GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-11「争いの始まり」

 

 

 マリアから突然持ちかけられたソリッドに関する情報。冷静さを保っていたアルバが、ついに血相を変えた。

「ソリッドのこと、何か知っているのか・・・!?

「愚問ね。このソリッドは、私たちオメガが開発した新型MSよ。」

 問いかけるアルバに、マリアが半ば呆れた態度で答える。

「あなたが先ほどまで交戦していたソニックも、その新型の1機よ。量産型の機体をはるかに上回る性能と戦闘力を発揮する・・それらを用いれば、旧人類との差を雲泥のものにできるはずだった・・」

 語りかけるうちに、マリアは深刻な面持ちになっていく。

「地球連合のスパイが、新型の奪取のために侵入してきた。奪取できないなら破壊するという意味も込めて。」

「その情報が漏れていたというのか・・・」

「リードの迅速な対応と迎撃で事なきを得た。ただしソリッドだけは奪取され、追跡部隊によって撃墜された。軍も正直、撃墜できるとは思っていなかった。多分、侵入者には手に余るもので、うまく動かせなかったのでしょうね・・」

 話す中で、マリアが思わず苦笑をもらす。

「それでもこちらの量産型のMSを寄せ付けない威力をもたらしたことも否めない。同じ新型でなければ、止めることはできなかった・・」

「その追撃でソリッドは落とされ、破壊されたはずだった・・・」

「そう・・でもソリッドは再び現れた。私たちの敵として。あなたが乗りこなして・・」

 互いに言葉を交わすマリアとアルバ。

「ソリッドは破壊されておらず、あなたが乗り込んで今も動かしている。そう考えるのが普通なのよ・・」

「覚えがない・・何も思い出せないんだ・・・」

「そんなことが信じられるわけが・・」

「しかし事実なんだ。気がついたときには、オレはアレを動かしていた・・なぜオレの元にあったのか、なぜオレは動かせるのか、全く分からないんだ・・・」

 疑いの眼を向けるマリアに、アルバはひたすら訴えた。その心境を察して、マリアはひとつ吐息をついた。

「そこまで言うからには、本当に何も知らないみたいね・・何か知っていたら、それらしい動向を見せているはずだから・・」

「お前・・・」

「勘違いしないで。あなたの全てを受け入れたわけではないわ。ただ、あなたが記憶喪失ということに嘘偽りがないことが確かめられただけのことよ。」

 安堵を見せるアルバに、マリアが補足を付け加える。

「とにかくオレは仲間を探しに行く。お互い時間を取ったな。」

「そうね。でも私は動きたくても動けない状態だから・・」

 アルバが言いかけると、マリアが思わず苦笑いを浮かべる。アルバはきびすを返し、ソリッドに戻って改めてレーダーを確かめようとした。

 だがそこでアルバは、ソリッドのエネルギー残量が少ないことに気付く。

(くそっ!あの機体と戦ったとき、エネルギーを使いすぎたのか・・・!)

 身動きが取れなくなったことに毒づくアルバ。

「どうやらエネルギー不足のようね。」

 そこへマリアが声をかけてきた。それを聞いたアルバが舌打ちをする。

「エネルギーが回復するまで、ここに滞在するしかないようね。安心しなさい。今はあなたを殺す気にならないから・・」

 苦笑を浮かべるマリアと、肩を落として吐息をつくアルバ。2人はやむなくこの場で滞在することになった。

 

 ソリッドの全快も仲間の救援も訪れることがないまま、日は落ちて夜となった。結果アルバとマリアはこの一夜を過ごすこととなった。

「また女と2人で夜を過ごすことになるとはな・・」

「あら?あなたは女性と2人きりの夜をすごしたことがあるの?」

 愚痴をこぼすアルバに、マリアがからかうように問いかける。

「不本意だがな。オレもアイツも快いものとは思っていなかったが・・」

「そうなの?私は気分のいいものとは思っていないけど、悪いものとも思っていないから。」

「ん?どういうことだ?」

 疑問を投げかけるアルバに、マリアがひとつ吐息をついてから語り出す。

「私はちょっとした有名な資産家の娘だったの。でも戦争が無粋な人間のやることだと家族に言われて、勢いで家出をしてきちゃったのよ・・」

「戦争は無粋ではないと、お前は思っているのか?」

「無粋とかそうじゃないとか、そういうもので判断するものじゃないと思うのだけれど、戦争は。」

 アルバの言葉を聞いて、マリアが思わず笑みをこぼす。

「戦争は理屈や理由が曖昧な子供のケンカとは違うの。戦う人のどちらもが、それなりの正義を持って動いている。本当はどちらが正義でどちらが悪というものでもない。自分たちが正義と思い、それに敵対するものを悪としているだけ。」

