GUNDAM WAR –Lost Memories-
PHASE-04「命の重さ、戦いの意味」
世界の中に存在していた小さな島「アフェード」。都会と比べてやや過疎であったが、平和と安寧に満ちた島だった。
リリィもその家族も、アフェードの住人だった。彼女も家族と平和に過ごしていた。
だがある日、その平穏が一瞬にして崩れ去った。
突如アフェードが炎に包まれた。事故による家事ではなく、ある種族による事件だった。
その事件で、島の住人は全滅。島も人が住めるような状態でなくなるほどに悪化してしまった。
ただ1人。親友の家に遊びに島を出ていたリリィを除いて。
その事件が、彼女を戦いへと赴かせるきっかけとなった。
カーラに呼ばれて、アルテミスの艦長室に来ていたアルバ。リリィが彼に突っかかった件を気にして、カーラは深刻さを浮かべていた。
「やはりリリィの抱えている過去は、そう簡単に消せるものではないのね・・トラウマのように・・」
「彼女は命をひどく気にしていたようだが・・何かあったのか・・・?」
カーラの呟きに対し、アルバが疑問を投げかける。
「うーん・・このことはあの子から口外しないでって強く言われてるんだけど・・・」
しばし考えたところで、カーラは苦渋の決断をする。
「誰にも口外しないと約束してくれる?もちろんあの子にも・・」
「なぜだ?アイツのことだろう?」
「あの出来事は、できることなら忘れてしまいたい、消し去りたいと思っているのよ、彼女は。それをヘンにぶり返すのは、彼女のためにならないから・・・」
「・・・いいだろう。他の人間に話しても、オレには何の得にもならないからな。」
カーラの申し出を、アルバは憮然さを浮かべて受け入れた。彼女は気持ちを落ち着けてから語り始めた。
「リリィはオメガによって、全てを失ったのよ・・」
「全て?」
「そう、全て。家族や親友だけじゃない。住んでいた場所も失ったのよ・・」
沈痛の面持ちで語りかけるカーラに、アルバは眉をひそめるばかりだった。
「この世界には昔、アフェードという小さな島国があったの。都会と比べたらにぎやかさに欠けたけど、自然と平和にあふれた場所だった・・・でも2年前、アフェードは地図上から消滅した・・オメガの攻撃で住人は全員死亡。島も過度の攻撃で人の住める状態ではなくなってしまった・・」
「なぜそのオメガというのは、アフェードを攻撃したんだ?聞く限りでは、とても軍に関与したものがあるとは思えないのだが・・」
「リリィはそのとき、友人の家に出かけていて島を離れていたのよ。その中であの子は、アフェードの事件を知ったのよ・・」
アルバの疑問にカーラが答えていく。
「それが、リリィがオメガを恨むきっかけとなったのよ・・」
カーラの口から語られた言葉に、アルバは再び眉をひそめた。
その頃、ハルはソリッドのデータを整理をしていた。連合軍がこれまで着手していない高度の技術は、エンジニアである彼にとっても眼を見張るものだった。
「このソリッドというMSはホントにすごい・・高い性能だけじゃなく、クラスターシステムによる活動力も・・」
モニターに映し出されているソリッドのデータを見て、ハルが感嘆の声を上げる。
「でもこんなすごい技術、誰が編み出したんだろう・・まさか、オメガが生み出したものなんじゃ・・・」
だが彼の口から出る言葉に、徐々に不安が込められていく。
「地球連合でこんなすごい兵器が作られたという話はない・・少なくても、僕は聞いていない・・・」
突如現れた最新鋭の機体に、ハルは困惑を感じていた。
(もしかしたら、軍の上層部にもこのデータを知らせないほうがいいかもしれない・・・)
ハルは密かにひとつの選択を選んでいた。独自の判断が取れなかった彼は、カーラの判断を仰ぐことにした。
アルバがカーラから次に聞かされたのは、軍に入隊してからのリリィに関してだった。
家族も故郷も失っていたリリィは、精神的に不安定だった。軍人として求められる冷静な判断ができず、感情的な言動が目立っていた。
