GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-17「アフェード」

 

 

 ディスター、クレストとの戦闘を終えて、アフェードへの進行を再開するアルテミス、グリーア。その艦内で、アルバは腑に落ちない様子を見せていた。

 アルバはソニックに攻め手を欠かれたことが悔しかった。負けていなかったとはいえ、決定打を与えることができず、勝ちを得ることができなかった。それがたまらなかったのだ。

 そんな煮え切らない気持ちを抱えている彼に、リリィが声をかけてきた。

「ソニックに勝てなかったのが悔しいの?」

 突然声をかけられ、我に返るアルバ。少し間を置いてから、彼は口を開いた。

「なぜか気分がスッキリしない・・勝ちたいと思って仕方がない・・・」

「その気持ちがあれば、多分強くなれるよ・・私も悔しがっては、何度も強くなろうとしてたから・・」

「そうか・・お前、そんなこと言ってたな・・・」

 リリィの励ましを受けて、アルバが苦笑を浮かべる。

「強くなろうとしているのは、オメガを倒すためなのだろう・・・?」

「うん・・もう悲劇を2度と繰り返したらいけない・・誰だって、あんな悲劇、望んではいない・・・」

 アルバが訊ねると、リリィは深刻な面持ちで言いかけた。

「失うことは、いい気分ではないな・・・」

 アルバも深刻さを覚える。失うことの苦しみと悲しみを、彼もよく理解していた。

「その私の失われた故郷、アフェードに、私は帰ろうとしている・・覚悟を決めないといけないね・・」

 リリィが改めて決意を口にすると、アルバも小さく頷いた。

「近いうちに、またディスターやクレストが攻撃してこないとも限らない。今のうちにしっかりと休んでおかないと。」

「そうだな。いつかのお前のように、ムチャばかりして撃墜されるようなことがないようにな。」

「もう、アルバったら、意地悪を・・」

 アルバの言葉にリリィがふくれっ面を見せる。

「ありがとう、リリィ・・お前のおかげで、気持ちが落ち着いた・・」

 アルバはリリィに感謝の言葉をかけると、この場を離れていった。彼の後ろ姿を見送った後、リリィは彼の心境の変化を考える。

(アルバ、あんな悪ふざけを口にするようになったんだ・・人を寄せ付けない態度を見せてたのに・・)

 変わりつつあるアルバに、リリィは戸惑いを感じていた。これから彼がどこに向かい、何を見出すのか、彼女も気にかけていた。

 

