GUNDAM WAR Lost Memories-

PHASE-03「すれ違う心」

 

 

「アルバ・メモリア、ソリッド、行くぞ!」

 アルバの掛け声とともに、ソリッドがアルテミスから出撃する。ソリッドがルーラーのザクスマッシュの軍勢を迎え撃とうとしていた。

“あなたも出てきたようね。”

 アルバに向けて、リリィが通信を送ってきた。

“何を考えているのかは知らないけど、邪魔だけはしないでよね・・”

「オレはオレのために戦う。お前たちがどうなろうと知ったことではない。」

 強気に言いかけるリリィに、アルバは淡々と返事をする。

“まぁいいわ・・とにかく、アイツらは私が倒す。この前の雪辱を晴らしてやるわ。あなたの手を借りずにね・・・!”

 リリィは言い放つと、彼女の駆るソルディンがザクスマッシュに向かっていく。ビームサーベルを引き抜き、ソルディンがザクスマッシュに向けて振りかざす。

 その一閃が、ザクスマッシュの1機の右腕をなぎ払う。ソルディンはハルの整備と改良によって、これまで以上の性能を発揮していた。

(さすがハル。こんな短時間で整備だけじゃなくて、改良まで施してくれるなんてね。)

 歓喜を胸に秘めて、リリィが果敢に攻め立てる。その猛攻に怯むリードの中、コーラサワーだけが逆襲に燃えていた。

「調子に乗っていられるのも今のうちだぞ・・すぐに引導を渡してやる!」

 いきり立ったコーラサワーの駆るザクスマッシュが、リリィの乗るソルディンに飛びかかる。振り下ろされたヒートホークが、ビームサーベルに受け止められる。

「この前のようにはいかないわよ!」

 言い放つリリィ。ソルディンが繰り出した一閃が、ザクスマッシュを突き飛ばす。

「くそっ!アイツだけじゃなく、こんなのにまで負けちまうわけにはいかねぇんだよ!」

 激昂するコーラサワー。ザクスマッシュがビームライフルを手にして、ソルディンを狙い撃つ。だがソルディンは素早く動いて、その射撃をかいくぐっていく。

「このっ!ちょこまかと!」

 苛立ちをあらわにするコーラサワーが、ソルディンに詰め寄っていく。だがこれは攻を焦る形となった。ビームライフルを持つザクスマッシュの右手が、ソルディンの一閃になぎ払われた。

「こ、こんなことって!」

 絶叫を上げるコーラサワーの乗るザクスマッシュが、力なく落下していった。

(私は、こんなところで手こずっている場合じゃないのよ・・・!)

 リリィは思考を巡らせながら、アルテミスや近くの村を狙っているザクスマッシュを見据える。ビームライフルによる的確な射撃で、ソルディンがザクスマッシュの攻撃を阻む。

(上からの攻撃はできない・・避けられたら、村に直撃してしまう・・・)

 的確な判断を巡らせながら、リリィはザクスマッシュを迎え撃っていった。

 一方、アルバの乗るソリッドも、ザクスマッシュの攻撃を切り抜けていた。その高い性能は、敵を寄せ付けなかった。

「くそっ!ここまで力の差を見せ付けられるとは!」

 リードのパイロットがソリッドの脅威に毒づく。ビームライフルやヒートホークで応戦するが、ソリッドを負傷させることもできなかった。

 だが地球連合が優勢であったわけではなかった。数では圧倒的にルーラーのザクスマッシュが多かった。

(多勢に無勢といったところね・・下手な手を打てば、私たちと人々のどちらか、あるいはどちらも被害を受けることになる・・・)

