GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-18「ディスター強襲」
「キール・トライアス、ストーム、出るぞ!」
「ヴァイス・トライアス、ハリケーン、行くぜ!」
「ベリー・トライアス、タイフーン、出るよ。」
キールのストーム、ヴァイスのハリケーン、ベリーのタイフーンがディスターから出撃する。3機がアフェードを離れようとしていたアルテミス、グリーアに狙いを定める。
「今度は私が先手を取るよ。兄ちゃんたち、いいよね?」
「いいだろう。連中を蜂の巣にしてやれ。」
「まぁたまにはいいかな。油断すんなよ。」
ベリーの呼びかけにキールとヴァイスが了承する。
「油断なんてしないって。ヴァイス兄ちゃんじゃあるまいし。」
「おいおい、あんま調子に乗んなよ、ベリー。」
皮肉を口にするベリーが、ヴァイスの文句を背にして、アルテミスとグリーアを見据える。タイフーンが2つのビームライフルを手にして構える。
「華々しく花火になりな!」
眼を見開いたベリー。タイフーンが連射を開始する。
だがその光線の雨が、飛び込んできた別の光にかき消される。戦慄を覚えたベリーが、光の飛んできたほうに眼を向ける。
その先にはセイントの姿があった。セイントのビームライフルによる射撃が、タイフーンの射撃を阻んだのだ。
「あの厄介のが出てきたね・・」
「あの機体の相手は私がする。お前たちは他を仕留めろ。」
ベリーが苦言を呈し、キールが呼びかける。
「けど、アニキだけで平気か?アイツ、かなり手癖の悪い攻撃してくるぜ。」
「私を誰だと思っている?トライアス兄弟の長男、キール・トライアスだぞ。」
「そうだったな・・アニキを倒せるヤツなんざいやしないか・・」
キールの自信を垣間見て、ヴァイスが笑みをこぼした。
「ソリッドはオレに任せとけ。今度こそ仕留めてやるからさ。」
「いいだろう。だが決してぬかるな。」
やり取りを終えると、戦闘に集中するヴァイスとキール。ストームがマルナの駆るセイントの前に立ち塞がる。
「今度の相手はあなたね。3機の中で1番的確な動きをしているわね。」
「お褒めの言葉として受け取っておこう。お返しに私が直接相手をしよう。」
呼びかけあうマルナとキール。ストームがビームソードを手にして、セイントと対峙する。
(あの機体の性能もさることながら、パイロットの技量も高い。的確にこちらの隙を突いてくる。一瞬の油断が、命を脅かす事態を招く・・)
キールはセイントの動きを警戒していた。しばらく硬直が続き、互いが出方を伺う。
このまま時間だけが浪費されていくだろうと思われたときだった。
先手を打ってきたのはキールだった。ストームが飛び出し、ビームソードをセイントに向けて突き出してきた。
セイントがビームサーベルをかざして、ビームソードを叩く。間髪入れずにビームライフルを構え、ストームを射撃する。
だがストームはビームソードを力押しし、セイントの射撃の軌道をそらす。落下しながらも、セイントはすぐさま体勢を整える。
「やっぱり、油断ならないね・・」
ストームの力量を痛感して、マルナが緊張を募らせていた。
アルテミス、グリーアの前に現れるソリッドとソルディン。その2機に向けて、ハリケーンとタイフーンが飛び込んでいく。
「今度こそ、お前を叩き潰してやるぞ!」
ヴァイスが叫び、ハリケーンがソリッドにビームサーベルを振り下ろす。ソリッドもビームサーベルをかざして、その一閃を受け止める。
「しつこいヤツだな、お前!」
「そう思うならさっさとオレにやられればいいんだよ!」
互いに言い放つアルバとヴァイス。ソリッドがビームサーベルを振るい、ハリケーンを弾き飛ばす。
「くっ!」
うめくヴァイス。ソリッドがハリケーンに迫り、猛攻を加える。
「ちくしょうが・・調子に乗るな!」
いきり立ったヴァイス。ハリケーンが2本のビームサーベルを振りかざし、ソリッドへの反撃に転ずる。
「これ以上テメェのいいようにされてたまるか!絶対にここでテメェを潰す!」
