GUNDAM WAR Last Destiny-

PHASE-04「虚無の邂逅」

 

 

 フリーダム、アスランのジャスティスの介入、さらにフューチャーの反撃によって、デスティニーは負傷。撤退を余儀なくされたことに、シンは歯がゆさを感じていた。

「くそっ!フリーダム、アスラン・・何でまた・・・!?

「どういうつもりかは分からない。ただ、彼らが敵であることは確かだ・・」

 声を荒げるシンに、レイが冷静に語りかけてきた。

「彼らとフューチャーたちが結託しているとは言い難い。だがヤツらも敵であることは間違いない・・議長が目指す戦いのない世界。それを脅かす敵であることに・・」

「それで、フューチャーとソリッドの行方は?」

 説明するレイにルナマリアが訊ねる。

「北北西に向かったこと以外は不明だ。一気にこちらの包囲を抜け、レーダー網をうまく避けている・・」

「今は打つ手なし、か・・・」

 レイの言葉を聞いて、ルナマリアが肩を落とす。

「もう迷ったりしない・・どんな敵とだって、戦ってやるさ・・・!」

 シンが声を振り絞り、決意を口にする。だがまだ彼が揺らいでいるように思えて、ルナマリアは不安を隠せなくなっていた。

 

 シンとの戦いに赴いたために傷が悪化し、アスランは意識を失っていた。彼が目を覚ました医務室には、キラとメイリンの姿があった。

「気が付いたみたいですね、アスランさん・・・」

 意識を取り戻したアスランに、メイリンが安堵の笑みをこぼす。

「戦闘中に意識を失って・・ザフトはオーブから撤退したよ・・・」

「そうか・・・シンも、あれから引き返したのか・・・」

 キラからの説明を聞いて、アスランが呟きかける。

「でもよかった・・またこうして、君と話せる日が来て・・・」

 キラが唐突に切り出した言葉に、アスランが戸惑いを浮かべる。

「平和なときは気付かないけど、そういうの本当はとても幸せなことだって・・こうして君と話ができることが、僕は嬉しい・・」

「キラ・・・」

「カガリともまた話すといい・・みんなとも・・・」

 キラの言葉に戸惑いながら、アスランが微笑みかける。すれ違いと心のわだかまりが和らいだような気がして、彼は安堵を感じていた。

「ところで、フューチャーはどうなった・・・?」

「ソリッドと一緒にオーブを離れていきました・・それから行方が分からなくて・・・」

 アスランの問いかけにメイリンが答える。

「彼らを狙って、また戦火が拡大されていくのか・・・」

「それは分からない・・でも、アスランを助けてくれたのはフューチャーなんだ・・・」

 深刻な面持ちを浮かべるアスランに、キラが言いかける。その言葉にアスランが当惑を覚える。

「彼らも、ただ戦争を止めたいだけなのかな・・・?」

「それは言い切れない・・まだ警戒を続けたほうがいい・・・」

 疑問を投げかけるキラに、アスランが言いかける。彼らが目を向けたTVでは、オーブ内閣府にて演説を行い、理念と信念を訴えるカガリが映し出されていた。

 

 オーブから脱したアルバとリリィは、過疎の島に潜んでいるジャンク屋と会っていた。2人のかつての艦長と顔見知りのジャンク屋たちである。

「本当にいいのか、オレたちの機体を整備して・・?」

「気にすんな。艦長のよしみなんだ。遠慮せずに乗っかって来い・・」

「仕事ができりゃ文句がねぇんだ。こんなすげぇ代物に巡り会えただけでも幸せもんだぜ・・」

 アルバが口にした言葉に対し、ジャンク屋が気さくに声をかける。

「それで、アンタらはこれからどうすんだ?」

「少し休養を取ったら宇宙に出ようと思っています。大気圏を突破できるフューチャーがソリッドを抱えて飛翔するので・・」

 ジャンク屋の質問にリリィが答える。自分たちのために地球が混迷に包まれるのは避けなければならない。宇宙に出ればその不安を緩和することができる。2人はそう考えていた。

