GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-13「天空の援軍」

 

 

 ストームが繰り出した左手にあるビーム砲。その射撃がソリッドに直撃する。

 アルバはとっさに判断し、ビームサーベルを掲げていた。だがその光刃がストームのビーム砲によって破壊されてしまった。

(うまく逃れたか。さすがはソリッドというべきか・・)

「今だ、ヴァイス、ベリー!」

 思考を巡らせたキールが呼びかけると、ヴァイスとベリーが不敵な笑みを浮かべる。怯んで落下していくソリッドを狙って、ハリケーンが構える。

「さっきの礼をさせてもらうぜ・・派手に切り刻んでやるぜ!」

 2本のビームサーベルを振り上げ、ハリケーンがソリッドに攻撃を繰り出そうとした。

 そのハリケーンが、突如背後からの射撃を受けた。

「ぐっ!」

 その衝撃にヴァイスがうめく。その間にソリッドが体勢を整え、ハリケーンとの距離を取る。

「艦長の推測、当たらずも遠からずだったみたいね。」

 ソリッドのコックピットに向けて声がかかる。リリィの乗るソルディンが駆けつけてきたのだ。

「リリィ!」

「お待たせ。やっぱりとんでもないのが出て来たみたいね。」

 声を上げるアルバに、リリィが言いかける。彼女も新型3機を油断できない相手と判断していた。

「ちっ!せっかく楽しんでたのに邪魔しやがって・・・!」

 ヴァイスがソルディンに眼を向けて、苛立ちを膨らませる。

「オレは楽しいとこを邪魔されるのが、1番ムカつくんだよ!」

 怒りを爆発させるヴァイス。ハリケーンがリリィの乗るソルディンに向かって飛びかかる。

 その猛襲に気付いたリリィ。ハリケーンが振りかざしてくるビームサーベルをかいくぐり、ソルディンが距離を取り、ビームライフルでの遠距離攻撃に持ち込んでいく。

 ソルディンに迫ることができず、ヴァイスはさらに苛立ちを膨らませていく。

「コイツ、ちょこまかと逃げやがって!」

「落ち着け、ヴァイス!頭を冷やせ、馬鹿者!」

 そこへキールの怒号が飛び込み、ヴァイスが思いとどまる。

「ア、アニキ・・」

「闇雲に突っかかっても逆にやられるだけだ!それにあのソルディンは遠距離戦に持ち込もうとしている。お前よりもタイフーンがやりやすいだろう。」

 キールの判断を聞いて、ヴァイスは困惑するしかなかった。

「いいな、ベリー!あのソルディンはお前に任せるぞ!」

「任せといて、兄ちゃん。あんなねちっこいヤツ、私が仕留めてやるよ。」

 キールの呼びかけを受けて、ベリーが微笑んで頷く。タイフーンがソルディンを狙って、徐々に距離を詰めていく。

「ヴァイス兄ちゃんにひどいことして、のこのこと帰れると思うなよ・・・!」

 眼を見開くベリー。2つのビームライフルを構え、タイフーンがソルディンへの射撃を仕掛ける。

 リリィが反応し、ソルディンが回避を行いながら反撃する。お互い2機が射撃と回避を繰り返していく。

 一方、ソリッドもストームとハリケーンと対峙していた。

「ヴァイス、挟み撃ちを仕掛けるぞ。ソリッドに反撃の隙を与えるな。」

「分かったよ、アニキ。今のオレは興奮が治まらなくなってるからさ!」

 キールの言葉を受けて、ヴァイスが笑みを浮かべる。ストームとハリケーンが散開し、ソリッドを挟み撃ちにする。

(新型2機が、オレとソリッドを徹底的に叩き潰そうとしている・・それらはオレの行く手を阻む壁。ならばその壁を切り開き、オレの求める答えを見つけ出す!)

 戦意を膨らませたアルバが先手を取る。狙いはハリケーン。

(感情的な攻めになっているコイツを先に叩くのが最善策!)