 胸中で思考を巡らせるカーラ。迫り来るザクスマッシュを、アルテミスも迎撃していっていた。

 だがザクスマッシュは執拗にアルテミスを狙っていた。強力な武装を備えているが、戦艦の巨体ゆえに格好の標的となっていた。

「ホークス2番、4番、ってぇ!」

 アルテミスの対空バルカン砲「ホークス」が火を噴く。さらに前方部ビームバズーカ「ライオス」が放たれ、ザクスマッシュを撃ち抜く。

「やはり戦艦か!一筋縄ではいかないが・・!」

 毒づくパイロットだが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。

「たかが普通の人間が、オメガである我々に敵うはずがないのだよ!」

 いきり立ったオメガによる攻撃が、アルテミスに向けて容赦なく飛び込んでいく。回避と迎撃を繰り返すアルテミスだが、被弾は免れなかった。

「まずいですよ、艦長!リリィを護衛に回したほうが!」

 キーオが呼びかけると、カーラは苦渋の決断をする。

「リリィ、アルテミスを守りなさい!敵機をうまく誘導して!」

“了解!・・アレを使って、一気に終わらせるんですね!?”

 カーラの指示にリリィが答える。周囲を取り囲んでいるザクスマッシュを引き離し、ソルディンがアルテミスに向かう。

 ソルディンがビーム射撃でザクスマッシュをアルテミスから引き離し、誘い出していく。

「“レイブラスター”起動。目標、敵MS。」

 カーラが静かに呼びかけ、キーオが操作パネルを叩く。アルテミス前方部から大砲が現れる。

 その銃砲の銃口にエネルギーが集束されていく。

 陽電子砲「レイブラスター」。アルテミスの最大の武器である。

 カーラとキーオは攻撃のタイミングを見計らっていた。ザクスマッシュがリリィによって1地点に集まる一瞬を見逃さずに。

 そしてザクスマッシュ数機がひとつにまとまった瞬間だった。

「レイブラスター、発射!」

「発射!」

 カーラ、キーオの呼びかけの直後、レイブラスターが放たれる。誘い込まれたザクスマッシュ数機がその閃光に巻き込まれ、殲滅させられる。

「やった!うまくいきましたね!」

 歓喜の声を上げるレミー。だがまだ気を抜けない状況であることに変わりはなかった。

 村に銃口を向けているザクスマッシュたち。その攻撃を阻むかのように、ソリッドがザクスマッシュを撃墜していった。

 その交戦を、ソルディンを駆るリリィもモニターで眼にしていた。そこで彼女は、アルバの行動に眉をひそめた。

 ザクスマッシュを攻撃するソリッドは、下方にいる敵機にも躊躇なく銃口を向けていた。

「アイツ、まさか!?

 その動きにリリィは眼を見開く。この角度から攻撃すれば、村を攻撃しかねない。

「攻撃中止!そこから撃ったら村に飛び込むわ!」

 たまらずリリィが呼びかけるが、アルバは攻撃の手を緩めない。

「艦長、アイツを止めてきます!このままでは村が危ないです!」

 リリィはカーラに呼びかけると、アルバを止めるべく発進する。ソリッドは向かってくるザクスマッシュを次々と迎撃していった。

「あなた、いい加減にしなさい!これ以上の勝手な行動は・・!」

 リリィがさらに呼びかけるが、アルバは戦闘をやめようとしない。このままでは村人が被害を受けるのも時間の問題だ。

「アンタ、いい加減にしなさいよ!身勝手に戦うことが、どれだけ悲しく罪深いことだか・・!」

“オレはオレの答えを見つけるために戦う。他のことは、オレには関係ない。”

 怒鳴りかけるリリィに、アルバがようやく返事をしてきた。だがその言葉すら身勝手に思え、リリィが激昂する。

「これから私たちの指示に従って!でないとあなたを敵と見なして、攻撃しますよ!」

“血迷ったか、お前!?この状況でオレを撃つ気か!?”

 鋭く言い放つリリィに、アルバが逆に怒号を返す。

“結果論であるが、オレの戦いがお前たちの戦況を有利にしている。ここでオレを撃てば、その優位までも崩壊させることになるんだぞ。オレはどちらでも構わんが、お前はそれでもいいのか?”