「だったら宇宙にいる連中にも声かけといてやるよ。ひいきにしてくれるってな。」

「けどあそこ、常連の客にかかりっきりじゃなかったか?」

 屈託のない会話をしてくるジャンク屋に、リリィは笑みをこぼす。その傍らでアルバは真剣な面持ちを浮かべていた。

「本当に気休めにしかならないだろう・・このまま逃げ回ってばかりでも、何の解決にもならない・・」

「でも、憎しみや敵意で戦っても、消すどころか増やすことになる・・だから、最善手を見つけるために手探りするしかない・・」

「アークエンジェル、オーブ、そしてザフト・・いや、デュランダル議長、それとドーマ・・・」

「何が狙いなのか分からない・・でも本格的に動き出す・・そんな気がしてならない・・」

 言葉を交わすアルバとリリィ。束の間の休息に身を置く2人は、一抹の不安を感じていた。

 

 それから一夜が過ぎ、フューチャーとソリッドの整備が完了した。

「本当にありがとうございました。みなさんのおかげです・・」

「いいってことよ。それよりも2人とも、無事に帰ってこいよ。そしたらまた整備してやっから。」

 感謝の言葉をかけるリリィに、ジャンク屋が気さくに答える。

「オレたちは絶対に生きてみせる。だからお前たちの願いは叶う・・」

 ジャンク屋に向けたアルバの言葉に、リリィが頷く。たくさんの人々に支えられていることを、2人は改めて感じていた。

「そろそろ行こう・・オレたちの命は、オレたちだけのものじゃない・・」

 アルバがフューチャーに、リリィがソリッドに乗り込む。

「アルバ・メモリア、フューチャー、行くぞ!」

「リリィ・クラウディ、ソリッド、行きます!」

 ジャンク屋たちが開けた出入り口から、フューチャーとソリッドが出動した。フューチャーがソリッドを抱えて、大気圏突破に備える。

「行くぞ、リリィ。準備はいいか?」

「うん・・行って、アルバ・・」

 アルバの呼びかけにリリィが答える。飛翔するフューチャーが加速して、ソリッドを連れて大気圏を突破した。

 

 フューチャーとソリッドの大気圏突破を、ザフトは感知していた。その情報はすぐにミネルバに伝えられ、シンたちの耳にも入っていた。

「フューチャーが宇宙に!?・・どういうつもりなんだ・・!?

「ヤツらの意図は分からん。だが我々の障害であることに違いはない。」

 声を荒げるシンに、レイが冷静に言いかける。

「この知らせを受けて、議長も宇宙(そら)に上がった。ミネルバも上がるよう命令があった・・」

「議長やプラントを守る。そういうことね・・」

 レイの言葉にルナマリアが言いかける。

「そこでドーマと合流する。準備を整え次第、戦闘配備に入ることになる・・」

 レイの言葉にシンとルナマリアが頷く。各々が準備を進める中、ミネルバが宇宙に向けて発進した。

 

 ザフトの機動要塞「メサイア」。ザフトの軍事力の多くが集約されている場所となっている。

 ミネルバより先にメサイアに上がっていたデュランダルは、ドーマと合流していた。

「申し訳ありません、議長・・まさかあそこでフリーダムが出てくるとは・・」

「いや、気にしないでくれ。むしろ謝らなければならないのは私のほうだ。君たちに重荷を背負わせることになってしまって・・」

 謝罪の言葉をかけるドーマに、デュランダルが弁解を入れる。

「それで、フューチャーとソリッドの動きは?」

「大気圏を抜けた後、月方面に向かったまま消息がつかめなくなりました。おそらく、コペルニクスに降り立ったのでは・・?」

「そうか・・姿を見せないというならば、こちらは攻を焦る必要はない。我々の果たすべきことを果たすまでだ・・」

「では、ついに実行されるのですね・・・?」

 デュランダルの意志を悟って、ドーマが緊張感を募らせる。

「準備が整え次第発表する。人類存亡を賭けた最後の防衛策、デスティニープランを・・」

 デュランダルの言葉にドーマが頷く。世界全土を脅かす画策を、彼らは練り上げていた。

 

「アルバが宇宙に出た!?