 ソリッドがハリケーンに向けて、ビームライフルによる射撃を繰り出す。

「オレならやっつけられると思ったか!なめるな、お調子者が!」

 ヴァイスがいきり立つハリケーンが、その光線をかわし、詰め寄ろうとする。だがソリッドの的確な射撃に翻弄されてしまう。

「惑わされるな、ヴァイス。オレと息を合わせろ。」

「分かったよ、アニキ。」

 そこへキールの声がかかり、ヴァイスがいぶかしげに答える。ストームに合わせて、ハリケーンも攻撃を再開する。

 同時に攻めてくる2機に対し、アルバが思考を巡らせる。彼がとっさに別方向に移動し、2機が繰り出した一閃をかいくぐる。

 直後、ソリッドがビームライフルでハリケーンを射撃する。ハリケーンがビームサーベルを振りかざし、そのビームを弾く。

「くそっ!あくまでオレ狙いかよ!」

「ならばヴァイス、注意を引き付けろ。私がソリッドを仕留める。」

 毒づくヴァイスにキールが呼びかける。ソリッドがハリケーンに詰め寄り、たたみかける。

(ソリッドがヴァイスに注意が向いた!)

「そこだ!」

 その隙を狙って、キールがソリッドを狙う。ストームがソリッドに迫り、ビームソードを振り下ろす。

「ちっ!」

 その奇襲に舌打ちするアルバ。ソリッドがハリケーンを突き飛ばし、ストームの攻撃をかわして距離を取ろうとする。

「逃がさん!」

 眼つきを鋭くするキール。ストームがソリッドに向けて、ビームブーメランを投げつける。

「何っ!?

 虚を突かれて驚愕するアルバ。ビームシールドを手にしてビームブーメランを防いだが、ソリッドはその衝撃で体勢を崩される。

 ストームがすぐさま、ビームソードをソリッドに向けて投げつける。重みのある大剣は、ソリッドのビームシールドを貫いた。

「今だ、ヴァイス!ソリッドを切り裂け!」

 キールの呼びかけを受けて、ヴァイスがいきり立つ。ハリケーンがソリッドを倒そうと、ビームサーベルを構える。

「アルバ!」

 アルバの危機にリリィが気付く。だがベリーの駆るタイフーンが繰り出す連続射撃に行く手を阻まれる。

「今度こそ終わりにしてやるよ!」

 ヴァイスがソリッドに向けて、2本のビームサーベルを振り下ろす。アルバはまだ体勢を整えられない。

 そこへ一条の光が飛び込み、ハリケーンに直撃する。

「ぐっ!」

 突然の爆発にうめくヴァイス。その間にソリッドが体勢を整える。

「この射撃・・ソルディンでもアルテミスでもない・・・!」

 窮地を救った者の正体を確かめようと、アルバが周囲を見回す。すると上空に点在するひとつの機影を発見する。

 それは背から翼を広げ、まさに天使のようだった。

「あれは・・・!?

 リリィも、アルテミスにいるカーラもその機体に驚きを隠せなくなっていた。

“アルテミス。応答してください、アルテミス。”

 そのとき、アルテミスに向けて通信が入ってきた。

「あの機体からです。」

 レミーが言いかけると、カーラは頷いてからその通信に答える。

「私はアルテミス艦長、カーラ・サルビアです。あの機体のパイロットですか?」

“そうです。私はグリーア所属MSパイロット、マルナ・フィーセです。あなた方に協力させていただきます。”

 カーラの呼びかけに機体のパイロット、マルナが答える。突然の救援に、カーラだけでなく、ハル、レミー、キーオが安堵の笑みをこぼす。

「協力、感謝するわ・・ソリッドとソルディンの援護をお願い。」

“分かりました。任せてください。”

 カーラの呼びかけにマルナが答える。

「マルナ・フィーセ、セイント、行くわよ!」

 マルナの呼びかけとともに、機体、セイントが動き出す。セイントは手にしていたビームライフルを、ハリケーンに向けて発射する。

「そう何度も食らうかっての!」

 言い放つヴァイス。ハリケーンが上昇して、そのビームをかわす。だがそこへセイントが飛び込み、手の甲から発する光刃「ビームダガー」を振りかざしてきた。

「何っ!?