そのためよく問題を起こして謹慎を受けることが多々あった。今になって、彼女が少尉にまで上り詰めたことを不思議がる者も少なくない。
そんな荒んだリリィの心を開いたのは、カーラとの出会いだった。
カーラが優しく、そして明るく接したことで、リリィは徐々に落ち着きを取り戻していった。以後、リリィはカーラの指揮するアルテミスに乗艦することとなった。
「そんなことが・・そこまで荒れていたというのか・・・」
「正直、私が手を差し伸べてあげなかったら、あのときのままだった・・軍から追い出されて、暴走したまま罪を犯していたのかもしれない・・・今でも、私のこの判断は正しかったと思ってる・・・」
いぶかしげに言いかけるアルバの前で、カーラが呟くように言いかける。
「人間の心というのは複雑にできているのよ。それは技術や文化が発達した今でも分からないことだらけなのが現状・・」
カーラが口にしたこのことばに、アルバが眉をひそめる。
「今のあなたのように記憶を失ったり、自分でも気持ちをコントロールができなかったり・・自分の心なのに自分で全部理解できていなかったり、周りの支えで初めて気付かされることもあるのよ・・」
「オレの記憶も、いつか戻ってくることがあるのか・・・?」
「そうね・・なくした記憶は、いつか必ず返ってくる・・その支えで、もしかしたら返ってくるかもね・・」
アルバに問いかけに、カーラが微笑みかけてくる。
「人は誰もが、何かを失っている・・取り戻せるものがあるなら、取り戻したほうがいい・・・これは私の上官だった人の受け売りなんだけどね・・」
「取り戻せるものか・・オレもいつか、記憶を取り戻すときが来る・・・」
アルバが口にした言葉に、カーラは小さく頷いた。
「私たちも、あなたに失われた記憶が戻ってくると信じている・・そしてリリィがあなたを受け入れてくれることも・・・」
カーラの告げた言葉に、アルバが言葉を返せなくなる。記憶の喪失のため、彼は感情も欠如が見られた。どう接していけばいいのか、彼は分からなかったのだ。
「あなたもあの子のこと、支えてあげてね・・あなたに残されているのは、ソリッドという力だけじゃないんだから・・」
アルバに向けて励ましの言葉をかけるカーラ。だがその言葉を、アルバはなかなか受け止めることができなかった。
そのとき、艦長室に通信が入った。カーラがその通信に応じた。
「私よ・・ハル、どうしたの?」
“艦長、実は相談したいことがありまして・・できるだけ口外せずに行いたい内容でして・・”
「分かったわ。こっちに来てちょうだい。」
ハルからの連絡を終えると、カーラがアルバに声をかける。
「ごめんなさいね。席を外してもらえる?」
「あぁ。何かあったらまた呼んでくれ。オレは少し休む・・・」
苦笑いを見せるカーラに答えると、アルバは艦長室を出ようとする。だがふと気になることがあり、彼はドアの前で足を止める。
「なぜオレを受け入れた?なぜオレに名前を与えた?」
突然の質問に一瞬きょとんとなるカーラ。だがすぐに微笑んで、彼女は答える。
「興味があったのよ・・まるで子供を育てる親のような気分を感じてた・・実際の母親じゃないはずなんだけどね・・」
自分の言っている答えに気恥ずかしさを覚えて、カーラが照れ笑いを浮かべる。だがアルバは疑問を解消できずにいた。
ハルと入れ違いに艦長室を出たアルバ。カーラの言葉の意味が飲み込めず、彼は思考を巡らせていた。
その廊下の途中、アルバはリリィと対面した。リリィはアルバを見て、眼つきを鋭くさせる。
「まだいたの?早くここを出て行きなさいよ・・」
冷徹に告げるリリィだが、アルバは顔色を変えない。
「あなたは地球連合の人間ではない。私たちに対しても協力的ともいえない。強大な力まで持っている以上、敵として構える必要は十分にある。」
「オレがどうしようとオレの勝手だ。それにここの艦長は、オレをどうしてもここに置きたいと考えているようだが・・」
「ここは連合軍所属の戦艦よ!勝手な行動は許されないわよ!」
