GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-16「3勢力の攻防」

 

 

 アフェードに向かうアルテミス、グリーアの前に、ディスターが立ちはだかった。MSによる攻防が開始され、激しく火花を散らす。

「ヴァイスには悪いが、ソリッド、お前は私の手で葬らせてもらうぞ・・・!」

 低く鋭く言い放つキール。ストームがビームソードを手にして、ソリッドに向けて突き出す。

 ソリッドもビームサーベルを手にして上昇しつつ、ビームソードを叩いて突きの軌道をそらす。防ごうとしても重みのあるストームの攻撃に貫通されると、アルバは判断した。

(うまい。ソリッドの性能の高さもさることながら、パイロットも相当の判断力を持っているようだ。)

 ソリッドとアルバを冷静に分析するキール。ストームがソリッドに向けて、ビームブーメランを投げつけてきた。

 その刃を、ソリッドは軽い身のこなしでかわす。だがビームブーメランは弧を描くように軌道を変えて、再びソリッドを狙う。

 だがアルバはその奇襲に気付いていた。ビームサーベルを掲げてビームブーメランを防ぐ。

(注意しなければならないのはあの剣だ。巨大で重みがある分、威力がある。防ごうとすれば、破滅の末路を辿ることになる。)

 アルバは思考を巡らせ、ストームの力量を分析する。

(あの剣を叩けば、ヤツの力は著しく衰えるはずだ・・・!)

 思い立ったアルバがストームの動きを見据える。ストームは再びビームソードによる攻撃を仕掛けようとしていた。

(相手はおそらく、ストームの主力がこのビームソードであると判断しているだろう。ビームライフルによる遠距離攻撃に切り替えるだろうが・・)

 キールもその手は推測していた。

(そうやすやすと、お前の思い通りにさせる私ではない!)

 いきり立つキールの駆るストームが、ソリッドに向けてビームソードを突き出す。ソリッドが同様にビームサーベルで突きをけん制する。

「同じ手が通じると思ったか!」

 だがストームはビームサーベルが当たった瞬間、ビームソードをずらしてビームサーベルを跳ね除ける。

「くっ!」

 その一閃にソリッドが突き飛ばされ、その衝撃にアルバがうめく。体勢を立て直したソリッドに向けて、ストームが追撃を仕掛ける。

「休ませる隙など与えるか!」

「いつまでも調子に乗るな!」

 言い放つキールに、アルバが激昂する。ストームがビームソードを振り下ろす前に、ソリッドがビームサーベルを突き出して、力ずくで押さえ込もうとする。

「力比べに持ち込むとは・・私も甘く見られたな!」

 キールが叫び、ストームがソリッドを押し込もうとした。だがその瞬間、ソリッドが左手に持ったビームライフルを発射してきた。

 ビームソードを持つ手を打たれたストーム。爆発の直後、ストームはビームソードを手放してしまう。

「何っ!?

 キールが驚愕の声を上げる。両手を失い、ストームは戦線離脱を余儀なくされた。

 

 リリィの乗るソルディンと交戦していたベリーのタイフーン。2機のビームライフルによる激しい銃撃戦が展開されていた。

「アンタ、なかなかやるじゃないの!でも相手が悪いよ!」

 ベリーがソルディンに向けて高らかと言い放つ。

「私は射撃で負けることなんてありえないんだからね!」

「減らず口だったら、あなたに勝てる気が全然してこないわね!」

 ベリーに負けずにリリィも叫ぶ。その言葉にベリーが苛立ちを覚える。

「言うじゃないの・・その勇ましさに敬意を表して、私がきれいな花火にしてやるよ!」

 いきり立ったベリーが、リリィへの敵意をむき出しにする。タイフーンが2つのビームライフルを連射して、ソルディンを追い詰めようとする。

 その光の雨をかいくぐって、ソルディンがタイフーンにビームライフルを発射する。その銃撃は、的確にタイフーンのボディに命中していた。

「くそっ!私が攻撃をかわせないだと!?

