GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-12「新たなる脅威」

 

 

 エリア13を目指して進行するアルテミス。リリィとともに休養を命ぜられたアルバだが、なかなか寝付くことができなかった。

“戦争は理屈や理由が曖昧な子供のケンカとは違うの。戦う人のどちらもが、それなりの正義を持って動いている。”

 アルバの脳裏にマリアの言葉がよぎる。彼は戦いについて考えさせられていた。

 何のために戦うのか。何のために強くなるのか。

 その問いかけはアルバに対しても問われるものであった。

(オレが戦う理由・・それはあくまで、オレの答え、失った記憶を見つけるため・・・)

 自分に言い聞かせて迷いを振り切ろうとするアルバ。だが失われた記憶とともに、彼はさらなる葛藤にさいなまれることとなった。

 そのとき、部屋のドアがノックされ、アルバが我に返る。

「アルバ、いる・・・?」

 声をかけてきたのはリリィだった。アルバは気持ちを落ち着けると、部屋のドアを開ける。

「どうした?カーラが呼んでるのか?」

「ううん、そうじゃないの・・お礼を言っておかなくちゃって思って・・」

「お礼?」

「あなたは私を探してくれた・・またあなたに助けられた・・・」

「あのときも言ったはずだ。お前を助けないと目覚めが悪いとな。」

 照れ隠しに言いかけるリリィだが、アルバは憮然とした態度を見せるばかりだった。

「そういうことにしておくわね。それで納得するんでしょ?」

 リリィが言いかけると、アルバは不機嫌そうに黙り込んでしまう。それを肯定と見て、リリィは笑みをこぼした。

「アルテミスの乗員としての任務を最優先させるつもりだけど、その中でアンタの記憶探しを手伝ってあげてもいいよ。」

「お前・・・」

「ここまで世話になってるんだもの。お返しをしないわけにいかないわ。」

 戸惑いを見せるアルバに、リリィが笑みを浮かべる。

「なぜそこまでオレを助けようとする?お前はオレを嫌っていたのではないのか?」

「そうよ。確かに嫌いよ。でも助けられてばかりじゃ私の気が治まらないし・・それに・・・」

「それに?」

「何かを失った悲しみは・・私も分かるから・・・」

 リリィが沈痛の面持ちで答えると、アルバも深刻さを覚えた。彼女の過去を知った彼にはそれが理解できた。

「ここまで来たら運命共同体よ。あなたはあなたの記憶を、私は私の平和のために戦う・・」

「そうだな・・これからもよろしくな。」

「そうそう、ひとつ言っておくことがあったわね。私のことは“リリィ”と呼びなさい。いつまでも“お前”呼ばわりされるのは気分が悪いから。」

「そうか・・なら呼ばせてもらうぞ、リリィ・・」

 リリィに勧められるままに呼びかけるアルバ。一瞬腑に落ちない心境に駆られたが、リリィはすぐに笑みをこぼしていた。

「とにかく今は、私たちはしばらく休んでいましょう。戦いはさらに厳しくなってくるから・・」

「そうだな・・オレもしばらく休ませてもらう・・」

 肩を落とすリリィに答えると、アルバはベットへと戻っていった。リリィも微笑んでから彼の部屋を後にした。

 

 エリア13における戦闘のデータに、カーラは眼を通していた。グリーアから他の連合軍の戦艦に向けて送信されたものだ。

「特務艦、ディスター。戦闘に特化した武装艦。沈めた艦や機体は数知れず・・」

 モニターに表示されているデータを読み上げるカーラ。

「ディスターを常勝へと導いているのは、3機の新型兵器の活躍によるものとされている。先日再開された戦闘に、その3機がメンテナンスを終えて戦線に乗り出してきた・・・ソニックに続いて新型がまた3機も・・・」

 楽観視できない戦況に、カーラはため息をつかずにいられなかった。

「それだけの戦力、いくらソリッドやソルディンでも切り抜けられるかどうか・・・でも、ここまで来たらやるしかない・・・」

 自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせるカーラ。

「よーし!みんなの様子でも見に行くとしますかー!」

 自分に一喝すると、カーラは艦長室を出ようとした。

“艦長、エリア13に入りました。”

