GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-06「ソニック」
突然の襲撃で窮地に追い込まれた輸送船。ザク部隊が輸送船の救助と襲撃者の迎撃に乗り出したが、ソルディンの巧みな連携に悪戦苦闘していた。
そこへクレストから発進したソニックとザクローズが駆けつけてきた。
「あれはソニック・・新型MSだ!」
「ザクローズまで・・クレストが来てくれたのか!」
ザクのパイロットたちが、2機の登場にたまらず声を上げる。彼らに向けて、ザクローズを操縦するマリアからの通信が入った。
「ここは私たちに任せてください。みなさんは一時撤退。体勢を立て直してください。」
「分かりました・・援護を感謝します!」
戦闘をマリアとソワレに任せ、ザクたちが戦場を離脱していった。それを確かめて小さく頷くと、2人はソルディン数機に眼を向ける。
「ここは接近して攻撃したほうがいいですね。射撃ではかわされやすいし、輸送艦に当たってしまう危険もあります・・」
「そうね・・私が連中の注意を引き付ける。あなたはその間に輸送船をうまく誘導して。」
「いいえ。敵の注意の引きつけは、僕がやります。」
ソワレが申し出てきた言葉に、マリアが眼を見開く。
「このソニックなら、相手の懐に一気に飛び込みつつ、うまくけん制ができます。ここは僕にやらせてください。」
「ソワレくん・・分かったわ。輸送船の救助は私がやるから、そっちはお願いね。」
「了解です。ありまとうございます!」
マリアが了承すると、ソワレが感謝の言葉をかける。
「それでは気を引き締めていくわよ!」
「はいっ!」
マリアの声にソワレが答える。ザクローズと別れたソニックが、ソルディンに向かって加速していく。
「お前たち、これ以上の暴挙は許さないぞ!」
ソワレが言い放つと、ソニックが手にしたビームライフルの引き金を引く。放たれた光線が、ソルディンの間を縫っていく。
「リードの新手か!・・だが、あの機体・・」
「見たことのないMSだ・・新型か!?」
ソルディンのパイロットたちが、ソニックを目の当たりにして声を荒げる。ソニックがソルディンたちに向かって飛び込んできた。
「来るぞ!散開しろ!」
リーダー格のパイロットが指示を出し、ソルディンたちがソニックとの距離を取る。
(あくまで距離を離して回避しやすい陣形を取っていく気か・・なら!)
思い立ったソワレが、攻撃対象を1機に絞る。フォーメーションを巧みに使ってくる集団は、1人が倒れると他も全て機能しなくなるもの。
「合流はさせない!一気にたたみかける!」
鋭く言い放つソワレ。ソニックがソルディンの1機に向けて、ビームサーベルを振り下ろす。
「くそっ!1機ずつ潰す気か!」
紙一重でその一閃をかわしたソルディンのパイロットが毒づく。
「そうはさせるか!今行くぞ!」
そこへ別のソルディンが飛びかかり、ソニックの攻撃を阻む。互いが互いを助け合うソルディンの戦術に、ソワレもまた苦戦を強いられていた。
(これは思った以上に一筋縄ではいきそうにない・・)
徐々に焦りを募らせていくソワレ。陣形を立て直したソルディンたちが、ソニックの動きを伺っていた。
「相手は新型だが、手に負えないほどではない。我々のフォーメーションで十分対処できる。」
「やってやりましょう、隊長!そして連中に、徹底的に思い知らせてやりましょう!MSの性能で強さが決まるわけじゃないと!」
隊長格のパイロットの呼びかけを受けて、部下たちが奮起する。ソルディンたちがソニックを取り囲むように展開していく。
「攻撃は最大の防御だ!」
「一気に攻め立てて、オメガを打ち倒すぞ!」
ソルディンがソニックに向けて一斉にビームライフルを撃つ。高い機動力を駆使して、ソニックが上方に回避する。
「逃がさないぞ!」
だがそこには別のソルディンが回り込んでいた。だがソルディンが振り下ろしたビームサーベルは、ソニックの掲げたビームシールドに防がれる。