殺気をむき出しにするヴァイス。ハリケーンの猛攻に、ソリッドが防戦一方となる。
そしてついに、ハリケーンの一閃が、ソリッドの胴体をかすめた。
「くっ!」
「もらった!今度こそ、今度こそテメェを!」
うめくアルバと、叫ぶヴァイス。ビームサーベルを振りかざしてくるハリケーンに対し、ソリッドがとっさにビームシールドを突き出す。
「ぬおっ!」
体勢を崩されてうめくヴァイス。ハリケーンの放った一閃がはずれ、空を切る。落下しながら、ソリッドがビームサーベルを投げつける。
その光刃が、ハリケーンの胴体に突き刺さった。
「えっ・・・!?」
この瞬間に何が起こったのか理解できず、ヴァイスは唖然となる。
「・・何だよ・・こりゃ・・・!?」
この言葉の直後、ハリケーンが空中で爆発を起こし、ヴァイスもそれに巻き込まれて消滅した。
「ヴァイス!?」
「ヴァイス兄ちゃん!?」
ハリケーンの爆発に気付いて、キールとベリーが驚愕を覚える。ストーム、タイフーンのコンピューターにも、ハリケーンのシグナルロストが表示されていた。
「そんな!?・・ヴァイス兄ちゃん・・・!?」
ベリーが悲痛の声を上げる。彼女はヴァイスの死を痛感せざるを得なかった。
「アイツら・・もう絶対に許さない!みんな花火にしてやるよ!」
憤怒したベリーが高らかに叫ぶ。タイフーンが見境なしに射撃を始める。
「落ち着け、ベリー!敵を見失うな!」
キールが呼びかけるが、ベリーの耳にその声は届いていない。眼つきを鋭くしたリリィが、タイフーンを見据える。
ソルディンが放った射撃が、タイフーンのボディを的確に命中した。
「どこを狙ってるのよ!?あなたの相手は私よ!」
「コイツ・・鬱陶しいじゃないのよ!」
呼びかけるリリィに、ベリーがさらに怒りを膨らませる。タイフーンがビームライフルの銃口を、ソルディンに向ける。
「そんなにお望みなら、アンタから花火にしてやるよ!」
ベリーがさらに叫び、タイフーンがソルディンに向けて連射を繰り出す。ソルディンはその光線の雨をかいくぐり、反撃に転ずる。
思うように攻撃を当てられず、逆に相手の攻撃をかわせず、ベリーは怒りを増すばかりだった。
「もう!何でこんな!こんな!」
「落ち着け、ベリー!頭に血を上らせるな!」
そこへキールに呼びかけられて、ベリーはようやく我に返る。
「キ、キール兄ちゃん・・・」
「そんな無闇に攻撃をして勝てるなら、私も最初からそうしている!ヴァイスの後を追うマネはやめろ!」
「けどキール兄ちゃん、これじゃヴァイス兄ちゃんが浮かばれないよ・・」
「冷静になれ!ヴァイスの仇を討つ機会はまだある!」
キールに呼びかけられて、ベリーが落ち着きを取り戻す。
「その機会ってのは、兄ちゃん・・?」
「ヴァイスの仇は、艦長が討ってくれる・・」
キールが考案している打開の策は、ディスターにいるゴードも把握していた。
ザクブラストによる遠距離攻撃をかいくぐるアルテミスとグリーア。ソリッドが駆けつけ、彼らは一気に巻き返しを開始していた。
「フレイムG1、G2、ってぇ!」
カーラが呼びかけ、フレイムが火を噴く。アルバもアルテミスに敵機を近づけまいと躍起になっていた。
「カーラ、大丈夫か!?」
「アルバ、私たちは大丈夫よ!あなたはリリィとマルナさんと一緒に、新型を押さえて!」
声をかけるアルバに、カーラが呼びかける。ソリッドがソルディンとセイントと合流すべく、アルテミスを離れたときだった。
その瞬間を、ディスターのゴードは狙っていた。
「サンブレイカーの準備は?」
「発射準備完了です!」
ゴードの呼びかけにオペレーターが答える。
「目標、アルテミス!タイミングを誤るなよ!」
ゴードがさらにクルーたちに呼びかける。彼はアルテミスを撃ち抜く絶好の機会を狙っていた。
そして彼らが狙ってきていることを、アルテミスも感知した。
「ディスター、陽電子砲発射体勢!」
「えっ!?」
レミーの報告にカーラが声を荒げる。この状態を把握して、彼女は緊迫を覚える。
(しまった!私たちが動けば、グリーアに!)
