GUNDAM WAR Last Destiny-

PHASE-05「伝説の序曲」

 

 

 アルバとリリィとの出会いと別れを果たしたシンとルナマリア。アルバの言葉を受け止めて、シンの心は揺らいでいた。

「大丈夫、シン・・・?」

 苦悩するシンにルナマリアが声をかけてくる。

「ルナ・・大丈夫・・ここまで来てるんだ・・今までだって、ちゃんと決心してやってきたんだ・・・」

「シン・・・」

 声を振り絞るように言いかけるシンに、ルナマリアが戸惑いを浮かべる。徐々に決心を固めようとしているシンに、ルナマリアも共感を抱こうとしていた。

 そのとき、どこからか歌声が発せられるのを、シンとルナマリアは気付いた。女性の澄んだ歌声だった。

「この歌声・・もしかして・・・?」

 思い立ったルナマリアが歩き出し、シンも彼女を追っていく。2人が行き着いた先で、桃色の髪の少女が歌を歌っていた。

 そして少女のそばには1人の青年がいた。

 シンはその2人に見覚えがあった。オーブの慰霊碑の前で、彼は2人と会ったことがある。

 シンとキラが、再度の邂逅を果たすのだった。

「やっぱり・・ラクス・クラインじゃない・・・!」

 ラクスの姿を見て、ルナマリアが喜びの声を上げる。

「ラクス・クライン・・・?」

「プラントの歌姫を知らないなんて、非常識にも程があるわよ・・」

 眉をひそめるシンに、ルナマリアが呆れる。ラクスが歌を止めて微笑みかけると、シンがキラに視線を戻す。

「君は、オーブで・・・ここでまた会えるなんて・・・」

「またあなたと会うことになるなんて・・・」

 声を掛け合うキラとシン。慰霊碑の前での邂逅と、そこでのシンの言葉が浮かび上がる。

“ごまかせないってことかも・・・いくらきれいに花が咲いても、人はまた吹き飛ばす・・・!”

 戦争への怒りと非常な現実を表すシンの言葉。人は幾度となく争いを繰り返し、今も戦争を続けている。争いを望んでいない人々をも巻き込み、悲しみと怒りを植えつけて。

「いくら吹き飛ばされても、花を咲かせていく・・そんな気持ちがあれば、乗り越えられると思う・・」

「そんなきれいごとを聞かされても、ホントに平和になるとはいえないじゃないか・・・」

 キラが投げかけた言葉に、シンが不満を口にする。

「世界は変わらなきゃいけない・・絶対に揺るがない平和を作らなくちゃいけないんだ・・・!」

「・・確かに、このまま傷つくだけの世界は変えないといけない・・誰だって変わってほしいと思ってる・・・」

「願うだけじゃダメなんだ・・もう、自分で動き出さないと・・・」

 キラの言葉に反論すると、シンがラクスに目を向ける。

「あなたの歌はすごいです。心が休まります・・でも、この長い戦争の中じゃ、その歌声も気休めにしかなりません・・祈ったり願ったりするだけじゃ、世界は変わらないんだ・・・」

「それでも祈り続けることに、意味はないのでしょうか?どの人の魂も安らぐことのできるよう、祈ることは無駄なのでしょうか・・?」

 声を振り絞るシンに、ラクスが微笑んで語りかける。

「夢を見る、未来を望む・・それは全ての人に与えられた、生きていくための力です・・私にも、あなたにも・・・」

「誰もがそれを望んでいるなら、何で戦争が起こるんだ・・せめてきちんと答えを示してくれたなら、あの人だって・・・!」

 優しく言いかけるラクスだが、シンの頑なな心には響かなかった。そこでルナマリアがシンをなだめてきた。

「落ち着くなさいって、シン・・すみません、子供っぽいところを見せてしまって・・・」

「気にしないでください。とても素直で、そして優しい方ですよ・・」

 謝るルナマリアに、ラクスは微笑んだまま答える。

「そういえば自己紹介がまだだったね・・僕はキラ・ヤマト・・」

「オレは、シン・アスカです・・」

 互いに自己紹介をするキラとシン。だがキラはシンの名を聞いて、眉をひそめた。

「シン・・・もしかして・・・」

 キラがシンに向けて疑問を投げかけたときだった。

「キラ、ラクス、遅くなってしまった・・・」

 そこへ遅れて買い物を終えたアスランとカガリがやってきた。2人の姿にシンが目を見開いた。

 そのアスランとカガリもシンの姿を見て緊迫を覚える。

「シン!?・・お前がなぜ、キラとラクスと・・・!?

