GUNDAM WAR Last Destiny-

FINAL PHASE「運命の終焉」

 

 

 先にメサイアの前に駆けつけていたアルバのフューチャー。アルバはメサイアに向けて、攻撃中止を呼びかけた。

「オーブへの攻撃をやめろ!お前たちは破壊の権化になりたいのか!?

 だがデュランダルは攻撃をやめようとせず、フューチャーの周囲にいるザフトのMSも攻撃を仕掛けてくる。

「そうまでして滅びをまき散らしたいのか・・・!?

 アルバが毒づき、フューチャーが迎撃に出る。エクスカリバーが振るわれ、ザフトのMSの武装をなぎ払っていく。

 そこへミーティアを装備したフリーダムが駆けつけてきた。

「僕がメサイアを押さえます!ザフトを食い止めて!」

「ふざけるな!お前も破壊をもたらしている!デュランダルはオレが止める!」

 呼びかけるキラだが、アルバは聞き入れようとしない。

「一刻の猶予もないことは、あなたも分かっているはずだ!だから・・!」

 キラがさらに呼びかけたときだった。接近する熱源を、フューチャーとフリーダムのレーダーが感知した。

 シンの駆るデスティニーがフリーダムに向かってきていた。キラが気付き、フリーダムが上昇してデスティニーの振り下ろしたビームソードを回避する。

 だがデスティニーはすぐに飛翔し、続けざまにビームソードを振りかざす。その一閃がビームを発しているミーティアの左アームを切り裂いた。

「ぐっ!」

 攻撃を受けたことに毒づくキラ。フリーダムがとっさにミーティアを切り離し、デスティニーを迎え撃つ。

「デスティニー・・シン・・・あの機体の相手は僕がします!ここは、あなたの判断を信じます!」

 キラがアルバに向けて呼びかける。キラの言葉に釈然としなかったアルバだが、デュランダルを止めなければならない気持ちは彼も同じだった。

「破壊を止めて未来を守る。決してお前たちの意思と同調してはいない・・そのことを忘れるな・・・!」

 デュランダルを止めるべく、アルバの駆るフューチャーはメサイアに向かった。だがシンのデスティニーはフューチャーを追おうとせず、フリーダムと対峙する。

「決着を付けるんだ・・アンタとも・・・!」

「くそっ!やられてたまるか!」

 鋭く言いかけるシンに、キラもいきり立つ。デスティニーが振りかざしてきたビームソードを、フリーダムが2本のビームサーベルを掲げて受け止める。

 つばぜり合いの反動で距離を取った2機が、カリドゥス複相ビーム砲と高エネルギー長射程ビーム砲を同時に発射。2つの光線が衝突し、激しく火花を散らす。

 シンとキラ。デスティニーとフリーダム。各々の固い決意を秘めた2人が、決戦を繰り広げようとしていた。

 

 オーブに向けて砲撃を放とうとしていたレクイエム。その発射口に向けてソワレのゼロが向かっていた。

 レクイエム防護のために設置、展開されていた「陽電子リフレクター」を、ゼロはトラスカリバーを突き出して突破する。そのままトラスカリバーを振りかざし、本体を切り裂いていく。

「このまま撃たせるわけにはいかない!」

 ソワレが言い放ち、ゼロがトラスカリバーをレクイエムの発射口に投げつけ、直後に飛翔して加速する。正常な機能を失ったレクイエム本体が大爆発を起こす。

 脱出したゼロ。崩壊したレクイエムから上がる火柱を見つめるソワレ。

(これで、オーブが討たれることはなくなったが・・・)

 深刻な面持ちを浮かべて、考えを巡らせるソワレ。だがまだ戦いが終わっていないことに、彼は困惑を膨らませていた。

 

「バカな・・・!?

 レクイエムが破壊されたことに、デュランダルは驚愕をあらわにする。メサイアにいるオペレーターたちも、動揺の色を隠せなくなっていた。

“そこにいるのだろう、ギルバート・デュランダル!?レクイエムは破壊された!これ以上攻撃しても勝ち目がないことは、お前なら分かっているはずだ!