「レイブラスター発射!」
「ダメです!間に合いません!」
レミーの答えを聞いて、カーラが戦慄を覚える。確実にアルテミスかグリーア、どちらかがディスターの砲撃の餌食になる。
「サンブレイカー、発射!」
「発射!」
ディスターがアルテミスに向けて、陽電子砲「サンブレイカー」を放射しようとした。
そのとき、サンブレイカーの発射口が、突如横切った光線に撃ち抜かれ、砲撃を放つことなく爆発を引き起こした。
「何っ!?」
虚を突かれたゴードが驚愕の声を上げる。
「何者だ!?どこから撃ってきた!?」
声を荒げるゴードが、眼に入ってきた機体にさらに驚愕する。ディスターを攻撃したのは、リリィの乗るソルディンだった。
「ソルディンだと!?キールたちは何をやっている!?」
「ストーム、タイフーン、セイントとソリッドに行く手をさえぎられています!」
オペレーターからの報告を聞いて、ゴードは苛立ちを隠せなくなる。
キールとベリーは確かにソリッド、ソルディン、セイントを引き付けていた。だが交戦の合間を縫って、ソルディンがアルテミス、グリーアの護衛に回っていたのだ。アルバたちの中で的確な射撃を最も得意としているのは、リリィだった。
「こんなことで、我々が敗れるなど・・・!」
歯軋りをしながら、ゴードが勝利にすがり付こうとしていた。
「アルテミス、陽電子砲発射体勢です!」
「何だとっ!?」
オペレーターの立て続けの報告に、ゴードが声を荒げる。アルテミスがレイブラスターを放射しようとしていた。
「迎撃と回避を急げ!ヤツらに撃たせるな!」
「ダメです!間に合いません!」
ゴードの呼びかけをオペレーターが叫ぶ。
「ってぇ!」
カーラの呼びかけとともに、アルテミスがレイブラスターを発射した。
「なっ!うわあぁぁーーー!!!」
ゴードたちの絶叫とともに、司令室が閃光に包まれる。アルテミスの砲撃を受けて貫通され、ディスターが爆発し、落下する。
海に落ちた瞬間、ディスターは大爆発を巻き起こした。
「何っ!?」
「ディスターが、落ちた・・・!?」
この出来事に、キールとベリーが声を荒げる。他のパイロットたちも、動揺の色を隠せなかった。
(まさかディスターが落とされるとは・・そんなバカなことが・・・!?)