「アスラン・・・それに、オーブの・・・!?

 アスランとルナマリアが声を荒げる。緊張感の深まる中、シンが憤りをあらわにした。

「何でアスランとアスハがこんなところに・・・まさか、あなたたちも・・・!?

 シンの疑念の矛先が、アスランとカガリだけでなく、キラとラクスにも向けられる。反論しないキラたちの反応を、シンは肯定と受け取る。

「アンタたちも、アスハの味方をしていたのか・・・きれいごとばかりを並べて、世界を混乱させて!」

 いきり立ったシンが携帯していた銃を取り出す。その銃口がラクスに向けられる。

「ラクス!」

「やめろ、シン!」

 声を荒げるキラとアスランも銃を構える。しかしシンは銃を下ろさず、ラクスは真剣な眼差しを彼に送っていた。

「アンタもそうだったのか・・プラントの歌姫がオーブの、アスハの味方をするなんて!」

「これは私たち1人1人の気持ちがひとつにまとまっているだけです。誰も無理矢理従っているわけでも、従わされているわけでもありません・・」

 声を張り上げるシンに、ラクスが表情を変えずに言いかける。

「揺るぎない平和を望む。それは誰もが望んでいることです。ここにいる私たちも・・あなたも平和を望んで、今まで戦って、ここまで来たのですよね?その純粋な願いは、誰にもとがめることはできません。ですがあなたのその願いと行動は、本当にあなた自身のものなのですか?」

「何っ・・・!?

「自分以外の誰かに利用され、過ちであることに気付かないまま偽りの平和にすがり付いてしまう。これはデュランダル議長の言葉を信じているあなたが置かれている状況そのものなのです・・」

「何を言ってるんだ!?平和のために懸命になっている議長が、そんなことを・・!」

「議長が実現しようとしている平和。それは決められた運命(さだめ)の中で築かれていく管理体制です。苦しみも悲しみもありませんが、喜びも幸せもない世界です。あなたが求めている平和は、そんな閉ざされた世界なのですか?」

「だったらアンタたちは、定まらない平和の中で、ずっと争いのなくならない世界のほうがいいっていうのか!?そんな世界なら、管理された世界の平和を望む!」

 ラクスの言葉を拒絶するシン。

「やっとここまで来たんだ・・それを、アンタたちなんかに壊されてたまるか!」

「そこまで言うのなら、私を撃ちますか?私たちを撃って、閉ざされた世界を生きるのですか、ザフトのシン・アスカ・・・!?

 言い放つシンに向けて、ラクスも鋭く言いかける。彼女の言葉に揺さぶられて、シンは構える銃の引き金を引くことができなくなっていた。

「シン、もうやめて!・・もう、やめて・・・!」

 そこへルナマリアがシンに駆け寄り、悲痛さを込めて呼びかける。さらに発砲することができず、シンはやむなく銃を下ろす。

「結局、アンタたちの言葉に従うしかないのかもしれない・・だけど、何もできないままなのはイヤだ・・・!」

 声を振り絞って、シンがラクスに視線を戻す。

「オレがどうするかはオレが決める・・もう何もできなかった無力な自分とは違う・・だから、戦わなくちゃならないんだ・・・!」

「シン・・・」

 自身の決意を口にするシンに、ルナマリアが戸惑いを覚える。シンの頑なな心に、キラもカガリも困惑するばかりだった。

 だがそのとき、キラはラクスを狙う視線と敵意に気付き、動き出した。

「ラクス!」

 彼に庇われて、飛び込んできた弾丸から免れるラクス。すかさずアスランが発砲し、ラクスを狙った銃に命中する。

「くっ!」

 うめき声を上げて姿を見せてきたのはドーマだった。タイタンにてミネルバに着艦した彼は、シンとルナマリアと合流すべく街に出てきたのである。

 そこでシンたちとキラたちを発見したドーマは、物陰からまずラクスを狙おうとした。だが失敗し、彼らに気付かれた。

「惑わされるな、シン、ルナマリア!ヤツらの言葉に耳を貸すな!」

「ドーマ・・・!」

 呼びかけるドーマにルナマリアが困惑を募らせる。シンも動揺の色を隠せないまま、ドーマに振り向く。

「引き返すぞ・・これではどうしようもない・・・!」

「ですが、アスランが・・・」

 呼びかけてくるドーマに、ルナマリアが当惑する。彼女は今でもアスランが敵なのか味方なのか断定できないでいた。

「今はヤツは敵だ!気を許せば、死ぬのは自分だぞ!」

 ドーマに言いとがめられて、ルナマリアは渋々頷いた。再び銃を構えたシンも、ゆっくりとキラたちから離れていく。

 この意思と決意の衝突により、シンはキラやアスランたちと完全に袂を分かった。

 