「オレにもお前にも、正義というものがあるのか?」

「まぁそれなりにね。私もこの戦争を終わらせたくてね。あえて軍人の道を歩むことにしたのよ。」

「平和か・・平和とはどういうものなのか、オレには実感が湧かない・・オレは今まで戦いに身を置いてきたからな・・」

「あまり戦いに身を置くと、自分をしっかり保たないと戦う理由が単純化してくる。戦いたいから、強くなりたいから、殺したいから・・」

「・・オレはオレの失った記憶を求めている。そのための戦いは、短銃であるといえるのか・・・?」

「うーん、そうね・・私には分からないわね。記憶喪失を経験したわけじゃないから・・」

 アルバの疑問にマリアが疑問符を浮かべる。だが悩んでいるというにはあまりにも落ち着いた様子だった。

「記憶を失っているあなたが、多くを背負うのにはムリがあるわ。だからまだあなたは、自分の目指していることに専念していればいいと思うわ。」

「オレの目指していることに専念・・・」

「ただ、絶対に自分の戦う理由を見誤らないで。見誤れば、記憶だけじゃない。あなた自身を見失うことになる・・・」

 マリアからの忠告を受けて、アルバが深刻さを浮かべる。彼は自分の戦う理由について、改めて考えさせられていた。

「私はバカね。敵のパイロットであるあなたにいろいろとアドバイスをするなんて・・」

「それはオレも思う。なぜ敵に位置しているはずのお前と、ここまで話をしてしまったのか・・」

 すると唐突に、マリアとアルバが苦笑いを浮かべる。

「お話はこれまでにしましょう。これからに差支えがないように。」

「そうだな・・オレもレーダーを気にしながら、休息をとることにする・・」

 マリアの言葉を受けて、アルバがソリッドのコックピットに戻っていく。

「そういえば名前をまだ聞いていなかったわね。私はマリア。あなたは?」

「アルバ・・それがオレに与えられた名前だ・・・」

 互いに名乗りあうマリアとアルバ。アルバは改めて、ソリッドのコックピットに戻っていった。

(本当に面白い人ね・・敵として出会わなければ、分かり合えたはずなのに・・・)

 純粋な態度の彼を見て、マリアは胸中で呟いた。

 

 それから一夜が明けた。ソリッドのエネルギーは完全に回復していた。

 1度レーダーに眼を通してから、アルバはマリアの前にやってきた。

「オレは本格的に仲間の捜索をする。お前とはここでお別れだ。」

「そうね。あなたとは、なぜか有意義に時間を過ごすことができたわ・・」

 淡々と言いかけるアルバに、マリアが笑みをこぼす。

「戦争はお前の言うとおり、単純にはできていないのかもしれない・・それでもオレは、オレの戦いをさせてもらう・・それ以外に、オレがオレでいられる道はない・・」

「あなた・・・あなたには敵わないわね・・」

 アルバの決意を聞いて、マリアが再び苦笑いを浮かべる。

「それだけ決心が強ければ、いつかきっと、あなたが求める答えを見つけられるはずよ・・」

「そうか・・ありがとう・・・」

 マリアの言葉を受けて、アルバが感謝の言葉をかける。その言葉を耳にして、彼女が当惑を見せる。

「意外ね。あなたがお礼を言ってくるとは思わなかった・・・」

「自分の気持ちを素直に言っただけだ・・仲間がやったのと同じようにしただけだがな・・」

 苦笑するマリアに、アルバが憮然とした態度で答える。

「あなたは立派よ。自分の気持ちを素直に伝えるのは、単純そうに見えてものすごく難しいことかもしれないから・・」

「そうか・・そんなものなのかもな・・・」

 マリアの言葉を受けて、アルバも苦笑を浮かべた。

「ではそろそろ行くぞ。長居しすぎたな・・」

「それは私も同感。でも楽しかったのは確かよ・・」

 アルバが言いかけると、マリアが笑みを見せた。それは苦笑いではなく、心からの笑顔だった。

 ソリッドに乗り込むと、アルバは飛び立ち、リリィの捜索を再開した。

 