 そこへアルバの声が飛び込んでくる。憤りを覚えたデュランダルが、オペレーターに呼びかける。

「フューチャーを追い払え!これ以上の侵入を許すな!」

 オペレーターが即座にコンピューターを操作し、防衛システムを使ってフューチャーを追い払おうとした。

 だが、アルバの乗るフューチャーは、防衛システムをかいくぐり、エクスカリバーを振りかざして要塞内を切りつけていく。機能を失ったメサイアに爆発が起こり、デュランダルたちのいる場所にも飛び火した。

 

 メサイア付近にて激闘を繰り広げていたシンのデスティニーとキラのフリーダム。2つの力の中で、2人の意思もぶつかり合っていた。

「アンタが1番わけ分かんないんだ!ふらっと現れて、戦いを始めて!」

 シンが言い放ち、デスティニーがビームソードを突き出す。その突きをかわして、フリーダムが上昇する。

「アイツのためだったら何をやっても許されると思ってるから、戦うことが正しいと言い張ってるんだよ!」

「違う!それは・・!」

「違うと思ってるのはアンタだけなんだよ!」

 キラの抗議の声を一蹴するシン。フリーダムのドラグーンのビームをかいくぐり、デスティニーがビームブーメランを投げつける。

 フリーダムもこの攻撃をかわし、ビームブーメランがデスティニーの手元に戻る。

「だけど、アンタの言い分はそれなんだ・・アンタは、大切なものを守るために戦う・・そのためだったら、自分が悪く思われたって構わないと思ってる・・・」

「シン・・・」

 相手の考えを受け入れようとしているシンに、キラが戸惑いを覚える。だがすぐにシンが鋭く言い放つ。

「でもオレにだって大切な人がいる!守りたい世界がある!だから、オレも戦わないわけにはいかないんだ!」

 デスティニーがフリーダムに向けてビームライフルを発射する。フリーダムも2つのビームライフルで応戦する。

「それは違う!君が守ろうとしている平和は、誰かに決められて与えられたものでしかない!」

 キラがシンに呼びかけ、フリーダムが2つのビームライフルを連結させて発射する。飛距離を伸ばしたビームを、デスティニーがかいくぐっていく。

「与えられた運命を生きるなんてイヤだ!僕は僕の力で、未来を得るために戦う!未来を作るのは、運命じゃない!自分の未来は、自分の力でつかみたいんだ!」

「そのためなら、平和を壊しても構わないっていうのか!?

 キラの決意に反発するシン。デスティニーが投げつけたビームブーメランを、フリーダムがビームライフルで撃ち抜いて破壊する。

 だがデスティニーはもうひとつのビームブーメランをつかんだまま、フリーダムに飛びかかる。デスティニーが振り下ろしたビームブーメランが、フリーダムのビームライフルに突き刺さる。

 ビームライフルが爆発すると同時に、フリーダムがレールガンを発射する。ビームシールドで防ぐも、デスティニーが突き飛ばされる。

「君だって、もう自分のことを自分で決めているじゃないか!」

「そうだ!オレが決めた!オレがこの世界を望んだことなんだ!」

 互いに呼びかけあうキラとシン。フリーダムのレールガンとデスティニーのビーム砲が同時に放たれ、交錯した瞬間に歪曲して互いに外れる。

 そこへデスティニーがビームライフルを放ち、フリーダムの左翼を弾いた。体勢を崩されるフリーダムだが、ドラグーンのビームがデスティニーのビームライフルとビーム砲を撃ち抜いていた。

 消耗戦となり、徐々に損傷が目立ってくる2機。デスティニーがビームソードを手にして、シンがフリーダムを見据える。

「これ以上、この平和を壊させない・・アンタを、ここで討つ!」

 いきり立つシン。デスティニーが光の翼を広げて、フリーダムに向かって飛びかかる。

 フリーダムもレールガンとドラグーンを全て展開して、フルバーストを解き放つ。回避せずに真正面から突っ込んでいくデスティニーが、左翼と右足を撃ち抜かれる。

(終わらせるんだ・・過去の運命、全てを!)

 だがデスティニーは怯まず、ドラグーンを突き破ってさらに突進する。突き出されたビームソードが、フリーダムの左脇に突き立てられた。

 そのとき、デスティニーのビームソードの刀身がへし折れた。さらにデスティニーとフリーダムを中心にして、まばゆい閃光が煌いた。

 その光の中にシンとキラは包まれていった。

 

 虚無の精神世界。戦いの光に包まれたシンは、その空間の中を流れていた。

 力が出せないためか、思うように動くことのできないシン。そんな彼の前に一条の光が現れた。

 そこにいたのは、死んだはずのステラだった。シンの前に姿を現したステラが微笑みかけてきた。

「シン・・シン・・・」

「ステラ・・・どうしたの?・・ダメだよ・・こんなところへ来ちゃ・・・」

「大丈夫・・・ちょっとだけ会いに来た・・・」

「ちょっとだけ?・・ちょっとだけなのか・・?」

「うん・・今はね・・・でも、また明日・・・」

「明日・・・?」

「うん・・明日・・・ステラ、昨日をもらったの・・やっと・・だから分かるの・・どっちだか分かる・・明日・・嬉しいの・・・」

 シンに語りかけるステラが、再び光に包まれていく。

「だから、シンとはまた明日・・・」

「ステラ・・・」

「明日ね・・・明日・・・」

 戸惑いを見せるシンの前から、ステラは光の中に姿を消した。

 