「いい!?この下には村と、そこに住む村人がいるのよ!下手な攻撃をすれば、村人に被害をもたらすことになるのよ!」

“それもオレには関係のないことだ。話がそれだけなら、このまま戦闘を続行する。”

 リリィの指示をきっぱりと一蹴するアルバ。我慢の限界に達した彼女が、彼の乗るソリッドの前に立ち塞がる。

「これ以上、人々の悲しみを増やすわけにはいかない・・あなたが関係ないといって、人々に向けて銃を向けるなら、私はあなたを敵と見なす・・たとえあなたが不本意であっても・・!」

 リリィが言い放ち、ソルディンがソリッドにビームライフルの銃口を向ける。しかしアルバはそれでも動じない。

 そこへザクスマッシュが飛びかかり、ソリッドとソルディンを狙ってきた。気持ちを切り替えて、リリィが迎撃に出る。

 アルバもザクスマッシュの迎撃を続ける。リリィは村に被害を及ぼさないよう、人気のない海へリードを誘い込んでいた。

(アイツが身勝手を貫く以上、私がうまく引き付けるしかない・・・!)

 海上にて、向かってきたザクスマッシュを狙い撃つリリィ。結果的にアルバの参戦が功を奏し、地球連合はリードに対して優位に立っていた。

(ソリッドが加わったことで、連合軍は一気に戦力を上げている・・だがソリッドは勝手な行動が目立つ。連携がまるでなっていない・・)

 ルーラーで戦況を見ていたワイルが、ソリッドの動きについて分析を入れていた。

(いずれ内乱が起こり、内部崩壊を引き起こすことになるだろう・・だが今はそのときではない・・)

「信号弾を撃て。今回はここまでだ。」

 考えをまとめたワイルが指示を出す。ルーラーから3色の信号弾が放たれ、部隊の撤退を知らせる。

「追う必要はないわ。こっちも深追いして無事に帰れるほどの余裕はないのだから・・」

 カーラが呼びかけ、退くリードを見逃した。体勢を整えるべく、アルテミスも休息に入ることとなった。

 

 2度までも連合軍に敗北することとなったルーラー。悔しがるコーラサワーの前に、ワイルが通りがかる。

「艦長、ひどいじゃないですかー!秘策があるように言っておきながらー!」

 飛びついてきたコーラサワーが抗議の声を上げてきた。しかしワイルは冷静に答えてきた。

「そう聞こえてしまったか・・だがその秘策のための分析、というべきだったか・・」

「艦長、そんな〜・・!」

 ワイルに対するコーラサワーの抗議が弱々しくなる。

「そう気落ちするな。まだまだこちらに勝機は十分のあるのだからな。」

「えっ!?ホントでありますか!?

 ワイルのこの言葉を聞いて、コーラサワーがすぐに立ち直った。

「だがそう何度も任務失敗を行うわけにもいかない。次の戦いにおける秘策はあるが、もう失敗は許されないことも確かだ。」

「ご心配なく!このパトリック・コーラサワーが、今度こそルーラーとリードに勝利をもたらしてみせます!」

 言いかけるワイルに、コーラサワーが意気込みを見せる。

「張り切る前に体を休めておけ。お前の機体も修理と整備がついていないのだからな。」

「アハハ・・お言葉に甘えさせていただきます・・」

 ワイルの言葉に、コーラサワーが苦笑を浮かべて答える。

「他の者も次の出撃に備えて待機だ。万全を怠るな。」

 ワイルは他のクルーたちにも指示を出すと、そのまま廊下を進んでいった。次こそは必ず勝利してみせると、コーラサワーは意気込みを見せていた。

 

 壮絶な戦いを終えて、アルテミスに帰還したソリッドとソルディン。艦内も徐々に平穏な空気が戻りつつあった。

 2機がドックに戻り、ハルが安堵の吐息をついたときだった。

 突如ドックに叩く音が響き渡った。ハルが何事かと振り向くと、リリィがアルバの頬を叩いていた。

「あなた・・本当に何を考えているのよ・・・!?