 その頃、ソワレとマリアも遅れて街に繰り出していた。置いてけぼりにされたことに、マリアは不満を感じていた。

「いくらソワレが病み上がりだからって、声ぐらいかけてもよかったんじゃない?みんなして浮かれ気分なんだから・・」

「仕方がないよ、マリア・・僕たちはこの中では部外者だし・・それに多分みんな、僕たちのことを気遣って、あえて声をかけなかったのかもしれないよ・・」

 微笑みかけるソワレに対し、マリアは肩を落とす。

「能天気なところがあるわね、ソワレ・・でもそれがあなたのいいところでもあるのだけれど・・」

「それより、合流するなら早いほうがいい。でないと出発に間に合わなくなる・・」

「そうね・・ちょっと急いだほうがよさそうね・・・」

 足早になるソワレとマリア。だが街に差し掛かろうとしたところで、2人は足を止めた。

 彼らの視線の先にいたのは、アルバとリリィだった。

「アルバ・・・!?

「こんなところにいるなんて・・・!?

 目を疑うソワレとマリアだが、すぐに気を引き締めてアルバとリリィを見据える。

「止めるんだ・・2人が動けば、そこに戦火が降りかかることになる・・・」

「それは2人のせいじゃないかもしれないじゃない・・せめて話を聞いてからでも・・・」

 言いかけるソワレとマリアが銃を手にして、アルバとリリィに接近する。

「まさかここでお前たちと会うことになるとは・・・」

 そこでアルバが背を向けたまま声をかけてきた。その声にソワレとマリアがたまらず足を止める。

「気付いていたか・・だがこのままお前を逃がすわけにはいかない・・・」

 ソワレは低く告げると、改めてアルバに銃を向ける。しかしアルバは動揺することなく、ゆっくりとソワレに振り返る。

「アルバさん、リリィさん、あなたたちは何をしようとしているの・・?」

 マリアがアルバたちに向けて疑問を投げかける。

「仲間を失いながらも、あなたたちはまだ行動を起こしている。いくらフューチャーに乗っているといっても、2人きりじゃ部隊とはとてもいえない・・なぜそこまでして・・・?」

「明確な目的はない・・ただ、オレたちは生きたいだけだ・・・」

 マリアの質問に、アルバは深刻な面持ちを浮かべて答える。しかしソワレはその答えに納得しない。

「そんなのは理由にはならない。現に君たちの行動が、世界の混乱を膨らませているのは事実だ・・・!」

「だったらアークエンジェルとエターナルはどうなんだ?戦闘停止のための彼らの介入。だが結果、混乱を増やすことになっていることに変わりはない・・」

「・・確かに彼らも完全に正当であるとは言い切れない・・だがそれ以上に、デュランダル議長の思惑には疑念がある・・彼らの企みを暴いた後、僕たちはエターナルとの縁を切るつもりだ・・」

「・・お互い、いや、誰もが中途半端ということか・・・」

 互いに意思を口にするソワレとアルバ。何が正しいことなのか、彼らも見出せないでいた。

「何が正しいかなんて、本当は誰も分かっていないのかもしれないわね・・・」

 押し寄せてきた沈黙を破ったのはマリアだった。

「今までの歴史の中にも戦いはあった。でもどっちが正しいかなんて、教科書にも載っていなかった・・」

「マリアさん・・・」

「歴史には正しい歴史も間違った歴史もない。長い時間の中の事実の積み重ねというだけ。どっちにもそれなりの正義があるってこと。単に自分の正義と違うから悪、というだけの話よ・・」

 戸惑いを見せるソワレのそばで、マリアが淡々と語りかける彼女の言葉にアルバもリリィも思いつめていた。

「デュランダル議長もフリーダムも、それなりの正義に基づいて動いているだけなのかもしれない・・オレたちも・・・」

「勝手ってことね、誰も彼もみんな・・・」

 マリアの言葉を聞いて、リリィが肩を落とす。

「でも、それが当たり前のことなんだけどね・・結局は自分がよければそれでいいという考えに至る・・・」

 リリィは苦笑を浮かべると、おもむろに視線を移す。その先にはキラたちの姿があった。

(フリーダムとジャスティスのパイロット、2人の姫・・4人がオレたちの前に現れるとは・・・)

