよ。艦長である私もここを離れられないし。」
「でしたら、私も手伝いを・・!」
「前にも言ったはずよ。休むことも、パイロットの仕事だってね・・」
カーラに言いくるめられて、リリィは反論できなくなる。するとカーラがリリィの肩に優しく手を添える。
「私たちのことは気にしないで、羽を伸ばしてきなさい・・」
「艦長・・・ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
リリィが笑顔を取り戻し、カーラの言葉を受け止める。
「ではアルバ、あなたも一緒に行ってあげてね。」
カーラが言いかけると、リリィが肩を落とす。近くの物陰から、アルバが姿を現した。
「やっぱり盗み聞きしていたのね、アルバ・・」
「来たのは話の途中からだ。悪いがオレは1人にさせてもらうぞ。」
憮然とした態度を見せて、この場を離れようとするアルバ。するとカーラが彼の前にやってきた。
「あなたもリリィと一緒に遊びに行きなさい、アルバ。1人よりみんなのほうが楽しいからね。」
「言ったはずだ。オレは1人でこの休みを過ごす。放っておいてくれ。」
「まぁまぁ、騙されたと思って、一緒に行ってあげて・・」
カーラに言い寄られて、アルバは肩を落とすばかりだった。
「リリィを支えてあげられるのは、あなたしかないの・・お願いね・・・」
「・・・仕方がないな・・・」
小声で言いかけてくるカーラの言葉を、アルバは渋々受け入れた。
「話はまとまったようですね、カーラ艦長。」
そこへマルナが現れ、カーラに声をかけてきた。
「マルナさん、あなたも街に行くのですか?」
「はい。街に行ってこいって、厄介払いされちゃいまして・・アハハハ・・・」
カーラが答えると、マルナが照れ笑いを浮かべる。
「2人だけだなんてつれないね。私も一緒に行くよ。」
「マルナさん・・ありがとう・・」
気さくに声をかけてくるマルナに、リリィが感謝の言葉をかける。
「アルバくん、楽しい時間にしようね♪」
「馴れ馴れしくするな。暑苦しいのは苦手だ。」
笑顔を振りまくマルナだが、アルバは憮然さを崩さなかった。
スカイローズ家を後にしたソワレ、マリア、コーラサワーは、繁華街へとやってきていた。そこで彼らは落ち着ける場所で、クレストへの連絡を取った。
“そうか・・そんなことがあったのか・・”
「えぇ、まぁ・・本当にいろいろ・・アハハ・・・」
ガルが答えると、ソワレが照れ笑いを浮かべる。
「では艦長、このまま艦に戻ります。」
“いや、まだすぐには発進しない。君たちはしばらく街で楽しんでくるといい。”
「ですが、艦長やみなさんに艦を任せて、自分たちだけ遊んでいるわけには・・」
“いや、気にしなくていい。単に艦長という立場上、艦を離れられないだけだ。”
ガルが気遣いをするが、ソワレは困惑するばかりだった。
「分かりました、艦長。私がソワレとコーラサワーを、責任を持って引率いたします。」
そこへマリアがガルに呼びかけてきた。するとガルが笑みを返してきた。
“アハハ・・分かったよ。マリア、ソワレとコーラサワーは君に任せるよ。”
「了解しました。それでは行ってきます。」
マリアは言いかけると、ガルとの通信を終えた。
「ということで、あなたたちを引率いたします。決して迷子にならないように。」
「そんなー!オレは子供じゃないよー、マリアちゃーん!」
学校の担任のような振る舞いをするマリアに、コーラサワーは抗議の声を上げていた。
街に繰り出したアルバ、リリィ、マルナ。マルナに振り回される形で、2人もいろいろな店に立ち寄ることとなった。
洋菓子店、洋服店、アクセサリーショップ、レストラン。
立ち寄った店のほとんどがマルナが興味のを示したものばかりで、リリィは苦笑いを浮かべ、アルバは不機嫌そうな態度を見せるばかりだった。
だがリリィは、この屈託のない時間に安らぎを感じていた。戦いと苦悩の連続の中、このようなひと時が大切であると彼女は悟っていた。
このような時間をしばらく過ごし、アルバたちは街中の喫茶店で小休止を取った。
「アハハ♪いろいろなところに回れて、ホントに退屈しなかったね。」
「オレは退屈だったぞ。ほとんどがお前の趣味だったじゃないか・・」
上機嫌のマルナに、アルバが呆れてため息をつく。
「でもアルバもまんざらでもない感じだったよ。」
「ふざけるな。オレはお前に振り回されて気分が悪い・・」
からかってくるマルナに、アルバが突っ張った態度を取る。
「あまりいじめたらダメよ、マルナさん。アルバは無理矢理連れてきてしまっているようなものだから・・」
そこへリリィが言いかけ、マルナは吐息をひとつついて気持ちを落ち着ける。
「ゴメンゴメン・・楽しくなるように場を盛り上げようとしただけなんだけど・・」
