GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-05「平和への願い」
新たにリードに入隊することとなったソワレ。本格的な整備が開始されるまで、ソワレはマリアとともに自由時間を許された。
マリアはハロシリーズの1機、ハローズを抱えていた。
「ハロは女性の間で大人気だからね。でも真面目そうなマリアさんも持っていたなんて・・」
「とりあえず褒め言葉として受け取っておくわ。それにハローズは買ったんじゃなくて、自分で作ったのよ。」
声をかけるソワレに、マリアは落ち着きを払って答える。
「作った・・マリアさん、メカニックに強いんですね?」
「ううん。逆よ。私はメカニックだけはまるでダメなの。このハローズだけは、私が作った唯一のロボットよ。」
ソワレの問いかけにマリアが微笑んで答える。
「私、これでも負けず嫌いの意地っ張りでね。子供のときはムキになって苦手を克服しようとした・・でもダメだった。私の最高の功績が、このハローズというわけ・・」
「そうだったのですか・・僕は何もかもが苦手で、人一倍努力しないと人並みになれなかった・・」
マリアの話を聞いて、ソワレも自分の心境を打ち明けた。
「人並みになれればいいと思っていたんだけど、いつの間にかその人並みを越してしまっていたようで・・」
「なるほど・・私、あなたがうらやましくなってくる・・あなたのように努力が実を結べたらって・・」
ソワレの言葉を受けて、マリアが物悲しい笑みを浮かべる。彼女は努力が実らない自分を呪っていた。自分より早く上り詰めた人を見て、それに嫉妬して自分と比較する自分がたまらなかった。
思いつめていた彼女の肩に、ソワレが手を添えてきた。
「努力を続けていれば、いつか報われるものですよ・・・」
「ソワレ・・・もう、本当にあなたという人は・・・」
ソワレからの励ましに気恥ずかしさを感じて、マリアがため息混じりに言いかける。その反応が冷めたように感じ、ソワレも動揺を見せる。
「す、すみません・・僕、何か余計なことを言ってしまったでしょうか・・・?」
「ううん、そんなことないわ・・ただ、あなたからそういうことを言われるとは思っていなかったから・・」
マリアが苦笑を浮かべると、ソワレもそれにつられるかのように笑みをこぼした。
「ハロハロ♪マリア、ゲンキニナッタ♪」
ハローズも2人の喜びを祝福していた。
それからソワレとマリアは基地近くのエアポートの休憩所を訪れていた。そこは空や遠くの地域を見渡せる展望所にもなっていた。
「ひとつ聞かせてもらえない、ソワレくん?」
缶ジュースを口にしていたところで、ソワレがマリアに唐突に声をかけられた。
「ソワレくんは、なぜ軍人になったの?」
「えっ・・?」
「このリードには様々な理由で入隊を希望した軍人がいる。家族や親友の仇を討ちたい、平和をつかみたい、他にも様々・・・」
マリアに問いかけられて、ソワレは物思いにふけりながら語り始める。
「僕はどちらかというと、平和を取り戻したいという理由で志願した人間ですね・・僕、争いの悲しみと苦しみを直接眼にしているんです・・戦争ではなく、戦争に反発したデモです・・」
「デモ・・耳にはするわね・・」
「暴走した人間のために、関係のない人たちが血を流した・・僕もそのとき、被害にあった人たちを助けようと救護を手伝いました。ですが、それでも助からなかった人もいました・・」
語りかけていくうちに、ソワレが缶を持っていない手を握り締めていた。
「僕にもっと力があれば、みんなを助けられたかもしれない・・そう思った僕は、自分が許せなかった・・・」
「それでリードに入隊したということね・・そのようなことが繰り返されるのはよくないわね・・」
「それで、マリアさんはなぜリードに?」
今度はソワレがマリアに問いかける。それを受けてマリアがため息をつく。
「実は私、家出をしてきた身なのよ・・」
「えっ!?いえ・・!?」
マリアの答えに驚くソワレだが、すぐにマリアに口をふさがれる。
「声が大きい!・・これはガル艦長しか知らないことで、他の人には内密にしていることなんだから・・・!」
「す、すみません・・・」
マリアに小声で念を押されて、ソワレが小さく頷く。
「私も聞き慣れた資産家の家の出身なの。でも戦争が起きているのを尻目に裕福に暮らしている家族に我慢がならなくなって・・」
「そうですか・・和解はされていないのですよね?」
「もちろん。戦争は無粋な輩が仕出かす暴挙。自分たちがそんな低俗な行為を犯す必要はない。それが家族のガンコな見解。」
ため息混じりに答えるマリアを見て、これ以上話の深入りをしてはならないと思い、ソワレは追及しなかった。
そのとき、マリアが休憩所の時計を眼にして時間を確かめた。
「いけない。そろそろ戻る時間よ。ソワレくん、行きましょう。」
「あ、もうそんな時間ですか・・分かりました。」
