GUNDAM WAR –Last Destiny-
PHASE-07「未来の行方」
射撃と回避を繰り返すキラのフリーダムとドーマのタイタン。ドーマの援護に向かおうとするレイのレジェンドだが、リリィのソリッドが行く手を阻んだ。
「やめなさい!こんな破壊の限りを尽くして、人間の生き様を奪うことが、あなたたちのしたいことなの!?」
「議長の目指す世界こそが、平和の理想郷・・全ては生まれ変わる・・議長の下に!」
リリィの呼びかけを聞かずに、冷淡に言い放つレイ。レジェンドがドラグーンを射出して、ソリッドを狙う。
「ドラグーン!」
リリィが毒づき、ソリッドがとっさに回避行動を取る。だがドラグーンによるオールレンジ攻撃とその回避には空間認知能力が必要となり、それが乏しいリリィに回避の手段はなかった。
「もう、こんなの反則じゃない・・うわっ!」
リリィが文句を口にした瞬間、ソリッドの左腕と左足がドラグーンのビームを受けて損傷する。
「リリィ!」
そこへマリアの駆るルナが駆けつけ、6門のレールガンを同時発射する。だがレイがすぐに気付き、レジェンドが即座に回避する。
「あの人の考えていることのどこがいいのか、じっくり語ってもらいたいわね・・もっとも聞く気はないけれど!」
マリアが皮肉を口にして、ルナがレジェンドに飛びかかる。振り下ろされたクレッセントを回避するレジェンドだが、ルナにそのまま組み付かれる。
「ぐっ!」
「これでドラグーンを使ったら、あなたも巻き添えになるわよ!」
うめくレイにマリアが呼びかける。だがレジェンドのドラグーンの射撃は、的確にルナのみに撃ち込んでいた。
「えっ!?」
「甘い!」
声を荒げるマリアに、レイが鋭く言い放つ。機動力を奪われたルナが、力なくレジェンドから離れていく。
「こんなこと・・このままじゃ・・・!」
危機感を覚えるマリア。レイの駆るレジェンドが、ソリッドとルナに向けて射撃を行おうとした。
「リリィ!」
「マリア!」
そこへアルバのフューチャー、ソワレのゼロが駆けつけてきた。ゼロが突き出してきたトラスカリバーを、レジェンドが上昇して回避する。
「大丈夫か、リリィ!?」
「アルバ・・私は大丈夫・・でも、ソリッドが・・・」
呼びかけるアルバにリリィが微笑んで答える。だがソリッドもルナも戦闘を続行できる常態ではなくなった。
「リリィ、マリアを連れてここを離れろ。これではもう戦えない・・」
「うん・・でも、アルバは・・・?」
「アイツを止めるしかない・・アレを放置すれば、オレたちは撃たれることになる・・」
リリィと言葉を交わしてから、アルバがレジェンドを見据える。マリアの無事を確かめてから、ソワレはゼロを駆り、レジェンドと交戦していた。
「ソワレ、お前はレクイエムを止めろ!そいつの相手はオレがする!」
「アルバ!?」
アルバの呼びかけにソワレが声を荒げる。
「オレは生きるために戦う。お前は世界の平和のために戦っている。ならばお前のやるべきことは、デュランダルに攻撃停止を呼びかけて止めることだ。」
「だったらお前がレジェンドと戦うことが、生きることとどう関わってくる!?」
「それはまだ分からない・・だがあの機体のパイロットと言葉を交わすことで、それが見えてくる気がする・・」
言葉を交わすアルバとソワレ。アルバの言葉を聞いて、ソワレがレクイエムの発射口のある方向に目を向ける。
「ひとつ言っておく・・オレはお前に共感したわけでなない。それはエターナルやザフトに対しても同じだ。だが今やるべきことは、見えている破壊行為を止めることだ・・」
「それはオレも同じだ・・ただ、それぞれの考えが、同じ目的に向かっているだけだ・・」
アルバに意思を告げると、ソワレはゼロを駆り、レクイエム破壊のために進行していった。
「行かせるか!」
ソワレを止めようとするレイだが、レジェンドの前にフューチャーが行く手を阻む。
「お前の相手はオレだ!すぐに攻撃をやめるなら、オレもこれ以上は手を出さない!」
「ふざけるな!生まれ変わる世界のために、オレたちは、この戦いで勝利をつかみ取らなければならない!」
