GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-15「過去への挑戦」
アフェード出身であることを、ジョニーに打ち明けたリリィ。一瞬困惑を覚えたジョニーだが、すぐに冷静さを取り戻した。
「まさかアフェードに生き残りがいて、しかも連合軍の軍人になっていたとは・・」
「私は家族やみんなを殺し、故郷まで滅ぼしたオメガを倒し、平和と幸せを取り戻すために、軍人を志願しました。強くなろうと努力し、今日に至ったのです・・」
呟きかけるジョニーに、リリィが気持ちを落ち着けたまま語りかける。
「この考え方が間違っているというなら、それをとがめるつもりはありません。ですがそれでも私は、この手でこの戦いに終止符を撃たなければならないとも思っています。」
「そうか・・そういう復讐心を抱えた者も、軍には少なくないし、上層部もその敵意を買うこともある。ただ、私としては自分を見失ってはならないと思っているが・・」
「はい・・カーラ艦長から強く言われています・・私自身も、しっかりしなくてはならないと強く言い聞かせています・・」
「それならばいいのだが・・憎しみは、時に自分自身を破滅させることにもなるからな・・」
「分かっています・・今まで経験して、肝に銘じていますから・・」
忠告を込めたジョニーの言葉に、リリィは小さく頷いた。彼女は自分の胸に手を当てて、自分が今まで何のために戦ってきたのか、これから何のために戦えばいいのか、深く考えた。
「平和のためにともに戦おう。平和を望む君の心も、みんなにとっても力になるから・・」
「ありがとうございます、ルーク艦長・・感謝します・・・」
ジョニーの言葉を受けて、リリィは感謝して深々と頭を下げる。
「頭を上げろ。君と我々の戦いは、まだ終幕を迎えたわけではない。」
「そうですね・・すみません・・・」
ジョニーからの励ましを受けて、リリィはようやく自信を取り戻した。
「そこにいるのは分かっているぞ、マルナ。盗み聞きしていないで姿を見せたらどうだ?」
「えっ?」
ジョニーの突然の呼びかけにリリィが一瞬唖然となる。彼の視線の先の木の陰から、マルナが照れ笑いを浮かべながら姿を現した。
「グリーアにいろと言っておいたはずだぞ。いつもいつも仕方のないヤツだ・・」
「いいんです、ルーク艦長・・マルナさんにも打ち明けています・・」
マルナに注意するジョニーに、リリィが弁解を入れる。
「マルナもリリィくんのことは知っているのか・・・他にこのことを知っている者は?」
「カーラ艦長と、アルバだけです。」
「分かった。このことは口外しないようにしておこう。マルナも口を滑らせるなよ。」
「大丈夫ですよ。大事な秘密をばらすようなことはしませんって・・」
ジョニーに釘を刺されて、マルナが苦笑いを浮かべる。
「ではそろそろ戻ろう。明日のために休んでくれ。」
「分かりました。」
ジョニーの呼びかけにリリィが頷く。彼らはアルバたちのいる広場に戻っていった。
広場に戻ると、ジョニーはカーラに、改めて今後の目的の確認を取った。双方の同意が終わり、クルーたちは休息を続けていた。
その中で、リリィはアルバとカーラに、ジョニーとの話について告げていた。
「そう・・ルーク艦長にも話したのね・・」
「すみません・・勝手なことばかりしてしまって・・・」
頷きかけるカーラに、リリィが謝罪する。だがカーラは気にしていないようだった。
「気にしなくていいわ。あなたのことなんだから。」
カーラの弁解を受けて、リリィが笑みを取り戻す。
「しかしいいのか?故郷とはいえ、お前にとってイヤな思い出の場所なんだろう?」
そこへアルバが声をかけてきた。しかしリリィの考えに変わりはない。
「できることなら行くことは避けたかった・・でもルーク艦長に言われたの。いつまでも恐怖に縛られていてはいけない。自分で立ち向かっていくことが大事だって・・」