「くっ!」
決定打を与えられず毒づくパイロット。ソニックが即座にビームサーベルを引き抜き、ソルディンの右腕を切り裂いた。
「なっ!?」
あまりに一瞬の出来事に感じられて、ソルディンのパイロットが驚愕する。
「すぐに離れろ!」
そこへ別のソルディンが射撃を行い、負傷したソルディンを救う。回避したソニックもビームライフルを手にして迎撃する。
(本当にすごい陣形だ・・いくら高性能のソニックでも、楽観視できない・・)
ソルディンのフォーメーションに脅威を感じるソワレ。その打開策を、彼は必死に模索する。
そのとき、ソニックの手にしていたビームライフルが、ソルディンの射撃に撃ち抜かれる。
「しまった!」
たまらず声を荒げるソワレ。ソルディンのパイロットたちは、ソニックが遠距離攻撃ができなくなったと判断する。
「一気に畳み掛けるぞ!2手に別れて集中砲火だ!」
「了解!」
隊長の指示に部下たちが答える。ソルディンが展開し、ソニックに狙いを定める。
そのとき、一条の光線がソルディン1機のビームライフルを撃ち抜いた。奇襲を受けて、パイロットたちがさらなる驚愕を覚える。
「新手!?どこから!?」
パイロットたちがレーダーと自分の眼で、攻撃してきた相手を探る。
「追い詰められているようね。やはり私が戦闘をしたほうがよかったかな?」
そのとき、ソワレの耳にマリアの声が飛び込んできた。ソルディンたちに向けて射撃してきたのは、ザクローズだった。
「マリアさん・・すみません・・・」
“謝るのは後よ。今は敵を撃退するのが先。”
謝罪するソワレに、マリアが檄を飛ばす。
「怯むな!新型を撃て!」
そこへソルディンが距離を取って射撃の体勢に入る。ビームライフルを失っているソニックに、射撃はないと踏んでいた。
だがソニックがソルディンに向けてビームブーメランを放ってきた。ソニックの2つ目の遠距離武器である。
「何っ!?」
虚を突かれるパイロット。ソルディンの腕が、ビームブーメランによって切り裂かれる。
「こんなものまで装備しているとは・・!」
さらに毒づくソルディンのパイロットたち。ソニックが体勢を整え、ソワレがマリアに声をかける。
「マリアさん、輸送船の救助は!?」
「全員無事よ。クレストの誘導で、安全圏に入ったわ。」
マリアの答えを聞いて、ソワレがソニックのレーダーを確かめる。輸送船が駆けつけたクレストに保護され、移動を行っていた。
「もう迷わないでよ。一気に攻めるわよ!」
「はいっ!」
マリアの呼びかけにソワレが答える。ソニックとザクローズが、ソルディンに向けて反撃を開始した。
相手の攻防を的確にする暇すら与えなかった。ソニックとザクローズが一気に距離を詰め寄り、ソルディンに向けてビームサーベルとヒートホークを振りかざす。
あまりにも早く重い2機の攻撃に、ソルディンたちはなす術なく負傷を被っていく。
「まさかこれほどとは・・これほどとは!」
ソルディンが真っ二つに両断され、悲鳴を上げるパイロットを巻き込んで爆発を引き起こした。陣形の崩壊したソルディンは、もはやソワレとマリアの敵ではなかった。
襲撃を受けた輸送船は無事にプラネットGに到着した。ソルディンたちもソニックとザクローズによって全機撃墜された。
「よくやった、マリア、ソワレ。お前たちの活躍で、輸送船は無事に到着することができた。」
「はい・・ですがソニックを負傷させてしまって・・すみません・・・」
褒め称えるガルだが、ソワレは沈痛の面持ちを浮かべていた。
「どうした?今日のヒーローが、そんな暗い顔をするものではないぞ。」
「しかし・・・」
「ソニックのことは気にするな。あの程度のことでダメになるような機体ではない。それに、戦いにおいて無傷で帰還できるほうが珍しい。」
不安を浮かべるソワレに、ガルが励ましの言葉をかける。それを受けてソワレが気持ちを和らげていく。