 先日の戦いから一夜が明け、アルテミスとグリーアはアフェードを目前としていた。その現状に、アルバとリリィに緊張が走る。

「あれが、アフェードか・・」

「そうよ・・かつての私の故郷・・・」

 アルバの呟きにリリィが囁くように答える。

「あの島には危険な薬品や科学化合物が残っている。だから普通に上陸することができないの・・」

「なるほど。だから“滅びた”ということか・・」

 カーラからの説明を受けて、アルバが納得する。

「私たちからは、アルバとリリィの2人だけで言ってもらうわ。アフェードは有毒の島も同然だから、宇宙と同じ感覚で臨んで。絶対にメットを外したらダメよ。」

「分かっています。私自身にも念を押してますから・・」

「グリーアからはマルナさんが行くことになったわ。少しでも危険だと判断したら、深入りしないですぐに戻るように。」

 カーラの忠告に、アルバとリリィが真剣な面持ちで頷く。

「他の人たちは待機よ。ここにも毒物が流れ込んでこないとも限らないから、くれぐれも外には出ないこと。」

「あ〜あ、残念だな〜。ちょっと調べてみたかったのに〜・・」

 ハルが肩を落としてため息をつく。

「興味本位でこのことに首を突っ込むのはやめなさい。亡くなった島の人間に失礼よ。」

 カーラがそんなハルに注意をする。リリィのためを思い、気遣いを込めた言葉に留めた。

「それじゃ2人とも、気をつけて。マルナさんにもよろしく伝えておいて。」

「分かった。任せろ。」

 カーラの呼びかけにアルバが答える。彼はリリィとともにドックに向かい、ソリッドとソルディンに乗り込んでいった。

「アルバ・メモリア、ソリッド、行くぞ!」

「リリィ・クラウディ、ソルディン、行きます!」

 アルバのソリッドとリリィのソルディンが、アルテミスから出撃した。

「マルナ・フィーセ、セイント、行くわよ!」

 グリーアからも、マルナのセイントが発進する。3機が合流し、通信を送る。

「カーラ艦長から注意は受けているわね?くれぐれも慎重にね。」

「分かってるわよ。あなたこそ注意してよね、マルナさん。」

 互いに声を掛け合うマルナとリリィ。2人のやり取りを聞いて、アルバも笑みをこぼしていた。

 3機はアフェードの海岸に着陸を果たす。マルナはキーボードを操作し、周辺の有毒濃度をチェックする。

「やっぱりかなりの毒ね。ちょっとでも肺に入るとまずいかも・・」

「ならば酸素供給機を忘れないようにしないとな。」

 マルナの言葉を受けてアルバが言いかける。

「それじゃ行くよ、2人とも・・」

 マルナの呼びかけにアルバとリリィが頷く。3人は同時に、コックピットのハッチを開ける。

 周囲を立ち込めている悪臭を察知し、アルバが眼つきを鋭くする。

(確かにかなりの毒だ・・直接感じていなくても理解できる・・・)

 アルバが周囲に散らばっている毒について思考を巡らせる。

 これがアフェードが“滅んだ”と言われている理由だった。島を包んでいる有毒物質は、草木を枯らし、水や土さえも壊してしまった。人ですらその毒を吸えば、死に陥ることになる。

 アルバたちは島の奥へと足を踏み入れていく。リリィの記憶を頼りに、彼らは歩道だった場所を歩いていく。

(これでは人がとても住めるとは思えない・・だから“滅んだ”ということか・・)

 アルバは納得する。アフェードの現状を。そして理解していた。リリィの悲しみを。

 3人がしばらく歩き、ある場所で足を止めた。そこは家があった場所だった。家は壊されていたが、床だけが明確に残っていた。

「リリィ、ここはもしかして・・・?」

「そう・・ここは、私の家があった場所だったの・・」

 マルナの声に、リリィが沈痛さを込めて答える。

「私の本名はリリィ・カツラギ。アフェードが滅んでからこの名前を捨てて、今の名前にしたの・・」

「そうだったのか・・・うっ!」

 胸のうちを開けるリリィの言葉に答えようとしたアルバが、突如頭に痛みを覚える。その異変にリリィとマルナが緊張を覚える。

「どうしたの、アルバ!?

「もしかして、何か思い出したの!?

 リリィとマルナが呼びかけるが、アルバは苦悩するばかりだった。彼の脳裏に飛び込んできたのは、戦場。正確には戦場のような状況だった。

 この状況がどういうものなのか、アルバには分からなかった。だがひとつだけ分かったことがあった。

「アルバ、ホントに大丈夫!?戻ったほうが・・!」

「いや、もう大丈夫だ・・」

 マルナが心配の声をかけるが、アルバが落ち着きを取り戻して立ち上がる。

「リリィ、もしかしたらオレは、アフェードに来たことがあるのかもしれない・・・」

「えっ!?

 アルバが口にした言葉に、リリィが驚きの声を上げる。

「それ、本当なの!?・・冗談じゃないわよね・・!?

「確証があるわけじゃない・・ただ、今見えたところが、このアフェードであったことぐらいしか・・」

 問い詰めるリリィに、アルバが息を絶え絶えにしながら答える。今見た光景が何を示しているのか、彼にはまだ理解できないでいた。

「このアフェードが、アルバの記憶の鍵となっているのは間違いなさそうね・・」

 マルナが口にした言葉に、リリィが小さく頷く。だが同時に彼女は、一抹の不安を感じていた。

 もしかしたら、アルバがアフェードを滅ぼしたオメガの1人ではないのだろうか。そんな疑心を抑え付けようと、リリィは気持ちを切り替えた。

(そんなことない・・アルバが、私の仇であるなんて・・・)