 フューチャー飛翔の知らせを聞いて、エターナルにて療養していたソワレが慌てふためく。

「どこに向かったか分かりますか!?すぐにアルバを追いかけないと・・!」

「追いかけてどうする?」

 呼びかけるソワレにバルドフェルドが言いとがめる。

「単独で行って何とかできる相手でないことは、お前さんも十分分かってるだろう?それにまだゼロの整備が完全に終わっていない。返り討ちにされるのがおちだ。」

「ですが、このままでは・・・!」

「慌てて行かなくても、近いうちに姿を見せるだろう。どっかの誰かさんが藪を突いて蛇を出してくるからな・・」

 バルドフェルドの見解に反論できず、ソワレが歯がゆさを浮かべる。だがソワレはマリアに肩を添われてなだめられる。

「私だって、リリィさんを追いかけたい。でも慌てたってそれが叶わないことも分かってるから・・」

「マリアさん・・すみません・・・」

 マリアに励まされて、ソワレは落ち着きを取り戻す。そのとき、エターナルにアークエンジェルからの連絡が入った。

「おや?どうやら向こうも上がってくるようだ・・」

 この知らせを聞いて、バルドフェルドが笑みをこぼしていた。

 

 負傷が悪化していたアスランだったが、一夜を過ごして傷がほぼ癒えてきていた。彼はキラたちとともに、フューチャーとソリッドが宇宙に上がったことを知った。

「やはり動き出したか、フューチャーも・・」

「何をしようとしているんだろう?・・地球に被害を及ぼさないようにしてのことなのかな・・・?」

 フューチャーの動きにアスランとキラが言いかける。

「いずれにしても、この動きにザフトが何も手を打たないはずがない・・また、戦火が広がっていく・・・」

「これは僕たちだけじゃなく、みんながイヤだと思っているはずだよ・・・」

 歯がゆさを募らせるアスランとキラ。そこへラクスが言葉を投げかける。

「撃たれて撃ち返し、また撃ち返されるという戦いの連鎖を、今の私たちには終わらせる術がありません。誰もが幸福に暮らしたい、そのためには戦うしかないのなら、私たちは戦ってしまうのです・・議長はおそらく、そんな世界にまったく新しい答えを示すつもりなのでしょう・・生まれながらにその人の全てを遺伝子によって決めてしまう世界・・」

「それが、デスティニープラン・・」

 ラクスの言葉にアスランが続ける。

 「デスティニープラン」。各個の遺伝子情報を元にその人の将来、未来を決定付け導くための計画である。これが導入、実行されれば人は過ちを犯すことがなくなり、結果戦争もなくなり、悲しみや憎しみを根絶することが可能となる。

「確かにこれなら、自分自身や未来の不安から解放されて、悩み苦しむことなく生きられるのかもしれない・・しかし・・」

「幸せも喜びもない・・心のない操り人形も同然だ・・・」

 アスランとカガリが言葉を投げかけると、キラ、ラクス、メイリン、マリューが頷きかける。

「行きましょう。議長を止めなきゃ・・未来を作るのは運命じゃない・・」

「そうだな・・未来は、自分たちの手で見つけていくんだ・・」

 呼びかけるキラにアスランが答える。2人が手を取り合い、共通の意思と決意を確かめ合った。

「私も行くぞ。まだ決着の付いていないことがあるから・・」

 そこへカガリが意思を伝えてきた。

「だがカガリ、君にはオーブ代表としての・・」

「分かっている。だがアイツを、シンをあそこまで追い詰めてしまったのは、我々オーブの責任だ。アイツだけじゃない。我々のために悲しみを背負った者は少なくない・・これはオーブ代表である私の責任なんだ・・・」

 アスランが苦言を呈するが、カガリの意思は変わらない。彼女の脳裏にシンの怒りの表情と言葉が蘇ってくる。

“さすがきれいごとは、アスハのお家芸だな!”