「私はお前を高く評価している。ソニックの性能もさることながら、それを自分の手足のように自在に動かしてみせたのだからな。」
「そうよ、ソワレ。自分をもっと誇りなさい。あなたは、輸送船の人々を救ったのだから・・」
ガルに続いてマリアもソワレを励ます。ソワレはようやく笑みを取り戻し、小さく頷いた。
「少し休むといい。いつまた出動するか分からないからな。」
ガルの言葉を受けて、ソワレとマリアは機体の整備を整備スタッフに任せて、この場を後にするのだった。
その廊下で、ソワレはマリアに声をかけた。
「マリアさん、今日はありがとうございました・・マリアさんが援護してくれなかったら、僕は今頃・・」
「だからもういいって。あなたは的確な戦闘を行った。私も艦長も、それは評価しているんだから・・」
再び頭を下げるソワレに、マリアが半ば呆れながら答える。
「この任務を期に、あなたは私たちの新しい仲間となった・・これからもよろしくね、ソワレ・ホークス。」
「マリアさん・・・はいっ!これからもよろしくお願いします、マリア・ホークス少尉!」
マリアが手を差し伸べると、ソワレはその手を取って握手を交わした。平和のために共に戦う仲間として、2人は絆を深めた。
「それじゃまた後で。休息も軍人の立派な仕事よ。」
「はい。それではまた。」
マリアとソワレは別れ、それぞれの自室へと戻っていった。
自室へと戻ったソワレは、誘われるようにベットに倒れ込んだ。今回の戦闘で、彼は心身ともに疲れ果てていた。
(初めての実践・・本当に無我夢中だった・・おぼろげにしか覚えていない・・・)
もうろうとする意識の中で、ソワレは先ほどの戦いを思い返していた。
(僕はまだまだ未熟だった・・もしもマリアさんが駆けつけてきてくれなかったら、僕は死んでいたかもしれない・・)
交わる光刃。宇宙を射抜く光線。様々な光景が、彼の脳裏をよぎっていく。
(僕はまだ、迷いを抱えていたみたいだ・・迷ってはいけない!迷いは戦闘じゃ命取りになる・・気持ちを切り替えるんだ・・・)
たまらず自分の頬を強く叩いて言い聞かせるソワレ。そして上半身を起こして、彼は思考を巡らせる。
「もうこれ以上、平和を壊させるわけに行かないよね・・・」
呟くように言いかけると、ソワレは次の戦いに気持ちを切り替える。
「今は休もう・・未来にある平和のために・・・」
再び自分に言い聞かせると、ソワレは横になり、そのまま眠りについた。
輸送船の救助を終えて、束の間の休息に入っていたクレストのクルー。ガルも艦長室に戻り、腰を下ろして一息ついていた。
(ソワレ・・期待はしていたが、まさかここまでの動きを見せたのは、私としては予想外だった・・)
ガルが胸中で、改めてソワレの力量を評価する。
(これからの戦いは、ソワレとマリアが鍵を握ることとなるだろう・・私の指揮能力も、同じく問われることになる・・)
改めて気を引き締めるガル。戦艦の保有する武装、兵器の状態の確認のため、彼は連絡を取った。
「私だ。状況はどうなっている?」
“はい。クレスト全武装、ソニック、ザク全機、チェックを完了しています。全て異常ありません。”
ガルの問いかけにオペレーターが報告する。
“艦長、上層部から連絡を受けています。すぐに地球に向かえとの命令です。”
「地球?連合軍と交戦中の部隊の援護か?」
“はい。ルーラーが2度に渡ってアルテミスとの交戦で撤退を余儀なくされました。敵の戦力の中に、リードの最新型MSが紛れていると・・”
「何?我々の最新型MSだと?MSコードは?」
“はい。報告ではソリッドとのことです。”
報告を聞いたガルが言葉を失う。最新型MSの1機、ソリッドが連合軍に紛れて、リードの敵として立ちはだかっていることに、彼は驚愕を痛感していた。
「まさか新型が敵に回るとはな・・いや、想定できないことではなかったはず・・・」
思考を巡らせながら、呟きかけるガル。
“いかがいたしますか、艦長・・・?”
