GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-10「孤島の決闘」
立ちはだかったザクスマッシュを、激情のまま撃退したアルバのソリッド。だが彼はリリィの乗るソルディンを見失ってしまっていた。
「くそっ!見失ってしまった・・レーダーの範囲からも抜け出てしまった・・・!」
毒づいたアルバがアルテミスに眼を向ける。アルテミスもザク部隊を退けることに成功していた。
「やはり侮れなかったようだ、アルテミスは。ソリッドの参入は、我々にとっても脅威となった・・」
戦況を見据えたガルが口を開いた。
「今日はここまでだ!全機撤退せよ!」
ガルの呼びかけを受けて、ザク部隊が撤退を始める。
「ソワレ、お前はマリアの捜索を続けるんだ。ソニックにはクラスターシステムが搭載されているからな。激しい活動でなければ、エネルギー切れに陥ることはない。」
“分かりました。マリア少尉は自分にお任せください。”
ガルの呼びかけにソワレが答える。ソニックがザクローズを探しに、海原の上を駆け抜けていった。
“アルバ、リリィを追って。もしかしたらあの機体と鉢合わせになるかもしれないわ。”
「仕方がない。行ってくる。」
カーラの呼びかけを受けて、アルバもリリィを追っていった。
メインカメラを破壊され、的確な動きが取れなくなってしまったソルディン。リリィはやむなく、近くの島に着地することにした。
「ふぅ・・とんだザクね。あれを並の性能だなんていえないわ。」
何とか落ち着きを取り戻したリリィがため息をつく。レーダーに眼を通し、自分の居場所と敵機の反応を確認する。
「少し離れすぎたわね・・すぐに戻らないと・・」
リリィがアルテミスの帰還を試みる。だがそのとき、レーダーが機体の反応を示してきた。
「この反応・・クレストにいた新型・・・!」
和らいでいた危機感を募らせるリリィ。ソルディンが近くの山地が身を潜めるが、完全に隠れ切れたとは言えなかった。
間もなくしてソニックがこの島に下りてきた。すぐにこの場を離れてほしい。リリィはそう祈るばかりだった。
だがソニックは離れず、この近辺の捜索を始めた。
(何かを探している・・もしかして、私を追って・・・!?)
徐々に緊迫を膨らませていくリリィ。そのとき、ソニックがソルディンを発見し、ビームライフルを向ける。
「そこのソルディン!聞こえていたらすぐにコックピットから出るんだ!でないとこの場で撃つ!」
ソワレがソルディンに向けて呼びかける。その声を耳にして、リリィが驚きを覚える。
(若い!?あの新型のパイロットは、若い男・・!)
その驚愕を押し殺して、リリィは思考を巡らせる。
(迎撃するにしても、こっちが圧倒的に不利なのは明白。ここはあえて従って、隙を突くしかないわね・・)
思い立ったリリィは、ソルディンから出ることを決めた。ただし護身のために、彼女は銃を手にしていた。
ソルディンから降りたリリィが、ソニックに向けて声をかける。
「警告どおり出たわ!私をどうするつもり!?」
次のソニックの出方を伺い、リリィが身構える。するとソニックのコックピットのハッチが開いた。
「お前がその機体のパイロットだね?すまないけど、しばらく自分に従ってもらうよ。」
「そうね。お言葉に甘えることにするわ。」
呼びかけたところで、ソワレは相手の声色に対して違和感を覚えた。
「人質にされた人間が素顔を隠せるわけがないわね。」
リリィはそういうとメットを外し、素顔をさらした。それを見たソワレが驚きを覚える。
「女性・・・!?」
「残念ね、男じゃなくて。あなたも顔を見せてよ。人質にしている相手の顔ぐらいは、拝んでおかないとね・・」
困惑を見せるソワレに、リリィが不敵な笑みを見せる。だが彼女のこの態度は、いつ殺されるか分からない不安を隠すための虚勢でしかなかった。
だがソワレはそれを拒絶せず、銃をリリィに向けたままメットを外した。
「やっぱり若い男の人だったわね。声が若々しかったから・・」
「まさかここまで見抜かれるなんて・・」
リリィに言いかけられてソワレが一瞬肩を落とす。だが彼はすぐに鋭い眼差しを彼女に向ける。
「携帯している武器は全て僕が預かる。それと両手も縛らせてもらう。」
「持っているのは銃だけよ。」
ソワレに答えると、リリィは手にしていた銃を地面に置く。ソワレはリリィに歩み寄ると、彼女の両手をロープで後ろ手に縛る。
「僕は今仲間を探している。悪いけど一緒に来てもらうよ。」
ソワレは言いかけると、リリィを連れて歩く。そして彼だけソニックのコックピットに行き、そのレーダーで周囲の反応を伺う。
(ソニックでも反応をつかめないのだろうか・・ここは直接探し出すしかない・・)
毒づいたソワレがコックピットから出て、リリィに呼びかける。
「機体はここに置いておく。奪取されないようロックをかけてね。」