「そうか・・ならオレも覚悟を決めないといけないな。お前の憎しみの源が、どういうところなのか・・」
「ありがとう、アルバ・・・」
アルバの言葉にリリィが笑みをこぼす。互いの覚悟を交わして、2人は小さく頷いた。
「さて、私たちもそろそろ休みましょう。アルバ、リリィ、明日からもよろしくね。」
「あぁ。」
「こちらこそ、よろしくおねがいします。」
カーラの呼びかけにアルバが頷き、リリィが答える。2人はカーラと別れ、艦長室を後にした。
「ありがとう、アルバ・・私に協力してくれて・・」
「他人の心の奥底に介入するのも同然なんだろう?ならば生半可な気持ちで踏み込めば、自身が傷つくことにつながるからな・・それに・・」
「それに?」
「もしかしたら、オレの記憶の鍵が、アフェードにあるのかもしれない・・」
アルバの言葉を聞いて、リリィが沈痛の面持ちを浮かべる。彼女もアルバの失われた記憶について、考えを巡らせていたのである。
「どんな些細なことでも、答えを見つけるために眼を向けたほうがいいこともある・・」
「そういうものなのか・・そういうものなのだろうな・・・」
リリィの言葉を聞いて、アルバが苦笑を浮かべる。
(自分の求める答えのために、オレたちはその道を真っ直ぐ進んでいくことになる・・たとえその道が、どんなに長く険しいものであろうと・・)
自分の決心を募らせるアルバ。彼とリリィは明日に備え、それぞれの自室に戻るのだった。
決意の夜が明け、朝日が昇ってきた。アルテミス、グリーアがアフェードに向けての発進の準備が、着々と進められていた。
その朝日を、リリィはじっと見つめていた。忌まわしき記憶の地への旅立ちを前に、彼女は改めて気を引き締めていた。
(私はもう迷わない・・たとえ死ぬほどの苦しみが待っていても、私はもう1度、消えた故郷に帰る・・・)
故郷と向き合おうと、リリィは胸の中に決意を募らせていた。
「緊張しているのかな、リリィ?」
そこへマルナが現れ、リリィに声をかけてきた。
「それにはウソはつけないね・・割り切ったと思い込んだはずなのに、ホントは行くことを怖がっている・・」
「それが人ってもんだよ。何にも全然怖がらずに突っ走るのは、勇気というよりは無謀というもんだから・・」
互いに苦笑をこぼすリリィとマルナ。2人の気持ちは、完全には落ち着いてはいなかった。
むしろ彼女の落ち着きのなさは、恐怖に立ち向かう気持ちから来る衝動、激動だった。自分への戦いに備えて、リリィは武者震いに陥っていたのだ。
「この気持ち、これからも大事にしていかないとね・・アルバもアルバでいろいろと悩んでいるみたいだから・・」
「アルバ・・アルバの記憶は、どこにあるんだろうね・・・」
リリィの言葉を受けて、マルナがアルバについて考えていた。
「リリィ、あなた、アルバのことが気になって仕方がないんじゃない?」
「えっ!?ちょっとマルナ、いきなり何言って・・!?」
マルナが突然切り出した言葉に、リリィが赤面して声を荒げる。その反応を見て、マルナが笑みをこぼす。
「ゴメン、ゴメン。でもリリィ、アルバのことを気にかけてるみたいだったから・・」
「そんな、大それたものじゃないよ・・でもアイツには、いろいろと助けられたから・・」
謝るマルナに、リリィが再び笑みをこぼして言いかける。それを受けて、マルナは沈痛の面持ちを浮かべる。
「私よりも、あなたのほうがアルバのことに詳しいよね・・」
「まぁ、しばらくアルテミスにいたからね・・いつも悪ぶった態度で、なかなかみんなの輪に入ろうとしない。でもそれは、接し方が分からなかっただけ・・」
「よく知ってるね・・私はまだまだ。こんなんじゃアルバに近づいたってね・・アハハ・・・」
おもむろに笑みをこぼすマルナ。その笑みに沈痛さが込められていることに、リリィは気付いてしまった。