「あぁ・・これより発進する。上層部には了解したと伝えておいてくれ。」
オペレーターの声で我に返ったガルが、指示を出す。気持ちを落ち着けてから、ガルは通信を終える。
(上の人間も人使いが荒いな。休む暇も与えてくれない・・)
自分の身分の低さを呪いながら、ガルは席を立った。
突然の出動命令のため、クレスト艦内は慌しくなっていた。眠っていたところを叩き起こされ、ソワレは眼が覚めないでいた。
「しっかりしなさい、ソワレくん。気を緩めるところではないのよ。」
「すみません・・まだ眠気が・・顔は洗ってきたのですが・・・」
呆れながら注意するマリアに対し、ソワレは頭が上がらなくなっていた。そこへガルが入室し、2人の前で立ち止まる。
「すまないな、休んでいたところを・・」
「いえ。非常事態に休んでいるわけにはいきませんから。」
謝罪するガルに、マリアが弁解を入れる。
「マリア、ソワレ、これからクレストは地球に向かうこととなった。」
「地球に?」
ガルが告げた言葉に、ソワレとマリアが眉をひそめる。
「ルーラーから救援を求められた。我々がその救援に向かうこととなった。」
「ルーラーが救援要請を?連合軍にそれほどの戦力が加わったというのですか?」
「確かにそうだが、連合軍の所有する機体ではない。」
「連合軍の機体ではない?・・それはいったい・・・」
ガルの言葉に、マリアは疑問を消せずにいた。
「ソリッドが、連合軍の手中にある・・」
「ソリッドが!?」
ガルのこの言葉にマリアが驚愕する。
「ソニックと並ぶ最新鋭のMSであるソリッドが・・間違いないのですか!?」
「そのソリッドというのも、新型のMSなのですか・・・?」
問い詰めるマリアに割り込む形で、ソワレが疑問を投げかけてきた。彼の様子を見て、マリアは張り詰めていた気持ちをそがれる。
「そう。あなたが乗ったソニックと並ぶ、最新鋭のMSよ。敵に回せば、量産型の機体ではおそらく太刀打ちできない。先ほどのソルディンとの一戦のように・・」
「そのソリッドが、自分たちの敵として・・・」
マリアの説明を聞いて、ソワレは困惑する。平和のための力が、平和を求める者の前に立ち塞がろうとしていた。
「許せません・・・平和のための力で、平和が壊されるなんて・・・!」
憤りを覚えたソワレが拳を強く握り締める。
「落ち着け、ソワレ。要はいつも以上に気を引き締めていけということだ。」
ガルに言いとがめられて、ソワレは気持ちを落ち着かせる。
「何はともあれ、ソリッドはこれまで以上に油断ならない相手と思っておいてくれ。マリア、ソワレ、君たちにはまた全身全霊を賭けてもらうことになる・・頼むぞ。」
「はい。」
ガルの呼びかけに、ソワレとマリアが敬礼を送る。
「お前たち、苦労をかける。だが私は、お前たちを信じている・・・これよりクレストは、地球に向けて発進する!」
「了解!」
ガルの呼びかけにクルーたちが答える。クレストがプラネットGを飛び立ち、地球に向けて進行していった。
次回予告
戦うこととは?
強くなることとは?
見知らぬ青年よりも自分のほうが上。
そう言い聞かせていたリリィの取った行動とは?
威信を賭けたルーラーの猛威が、アルテミスを襲う。