 アルバがキラたちに警戒の眼差しを送る。重くなっていく空気の中、言葉を切り出したのはラクスだった。

「ソワレさんたちのお知り合いですか?はじめまして。」

 笑顔を見せてきたラクスが意外に思えて、アルバもリリィも一瞬唖然となった。だがアルバはすぐに真剣な面持ちを見せる。

「お前たちも分かっているのだろう?オレはオレ自身の意思で行動している。己の未来を切り開くために・・」

「あなたのその生き方、私も共感できます。ですが世界は今、自分以外によって未来を決められるものへと変わろうとしています・・」

 自分の意思を告げるアルバに、ラクスも真剣な面持ちで語りかける。

「世界はその人自身によって未来を導かなければなりません。あなた方と私たちは志を同じくする者。ともに力を合わせて・・」

「確かにオレたちとお前たちは、定められた未来に反旗を翻そうとしている・・だがオレは、お前たちの行動にも疑念を抱いている・・」

 ラクスの呼びかけにアルバは言葉を返す。

「一方的に現れては、手当たり次第に武力を削いでいく。殺さなかったからといって、一方的に自分の考えを押し付けるお前たちを敵でないと考える者はまず出てこない。そのリスクを負ってでも、お前たちはこれからも自分の考えを押し付けていくつもりなのか・・?」

「確かにそうかもしれない・・でも、気持ちを伝えることも、生きようとすることも、意味合いは同じなんじゃないかな・・?」

 アルバの言葉にキラが口を挟んできた。

「誰だって生きたいと願っている・・だから僕たちは戦場に出てきているんだ・・」

「だがそれだけだ。傷つけたくない。傷つけさせない。それ以上の意思がない。ぶつけられた言葉を、きちんとした答えを出すことなく言葉を返すのみ・・単純に生きようとしているオレたち以上の悪態だ・・」

 キラの言葉を冷たくあしらうアルバ。するとリリィが呆れ気味に声をかけてきた。

「そういうこと。残念だけど、お姫様に従うつもりはないから・・理屈ばかりこねて、悪いことも正当化させてしまう。そんな政治家連中と大差ないのよ、あなたたちは・・」

「違う・・ラクスはそんなんじゃ・・・!」

「あなたの信じている彼女と、私たちの見ている彼女。人物像が同じに見えているわけじゃないってこと、覚えておくことね・・」

 キラの抗議の声を一蹴すると、リリィはこの場から離れていく。

「どんな理由や目的であれ、強硬手段に訴えてくるなら、オレもこの力を使うしかなくなる・・それだけは肝に銘じておけ・・・!」

 アルバも鋭く言いかけると、リリィに続いてこの場を立ち去った。

「どうやらあの2人とも、戦うことになるのかもしれないな・・」

 2人の後ろ姿を見送って、アスランが深刻さを込めて言いかける。

「それでも僕たちは前に進まなくちゃいけない・・あのシンという子も、間違った道から連れ戻さないといけなくなる・・・」

 キラが投げかけた言葉にアスランだけでなく、ラクスもカガリも頷く。ソワレとマリアは周囲の動向を懸念しつつ、事の成り行きを見守ることにした。

 

 キラやアスランたちの前から退散してきたシン、ルナマリア、ドーマ。シンとルナマリアはキラたちの言葉と意思に心を揺さぶられていた。

「アスラン・・ホントにアークエンジェルやエターナルにいたのね・・しかも、ラクス・クラインまで・・・」

「正確には、ラクス・クラインが取り仕切っているというのが正しいか・・」

 ルナマリアがもらした言葉に、ドーマが付け加える。

「いずれにしろ、ヤツらが我々の敵であることは確かだ・・」

「そうだ・・アイツらは敵なんだ・・アスランも、ラクス・クラインも、オレたちの敵として向かってくる・・・」

 ドーマの言葉の後、シンが声を振り絞ってきた。

「オレたちとアイツらの考えは違う・・だからオレは、オレの求める平和のために、アイツらと戦う・・・!」

「シン・・・」

 落ち着きを取り戻していくシンに、ルナマリアが戸惑いを浮かべる。

 自分の意思で動き出そうとしているシン。だが彼の行動に、ドーマは懸念を抱いていた。

 ミネルバに戻ってきたシンたちを、レイが出迎えてきた。

「戻ったか、シン、ルナマリア・・議長が発表会見を開く・・」

「議長が・・?」

 レイが告げた言葉にシンが戸惑いを見せる。既にデュランダルの会見が開始されていた。

 