 デスティニーとフリーダムの衝突での閃光の中、意識を失っていたシン。目を覚ました彼が周囲を見回し、状況を確かめる。

「ここは・・メサイアの中か・・・アイツは・・!」

 シンがフリーダムのことを思い出し、注意を向ける。デスティニーのそばにフリーダムも落下していた。2機は衝突の後、閃光とともにメサイアの中に落下してきたのである。

 シンはさらに、フリーダムから出てくるキラの姿を目撃する。

「アイツ・・・!」

 表情を険しくしたシンも、デスティニーから飛び出す。フューチャーの突撃により、メサイアは崩壊を来たしていた。

 

 ソワレのゼロに撃墜され、月面に不時着したミネルバ。タリアたちはその艦内で、崩壊に向かうメサイアを目撃していた。

「本艦の戦闘は終わりよ・・総員退艦。」

 タリアがクルーたちに指示を出すと、アーサーに改めて声をかける。

「アーサー、本当に申し訳ないことなんだけど、後を頼める・・?」

「艦長・・・」

「私、行かなくちゃ・・ごめんなさい・・・みんなをお願い・・」

「艦長・・・了解しました・・・!」

 タリアの言葉を聞き入れ、アーサーは敬礼を送った。ミネルバを小型艇で脱出したクルーたちと別行動を取り、タリアはメサイアに向かった。

 

 デスティニーとフリーダムの衝突の中で巻き起こった閃光と衝撃。メサイアに消えた2機に、アスラン、カガリ、ルナマリアが深刻さを募らせていた。

「キラ・・・シン・・・」

「あの2人・・・どうなったんだ・・・!?

 アスランが戸惑いを見せ、カガリが声を荒げる。

「シン・・・」

 シンの身を案じるルナマリアも、困惑の色を隠せなくなっていた。

 

 崩壊に向かっていくメサイア。デュランダルのいる部屋に、キラが姿を現した。

 銃を構えるキラに対し、デュランダルは悠然とした態度を保つ。

「君がここへ来るとはな。正直思っていなかったよ、キラ・ヤマト・・だがいいのかな、本当にそれで?」

 不敵に言いかけるデュランダルと、鋭く見据えるキラ。そこへキラを追ってきたシンも駆けつける。

「議長・・・アンタ、そこまでして・・・!」

 苛立ちを見せたシンも銃を取り出し、銃口をキラに向ける。シンが来たのに気付いていたが、キラはデュランダルから視線を外さない。

「やめたまえ。やっとここまで来たのに。そんなことをしたら、世界はまた、元の混迷の闇へと逆戻りだ・・私の言っていることは真実だよ。」

「そうなのかもしれません・・でも僕たちは、そうならない道を選ぶこともできるんだ。それが許される世界なら・・」

 忠告を送るデュランダルに反論するキラ。その言葉にシンが反発する。

「アンタ、まだそんなきれいごとを・・アンタたちだけその道を選んでも、他の人たちが同じ道を選ぶとは限らない!分かり合えないから、変われないから、今までこんなことになったんじゃないか!」