優しく語りかけるソワレに、リリィは唖然となるばかりだった。軍人とはとても思えない態度を見せていたからだった。
ソニックのレーダーでさらにマリアの乗るザクローズの行方を追うソワレ。だがその反応をつかむことができず、連絡を取ることもできないでいた。
「マリアさん、どこに行ってしまったんだろう・・・」
彼女を見つけられない焦りから、ソワレが表情を曇らせる。するとリリィがソワレに向けて声をかけてきた。
「そろそろ休んだら?慌てても仕方がないわよ。」
彼女の言葉を受け入れて、ソワレはひとまずソニックのコックピットから出る。
「あなた、本当に生真面目ね。軍人とは思えないわ・・・」
半ば呆れた態度で言いかけるリリィ。だが彼女の表情が徐々に険しくなっていく。
「・・リードとは・・・オメガとは・・・!」
「君・・・」
彼女の憤りを目の当たりにして、ソワレが困惑する。
「まだ若いあなたは知らないかもしれないけど・・あなたたちオメガは、私の家族や故郷を滅ぼしたのよ・・・!」
「オメガが、君の故郷を滅ぼした・・・!?」
リリィの怒りを込めた言葉に、ソワレは耳を疑った。オメガが彼女の言うような残虐非道な行為をするとは思いも寄らなかったからだ。
「私の大切なものを奪ったオメガを、私は許せない・・・同じオメガであるあなたを、私は受け入れることができない・・・」
「僕もこんなことは信じられない・・第一、こんな非道なこと、僕も許せないよ・・」
「オメガのくせに偽善を図らないで!あなたも、私の仇と同じ血が流れているのに!」
歯がゆさを見せるソワレだが、リリィの怒りは膨らむばかりだった。だが両手を縛られているため、彼女はその怒りを暴力に変えることができなかった。
「オメガがそのようなひどいことを君たちにしたのなら、直接関与していなくても、僕にも罪がある・・だが僕もこんなことがあっていいとは思わない!オメガとか関係なく!それだけは分かってほしい・・・」
自分の気持ちも織り交ぜて、ソワレが必死に訴える。分かってもらおうとは正直思っていなかった。感情の赴くままに彼は叫んでいた。
「そんなきれいごとをいっても、私の失ったものは戻らない・・オメガが奪ったという事実も変わらない・・・」
怒りの代わりに悲しみを募らせるリリィ。その悲しみをこらえることができなくなり、彼女は思わずその場にひざを付く。
「確かに君の言うとおりだよ・・命は誰にとってもたったひとつ。失った命は返らない・・その悲しみを、これ以上増やしてはならない・・」
沈痛の面持ちを浮かべるソワレの言葉に、リリィが戸惑いを見せる。
「僕もこの戦争を快く思っていない。こうしている間にも、君のような悲しみを背負う人々が増えている。こんな悲劇を止めるために、僕はリードに入ったんだ・・」
「そんなの矛盾してるじゃない!戦争を止めるために、戦争をしている軍人になるなんて!」
「それは君も同じだろう。戦争を止めたいと願いながら、戦争に身を置いている・・」
ソワレに言いかけられて、リリィは困惑して言葉を返せなくなる。
「やはり何もかもが詭弁なのかもしれない・・自分の心のままに、自分だけの正義、善悪を作り上げてしまう・・」
「それは否定できないわね・・人間って不完全な生き物だから・・完璧だったら、そもそも戦争なんて起きるはずもないし・・・」
ソワレにようやく返事をするリリィが、自分の言ったことが馬鹿馬鹿しく思えて苦笑していた。
「僕と君の共通していること。それはこの戦争を、早く終わらせようとしていること・・」
「でも、私とあなたは対立している。敵同士として、これから戦うことになるのは間違いなさそうね・・」
「できることなら、君のような人と戦うことも快く思わない・・話し合いなどで解決できれば、どんなにいいことか・・」
互いに言葉を掛け合うも、それが戦争の中では虚しいものでしかない。ソワレもリリィもいたたまれない気持ちに駆られていた。
「とにかく、私が今やらなくちゃいけないことは、家族や故郷の仇であるオメガを倒すこと矛盾とか偽善とか言われても、今の私にはそれしか方法が分からない・・」
「僕も平和のために戦う・・たとえ君と戦うことになっても、僕はもう迷わない・・・」
気持ちの整理をつけたリリィとソワレが、真剣な面持ちで言いかける。
「今日はもう日が落ちる・・レーダーが反応を示すまで、一晩ここに留まることにする・・」
「1回目から間もないのにまた男の人と2人きりなんて・・」
ソワレの言葉を聞いて、リリィがため息をつく。
「ロープは夜が明けたらほどく。君も君の船に戻ってくれていい。」
「そういうなら今すぐほどいてほしいんだけど・・」
ソワレの呼びかけに対し、リリィはさらに呆れるのだった。
リリィを追って島々の捜索を続けるアルバ。しかし彼女の姿を発見することができず、ソルディンの反応を捉えることもできなかった。
(アイツ、どこまで流れていったんだ・・)
時間ばかりが無常に経過し、アルバは苛立ちを覚える。それでも彼はリリィの捜索をやめようとしなかった。