 そこへレミーからの通信が入る。カーラはさらに緊張感を募らせて、改めて艦長室を出た。

 

 艦内に行き渡ったレミーからの連絡を聞いて、アルバとリリィも司令室に来ていた。2人も前方に広がる大海原を見据えていた。

「この先で、グリーアが戦っているのね・・」

 リリィが緊迫を押し殺して呟きかける。

「そう。しかも今度の相手は生半可な戦力ではないわ。」

 そこへカーラが声をかけてきた。しかしか彼女からも緊張の色が見え隠れしていた。

「ディスター。リードでも有数の、高い戦力を備えた戦艦よ。その中には、3機の新型が含まれているそうよ。」

「新型!?・・あのソニックというのとは別に、3機も・・・!?

 カーラの説明を聞いて、レミーが不安をあらわにする。

「こちらにソリッドとソルディンがいるけど、敵うかどうか分からない・・下手をすればグリーア共々、私たちも命を落とすことになりかねない・・」

「それでも戦わなければならない・・違うのか?」

 そこへアルバが声をかけてきた。彼に問われて、カーラは真剣な面持ちを浮かべる。

「そうね・・私たちには、戦わなくちゃならない理由がある・・たとえ相手が、どんなに手強くてもね・・」

「はい。私たちには、平和のための任務を背負っているんですから・・」

 カーラに続いてリリィが言いかける。彼女たちの言葉を受けて、レミーや他のクルーたちも自信を取り戻していく。

「ここまで来て後戻りするくらいなら、最初から尻尾巻いて逃げたほうがマシよね・・」

 意気込みを見せたカーラが、クルーたちに呼びかける。

「このまま前進します。グリーアと合流し、ディスターを迎え撃ちます。」

「はいっ!」

 クルーたちが返答をする。アルバとリリィが戦闘に備えて、ソリッドとソルディンのいるドックに向かった。

 

 リード所属特務艦「ディスター」。「無敗の戦艦」の異名を持つディスターが、東南アジアエリア13にて、グリーアの討伐を進めつつあった。

 そのディスターの指揮を行っているのが、艦長、ゴード・バルロイドである。

「連中、思った以上に粘ってくれるな。」

 そこへ軍人としては不釣合いの、逆立った金髪の青年が声をかけてきた。キール・トライアス。MSパイロットである。

「そうだな・・だが別に不都合なことはない。時期に落ちるだろう。」

「不都合おおありだぜ。無意味にダラダラとなってくると逆に気が滅入るぜ。」

 ゴードに返事をしてきたのはゴードではなかった。青い髪の青年、ヴァイス・トライアスである。

「文句を言うな、ヴァイス。オレも不満がないわけじゃない。」

「けどよアニキ、これじゃ退屈で死んじゃいそうだぜ・・」

 言いかけるキールにヴァイスが不満の声を上げる。

「こらこら、ヴァイス兄ちゃん。これ以上文句言っちゃうと、キール兄ちゃんがブチ切れちゃうよ。」

 そこへ赤い長髪の少女が口を挟んできた。ベリー・トライアス。キールとヴァイスと同じMSパイロットである。

 キール、ヴァイス、ベリーは血の通った3兄弟である。3人ともパイロットとしての技量が高く、ゴードにそれを見込まれてディスターに乗艦したのである。

「分かったよ、アニキ、ベリー。けどいい加減に張り合いのある相手とやりたいぜ。」

 ヴァイスが肩を落として、さらに不満を口にする。

「そろそろ頃合いか・・グリーアを落とすぞ。完膚なきまでに叩き潰して構わんぞ。」

 そこへゴードがため息混じりに言いかける。その言葉を耳にして、ヴァイスだけでなく、キールとベリーも不敵な笑みを浮かべた。

「艦長の許可が下りたぞ・・徹底的にやるぞ!」

 呼びかけるキールとともに、ヴァイスとベリーが戦意を募らせた。

 