 同じ頃、ソワレもマリアの捜索のために行動を開始しようとしていた。リリィの両手を拘束していたロープを、彼はナイフで断ち切った。

「こんなことをしてすまなかった。これ以上はここではもう何もしない・・」

「これからもずっと何もしてこなければいいんだけど・・」

 言いかけてくるソワレに、リリィがからかいの言葉をかける。

「次に会うときは、確実に敵同士だ。油断していると、命を落とすことになるよ。」

「わざわざ忠告してくれるの?でも心配無用。私は油断はしないから。」

 ソワレの言葉に対して、リリィが苦笑いを見せる。

「あなたは本当に優しいのね・・敵であってほしかったとも思ってる・・・」

「僕もだよ・・えっと・・・」

「私はリリィ・クラウディ。あなたは?」

「ソワレ。ソワレ・ホークス・・・」

 互いに自己紹介をするリリィとソワレ。ソワレは笑みをこぼすと、リリィに背を向ける。

「それじゃ僕は行くよ。仲間が待ってる・・・」

「私はしばらくここで、仲間の救援を待つことにするわ。」

 リリィと言葉を交わすと、ソワレはソニックに乗り込んだ。飛翔していくソニックを、彼女は優しく見送った。

 マリアを求めて、再び飛行していくソワレのソニック。そのレーダーが反応し、彼は眉をひそめる。

(ザクローズの反応じゃない。それじゃこの反応は・・)

 その反応に疑問を感じたソワレが、前方に視線を戻した。するとひとつの機影が横をすり抜けていった。

「ソリッド!?

 眼を見開いたソワレ。だがソニックが停止して振り返ったときには、既にソリッドはソニックの攻撃範囲を抜け出ていた。

 マリアの捜索を優先したソワレは、ソリッドを追わずに進行を続けた。

 しばらく上空を旋回したところで、レーダーに反応が出た。

(この反応・・間違いない、ザクローズだ!)

 思い立ったソワレが、その地点へソニックを向かわせる。マリアがザクローズから信号を送っていたのだ。

 そしてザクローズのいるその場所に、ソニックが降り立った。

「マリアさん、大丈夫ですか!?

「ソワレくん、私もハローズも大丈夫!ただメインカメラがやられて・・!」

 互いに声を掛け合うソワレとマリア。彼女の無事を確かめられて、ソワレは安堵を覚える。

「では僕が誘導します。しっかり押さえますので、離れないようにしてください。」

「了解。お願いね。」

 ソワレの呼びかけにマリアが答える。ソニックの誘導ルートをハローズが汲み取り、マリアに提示していた。

「そういえばここに来る直前に、ソリッドとすれ違いましたよ。」

「ソリッドと?」

 ソワレの言葉にマリアが眉をひそめる。さほど驚きを見せなかったことに不安を感じたマリアだが、ソワレは気付いていないようだった。

「マリアさんの捜索を優先して止めようとしなかったのですが・・まずかったでしょうか・・・?」

「そんなことないわ・・軍人たるもの、即断即決、臨機応変に対応するもの。そのときは個人の判断を信じるしかない・・・私はあなたの判断が間違っていないと信じる・・」

「マリアさん・・・」

「間違いをしたのは私。私がこんなことにならければ、みんなに迷惑をかけなかったのに・・」

「そんな、マリアさん・・マリアさんは連合と戦って、それでこんな事態になっただけです。それを艦長たちがとがめることはないですよ・・」

 謝意を示すマリアに、ソワレが弁解を入れる。それを聞いて、マリアは笑みをこぼした。

「ありがとう、ソワレくん・・でも、艦長たちにはちゃんと謝っておかないと・・」

「そうですね・・そのときは僕も頭を下げますよ・・・」

 マリアの感謝の言葉を受けて、ソワレも笑みをこぼした。2人はその後、無事にクレストへの帰還を果たしたのだった。

 