「でも僕たちはそれを知っている!分かっていけることも、変わっていけることも!君だって、ここまで来る間に変わったじゃないか!」

 シンの言葉にキラが言葉を返す。

「明日が欲しいんだ・・どんなに苦しくても、変わらない世界はイヤなんだ・・」

「ふざけるな!誰だって苦しいのがイヤだから、平和を求めてるんだ!変わらない世界であっても、戦いのない世界ほど平和のない者はない!」

 キラが口にした言葉にシンが怒鳴る。デュランダルもキラの言葉を嘲笑する。

「傲慢だな。さすがは最高のコーディネイターだ。だが人々は君ほど賢いわけではない。特別な存在である自分を基準にするのは、その特別ゆえか・・」

「傲慢なのはあなただ!僕はただの1人の人間だ!他の誰とも、どこも何も変わらない!ラクスも、誰だって!」

 デュランダルに対して語気を強めるキラ。

「だから、あなたを討たなくちゃならないんだ!それを知っているから!」

「ムチャクチャなことを言うな!1人の人間だから議長を討つ!?そんなムチャクチャな道理が通じるわけがないだろ!」

 敵意を見せるキラに、シンが憤りを募らせる。

「だが君が言う世界と私の示す世界、皆が望むのはどちらかな?今ここで私を討って、再び混迷する世界を、君はどうしようというんだ?」

「覚悟はある・・僕は、戦う・・・!」

 デュランダルが投げかけた問いに、キラが鋭く言い放つ。

「どこまでも勝手なことを・・何の覚悟だよ!?何と戦うって言うんだよ!?結局は、自分たちの考えを通すための言い訳じゃないか!」

 前に出てくるシンに、ついにキラが振り返って銃口を向ける。

「誰もが自分みたいだと思うな!アンタみたいな人の考えで、世界が動くなんて思うな!」

 いきり立つシン。緊迫を膨らませるキラ。2人が互いに向けて発砲しようとする。同時にデュランダルもキラを狙って銃の引き金を引こうとした。

 次の瞬間、シンたちのいる部屋に銃声が響き渡った。だが3人の銃から弾は放たれていなかった。

 撃たれたのはデュランダル。撃ったのは物陰から発砲したレイだった。アルバのフューチャーとの戦闘で意識を失ったレイだが、大破したレジェンドを動かしてメサイアに来ていた。シンたちの言葉を耳にしたレイは動揺し、デュランダルに向けて発砲していたのである。

 胸を打たれて倒れ行くデュランダル。愕然となったレイが銃を落とし、その場に座り込む。

「レイ・・・!?

 シンもこの事態に動揺を隠せなくなっていた。キラも困惑を抑えるのに必死になっていた。

 そこへアーサーたちと別れて、1人メサイアに来たタリアが遅れて姿を現した。タリアは横たわるデュランダルに駆け寄り、体を支える。

「やあ・・タリア・・・撃ったのは、君か・・・?」

「いいえ・・レイよ・・・」

 デュランダルの問いかけに、タリアが深刻さを込めて答える。震えているレイに、シンがたまらず声を張り上げる。

「何でだよ、レイ・・・何で!?この世界を、議長の目指していた世界を1番望んでいたのはお前じゃないか!オレ以上に!・・それなのに、何で・・・!?

「ギル・・・ごめんな・・さい・・・でも、彼の、明日は!」

 レイはデュランダルに向けてひたすら謝る。今のレイは普段の冷静さを完全に失い、子供のように泣いていた。

「やっと平和がやってくるってときに、お前がそれを壊してどうするんだよ!?

「シン・・オレたちは間違っていたんだ・・自分の明日は、自分以外には決められないことを、思い知らされた・・・」

 怒鳴りかけるシンに、レイが涙ながらに言いかける。

“本当のお前は誰だ!?お前自身は、この世界を、自分未来をどうしたいんだ!?”

“オレはこの先の未来を生きる!オレ自身が決めていくんだ!”

 レイの脳裏にアルバの言葉がよぎる。どんな運命の中に生まれようと、自分の未来は自分が決めていく。そのことをレイは思い知らされたのである。

「ギルの目指す世界では、確かに戦いはない・・だが同時に、人の意思が皆殺しになる・・それに、ギルが間違いを犯せば、全員が過ちを犯す・・樹木が根元から腐るように・・・」

「レイ・・・!」

「それにシン、お前は既にギルの創る世界から抜け出している・・お前はお前の明日を、お前自身で選んでいる・・・」

「えっ・・・?」

 レイが投げかけた言葉に、シンが戸惑いを浮かべる。

「お前はお前の意思で、ギルの世界を選んだ・・だがそれは、ギルの世界での過ちそのものなんだ・・・」

「レイ・・・」

「シン、お前はお前の道を進め・・世界の、明日を頼む・・・」

 困惑するシンに、レイが自分の願いを託す。そこでシンは、自分で自分の道を選んだことを実感した。

 そのとき、メサイアの崩壊が本格化し、シンたちのいる部屋も大きく揺れ出した。

「艦長!」

「シン、あなたは行きなさい!」

 駆け寄ろうとしたシンを、タリアが呼び止める。

「何を言ってるんですか!?このままじゃ・・!」

 さらに言いかけるシンだが、タリアに銃を向けられて足を止める。

「私たちに構わないで・・この人の魂は、私が連れて行く・・・!」

「艦長・・・」

「これは私の罪・・この人の罪を知りながら、止められなかった、止めようともしなかった、私の・・」

 タリアの言葉にシンが困惑する。するとタリアが微笑んで話を続ける。

「シン、あなたはあなたの道を行きなさい。それだけの強さを、あなたは持っている・・・」

「艦長・・本当にそれでいいんですか・・・!?