呼びかけるアルバだが、レイは引こうとしない。レジェンドがドラグーンを操作して射撃を行うが、フューチャーは素早く動いてビームの雨を回避する。
そのとき、アルバは奇妙な感覚を覚えて目を見開いた。レジェンドのパイロットであるレイが、別の人の顔と重なったように感じた。
「この感じ・・お前は・・・!?」
「お前も気付いたのか・・」
声を荒げるアルバに、レイが冷淡な口調で答える。
「何者だ、お前は・・・!?」
「オレは、ラウ・ル・クルーゼだ・・・!」
レイが口にした名にアルバが息を呑む。2年前の戦争でのザフトの最大の砦として立ちはだかった男について、アルバも聞かされていた。
「どういうことだ!?・・ラウ・ル・クルーゼは、死んだと聞いているぞ・・・!」
「そうだ・・確かにあのときラウは死んだ・・だが、オレもラウだ・・・!」
「何をバカな!?死んだ人間が蘇ることなど!?」
「それがオレの運命・・ラウとしての運命なんだ・・だからもう終わらせる・・今度こそ全て・・そしてあるべき正しき姿へと戻るんだ、人は・・世界は!」
緊迫を募らせるアルバに、いきり立つレイ。レジェンドのドラグーンの射撃が、ついにフューチャーを捉えた。
「違う!ラウ・ル・クルーゼではない!」
だがフューチャーは損傷を受けるまでには至っていなかった。窮地を潜り抜けたアルバが、レイに呼びかける。
「誰であろうと、自分以外の誰かにはなれない!オレもディアス・フリークスとしての過去を捨て、アルバ・メモリアとしての今を生きている!」
「いや、お前はディアス・フリークス!その事実も運命も捻じ曲げることはできない!」
「たとえその運命の中で生まれたとしても、それからの未来を決めるのは自分自身だ!」
アルバが言い放ったこの言葉に、これまで冷静さを保っていたレイが動揺を覚える。
「本当のお前は誰だ!?お前自身は、この世界を、自分未来をどうしたいんだ!?」
「それは・・・」
「オレはこの先の未来を生きる!オレ自身が決めていくんだ!」
アルバが言い放つ決意を耳にして、レイは動揺にさいなまれる。動きの鈍ったレジェンドに向けて、フューチャーがエクスカリバーを振り下ろす。
この一閃がレジェンドの左腕と背面のドラグーンプラットフォームを切り裂き、さらにフューチャーは向かってきたドラグーンをエクスカリバーでなぎ払った。
「ぐああぁっ!」
コックピットにも爆発が起こり、レイが絶叫をあげる。決定打を受けたレジェンドが動きを止め、宇宙の流れに乗ってフューチャーから離れていった。
トライデストロイヤーの発射を狙うドーマのタイタンと、接近と狙撃を図るキラのフリーダム。だがタイタンはフリーダムの攻撃をかいくぐり、チャージを進めていた。
「やっとだ!やっとのことで理想郷に手が届く!それを踏みにじりたいのか、お前もラクス・クラインも!?」
「違う!僕もラクスも、本当の平和のために戦っている!議長が作ろうとしているのは、本当の平和じゃない!」
高らかに言い放つドーマに、キラが言葉を返す。
「だがお前が選んだ道は、本当にお前自身のものなのか!?結局はラクス・クラインに踊らされているだけではないのか!?」
「僕もラクスも、自由のある平和を求めている!あなたが望んでいるような、与えられた運命じゃない!」
「それを証明することはできない!私にもお前にも彼女にも!相手が違うだけで、私もお前も他人に意思を預けていることに変わりはない!」
「これは僕の決意だ!人は誰だって、自分自身で歩いていくことができるんだ!」
言い放つドーマにキラが反発する。ドラグーンを駆使して攻め立てるフリーダムだが、タイタンはこれをも回避する。
「そこまで言い張るならば、私を倒し、ラクス・クラインを守ってみせろ!戦力を削ぎ落とすだけでは、このタイタンは止められないぞ!」
ドーマが目を見開き、タイタンが砲撃の矛先をエターナルに向ける。トライデストロイヤーのエネルギーチャージが、完了目前にまで迫っていた。
(ここで撃たせたら、エターナルが!・・このフリーダムでも、あんなのをまともに受けたら・・・!)