憮然とした態度を見せるアルバに、リリィが感情をあらわにする。
「とにかく、私はあなたを仲間だとは認めない!たとえ艦長やみんなが許しても、私はあなたを敵として認識する!」
リリィはアルバに鋭く言い放つと、憎悪をあらわにしたままこの場を立ち去っていった。彼女のことを気にかけて、アルバがいぶかしげな気分を感じていた。
同じ頃、カーラはハルからソリッドに関する情報の管理について訊ねられていた。カーラは深刻な面持ちを浮かべて考え込んでいた。
「さーて・・どうしたものかしらね・・・」
「僕としては、上層部にあの機体の情報を知らせるのは極力避けたほうがいいと思います。下手をすれば、戦火を拡大させる要因、まさに火種になりかねませんし・・」
呟きかけるカーラに、ハルが自分の意見を述べる。
「それもそうなんだけどね・・あまり上層部に逆らうと、首が飛びかねないし・・」
「権力が弱いというのも、考え物ですね・・・」
肩を落とすカーラに、ハルも苦笑いを浮かべる。気持ちを切り替えて、カーラが決断を下した。
「上層部への連絡は保留します。私たちとしても、あの機体をまだまだつかみあぐねているし・・」
「そうですか・・ではそのように徹底しておきますね・・・」
カーラの言葉を受けて、ハルが微笑んで頷いた。
「もしかしてハル、私がそう判断すると思ってて、わざと聞いてきたわね?」
「いや、僕はそんなつもりはないですよ・・でも・・・」
カーラにからかわれて、ハルが動揺を見せる。
「でも?」
「多分心の中で、そういう答えが出てくるのを、望んでいたのかもしれません・・・」
だがすぐに気持ちを落ち着けて、ハルは率直に気持ちを告げる。それを聞いて、カーラが笑みをこぼす。
「ま、私もそういうことがあるからね・・そういうことにしておくわ。」
「アハハ・・では、失礼します。引き続き、あの機体について調べますので・・」
カーラの言葉に苦笑いすると、ハルは艦長室を後にした。するとカーラは浮かべていた笑みを消して、おもむろに天井を見上げた。
(無意識に望んでいる、か・・・)
屈託のない言葉を、カーラは心の中で呟きかけていた。
ソリッドのチェックのために、アルバはドックに来ていた。チェックを済ませたところで、彼はハルに声をかけられる。
「アルバ、よかったら一緒に食事でもどうかな?」
「食事?」
ハルの言葉にアルバが眉をひそめる。
「別に深い意味はないんだけど・・やっぱり、1人よりもみんなと一緒のほうが楽しいから・・」
「悪いが遠慮する。オレは1人でいるほうが気が楽だ。」
「そうかもしれないけど・・やっぱり人が多いに越したことはないと思うよ・・」
憮然とするアルバを、ハルが説得しようとする。だが聞き入れてもらえそうにないと痛感すると、ハルは沈痛の面持ちを浮かべる。
「ゴメン・・本当は、君と話がしたくて・・そのきっかけを作りたかったんだ・・・」
「特に用がないならオレは行くぞ。オレは群れるつもりはない。」
謝意を見せるハルだが、アルバは顔色を変えずにドックを去ってしまった。
「アルバ・・・」
あくまで独立した言動を取るアルバに、ハルは困惑していた。
そのアルバも、腑に落ちない気分を拭えずにいた。彼は無意識に、人と接することに意味深さを感じるようになっていた。
“人間の心というのは複雑にできているのよ・・自分の心なのに自分で全部理解できていなかったり、周りの支えで初めて気付かされることもあるのよ・・”
「人間の、心か・・・」
カーラの言葉を思い返して、アルバは奇妙に思っていた。またひとつ、見出さなくてはいけない答えがあることを、彼は知ったのだった。
ハルとの話を終えた直後、カーラは連合軍上層部の連絡を受けていた。その命令は、他の部隊の救援のための出動だった。
「私たちが、東南アジアエリア13の“グリーア”と合流するのですか?」
“そうだ。グリーアから救援要請の連絡があった。エリア13に近いのは君たちアルテミスだ。”
聞き返すカーラに、上層部の1人が答える。