「これは私自身が選んだこと・・あなたと同じようにね・・・」

 タリアの気持ちを汲み取って、シンは落ち着きを取り戻して真剣な面持ちを見せる。

「分かりました・・・艦長・・今まで、ありがとうございました・・・」

 シンはタリアに敬礼を送り、部屋を出ようとする。

「シン・・命令、というより、お願いがあるの・・・」

 タリアが唐突に切り出した言葉を耳にして、シンが足を止める。

「子供がいるの。男の子よ・・いつか会ってやって・・・」

「・・・はい・・・」

 タリアの願いを聞き入れると、シンは改めて部屋を飛び出した。彼に続く形で、キラもタリアたちを気にかけながら外に出た。

「レイ、あなたもいらっしゃい・・」

 タリアに呼ばれて、レイが彼女とデュランダルに歩み寄る。弱々しくなっているデュランダルを見て、レイがさらに悲痛さをあらわにする。

「すまないな、タリア・・でも、嬉しいよ・・・」

「本当に、仕方のない人ね・・でも、これが運命だったということじゃないの?・・あなたと私の・・・」

 声を振り絞るデュランダルに、タリアが微笑みかける。彼女は寄り添ってきたレイを優しく抱きしめる。

「レイもよく頑張ったわ・・だから、もういいのよ・・・」

「・・おかあ・・さん・・・」

 優しく声をかけてくるタリアに、レイは母親の愛情を感じていた。クローンとして生まれたはずの彼は、初めて母のぬくもりを覚えたのである。

 運命と愛情を受け入れて、レイたちの姿は崩壊するメサイアの中に消えていった。

 

 メサイアから脱出するため、シンとキラはデスティニーとフリーダムに向かっていた。2人は各々の機体のコックピットに乗り込み、エンジンを始動しようとする。

「よし!すぐに脱出を・・!」

 シンによってデスティニーは起動した。だがキラはフリーダムを起動できずにいた。

 デスティニーの特攻を受けた際、キラはとっさにフリーダムのエンジンを切っていた。核エンジンの爆発は避けられたが、フリーダムが受けた損傷は深く、再び起動することができなくなっていた。

「動かない・・このままじゃ・・・!」

 危機感を覚えるキラ。必死に起動を試みる彼だが、フリーダムは活動を完全に停止してしまっている。

「何をやってるんだ!?早くしないとつぶされてしまうぞ!」

「エンジンがかからない!損傷が激しいみたいだ!」

 そこへシンが呼びかけ、キラが返事をする。

「僕のことは気にしなくていい!君は先に脱出するんだ!」

 キラがシンに呼びかけてくる。すると様々な思惑が脳裏をよぎり、シンが困惑する。

“シン、お前はお前の道を進め・・世界の、明日を頼む・・・”

“シン、あなたはあなたの道を行きなさい。それだけの強さを、あなたは持っている・・・”

“ありがとう、シン・・でもシン、私も守られてばかりじゃないから・・・”

 レイ、タリア、ルナマリアの言葉が蘇り、シンの心が揺れる。どうすべきか自分自身で決めようとして、シンは意を決した。

「来い!早くしろ!」

 シンがキラに向けて手を差し伸べる。この行為にキラが驚きを覚える。

「何でこんなことしてるのか、オレにも分からない!だけど、こんな形で死なれてもオレはイヤなんだよ!」

 自分の正直な気持ちを口にするシン。彼の言葉と意思に、キラも意を決した。

 フリーダムから飛び出したキラは、シンが伸ばしていた手を取った。2人を乗せたデスティニーが立ち上がり、メサイアから飛び出した。

 

 アスランたちの見守る中で崩壊し落下するメサイア。そこから出てきたのはデスティニー1機だけ。

「シン・・・!?

 目を見開いたアスランが、キラの安否を気にする。しかしメサイアからフリーダムが出てこない。

「キラ・・・!?

 込み上げてくる絶望感にさいなまれるアスラン。キラがやられたと彼は信じたくなかった。

「シン・・・」

 ゆっくりと飛翔していくデスティニーを見つめて、ルナマリアが戸惑いを浮かべる。デスティニーはラクスのいるエターナルに向かっていた。

「エターナル、聞こえるか!?応答してくれ!」

 シンがエターナルに向けて呼びかけてきた。

「フリーダムのパイロットを預かっている!」

「キラ・・・!」

 シンの言葉を耳にして、ラクスが驚きを覚える。

「そっちに引き渡す!着艦の許可を!」

「・・着艦を許可します。こちらの誘導に従ってください。」

 シンの言葉に答えるラクス。エターナルの誘導に導かれて、シンとキラを乗せたデスティニーが向かっていく。

 さらにラクスは通信回線を開き、呼びかけた。

「こちらはエターナル、ラクス・クラインです。ザフト軍、現最高司令官に申し上げます。私たちは、この宙域でのこれ以上の戦闘継続は無意味と考え、それを望みません。停戦、及び両軍の停止に同意願います・・」

