GUNDAM WAR –Lost Memories-

PHASE-01「戦場の翼」

 

 

人類は新たなる進化体「オメガ」を生み出していた。

オメガは人類が長年の研究の果てに生み出された種族で、身体能力、知能、あらゆる面で旧人類を上回っていた。

 

だがその高い潜在能力が逆に自分たちの存在を脅かされかねないと考えた旧人類は、オメガの壊滅を企て、攻撃を開始した。

その突然の襲撃に反感を覚えたオメガも、培ってきた技術を結集させた武装を持って、旧人類の軍勢を脅かした。

 

その混乱と抗戦が増長し、ついに戦争に発展するに至ってしまった。

 

世界は未だ、血塗られた激情に駆り立てられていた・・・

 

 

 世界は未だ、戦争という混乱の中にあった。その戦争を一刻も早く終結させようと願う者も多い。

 地球連合アジア第11基地で、遠くの空を真っ直ぐに見つめている少女も、その1人だった。

 リリィ・クラウディ。本名、ナオミ・カツラギ。地球連合のパイロットであり、現在は連合戦艦「アルテミス」に乗艦している。

 リリィは戦乱の中で起きたある事件によってオメガに家族を殺されている。今の彼女には、その悲しみと怒りが渦巻いていた。

「また昔のことを思い出しているの、リリィ?」

 そこへ声をかけられて、リリィは振り返る。その先には制服に身を包んだ1人の女性がいた。

 カーラ・サルビア。地球連合軍中佐にして、アルテミス艦長。普段は軍人とは思えないほどのおちゃらけた態度を振舞うが、シュミレーションや実践となると的確かつ高度な指揮能力を発揮する。

「サ、サルビア艦長・・すみません、こんな情けないところをお見せしてしまって・・」

「ウフフ、気にしなくていいのよ。ただ、私としては名前で呼んでほしいわね。」

 一礼するリリィにカーラが微笑んで弁解を入れる。その中での申し出に、リリィは困惑を覚える。

「そうですか・・ではカーラ艦長とお呼びしますね。」

「う〜ん・・本当は“カーラ”って呼んでほしかったけど・・しょうがないか・・」

 リリィが言いかけた答えに、カーラは渋々納得することにした。

「カーラ艦長、こちらにいらしていたのですか・・」

 そこへ1人の青年が駆けつけ、カーラに声をかけてきた。

 ハル・スタンディ。連合軍のエンジニアで、アルテミスのメカニック担当である。機械好きで、簡単な構造の機械ならすぐに修理ができる。MS(モビルスーツ)や戦艦の整備も幾度も行っているため頼りにされているが、鈍感さや優柔不断など、頼りない一面も持つ。

「艦長、アルテミスの整備、完了しました。各部、各武装、全て異常ありません。」

「そう。そろそろ議会のお偉いさんたちからのご命令を聞きに行くとするわね・・リリィ、ハル、あなたたちは先にアルテミスに戻ってて。」

 ハルの報告を受けて、カーラが指示を出す。リリィとハルが敬礼を送り、それに答える。

(これからとんでもないことが起こりそう・・雲が、空にひとつもない・・・)

 ふと空を見上げたリリィが一抹の不安を覚える。空は雲ひとつない晴天だった。

 