「私も、アルバのことはよく分からない・・アルバ自身もよく分かっていないんだから・・」
リリィは言いかけると、マルナに向けて手を差し伸べてきた。
「万が一、好きな人の取り合いになるとしたら、私は負けるつもりはない。マルナもそうでしょ?」
「リリィ・・・そうね。そのときは、勝っても負けても恨みっこなしでいこうね。」
マルナは心からの笑顔を見せると、リリィのその手を取って握手を交わした。2人は友情の絆を深めていった。
「カーラが呼んでいるぞ、リリィ。」
そこへアルバがやってきて、リリィに声をかけてきた。
「そろそろ出発みたいね・・行こう、マルナ。」
「うん、リリィ。」
リリィが言いかけ、マルナも頷く。意気揚々と駆け出していく2人に、アルバは眉をひそめていた。
クルー全員が集合し、発進に備えるアルテミスとグリーア。ジョニーがカーラに向けて、通信を入れてきた。
“各部隊の指揮は各々に委ねられることになるが、総合の指揮はカーラ艦長、あなたに任せたい。”
ジョニーの申し出に、アルテミス艦内がざわつく。カーラも戸惑いを感じずにはいられなかった。
「それなら私よりルーク艦長が適任かと・・私などまだまだ経験が浅いですし・・」
“そんなことはない。これまでアルテミスを導き、我々の危機を救ったのはあなたの指揮があればこそだ。だから私はあなたに、両部隊の総指揮を任せたい。”
「ルーク艦長・・・分かりました。総指揮、私、カーラ・サルビアが務めさせていただきます。」
ジョニーの申し出を受けて、カーラが総指揮を請け負った。
“ではカーラ艦長、出発の第一声をお願いします。”
ジョニーの呼びかけに頷くと、カーラがクルーたちに呼びかける。
「これよりアルテミス、グリーアは、オメガの真意の追求と戦争終結の手段捜索のため、アフェードに向かいます!」
「了解!」
クルーたちが答えて、それぞれの持ち場に着く。アルバとリリィもいつでも出撃できるようにドックに向かった。
「アルバ!リリィ!」
そこへハルが駆け込んで、アルバたちに声をかける。
「ハル、今度もよろしくね。ハルのメンテナンスには、ホントに頼りにしてるんだから・・」
「へへへ・・こうして頼りにされちゃうと、何だか照れちゃうよ・・」
リリィの言葉を受けて、ハルが照れ笑いを浮かべる。
「よーし!そう言われて普通にやってたら男が廃るよ!念入りにチェックしてあげるからね!」
「そう張り切り過ぎなくてもいいって。いつもどおり丁寧に。それがハルのメンテナンスでしょ?」
意気込むハルをリリィがなだめる。リリィに続いてアルバがドックに向かおうとして、ふと足を止めた。
「お前のメンテナンスには助けられている・・あつがとう・・・」
「・・・ありが、とう・・・!?」
アルバが口にした言葉に、ハルが驚きをあらわにする。その様子に不満を感じて、アルバはそそくさにその場を離れていく。
「アルバ・・・」
「ちょっと照れてるだけだよ・・ただ素直に自分の気持ちを言ってきたのは確か・・」
当惑を見せるハルにリリィが言いかける。するとハルがリリィに眼を向けて、笑みを見せてきた。
「そういうリリィも、ちょっと変わったよね?どこかまでは分かんないけど・・」
「えっ?私が?」
彼の言葉に一瞬きょとんとなり、直後に思わず笑みをこぼすリリィ。
「ここまででいろいろあったからね。さすがに変わるでしょうね・・」
「そうかな・・そんなもんかな、エヘへ・・・」
リリィに言われてハルも笑みをこぼす。今までにないほどに和やかになった雰囲気に、2人は少なからず喜びを感じていた。
「そろそろ行くわよ、ハル。今度もお願いね。」
「OK!僕もやるよ!」
リリィとハルもドックに向けて駆け出していった。
アルテミスとグリーアによって撤退を余儀なくされたディスター。彼らはクレストの応援を拒み、自分たちだけで再戦を挑もうとしていた。
「連合の連中め、2度も奇跡が起こると思わないことだ。」