“先日のルーラー撃退の件は、我々も耳にしている。君たちに白羽の矢を向けたのも、その功績を踏まえてのことだ。”
“君たちなら、この危機も脱してくれるものだと確信している。直ちに現場に向かってくれ。”
「分かりました。すぐにエリア13に向かいます。」
上層部からの命令を受けると、カーラは通信を終えた。直後、彼女はため息をついて肩を落としていた。
「救世主扱いね・・まぁ、やるしかないわね・・」
カーラは呟きながらも、部隊としての行動を開始する。その命令がクルーたちに伝わり、アルテミスが発進していった。
だがその動きは、ルーラーのワイルに読まれていた。彼らはエリア13における地球連合の危機という情報を得ていた。
「今流れは、確実にこちらに傾いている・・こちらに勝利の女神が微笑む確率が高くなっている・・」
アルテミスの動きを見据えて、ワイルが勝機を感じ取って不敵な笑みを見せる。
「艦長、我々もエリア13に向かいます。我々の手で連合軍を一網打尽に・・」
「いや。我々はエリア11に急行。ヤツらを待ち伏せして叩く。」
オペレーターの声を一蹴して、ワイルが指示を出す。
「2つの部隊をまとめて相手をすることはない。合流させずに一気に打ち倒す。」
「了解。直ちに進路を変更します。」
ワイルの指示を受けて、オペレーターと操縦士が行動を起こす。アルテミス打倒のために、ルーラーが前進していくのだった。
(次あたりに、お前たちは自滅の道を辿ることとなるだろう・・・)
プラネットGに赴き、マリアに迎えられたソワレ。2人は基地内にいる上官たちに挨拶に回っていた。
緊張しているソワレの様子に、マリアは呆れてため息をついていた。
「本当に真面目なのね、あなたは・・ある意味感心するわね・・」
「アハハ・・面目ありません、マリアさん・・・」
マリアの指摘にソワレが肩を落とす。
「まぁいいわ。そろそろ私たちの船に行きましょう。」
落ち着きを取り戻したマリアの言葉を聞いて、ソワレも真剣な面持ちを見せる。2人は基地内のターミナルへと向かった。
「お、マリア、戻ってきたか。」
そこへ1人の男が声をかけ、ソワレとマリアが敬礼を送る。
「そうかしこまらなくていい。君が我々の隊に配属となったパイロットだね?」
「はい。ソワレ・ホークス准尉です。」
男に差し伸べた手を取り、ソワレが握手を交わす。
「私はクレスト艦長、ガル・ビンセント大佐だ。よろしく、ソワレ。」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。」
ソワレに声をかけると、男、ガルが振り返る。その先には巨大な戦艦が控えていた。
「あれが我々の艦、クレストだ。ソワレ、君もこの船の一員として過ごすことになる。」
呼びかけるガルの隣で、ソワレが感嘆を覚える。
「君の専用機はまだ整備中なんだ。しばらくくつろいでいてくれ。」
「自分も手伝います。自分の機体ですし・・」
「そのときまでしばらくかかりそうなのだ。そのときになったら、遠慮なく手伝ってもらうつもりだ。」
意気込むソワレだが、ガルに言いとがめられて困惑を浮かべる。
「ハロハロ♪」
そこへ突如声がかかり、ソワレが驚きを見せる。その声は人のものではなく、機械的なものだった。
直後、球状の何かが跳ねながら飛び込んできた。マリアがそれを両腕で受け止める。
「コラコラ。部屋で待ってるように言ってたのに・・」
「ハローズ、サビシカッタ。マリアニアエテ、ヨカッタ。」
苦笑を浮かべるマリアに、その球体が声をかけてきた。
「スカイローズ少尉・・それは、もしかして・・・?」
「あ、紹介しておくわ。ハロシリーズのハローズ。バラ色のハロだからハローズ。」
困惑したまま訊ねるソワレに、マリアが球状のロボット、ハローズを見せた。その快活で自由奔放な動きに、ソワレは落ち着きを取り戻していった。
次回予告
新たにリードに加わることとなった1人の青年、ソワレ・ホークス。
世界の平和を願っていたソワレは、そのための剣を手にする。
マリアとの交流と有意義な時間。
そして、それぞれの願いの交錯。