 虚を突かれたハリケーンが、その一閃で左腕を切断される。体勢を崩され、そのまま落下する。

「ヴァイス!・・馬鹿者が、油断しおって!」

 弟の失態に毒づくキール。セイントはすかさず、ソルディンと交戦しているタイフーンに向けて射撃する。

「ちっ!こっちを狙ってきたか!」

 舌打ちするベリーも射撃をし、ビームを相殺する。だが直後に別のビームが飛び込んできた。

「時間差!?

 驚愕するベリー。タイフーンがその射撃でビームライフルのひとつを破壊される。

「すごい・・あの機体、正確に相手の戦力を奪っている・・・」

 セイントの絶妙な動きに、リリィは驚きを隠せなくなっていた。

(あの機体の乱入で、我々の陣形は完全に崩された。ここはもう・・)

「艦長、明らかに状況は我々に不利です。ここは撤退を。」

 判断したキールが、ゴードに呼びかける。

“よし。今回はここまでだ。3人とも引き上げろ。”

 ゴードの指示がキールたちに伝達する。だがヴァイスが不満の声を上げる。

「ちょっと待ってくれよ!オレはまだやれるって!」

「引き上げた、ヴァイス。それともここで死にたいか?」

 キールに言いとがめられて、ヴァイスは言葉を詰まらせる。彼もやむなく、ディスターに帰艦することにした。

 敵機が撤退したことに、アルバは安堵していた。相手が退いて安心したことは、彼にとって初めてのことだった。

「オレが戦いを終えて安心するとは・・・」

 いたたまれない気持ちに駆り立てられるアルバ。そこへリリィからの通信が入ってきた。

“アルバ、聞こえてる?大丈夫?”

「リリィ・・あぁ、聞こえてる。」

“艦長からの帰艦命令よ。戻るわよ。”

 リリィの呼びかけにアルバが落ち着きなく答える。この気持ちを抱えたまま、アルバはアルテミスに帰艦していった。

 

「くそっ!」

 鬱憤の治まらないヴァイスがドックの壁を蹴りつける。突然の乱入者によって、ディスターは優劣を逆転されてしまったのだ。

「落ち着け、ヴァイス。まだ戦いは終わったわけではない。」

「けどアニキ、このまま尻尾巻いて逃げたままなんて・・!」

「次はあの機体のことも想定している。撤退を余儀なくされることはない。」

 キールになだめられて、ヴァイスはようやく落ち着きを取り戻した。

「あの機体は容易ならざる技量を発揮してきた。また油断すれば、今度こそ命を失うぞ。」

「そうだ。さすがのお前たちでも、油断することは許されないぞ。」

 キールが言いかけたとき、ドックにやってきたゴードが声をかけてきた。

「しばらく待機だ。次の戦闘に備えて、体を休めておけ。」

 ゴードの呼びかけにキールが頷く。次の戦闘まで、ディスターは束の間の休息に入った。

 