 ラクスの呼びかけを受けて、戦場にいる戦艦から次々と信号弾が打ち上げられる。それは宇宙を華やかに彩る花火のようだった。

 

 戦闘停止を確かめたアルバとソワレ。一瞬安堵を覚えるソワレだが、アルバは戦場を目の当たりにして深刻さを募らせていた。

「これが、野心と反抗の衝突の結末なのか・・・」

「アルバ・・・」

 皮肉を呟くアルバに、ソワレが困惑を浮かべる。そんなアルバの目に、月面に佇むアスラン、ルナマリア、カガリの姿が入ってくる。

「ソワレ、先に行っていてくれ・・・」

 アルバはソワレに言いかけると、フューチャーが月面に降下する。振り返るアスランたちに向けて、フューチャーが手を差し伸べる。

「乗れ。ひとまずエターナルまで運ぶ・・」

 呼びかけてくるアルバに、アスランたちが戸惑いを浮かべる。

「死ぬよりも生きるほうが尊い。生きれば未来を歩める・・オレはそう思っている・・・」

 自分の考えを切実に告げるアルバ。彼の意思を汲み取って、アスランはルナマリア、カガリとともにフューチャーの手に乗るのだった。

 

 ラクスの案内を受けて、デスティニーがエターナルに降り立つ。そのコックピットから降りてきたシンとキラを、ラクス、リリィ、マリアが出迎える。

 キラの無事を確かめて、ラクスが喜びをあらわにする。抱擁を交わす2人を見て、シンが苦笑し、リリィとマリアが肩を落とす。

 そこへゼロとフューチャーがエターナルに着艦してきた。フューチャーの手の中にいたアスラン、ルナマリア、カガリも艦内に降り立った。

 ルナマリアがシンに駆け寄り、抱擁を交わす。シンもルナマリアを優しく抱きしめる。

「シン・・無事だったのね・・・よかった・・・」

「うん・・でも守れなかった・・議長も艦長も、レイも・・・」

 喜びを見せるルナマリアに、シンが悲しみを込めて言いかける。その言葉を聞いて、ルナマリアも表情を曇らせる。

「アスランのジャスティスを落とし、フリーダムとも互角に戦った・・でもオレは、守りたかった世界を、守れなかった・・・」

「シン・・・でも、シンはこうして戻ってきてくれた・・アスランも、メイリンも無事だった・・・」

 悲痛さをあらわにするシンに、ルナマリアが涙ながらに微笑む。彼女の笑顔を見て、シンはまだ守りたいものがあるのだと、改めて思い知らされた。

(レイ・・ステラ・・・オレも、明日を見ているんだな・・・?)

 自分に信頼を寄せて命を落とした人を思い返して、シンは小さく頷く。

(もうオレには・・エースとしての力は必要ない・・誰かに褒められたいわけでも、引っ張られたいわけでもない・・・)

 自分の決心を確かめた心は、胸にあるバッジに手をかける。

(スーパーエースなんて、もう必要ない過去だって、決めたんだ・・オレ自身で・・・)

 気持ちの整理を付けたシンが、そのバッジを外して宇宙に投げ捨てた。彼は自分を縛り付けていた過去との決別を果たし、未来に向かって歩くことを心に決めた。

 誰の意思でもない。自分自身で決めた未来を。

 

 メサイア陥落により、デュランダルの提唱したデスティニープランは終焉を迎えた。

 ラクスの仲介により、オーブ、プラントは停戦協議に同意。彼女はプラント最高評議会議長に就任し、議会の召集を受けることとなった。

 そして戦闘後、アルバとリリィはフューチャーでシンたちの前から姿を消した。シンたちもキラたちも追跡できるだけの余力は残っていなかった。

 アルバに対して困惑を覚えるシンだが、彼の心境を察して追撃しようとしなかった。

 混迷が続く中、世界は平和に向かって進み出そうとしていた。

 