 リリィが睨みつけて鋭く言い放つが、アルバはさほど動じた様子を見せない。

「あの下には村があった・・にもかかわらず、あなたはそれを気にせずに戦闘を続けた・・・あなたは、村人たちがどうなってもよかったっていうの!?

「オレはオレの求める答えのために戦っている・・戦いの中に、オレの答えがあるのかもしれない・・そのためなら、他がどうなろうと関係ない・・」

 強く言いかけるリリィだが、アルバは無関心の言葉を返す。

「アンタ!」

 その態度に我慢がならなくなったリリィが、アルバにつかみかかる。だが殴りかかろうとしたところで、彼女がハルに止められる。

「ダメだよ、リリィ!こんなところで暴力沙汰なんて!」

「放して、ハル!コイツは人の命を何とも思っていない外道よ!」

 必死に止めるハルだが、リリィはアルバへの怒りを消そうとしない。そのドックへ訪れたカーラとレミーも、それを見かねて駆け込んできた。

「やめなさい、リリィ、アルバ!」

「そうですよ!落ち着いてください、2人とも!」

 カーラとレミーがリリィとアルバに呼びかける。カーラによってアルバがリリィから離される。

「どうして止めるんですか!?コイツは自分のためだけに戦っている身勝手な人間なんですよ!」

「やめなさい、リリィ!アルバは私たちの仲間なのよ!もし敵なら、私たちを攻撃しないのも味方となるのもおかしいわ!」

「いいえ!コイツは敵です!人の命を何とも思っていない・・オメガと同じよ!」

 カーラの言葉も聞き入れないリリィ。だがアルバを問い詰めることができなくなり、彼女は興醒めしたかのように、ドックを飛び出していってしまった。

「リリィさん!」

 レミーが呼び止めるが、リリィは聞かずにそのまま去っていってしまった。リリィに問い詰められたことにも動じていないアルバに、カーラが心配の声をかける。

「大丈夫?ケガとかはない?」

「あぁ。心配するな・・」

 彼女に答えるアルバが、ドッグの出入り口に眼を向ける。

「オレはオレのために戦う。それはお前にも言っておいたはずだ。」

「それは分かってるわ。ただその考え方を、リリィは受け入れられないのよ・・」

「ん?どういうことだ?」

 深刻な面持ちを浮かべるカーラに、アルバが眉をひそめる。

「あの子は昔、オメガによって全てを奪われたのよ・・」

「奪われた?」

「そう。奪われた・・家族を殺されただけではない。故郷も全部滅びているのよ・・・」

 カーラの言葉を受けて、アルバもそれが悲しみに満ちた出来事であることは想像ができた。だが実感が持てないため、深刻に考えることができなかった。

 命の大切さを重く考えている。リリィのその感情は、彼女の過去の悲劇が大きく起因していた。

 

 怒れる気持ちを抱えたまま、リリィは自分の部屋に戻ってきていた。どうすることもできない状況に、彼女はどうしようもない気持ちを捨てきれないでいた。

(どうしてあんなヤツを・・アイツは人の命を何とも思っていない・・・軍人でも何でもない一般人を殺めることに抵抗を感じていない・・・)

 アルバの考えを受け入れられず、リリィが心の中で苛立ちを膨らませる。

(私は命を奪うことを平気で行える人を許せない・・あのとき、私の家族を殺したオメガのように・・・)

 リリィの脳裏に、かつての苦い記憶が蘇ってきていた。それは家族や故郷をオメガに奪われたときの出来事だった。

 理不尽に奪われた大切な人たちの命。その悲劇が、リリィが戦いに身を投じる引き金となった。

 

 

次回予告

 

命とは重く尊いもの。

だが人の狂気と大きな力が、その意味を希薄にする。

力を持つことと、戦うことの意味。

アルバは今、その真意を知ることとなる。

 

次回・「命の重さ、戦いの意味」

 

 

作品集

 

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