 ソリッドとソルディンを回収後、アルテミスはグリーアとともに近くの島の海岸に降りた。グリーア艦長、ジョニー・ルークがカーラとあつい握手を交わした。

「はじめまして。アルテミス艦長、カーラ・サルビアです。」

「グリーア艦長、ジョニー・ルークです。救援感謝いたします。」

 互いに自己紹介をするカーラとジョニー。

「ですが、結果的に我々に属するMSが、あなた方を助ける形になってしまいましたね。」

「えっ?ではあの機体は、グリーアの・・」

 ジョニーの言葉にカーラが驚きを見せる。グリーアから降りてくる1人の少女を、彼女は目撃する。

 水色のポニーテールが特徴のその少女が、木陰で休息しているアルバに駆け寄ってきた。

「あなたがあのMSのパイロット?」

 声をかけてきた少女に、アルバが眉をひそめる。

「私はマルナ。グリーアの乗員で、セイントのパイロットよ。」

「セイント?あのMSのことか?」

 アルバはマルナに聞き返して、視線を機体、セイントに向ける。

「へぇー。けっこういい感じね。私のストライクゾーンに入る。」

「何を言っているんだ?オレには理解できないぞ。」

 笑みを見せるマルナの言動が理解できず、アルバが憮然さを見せる。そこへリリィが現れ、マルナに眼を向けて当惑を見せる。

「あなたが、あのMSのパイロットですか?」

「あなたは?」

 リリィが訊ねると、マルナが逆に聞き返す。

「私はリリィ・クラウディ。アルテミスのMSパイロットです。」

「私はマルナ・フィーセ。よろしくね、リリィちゃん。それと、えっと・・」

 リリィと自己紹介をしていく中。マルナがアルバに眼を向ける。

「アルバ・メモリア。ソリッドのパイロットよ。」

 黙りこんでいるアルバに代わり、リリィが紹介をする。するとマルナが小さく頷く。

「アルバねぇ・・よろしくね、アルバくん♪」

「馴れ馴れしく呼ぶな。オレはそういうのは好きではない。」

 明るく振舞うマルナに嫌気が差し、アルバがこの場から離れていってしまった。

「行っちゃった・・けっこうかわいいところもあるのね。」

 彼の後ろ姿を見て、マルナが笑みをこぼす。だがリリィが深刻な面持ちを浮かべていることに気付いて、彼女も笑みを消す。

「何かわけありみたいね・・」

「はい・・アルバ、記憶喪失なんです・・名前も、艦長がつけたもので・・」

 リリィが口にした言葉に、マルナも真剣な面持ちになっていた。

 

 アルテミスを追っていたクレスト。そのガルたちの耳に、ディスター撤退の知らせが入った。

「まさか、あのディスターが攻めあぐねるとは・・」

 ギルがガルの前で驚きの声を上げる。その司令室にソワレとマリアもやってくる。

「艦長、本当なんですか?あのディスターが、グリーアを仕留めそこなったというのは・・」

「あぁ、本当だ。たった今上層部から知らせが入った。」

 マリアの問いかけにガルが答える。それを受けてマリアが深刻さを募らせる。

「信じられない・・いくらアルテミスの介入があったとはいえ、あのディスターが・・」

「いや、戦闘に介入したのはアルテミスだけではないようだ。」

 呟きかけるマリアに、ガルが言いかける。その言葉に彼女は眉をひそめる。

「どういうことですか・・?」

 ソワレが問いかけようとしたときだった。

「リード所属機体からの救難信号!ザクスマッシュです!」

 オペレーターからの報告に、ガルが眉をひそめる。

「パイロットは誰だ?」

「ルーラー所属パイロット、パトリック・コーラサワー少尉です。」

 ガルの問いかけにオペレーターが答える。

「ルーラーの生き残りがいたのか・・現場に向かえ。救出する。」

 ガルの指示がクレストに飛ぶ。しばらくしてクレストは、孤島から救難信号を送っていたコーラサワーのザクスマッシュを回収した。

「はぁぁぁーーー・・・マジで死ぬかと思ったぁぁぁーーー・・・!」

 生還を実感したコーラサワーが安堵をあらわにする。その様子を見て、ガルが肩を落とす。

「こんな緊張感のない者が、よくリードの軍人を務められたものですよ・・」

「そうだな・・だがよきムードメーカーにはなりそうだ・・」

 呆れ返るギルに、ガルがため息混じりに言いかける。

「パトリック・コーラサワー少尉、まだ戦う覚悟が君にあるか?」

「えっ?・・あ、はいっ!もちろんです!」

 ガルに訊ねられて、コーラサワーが答える。

「よし・・クレスト艦長、ガル・ビンセントだ。コーラサワー、君をクレストのクルーとして迎える。」

「ホ、ホントですか!?あ、ありがとうございます!」

 クレストのメンバーの仲間入りを果たし、コーラサワーが感謝の意を示す。

「ひょうきんな仲間の登場ね。」

「そ、そうですね・・・」

 呆れるマリアに、ソワレが愛想笑いを浮かべた。

 

 

次回予告

 

壮絶な戦いの中の束の間の休息。

少年少女の心の交錯は、そこでも行われていた。

アルバに近寄るマルナに動揺するリリィ。

彼女がその気持ちの中で見出したものとは?

 

次回・「揺れ動く気持ち」

 

 

作品集

 

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