マリアの呼びかけにソワレが頷く。2人は急いで、クレストへと帰還していった。
「すみません!・・遅くなりました・・・!」
慌てて駆け込んできたソワレとマリアを、ガルはあたたかく迎えていた。
「いや、気にしなくていい。こちらも予定より作業が遅れ気味だったからな。」
ガルが2人に向けて弁解を入れる。だが作業が遅れたというのはウソであり、予定通りに進めておきながら2人を待っていたのだ。
「ソワレ、マリア、ドックに案内しよう。君たちはクレストの主力となるのだから・・」
「自分たちが、主力・・・」
ガルが告げた言葉に、ソワレが戸惑いを覚える。
「ではついてきてくれ。機体の最終チェックを行う。」
ガルの呼びかけを受けて、ソワレとマリアはクレストに乗り込んだ。
艦内のドックでは、各機体の整備がそれぞれ進められていた。ザクスマッシュの他、その改良型である遠距離戦闘型MS「ザクブラスト」、近距離戦闘型MS「ザクスラッシュ」も待機していた。
ドックの中央に佇む機体の前に差し掛かったところで、ガルたちが足を止める。その機体はザクスマッシュであったが、体色がバラのような紅だった。
「これが私の機体、ザクローズ。構造上はザクスマッシュだけど、性能はその約3倍なのよ。」
「通常の、3倍ですか・・・」
マリアが紹介した搭乗機「ザクローズ」を眼にして、ソワレが呟きかける。
「つまり今のところでは、私がクレストのトップパイロットいうわけ。まぁ、そういう優劣はすぐに覆るものだけれど。」
弁解を入れるマリアに、ソワレは困惑気味だった。
「ではそろそろ君の機体を見に行くか、ソワレ。」
ガルの呼びかけを受けて、ソワレとマリアが気持ちを切り替える。3人はドックの奥へとやってきた。
その眼前にそびえ立つ機体に、ソワレは驚きを隠せなかった。彼にはその人型の機体がどんなものか直感できた。それが最新鋭の新型MSであることを。
「まさかこれは!?・・艦長・・・!」
「そうだ。これが君の乗る新しい機体、ソニックだ。」
声を荒げるソワレに、ガルが真剣な面持ちで言いかける。ソワレはその機体「ソニック」から眼が離せなくなっていた。
「ソニックは我々オメガが開発した最新鋭のMSだが、これをうまく扱える人間は、高い操縦技術の持ち主に限られる。だがそのための試験を、君はクリアしてみせている・・ソワレ、ソリッドは君の機体だ。」
「ですが、自分のようなのが、最新鋭の機体のパイロットをやってもいいのでしょうか・・・?」
ガルに声をかけられるも、ソワレはソニックのパイロットとしての重責を背負うこと不安を感じていた。
「自信を持ちなさい、ソワレくん。見合うだけの力を持っているから、あなたはソニックのパイロットに選ばれたのよ。」
そこへマリアがソワレに声をかけてきた。2人からの励ましを受けて、ソワレは自信を覚えていく。
「分かりました・・どこまで扱えるか分かりませんが、やってみます・・・!」
思い立ったソワレが、ソニックのコックピットに乗り込んだ。従来の機体よりも複雑な構造のコックピットに、彼は再び驚きを感じた。
(すごい・・どこまでやれるか、試してみよう・・)
心の中で意欲を募らせて、ソワレはソニックのプログラムを操作し、確認していく。高度なプログラムに一瞬戸惑うも、彼はそのプログラミングを的確にこなしていく。
「艦長、プログラムの確認、完了しました。」
「よし。このままシュミレーションをやってくれ。いきなり実践はさすがにきついからな。」
ソワレの言葉を受けて、ガルが呼びかける。ソワレはソニックのシュミレーションデータに眼を通していった。
「やはり私の眼は間違っていなかったようだ。ソワレはソニックの高度な性能をどんどん熟知していっている・・」
「そうですね・・私も正直驚いています・・ソワレくんがここまでとは・・」
ガルとマリアがソワレに対して感嘆の声を口にする。ソワレはシュミレーションを的確にこなしていっていた。
「よし。そろそろいいだろう。ソワレ、こっちに来てくれ。」
「あ、はい。」
ガルの呼びかけを受けて、ソワレがソニックから降りてくる。
「すごいです、艦長・・あんな機体、見たことがありませんでしたよ・・・」
「見たことがないか・・同然だ。あれは我々リードの中でも秘密事項に属するMSなのだからな。」
感嘆の声を上げるソワレに、ガルが淡々と答える。その言葉にソワレが驚きを覚える。
「それを、自分が乗るなんて・・・」
「自信を持て。見合うだけの力を持っているから、君が選ばれたんだ。」
驚きの色を隠せなくなるソワレに、ガルが励ましの言葉をかけ、その肩に手をかける。
「これから、私たちとともに戦ってくれ、ソワレ・ホークス。」
「艦長・・・はいっ!よろしくお願いします!」
ガルの言葉を受けて、ソワレが笑顔を見せて一礼をした。
(僕も戦わなくちゃ・・こうしている間にも、戦争によって悲しみを抱いている人々が増えているんだ・・)