“自分たちのその言葉で、誰が死ぬことになるのかちゃんと本気で考えたのかよ!?”

“敵に回るって言うなら、今度はオレが滅ぼしてやる、こんな国!”

 シンのオーブに向けての怒りの言葉。彼をここまで追い込んだのは自分たちの責任。カガリはそう考えていた。

「多分私がどんな言葉をかけても、アイツは止まらないかもしれない・・でも、アイツが間違った道を進もうとしているなら、この手で止めなくちゃいけない・・・!」

「・・カガリさんのお気持ち、私には伝わりました・・一緒に行きましょう・・・」

 カガリの心境を察して、ラクスが微笑みかける。

「本当にすまない・・ここで出なければ、私は信用を失ってしまう・・・」

「一緒に行こう・・僕たちの力と気持ちで、未来を作っていこう・・・」

 謝意を見せるカガリに、キラが微笑んで言いかける。彼らの意思はさらに揺るぎないものへと昇華していった。

「準備が整い次第、発進します。まずはコペルニクスを目指し、エターナルと合流します。」

 マリューが指示を出し、アークエンジェルからエターナルに向けての連絡が伝達された。1時間後に準備を整え、アークエンジェルも宇宙に向けて飛び立っていった。

 

 月面都市「コペルニクス」。月面クレーター内に建設された都市国家で、現在は中立都市として確立している。

 コペルニクスでの滞在を指示されたミネルバは、その宇宙港に到着した。そこへミネルバに向けてドーマからの連絡が入った。

“お手数をおかけします、グラディス艦長。議長の命令で、現在そちらに向かっています。”

「分かったわ。クルーにはしばらく自由時間を設けるけど、構わないかしら?」

“それは構いません。みなさん、厳しい任務や戦闘が続いていますからね。心身ともに落ち着かせるのも、軍人としての務めです。”