 ソニックとすれ違ったことを、ソリッドに乗っていたアルバも気付いていた。警戒していたが、ソニックが攻撃に出なかったため、アルバはリリィの捜索を続けた。

 そしてソリッドのレーダーが、リリィの乗るソルディンの反応を捉えた。

「いた。リリィだ。」

 アルバは前方に眼を凝らし、ソリッドが降下を始める。姿を見せたリリィの前に、ソリッドが着地した。

「やっと見つけてくれたんだね・・アルバ・・・」

 声をかけるリリィの前で、アルバがソリッドから降りてくる。

「探したぞ。また手間をかけさせる・・」

「悪かったわ。それにこれは不可抗力。私の勝手じゃないわ。」

 肩を落とすアルバに、リリィが悪ぶった態度を見せる。

「そういうことにしておく。とにかく戻るぞ。オレはここにおしゃべりをしに来たわけではないのでな。」

 アルバが言いかけると、リリィは小さく頷く。2人はそれぞれの搭乗機に乗り込み、発進する。

「ソリッドの進行ルートをソルディンに送って。そうすればソルディンも進行できるから。」

 リリィの言葉を受けて、アルバがソリッドの進行ルートをソルディンに送信する。彼らも無事にアルテミスへの帰還を果たしたのだった。

 

 アルテミスに帰還したアルバとリリィ。2人を真っ先に迎えたのはハルとカーラだった。

「あなたたち、ぶじだったのね・・なかなか連絡が取れないから、心配していたのよ。」

「すみません、艦長・・私のために・・・」

 微笑みかけるカーラに、リリィが頭を下げる。だがカーラはリリィに優しく手を添えるのみだった。

「あなたが無事だっただけでもよしとするわ。ありがとうね、アルバ。リリィを見つけてくれて・・」

「コイツを助けておかないと目覚めが悪くなるからな・・」

 カーラの言葉にアルバは憮然さを見せて答える。その態度にリリィが不満を見せるが、カーラとハルは安堵の笑みをこぼしていた。

「本当に申し訳ありませんでした・・・それで、その間に何かありましたでしょうか?」

 リリィが問いかけると、カーラとハルが深刻な面持ちを浮かべる。

「何かあったんですね・・・」

「グリーアが、再びリードとの交戦を始めました。まだ体勢が整っていないところへ攻撃を仕掛けられて・・」

 真剣な面持ちになるリリィに、ハルが状況を説明する。

「本当に申し訳ありません・・こんな状況なのに、私のために・・!」

「ううん、気にしなくていいから。それじゃ、メンバーが全員揃ったところで、出発と行きますか。」

 再び謝るリリィに弁解を入れ、カーラが指示を出す。

「分かりました。任せてください、艦長。」

 それを受けて、リリィがカーラに敬礼を送った。

 

 同じ頃、マリアもガルたちに対して謝罪の言葉をかけていた。

「申し訳ありません、艦長。私の力の至らなさで、こんな事態を招いてしまって・・」

「いや、気にしなくていい。君が無事で何よりだ。」

 頭を下げるマリアに、ガルは優しく迎え入れた。

「ソワレ、君にもいろいろと手間をかけさせたな・・」

「いえ、これが僕も任務であり、僕自身にとってもやり遂げなくてはならないことでしたから・・」

 ガルの賛美の言葉にソワレが答える。

「ソワレ、マリア、お前たちは今のうちに体を休めておけ。これよりクレストは東南アジアエリア13に向かう。」

「エリア13・・グリーアと交戦している部隊と合流するのですね。」

「そうだ。またお前たちに活躍してもらうことになる・・ソワレ、マリア、頼むぞ。」

 ガルの呼びかけを受けて、ソワレとマリアが敬礼を送る。クレストもまた、エリア13に向けて進路を向けていた。

 少年少女の戦いは今、新たな局面を迎えようとしていた。

 

 

次回予告

 

エリア13に入り、グリーアの救援に介入するアルテミス。

彼らを待ち受けていたのは、リードの新たなる脅威だった。

ソリッドを襲う3機の新型機体、ストーム、ハリケーン、タイフーン。

この窮地を、アルバは切り抜けることができるのか?

 

次回・「新たなる脅威」

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system