「構わない。だがあまりお前の趣味ばかり強調させるな・・」
謝るマルナに、アルバが言いかける。許されたと思い、マルナが笑みを取り戻す。
「じゃお詫びということで、今度はアルバの行きたい店に行っていいよ。」
「そういわれてもな・・オレに立ち寄る場所など・・」
マルナに希望を聞かれるが、アルバは行きたい場所を思いつけなかった。それを見て、リリィが意を決する。
「だったら代わりに私が選んであげる。私なら多分、アルバを退屈させないと思う。」
「好きにしろ。お前ならマルナよりはマシになるだろう・・」
「うー・・すごく根に持たれてるー・・」
リリィに同意するアルバに、マルナが気落ちするばかりだった。
ソワレ、マリア、コーラサワーも、街を巡っていた。マリアに導かれる形で、ソワレも街でのひと時を楽しんでいた。
この楽しい時間が、ソワレの心を癒していた。同時にこの時間を、戦争で壊してはいけないと自分に言い聞かせていた。
これが平和。この平和が脅かされないために、自分は戦っている。ソワレは心の中でそう呟いていた。
「こういう安らぎを感じたのは、本当に久しい・・・」
「ん?何か言った、ソワレくん?」
呟いたところでマリアに声をかけられ、ソワレが戸惑いを見せる。
「いえ、何でもありません・・ただ、コーラサワー少尉が・・・」
ソワレが答えながら指差し、マリアもそこに眼を向ける。コーラサワーが街の女性たちに陽気に声をかけていた。
「放っておきなさい。1人でも艦には戻れるわよ。」
「そうでしょうか・・・」
落ち着いた様子で答えるマリアに、ソワレは困惑する。マリアに引っ張られる形でソワレもこの場を去り、コーラサワーがそのまま置き去りとなってしまった。
「いいんですか、マリアさん!?少尉を置いていって・・!」
「いいのよ。成り行きとはいえ、これであなたと2人きりになれたのだから・・」
マリアが口にした言葉に、ソワレが戸惑いを覚える。2人きりという状況が、彼の心に揺さぶりをかけていた。
「マリアさん、そんな・・僕なんてとても・・」
「頼りないとでもいうの?気にしないで。私はあなたと一緒に過ごしたいのよ。」
マリアに言いくるめられて、ソワレはこれ以上反論できずされるがままだった。
マリアはソワレに興味を抱いていた。真面目すぎるくらいに真面目で、優しい心の持ち主。そんな彼に、彼女の心は揺れ動いていた。
これから2人だけの時間が始まった。
マリアの選ぶ店での有意義なひと時。その中でソワレは、マリアへの関心が湧くようになっていた。
これはソワレにとって初めて感じる感覚だった。快いものかも不快なものかも分からない不思議な感覚であると、彼は思えた。なぜこんな不思議な気分を感じるのかも分からなかった。
「どうしたの、ソワレくん?もしかして、イヤだった?」
「えっ・・・?」
そこへマリアに唐突に声をかけられて、ソワレが我に返る。
「いえ、そんなことありませんよ・・ただ、女の人と2人きりでこのような時間を過ごすのは、初めてでしたから・・・」
「初めて?ウフフフ・・」
「もう、からかわないでくださいよ・・」
「ゴメンなさいね。私もこういうのは初めてなのよ。」
「えっ・・・!?」
マリアの言葉にソワレが驚きを見せる。その反応を見て、マリアが再び笑みをこぼす。
「こういう新鮮なシチュエーションも、悪くないかな・・」
「そう、ですね・・アハハハ・・・」
マリアの口にした言葉に、ソワレは照れ笑いを浮かべた。
「ドロボー!ドロボーだ!」
そのとき、どこからか声が響き、ソワレが血相を変えて振り返る。宝石店を襲って盗みを働いた男が駆け出していった。
「マリアさん、コレをお願いします!」
「えっ!?ソワレくん!?」
ソワレが持っていた荷物をマリアに押し付けると、泥棒を追って駆け出した。だが泥棒の足は速く、ソワレも手を焼くこととなった。
だがしばらく駆け抜けたところで、ソワレは泥棒を捕まえた。取り押さえられて動けずにいた泥棒は、その後追ってきた警官に連れて行かれていった。
泥棒逮捕に貢献したソワレ。だが彼はマリアがいた場所からかなり離れてしまっていた。
「しまった・・マリアさんを待たせてる・・・」
気まずさを覚えたソワレは、慌しく戻っていった。
リリィの導きで再び街巡りをしていたアルバとマルナ。だがリリィとマルナだけでにぎわってしまい、アルバは不機嫌になっていた。
「マルナもリリィも仕方のないことだ・・」
呆れ果てたアルバが、にぎわったままのリリィとマルナをよそに、その場から歩き出してしまう。ぶらりと通りに出た彼は、そこでにぎわう家族や友人たちの戯れを目の当たりにする。