 ドーマとの通信を終えたタリア。彼女はコペルニクスでの待機と自由時間を告げた。

「自由時間か・・そんな気分になれないっていうのに・・・」

「こういう時間こそが、私たちには貴重なのかもしれないじゃない・・」

 腑に落ちない心境のシンに、ルナマリアが言いかける。

「レイ、シンを借りてくわよ。」

「オレはここでやることがある。何かあれば連絡を入れる。」

 呼びかけるルナマリアに、レイが淡々と答える。彼女に引っ張られて、シンは不満げに外に出て行った。

「どうしたっていうんだよ、ルナ?・・そんなに慌てたら休めるものも休めないって・・」

 シンが不満を口にするが、ルナマリアは気にせずに街に繰り出していく。2人が訪れたのは洋服屋だった。

「ここしばらく思いつめることが多かったからね。たまにはいろいろと着替えてみて、気分転換してみるのもいいわよ。」

「そうはいうけど、別に今服を買い込まなくたって・・」

 上機嫌を振りまくルナマリアに、シンは参っていた。彼の心境を察しているのかいないのか、彼女は早速自分に合いそうな服を選び始める。

「ねぇ、シンだったら青と赤、どっちがいい?」

「どっちだっていいって・・オレが選んだって、後で文句言ってくるんだから・・」

 服を選ばせようとするルナマリアだが、シンは憮然とした態度を見せるばかりだった。

「もう、シンったらデリカシーに欠けるんだから・・・」

「悪かったな・・・」

 不満を口にするルナマリアとシン。

「ホントにどうしたんだ、ルナ?・・何だか余裕がないように見えるんだけど・・・」

 シンがたまらず言いかけた言葉を耳にして、ルナマリアが表情を曇らせる。

「ゴメン、シン・・でも、シンが思いつめていると感じたから・・・」

 彼女が口にしたこの言葉に、今度はシンが戸惑いを覚える。

「アスランやメイリンがあんなことになって・・そのアスランが、今度は私たちの敵として現れたり・・何がどうなってるのか、今でも納得のいかないことばかり・・・」

「ルナ・・・」

「もしかしたら、私が思いつめているのかもしれないわね・・だからはしゃいで気を紛らわせようとして・・・」

 揺れ動く自分の心境に対して、ルナマリアが物悲しい笑みを浮かべる。彼女の脳裏に、アスランに向けてのシンの呼びかけが蘇ってくる。

“戦いのない世の中、揺らぐことのない平和・・それがオレの望んだことだ!そのために戦うことの、何がいけないんだ!?”

“戦争のない以上に、平和な世界なんてない!アンタがしていることの先に、そんな世界があるっていうのか!?”

 戦いのない世界こそ、誰もが求める平和の世界。シンもルナマリア自身も分かっていることだった。しかしアスランを敵に回してまで得られる平和が本当の平和なのか、彼女には不安を感じずにいられなかった。

「迷ったらいけないのも分かってる・・でも、アスランに対してどうしたらいいのか、まだ分からないまま・・・」

「オレも正直、アスランと向き合ってどうしたらいいのか分からなくなることがある・・」

 沈痛さを込めたルナマリアの言葉に、シンが返事をする。

「アイツがオレたちや議長を裏切ってまで何をしようとしているのか、まだ分からない・・だけど、やっとここまで・・やっとの思いで平和な世界までたどり着ける手前まで来たんだ・・」

「シン・・・」

「これ以上悲しみを増やしてたまるか・・ルナもミネルバもプラントも、みんなオレが守る・・・」

 動揺を募らせるルナマリアを、シンが優しく抱きしめる。その抱擁に戸惑い、ルナマリアは手にしていた服を床に落としてしまう。

「オレが、守っていくから・・・」

「シン・・・」

 ひたすら自分の決意をルナマリアに告げるシン。揺れ動いていた2人の心がさらに距離を縮めることになった。

 

 その頃、アルバとリリィもコペルニクスに足を踏み入れていた。ザフト、オーブなど、世界の動きを把握する意味を込めて、2人も街に繰り出していた。

「昔は穴だらけの石の塊だったのにね、月は・・こういう街並みを見てると、地球にいるときと違和感を感じなくなるわね・・」

「オレたちは遊びにきているわけではない・・ザフトもオーブも、動きを見せていることは間違いないのだから・・」

 街並みの風景を見て感嘆の声を上げるリリィに、アルバが真剣に言いかける。それを聞いてリリィが肩を落とす。

「分かってる。私たちはお尋ね者だからね。少なくともオーブはともかく、ザフトはそう思ってる・・」

「こっちが動きをつかむ前に、軍の誰かと鉢合わせにならないことを願うしかないな・・」

 互いに呟きかけるリリィとアルバ。2人はいつしか街外れの広場に移動してきていた。

 そこで2人は自分たちの他に人がいるのを目の当たりにする。買い物を終えたシンとルナマリアがいたのだ。

 シンとルナマリア、アルバとリリィは互いがオーブにて戦闘を繰り広げたMSのパイロットであることに気付いていなかった。

「お邪魔しちゃったみたいですね・・早々に退散したほうがいいみたいね・・」

「べ、別に私たちはそんな・・・」

 笑みをこぼしてからかってくるリリィに、ルナマリアが頬を赤らめる。

「そういうお二人も観光ですか?月は地球に近いから、ヘンに親近感が湧いたりしませんか?」

「そうなんですよね。実は私もそう思うことがあって・・」

 ルナマリアが切り出した言葉に、リリィが相槌を打つ。会話を進める2人に、シンとアルバが肩を落とす。

「悪いな・・オレは騒がしいのは苦手で・・」

「だったら何で街に出てきたんだ?オレみたいに連れ出されたとか?」

「それもあるが、ちょっと用事があったからな・・」

 低い声音で会話を行うシンとアルバ。アルバは空を見上げ、深刻な面持ちを浮かべる。

「今のこの世界についてどう思う・・?」

「どうって・・・」

 突然のアルバの問いかけに、シンが口ごもる。

「国や種族、それぞれの意思がぶつかり合い、討って討たれて・・誰もが平和を望み、生きようとしているのに、悲しみや憎しみが増えるばかり・・何とかしようとしても、悪化の一途を辿る・・」