 戦争終結から数日後、シンはルナマリア、メイリンとともにオーブに足を運んだ。3人はオーブの慰霊碑の前に来ていた。

 そこメイリンが持ってきた花束を慰霊碑の前に置いた。

「慰霊碑?・・それじゃ、お墓は・・・」

 ルナマリアが声をかけるが、シンは無言のまま慰霊碑を見つめていた。

「ここが全ての始まりだった・・信じてきたオーブに裏切られて、力を求めてザフトに入って・・・」

 語りかけるシンが、これまでの自分を思い返していく。そんな彼のいる慰霊碑に、アスランとカガリがやってきた。

 振り返ったシンは、2人に対して当惑を浮かべるばかりだった。怒ろうとする気持ちさえ湧いてこず、自分から声を発することができなかった。

「この悲劇は、私に責任がある・・オーブ代表としてだけでなく、私の未熟さゆえ・・・」

 カガリはシンに沈痛の面持ちを見せると、手にしていた花束を慰霊碑の前に置く。

「今さら謝ったところで、お前の怒りが消えるはずもない・・だが、私は平和を目指して尽力していくつもりだ・・必ずその答えを見出してみせる・・」

「きれいごとはやめろよ・・そんな言葉をかけられたって、誰も救われたりしないんだ・・・」

 謝意を見せるカガリだが、シンは憮然とした態度を見せるだけだった。その反応を予期していたため、カガリは反論しなかった。

「オレ、ずっとここイヤで・・でも、ずっと気になってた・・こんなふうじゃなかった・・こんなところじゃ・・・」

 シンがおもむろに自分の心境を打ち明けた。彼はマユの携帯電話を手にしていた。

「でもこんなのは…こんなのはもっとイヤだ・・・!」

「シン・・・」

 声を震わせるシンに、ルナマリアが困惑を募らせる。

“はーい、マユでーす。でもごめんなさい。今マユはお話できません・・”

 携帯電話からマユの声が発せられる。復讐と憎悪の過去とは決別したものの、シンは家族と過ごした過去はかけがえのない思い出として捨てることはできなかった。

 そこへキラとラクスがやってきた。2人の後をソワレとマリアが続く。

 対面したシンとキラが、互いに戸惑いを浮かべる。慰霊碑の前に花束を置いたラクスが、2人に目を向ける。

「まさかみんな揃っていたなんてね・・・」

 そこへ声がかかり、シンたちが振り返る。アルバとリリィもこの場に姿を現した。

「小さな慰霊碑でも、弔うことはできるのか・・・?」

 アルバが慰霊碑を見つめて、思いつめた面持ちで呟きかける。そんな彼にシンが声をかける。

「アンタ、フューチャーのパイロットだったなんて・・アンタまで世界を・・・!」

「オレは単に生きようとしただけだ・・それに、オレはここに弔いを捧げに来ただけだ・・仲間への報告も兼ねて・・」

 鋭く言いかけるシンに、アルバが気持ちを込めて語りかける。

「誰がやろうと、死者を弔う、祈りを捧げることは罪ではないのだろう・・・?」

「それは・・・」

 アルバの投げかけた言葉に、シンが言葉を詰まらせる。

「確かに、祈るばかりでは何も変わりはしないが・・だからオレは自分の手で未来を切り開く・・それだけの力が、この手の中にある・・・」

「そうかもしれない・・でも、分かり合えない相手と、手を取り合うことはできない・・自分の決心が揺らぐから・・・」

 自分の意思を告げるアルバに、シンも言葉を返す。そしてシンはキラに目を向ける。

 するとキラがシンに微笑みかけ、手を差し伸べてきた。彼は和解のための握手を求めてきた。

 だがシンはキラの手を取ろうとはしない。

「ダメかな・・・?」

「・・・あぁ、ダメだ・・さっきも言ったはずだ・・分かり合えない相手と、手を取り合うことはできないって・・・」

 キラの誘いをシンは拒絶する。

「アンタはステラを殺した・・それにアンタたちが勝手なことをしたせいで、ハイネやみんなだって・・・」

「シン・・・」

 シンの言葉にアスランが困惑を覚える。

「だから、アンタたちが正しいなんて思えない・・だから、アンタたちは味方じゃない・・・」

「どうしても、分かり合えないのかな、僕たちは・・・?」

「オレもアンタも、守りたいものを守るために戦っている・・それは間違いじゃない・・だからこそ、オレたちは分かり合うことができないんだ・・・」

 困惑するキラに、シンが言葉を投げかける。

「オレはオレの道を進む・・絶対に誰も苦しまない世界を目指していく・・たとえ、アンタたちとまた戦うことになっても・・・」

 キラたちに決心を告げると、振り返り、歩き出していった。

「シン・・・」

 シンの後ろ姿を見て、ルナマリアが困惑を浮かべる。彼女はアスランに向けて振り返る。

「私はシンについていきます。無鉄砲なところがあるから、そばにいないと何をするか分かりませんから・・・」

「ルナマリア・・・あのときはすまなかった・・本当に、君たちを討ちたくはなかったんだ・・・」

「分かっています・・平和のために戦っていたのは、あなたたちも私たちも同じだから・・・」

 謝意を見せるアスランに、ルナマリアが弁解を入れる。

「あなたと一緒の部隊にいられたこと、私は誇りに思います・・・」

「ルナマリア・・・」

「やっぱりあなたは、オーブのお姫様と一緒なのが1番ですね。」

「なっ!?