顔を上げたソワレが、心の中で自身の決意を思い返す。戦争のために悲しい人を増やしてはならない。自分のできることを全力でやり遂げ、戦争を終わらせたい。それが彼の願いだった。
「ビンセント艦長!緊急通信です!」
そこへ1人の兵士がガルに駆け寄ってきた。その報告を受けて、ガルが真剣な面持ちになる。
「よし分かった。クルー全員を招集してくれ。」
「了解!」
ガルからの指示を受けて、兵士は再び駆け出していった。
「艦長、何かあったのですか・・・?」
「あぁ。地球からプラネットGへ航行していた輸送船が襲撃を受けた。」
マリアが訊ねると、ガルが落ち着いたまま答える。その言葉に彼女だけでなく、ソワレも戦慄を覚える。
「もしかして、地球側が・・!?」
「それは分からん。だが相手を軽く見るのも軽率で、そのために我々にSOSを送ってきたのだろう。」
声を荒げるソワレに、ガルが苦笑いを浮かべる。
「だがみすみす見て見ぬふりをするのもよくない。そこで我々も出撃することとなった。」
ガルの態度が気さくとしか思えず、ソワレは唖然となっていた。その空気に慣れているのか、マリアは微笑んで落ち着いていた。
「クレスト、発進!」
クルー全員が揃ったところで、ガルが指示を出す。リード所属戦艦「クレスト」が第1基地を発進した。
「感度良好。システム、オールグリーン。」
「よし。このまま現場に急行するぞ。」
オペレーターの声を受けて、ガルがさらに指示を出す。クレストが広い宇宙を前進していく。
その艦内で、ソワレが1番緊張していた。その様子を察したマリアが、彼に声をかけてきた。
「そんなに緊張しないの。初陣だから気持ちは分からなくもないけど、そんな気負う必要もないわ。」
「すみません・・でも体は正直なものでして・・アハハ・・・」
マリアに励まされて、ソワレは思わず照れ笑いを見せた。緊張が緩やかになったと思い、マリアも笑みをこぼした。
「そろそろ真剣勝負の開始よ。気を抜かないで、ソワレくん。」
「はい。」
気持ちを切り替えて、戦闘に備えるマリアとソワレ。2人に向けて、ガルからの連絡が入った。
“マリア、ソワレ、そろそろ出撃準備に入れ。”
「先行した部隊はどうなったのですか・・・?」
“ザク部隊が先行したが、襲撃者は巧みなフォーメーションで、部隊の陣形を崩してきている。機体は全てソルディンだ。”
「ソルディン!?・・まさか、これは地球連合の仕業・・・!?」
“それもまだ分からん。現状では、まず襲撃者の撃退が先決だ。我らの中では、君たち2人に先陣を切らす。”
ガルの言葉を受けて、ソワレが息を呑む。
“敵は巧みな戦術を駆使してきている。念には念を入れて、徹底的に叩く。油断することのないよう。”
「了解しました。お任せください艦長。私たちで活路を開いてみせます。」
ガルの指示を受けて、マリアが答えて敬礼を送った。彼女はソワレとともに、各々の機体へと乗り込んだ。
そのとき、ハローズもザクローズに乗り込んできた。
ハローズはただのマスコットキャラクターではない。オペレーションや解析など、マリアとザクローズのサポート役となっているのだ。
「ハローズ、今回もよろしくね。」
「ハロハロ♪ヨロシク、マリア♪」
マリアの呼びかけに、ハローズが陽気に答える。
“輸送船、確認しました!ソルディン数機と、ザクブラスト部隊が交戦中です!”
そこへオペレーターの声が飛び込み、ソワレとマリアもモニターで確認する。ザクブラストの射撃を、ソルディンが回避してみせていた。
「あれじゃ素早く動くソルディンを止めることはできないわ。ここは接近戦で、相手の動きを読んで追い込んでいくのが得策ね。」
「自分も同意見です。ここは近づいて短期勝負と行きましょう。」
マリアの見解にソワレも頷く。コックピットのハッチが閉じられ、2体の機体が発進準備に入る。
“システム、オールグリーン。ハッチ開放。進路クリア。”
オペレーターのシークエンスが響き渡る。2機の滑走路のライトが光り、発進を促す。
“ザクローズ、発進どうぞ。”
「マリア・スカイローズ、ザク、出るわよ!」
シグナルが青に変わり、マリアが駆るザクローズがクレストから発進する。
(僕のこの手で平和をつかんでみせる・・この戦いは、その第一歩になる・・・)
眼前に広がる宇宙を見据えながら、ソワレが改めて決意を秘める。
“ソニック、発進どうぞ。”
「ソワレ・ホークス、ソニック、発進する!」
ソワレの呼びかけとともに、ソニックがクレストから発進していった。
“油断しないでね、ソワレくん。連携していくわよ!”
「了解!やりましょう、マリアさん!」
マリアからの呼びかけにソワレが答える。ソニックとザクローズが、輸送船と他の部隊の救援のために、宇宙を駆け抜けていった。
次回予告
平和を取り戻すため、少年は剣を手にした。
ソニックを駆り、平和を壊す敵に立ち向かうソワレ。
その終わりなき戦いの果てに何があるのか。
その答えが今は分からなくても、最良の答えが待っている。
それを信じて、ソワレはこの空を駆け抜けていく。