危機感を覚えると同時に、互いの策を求めて思考を巡らせるキラ。せめて攻撃を命中させて動きを封じなければ、フリーダムとエターナルのどちらが確実に破壊される。
「これでお前に成す術はない!たとえお前とて、この状況を打破することはできない!」
ドーマが勝ち誇り、ついにタイタンがトライデストロイヤーのチャージを終えた。
「終わりだ!」
「くそっ!」
タイタンがエターナルに向けてトライデストロイヤーを放とうとしたときだった。
覚醒を果たしたキラ。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。動きがさらに機敏になったフリーダムが、ビームサーベルを投げつけてタイタンに叩きつける。
「この程度で狙いが外れるようなことは・・!」
なおもエターナルへの砲撃を図ろうとするドーマだが、ドラグーンの放ったビームを受けて、タイタンが体勢を崩される。
「何っ!?」
驚愕の声を上げるドーマ。ビームサーベルを受け止めたフリーダムが、直後にドラグーンとレールガンを展開。タイタンに向けてフルバーストを解き放った。
「しまっ・・うわあっ!」
一斉射撃を直撃されてタイタンが大破。その衝撃を受けてドーマが絶叫を上げる。
機動力の低下したタイタンが、動けずに宇宙を流れていく。
「ラクス、レクイエムは!?」
“ソワレさんが向かっています。キラはメサイアに向かってください。”
キラの呼びかけに、エターナルにいるラクスが答える。
「分かった・・ラクス、ミーティアを!」
キラがさらに呼びかけ、エターナルに1度接続されていたミーティアをフリーダムが再び装備する。デュランダルを止めるため、キラとフリーダムが加速していった。
負傷したソリッドとルナ。マリアはリリィを連れてエターナルに向かっていた。
「エターナル、機体が損傷した・・1度帰艦するわ・・」
“分かった。急いでくれ。”
マリアの呼びかけにバルドフェルドが答える。ルナがソリッドとともに、エターナルに接近する。
「エターナル・・そこだと私は・・・」
「文句は後でじっくり聞いてあげるわ。今はエターナルに・・」
リリィが言いかけると、マリアが言いとがめる。ソリッドとルナがエターナルに収容されていく。
それぞれの機体から降りたリリィとマリア。リリィはマリアに肩を貸してもらい、ラクスたちのいる司令室に行き着いた。
「あなたは・・ソリッドに乗っていたのですね・・・」
リリィの姿を見て、当惑を見せるラクス。
「負傷したから仕方なくここに連れてきたわ・・放り出すなら帰れるようにしてから・・」
マリアが事情を説明したとき、リリィが彼女を横に突き飛ばし、取り出した銃をラクスに向ける。突然のことに周囲が騒然となり、マリアも驚愕するが、ラクスは冷静に視線を返していた。
「あなたたちにはここで大人しくしてもらう。迎撃だけに専念してもらうわよ・・」
「おいおい、厄介なお客を連れてきたもんだな・・」
忠告するリリィに、バルドフェルドが皮肉を口にする。
「議長のデスティニープランもだけど、あなたたちの取った行動にも問題があるわ。一方的に攻め立てるようなことを・・」
「それは分かっています・・ですが、一刻も早く手を打たなければ、レクイエムによってオーブが滅びることになります・・説得の言葉をかける時間があれば・・」
「ないとは言わせないわよ。1度でも、発射停止を呼びかけていれば、戦闘を行わずに済んだかもしれないのに・・」
ラクスの言葉に苦言を返すリリィ。2人は互いに視線を向けたまま、動きを見せない。
「とにかく、これ以上は何の攻め手も打たないで・・アルバや、あなたの信じている人に全てを委ねましょう・・」
リリィはラクスに言いかけると、構えていた銃を下げる。メイリンが銃を取り上げようとするが、マリアに首を振られて止められる。
「今は祈るしかありません・・世界に、本当の平和が訪れることを・・・」
ラクスが囁くように言いかけた言葉に、リリィとマリアは小さく頷いた。
怒りのままに攻め込んできたルナマリアのインパルスを、アスランのジャスティスはやむなく撃退した。
「時間がないんだ・・このまま行かせてもらう・・・」
「ルナ!」
アスランがレクイエム破壊に向かおうとしたときだった。ルナマリアの危機を察知したシンのデスティニーが駆けつけた。
「このぉっ!裏切り者が!」
「シン!」
怒号を上げるシンに、アスランが声を荒げる。デスティニーのビーム砲からの砲撃を、ジャスティスがとっさに動いてかわす。