「何を言おうとしているんですか、あなたは・・・?」

「戦場で戦っている軍人・・国の理念に基づいて、どうすれば勝てるようになるかは分かるようになるが、何が正しいのかは分からなくなってくる・・結局は自分が正しい、自分が幸せであれば他はどうでもよくなってくる・・それが誰もが抱えている考えになってきている・・・」

「何が正しいのか・・・よく考えれば、確かに分からないことがありますね・・」

 アルバの言葉を聞いて、シンが物悲しい笑みを浮かべる。

「でも、どうしてオレにそんな話を・・・?」

「お前が、何か大切なものを失っているように感じたからだ・・昔のアイツのように、復讐に駆られている人の目をしている。そんな気がした・・・」

 疑問を投げかけるシンに答えるアルバが、ルナマリアと会話を弾ませているリリィに目を向ける。

 リリィは家族も故郷も滅ぼされており、コーディネーターへの復讐を誓ったことがあった。これが彼女が軍人を目指すきっかけでもあった。だが仲間たちの支えを得て、彼女はアルバ同様、強く生きていくことを決意したのである。 

「・・オレ、オノゴロで家族を殺されたんです・・こんなのがイヤだったから、何とかしようと・・・」

「そうか・・・オレもアイツも、仲間を殺された・・アイツらの願いを、オレたちは背負っているんだ・・今も、そう感じている・・・」

「あなたも?・・オレとあなた、似たもの同士ですね・・・」

 アルバの心境を察して、シンが笑みをこぼす。

「死んでいった仲間のためにも、オレたちは生きなければならない・・オレたち自身で決めたことだ・・・」

「自分で決めたこと・・・」

「お前は何のために、どうしていけばいいのか、考えがまとまっているのか・・・?」

 アルバが投げかけた問いかけに、シンが戸惑いを浮かべる。何のために戦っていけばいいのか、彼は改めて悩んでいた。

「そろそろいかないと・・少し話し込んでしまったようだ・・」

 アルバが時計に目を向けてシンに言いかける。

「そろそろ行くぞ・・長居すると厄介だ・・」

「すっかり話し込んじゃったね・・ありがとうね。久しぶりに心が弾んだ気がするよ・・・」

 アルバに呼びかけられたリリィが、ルナマリアに感謝を述べる。

「いえ。私たちもいい気分転換になりました・・またいつか・・・」

 ルナマリアの言葉を受け止めて、リリィはアルバとともに広場を後にした。

「何のために、か・・・」

 アルバの言葉を胸に秘めて、シンは苦悩していた。今後どのような意思で戦っていけばいいのか、答えを固められずにいた。

 

 同じ頃、アークエンジェルもコペルニクスに到着していた。その宇宙港では既にエターナルも停泊していた。

「本当に久しぶりですわ、外に出るのは・・ここしばらく艦の中でしたので・・」

 ラクスが外の景色を見つめて、感嘆の言葉を口にする。

「すみません、アスランさん・・エターナルの管制チェックをしなくちゃいけないので・・」

「いや、謝らなければならないのはこっちのほうだ。こっちだけで街に出ることになってしまって・・・」

 互いに謝意を示すメイリンとアスラン。するとカガリがアスランの腕をつかんできた。

「行くぞ、アスラン。キラとラクス、先に行ってしまったぞ・・」

「引っ張るなって・・まだケガが完全に治ったとはいえないんだから・・」

 不満を口にしながら、アスランもカガリに引っ張られる形で出かけていった。見送ったメイリンに、マリューが声をかけてきた。

「あなたも出かけてくればよかったのに・・チェックなら後でもできるのに・・」

「分かっています・・でも、アスランさんの邪魔をしてはいけませんから・・・」

 マリューに物悲しい笑みを浮かべるメイリン。自分の想いが立ち入る隙がないことを、彼女は思い知らされていた。

「私が知っている限りでも、アスランくんはそういうのには疎いから・・・」

「それも分かっています・・・」

 言葉を投げかけるマリューに答えて、メイリンは微笑んだ。彼女はアスランとカガリの行く末を見守ることを心に決めた。

 