「闇雲に撃って的に当たるほど、射撃は簡単じゃないのよ!」

 毒づくベリーに、リリィが言い放つ。射撃をかわされるタイフーンとは対照的に、ソルディンは1発1発確実に射撃を当てていた。

 

 セイントに対して敵意をむき出しにするヴァイス。2本のビームサーベルを振りかざすハリケーンと、それをビームダガーで受け止めるセイント。

「どうした!防戦一方になってるじゃねぇかよ!」

 高らかと挑発を叫ぶヴァイス。だがマルナはそれに動じていなかった。

「誰かが言ってたよね。弱い犬ほどよく吠えるって。」

 マルナが言いかけると、セイントがハリケーンの首元にビームダガーを突きつけた。眼前に刃を突きつけられ、ヴァイスが毒づく。

「結局返り討ちになっちゃったね。観念すればよし。でないと首だけじゃなく、コックピットまで切り裂くことになるわよ。」

 マルナが自信を込めた笑みを浮かべて言い放つ。言い返したいと思いながらも、いかんともしがたい危機的状況を痛感し、ヴァイスは反論できなくなっていた。

「投降するならその場でハッチを開けて。ちょっとでも違う動きをしたらすぐに斬る。」

 忠告を送るマルナ。ヴァイスは毒づきながらも、ハリケーンのコックピットのハッチを開けた。

 だがコックピットが開きかかったときだった。

「なーんてな!」

 刹那、ヴァイスが不敵な笑みを浮かべ、ハリケーンが後ろに身をそらした。その勢いのまま、ハリケーンがビームブレイドを発した右足を、セイントに向けて振り上げてきた。

 マルナはとっさに判断し、セイントがビームダガーを振りかざして、ビームブレイドを受け止める。体勢を崩されたハリケーンに向けて、セイントがビームダガーを振り下ろす。

 その一閃は、ハリケーンの左腕を切り裂いた。

「ちっくしょう!」

 歯がゆさをあらわにするヴァイス。ハリケーンが力なく、海へと落下していった。

「本当に仕方がないんだから・・・」

 一瞬呆れると、マルナはグリーアへの通信を行った。

「こちらマルナ。グリーア、応答してください。」

“マルナか!状況はどうなった!?”

 マルナの呼びかけにジョニーが答える。

「ハリケーンを撃墜。これよりグリーアの護衛に向かいます。」

“いや、お前はソリッドとソルディンの援護に向かえ。我々は大丈夫だ。”

「ジョニー艦長・・・分かりました。まずはソルディンの援護から。」

 ジョニーの指示を受けて、マルナがリリィの援護に向かおうとした。

「えっ!?

 そのとき、セイントのレーダーに接近する熱源が映り、マルナが声を荒げる。そのレーダーの指し示すほうへ、彼女は眼を向ける。

「あの姿・・まさか、クレスト・・・!?

 眼を見開いたマルナが呟きかける。この戦場に、クレストが駆けつけてきた。

 

 アルテミス、グリーア、ディスターが交戦する空に、クレストも駆けつけた。ソワレ、マリア、コーラサワーが出撃準備に入っていた。

「ディスターには悪いが、このまま指をくわえて見ているわけにもいかない。これよりアルテミス、グリーアへの攻撃を開始する!」

「了解!」

 ガルの呼びかけにソワレとマリアが答える。

「任せときなって。オレがみんな叩きのめしてやるからさ。」

 コーラサワーが不敵な笑みを浮かべて言い放つ。

「身の程を弁えないと、今度こそ海の藻屑になるわよ。」

「うっ!・・それを言わないでくれよ、マリアちゃーん・・」

 そこへマリアに注意され、コーラサワーが気落ちしてしまう。彼はソリッドに敗れて海を漂流していたことを苦々しく感じていた。

「そろそろ行きますよ、マリアさん、コーラサワー少尉。」

 そこへソワレが呼びかけ、マリアとコーラサワーが気を引き締める。ハッチが開放され、虚空が広がっていく。

「ソワレ・ホークス、ソニック、発進する!」

「マリア・スカイローズ、ザク、出るわよ!」

「パトリック・コーラサワー、ザク、出るぞ!」

 ソニック、ザクローズ、さらにザクスラッシュがクレストから出撃する。

「散々やられた屈辱、ここで晴らしてやるぞ、ソリッド!」

 ソリッドへの敵意をむき出しにするコーラサワー。ザクスラッシュがストームを追い詰めていたソリッドに向けて、ビームソードを突き出してきた。

「新手か!」

 アルバが反応し、ソリッドがビームソードを弾く。ビームライフルを構えてきたことに気付き、ザクスラッシュが後退する。

「同じ手を食うかよ、ひよっこが!」

 高らかに言い放つコーラサワー。だが次の瞬間、ザクスラッシュが突如右腕を切り裂かれた。

「えっ・・・!?