“今私の中にも、みなさんと同様の悲しみ、そして怒りが渦巻いています。なぜこんなことになってしまったのか。考えても既に意味のないことと知りながら、私の心もまたそれを探して彷徨います。私たちはつい先年にも大きな戦争を経験しました。そしてその時にも誓ったはずでした。こんなことはもう二度と繰り返さないと。にもかかわらず戦端が開かれ、戦火は否応なく拡大してまたも同じ悲しみ、苦しみを得ることとなってしまいました。こんなことは繰り返してはならない。我々は今度こそ、最大の敵と戦っていかねばならない。それに打ち勝ち、解放されなければならないのです。皆さんにも既にお解りのことでしょう。常に存在する最大の敵。それはいつになっても克服できない我ら自身の無知と欲望だということを。地を離れて宇宙(そら)を駆け、その肉体の能力、様々な秘密までをも手に入れた今でも、人は未だに人を解らず、自分を知らず、明日が見えないその不安。同等に、いやより多くより豊にと飽くなき欲望に限りなく伸ばされる手。それが今の私たちです。争いの種、問題は全てそこにある。だがそれももう終わりにする時が来ました。終わりにできる時が。我々はついに、その全てを克服する方法を得たのです。全ての答えは皆が自身の中に既に持っている。それによって人を知り、自分を知り、明日を知る。これこそが繰り返される悲劇を止める唯一の方法です。私は人類存亡を賭けた最後の防衛策として、「デスティニープラン」の導入実行を、今ここに宣言いたします!”

 

 全世界が混乱に包まれた。ついにデュランダルの提唱を引き金にして、デスティニープランが始動された。

 シンもルナマリアも、デスティニープランに対して困惑を感じていた。

「デスティニープラン・・人間の遺伝子情報からその人の能力、才能を調べ、最適な道へと導くシステム・・」

 ルナマリアがデスティニープランについて口にする。

「たしかにこれなら、人は争いをすることがないわね。みんな自分たちのことが分かってるんだから・・」

「でもいきなりこんなこと・・大変だぞ、世界は・・・!」

 肩を落とすルナマリアと、声を荒げるシン。その中でレイとドーマは冷静だった。

「だが、それでも議長は諦めはしない。世界を正しいものとするために・・・それにこれはシン、お前が望んでいた世界でもあるんだぞ。」

「オレが、望んだ・・・!?

 レイが投げかけた言葉に、シンが戸惑いを見せる。

「幾度となく繰り返される争い。その犠牲と悲しみと怒り。その悲劇のない世界こそが、お前が心から願っていた世界であり、議長が築いていく世界なんだ。」

「レイ・・・」

「そして、オレがこの生涯の中で実現させなければならないことでもある・・」

 レイが口にした言葉に、シンとルナマリアが眉をひそめる。

 そのとき、レイが突如激痛を覚えて顔を歪める。

「ど、どうしたんだ、レイ!?

 声を張り上げるシンだが、レイは苦しみながらも、取り出した薬を飲み込んだ。落ち着きを取り戻していくレイが、動揺しているシンに目を向ける。

「何でもない・・少し、1人にさせてくれないか・・・?」

「レイ・・・」

 レイの呼びかけにシンが困惑を拭えないでいる。するとドーマが無言で頷き、シンとルナマリアはやむなく、レイ1人を残して部屋を後にした。

 

「どういうことなんですか、ドーマ?・・・レイ、どうしたというんですか・・・!?

 部屋の前の廊下にて、ルナマリアがドーマに疑問を投げかける。

「他言しないと誓えるか?このことを知っているのは、私を含めてほんのひと握りだ・・」

 ドーマの忠告にルナマリアとシンが頷く。周囲に人がいないのを確かめてから、ドーマは話を切り出した。

「君たちもクローン技術のことは知っているな?」

「クローン技術・・はい。同じ人間を複製する技術ですよね・・・?」

「ま、まさか、レイは・・・!?