 海岸付近の海中に潜伏する1隻の戦艦。オメガの軍勢「リード」所属の戦艦「ルーラー」である。

 そこに所属する兵士たちは、連合軍への攻撃に備えていた。その中で1人、息巻いている青年がいた。

 パトリック・コーラサワー。リード所属のMSパイロット。自信過剰な性格のお調子者であるが、実力は本物であり、模擬戦では勝ち星を次々と上げている。

 久々の実践であったため、コーラサワーは普段以上の意気込みを見せていた。

「久しぶりの本物の戦闘だが、腕は全くさび付いちゃいねぇぜ・・いいか!このパトリック・コーラサワーがいる限り、この部隊に敗北はない!」

 はやる気持ちを抑えきれなくなり、コーラサワーが意気込みを見せる。だが他のクルーたちは彼をはた迷惑に感じていた。

「逆に言えば、連合の連中は運が悪かったな。どんな手を打ってこようが、オレの戦闘テクニックには敵わねぇ!」

「ずい分と張り切っているような、お前。」

 そこへルーラーの艦長、ワイル・ヴァイスが姿を現した。クルーたちとともに敬礼を送りながら、コーラサワーが答える。

「お任せください、艦長。このパトリック・コーラサワーが、必ず作戦を成功させてみせます!」

「大きく出たな。ならばその自信で、見事アルテミスを撃ち落としてみせろ。」

 意気込みを見せるワイルに、自信ある返答をするコーラサワー。自分がいる限り、部隊に敗北はない。彼はそう確信して疑わなかった。

「よし。全機出撃!アルテミスを攻め落とせ!」

 ワイルの呼びかけを受けて、ルーラーは行動を開始した。

 

 連合の上層部からの連絡を受けたカーラは、アルテミスに戻ってきていた。既にリリィとハルは艦内に戻っており、彼女の機体の点検を行っていた。

 連合軍量産型MS「ソルディン」。連合軍のMSパイロットが基本的に搭乗する機体で、メインカラーは灰色であるが、一部のパイロットは専用機として独特のカラーリングをされているものもある。

 リリィ専用ソルディンのメインカラーは黄色となっている。

「うんうん。不備はなし。もし襲撃にあっても、すぐに迎撃に出られるわ。」

「当然。僕のメンテナンスに手抜かりはないって。」

 頷きかけるリリィに、ハルが自信を込めて言い放つ。

「頑張っているようね、2人とも。」

 そこへカーラが声をかけ、ハルが敬礼を送る。

「でも、あまり気負いすぎても逆効果だから。うまく自分の心と体に折り合いをつけて。」

「分かっています・・ところで艦長、上は何か・・?」

 カーラの言葉を受け入れながら、ハルが質問を返す。

「直ちにアジア第8基地に急行せよ。リードの勢力集中に備えて、防衛線を張るとのことよ。」

「相変わらず上は人使いが荒いんですから・・自分たちは重労働はせずに、ほとんど高みの見物をしてるんですから・・」

 カーラの言葉を聞いて、ハルがため息をついて愚痴をこぼした。

「そんな言葉が上層部の耳に入ったら、真っ先に首が飛んじゃいますよ。」

 そこへ1人の少女が声をかけ、ハルが苦笑いを浮かべる。

 マナ・マイラート。連合軍所属のオペレーターで、現在はアルテミスの通信主任を務めている。

「マナちゃん、そんな意地悪いうのはやめてって・・」

 苦言を口にするハルに、リリィたちが笑みをこぼしていた。

 そのとき、アルテミス艦内に警報が鳴り響いてきた。緊張感を覚えるカーラたちの前に、2人の男女が駆け込んできた。

 キーオ・ブルース。アルテミスの操舵手を務めている。元々は戦闘機のパイロットであったが、上官たちの推薦を受けて、戦艦の操舵を行うようになった。

 レミー・レッドル。アルテミスのオペレーター。主にレーダー探査を行っている。

「艦長、大変です!リードのMSが!」

「えっ!?

 キーオからの報告に、カーラだけでなく、ハルも驚きの声を上げる。

「第一級戦闘配備!迎撃に出るわよ!」

「了解!」

 カーラの指示にハル、キーオ、レミーが答える。

「リリィ、あなたはソルディンに待機。いつでも出られるようにしておいて。」

「任せてください。この基地やアルテミスには絶対に手を出させません。」

 続けて呼びかけるカーラに、リリィが自信を込めて答える。カーラも指揮のために、アルテミスのブリッジに向かった。

 