しばらくして、ソリッドのレーダーにエネルギーの反応が映る。だがその数値が低かったため、その反応が何なのかまでは分からなかった。
「敵機かもしれないが、ここは行くしかないな・・」
思い立ったアルバは、その反応のある地点に向かって進行した。不意打ちを受けないように警戒心を強めながら。
その反応を頼りに動くソリッドは、点在する島々のひとつ、小さな島に行き着いていた。
アルバはソリッドのカメラを駆使して、リリィの乗るソルディンの行方を追う。そして彼は、島の森の茂みに何らかの機影が隠れているのを発見する。
「あれか。」
アルバはその場所にソリッドを近づける。機体のエネルギー、動き、パイロットの動向に細大漏らさず注意を向けながら。
そしてその機体の姿が明確になっていくところまで接近したときだった。
(違う、あれは・・)
アルバが心の声を上げる。そこにいたのはソルディンではなく、ザクローズだった。
ザクローズは茂みの上に倒れたまま、動く気配を見せていなかった。
(動きがない・・パイロットが気絶しているのか、それとも中にいないのか・・)
その様子を奇妙に感じるアルバ。
(とにかく確かめよう。これだけ接近されて動きを見せないのはおかしい・・オレが降りてくるのを狙っているのも考えられるが・・)
意を決したアルバがザクローズにさらに近づく。着地したソリッドから降りた彼は、相手の動きを見据える。
(どこからか狙ってくることを想定しながら、機体のコックピットを確かめる・・・)
緊張を募らせながら、銃を手にしたアルバが歩を進めていく。そして彼は倒れているザクローズの機体に足をつけた。
閉ざされていたザクローズのコックピットのハッチを開こうとするアルバ。だがロックがかけられており、開けることができない。
この事態に毒づくアルバ。そのとき、彼は背後に気配を感じて、振り向き様に銃を向ける。
その先には1人の少女がおり、同じくアルバに向けて銃を向けていた。彼女がパイロットスーツに身を包んでいることから、アルバは彼女が機体のパイロットであると判断した。
「あなたは何者!?そこで何をしているの!?」
少女、マリアがアルバに向けて問い詰めてきた。だがアルバは顔色を変えない。
「お前こそ、この機体のパイロットだな。お前もリードの人間ということか。」
「あなたこそその機体・・あの新型、ソリッドに乗っていたのはあなたね・・・!?」
言いかけるアルバに呼びかけて、マリアが近くにいるソリッドに視線を向ける。
「あれは私たちリードの所有する最新型MSの1機。それをなぜあなたのような人が動かしているの!?」
「なぜソリッドがオレのところに来たのかは分からない。気付いたときには、既にオレはこの機体を乗りこなしていた・・」
「そんなふざけた言い分を信じると思ってるの!?あなたが奪った以外にないじゃない!」
アルバの言い分にマリアが憤りを見せる。それでもアルバは顔色を変えない。
「オレには記憶がない・・今の名前も、カーラから与えられたものなんだ・・」
「記憶喪失・・そのあなたがなぜアルテミスにいるの!?」
「成り行きで引き込まれた・・だがオレも都合が悪いとは思っていない・・」
アルバの答えを聞いて、マリアは言葉を失う。もはや適当な判断を下すことができなくなっていた。
「オレは仲間を追ってきた。この辺りにいるはずなのだが、お前を見つけることになるとは・・」
「私に居場所を聞いてきてもムダよ。私はそのあなたの仲間と戦ってこの有様なのだから。」
淡々と言いかけるソワレに、マリアは呆れながら言いかける。
「ハロハロ♪マリア、マリア♪」
そこへ球状になっていたハローズが転がり込んできた。ハローズを受け止めるマリアに、アルバは唖然となる。
「何だそれは?・・お前、そんなオモチャを持ち歩いているのか?」
「オモチャとは失礼ね。この子はハローズ。私のパートナーよ。」
言いかけるアルバに、マリアが不満げに答える。
「とにかく、ここにオレの仲間はいないようだな。オレは行くぞ。」
「待ちなさい。眼の前にいる敵を見逃してあげるとでも思ってるの?」
その場を去ろうとしたアルバに、マリアが再び銃を向ける。
「撃とうとするならオレも容赦しない。オレはオレの答えを見つけるために戦っている。だからこんなことで命を落とすわけにはいかない。」
「そんな言い分、戦場じゃ通るはずがない。たとえ記憶を失っていても、そのことは自覚しておかないと。」
真剣な面持ちで言いかけるアルバに、マリアが苦笑を見せる。
「いいわ。特別に教えてあげる。ソリッドがどういうものなのか・・」
マリアのこの言葉に、アルバはようやく顔色を変えた。緊迫した空気を気に留めず、ハローズが陽気に跳ねていた。
次回予告
オメガによって開発された新型の機体。
だがそれこそが戦争の火種へとつながった。
強さが導くもの。
それは悲劇しかないのだろうか?
アルバもまた、その真偽を知ることとなる。