「ルナ!大丈夫か、ルナ!?」
「シン・・・私は大丈夫・・でも、インパルスが・・・」
シンが呼びかけると、月面にいるルナマリアが答える。ジャスティスの攻撃を受けて、インパルスは活動を停止していた。
「ルナ・・・少し待っててくれ・・オレが終わらせるから・・・」
「シン・・・」
優しく言いかけるシンに、ルナマリアが戸惑いを浮かべる。アスランのジャスティスに目を向けたシンが、再び憤りをあらわにする。
「アンタ・・オレたちを裏切るだけじゃなく、ルナまで!」
シンがいきり立ち、ビームソードを手にしたデスティニーがジャスティスに飛びかかる。ビームサーベルで振り下ろされたビームソードを受け止めるジャスティスだが、デスティニーのパワーに押されて月面に落下していく。
「やめろ、シン!お前も!」
アスランがシンに呼びかけ、ジャスティスが右足のビームブレイドを振りかざす。デスティニーが左腕にビームシールドを展開して、ジャスティスの一閃を防ぐ。
「ぐっ!」
その衝撃にシンがうめく。突き飛ばされたデスティニーだが、すぐに体勢を整える。
「シン、過去に囚われたまま戦うのは、もうやめるんだ!」
「何だとっ!?」
アスランからのさらなる呼びかけに、シンが声を荒げる。
「そんなことをしても、何も戻りはしない!お前のその力は、過去や偽物の平和という幻の中で、全てを壊し、未来をも殺すしかない!お前がほしかったのは、本当にそんな力か!?」
「何も戻らない・・未来を壊す・・どうしてそうだと決め付けられるんだ!?」
アスランの言葉にシンが反発する。
「これは平和を取り戻すための力だ!アンタたちのような、平和を壊す敵と戦うための!」
「シン!」
「それに、アンタのその言葉は自分勝手な言い分だ!失っている過去を守るのは間違いで、今ある現実を守ることだけが正義なのかよ!?アンタだって、戦争で辛いことがあったから、軍人になって、こうして戦ってきてるんだろ!?」
シンが言い放った言葉を聞いて、アスランが目を見開く。
アスランは幼い頃に母親を殺されており、それがザフト入隊のきっかけとなっている。母の死のような悲劇を終わらせるために戦ってきたことを思い出したことで、彼の心に動揺が広がる。
「何が正しくて何が間違いなのか、それを決めていいのはアンタじゃない!オレなんじゃないのか!?」
「ふざけるな!自分が間違っていないようなきれいごとを言うな!」
「アンタこそ、自分が間違っていないって言いたいのかよ!?・・オレは決めたんだ!過去を放ってはおかない!過去を見捨てたまま、今も未来も守れるはずがない!」
互いに決意と感情をぶつけ合うシンとアスラン。デスティニーとジャスティスが銃撃戦、つばぜり合いを繰り広げていく。
「決着を付けてやる・・過去の運命とも、アンタとも!」
シンが言い放ち、デスティニーがビームソードを構えて、光の翼を広げてジャスティスに飛びかかる。
「偽物の平和に執着するために、愚かとしか言いようのない憎悪を、世界中にまき散らすつもりなのか・・・この、バカヤロー!」
激昂したアスランが覚醒を果たす。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。
「アンタって人は!」
シンも覚醒を果たし、デスティニーとジャスティスの衝突がさらに激化する。
(終わらせるんだ・・今度こそ答えを確かなものにするんだ・・・!)
意を決するシン。デスティニーが強引に振りかざしたビームソードで、ジャスティスが突き飛ばされる。
追い討ちを仕掛けるデスティニーに、ジャスティスが背面の機動飛翔体「ファトゥム-01」を射出する。だがデスティニーのビームソードで、ファトゥム-01が両断され爆発する。
そこへジャスティスが飛び込み、ビームサーベルと「シャイニングエッジビームブーメラン」のビームを発した「ビームキャリーシールド」を振り下ろす。2つの光の刃を、デスティニーがビームソードで受け止める。
ビームの衝突で火花が散る中、デスティニーが左手を振りかざす。左手のパルマフィオキーナでジャスティスのビームサーベルの柄を破壊する。
怯むジャスティス。勢いが余って体勢を崩すデスティニー。
「シン!」
「アスラン!」
叫ぶシンとアスラン。ジャスティスが繰り出したビームブレイドと、デスティニーが振りかざしたビームソードが衝突する。
(オレは諦めない・・今度こそ、悲しい過去を終わらせるんだ!)