 リードの量産型MS「ザク」。ザクは機能、性能によって大きく3種に分けられる。

 通常型の「ザクスマッシュ」、近距離型の「ザクスラッシュ」、遠距離型の「ザクブラスト」。

 ルーラーから発進されたのは、ザクスマッシュを中心としたMS部隊だった。

「さーて、覚悟しておけよ、連合のヤツら。眼にもの見せてやるから。」

 コーラサワーが不敵な笑みを浮かべて言い放つ。彼もザクスマッシュの1機に搭乗していた。

「それじゃオレが先陣を切るぜ!一気に終わらせてくるからさ!」

 いきり立ったコーラサワーが先に飛び出した。連合軍基地に向けて、ビームライフルを発射する。

 基地にて待機していたソルディン数機が、その射撃を受けて倒れる。

「待機していたソルディンがやられた!」

「直ちに攻撃しろ!リードに撃たせるな!」

 連合軍の兵士たちが声を張り上げ、迎撃に出る。ソルディン数機がビームサーベルを手にして迎え撃つが、コーラサワーの乗るザクスマッシュが戦斧「ヒートホーク」を振りかざし、ソルディンをなぎ払う。

「どうした!?こんなもんじゃオレたちは止められないぞ!」

 笑みを強めるコーラサワー。リードの奇襲を受けて、連合軍は窮地に立たされていた。

 そのとき、コーラサワーの駆るザクスマッシュのレーダーが、戦艦の接近を感知する。彼が眼にしたモニターに、アルテミスの姿が映し出される。

「お出ましになったか、アルテミス・・数々の修羅場を潜り抜けてきたそうだが・・」

 不敵な笑みを浮かべたコーラサワーが、アルテミスに狙いを映す。

「場数も実力もこっちのほうが上なんだよ!」

 コーラサワーが叫ぶと同時に、数機のザクスマッシュがビームライフルで攻撃を仕掛けた。

 

 アルテミスのモニターも、ザクスマッシュの軍勢を捉えていた。

「フレイムG1、G2、発射!リリィ、発射後に出撃して!」

“分かりました!”

 カーラの呼びかけにリリィが答える。艦体上部に備わっているビーム砲「フレイム」2機が発射され、ザクスマッシュを分断する。

「くそっ!派手な攻め方を!」

 コーラサワーがアルテミスの砲撃に毒づく。リードの体勢が崩されていくのを見計らって、リリィが出撃する。

「リリィ・クラウディ、ソルディン、いきます!」

 アルテミスからリリィの乗るソルディンが飛び出してきた。ソルディンはビームライフルを発射し、ザクスマッシュのビームライフルを撃ち抜いていく。

「上等なのが出てきたじゃねぇか・・オレが相手をしてやるよ!」

 いきり立ったコーラサワーがリリィのソルディンに向かって飛びかかる。ザクスマッシュが振り下ろすヒートホークを、ソルディンのビームサーベルが受け止める。

「何っ!?

「オメガだからって、粋がってると痛い目見るよ!」

 驚愕するコーラサワーに、リリィが言い放つ。ソルディンがビームサーベルを押し切り、ザクスマッシュを突き飛ばす。

「なかなかやるようだな。連合の人間にしちゃやるな・・だが上には上がいることを、お前にも教えてやるよ!」

 感情を高まらせたコーラサワーが、リリィのソルディンに向かって進撃するヒートホークとビームサーベルがぶつかり合い、激しく火花を散らす。

(このザクスマッシュ、なかなかやるじゃない・・だけど!)

 心の声を張り上げたリリィが、コーラサワーに詰め寄る。

「私は、負けるわけにはいかないのよ!」

 いきり立ったリリィが、果敢にコーラサワーに挑む。だがそれは攻を焦る行為であり、ソルディンの攻撃は空を切る回数が多くなってきた。

「ずい分空回りになってきたぞ!」

 不敵な笑みを浮かべてきたコーラサワーが反撃に転ずる。ザクスマッシュが振りかざしたヒートホークの一閃が、ソルディンのビームサーベルを持つ右手をなぎ払う。

「えっ!?

 痛恨の攻撃を受けて、リリィが驚愕する。ザクスマッシュのさらなる打撃を受けて、彼女の乗るソルディンが突き飛ばされる。

「キャッ!」

「これでとどめだ!」

 悲鳴を上げるリリィと、追い討ちを仕掛けるコーラサワー。ザクスマッシュがビームライフルを構え、ソルディンに狙いを向けた。

 そのとき、一条の光が戦場に飛び込み、コーラサワーのザクスマッシュのビームライフルを撃ち抜いた。

「何っ!?