不敵な笑みを浮かべて、ゴードが言いかける。彼のいる司令室に、キール、ヴァイス、ベリーが入ってきた。
「待ちくたびれたぜ、ゴード。そろそろやらしてくれよ。」
「大きな口を叩くな。この前の戦闘、引き返さなければお前は死んでいたと言っているだろう。」
不満を口にするヴァイスに、キールが言いとがめる。
「何はともあれ、しばらく休んで体力満タン。また派手にやれるってわけね、兄ちゃん。」
ベリーが声をかけると、キールとヴァイスが頷く。
「前と同じだが、次も思い切りやれ。グリーアだけでなく、アルテミスもあの機体も、全て仕留めろ!」
「へっ!何言ってるんだ、ゴード。オレは徹底的にやれればそれでいいんだよ。」
呼びかけるゴードに、ヴァイスが笑みを強めて言い放つ。
「行くぞ、ヴァイス、ベリー。今度こそ決着を付けるぞ。」
「おうっ!」
「あいよ。」
キールの呼びかけにヴァイスとベリーが答える。3人はそれぞれの搭乗機の待つドックへと向かった。
「クレストより通達。現場に急行とのことです。」
そこへオペレーターが声をかけてきた。だがゴードはそれを一蹴した。
「警告しろ。近づくなら標的にするとな。」
アフェードに向けて進行を続けるアルテミスとグリーア。その最中、2隻のレーダーが接近する戦艦を捉えた。
「ディスターです!距離7000!こっちに接近してきます!」
「やっぱり来たようね・・アルバ、リリィ、発進準備!」
レミーの報告を受けて、カーラが指示を出す。
“もう準備完了しています。いつでもいけますよ。”
リリィの返事を聞いて、カーラが頷いた。
「ソリッド、ソルディン、発進!」
「アルバ・メモリア、ソリッド、行くぞ!」
「リリィ・クラウディ、ソルディン、行きます!」
カーラの呼びかけを受けて、ソリッドとソルディンがアルテミスから発進した。
同じ頃、グリーアでもマルナが発進を行おうとしていた。
「マルナ・フィーセ、セイント、行くわよ!」
マルナを乗せたセインとが、グリーアから発進する。その後をソリッドとソルディンが追いついてきた。
「来たみたいね、2人とも。」
マルナの声を聞いて、アルバとリリィが頷く。
「今回はハッキリした目的がある。だから今回はこちらから攻める!」
「そうね!やってやりましょう!どんな相手が出てきても、私たちは立ち止まらない!」
マルナの言葉にリリィが答える3機が向かってくるディスターを迎撃しようとしていた。
「先手を打ってくるか・・ならばこっちも打って出るぞ!」
「先手はオレだ!ヤツらにくれてやるかよ!」
呼びかけるキールと、狂気に満ちた笑みを浮かべるヴァイス。彼らの見据えるハッチが開放される。
「キール・トライアス、ストーム、出るぞ!」
「ヴァイス・トライアス、ハリケーン、行くぜ!」
「ベリー・トライアス、タイフーン、出るよ。」
ストーム、ハリケーン、タイフーンがディスターから発進する。ヴァイスがセイントを注視して、哄笑をもらしていた。
「この前の借り、10倍にして返してやるよ!」
いきり立ったヴァイスが、セイントを狙って飛びかかる。ビームサーベルを素早く振りかざすが、セイントもビームダガーを発してその一閃を受け止める。
「今度も返り討ちにしてあげるわよ!」
マルナが叫び、セイントがもう1本のビームダガーを発する。だがその一閃を、ハリケーンがもう1本のビームサーベルで受け止めた。
「オレが切り込む!リリィ、援護してくれ!」
「分かったわ!」
アルバの呼びかけにリリィが答える。だがソリッドとソルディンの前に、ストームとタイフーンが立ち塞がる。
「お前たちの相手は我々だ!」
言い放つキールが、アルバたちに迫ろうとしていた。
次回予告
再び火蓋を切った激戦。
トライアス兄弟の猛攻に、アルバたちが完全と立ち向かう。
その交戦に、ソワレが抱くものとは?
クレストがついに、武力介入を敢行する。