決意をさらに募らせるシン。彼の意思に呼応したのか、デスティニーのビームソードがジャスティスの右足を切り裂いた。
さらにデスティニーがビームソードを振りかざす。その一閃が、ジャスティスの左腕を切り裂き、胸部を切りつけた。
「ぐあぁっ!」
機体に起こった爆発の衝撃に襲われ、アスランが声を上げる。デスティニーの攻撃を受けて大破したジャスティスが、月面に落下する。
「アスラン!・・・シン・・・」
打ち負かされたアスランと意思を貫いたシンに、インパルスから出てきていたルナマリアが困惑する。
「アスラン・・・」
アスランに打ち勝ったにもかかわらず、シンは深刻な面持ちを浮かべていた。自分の求める平和を脅かす敵として現れたアスランの行為を、シンは素直に受け入れることができなかった。
「できることなら、アンタを討ちたくなかった・・逃走のときも、今も・・・」
後悔の念に駆られるシン。だが彼はすぐに迷いを振り切り、戦いに意識を戻す。
「ルナ、アスランを頼む・・・」
シンがルナマリアに向けて呼びかける。するとルナマリアがさらに困惑を募らせる。
「シン・・でも、シンは・・・?」
「・・オレにはまだ、やらなくちゃならないことがあるんだ・・・」
ルナマリアの問いかけにシンが答えると、デスティニーがこの場を離れた。シンはもう1人の相手との決着を付けようとしていた。
シンに言われたとおり、ルナマリアがジャスティスに向かう。彼女はそのコックピットからアスランを連れ出す。
「アスラン!しっかりして、アスラン!」
ルナマリアに呼びかけられて、意識を失っていたアスランが目を覚ます。
「・・ル・・ルナマリア・・・シンは・・・?」
「移動したわ・・やらなくちゃならないことがあるって・・・」
アスランの問いかけに、ルナマリアが深刻な面持ちで答える。
「まさかアイツ・・キラと・・・ぐっ!」
「ダメ、アスラン!動いたら・・!」
動き出そうとしたアスランだが、体の痛みを覚えてふらつき、ルナマリアに支えられる。
「追わないと、キラが・・・!」
「今の私たちにはムリですよ・・もう、信じるしか・・・」
シンを追おうとするアスランを止めるルナマリア。今の自分にシンを止められないと痛感して、アスランはやむなく留まることにした。
月付近にて交戦を繰り広げていたアークエンジェルとミネルバ。2隻の艦の攻防は、一進一退のものとなっていた。
「バリアント、イーゲルシュテルン、ってぇ!」
「トリスタン、イゾルデ、ってぇ!」
マリューとアーサーの指示が飛ぶ。だが2隻は拮抗し、双方攻め切れないでいた。
(このままではオーブが討たれることに・・それにこちらも消耗戦になるばかり・・・!)