 グリーアとの交戦に終止符を打つべく、海中に潜んでいたディスターが浮上する。その動きを捉えたグリーアも迎撃体勢に移る。

 ディスターのドックでは、MSの出撃準備のために慌しくなっていた。

「やっと大暴れできると思うと、興奮が治まらなくなってきたぜ。」

「私も久々にいい運動ができるよ。」

 ヴァイスとベリーが歓喜の笑みを浮かべる。

「その興奮は発進するまで抑えておけ。出るぞ、お前ら。」

 キールの呼びかけを受けて、ヴァイスとベリーが頷く。3人はそれぞれの搭乗機に乗り込み、チェックを行う。

“キール、ヴァイス、ベリー、グリーアを落とせ。邪魔をするものがあるなら、まとめて始末しろ。油断もするな。容赦もするな。徹底的にやれ。”

 ゴードからの通信が入る。その命令を耳にして、キール、ヴァイス、ベリーが眼を見開いた。

「キール・トライアス、ストーム、出るぞ!」

「ヴァイス・トライアス、ハリケーン、行くぜ!」

「ベリー・トライアス、タイフーン、出るよ。」

 キール、ヴァイス、ベリーが呼びかける。それぞれの搭乗機、ストーム、ハリケーン、タイフーンがディスターから発進していった。

「アニキ、オレからやらせてもらうぜ。」

「好きにしろ。だが油断するなよ。」

 いきり立つヴァイスに向けて、キールが呼びかける。

「ゴードにも言われたけど・・オレの辞書に“油断”って文字はねぇんだよ!」

 ヴァイスが眼を見開き、ハリケーンが先行する。グリーアから出撃したソルディンたちが、ハリケーンの前に立ち塞がる。

「ザコがいくら集まったってな、ザコに変わりねぇんだよ!」

 叫ぶヴァイスが眼を見開く。ハリケーンが2本のビームサーベルを手にして、身を翻す。

 速く切れ味のあるハリケーンの光刃は、ソルディンたちを軽々と断裂していく。落下していく機体を見下ろして、ヴァイスが哄笑を上げる。

「ハハハハハ!こんなんでオレらを止められるわけねぇだろうが!」

「ちょっとヴァイス兄ちゃん、私の分も残しといてよね。」

 そこへタイフーンに乗るベリーが声をかけてきた。タイフーンの両手には、それぞれ小型のビームライフルが握られていた。

「私もドンパチやらせてもらうよ!兄ちゃんたち、巻き添え食わないでよね!」

「寝言ほざくな、バーカ!」

 眼を見開いたベリーと、ひとまず後退していくハリケーン。タイフーンがビームライフルを同時連射し、ソルディンを撃ち落としていく。

「ハッ!いいね、いいねー!花火がきれいだよー!」

 ベリーも落とされていく機体を見下ろして、哄笑を上げる。ヴァイスも敵機の撃墜に、歓喜を隠せなくなっていた。

 

「グリーア、ディスター、戦闘を再開しました!」

 レーダーを注視していたレミーが呼びかける。アルテミスもグリーアとディスターの交戦を察知していた。

「派手にやり出したみたいね、向こうは。」

 リリィも眼つきを鋭くして、戦況を見据える。

「私が先に行きます。早くグリーアの援護に向かわないと。」

「そうね。でもアルバ、あなたが先に発進よ。その次にリリィ。」

 リリィが言いかけると、カーラが指示を出す。

「分かった。」

 アルバは頷くと、すぐさまドックへと向かっていく。

「艦長・・・!」

「相手は強大な力を持っているのよ。下手な手を打てば、私たちがやられることになる・・・」

 反論しようとしたリリィだが、カーラになだめられて押し黙る。

「あなたもすぐに出ることになるわ。リリィ、準備して。」

「・・分かりました・・」

 カーラの指示を受けて、リリィもドックへと駆け出していった。

(今回も、あなたたちを信じているからね、アルバ、リリィ・・)

 2人への信頼を胸に秘めて、カーラは改めて戦況を見据えた。

「アルバ・メモリア、ソリッド、行くぞ!」

 アルバの掛け声とともに、ソリッドがアルテミスから出撃する。一気に加速したソリッドが、グリーアを狙うザクスラッシュに向けて射撃を開始する。

「あの機体・・ソリッド!」

「ルーラー撃墜の立役者のソリッドが来たのか!?