 不安を消して笑みを取り戻すリリィ。落ち着いたアルバが、ゆっくりと立ち上がる。

「アルバ、ホントに大丈夫?・・戻ったほうが・・」

「いや、大丈夫だ・・もう少し周辺を回ってみる・・・」

 心配するマルナに答えるアルバ。さらなる手がかりを求めて歩き出す彼だが、足取りが覚束ないようだった。

「もう、どこまで行っても人をハラハラさせるんだから・・」

 見かねたリリィがアルバを追いかけていく。マルナも笑みをこぼしながら、2人に続くのだった。

 

 その後、アルバたちはアフェードを捜索して回った。事あるごとにアルバが苦悩を訴え、それが彼の失われた記憶に結びついていることを物語っていた。

 アルバは確実にアフェードの人間、あるいはアフェードを強く印象付けている。しかしそれ以上の詳細を明確にするには至らなかった。

 アルバは本当に何者なのか。リリィと以前に関わりがあるのか。少年少女の錯綜が、さらなる拍車をかけていた。

「そろそろ戻りましょう。日が落ちたら危険度が一気に増すから。」

「そうだな・・カーラたちも心配しているだろう・・」

 リリィの呼びかけにアルバが答え、マルナも頷く。

「消毒はしっかりね。毒が艦内に流れたら一大事だから。」

「分かってるわ。危険地帯に足を踏み入れたのは、ここが初めてというわけじゃないから。その心得は理解しているつもりよ。」

 マルナの呼びかけにリリィが答える。宇宙空間は人類にとってまだまだ未知の領域である。時に毒素の多い場所も存在しているのだ。

「それでは戻るぞ、リリィ、マルナ。」

 アルバの呼びかけにリリィとマルナが頷く。3人はそれぞれの機体に乗り込み、アフェードを飛び立った。

 3機はアルテミス、グリーアへと帰艦する。本来のハッチからではなく、消毒室に直結している専用ハッチから入ることとなった。

 完全に消毒を終えたアルバとリリィが、アルテミス艦内の廊下を進む。そこで2人はカーラとハルの出迎えを受けた。

「アルバ、リリィ、無事だったんだね・・よかった・・」

 ハルが2人を眼にして、安堵の笑みをこぼす。カーラがアルバに向けて、真剣な面持ちで訊ねる。

「アルバ、何か思い出した?」

「あぁ・・ハッキリとしたわけではないが、アフェードが関係していることは間違いないだろう・・」

「そう・・もっと綿密に言うと、アフェードがオメガに襲撃されたときに関係しているのかもしれないわね・・」

 カーラが口にした言葉に、リリィが押し隠していた不安を蘇らせる。

「それはもしかして、アルバがアフェードを、私たちの家族を手にかけたということですか・・・!?

 たまらずカーラに問い詰めるリリィ。直後に、リリィは聞いてはいけないことを聞いてしまったと思い、気まずさを覚える。

「すみません・・おかしなことを聞いてしまって・・」

「ううん、いいわ・・あなたも気にしているのだから・・」

 カーラの弁解に救われるも、リリィは気落ちしてしまい、困惑から抜け出せなくなってしまう。その様子をアルバも気にかけていた。

「これでアルバの記憶を紐解く鍵が、アフェードにあることが分かったわね・・」

「あぁ・・だがこれだけでは情報が少なすぎる・・オレもまだまだ思い出せた気がしていない・・」

 カーラの言葉にアルバが答える。

「他に何か情報はないのか?調査とかは?」

「他の情報はないし、調査は不可能よ。あのアフェードの状態を、あなたも理解しているはずよ。」

 カーラの答えを聞いて、アルバは押し黙る。毒に満たされたアフェードの調査は、至難の業である。どれほどの犠牲と支出が出るか、容易に想像がつく。

「悲しいけど、危険の高いアフェードの調査に踏み切ろうとする人が現れないのが現状なのよ・・・」

 沈痛の面持ちを浮かべるカーラに、アルバが歯がゆさを覚える。リリィも胸を締め付けられるような気持ちに駆り立てられていた。

「とにかくあなたたちは休みなさい。あのような危険な場所に行って、帰ってこれたのが逆に不思議なくらいなんだから・・」

 カーラの言葉にアルバとリリィが小さく頷く。2人は体を休めようと、それぞれの自室に戻ろうとした。

 そのとき、艦内に警報が鳴り響き、アルバたちが緊迫を覚える。

「どうしたの!?