マリューは焦りを覚えていた。しかし彼女もアークエンジェルのクルーも突破口を見出せずにいた。
「ラミアス艦長!」
そこへゼロが駆けつけ、ソワレがマリューに声をかけてきた。
「ソワレくん!?」
「もうやめるんだ、ミネルバ!あなたたちがやっているのは、単なる破壊に過ぎない!」
声を上げるマリューと、ミネルバに戦闘停止を呼びかけるソワレ。だがタリアはデュランダルの意向に疑念を感じながらも、アークエンジェルとの戦闘をやめようとしない。
「我々はザフトの理念に基づいて行動しています。残念ながら、そちらの要求を受け入れるわけにはいきません。もっとも、そちらが攻撃を中止し、こちらの指示に従うならば話は別ですが・・」
逆にタリアが呼びかけるが、ソワレもマリューも聞き入れようとしない。
「これが最後です。あなた方の賢明な判断に期待します・・・タンホイザー、起動。目標、アークエンジェル!」
タリアの命令により、ミネルバが陽電子砲「タンホイザー」の発射体勢に入る。
「ミネルバ、陽電子砲、発射体勢に入りました!」
「ローエングリン、起動!」
クルーの声を受けて、マリューも指示を出す。アークエンジェルも陽電子砲「ローエングリン」を起動する。
「ってぇ!」
タリアとマリューの声が重なり、タンホイザーとローエングリンが同時に放たれる。2つの光線がぶつかり合い、閃光を煌かせる。
互いに主砲を相殺され、毒づくマリューとタリア。
そのとき、ゼロがミネルバに飛びかかり、トラスカリバーを艦体にに突きつけた。ゼロはそのままトラスカリバーを振りかざし、ミネルバを切りつけた。
「何っ!?」
「メインスラスター損傷!姿勢制御不能!」
タリアが驚愕し、クルーが声を荒げる。艦体を損傷したミネルバが飛行を維持できず、月面に不時着した。
「すまない・・でも、こうでもしなければ止めることができなかった・・・」
ミネルバへの謝意を見せた後、ソワレが再びアークエンジェルに声をかける。
「ラミアス艦長、僕はこのままレクイエムに向かいます!ゼロで侵入して斬り付ければ、発射口を封じることができます!援護を!」
「ソワレくん・・分かったわ!気をつけて!」
マリューの返事を受けて頷くソワレ。ゼロがレクイエムに向かって加速していった。
フリーダムのフルバーストを受けて損傷し、宇宙を流れていたドーマとタイタン。だがその間もタイタンは、トライデストロイヤーのチャージを行っていた。
「このまま不様をさらすわけにいくものか・・せめて・・・!」
声を振り絞るドーマ。トライデストロイヤーの矛先は、月面に落下したジャスティスに向けられていた。
「せめてアスランだけでも、ここで葬ってやる・・・!」
ドーマが敵意をむき出しにして、タイタンがジャスティスに向けてトライデストロイヤーを放射した。
だがその間にカガリのアカツキが割り込んできた。トライデストロイヤーはアカツキにぶつかると、その鏡面装甲に跳ね返される。
「何っ!?」
砲撃を跳ね返されたことに驚愕するドーマ。損傷しているタイタンは動くことができず、自らはなったトライデストロイヤーの直撃を受けることとなった。
「こ、こんなところでぇっ!」
絶叫を上げたドーマを巻き込んで、タイタンが爆発を引き起こして消滅した。
「カガリ・・・大丈夫か、カガリ!?」
アスランが呼びかけると、アカツキが反射の反動で月面に落下してきた。アスランに気付いていたカガリが、アカツキのコックピットから出てきた。
「カガリ!・・ぐっ!」
カガリに駆け寄ろうとするアスランだが、体の痛みを覚えて顔を歪める。ふらつく彼にカガリとルナマリアが駆け寄る。
「アスラン・・お前のほうが心配じゃないか・・」
「そんなことはない・・とは言い切れないか・・・シンを、止めることができなかった・・・」
カガリが心配の声をかけると、アスランが思いつめる。自分の力と正義を持ってしても、シンを止めることができなかった。そのことに彼は歯がゆさを感じていた。
「私も止められなかった・・自分から止めようとしてこの有様では・・・」
「今は信じるしかない・・キラが、シンを止めてくれるのを・・・」
沈痛の面持ちを見せるカガリに、アスランが気持ちを落ち着けて言いかける。彼の言葉にカガリが小さく頷く。
「シン・・・」
シンの心配を胸に秘めて、ルナマリアも気持ちを落ち着けようとしていた。
激化する戦況。この攻防を、デュランダルはメサイアにて見据えていた。
「ゼロ、レクイエムに接近!フリーダム、フューチャーもこちらに向かってきています!」
オペレーターの声がデュランダルの耳に入る。
「デスティニー、レジェンド、タイタンは?」
「レジェンド、タイタン、ともにシグナルロスト!デスティニーはこちらに移動中!フューチャー、フリーダムの迎撃に出る模様です!」
デュランダルの問いかけにオペレーターが答える。
(レイも討たれたというのか・・厄介な存在だな。ラクス・クライン、キラ・ヤマト、そしてディアス・フリークス、いや、アルバ・メモリア・・まあ仕方がない。ヤツらの始末はシンに任せよう・・)
「シン・アスカには、このまま敵機の迎撃に向かわせる。我々は発射口の敵を掃討後、オーブを討ってこの戦闘を終わらせる。全軍に通達!」
「はっ!」
デュランダルの呼びかけにオペレーターが答える。デスティニープラン実行に向けて、デュランダルは戦いにおいて最後の攻め手を打とうとしていた。