 ルナマリアが言葉を返すと、シンが息を呑んだ。

「レイもクローンなのだ。彼もまた、クローンとしての運命に打ちひしがれている・・」

「運命・・・?」

「クローンは生命の飛躍に大きく貢献している技術だ。だが完全に命を再現しているわけではない・・普通の人間より早く老化して朽ちる、儚い生涯・・それがクローンとして生まれた者の運命(さだめ)となっている・・」

 緊張感を膨らませるシンとルナマリアに、ドーマが語りかけていく。

「悲劇の運命に引き裂かれる参上は変えなければならない・・それがレイの願いだ・・彼はその願いを叶えるためなら、命を散らすことも惜しんでいない・・」

「命を散らすって・・そんなバカなこと・・・!」

 レイの意思を知って、シンが憤りを覚える。彼は自分の願いのためとはいえレイが命を投げ打とうとしていることを快く思っていなかった。

「どんな理由があったって、命を捨てるようなことをしたらダメだ!たとえ早く死ぬことになっていても、最後まで生きないと・・・!」

「シン・・・」

 レイへの信頼を込めて訴えるシンに、ルナマリアが戸惑いを見せる。シンの言葉を聞いて、ドーマが微笑みかける。

「そのセリフ、本人に直接言ってあげるといい・・」

 ドーマが告げた言葉に、シンが落ち着きを取り戻してから頷いた。

 

 デュランダルによるデスティニープランの実行に、世界各国は混乱していた。プランが世界にどのような影響を及ぼすのか把握しきれず、各国議会は討議を重ねるばかりだった。

 そんな中、プランへの反対を表明したのはオーブとスカンジナビア王国の2国だった。カガリもプランの導入に、反対の意思を示していた。

 メサイアにて世界の動向を伺っていたデュランダルが、2国の動向に落胆を感じていた。

「頑なな意思を示されるのは否めないか・・まぁいい。これも予測の範疇だ・・」

「いかがいたしましょう、議長・・?」

 オペレーターがデュランダルからの指示を仰ぐ。

「私はちゃんと言ったはずだがな。これは人類の存亡を賭けた、最後の防衛策だと。なのに敵対するというのなら、それは人類の敵ということだ・・・まずアルザッヘルを討つ。オーブはその後でいい・・」

「了解。」

 デュランダルの指示を受けて、オペレーターがコンピューターを操作していく。彼らはデスティニープラン実行に伴い、世界に対する鉄槌を手にしていた。

 

 月面に設備されている「ダイダロス基地」。そこにはザフトが密かに開発していた巨大ビーム砲の発射口が点在していた。

 「レクイエム」。月周辺に配置されている複数の廃棄コロニーを通過させることによって、ビームに軌道を変えることができる。そのため、どの目標に対してもどの角度からでも撃ち込むことが可能である。

 デュランダルの命令により、レクイエムから巨大なビームが放射された。その光線が月面アルザッヘル基地に直撃し、スカンジナビア王国の主力を一掃した。

 

 レクイエムの発射とアルザッヘルの壊滅は、各国に知れ渡った。アークエンジェルやエターナルにも、その惨事は知らされた。

「何ということだ・・あんなものを持ち出してくるなんて!」

 この状況とレクイエムの脅威に、ソワレが憤りの声を上げる。

「廃棄コロニーで数回に渡って屈曲するビーム砲。これなら屈曲点の数と位置次第で、どこにでも撃ち込める・・まさに悪魔の技ね・・」

 マリアがレクイエムについて語って肩を落とす。

「これではオーブも狙われてしまう・・オーブだけじゃない。議長に反旗を示す勢力は根絶やしにされることになる・・」

「だが、デスティニープランを受け入れれば、我々は定められた道を進むだけになってしまう・・それは生きながら死んでいる、心のない世界だ・・」

 デュランダルの動向に苦言を呈するアスランとカガリ。そこでラクスが真剣な面持ちで言葉を投げかける。

「夢を見る、未来を望む。それは全ての命に与えられた、生きていくための力です。夢と未来を封じられれば、私たちはただ存在することしかできません・・」

 ラクスの言葉にキラたちが頷く。

「戦わねばなりません。今を生きる命として、議長の示す死の世界と・・」

「うん・・行こう。議長を止めなきゃ・・・!」

 ラクスに続いてキラも呼びかける。デュランダルの描く世界を止めるため、アークエンジェルとエターナルは行動を開始した。

 

 

PHASE-06

 

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