“こちらに接近する戦艦あり!ディスターです!”

 カーラの呼びかけに、司令室にいたレミーが答える。

「ディスター・・もう出てきたのか・・・!」

 ディスターの登場にアルバが毒づく。

「艦長、すぐに出ます!」

「待ちなさい、リリィ!回復していないのよ!」

 飛び出そうとしたリリィを、カーラが呼び止める。だがアルバは納得していなかった。

「ではこのまま、黙って蜂の巣になれとでもいうのか・・!?

「このまま潜行して退避します。海中ではディスターは多くの戦力を投下できません。」

「それでやり過ごせるほど、ディスターは大人しい相手なのか?」

 アルバのこの言葉に、今度はカーラが押し黙る。ハルも妙案が思い浮かばず、困惑を見せていた。

「ここはオレが行くしかない。ヤツらと戦えるのはオレだからな。」

「ちょっとアルバ、それは聞き捨てならないわね。私もやれるってこと、アルバも十分分かってると思ったけど。」

 いきり立つアルバに、リリィがふくれっ面を見せる。それを受けて、アルバが不敵な笑みを見せる。

 2人のやり取りを見て、カーラは肩を落とすしかなかった。

「仕方がないわね・・でも危険だと思ったらすぐに戻ること。今の自分たちの体調を、絶対に楽観しないで。」

「分かっています。無茶をしないよう、自分に釘を刺しておきます。」

 カーラの了承を受けて、リリィが笑みを浮かべる。

「では行くぞ、リリィ。ヤツらがすぐにも攻撃を仕掛けてくるぞ。」

「分かってる。行こう、アルバ。」

 アルバの呼びかけにリリィが答える。2人はディスター迎撃のため、それぞれの機体へと乗り込んでいった。

 

 アルテミス、グリーア討伐に燃えるゴードを始めとしたディスターの面々。クレストの応援を拒み、彼らは自分たちだけで敵艦の殲滅を敢行しようとしていた。

「地球連合のヤツらめ、これ以上好きにはさせんぞ・・次こそ引導を渡してくれる・・・!」

 戦意をむき出しにしていたゴードが、司令室にやってきたキール、ヴァイス、ベリーに声をかける。

「もうこれ以上、アルテミスとグリーアを野放しにはさせません。」

「今度こそ、アイツらをバラバラにしてやるよ・・むかっ腹が立ってしょうがねぇ・・」

「でっかい花火を打ち上げてやるからさ。期待して待っててよ・・」

 冷静沈着に振舞いながらも胸中では憤っているキール。狂気をあらわにしているヴァイス。興奮を抑えきれずにいるベリー。

 トライアス3兄弟の戦意を垣間見て、ゴードは小さく頷いた。

「もう遠慮をする必要はない。容赦も必要ない。骨も残さないほどに、ヤツらを徹底的に粉砕してやれ!」

「次に失敗すれば、我々に未来はない・・」

「今のオレは、アニキでも簡単にゃ止めらんねぇぜ!」

「下手に割り込んでくるなよ。私たちにやられても文句は言えないよ。」

 ゴードの呼びかけに不敵な笑みを浮かべて答えるキール、ヴァイス、ベリー。

「行くぞ、ヴァイス、ベリー!全てをなぎ払え!」

「おうっ!」

「はいよ。」

 キールの呼びかけにヴァイスとベリーが答える。3人はドックに向かい、それぞれの機体で出撃しようとしていた。

 

 

次回予告

 

追い詰められたつわものたち。

アルテミスとグリーアへの憎悪をむき出しにしたディスターの猛攻が始まった。

失われた故郷を守るため。

閉ざされた未来を切り開くため。

アルバとリリィの大決闘が幕を開ける。

 

次回・「ディスター強襲」

 

 

作品集

 

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