 街に繰り出したキラたち。ラクスとカガリが洋服選びをしている傍ら、キラと一緒にいたアスランが腑に落ちない面持ちを浮かべていた。

「そんなに怒んないでよ、アスラン・・」

 そんなアスランにキラが言葉を投げかけてきた。

「怒っちゃいないさ。ただ納得していないだけ・・無理矢理連れ出されて、納得するヤツがいるのか・・・?」

「気分転換をさせようとしてるんじゃないかな?ラクスもカガリも・・」

 肩を落とすアスランに、キラは微笑んだまま答える。しかしアスランは思いつめた表情を崩さない。

「アイツも・・シンも納得して戦っているのだろうか・・・?」

「シン・・・?」

 アスランが口にした言葉に、キラが疑問符を浮かべる。

「シン・アスカ・・あのときフリーダムを落としたインパルスのパイロットだ。今はあの紅い翼の機体、デスティニーに乗っている・・・」

「デスティニー・・・」

 アスランの言葉を聞いて、キラはオーブでの戦闘を思い返す。彼の脳裏に、アカツキを追い詰め、自分と互角の戦いを演じたMSの姿が蘇る。

「それにしても、あのときはオレも驚いたぞ。お前がやられるとは思っていなかったから・・」

「あのときは僕もどうしたらいいのか分からなくて、カガリやアークエンジェルを守ることを優先していたから・・」

「アイツを悪く思わないでくれ・・アイツも夢があって、そのために頑張るヤツだから・・」

 アスランの呼びかけに、キラが微笑んで頷いた。いつか分かり合えるときが来ると、キラは信じていた。

「どうですか、キラ?」

 そこへ洋服を試着してきたラクスが、キラに歩み寄ってきた。

「うん、いいんじゃない?」

 キラが服装を褒めると、ラクスは別の服を試着して戻ってくる。

「これは、どうですか・・?」

「うん。いいと思うよ・・」

「どうでもいいみたいですわね・・・」

 褒めてばかりのキラに、ラクスが逆に不機嫌になってしまった。

「いや、そういうわけじゃ・・・」

「ハッキリしたほうがいいぞ、キラ。そういうのは優しいんじゃなくて、優柔不断っていうんだ・・」

 弁解しようとしたキラに、カガリが呆れ気味に口を挟んできた。

「すまない、ラクス・・もう少しいいのを探してみるから、キラと先に行っててくれ・・」

 カガリがキラとラクスに呼びかける。するとアスランが不満を口にする。

「オレは居残りなのか?」

「荷物持ちがいないと困るだろ?」

「オレを連れ出した理由はそれか?」

 笑みを見せるカガリにアスランが肩を落とす。先に買い物を終えたキラとラクスが、店を後にして草原に向かっていった。

「やはりこういうところのほうが落ち着きますね、私たちには・・・」

「うん・・他もここみたいに、安らげる場所だったらいいのに・・・」

 ラクスが投げかけた言葉に、キラが神妙な面持ちで答える。この静寂の中にある安らぎ。それが平和や幸せにつながっていると、2人は感じていた。

 この草原の中心で、ラクスが希望の歌を口ずさむ。彼女の歌声を耳にして、キラも微笑みかける。

 だが、その歌声を耳にしていたのは彼だけではなかった。2人のいる草原に、2人の男女がやってきた。

 キラはその人物に見覚えがあった。オーブ慰霊碑の前で出会った少年。

 シンが再びキラとの邂逅を果たしたのだった。

 

 

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