 ルナマリアにからかわれて、アスランとカガリが動揺をあらわにする。笑みをこぼしながらルナマリアは立ち去り、シンを追いかけていった。

「オレたちも行くぞ・・オレたちも、お前たちと分かり合えたわけではないからな・・・」

 アルバがキラたちに言葉を切り出した。

「オレたちはこれからも生きるために戦う・・オレたちの命は、オレたちに全てを託した仲間の命でもあるからな・・生き残るためなら、たとえお前たちを討つことになっても構わない・・・」

「正直誰も討ちたくない・・でも、自分の気持ちを貫くためには、戦うしかないんだよね・・・」

 アルバはキラと言葉を交わすと、リリィとともに立ち去ろうとする。だがそこへソワレが声をかける。

「アルバ、たとえどんな理由であっても、平和を壊すことは許されない・・もしもお前が暴挙に出るなら、僕は君を止める・・・」

「オレたちは生きる・・たとえそれが罪であっても・・・」

 ソワレに言葉を返すと、アルバはリリィとともに歩き出していった。

「それでは、私たちも行きます・・仲間というわけではなく、共通の敵がいただけでしたから・・・」

 マリアが言葉を切り出すと、ラクスは微笑んで頷く。

「それがマリアさんとソワレさんの決断でしたら、私はとがめません。ただ、犠牲になる者のことも、お忘れなきよう・・」

「分かっています・・あなたたちも、そのことを肝に銘じておくように・・」

 ラクスに言葉を返すと、マリアは敬礼を送る。

「もしも道を踏み外すようなことになったと判断したら、僕たちはあなたたちの敵になるかもしれない。そのときはお互い、覚悟を決めよう・・」

「そうならないことを、願っているよ・・・」

 ソワレも敬礼を送ると、キラも真剣な面持ちで答える。ソワレとマリアも自分たちの目指す平和に向けて歩き出していった。

「道は違えど、思いは、平和への願いは同じ・・だからこそ対立してしまう・・分かり合えないはずはないのに・・・」

「何にしても、僕たちは、正しい答えを見つけなきゃいけないんだ・・2度と悲しいことが起こらないように・・・」

「それが、オレたちの戦いだな・・・」

 去っていく者たちを見送って、カガリ、キラ、アスランが言葉を交わす。

「シンはまた、オレたちの前に立ちはだかるだろう・・」

「でも間違ってはいない・・だから、後悔はしない・・・」

 アスランの言葉にキラが答える。彼らは改めて、平和に向けて歩んでいく決心を固めるのだった。

 

 キラたちと決別したシンは、近くに止めていたバイクに向かった。追いかけてきたルナマリアが、シンに声をかける。

「これでよかったの、シン?・・アスランと、あんな決別をして・・・」

「あのまま手を取り合って仲良くしたほうがよかったかもしれない・・でも、そうなっても、結局は言いなりになるだけだ・・議長のときと同じように・・・」

 決心を変えないシンに、ルナマリアの心が揺れる。

「これからは自分の明日を進んでいく・・本当に戦いのない世界を、オレの手で見つけていく・・・」

「シン・・・私も、いつまでもウジウジしているわけにはいかないもんね・・」

 意思を示すシンに、ルナマリアも微笑みかける。

「私がちゃんと見ていないと、どこに行っちゃうか分かんないからね・・・」

「ルナ・・・ありがとう・・・」

 声をかけるルナマリアに、シンが感謝を見せる。2人はバイクに乗って、海岸沿いの公道を走り出していった。

(議長が目指していた平和は壊れてしまった・・また世界は、悲しみや戦争が続いている・・・)

 装甲する中、シンが考えを巡らせる。

(でもこんなこと、誰も望んでいないんだ・・・今度こそ終わらせるんだ・・オレ自身の手で・・・!)

 決意を心に秘めるシン。自分自身で打ち立てた決意を。

 誰もが平和を求めながら、敵と定めたものを討つ以外の答えを未だに見出せてはいない。だがいずれ、誰もが手を取り合い、分かち合える答えを見つけなければならない。

 シン、キラ、アスラン、アルバ。混迷の続く世界の中、彼らはそれぞれの道を進んでいくのだった。

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system