 突然のことに驚愕するコーラサワー。リリィも何事かと困惑を覚えていた。

 そこへ飛び込んできたひとつの機影。それは機動兵器の中でも人型の部類に入るもの。容姿もシンプルなものとなっていた。

「何、あのMS・・・!?

「あれはまさか、ソリッド・・・!?

 リリィが驚愕する一方で、コーラサワーを始めとしたリードの面々には、その機体「ソリッド」に見覚えがあった。

「あれはリード(こっち)のもんのはずだろ!?こんなのが出てくるなんて聞いてないって!」

 たまらず声を荒げるコーラサワー。だが彼らの本当の驚きはこれからだった。

 リードの兵器であるはずのソリッドが、突如ザクスマッシュに向けてビームライフルを発射した。突然の攻撃に回避できず、ザクスマッシュ数機が撃墜、または攻撃不能の状態に追い込まれる。

「バカな!?ソリッドがオレたちに攻撃!?いったい誰が乗ってるんだ!?

 さらに声を荒げるコーラサワー。向かってきたソリッドに対し、彼の乗るザクスマッシュも迎撃に出る。

 ソリッドが振り下ろしてきたビームサーベルを、ザクスマッシュのヒートホークが受け止める。だが機動力も速さも上回るソリッドの放った横なぎの一閃が、ヒートホークを持つザクスマッシュの右腕を切り裂いた。

「何っ!?

 戦力をもがれたコーラサワーのザクスマッシュが力なく落下する。

「こんなの全然聞いてないってのーーー!!!

 地上に落ちるザクスマッシュの中で、コーラサワーが絶叫を上げる。リードの前に立ちはだかった機体に、戦場は新たな波紋を引き起こしていた。

 

 オメガの人口惑星「プラネットG」。オメガが持てる技術をつぎ込んで開発した小惑星である。

 構造上は機械的であるが、木々、草花などの自然の培養も充実しており、生活面での不自由は解消されていた。

 そのプラネットG第7地区にあるリード第1基地。リードの拠点であるその場所は、リードの中でも最新鋭の戦力が集結していた。

 その第1基地を訪れた1人の青年。背丈の高い黒髪の青年で、真面目な印象を周囲に与えていた。

「待っていたわよ、ソワレ・ホークス准尉。」

 青年、ソワレを迎えたのは、赤い軍服に身を包んだ赤茶色の髪の少女だった。

「歓迎ありがとうございます、マリア・スカイローズ少尉。ソワレ・ホークス准尉、ただ今到着いたしました。」

「そんなにかしこまらなくてもいいわ。公衆の面前ではともかく、プライベートにまでそういう堅苦しいのを持ち込まれるのは好きじゃないから・・」

 敬礼を送るソワレに、マリアが笑みを返す。

「時間までしばらくあるし、それまで私がいろいろと案内するわね。」

「ありがとうございます!よろしくお願いします、少尉!」

「だから、そんなにかしこまらなくてもいいって言ってるでしょう?今はリラックス、リラックス。」

「す、すみません・・失礼があっては困ると思って・・・」

 眼を吊り上げるマリアに、ソワレが苦笑いを浮かべる。ため息をついて気持ちを落ち着かせると、マリアはソワレを導く。

「あなたはオメガでありながら地球を住居としてきた。そういったオメガも少なくないわ・・ただ・・」

 語りかけるマリアの笑みが徐々に曇っていく。

「旧人類によって、何人かが命を落としている・・ただオメガであるだけで・・・」

「・・・そんな不条理は、早く絶やしたほうがいいですね・・・」

 マリアの言葉にソワレも深刻さを込めて答える。彼はおもむろに空に眼を向けた。

(そう・・僕はそのためにリードの入隊を、軍人を志願したんだ・・・)

 自身の決意を胸に宿すソワレ。彼もまた、果てしない戦いに身を投じようとしていた。

 

 

次回予告

 

混戦の中現れた謎の機動兵器、ソリッド。

それを操る謎の青年。

彼は何者なのか?

投石によって生じた波紋が、新たなる戦いの幕を開ける。

 

次回・「ソリッド」

 

 

作品集

 

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