 何が起こったのか分からなくなるコーラサワー。彼のザクスラッシュを攻撃したのは、ストームだった。

「ソリッドと戦っているのは私だ。横取りするな・・・!」

 落下するザクスラッシュに向けて、キールが冷淡に告げる。ザクスラッシュは他のザクに受け止められ、海への落下を免れる。

「私とストームに手傷を負わすとは、さすがだ・・だがまだ、勝負に決着は着いていない!」

「いいえ、ディスターには即時撤退していただきます!」

 アルバに向けて言い放つキールだが、そこへ声が飛び込んできた。割り込んできた機影に、アルバは眼を見開く。

「ソニック・・クレストまで・・・!」

 クレストの乱入にアルバが毒づく。ソワレの呼びかけに、キールが憤りを覚える。

「バルロイド艦長から言われませんでしたか?手出しは無用だと。」

「しかしこのままではあなた方の全滅は避けられませんでした。これ以上の戦闘継続は、たとえ形勢を逆転させたとしても、あなた方の死を招くことになります。」

 淡々と呼び続けるソワレだが、キールもゴードたちも聞き入れようとしない。

「その判断は艦長が決めること。他の艦や部隊が決めることではない!」

「命を落とすことになりますよ!私たちは、あなた方がそうなることを望みません!」

「思い上がるな!我々ディスター、トライアス兄弟の邪魔は、たとえ同じリードであると容赦なく倒す!」

 ソワレの呼びかけをはねつけるキール。ストームがビームブーメランを放つが、ソリッドはビームサーベルで弾いて、即座にストームの懐に飛び込んできた。

 だがソニックがすかさず飛び込み、ソリッドの一閃をビームシールドで受け止める。

「失礼いたします!」

 ソワレが謝罪を口にすると、ソニックがストームを足蹴りし、突き飛ばす。戦力をそがれていたストームは、力なく落下していった。

「今度は僕が相手だ!平和を壊す敵として立ちはだかるなら、僕はお前を倒すことも厭わない!」

 ソワレは言い放つと、ソニックがビームシールドを持つ手を突き出して、ソリッドを突き飛ばす。すかさずビームサーベルを引き抜いて振りかざすが、ソリッドもビームサーベルを振りかざして迎撃する。

 2本の光刃がぶつかり合い、激しく火花が散る。アルバとソワレが負けじと、さらに力を込めていく。

「この先に、オレの求める答えがあるんだ・・こんなところで立ち止まるわけにはいかない!」

 アルバが言い放ち、ソリッドが左手に持ったビームライフルの引き金を引く。それに気付いたソワレの操作で、ソニックが即座に後退する。

「ちっ!」

「くっ!」

 舌打ちするアルバと、脅威を感じてうめくソワレ。2人の一進一退の攻防は、早くも熾烈を極めていた。

 

 リリィのソルディンの的確な射撃に翻弄されるベリーのタイフーン。だが2人は介入してきたクレスト、乱入してきたザクローズに緊張を覚える。

「ザクローズ・・クレストまでやってくるなんてね・・」

 敵軍の救援にリリィが毒づく。マリアがベリーに向けて、淡々と呼びかけた。

「ディスター、直ちに撤退してください。アルテミスとグリーアとの戦闘は、我々クレストが引き継ぎます。」

「はっ!?いきなり割り込んできて、そんなことをいうのか!?

 マリアからの呼びかけをベリーがあざ笑う。

「余計なマネすんなって!でないとアンタも蜂の巣にしてやるよ!」

「命がいらないというのなら好きにしてください。どれほどの危機的状況に陥ろうと、私はあなたに手を差し伸べませんから。」

「言ってくれるじゃないの・・上等じゃないの!」

 眼を見開いたベリー。タイフーンがソルディンを狙って射撃を繰り出すが、感情的な攻撃のため、軽々とかわされていく。

「くそっ!くそくそっ!何でだよ!」

「だから言っているでしょう。撤退してくださいと。ムキになって勝てるなら、私もそうしていますよ。」

 不満をあらわにするベリーに、マリアがさらに言いかける。腑に落ちないながらも、ベリーも撤退を余儀なくされていることを痛感せざるを得なかった。

 

 クレストの参入にゴードも苛立っていた。だが危機的状況も痛感しており、彼は苦渋の決断をした。

「信号弾を撃て。ここは撤退する。」

 ゴードの命令に、ディスター艦内が騒然となる。

「クレストの申し出を、受け入れるというのですか・・・!?