キールはこの上ない焦りを覚えていた。自分たちの指揮を行っていた者を含めた旗艦の撃墜に、彼も冷静さを欠かずにいられなかった。
だがゴードなき今、自分が代わりに命令を下さなければならない。でなければ部隊の全滅を招くことになる。
「私が代わりに指揮を執る!全軍撤退!戦線を離脱する!」
「キール兄ちゃん・・・」
キールの指示にベリーが戸惑いを覚える。パイロットたちも動揺を見せながらも、彼に従うことにした。
「ベリー、ヤツらを食い止めろ!追撃をさせるな!」
「兄ちゃん・・分かった!任せといて!」
檄を飛ばしてくるキールに、ベリーが自信を取り戻す。逃がすまいと追いかけるソリッドたちを、タイフーンの射撃が阻む。
「逃がさない!やっとここまで、あなたたちを追い詰めたんだから!」
リリィが叫ぶが、ソルディンも攻めきれないでいた。
「ベリー、もういい!我々も引き上げるぞ!」
「分かったよ、キール兄ちゃん!」
キールの呼びかけにベリーが答える。撤退をするストームとタイフーンだが、キールは胸中で歯がゆさを感じていた。
(ヴァイス、すまん・・ここで、お前の仇を討つことができなかった・・・)
ヴァイスの無念を痛感しながら、キールは戦場を後にした。
「もう・・もう少しだったのに・・・!」
「追い討ちはやめておけ。オレたちも疲弊している。攻を焦ればオレたちが危なくなる。」
愚痴をこぼすリリィに、アルバが言いかける。落ち着きを取り戻して思いとどまった彼女が、アルテミスに眼を向ける。
「そうね・・私たち、あのアフェードから戻ってきたばかりだったのよね・・・」
苦笑を浮かべて呟きかけるリリィ。自分たちも消耗していることを、彼女は思い知らされた。
「大丈夫、アルバ、リリィ!?」
そこへセイントが駆け寄り、マルナが呼びかけてきた。
「マルナ・・うん。私たちは大丈夫。」
「よかった・・アフェードの件で疲れてると思ってたから・・」
微笑んで答えるリリィに、マルナが安堵の吐息をつく。
「とにかく戻るぞ。オレもお前たちももうボロボロだ。」
「そうね・・さすがにもう疲れたわね・・」
呼びかけるアルバに、リリィが答える。ソリッド、ソルディン、セイントがアルテミス、グリーアに戻っていった。
アルテミスに着艦した2機、無事に戻ってきたアルバとリリィを、ドックにいたハルが駆け寄ってきた。
「アルバ、リリィ・・よかった・・2人とも無事で・・・」
涙ながらに声をかけるハルに、リリィが苦笑いを見せる。
「そんな大げさだよ、ハル・・みんなが頑張ってるのに、私だけ弱音を吐いているなんて・・」
リリィが照れ隠しに言いかけたときだった。突然彼女がその場で倒れた。
「リリィ!?」
声を荒げたハルが、リリィに呼びかける。するとアルバがリリィを抱えて、医務室に向かって駆け出した。
倒れたリリィはアルバに抱えられて、医務室に運ばれた。診察では心身双方からの過労が原因だという。
カーラはリリィに付き添うことにした。アルバも同行すると言ってきたが、彼の疲労を察したカーラに止められた。
その後アルバは自室に戻り、ベットで横になった。この日のことでいろいろと考えを巡らせたが、アルバは疲労のためにそのまま眠りについてしまった。
彼が眼を覚ましたのは、その翌日の正午前だった。
「オレは・・いつの間に眠ってしまったのだ・・・?」
もうろうとしている意識を覚醒させて、アルバがベットから起き上がる。彼は眠りによってさえぎられていた思考を再び呼び起こした。
アフェードで垣間見たビジョン。かつてのアフェードでの混沌の中に自分がいると、彼は実感していた。
「オレはやはり、あの場にいたということなのか・・・」
アルバの苦悩は深まる。彼が見たビジョンが、何らかの鍵を秘めている。さらにそれがリリィとのつながりを示唆していた。
「本当ならばもう少しアフェードに留まって確かめたほうがいいのだが・・」
記憶を紐解きたいアルバだが、アフェードが危険地帯であることも痛感していた。だがアルバは諦めてはいなかった。
「まだ糸口はあるはずだ・・オレが何者なのか、思い出すときが必ず訪れる・・・!」
思い立ったアルバが立ち上がり、自室を後にした。失われた記憶を求めた彼の、新たなる旅立ちが始まろうとしていた。
次回予告
悲劇と混沌を巻き起こす戦争。
その合間を縫っての束の間の休息。
かつての実家に戻ってきたマリア。
だが、そこで彼女を待っていたのは、鬱屈した家族とのすれ違いだった。