 ザクのパイロットたちが声を荒げる。ビームサーベルを手にしたソリッドに、ザクスラッシュもビームソードを手にして応戦する。

 ビームサーベルと比べて重みのあり攻撃力も高いビームソードで、ザクスラッシュがソリッドに攻撃を仕掛ける。だがその重い攻撃を、ソリッドはビームサーベルで受け止めて見せた。

「何だとっ!?

 脅威的なパワーを見せるソリッドに、パイロットが驚愕の声を上げる。反撃に転じたソリッドが、ザクスラッシュを切り裂き、撃墜させていく。

「おぉおぉ、何かよく分かんねぇが、強そうなのが出てきたな。」

 そのソリッドを眼にして、ヴァイスが歓喜の笑みを浮かべる。

「お前ら、すっこんでろ!そいつはオレの獲物だ!」

 ザクスラッシュに高らかに呼びかけると、ヴァイスの駆るハリケーンが飛びかかる。その接近に気付いたアルバも、眼つきを鋭くして身構える。

 ハリケーンが2本のビームサーベルを、ソリッドがビームサーベルを掲げて受け止める。3本の光刃の衝突で、周囲に火花が巻き起こる。

「へっ!なかなかやるな!けどな!」

 眼を見開くヴァイス。ハリケーンがソリッドに向けて一蹴を繰り出す。ハリケーンのひざからつま先にかけてビームブレイドが装備されており、その蹴りは切断の効果も備わっている。

「コイツを食らって無事でいられるか!?

「くっ!」

 勝ち誇るヴァイス。ハリケーンの攻撃に対し、ソリッドがとっさに左手でビームライフルをつかみ、発射。ハリケーンの胴体に撃ち込んだ。

「何っ!?

 驚愕の声を上げるヴァイス。至近距離で爆発が起こり、ハリケーンだけでなくソリッドも吹き飛ばされる。

「くそっ!やってくれるぜ、アイツ!」

「油断するな、ヴァイス。相手はソリッドだぞ。」

 毒づくヴァイスに、キールが声をかけてきた。ソリッドの前に、ストーム、ハリケーン、タイフーンの新型3機が立ちはだかった。

「こっちは真剣勝負をしているわけではない。叩くべき相手は、徹底的に叩く。」

「せっかく面白い勝負になるとこだったってのに・・しゃあねぇか。」

「それなりの相手だってことに変わりないんだからさ。」

 キールの呼びかけにヴァイスとベリーが答える。ハリケーンとタイフーンが散開し、ソリッドを狙う。

「オレがけしかける。お前たちはその隙を突け。」

「分かった。」

「了解。」

 キールが2人に呼びかけると、ストームがソリッドに向かって飛びかかる。手にしたビームソードを、ソリッド目がけて振り下ろす。

 アルバがとっさに反応し、ソリッドがビームサーベルで受け止める。だがこの攻撃を押さえ込むことができず、ソリッドが押される。

「ストームの攻撃にさほど怯まないか・・」

 冷静にソリッドの力量を分析するキール。ストームが立て続けに繰り出す攻撃を、ソリッドが防いでいく。

 その一閃を横に払い、ソリッドがストームの懐に飛び込んできた。ビームサーベルによる突きをストームに繰り出そうとしていた。

「甘いぞ。」

 そこへストームが左手を突き出してきた。その手のひらにはビーム砲の発射口があった。

 虚を突かれたアルバ。そのビーム砲の射撃により、ソリッドが爆発に巻き込まれた。

 

 

次回予告

 

アルバたちに迫る猛威。

3機の新型機体に、アルテミスの悪戦苦闘を強いられる。

迫る死に抗う少年少女。

絶体絶命。

そのとき、1機の戦士が、ディスターの行く手を阻んだ。

 

次回・「天空の援軍」

 

 

作品集

 

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