「私も受け入れたくはない。だがこのままやっても戦況不利を覆すことはできん・・キールたちを呼び戻せ。」

 困惑を見せるオペレーターに再度呼びかけるゴード。ディスターから3色の閃光弾が放たれる。

「撤退!?

 キールたちが驚愕し、ソワレたちが安堵を覚える。ディスターの面々が安全圏まで下がるのを見て、アルバたちを食い止めていたソワレたちも撤退を開始する。

「アルバ、リリィ、大丈夫!?

 セイントのマルナがアルバとリリィに呼びかける。

「マルナ、私は大丈夫よ。」

「オレも何ともない。」

 2人の応答を聞いて、マルナが安堵を覚える。

「こっちも戻ろう。クレストまで割り込んできたなら、ちょっと気楽に、というわけにはいかないよ。」

「戦うことに気楽になるヤツがいるとは思えないが・・」

 マルナのこの言葉にアルバが言いかける。その言葉は彼女には聞こえていなかった。

 彼らはひとまず、アルテミス、グリーアへと帰艦し、体勢を整えた。

 

「くそっ!クレストの連中!」

 帰艦直後、ヴァイスが不満を爆発させて、ドックの壁を蹴りつける。温厚なキールも、クレストの介入に苛立っていた。

「手を出すなと言っておいたのだがな。どうやらクレストは人の話が聞けない連中のようだ。」

 ドックにやってきたゴードも、不満の色を隠せない様子だった。

「忠告のひとつでも送ってみたら?それでも手を出してくるなら、そんときは覚悟の上だろうね・・」

 ベリーがゴードに向けて声をかける。彼女が4人の中で1番落ち着いていた。

「そうだな・・次が最後の警告ということで・・」

 不敵な笑みを浮かべたゴードを見て、キールとヴァイスも不敵な笑みを浮かべた。

「別命あるまで全員待機!体を休めておけ!」

 

 クレストも安全圏への離脱に成功していた。ソワレとマリアが安堵をこぼしていた傍らで、コーラサワーが悔しがっていた。

「くそー!せっかく助けに来てやったのに、あんなのってないだろうがー!」

 涙ながらに不満を叫ぶコーラサワー。彼の空回りな悲痛さに、マリアは呆れ返っていた。

「しかし、今回はうまく戦線離脱してもらえたものの、次もうまくいくとは限りませんよ・・むしろ僕たちに攻撃しかねない・・」

「私もそう思うわ・・コーラサワーに躊躇なく攻撃してきたのだから・・」

 ソワレとマリアが不安を口にする。その会話を聞いて、コーラサワーがさらに気落ちする。

「ですが、このままディスターのみなさんが命を落とすのを、黙って見ていることはできません・・たとえ彼らの不本意であっても・・」

「・・あなたもあなたで、けっこうガンコなのね・・真面目一直線でないことが分かって、私、なぜか安心してる・・」

 ソワレの率直な気持ちを聞いて、マリアが苦笑をもらしつつ、安堵を感じていた。

「問題は、アルテミスとグリーアの目的ね。」

「ですね・・進路を辿った先には、何があるのですか・・・?」

「・・オメガの考えが、平和のためであると思っているあなたには、酷な内容かもしれない・・」

「構いません。言ってください・・何があるんですか・・・?」

 問いかけてくるソワレに、マリアはひと呼吸置いてから答えた。

「破滅の島、アフェード・・旧人類とオメガの戦争のきっかけの島国で、かつてオメガが全滅させた場所よ・・・」

 マリアが口にした言葉に、ソワレも驚愕する。オメガが旧人類の島を情け容赦なく皆殺しにしたことを、彼は受け止められないでいた。

 

 

次回予告

 

破滅の島、アフェード。

忌まわしき記憶を宿した、リリィの故郷。

始まりの悲劇と直面し、彼女の心が大きく荒んでいく。

その最中、アルバにも異変が巻き起こる。

彼の心もまた、大きく揺れ動こうとしていた。

 

次回・「アフェード」

 

 

作品集

 

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