そのような記憶すらも、アルバには存在しない。自分が何者なのかをおぼろげに思い出せそうになっているが現状であり、家族や友人がいたのかも分からないままだった。
「記憶を失う前のオレも、あんな時間を過ごしていたのだろうか・・・」
アルバの心の中に、過去の自分への渇望が芽生えてきていた。
「おわっ!」
そのとき、アルバが誰かにぶつかった。突っ込んできた人がしりもちをつく。
「イタタタ・・す、すみません、慌ててたもので・・・」
青年が起き上がりながら、アルバに謝る。
「いや、気にするな。オレも周りが見えていなかった・・」
アルバが弁解を入れると、青年が笑みをこぼす。
「本当にすみません・・大丈夫ですか・・?」
「オレは何ともない。何度も聞いてくるな。」
心配する青年だが、アルバは憮然とした態度で答える。
「僕、知り合いのところに戻らないといけないんです・・急いでいますので、それでは・・」
「知り合い?そういえばオレもそろそろ戻らないとな・・」
青年の言葉を受けて、アルバもリリィとマルナのところに戻ろうとした。だが見知らぬ街の中で、彼は2人のいる場所が分からなくなった。
「しまった・・いつの間にか離れすぎた・・・」
「もしかして、あなたも知り合いと離れ離れになったのですか・・・?」
「余計なお世話だ。オレに構ってくれるな。」
「そう言わないでください。1人より、2人で探したほうが早く見つけられますから・・」
「オレは群れるのは好きではない。1人で探すからいい。」
「いけませんって!ひとりぼっちは、とても辛いことなんですからね・・」
突然怒鳴りかけられて、アルバが眉をひそめる。我に返った青年が、罪悪感を覚えてうつむいてしまう。
「すみません・・見ず知らずの人なのに、強く言い過ぎました・・・」
「いや、気にするな・・・仕方ないな・・お前のやり方でいくしかないか・・」
アルバの言葉を受けて、青年が笑顔を取り戻す。
「ありがとうございます。お互い、頑張りましょう。」
「勘違いするな。仲良しになろうとまでは言っていない。馴れ馴れしいのはやめてくれ。」
悪ぶるアルバに、青年がさらに笑みをこぼしていた。
これがアルバと青年、ソワレの、運命の出会いだった。
「ソワレくん!ソワレくん、どこ!?」
荷物を押し付けられたマリアは、ソワレを探していた。だが街の人込みから人1人を見つけ出すのは、容易ではなかった。
「もう、本当に生真面目なんだから・・」
ソワレの性格に呆れながらも、マリアは捜索を続ける。街のどこかにいるはずだと、彼女は信じ、諦めようとはしなかった。
だがそれでもソワレを見つけることができず、マリアは途方に暮れていた。
「せっかくの初めての“2人きり”だったのに・・・まぁ、こういうのも想定できたことなんだけど・・」
通りの脇で立ち止まると、マリアはため息をついた。
「ハローズも連れてくればよかったわね・・」
彼女はハローズを連れてこなかったことを後悔していた。
ハローズはクレストのMSのメンテナンスのサポートに借り出されていた。もしもこの場にハローズがいれば、認識機能を駆使して、すぐにソワレを見つけることができたはずだった。
「もう少し探してみましょう・・それでダメなら、1度クレストに戻ってからにしましょう・・」
マリアは意を決すると、ソワレを探しに再び歩き出そうとした。
「アルバ!アルバー!」
そのとき、通りから人探しをしている女性の声を耳にするマリア。その声の主は、偶然にも彼女の目の前に現れた。
「す、すみません・・人を探すのに夢中になってしまって・・」
「ウフフ・・実は私も人を探していたところだったのよ・・」
謝る少女に、マリアが笑みをこぼす。それにつられて、少女も笑みを浮かべた。
「私はマリア。マリア・スカイローズ。あなたは?」
「リリィ。リリィ・クラウディよ。よろしくね、マリアさん。」
互いに自己紹介をすると、マリアとリリィが握手を交わす。
「折角だから、一緒に探している人を探しましょうか。」
「そうですね。どちらが先に見つけても、恨みっこなしで行きましょう。」
言葉を交わしあうと、リリィとマリアは捜索を始めた。
ここでも運命の邂逅が巻き起こっていた。
「おーい!マリアちゃーん!どこ行っちゃったんだよー!」
その頃、ようやく置いてけぼりを食らったことに気付いたコーラサワー。だが時既に遅し。彼はマリアを追い求めて、街中をさまよっていた。
「おーい!オレはここだー!オレはパトリック・コーラサワーだー!」
コーラサワーの悲痛の叫びが、街の空にこだましていた。
次回予告
ふとしたきっかけで出会った2人の青年。
戦いとは何か。
平和とは何か。
言葉を交わす中で、アルバとソワレに問いかける疑問。
戦士たちの運命に今、大きく拍車がかけられようとしていた。